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IAPS1006 1 IFAC International Auditing Practices Committee International Auditing Practices Statement 1006 200112月公表 日本公認会計士協会国際委員会訳 銀行の財務諸表の監査 Issued by the International Federation of Accountants

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Page 1: 銀行の財務諸表の監査 - 日本公認会計士協会 IAPS1006 国際会計士連盟(IFAC)の国際監査実務委員会(IAPC)は、監査人 が国際監査基準(ISA)を実施する際の実務的支援を提供するため、ある

IAPS1006 1

IFAC

International

Auditing

Practices

Committee

International Auditing Practices Statement 1006 2001年12月公表

日本公認会計士協会国際委員会訳

銀行の財務諸表の監査

Issued by the

International

Federation of

Accountants

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この国際会計士連盟(IFAC)の国際監査実務ステートメント(IAPS)は国際監査実務委員

会により作成された。2001 年 12 月に承認されている。 国際監査基準の序文は本国際監査実務ステートメントの目的及び権威を規定している。

承認された IAPC の IAPS の正文は英文で公表されたものである。 Copyright © December 2001 by the International Federation of Accountants. All rights reserved. No part of this publication may be reproduced, stored in a retrieval system, or transmitted in any form or by any means, electronic, mechanical, photocopying, recording, or otherwise, without the prior written permission of the International Federation of Accountants.

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New York, New York 10017, USA Web site: http://www.ifac.org

IFAC COPYRIGHT AND ACKNOWLEDGEMENT FOR TRANSLATIONS: Copyright © International Federation of Accountants All standards, guidelines, discussion papers and other IFAC documents are the copyright of the International Federation of Accountants (IFAC), 535 Fifth Avenue, 26th Floor, New York, New York, 10017, USA; tel: 1-212/286-9344, fax: 1-212/286.9570, Internet http://www.ifac.org All rights reserved. No part of this publication may be reproduced, stored in a retrieval system, or transmitted, in any form or by any means, electronic, mechanical, photocopying, recording or otherwise, without the prior written permission of IFAC. The IFAC pronouncements in this volume have been translated into Japanese by/under the supervision of The Japanese Institute of Certified Public Accountants and are reproduced with the permission of IFAC. The approved text of all IFAC documents is that published by IFAC in the English language. 翻訳に関する国際会計士連盟(IFAC)のコピーライト及び承認について: Copyright © International Federation of Accountants 全ての基準、ガイドライン、ディスカッション・ペーパー及びその他の IFAC の文書

に、IFAC はコピーライトを持つ。International Federation of Accountants(IFAC), 535 Fifth Avenue, 26th Floor, New York, New York 10017, USA; tel: 1-212/286-9344, fax: 1-212/286.9570, Website: http://www.ifac.org

全ての権利は IFAC が保有する。IFAC の書面による事前許可なしに、本出版物のいか

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あり、IFACの許可の下に複製されている。承認された全ての IFACの文書の正文は、IFACにより英文で公表されるものである。

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国際会計士連盟( IFAC)の国際監査実務委員会( IAPC)は、監査人

が国際監査基準( ISA)を実施する際の実務的支援を提供するため、ある

いは健全な実務を促進するために、国際監査実務ステートメント(本ス

テートメント)を公表している。本ステートメントは、 ISA の権威を有

するものではない。 本ステートメントは、 IFAC の IAPC により提供されている。 IAPC の

銀行監査の小委員会には、銀行監督当局のバーゼル委員会 ∗からのオブザ

ーバーが含まれている。本ステートメントは 2001 年 10 月の IAPC の会

議において公表することが承認された。本ステートメントは 2001 年 10月 1 日既存の ISAs に基づいている。 本ステートメントは、いかなる新たな基本原則又は基本手続をも設定

するものではなく、その目的は、監査人を支援するとともに、 ISA の適

用に際して、ガイダンスを提供することにより、銀行の財務諸表監査に

おいて健全な実務を開発することにある。監査人は、 ISA の要求及び銀

行の特定の状況に照らして適切な、本ステートメントで述べられている

全ての監査手続の範囲を決定するために、専門家としての判断を行使す

る。

IFAC の公的部門委員会が公表した「公的部門の考慮事項」は、国際監

査実務ステートメントの末尾に記載されている。「公的部門の考慮事項」

が追加されていない場合には、その国際監査実務ステートメントは、す

べての重要な点において公的部門に適用される。

∗ 銀行監督のバーゼル委員会は、1975 年に 10 ヶ国の中央銀行統治者により銀行監督機関の委員

会として設立された。ベルギー、カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、日本、ルクセンブルグ、

オランダ、スエーデン、スイス、英国、米国の銀行監督機関の上級代表及び中央銀行からなる。

委員会は通常、常設の事務局があるバーゼルの国際決済銀行において行われる。

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銀行の財務諸表の監査 目次

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― パラグラフ

序 説 1-8 監査目的 9-11 業務契約の条件への合意 12-14 監査計画 序 説 15 ビジネスの知識を得る 16-28 全体的監査計画の作成 29-55 内部統制

序 説 56-57 内部統制手続の識別、文書化及びテスト 58-67

統制手続の例 68

内部統制の固有の限界 69 環境的要因についての検討 70

実証手続の実施

序 説 71-72 監査手続 73-81

財務諸表の特定項目に関する特別な手続 82-100 財務諸表に対する報告 101-103

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付 録 不正及び違法行為に関するリスクと諸問題 銀行業務の二つの領域についての内部統制上の検討事項及び実証手続の例 銀行の財政状態及び成績の分析において一般に用いられる財務情報、比率及び指標の例示 証券引受及び証券売買受託におけるリスク及び諸問題 個人銀行業務及び資産管理におけるリスク及び諸問題 用語集

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序説 1. 本ステートメントの目的は、監査人に実務上の支援を提供し、銀行の財務諸表の監査に

国際監査基準(ISA)を適用する際の確かな実践を促進することである。しかし、本ス

テートメントは、そのような監査において用いられる手続及び実務の包括的列挙をしよ

うとするものではない。ISA に準拠した監査の実施において、監査人はすべての ISA の

要求事項を遵守する。 2. 多くの国では、銀行監督当局は、監査人が、銀行の財務諸表に対する報告書に加え、規

制当局に一定の事象を報告するか、あるいは定期的な報告を行うことを要求している。

本ステートメントは、そのような報告書や多くの場合国によって著しく異なる要求事項

を取り扱わない。IAPS1004「銀行監督当局と銀行の外部監査人との関係」は、その問題

をさらに詳細に論じている。 3. 本ステートメントの目的に関して、銀行とはその主たる活動が貸出しや投資をするため

に預金を受け入れ、借入れを行い、それが業務を行っているいかなる国においても規制

機関によって銀行であると認識されている金融機関の一つの種類である。同様の機能を

果たす多くのその他の種類の事業体がある。例えば、住宅金融組合(英国-訳注)、信用

組合、共済組合(英国-訳注)、貯蓄貸付組合及び貯蓄金融機関である。本ステートメン

トのガイドラインは、そのような事業体によって行われる銀行業の活動を含む財務諸表

の監査に適用される。そのガイドラインはまた、連結会社によって行われる銀行業の活

動の結果を含む、連結財務諸表の監査にも適用される。本ステートメントは、事業体の

財務諸表上の銀行業の活動に関してなされる主張(Assertions)を取り扱い、それから、銀

行の財務諸表上のどの主張が特別な難題を引き起こし、なぜそうなるのかを示す。これ

は、財務諸表の要素に基づいたアプローチを必要とする。しかし、財務諸表の主張

(Assertions)を裏付けるための証拠を入手するとき、監査人は多くの場合事業体が行う活

動の種類並びにその活動が財務諸表の主張(Assertions)に影響を与える方法に基づいて

手続を実施する。 4. 銀行は、一般的に幅広い範囲の活動を行う。しかし、ほとんどの銀行は、共通して預金

の受入れ、借入れ、貸出し、決済、トレーディングそして資金業務という基本的な活動

を継続的に行う。本ステートメントの主たる目的は、そのような活動の監査上の意味合

いに関して指針を提供することである。さらに、本ステートメントは、銀行の財務諸表

の監査人が頻繁に直面する活動である証券の引受け及び委託売買、並びに資産管理に関

して、限定された指針を提供している。銀行は、典型的にデリバティブ金融商品を伴う

活動を行う。本ステートメントは、銀行のトレーディング及び資金業務の一部である、

そのような活動の監査上の意味合いに関して指針を提供している。IAPS1012「デリバテ

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ィブ金融商品の監査」は、銀行がエンドユーザーとしてデリバティブを保有する場合の

そのような活動に関して指針を提供している。 5. 本ステートメントは、銀行業務の活動に特有のリスクを強調しようとするものである。

銀行が他の営利企業と共通する、多くの監査に関連する事項がある。監査人はそのよう

な事項について十分な理解を持つよう期待され、したがって、それらの事項は監査アプ

ローチに影響を与えるか、あるいは銀行の財務諸表に対して重要な影響を与えることが

あるが、本ステートメントはそれらを論じない。本ステートメントは、監査人が銀行の

財務諸表の監査を引き受ける前に精通するようになる銀行業務の側面を一般的な言い方

で述べており、銀行業務について説明しようとするものではない。したがって、本ステ

ートメントは独立して銀行の財務諸表監査を引き受けるための十分な背景をなす知識を

監査人に提供してはいない。しかし、本ステートメントは、その背景をなす知識が必要

とされる領域を示している。監査人は、適切な参考資料によって、必要な場合は専門家

の作業を参考にすることによって本ステートメントの指針を補完するであろう。 6. 銀行は、ほとんどの他の営利企業と一般的に区別される以下の特徴を持っている。

・ 銀行は、その物理的な安全が振替及び保管されている間守られなければならない現金

や流通証券を含む、多額の貨幣項目を預かっている。銀行はまた、電子的形式で容易

に振替えられる流通証券やその他の資産を預かり、管理している。それらの項目の流

動性という特徴によって、銀行は流用や不正にさらされる。したがって、銀行は、正

式な業務手続、個々の裁量に関して適切に定義された限度、及び内部統制の厳重なシ

ステムを確立する必要がある。 ・ 銀行は、しばしばある管轄区で開始され、別の管轄区で記録され、さらにその他の管

轄区で管理される取引を行う。 ・ 銀行は、非常に高いレバレッジ(すなわち、資本の対総資産比率が低い)で経営を行

う。そのことによって、銀行は不利な経済的事象の影響を受けやすくなり、倒産リス

クが高くなる。 ・ 銀行は、価値が急速に変化し、かつその価値がしばしば決定するのが困難な資産を持

っている。その結果、資産価値の比較的小さい減少がその資本に対して、そして潜在

的にその規制上の支払能力に重要な影響を与えることがある。 ・ 銀行は、一般的に短期の預金(付保されているか又はされていないかのどちらか)か

らその資金を大量に得る。銀行の支払能力に対する預金者の信認を失うと、直ちに流

動性の危機という結果になり得る。 ・ 銀行は、保有している他者に帰属する資産に関して受託者の義務がある。これは、信

託の不履行による法的責任の原因となることがある。したがって、銀行は、その資産

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が銀行に移転されることになる条件に準拠した場合にのみそのような資産を売買する

ことを確実にするように設計された業務手続及び内部統制を確立する必要がある。 ・ 銀行は、その価値が重要な大量の様々な取引を行う。これは、必然的に複雑な会計及

び内部統制システム並びに情報技術(IT)の広範囲な利用を必要とする。 ・ 銀行は、通常地理的に分散している支店及び部門のネットワークを通じて業務を行う。

これは、必然的に権限のより大幅な分散と会計及び管理機能の分散を伴う。その結果、

特に支店のネットワークが国境を超える場合は、統一的な経営実務及び会計システム

を維持することが困難になる。 ・ 取引はしばしば、例えば、インターネットあるいは自動入出金機(ATM)を通じて、

銀行の従業員による介在がなく顧客によって直接開始され、完了されることがあり得

る。 ・ 銀行は、しばしばある場合は手数料の支払い以外に資金の当初の移転を伴わない重要

なコミットメントを引き受ける。これらのコミットメントは備忘的会計記録だけを伴

うことがある。その結果、その存在は発見することが困難なことがある。 ・ 銀行は、その規制上の要求事項が、銀行が従う会計原則にしばしば影響を与える政府

機関によって規制されている。規制上の要求事項、例えば、適正資本量を遵守しない

ことは、銀行の財務諸表又はその中の開示事項に影響を与えることとなる。 ・ 監査人、補助者、又は監査事務所が銀行との間で持つかもしれない顧客関係は、他の

組織体が持つことはない顧客関係という点で、監査人の独立性に影響を与えることが

ある。 ・ 銀行は、一般的に小切手、資金振替、外国為替取引などのための交換及び決済システ

ムに独占的にアクセスする。 ・ そのシステムは、国内及び国際的決済システムの不可欠の部分であるか、それに結合

されており、その結果として、その銀行が業務を行っている国に対してシステミック・

リスクを引き起こすことがあり得る。 ・ 銀行は、そのいくつは財務諸表に公正価値で記録されることが必要なことがある複雑

な金融商品を発行し、売買することある。したがって、銀行は適切な評価及びリスク

管理手続を確立する必要がある。その手続の有効性は、選択された方法及び数学的モ

デル、信頼性のある現在及び過去の市場情報へのアクセス、並びにデータの完全な状

態での維持次第である。 7. 以下のような事項のために、銀行の監査においては特別な監査上の検討事項が生じる。 ・ 銀行によって行われる取引に伴う特別なリスク。 ・ 銀行業務の規模及び短期間に生じるかもしれないその結果としての大きいエクスポー

ジャー(「危険度」、「債権額」、「与信残高」などの意味-訳注)。

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・ 取引を処理するための IT への広範囲な依拠。 ・ 銀行が業務を行う様々な管轄区における規則の影響。 ・ 会計原則又は内部統制の現在の発展とつり合わないことがある新しい商品や銀行業務

の実践の間断ない発達。 8. 本ステートメントは、銀行の監査に特有の、あるいは特に重要な事項に重点を置きなが

ら、銀行の監査の様々な側面の討議で構成されている。例示のために、以下の例が付録

に含まれている。

(a) 銀行業務における不正の典型的な警告となる兆候、 (b) 銀行の二つの主たる業務領域である資金及びトレーディング並びに貸出し活動に関

する典型的な内部統制、統制テスト及び実証的監査手続、 (c) 銀行の財政状態及び成績の分析において一般に用いられる財務比率、そして (d) 証券業務、個人銀行業務及び資産管理におけるリスク及び問題点。

監査目的 9. ISA200「財務諸表監査の目的及び一般原則」は以下のように述べている。

財務諸表監査の目的は、監査人が、財務諸表がすべての重要な点で特定された財務報

告の枠組みに準拠して作成されているかどうかについて意見を表明することである。 10.したがって、ISA に準拠して実施される銀行の財務諸表監査の目的は、特定された財務

報告の枠組みに準拠して作成される銀行の財務諸表に対して意見を表明することを可

能にすることである。 11.監査人の報告書は、銀行の財務諸表を作成するために用いられた財務報告の枠組みを示

す(その枠組みが国際会計基準ではない場合に財務報告の枠組みがどこの国のものであ

るかを特定することを含む)。その規則が制定されている国以外の国での利用のために

特に作成される銀行の財務諸表に対して報告するとき、監査人は、その財務諸表が、用

いられた財務報告の枠組みについて適切な開示を含んでいるかどうか検討しなければ

ならない。本ステートメントのパラグラフ 101-103 は、監査人の報告書についてより

詳細に論じている。 業務契約の条件への合意 12.ISA210「監査業務契約の項目」に述べられているように、

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エンゲージメント・レターは、監査人による指名の受入れ、監査の目的及び範囲、ク

ライアントに対する監査人の責任の範囲並びに報告書の形式を文書化し、確認する。 13.パラグラフ 6 は、銀行に特有の特徴のいくつかを列挙し、監査人及び補助者が専門家の

技能を必要とすることがある領域を示している。監査の目的及び範囲並びに責任の程度

を検討する際に、監査人は、その業務を実施するための自分自身の技能と能力及び補助

者の技能と能力を検討する。その検討において、監査人は、以下の要素を検討する。

・ 銀行のビジネス活動の監査に関係のある、銀行業の側面における十分な専門知識の

必要性、 ・ 銀行が用いている IT システムや通信ネットワークの状況における専門的知識の必

要性、 ・ 監査手続が必要とされるかもしれない、多くの国内及び国外の事業所で必要な作業

を実施するための十分な資源又は事務所間の協定。

14.ISA210 に述べられている一般的要素に加え、監査人はエンゲージメント・レターを発

行するとき、以下の事項についての注釈を含めることを検討する。 ・ 以下への特別な言及を伴う、専門の会計原則の利用及び出所。

-銀行に適用される法令に含まれている要求事項 -銀行監督当局及びその他の規制機関の公表物 -関係のある職業会計士団体、例えば、国際会計基準審議会の公表物 -銀行業の監督に関するバーゼル委員会の公表物 -産業の実務

・ 財務諸表に対する監査人の報告書の内容と形式並びに財務諸表に対する報告書に

加え、監査人から要求される特殊目的報告書。これには、そのような報告書が規制

上又は他の特別目的の会計原則へ言及するかどうか、あるいは規制上の要求事項を

満たすために特に行われる手続を記述するかどうかが含まれる。 ・ 監査人と銀行監督当局及びその他の規制機関との間に存在するかもしれない、特別

な伝達の要求事項又は実施要綱の性質。 ・ 監査人の調書への銀行監督当局によるアクセスが法により要求される場合に銀行

監督当局に認められるアクセス、並びにこのアクセスに対する銀行の事前の同意。 監査計画 序説

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15.監査計画は、とりわけ以下を含んでいる。 ・ 事業体のビジネス及び統治の構造の十分な知識と、リスク管理及び内部監査機能を

含む、会計及び内部統制システムについての十分な理解を得ること、 ・ 固有リスク及び統制リスク、すなわち、重要な虚偽表示が発生するリスク(固有リ

スク)及び銀行の内部統制システムがそのような虚偽表示を防止しないか、又は適

時に発見し是正しないリスク(統制リスク)の予想される評価を検討すること、 ・ 実施すべき監査手続の種類、実施時期及び範囲を決定すること、そして ・ 財務報告の枠組みに従ってその評価をする際に経営者によって用いられる、予測で

きる将来の間、業務を継続する事業体の能力に関する継続企業の前提を考慮するこ

と。この期間は、通常貸借対照表日後少なくとも 1 年間である。

ビジネスの知識を得る 16.銀行のビジネスの知識を得るためには、監査人は以下のことを理解することが必要とな

る。 ・ 銀行の企業統治構造、 ・ 銀行が業務を行っている主な国について支配的な経済的及び規制環境、そして ・ 銀行が業務を行っている重要な部門のそれぞれに存在している市場の状況。

17.企業統治は、銀行において特に重要な役割を果たす。多くの規制当局は、銀行が有効な

企業統治構造を持つための要求事項を設定している。したがって、監査人は、企業統治

構造並びに統治責任者がどのように銀行の監督、統制及び指揮に対する責任を果たして

いるかについての理解を得る。 18.同様に、監査人は、銀行によって提供される商品及びサービスについて実際によく使え

る知識を得て、維持する。その知識を得て、維持する際に、監査人は、市場の状況に応

じて銀行によって提供され、開発されつづける基本的な預金、貸出し及び資金サービス

における多くの変形物に精通する。監査人は、その固有リスク並びに監査、会計及び開

示上の意味合いを理解するために、信用状、引受け済み手形、金利先物、先渡し及びス

ワップ契約、オプション並びに同様の商品のような、商品を通じて提供されるサービス

の性質について理解を得る。

19.もし銀行が、現金及び証券決済、バックオフィス機能又は内部監査サービスのような、

中心的サービス又は機能を提供するためにサービス提供会社を利用している場合でも、

法令の遵守及び強固な内部統制に対する責任は、統治責任者及び外部委託する銀行の経

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営者にある。監査人は、法令及び規制による制限を検討し、経営者及び統治責任者が、

内部統制(内部監査を含む)のシステムが有効に運用されていることをどのように監視

しているかについて理解を得る。ISA402「サービス提供会社を利用する事業体に関す

る監査上の検討事項」はこの問題についてさらに詳細な指針を提供している。 20.銀行業務に特有ではないが、銀行業務を具体化することに資するうえで重要な銀行業務

に伴う多くのリスクがある。監査人は、これらのリスクの性質並びに銀行がどのように

それらを管理しているかについて理解を得る。この理解によって、監査人は、銀行業の

様々な側面に伴う固有リスク及び統制リスクの水準を評価し、監査手続の種類、実施時

期及び範囲を決定することができる。

銀行のリスクの性質を理解する 21.銀行業の活動に伴うリスクは、以下のように大まかに分類される。

Country risk (カントリー・リスク) 取引相手の本国の経済的、政治的及び社会的要因で、かつ顧客又は取引相手

の外因的要因のために、顧客又は取引相手がその債務を決済できないリスク。

Credit risk (信用リスク) 顧客又は取引相手が、期限又はそれ以降のいかなるときでも債務の全額につ

いて決済しないリスク。特に商業貸出しから生じる信用リスクは、銀行業務

における最も重要なリスクと見なされることがある。信用リスクは、個人、

会社、銀行及び政府に対する貸出しから生じる。それはまた、投資、他行貸

出勘定及びオフ・バランスシートのコミットメントのような貸出金以外の資

産にも存在する。信用リスクはまた、カントリー・リスク、送金リスク、履

行リスク及び決済リスクも含んでいる。

Currency risk (通貨リスク) 外貨建資産、負債、権利及び義務に適用される為替相場の将来の変動から生

じる損失のリスク。

Fiduciary risk (受託者リスク) 他の当事者に代って安全な保護預りを維持できないか又は管理上の過失から

生じる損失のリスク。

Interest rate risk (金利リスク) 金利の変動が資産及び負債の価値に不利な影響を与えるか、又は金利のキャ

ッシュ・フローに影響を与えることになるリスク。

Legal and documentary risk (法的及び文書化のリスク)

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契約が間違って文書化されるか、あるいは契約が強制されるべき管轄区、又

は取引相手が業務を行っている適切な管轄区で強制できないリスク。このリ

スクは、不十分な又は間違った法的助言又は文書のために、予定より資産が

価値がないか又は負債が大きい結果となるリスクも含んでいる。さらに、現

在の法は、銀行が関わる法的問題を解決できないことがある。特定の銀行が

関わる1つの判例が、銀行業のビジネスにとってより幅広い影響力を持ち、

そのビジネス並びに多くの又はすべての銀行にとってコストを伴うことがあ

る。そして銀行又は他の営利企業に影響を与える法が変わることがある。銀

行は、新しい種類の取引を始めたり、取引を始める取引相手の法的権利が確

立していないとき、特に法的リスクを受けやすい。

Liquidity risk (流動性リスク) 銀行の資産を売却又は処分する能力の変化から生じるリスク。

Modeling risk (モデル化リスク) 資産又は負債の価値を決定するために用いられる評価モデルの不完全性や主

観性に伴うリスク。

Operational risk (事務リスク)

不十分な又は欠点のある内部のプロセス、及びシステムあるいは外因的事象

から生じる直接又は間接的損失のリスク。

Price risk (価格リスク) 金利、外国為替相場、株式及び商品価格を含む、市場価格の不利な変動、並

びに投資の市場価格の変動から生じる損失のリスク。

Regulatory risk (法規リスク) 銀行が業務を行っている管轄区の法令上の要求事項を遵守しないことから生

じる損失のリスク。それはまた、規制上の要求の変化から生じ得るいかなる

リスクも含んでいる。

Replacement risk (置換リスク) (時には履行リスクと呼ばれる)顧客又は取引相手が契約条項を履行しない

リスク。この不履行は、履行されない取引を現在の市場価格で他の取引に置

換える必要性を作り出す。これは、契約価格と現在の市場価格との差異に等

しい損失を銀行にもたらす。

Reputational risk (評判リスク) 上記のリスクのいくつかを適切に管理しないこと、あるいはマネーロンダリ

ング又は損失の隠蔽工作のような、銀行又は上級管理者が不適切な又は違法

な活動に関わることから生じる銀行の評判に対する批判的な社会の意見や重

大な毀損のためにビジネスを失うリスク。

Settlement risk (決済リスク)

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取引の一方当事者にのみ有利な面が顧客又は取引相手から全額受け取ること

なく決済されるリスク。これは、一般的に銀行に元本全額の損失をもたらす。

Solvency risk (ソルベンシーリスク) 債務額を支払うための十分な資金を持たない可能性又は必要な資金を資本市

場で調達することができないことから生じる損失から生じるリスク。

Transfer risk (送金リスク) 取引相手の債務額が自国通貨建てでない場合に生じる損失のリスク。取引相

手は、その個別の財政状態にかかわらず、債務通貨を得られないかもしれな

い。

22.銀行業務のリスクは、一つの顧客、産業、地域又は国に対する銀行のエクスポージャー

の集中の度合いに従って高くなる。例えば、銀行の貸出金ポートフォリオは、特定の産

業に対する貸出し又はコミットメントに主として集中することがある。そして、不動産、

海運業、天然資源のような産業によっては高度に特殊化された実務があることがある。

それらの産業に属する事業体に対する貸出しに関連するリスクを評価するためには、そ

のビジネス、事務上及び報告の実務を含む、その産業についての知識が必要である。 23.ほとんどの取引は、上記の二つ以上のリスクを伴う。さらに、上記の個々のリスクは、

相互に関係していることがある。例えば、証券取引における銀行の信用エクスポージャ

ーは、関係する有価証券の市場価格の増加の結果増加することがある。同様に、不払い

又は決済不能は、銀行の流動性持ち高の結果であることがある。したがって、監査人は、

銀行がさらされているリスクを分析するとき、これらのリスク及び他のリスクの相互関

係を検討する。

24.銀行はその所有の性質から生じるリスクにさらされることがある。例えば、銀行の所有

者又は所有者のグループは与信の配分を支配しようとするかもしれない。同族銀行では、

所有者が銀行の経営者を著しく支配し、その独立性と判断に影響を与えるかもしれない。

監査人はそのようなリスクを考慮する。 25.リスクが増加したことを示す外的要因を理解することに加え、監査人は銀行の業務から

生じるリスクの性質を検討する。業務リスクの重大な要因となる要素は、以下を含んで

いる。

・ 大量の取引を短時間で正確に処理する必要性。この必要性は、IT の大規模な利用の

ほとんどすべてに当てはまり、その結果としての以下のリスクが生じる。 - 執行された取引を要求された時間内に処理できず、その結果その取引に関する

受取り又は支払いができないこと

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IAPS1006 15

- 複雑な取引を適切に処理できないこと - 内部統制の崩れから生じる幅広い虚偽表示 - システムの停止から生じるデータの喪失 - システムへの権限のない干渉から生じるデータの汚染 - 信頼性のある最新の情報の不足から生じる市場リスクへのエクスポージャー

・ 多額の現金の所有権を移転するために電子資金振替(EFT)又は他の電送システム

を利用する必要性と、その結果としての不正又は誤謬による間違った相手への支払

いから生じる損失へさらされるリスク。 ・ 多くの場所で業務を行うことの結果としての取引処理及び内部統制の地理的分散。

その結果、以下のことが生じる。 - 顧客毎及び商品毎の銀行の世界じゅうのエクスポージャーが適切に集計され、

監視されないかもしれないリスク、そして - 経営者と取引を処理する者との物理的な分離のために、内部統制の崩れが起き、

発見されないか又は是正されないままである。 ・ 短い時間の枠に生じる重要なエクスポージャーを監視し、管理する必要性。精算取

引の処理は、1日の間に受取勘定と支払勘定の多額の蓄積をもたらすことがあり、

そのほとんどは、その日の終りに決済される。これは、一般に 1 日の支払いリスク

と呼ばれる。これらのエクスポージャーは、顧客や取引相手との取引から生じ、金

利、通貨及び市場リスクを含んでいることがある。 ・ 現金、流通証券及び譲渡可能な顧客の残高を含む、大量の通貨項目を扱う必要性。

その結果としての従業員又は他の当事者による窃盗や不正から生じるリスク。 ・ 銀行が業務を行う環境の固有の複雑さ及び変わりやすさと、その結果としての新し

い商品やサービスの開発のような事項に関連する不適切なリスク管理戦略あるい

は会計上の取扱い。 ・ 法令を遵守しない結果として業務上の制限が課されることがある。海外の業務は、

親会社がその本店を置いている国の法令だけでなく、海外で基礎をおいている国の

法令に従う。これは、異なった要求事項を遵守する必要性並びにある管轄区での規

則に準拠する業務上の手続は他の国の要求事項を満たさないリスクをもたらす。 26.不正行為は、銀行内で、銀行の経営者又は職員によって、あるいは故意の関与によって

起きることがある。そのような不正は、個人的な利益という動機がない不正な財務報告

を含んでいることがあるか(例えば、トレーディングの損失の隠蔽)、あるいは記録の

偽造を伴うこともあれば、ないこともある個人的な利益のために銀行の資産の不正流用

を含んでいる。そうではなく、不正は、銀行の従業員の故意又は共謀によらないで行わ

れることがある。ISA240「財務諸表監査における不正及び誤謬を検討する監査人の責

任」は、不正に関する監査人の責任の種類についてさらに詳細な指針を提供している。

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IAPS1006 16

銀行の業務の多くの領域は不正行為にさらされているが、その最も一般的なものは、貸

出し、預金の受入れ及びディーリング機能において起きる。不正を犯すために一般的に

用いられる方法及び不正が起きているかもしれないことを示す不正リスク要因は、付録

1 で述べられている。 27.そのビジネスの性質によって、銀行は、犯罪による収入を合法な出所であるように見え

る資金に転換するマネーロンダリング行為に関与する者の好都合な的となる。近年、特

に麻薬の密売人が、銀行産業の中で起きるマネーロンダリングの規模を著しく増加させ

た。多くの管轄区では、法律が、銀行がマネーロンダリング行為を思いとどまらせ、そ

して認識し報告するための方針、手続及び統制手続を確立することを要求している。こ

れらの方針、手続及び統制手続は一般に以下の事項に及ぶ。 ・ 顧客の ID を入手する要求(「顧客を知れ」) ・ 職員の審査 ・ 口座が利用される目的を知る要求 ・ 取引記録の管理 ・ 疑わしい取引又は特定の種類、例えば、一定金額を超える現金取引のすべてを当局

に報告すること ・ 疑わしい取引を識別する際に職員に役立つ教育

管轄区によっては、監査人は、気づいた一定の種類の取引を当局に報告する特別の義

務を負うことがある。そのような義務が存在しない管轄区でも、法令を遵守しない事例

を発見した監査人は、財務諸表及びそれに対する監査意見に対する影響を検討する。

ISA250「財務諸表監査における法令及び規則の検討」は、この事項に関するさらに詳

細な指針を提供している。 リスク管理プロセスを理解する 28.経営者は、主要ビジネス及び財務上のリスクを管理する際に役立つための統制手続を開

発し、業績指標を用いる。銀行における有効なリスク管理システムは一般に以下の事項

を必要とする。

・ 統治責任者による統制プロセスの監視及び関与 統治責任者は文書によるリスク管理方針を承認しなければならない。その方針は、

銀行のビジネス戦略、資本の安定性、経営者の専門的知識、規制上の要求事項並び

に許容できるとみなすリスクの種類及び総額と首尾一貫していなければならない。

統治責任者はまた、銀行内に内部統制及び高度の倫理基準への取組みを強調する文

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IAPS1006 17

化をつくる責任もあり、しばしば自分の機能を果たすのを手助けする特別委員会を

設置する。経営者は、統治責任者によって設定された戦略及び方針を実践し、適切

で有効な内部統制が確立され、維持されていることを確実にする責任がある。

・ リスクの識別、測定及び監視 銀行の目的の達成に重要な影響を与えるリスクは、事前に承認された限度と規準に

対して識別、測定そして監視されなければならない。この機能は、独立したリスク

管理単位によって果たされることがあり、その機能にはまた、フロントオフィス及

びバックオフィスによって用いられた価格及び評価モデルを評価し、ストレス・テ

ストを行う責任もある。銀行は,通常リスク管理活動を監視し、用いられたリスク

管理モデル、手法及び仮定の有効性を評価するリスク管理単位を持つ。そのような

状況では、監査人はその単位の作業を利用すべきかどうか、並びにどのように利用

すべきか検討する。

・ 統制活動 銀行は、職務の有効な分離(特にフロントオフィスとバックオフィスとの間での)、

持ち高の正確な測定と報告、取引の検証と承認、持ち高と結果との照合、限度の設

定、限度超過に関する報告と承認、物理的安全及び不測事態対応計画を含む、リス

クを管理するための、適切な統制手続を持たなければならない。

・ 監視活動 リスクを測定し、管理するために用いられるリスク管理モデル、手法及び仮定は、

定期的に評価され、最新のものにされなければならない。この機能は、独立したリ

スク管理部門によって果たされることがある。内部監査は、経営者の方針及び手続

が遵守されているどうか、並びに事務の統制手続が有効であるかどうか検査するた

めにリスク管理プロセスを定期的にテストしなければならない。リスク管理部門も

内部監査も、統治責任者及び報告の対象となる者から独立した経営者への報告経路

を持たなければならない。

・ 信頼性のある情報システム 銀行は、適切な財務、業務及び遵守情報を適時に継続的に提供する信頼性のある情

報システムを必要としている。統治責任者及び経営者は、容易に理解され、銀行の

リスク概要の変化している性質を評価することを可能にするリスク管理情報を必

要としている。 全体的監査計画の作成

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29.銀行の財務諸表監査のための全体的監査計画を作成する際に、監査人は特に以下の事項

に注意を払う。

・ 銀行が行う取引の複雑さ及びそれに関する文書化 ・ 中心となる活動がサービス提供会社によって行われている程度 ・ 偶発債務及びオフ・バランスシート項目 ・ 規制上の考慮事項 ・ 銀行が利用する IT 及びその他のシステムの程度 ・ 固有リスク及び統制リスクの予想される評価 ・ 内部監査人の作業 ・ 監査リスクの評価 ・ 重要性の評価 ・ 経営者の陳述 ・ 他の監査人の関与 ・ 銀行の業務の地理的広がり及び監査チーム間の作業の調整 ・ 関連当事者間取引の存在 ・ 継続企業に関する考慮事項

これらの事項は、以下のパラグラフで論じられる。

行われる取引の複雑さ 30.銀行は、典型的に活動の広範な多様性を持っている。それは、ときには監査人が特定の

取引の意味合いを十分に理解することが困難であることを意味している。その取引は大

変複雑であるため、経営者自身が新しい商品やサービスのリスクを適切に分析できない

ことがある。銀行の活動の広範な地理的広がりもまた、そのような困難をもたらすこと

があり得る。銀行は、それを処理し、銀行の会計記録に記帳するために用いられる文書

からは明らかではないことがある複雑で重要な基礎となる特徴を持つ取引を行う。これ

は、一つの取引のすべての側面が完全に又は正確に記録されないか、あるいは会計処理

されないかもしれないというリスクを生じさせ、結果として以下のリスクを生じさせる。

・ 適時な是正措置がとられないことによる損失 ・ 損失に対する十分な引当金を適時に計上できないこと ・ 財務諸表やその他の報告書における不十分な又は不適切な開示

監査人は、財務諸表あるいは検証又は監査報告書に対して重要な影響を与えることが

あると判断する事象、取引及び実務を識別し、理解するために銀行の活動及びその行う

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取引についての理解を得る。 31.財務諸表に記録又は開示される金額の多くは、経営者による判断の行使を伴う。例えば、

貸倒引当金、並びに流動性リスク引当金、モデル化リスク引当金及び業務リスク引当金

のような、金融商品に対する引当金である。判断が必要であればあるほど、固有リスク

も高くなり、監査人に要求される職業専門家の判断も多くなる。同様に、会計上の見積

りを伴う財務諸表上の他の重要な項目があることがある。監査人は、ISA540「会計上の

見積りの監査」に述べられている指針を考慮する。 中心となる活動がサービス提供会社によって行われている程度 32.銀行がサービス提供会社を利用している場合の検討事項は、原則として、他の事業体が

それを利用している場合と相違はない。しかし、銀行は、場合によっては与信や現金管

理のような、その中心となる活動の一部を行うためにサービス提供会社を利用している。

銀行がそのような活動のためにサービス提供会社を利用している場合は、監査人は、サ

ービス提供会社の協力無しには、十分で適格な監査証拠を入手することは困難であると

気づくことがある。ISA402 は、サービス提供会社の監査人がそのクライアントに提供

する報告書についての監査上の検討事項及びその種類に関して、さらに詳細な指針を提

供している。 偶発債務及びオフ・バランスシート項目 33.銀行はまた、典型的に以下の取引に関わる。

・ 原資産又は負債に対するパーセンテージとして低い手数料収入又は利益の要素が

あるか ・ 特定の地域の規則が貸借対照表又は財務諸表の注記においてさえ開示を要求しな

いことがあるか ・ 備忘勘定にのみ記録されるか ・ 銀行の財務諸表にもはや表れなくなるような、証券化や資産の売却を伴う

そのような取引の例としては、保護預りサービス、保証、貸し手宛推薦状及び信用状、

金利及び通貨スワップ並びに外貨を売買する約定及びオプションがある。 34.監査人は銀行の収益の源泉を検証し、以下に関して十分で適格な監査証拠を入手する。

(a) そのような取引に関連する会計記録の正確性と網羅性、 (b) そのような取引から生じる銀行業務のリスクを限定する適切な統制手続の存在、

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(c) 必要とされるかもしれない損失に対する引当金の適切性、そして (d) 要求されるかもしれない財務諸表の開示の適切性。

規制上の考慮事項 35.IAPS1004 は、監査人と銀行監督当局との関係に関する情報と指針を提供している。バ

ーゼル委員会は、リスク管理、内部統制システム、貸出金の会計処理及び開示、その他

の開示について、並びに他の領域の銀行活動について健全な銀行業の実務に関する監督

上の指針を公表した。さらに、バーゼル委員会は、適正資本量及び他の監督上の問題に

関する指針を公表した。この指針は、国際決済銀行(BIS)のウェブサイトで監査人も

一般大衆も利用可能である。 36.監査人は、ISA310 に準拠して、財務諸表上の主張(Assertions)がビジネスについての監

査人の知識と矛盾がないかどうか検討する。多くの規制上の枠組みでは、銀行が行うこ

とが認められるビジネスの水準と種類は、その資産及び負債の水準並びにその資産及び

負債の種類及び付随する認められたリスク(リスク調整後資本の枠組み)次第である。

そのような状況では、経営者が資産及び負債を虚偽分類することによって、あるいは特

に銀行が最低必要資本水準で、あるいはそれに近い水準で業務を行っている場合は、実

際よりリスクが低いものと記述することによって不正な財務報告を行おうとするより

大きなプレッシャーがある。 37.以下を含む、監査人と銀行監督当局の両方が実施する多くの手続がある。

・ 分析的手続の実施 ・ 内部統制システムの運用に関する証拠の入手 ・ 銀行の資産の質の検証及び銀行業務リスクの評価

したがって、監査人は、銀行監督当局と交流すること、並びに監督当局がその作業の

結果について銀行の経営者に宛てたかもしれない伝達物にアクセスすることが利益に

なることがわかる。リスク管理の実務及び貸倒引当金の適切性のような重要な領域にお

いて監督当局が行った評価、並びに監督当局が用いた慎重な比率は、監査人が分析的手

続を実施し、監督上の関心事である特定の領域に注意を集中する際に助けとなり得る。 IT 及び他のシステムの程度 38.大量の取引及びそれらが短時間に処理されなければならないことは、典型的にほとんど

の銀行が IT、EFT 及びその他の電気通信システムの広範囲な利用をもたらしている。

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IAPS1006 21

銀行による IT の利用の結果生じる統制上の問題は、IT が他の組織体によって利用され

る場合に生じる問題と同様である。しかし、銀行の監査人にとって特に問題である事項

は以下を含んでいる。 ・ 銀行の利益の決定において通常最も重要な二つの要素である受取利息及び支払利

息のほとんどすべてを計算し、記録するための IT の利用。 ・ 外貨建有価証券やデリバティブ・トレーディングの持ち高を決定し、それらから発

生する損益を計算し、記録するための IT 及び電気通信システムの利用。 ・ IT によって生み出された記録が、顧客の貸出金及び預金残高のような、銀行の資産

及び負債に関する詳細な最新の情報に関する唯一の容易にアクセスできる情報源

であるため、その記録への広範な、そして場合によってはほとんど全部の依存。 ・ IT システムに組み込まれた複雑な評価モデルの利用。 ・ 資産を評価するために用いられるモデル及びそれらのモデルによって用いられる

データは、しばしば銀行のメイン IT システムとつながれてなく、そのシステム上

のアプリケーションと同じ統制手続に従わない、パーソナル・コンピュータ上で

個々人によって作成されるスプレッド・シートに保存されている。IAPS1001「IT環境-スタンド・アローンのパーソナル・コンピュータ」はこれらのアプリケーシ

ョンに関して監査人に指針を提供している。 ・ 監査証跡の喪失や異なったシステムの非互換性というリスクをもたらす、異なった

IT システムの利用。 EFT システムは内部的にも(例えば、銀行間の振替え、並びに自動銀行会計機と口座の

動きを記録するコンピュータ化されたファイルとの間について)、銀行と他の金融機関

との間で外部的にも(例えば、SWIFT ネットワークを通じて)、そしてインターネット

又は他の電子商取引媒体を通じて、銀行とその顧客との間でも利用されている。 39.監査人は、中心となる IT、EFT 及び電気通信に関するアプリケーション並びにそれら

のアプリケーション間のリンクについての理解を得る。監査人は、この理解をその組織

体、したがって監査にとってのリスク要因を識別するために、主たるビジネス・プロセ

ス又は貸借対照表の持ち高に関連付ける。さらに、監査アプローチに直接影響を与える

であろう、自己開発のアプリケーション又は統合システムの利用の程度を識別すること

は重要である。(自己開発システムは、監査人にプログラム変更に対してより広範囲に

焦点を合わせることを必要とさせる。) 40.分散した IT 環境のもとで監査を行うとき、監査人は中心となる IT アプリケーションが

どこにあるかについて理解を得る。もし銀行の広域ネットワーク(WAN)がいくつか

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IAPS1006 22

の国にまたがって分散されているならば、特定の制定された規則が国境を越えたデー

タ・プロセシングに適用されるかもしれない。そのような環境では、アクセス・コント

ロール・システム、特にアクセス妨害システムに対する監査作業が監査の重要な部分と

なる。 41.電子商取引環境は、銀行がそのビジネスを行う方法を著しく変化させている。電子商取

引は、リスクの新しい側面及び監査人が取り組む他の検討事項を生じさせている。例え

ば、監査人は以下のことを検討する。

・ 電子商取引戦略が生じさせているビジネス・リスク ・ 銀行がその電子商取引戦略を実践するために選択したテクノロジーに固有のリス

ク ・ 以下に関する検討事項を含む、識別されたリスクに対する経営者への対応

- 国境を越えた取引に関する法令の要求事項の遵守 - インターネットを通じた取引の安全及びプライバシー - 銀行の会計システムに記録されたインターネットによる取引の完全性、正確性、

適時性及び承認 ・ 監査人及び補助者が持っている IT と電子商取引に関する技能及び適格性

42.組織体は、IT 又は EFT に関連する活動を外部のサービス提供会社に外部委託している

ことがある。監査人は、実証手続の種類、実施時期及び範囲を決定するために、外部委

託されたサービス並びに委託した銀行及びサービス提供会社のなかの内部統制システ

ムについて理解を得る。ISA402 はこの問題についてさらに詳細な指針を提供している。 固有リスク及び統制リスクの予想される評価 43.銀行業務の性質は、監査人が実証手続のみの実施によっては監査リスクを許容できる水

準に抑えることができないことがあるような性質である。これは、以下のような要素が

あるためである。

・ IT 及び EFT システムの広範な利用であり、それは、監査証拠の多くが電子的形式

でのみ入手可能であり、事業体自身の IT システムによって作り出されることを意

味している。 ・ 銀行によって行われる大量の取引であり、それは、実証手続のみへの依拠を実行不

可能にさせる。 ・ 銀行業務の地理的分散であり、それは、十分な監査範囲を確保することを著しく困

難にさせる。

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IAPS1006 23

・ 複雑なトレーディング取引を監査するための有効な実証手続を工夫することの困

難さである。

経営者が、監査人が固有リスク及び統制リスクを高水準より低いと評価することを可能

にする内部統制システムを設けていないならば、ほとんど場合、監査人は監査リスクを

許容できる低い水準に抑えることができないであろう。監査人は、固有リスク及び統制

リスクの評価を裏付ける十分で適格な監査証拠を入手する。パラグラフ 56-70 は内部

統制に関する事項についてより詳細に論じている。 内部監査人の作業 44.内部監査の範囲及び目的は、銀行の規模及び構造並びに経営者及び統治責任者の要求事

項次第で著しく異なることがある。しかし、内部監査の役割は、通常会計システム及び

関連する内部統制の検査、それらの運用の監視並びにそれらに対する改善勧告を含んで

いる。それはまた、一般的に財務及び業務に関する情報を識別、測定及び報告するため

に用いられる方法の検査並びに取引、残高及び手続の詳細なテストを含む、個々の項目

の特別な調査も含んでいる。パラグラフ 43 で述べられた要素によっても、監査人は内

部監査人を利用することになる。これは、特に支店が広範に地理的分散している銀行の

場合に当てはまる。多くの場合、銀行は、内部監査部門として又は別の部門として、貸

出金の質及び貸出金に関する確立された手続の遵守について経営者に報告する貸出金

の検査部門を持っている。どちらの場合も、監査人はたいていその部門及びその作業の

適切な検証の後、貸出金の検査部門の作業の利用を検討する。内部監査の作業の利用に

関する指針は、ISA610「内部監査の作業の検討」で提供されている。 監査上のリスク 45.監査上のリスクの三つの構成要素は以下のとおりである。

(a) 固有リスク(重要な誤謬が発生するリスク) (b) 統制リスク(重要な誤謬が銀行の内部統制では防止されるか、又は適時に発見され

是正されないリスク) (c) 発見リスク(監査人が残りの重要な虚偽表示を発見しないリスク)

固有リスク及び統制リスクは、財務諸表の監査からは独立して存在し、監査人はそれら

に影響を与えることはできない。パラグラフ 21 から 25 で論じられている銀行業の活動

に伴うリスクの性質は、多くの領域での固有リスクの評価は高いであろうということを

示している。したがって、固有リスク及び統制リスクの水準が高水準より低くなるため

には、銀行は適切な内部統制システムを持つことが必要である。監査人は監査リスクを

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IAPS1006 24

許容可能な水準に抑えるように、これらのリスクを評価し、実証手続を立案する。 重要性 46.重要性の評価を行う際に、監査人は、ISA320「監査上の重要性」に定められている考

慮事項に加え、以下の事項を考慮する。 ・ 資本に対する負債比率が高いために、比較的少額の虚偽表示が、総資産に対しては

重大な影響ではないかもしれない場合でも、経営成績及び資本に対して重大な影響

を与えることがある。 ・ 銀行の利益は、その総資産や総負債及びオフ・バランスシートのコミットメントに

比較して低い。したがって、資産、負債及びコミットメントだけに関連した虚偽表

示は、損益計算書にも関連した虚偽表示よりも重要ではないことがある。 ・ 銀行は、しばしば資本の最低水準を維持する要求事項のような、規制上の要求事項

に従う。それらのような要求事項違反は、経営者が継続企業の前提を用いることの

適切性に疑問を抱かせることになり得る。したがって、監査人は、もし修正されな

ければ、そのような規制上の要求事項の重大な違反をもたらすことになる虚偽表示

を識別するように、重要性の水準を設定する。 ・ 継続企業の前提の適切性は、多くの場合銀行の健全な金融機関であるとの評判や監

督当局の措置に関連する事項次第である。このために、銀行以外の事業体にとって

重要ではない関連会社取引やその他の事項は、もしそれらが銀行の評判又は規制当

局の措置に影響するならば、銀行の財務諸表にとって重要になることがある。 経営者の陳述 47.経営者の陳述は、入手された情報及び証拠が監査の目的のために完全であるかどうかを

判定する際に監査人の助けとなるために、銀行監査という状況では適切である。これは、

特に財務諸表に通常反映されないが、監査人が気づかない他の記録によって証拠付けら

れることがある銀行の取引(オフ・バランスシート項目)について当てはまる。監査人

は、銀行のビジネスにおける重大な変化及びそのリスク概要に関して経営者の陳述を入

手することもしばしば必要となる。監査人は、入手されそうな監査証拠が経営者の陳述

で補完することが必要となるかもしれない領域、例えば、貸倒引当金や規制当局との通

信文書の完全性のような領域を識別することも必要となることがある。ISA580「経営

者の陳述」は、監査証拠としての経営者の陳述の利用、監査人がその評価及び文書化の

際に適用すべき手続並びに陳述を文書で得なければならない状況に関する指針を提供

している。 他の監査人の関与

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IAPS1006 25

48.ほとんどの銀行において事業所が広く地理的に分散している結果、監査人はしばしば銀

行が業務を行っている多くの場所で他の監査人の作業を利用することが必要となる。こ

れは、監査人の事務所の他の事業所を利用するか、又はその場所において他の監査事務

所を利用することによって果たされることがある。 49.他の監査人の作業を利用する前に、監査人は、以下のことを行う。

・ その監査人の独立性及び必要な作業を引き受けるための能力(銀行業及び適用され

る規制上の要求事項に関する知識を含む)を検討する。 ・ 業務契約の条件、適用される会計原則及び報告に関する取決めが明確に伝達されて

いるかどうかを検討する。 ・ 他の監査人との討議、適用された手続及び発見事項の要約文書の検証、他の監査人

の監査調書の検証、あるいはその状況に適切な他の方法によって、他の監査人が実

施した作業がその目的のために適切であるとの十分で適格な監査証拠を入手する

ために手続を実施する。

ISA600「他の監査人の作業の利用」は、そのような状況において取り扱われるべき問

題及び実施されるべき手続に関して、さらに詳細な指針を提供している。 実施される作業の調整 50.ほとんどの銀行の規模及び地理的分散を考えれば、実施される作業の調整は効率的で有

効な監査を達成するために重要である。必要な調整は以下のような要素を考慮する。

・ 以下の者によって実施される作業。 - 専門家 - 補助者 - 監査人の事務所の他の事業所 - 他の監査事務所

・ 内部監査の作業を利用すると計画されている範囲 ・ 株主及び規制機関への要求された報告日 ・ 銀行の経営者によって提供される特別な分析及び他の文書

51.補助者間の調整の最も高い水準は、多くの場合定期的な監査の状況に関する会議で達成

され得る。しかし、補助者の数及び彼らが関与する事業所の数を考えれば、監査人は、

通常監査計画のすべて又は適切な部分を文書で伝達する。要求事項を文書で説明すると

き、監査人は以下の事項に関する解説を含めることを検討する。

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IAPS1006 26

・ 監査される財務諸表及びその他の情報(並びに必要と考えられる場合は、その監査

についての法的又は他の命令書)。 ・ 監査人が要請する追加的な情報の詳細。例えば、一定の貸出金、ポートフォリオの

構成、実施されるべき監査作業に関する解説(特に銀行にとって重要な、パラグラ

フ 21-25 に述べられているリスクの領域に関して)及び監査作業の結果に関する

情報、内部統制に関する経営者への書簡に含まれる潜在的な項目、現地の規制当局

の関心事、並びに適切な場合は、必要な報告書の形式である。 ・ 監査は ISA及び現地の規制上の要求事項に準拠して実施されるべきであること(そ

して、必要と考えられる場合は、それらの要求事項に関する情報)。 ・ 財務諸表及び他の情報の作成において準拠されるべき適切な会計原則(そして、必

要と考えられる場合は、それらの情報の詳細)。 ・ 中間での監査の状況に関する報告についての要求事項及び最終期限。 ・ 接触する事業体の役職者の詳細。 ・ 報酬及び請求の取決め。 ・ 監査を実施する者が知るべき、規制上、内部統制、会計又は監査の性質に関するそ

の他の関心事。 関連当事者 52.監査人は、特に貸出し及び投資の領域では、監査の過程の間関連当事者間取引に注意を

し続ける。監査の計画段階の間に実施される手続は、銀行及び銀行産業について理解を

得ることも含め、関連当事者間取引を識別するうえで役立つ。管轄区によっては、関連

当事者間取引は、量的及び質的な制限を受けることがある。監査人は、そのような制限

の程度を判定する。 継続企業に関する考慮事項 53.ISA570「継続企業」は、経営者が継続企業の前提を用いることの適切性に関する監査

人の検討事項について指針を提供している。その ISA で特定されている事象に加え、以

下の事項もまた、銀行が継続企業として存続する能力について重大な疑念を抱かせるこ

とがある。

・ デリバティブの取引水準の急速な増加。これは、銀行が適切な統制手続なしにトレ

ーディング活動を行っていることを示している。 ・ 特に銀行が規制上の資本又は流動性水準の最低か又はそれに近い場合に、収益性の

深刻な減退を示す収益性に関する実績又は予測。 ・ 金融市場及び預金負債に対して支払われている通常の市場金利より高い金利。これ

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IAPS1006 27

は、銀行がより高いリスクがあると見られていることを示すことがある。 ・ 他の銀行からの預金又は他の形式の短期金融市場からの資金調達の著しい減少。こ

れは、その銀行に対する他の市場参加者の信認が不足していることを示すことがあ

る。 ・ 銀行の継続企業として存続する能力に対して不利な影響を与える、規制当局によっ

てなされたか又はその兆候のある措置。 ・ 中央銀行借りの金額の増加。それは、銀行が通常の市場から流動性を得られなかっ

たことを示すことがある。 ・ 借り手又は資金源に対するエクスポージャーの集中。

54.ISA570 はまた、銀行が継続企業として存続する能力について重大な疑念を抱かせるこ

とがある事象又は状況が識別された時の監査人に対する指針を提供している。その ISAは、適切な多くの手続を示している。それらに加え、以下の手続もまた、適切なことが

ある。

・ 規制当局との通信文書の検査。 ・ 規制上の検査の結果当局によって発行された報告書の検査。 ・ 現在進行中の検査の結果についての討議。

55.それに従って銀行が業務を行う規制制度は、監査人に、修正された意見を発行する意図

又は銀行が継続企業として存続する能力について監査人が持つことがある懸念を規制

当局に開示することを要求することがある。IAPS1004 は、監査人と銀行業の監督当局

との間の関係についてさらに詳細な討議を提供している。 内部統制 序 説 56.バーゼル銀行監督委員会は、方針書「銀行組織における内部統制システムのフレームワ

ーク」(1998 年 9 月)を公表した。それは銀行監督当局に銀行の内部統制システムを評

価するための枠組みを提供している。この枠組みは、多くの銀行監督当局によって利用

され、また、個々の銀行組織との監督上の討議の間に利用されることがある。銀行の財

務諸表の監査人は、銀行の内部統制システムの様々な要素を理解する際に、この枠組み

が有益であることがわかるであろう。 57.経営者の責任には、適切な会計システム及び内部統制システムの維持、会計方針の選択

及び適用、並びに事業体の資産の保全が含まれる。

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監査人は、監査を計画し、有効な監査アプローチを立案するために十分な会計及び内部

統制システムについての理解を得る。その理解を得た後、監査人は、財務諸表の主張

(Assertions)について許容できる適切な発見リスクを決定し、そのような主張について

実証手続の種類、実施時期及び範囲を決定するために、固有リスク及び統制リスクの評

価を検討する。

監査人が統制リスクを高水準より低いと評価する場合は、実証手続は、通常統制リスク

を高いと評価した場合に必要とされる手続より範囲が狭く、種類及び実施時期もまた異

なることがある。 内部統制手続の識別、文書化及びテスト 58.ISA400「リスクの評価と内部統制」は、会計システムに関連する内部統制が以下のよ

うな目的の達成に関係していることを示している。

・ 取引は経営者の全般的又は個別的承認に従って実行される(パラグラフ 59-61)。 ・ 特定された財務報告の枠組みに準拠して作成することが可能になるように、すべて

の取引及びその他の事象が、正確な金額で、適切な勘定に、そして適切な会計期間

に即時に記録される(パラグラフ 62 及び 63)。 ・ 経営者の承認に従った場合にのみ資産へアクセスできる(パラグラフ64及び65)。 ・ 記録された資産は、合理的な頻度で実在の資産と比較され、差異について適切な措

置が講じられる(パラグラフ 66 及び 67)。

これらのそれぞれに関連する監査上の検討事項は以下のパラグラフで論じられる。 銀行の場合、内部統制のそれ以上の目的は、銀行がその規制上の、並びに受託者として

の活動から生じる受託責任を果たすことを確実にすることである。監査人は、そのよう

な責任を果たさないことによって財務諸表が重要な虚偽記載となる場合を除いて、これ

らの目的には直接関係しない。

取引は経営者の全般的又は個別的承認に従って実行される。 59.銀行における内部統制システムに対する全体的な責任は、銀行業務を統治する責任のあ

る、統治責任者に委ねられている。しかし、銀行業務は一般的に大規模で分散されてい

るため、意思決定機能は分散される必要があり、銀行に重要な取引を行わせる権限は、

様々な階層の経営者及び職員の間に分散され、委譲されている。そのような分散及び委

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IAPS1006 29

譲は、例えば、支払指図書が安全なメッセージによって送られる貸出し、金銭出納及び

口座振替においてほとんど常に見られる。銀行業務のこの特徴は、権限の委譲という体

系化されたシステムの必要性を生じさせ、以下の事項の正式な特定及び文書化をもたら

す。

(a) 特定の取引を承認してもよい者 (b) その承認に当たって従うべき手続 (c) 個々の従業員又は職員の階層によって承認することができる金額の限度、並びに

承認に同意するために必要なことがある要求事項

統治責任者にはまた、適切な手続がエクスポージャーの程度を監視するために存在する

ことを確実にすることが求められる。これは、通常銀行の別々の活動、部門及び支店の

中だけでなく、それらにわたってエクスポージャーを合計することを伴う。 60.承認に関する統制手続の検証は、取引が銀行の方針に従って行われたかどうか、並びに、

例えば、貸出機能の場合は、その取引が資金の支払に先立って適切な信用評価手続に従

ったことを検討する際に、監査人にとって重要であろう。監査人は、典型的に様々な取

引に関してエクスポージャーのレベルのための限度が存在することがわかるであろう。

統制手続のテストを実施するとき、監査人は、これらの限度が守られているかどうか、

並びにこれらの限度を超えた持ち高は適切な階層の管理者に適時に報告されているか

どうか検討する。 61.監査の観点からは、財務諸表の日付近く又はその日に行われた取引に関して、銀行の承

認に関する統制手続は特に重要である。これは、取引の側面がまだ満たされていないか、

又は取得された資産又は発生した債務の価値を評価するための証拠が不足しているこ

とがあるからである。そのような取引の例として、特定の有価証券を決算日後に購入又

は売却する約定、並びに債務者からの元本及び利息の支払がまだなされていない場合の

貸出金がある。

特定された財務報告の枠組みに準拠して作成することが可能になるように、すべての取

引及びその他の事象が、正確な金額で、適切な勘定に、そして適切な会計期間に即時に

記録される。 62.すべての取引及びその他の事象が適切に記録されることを確実にするために経営者が用

いる内部統制を検討する際に、監査人は、銀行業務の環境において特に重要な数多くの

要素を考慮する。これらは以下を含んでいる。

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・ 銀行は、個別に又は累積的に多額の金銭を伴った大量の取引を行う。したがって、

銀行は、誤謬や不一致が調査され、銀行にとって最小の損失で修正されることがで

きるように、それらを発見することを可能にする時間枠内で実施される残高照合及

び勘定調整手続を持つ必要がある。そのような手続は、取引の量と性質、リスクの

水準、及び取引決済の時間枠によって、毎時間、毎日、毎週、又は毎月実施される

ことがある。これらの勘定照合の目的は、多くの場合非常に複雑な統合された ITシステムにまたがった取引の処理の完全性を確実にするためであり、勘定調整自体

は、通常これらのシステムによって自動的に行われる。 ・ 銀行が行う多くの取引は、特別の会計規則に従わなければならない。銀行は、経営

管理目的と外部報告目的に適合した会計情報を作成する際にそれらの規則が適用

されることを確実にするために適した統制手続を持たなければならない。そのよう

な統制手続の例としては、すべての未実現損益が記録されることを確実にするため

に外国為替及び有価証券の売買約定の市場価格による再評価を行うことが挙げら

れる。 ・ 銀行が行う取引によっては、財務諸表に開示することが要求されないことがある

(例えば、会計の枠組みがオフ・バランスシート項目と見なすことを認めている取

引である)。したがって、統制手続は、経営者にそれらに対する必要な程度の統制

を提供し、かつ損益の記録をする必要があるような状況の変化について即時に決定

することを可能にするような方法で、そのような取引が記録され、監視されること

を確実にするために適切でなければならない。 ・ 銀行は、絶えず新しい金融商品やサービスを開発している。監査人は、会計手続及

び関連する内部統制において必要な修正がなされているかどうか検討する。 ・ 1 日の終りに、残高は、システムを通じて処理された取引又は 1 営業日の間の損失

に対する最大エクスポージャーの量を反映していることがある。これは、特に外国

為替や有価証券取引を実行し、処理することに関係がある。これらの領域における

統制手続の評価は、最大の量又は最大の財務的エクスポージャーの期間の間統制を

維持する能力を考慮する。 ・ 銀行取引の大多数は、内部的及び銀行の顧客や取引相手の両方によって確認される

ことができるような方法で記録されなければならない。個々の取引について記録さ

れ維持される詳細さの程度は、銀行の経営者、取引相手、及び顧客がその金額と条

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件の正確性を確認できるものでなければならない。そのような統制の例としては、

取引に関わっていない従業員に外国為替取引伝票を取引相手から送られる取引確

認通知と照合させることによる外国為替取引伝票の継続的な確認が挙げられる。 63.IT 及び EFT システムの広範囲な利用は、監査人が銀行の会計システム及び関連する内

部統制をどのように評価するかに対して大きな影響を与えている。ISA400「リスクの

評価と内部統制」、ISA401「コンピュータ情報システム環境における監査」及び

IAPS1008「リスクの評価と内部統制-CIS の特徴と考慮事項」は、他の IAPS が情報

技術を取り扱うのと同じように、そのような評価についての IT の側面に関して指針を

提供している。その監査手続には、システム開発及び修正、システムへのアクセス及び

データ入力、通信ネットワークのセキュリティ、並びに偶発事故対策に影響する内部統

制の評価が含まれる。同様の検討事項は、銀行内での EFT のオペレーションに適用さ

れる。EFT 及びその他の取引システムが銀行の外部に存在する程度によって、監査人は

取引前の監視的な統制手続並びに取引後の確認及び調整手続の完全性に追加の重点を

置く。サービス提供会社の監査人からの報告書はここでは役に立ち、ISA402 は、その

ような報告書についての監査人の検討事項に関して指針を提供している。

経営者の承認に従った場合にのみ資産へアクセスできる。 64.銀行の資産は、多くの場合高額で物理的手続だけでは保全できないような形式で、容易

に譲渡できる。資産へのアクセスが経営者の承認に従った場合のみに許されることを確

実にするために、銀行は一般的に以下のような統制手続を用いる。

・ IT及びEFTシステムへのアクセスを承認された従業員に限定するためのパスワー

ド及び連帯アクセスの取決め。 ・ 記録維持と保管機能の分離(記録保持を管理する担当者である従業員にとってのみ

即時に利用可能なコンピュータ生成の取引確認報告書の利用を含む)。 ・ 頻繁な第三者確認及び独立した従業員による持ち高の調整。

65.監査人は、これらの統制手続のそれぞれが有効に運用されているかどうか検討する。し

かし、それが関わる金額の重要性と譲渡可能性を考えると、監査人はまた、通常期末財

務諸表の作成に関連して行われる確認及び照合手続をレビューし、また、自分自身で確

認手続を実施することがある。

記録された資産は合理的な頻度で資産の現物と比較され、差異に関して適切な措置が取

られる。

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IAPS1006 32

66.銀行が扱う多額の資産、取引の量、市場価格の変動によるそれらの資産価値の変動の可

能性並びにアクセス及び承認についての統制手続に関する継続的な運用を確認するこ

との重要性によって、照合についての統制手続の頻繁な運用が必要となる。これは特に

以下の事項について重要である。

(a) 現金、無記名証券及び預金のような譲渡可能な形式の資産、並びに、他の金融機

関との間の有価証券の持ち高の誤謬や不一致を直ちに(短期金融市場に関係した

場合は毎日を意味することがある)発見できないことは回復不能の損失という結

果となり得る。通常現物実査や第三者への確認に基づく調整手続は、この統制目

的を達成するために用いられる。 (b) 有価証券や外国為替契約のような、評価モデル又は外部の市場価格を参照するこ

とによってその価値が決定される資産、そして (c) クライアントの代りに保有している資産。

67.銀行の調整の統制手続の有効性を評価するための監査計画を立案する際に、監査人は、

以下のような要素を検討する。

・ 照合が必要な勘定の数及び実施されるこれら照合の頻度のために、 - 監査作業の多くは照合の統制手続の文書化、テスト及び評価に向けられる。 - 内部監査人の作業も同様の評価に向けられる。したがって、監査人は内部監査

の作業を利用することができる。 ・ 調整はその効果が累積的であるため、調整表が、監査人が利用するために十分早く

年度末日現在で作成され、調整の統制手続が有効であることに監査人が納得するな

らば、ほとんどの調整表は年度末に十分に監査することができる。 ・ 調整を監査する際に、監査人は、項目が同時に調整及び調査されることのない他の

項目に不適切に振替えられていないかどうか検討する。 統制手続の例 68.本ステートメントの付録2には、銀行の資金及びトレーディング並びに貸出業務で通常

見られる承認、記録、アクセス及び調整に対する統制手続の例が含まれている。 内部統制の固有の限界 69.ISA400「リスクの評価と内部統制」は、内部統制の識別、文書化及びテストの際に監

査人が準拠すべき手続について述べている。その際に、監査人は内部統制の固有の限界

に気づく。固有リスクと統制リスクの評価された水準は、監査人が実証手続を実施する

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必要性を除去するほど十分に低くすることはできない。固有リスクと統制リスクの評価

された水準にかかわらず、監査人は重要な勘定残高及び取引群に対しては、ある程度の

実証手続を実施しなければならない。 環境的要因についての検討 70.特定の統制手続の有効性を評価する際に、監査人は、内部統制が運用されている環境を

検討する。検討されるいくつかの要因には以下が含まれる。

・ 銀行の組織構造及び銀行が権限と責任の委譲を規定する方法 ・ 経営者の監督の質 ・ 内部監査の範囲及び有効性 ・ リスク管理及び規則遵守システムの範囲及び有効性 ・ 重要な職員の技能、適格性及び誠実性 ・ 監督機関による検査の性質及び範囲

実証手続の実施 序説 71.固有リスク及び統制リスクの評価の結果、監査人は個々の勘定残高及び取引群に対して

実施する実証性テストの種類、実施時期及び範囲を決定する。これらの実証性テストを

立案する際に、監査人は、銀行の内部統制システムを具体的にとらえられるようにリス

ク及び要因を検討する。さらに、監査人が注意を向けるこれらのリスクの領域に対して

重要な多くの監査上の考慮事項がある。これらは、以下のパラグラフで論じられる。 72.ISA500「監査証拠」は、財務諸表に表現されている主張(Assertions)を列挙している。

それらは、実在性、権利と義務、発生、網羅性、評価、測定、及び表示と開示である。

網羅性についての主張(assertions)のテストは、特に負債に関して、銀行の財務諸表の監

査において特に重要である。他の営利企業の負債に関する監査作業の多くは、逆の母集

団に対する実証手続によって実施することが可能である。銀行の取引は、同じ種類の決

まった取引循環を持っていないし、また、逆の母集団は必ずしも直接はっきり見えない。

多額の資産及び負債が瞬時に作られ、認識され、もしシステムで捉えられないならば、

見逃されることがある。第三者への確認及び統制手続の信頼性はこれらの状況において

重要になっている。 監査手続

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73.上述の主張(assertions)に取り組むために、監査人は以下の手続を実施することができ

る。

(a) 実査、 (b) 視察、 (c) 質問及び確認、 (d) 計算突合、そして (e) 分析的手続。

銀行の財務諸表の監査という状況においては、実査、質問及び確認、計算突合並びに分

析的手続は特別な注意が必要であり、以下のパラグラフで論じられている。 実査 74.実査は、記録、文書、又は有形資産の検証から成る。監査人は、以下のために実査する。

・ 銀行が保有している重要な譲渡可能な資産の物理的実在性について心証を得るた

め。 ・ 以下を行う為個別に又は全体で重要な約定(基本契約(master agreement)を含む)

の条件について必要な理解を得るため。 - 行使可能性を検討し - それらによりもたらされる会計上の取扱いの適切性を評価する

75.監査手続として実査が用いられる領域の例は以下のとおりである。

・ 有価証券 ・ 融資契約書 ・ 担保物件 ・ 以下のようなコミットメント契約

- 資産の売却及び買戻し - 保証

76.実査手続を実施する際に、監査人は、銀行が保有する資産によっては、銀行自身のため

ではなく、第三者のために保有されていることがあることに注意しつづける。監査人は、

そのような資産の銀行の資産からの適切な分離について適切な内部統制が存在してい

るかどうか、並びにそのような資産が保有されている場合は、財務諸表に対する影響を

検討する。パラグラフ 58 で述べられたように、銀行の責務放棄により、財務諸表上の

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重要な虚偽記載が生じる場合のみ、第三者の資産の実在性に関心を払う。 質問及び確認 77.質問は、事業体の内部又は外部の情報保有者から情報を求めることから成る。確認は、

会計記録に含まれている情報を裏付けるための質問に対する回答から成る。監査人は以

下のために質問及び確認を行う。

・ 内部統制の運用に関する証拠を入手する。 ・ 銀行の顧客及び取引相手が認識している、一定の取引の金額及び条件に関する証拠

を入手する。 ・ 銀行の会計記録からは直接入手できない情報を入手する。

銀行は多額の貨幣性資産及び負債並びにオフ・バランスシートのコミットメントを保有

している。外部確認は、財務諸表に開示されている資産及び負債の金額の実在性及び網

羅性を判断する有効な方法であることがある。監査人が実施する外部確認手続の種類及

び範囲を決定する際に、監査人は、内部監査によって実施された外部確認手続を検討す

る。ISA505「外部確認」は、外部確認プロセスに関する指針を提供している。 78.監査人が確認を利用する領域の例は以下のとおりである。

・ 担保物件 ・ 取引されていないか又は店頭市場でのみ取引されている資産及び負債の価格の検

証あるいはそれに関する独立した確認状の入手 ・ 以下のような、顧客や相手先との資産、負債及び先物売買持ち高

- 未決済のデリバティブ取引 - 当行勘定(nostro)及び先方勘定(vostro) - 第三者が保有する有価証券 - 貸出金口座 - 預金口座 - 保証 - 信用状

・ 銀行の請求権の正当性に関する法的意見 計算突合 79.計算突合は、原始書類及び会計記録の数学的正確性を調べること又は独立した計算を実

施することから成る。銀行の財務諸表の監査という状況では、計算突合は、評価モデル

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IAPS1006 36

が継続的に適用されていることを調べるための有益な手続である。 分析的手続 80.分析的手続は、重要な比率や傾向の分析及びその結果として実施される変動の調査、並

びに他の関連情報と整合しない関係又は予測された金額からの乖離の分析から成る。

ISA520「分析的手続」は、監査人によるこの技法の利用に関する指針を提供している。 81.銀行は、例外なく監査人が個別に検討する規模である個々の資産(例えば、貸出金及び、

おそらく投資も)を保有している。しかし、ほとんどの項目については、分析的手続は

以下の理由により有効なことがある。

・ 通常、銀行の利益の決定における二つの最も重要な要素は、受取利息及び支払利息

である。これらは、それぞれ利付資産及び利付負債と直接の関連性がある。これら

の関連性の合理性を確立するために、監査人は報告された受取利息及び支払利息が

平均未決済残高及びその年度中の銀行の表示利率に基づいて計算された金額と乖

離している程度を検証することができる。この検証は、通常銀行のビジネスの管理

において用いられている資産及び負債の種類について行われる。そのような検証は、

例えば、重要な金額の延滞債権又は記録されていない預金の存在を明らかにする。

さらに、監査人はまた、類似の種類の貸出金や預金についてその年度中の市場での

支配的な利率と比較して、銀行の表示利率の合理性を検討することもある。貸出金

資産の場合は、市場より高く課されたか又は認められた利率という証拠は、過度の

リスクの存在を示すことがある。預金負債の場合は、そのような証拠は、流動性又

は資金調達上の困難を示すことがある。同様に、手数料収入もまた銀行の利益の大

きな構成要素であるが、それは、多くの場合手数料が得られた基となった義務の量

と直接の関連性を持っている。 ・ 銀行が行う大量の取引の正確な処理、及び監査人による銀行の内部統制の評価は、

比率及び傾向並びに過年度、予算及び他の似た事業体の業績と乖離している程度の

検証によって、効果を得ることがある。 ・ 分析的手続を用いることによって、監査人は、特定の産業又は地理的領域へのリス

クの過度の集中並びに利率、通貨及び満期日のずれに対する潜在的エクスポージャ

ーのような、継続企業の前提の適切性に疑問を抱かせる状況を発見することがある。 ・ ほとんどの国では、監査人が傾向の綿密な分析的レビューや同等のグループ分析を

実施するために利用することができる当局及びその他の情報源から入手可能な幅

広い範囲の統計及び財務情報がある。

適切な分析的手続を検討するに当たって有益な出発点は、銀行の活動を監視する際に経

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IAPS1006 37

営者はどのような情報及び実績又はリスク指標を用いるのか検討することである。本ス

テートメントの付録3は、銀行産業で最も頻繁に用いられる比率の例を含んでいる。 財務諸表の特定項目に関する特別な手続 82.パラグラフ 83-100 は、銀行の財務諸表の典型的な項目に関連して通常特に重要な主

張(Assertions)を明らかにしている。それらはまた、監査人が実証手続を計画するのに

役立つ監査上の考慮事項のいくつかについても述べ、そして監査人がテストのために選

択する項目に関連して用いることのできる技法のいくつかを提案している。その手続は、

実施することが可能な手続の包括的な列挙をしているわけでなく、常に実施すべき最低

限の要求事項を示しているのでもない。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 財務諸表項目 特に重要な財務諸表の主張(assertions) ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 83. 他行との取引残高

実在性 監査人は、残高について第三者への確認を検討する。他行との間で持ってい

る残高は、大量の取引の結果である場合は、その他行からの確認の受取りは、

関連する内部統制のテストよりも、取引の実在性及びその結果としての銀行

間残高についてより説得力のある証拠を提供することがあり得る。確認状の

用語及び内容を含め、銀行間の確認手続に関する指針は IAPS1000「銀行間

の確認手続」にある。 評価 監査人は、預け先の銀行の信用力を考慮して預金の回収可能性を評価すべき

かどうか検討する。そのような評価において必要な手続は、後で論じられる

貸出金の評価において用いられる手続に類似している。 表示と開示 監査人は、財務諸表の日付における他の銀行との取引残高が「真実」の商取

引を表しているかどうか、あるいは通常の又は予測された水準からの重要な

乖離は、主として銀行の財政状態について誤解させる印象を与えるためか又

は流動性及び資産比率を改善する(しばしば「粉飾」と知られている)ため

になされた取引を反映しているかどうか検討する。 粉飾が財務諸表の真実かつ公正な概観をゆがめるかもしれない規模で発生

している場合は、監査人は、経営者に財務諸表に示されている残高を修正す

るか、又は注記に追加の開示をするよう要請する。もし経営者がそうしない

ならば、監査人は監査報告書を修正するかどうか検討する。

84. 短期金融市場商品

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IAPS1006 38

実在性 監査人は、実査又は外部の保管者への確認及び関連する金額を会計記録と調

整照合する必要性を検討する。 権利と義務 監査人は、所有権を確証する手段として関連する利益の受取りを調査するこ

との実行可能性を検討する。監査人は、無記名で保有されている金融商品の

所有権の確証に特に注意を払う。監査人はまた、その金融商品の所有権に関

する債務があるかどうか検討する。 監査人は、未計上負債及び損失の証拠を入手するために、売却や将来の買戻

契約の存在に関してテストする。 評価 監査人は、発行者の信用力を考慮して、用いられた評価技法の適切性を検討

する。 測定 監査人は、短期金融市場商品に関して、ある場合は購入割引の償却によって、

稼得した利益の適切な計上のテストをする必要性があるかどうか検討する。 監査人はまた、以下についても検討する。 ・保有する有価証券の種類と関連する利益との関係が合理的であるかどう

か。 ・売却や再評価から生じるすべての重要な損益が財務報告の枠組みに準拠し

て報告されているかどうか(例えば、売買目的有価証券に関する損益が投

資目的有価証券に関する損益と別の取扱いがされている場合)。

85. 売買目的有価証券 付録2は、トレーディング業務に関する内部統制上の検討事項及び監査手続

の例を追加している。 実在性 監査人は、実査又は外部保管者への確認及び関連する金額を会計記録と調整

する必要性を検討する。 権利と義務 監査人は、所有権を確証する手段として関連する利益の受取りを調査するこ

との実行可能性を検討する。監査人は、無記名で保有されている金融商品の

所有権の確証に特に注意を払う。監査人はまた、その有価証券の所有権に債

務があるかどうか検討する。 監査人は、記録されていない負債及び損失の証拠を入手するために、売却や

将来の買戻契約の存在に関してテストする。

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IAPS1006 39

評価 財務報告の枠組みは、しばしば売買目的で保有されているか、投資有価証券

で保有されているか、あるいはヘッジ目的で保有されているかによって異な

った評価基準を規定している。例えば、財務報告の枠組みは、売買目的有価

証券は市場価格で、投資有価証券は減損の検証(レビュー)を条件とする歴史

的原価で、ヘッジ目的有価証券はそれがヘッジしている原資産と同じ基準で

記録することを要求することがある。 経営者の意図は、特定の有価証券がある目的で保有されているかどうか、し

たがって、その評価基準が用いられるべきかどうかを決定する。経営者の意

図が変わるならば、評価基準も変わる。したがって、有価証券がある区分か

ら別の区分に振り替えられた場合は、監査人は、その変更された意図につい

ての経営者の主張(Assertions)を裏付けるための十分で適切な証拠を入手す

る。特定の有価証券の区分を変更することによって利益を認識するか、又は

損失を回避することが可能になるため、資産の区分を変更する可能性は経営

者に不正な財務報告の機会を提供する。 売買目的で保有されている有価証券が市場価格で記録されている場合は、監

査人は、未実現利益を利益に算入することができるように、市場価格が上が

った有価証券が投資目的有価証券(パラグラフ 87 参照)から恣意的に振替

えられたかどうか検討する。 監査人はまた、評価計算を再実行するかどうか、及び銀行の評価手続に対す

る統制手続のテストの範囲を検討する。 測定 監査人はまた、以下についても検討する。 ・保有する有価証券の種類と関連する利益との関係が合理的であるかどう

か。 ・売却や再評価から生じるすべての重要な損益が財務報告の枠組みに準拠し

て報告されているかどうか(例えば、売買目的有価証券に関する損益が投

資目的有価証券に関する損益と別の取扱いがされている場合)。

86. (資金の現

在の投資、例

えば、再販の

ために購入

した一組の

貸出金、証券

化した資産

の買戻し)

その他の金融資産 権利と義務 監査人は、新株引受権やオプションのような、すべての権利と義務が適切に

会計処理されているかどうか判定するために、そのような資産の購入の裏付

けとなる証拠書類を検証する。 評価 監査人は、用いられた評価技法の適切性を検討する。そのような資産につい

ては確立した市場がないことがあるため、価格に関して独立した証拠を入手

することは困難であることがある。さらに、そのような証拠が存在している

場合でも、問題の資産について、そして銀行がその市場で行った関連する相

殺のためのヘッジ取引に関して時価に頼るための現在の市場に十分な奥行

き(ある市場で動揺を引き起こさないで取引できる限度-訳注)があるかど

うかについて疑問があるかもしれない。監査人はまた、経営者が実施した減

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IAPS1006 40

損のためのレビューの内容及び範囲並びにその結果が資産の評価に反映さ

れているかどうかも検討する。

87. 投資有価証券 多くの場合、銀行の投資有価証券の監査は、他の事業体によって保有されて

いる投資有価証券と異ならない。しかし、銀行業務に関連する特定の問題を

もたらす特別ないくつかの側面がある。 評価 監査人は、特に容易に譲渡可能ではない有価証券に関して、有価証券の価格

の裏付けとなる資産の価格を検討する。監査人はまた、経営者が実施した減

損のためのレビューの内容及び範囲並びにその結果が資産の評価に反映さ

れているかどうかも検討する。 測定 パラグラフ 85 で述べたように、財務報告の枠組みは、しばしば有価証券に

よって異なった評価基準を規定している。有価証券が売買目的から振替えら

れた場合は、関連する財務報告の枠組みが要求しているならば、市場価格に

おける未実現損失が記録されているかどうか判定する。関連する財務報告の

枠組みが未実現損失の記録を要求していない場合は、監査人は、その振替え

が、有価証券の市場価格の下落を認識する必要性を回避するためになされた

かどうか検討する。 監査人はまた、以下についても検討する。 ・ 保有する有価証券の種類と関連する利益との関係が合理的であるかどう

か。 ・ 売却や再評価から生じるすべての重要な損益が財務報告の枠組みに準拠

して報告されているかどうか(例えば、売買目的有価証券に関する損益

が投資目的有価証券に関する損益と別の取扱いがされている場合)。

88. 子会社及び関連事業体への投資 多くの場合、銀行の子会社及び関連事業体への投資の監査は、他の事業体に

よって保有されているそのような投資の監査と異ならない。しかし、銀行業

務に関連する特定の問題をもたらす特別ないくつかの側面がある。 評価 監査人は、銀行が子会社及び関連事業体の経営維持を確実にするための将来

の財政支援に関する法的又は実務上の要求事項の影響(したがって、投資の

評価)を検討しなければならない。監査人は、関連する財政的義務が銀行の

負債として記録されているかどうか検討する。 監査人は、持分法で会計処理されたか又は連結された会社の会計方針がその

銀行の会計方針に従っていない場合に適切な修正がなされているかどうか

判定する。

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IAPS1006 41

89. (外国為替

及び短期金

融市場に関

連した活動

を含む、貸出

し、為替手

形、信用状、

引受け済み

手形、保証、

及び顧客に

対して与え

られたその

他のすべて

の信用供与

限度から成

る。) ・ 個人 ・ 商業 ・ 政府 -国内 -海外

貸出金 実在性 監査人は、貸出金の実在性に関して外部確認の必要性を検討する。 評価 監査人は、貸出金の貸倒引当金の適切性を検討する。監査人は、経営者が決

定した金額に影響を与えることがある法令を検討する。バーゼル委員会は、

一組の「貸出金の会計処理及び開示に関する健全な実務」を公表した。それ

は、貸出金の認識及び測定、貸倒引当金の設定、信用リスクの開示並びに関

連事項に関して銀行及び銀行監督当局に指針を提供している。それは、銀行

のための健全な会計及び開示実務に関する銀行監督当局の見解を述べてい

るため、銀行が財務諸表を作成するための財務報告の枠組みに影響を与える

ことがある。しかし、銀行の財務諸表は、特定の財務報告の枠組みに準拠し

て作成されるため、貸倒引当金はその枠組みに準拠しなければならない。 付録2は、貸出金についての監査人の検討事項に関してさらに詳細な指針を

提供している。 主たる監査上の問題は、記録された貸倒引当金の適切性である。 実施すべき作業の種類、範囲及び実施時期を決定する際に、監査人は以下の

要素を検討する。 ・ 貸出金の質の分類に関する銀行のシステム、すべての文書が適切に完結

していることを確実にするための手続、銀行の貸出金のレビュー及び内

部監査人の作業に依拠することが合理的である程度。 ・ 海外貸出に比較的重要性がある場合は、監査人は、通常以下を検証する。

- 銀行がその目的のために用いる、カントリー・リスク及び規準(例え

ば、特定の分類及び評価比率)を評価し、監視する基礎となる情報 - 個々の国について信用限度が設定されているかどうか。もしそうであ

る場合は誰によって設定されているか、その限度はどれだけか並びに

それに近づいた程度 ・ 貸出金ポートフォリオの構成。これには以下に対する特別の注意が必要

である。 - 特定の債務者への集中

・ 特定の債務者及びその関係者(そのような関係を識別するための適切な

手続を含む) ・ 特定の営利及び産業部門 ・ 特定の地理的地域 ・ 国

- 個々の与信エクスポージャーの規模(わずかな数の多額の貸出金か、

数多くの少額の貸出金か) - 主要な分類、特に急増を示す分類による貸出金の規模の傾向、並びに

不履行の、利息不計上の、及び再構成された貸出金の傾向 - 関連当事者への貸出し

・ 識別された潜在的な延滞貸出金。これには以下への特別な注意が必要で

ある。

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IAPS1006 42

- 引当金及び償却の適切性と適時性を含む、過去の損失及び回収の経験 - 規制当局の検査の結果

・ 債務者による貸出金の返済に影響を与えることがある外国通貨の送金に

関する制限を含む、地区、国内及び国際的な経済並びに環境の状況。 経営者によって、該当する場合は銀行の監督当局によって識別されたそれら

の延滞貸出金に加え、監査人は、延滞であると識別されなかったかもしれな

いそれらの貸出金を判定するための追加の情報源を検討する。これらは以下

を含んでいる。 ・ 「要注意」貸出金、延滞貸出金、未収利息不計上貸出金、リスク別格付

けによる貸出金、内部関係者(取締役や役員を含む)への貸出金、及び

承認された限度を超える貸出金のような、様々な内部的に作られた一覧

表 ・ 貸出金の種類による過去の損失の経験 ・ 債務者、保証人又は担保物件に関する現在の情報が不足している貸出金

ファイル 表示と開示 銀行は、多くの場合その貸出金及び貸倒引当金に関して特定の開示について

の要求事項に従う。監査人は、開示された情報が適用される財務及び規制上

の報告の枠組みに準拠しているかどうか検討する。

90. (a)一般預金

預金者の口座 網羅性 監査人は、預金者の口座に対する内部統制システムを評価する。監査人はま

た、記録された預金残高の合理性を評価するために、確認及び平均残高と支

払利息に対して分析的手続を実施することを検討する。 表示と開示 監査人は、預金負債が規則及び適切な会計原則に準拠して分類されているか

どうか判定する。預金負債に特定の資産による担保が付けられている場合

は、監査人は、適切な開示の必要性を検討する。 監査人はまた、銀行に少数の預金者に経済的に依存していることによるリス

クがあるかどうか、又は特定の期間内に期限が到来する預金に対して過度の

集中があるかどうか検討する。

(b)未達項目 実在性 監査人は、支店間、銀行とその連結子会社間、及び銀行と取引相手間で未達

事項が消去されているかどうか、並びに勘定調整される項目は適切に取扱わ

れ、会計処理されたことを判定する。 さらに、監査人は、合理的な期間のうちに清算されなかった残高から構成さ

れる個々の項目を検証し、また、関連する内部統制が、そのような項目がそ

の発見を回避するために他の勘定に一時的に振替えられなかったことを確

実にするために適切であるかどうか検討する。

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IAPS1006 43

91. 資本金及び準備金 銀行業の規制当局は、銀行の活動の水準を監視し、銀行の業務の範囲を決定

する際に、銀行の資本金及び準備金に綿密な注意を払う。資本金又は準備金

の小さい変動が業務を継続する銀行の能力に大きな影響を与えることがあ

る。それは、銀行が容認された最低資本比率に近づいた場合は特にそうであ

る。そのような状況では、資産及び負債を虚偽分類することよって、あるい

はそれらが実際より危険でないと記載することによって経営者を不正な財

務報告に関与させるようなより大きなプレッシャーがある。 表示と開示 監査人は、資本金及び準備金が規制上の目的(例えば、適正資本量の要求事

項を満たすために)に対して適正であるかどうか、開示事項は適切に計算さ

れたかどうか、並びに開示は適切かつ適用される財務報告の枠組みに準拠し

ていることを検討する。多くの管轄区では、監査人は、銀行の資本及びその

資本比率について、その情報が財務諸表に含まれているか、又は銀行監督当

局に対する別の報告を行う要求があるために、幅広い範囲の開示に対して報

告することが要求される。 さらに、適用される規則が留保利益の分配に対する制限を規定している場合

は、監査人は、その制限が適切に開示されているかどうか検討する。 監査人はまた、秘密積立金の開示に関して適用される財務報告の枠組みの要

求事項が遵守されたかどうかも検討する(パラグラフ 103 もまた参照)。

92. (例えば、資

金を貸出す

コミットメ

ント及び第

三者に対す

る資金の返

済を保証す

るコミット

メント)

引当金、偶発資産及び偶発債務(デリバティブ及びオフ・バラン

スシート金融商品以外) 網羅性 多くの偶発資産及び債務は、対応する債務又は資産なしに記録される(メモ

項目)。したがって、監査人は、以下のことを実施する。 ・ 偶発資産又は債務を生じさせる可能性を持っている活動(例えば、証券

化)を識別する。 ・ 銀行の内部統制システムが、そのような活動から生じる偶発資産又は債

務を適切に識別し、記録すること並びに関連する条件に対する顧客の同

意に関する証拠が保持されていることを確実にするために適切であるか

どうか検討する。 ・ 記録された資産及び負債の網羅性をテストをするために実証性手続を実

施する。そのような手続は、そのような活動に関連する手数料収入の検

証に加え、確認手続を含むことがあり、検討されている偶発事象の特定

の種類に伴うリスクの程度を考慮して決定される。 ・ 監査人の経験及び当事業年度の活動に関する知識を考慮して、年度末の

偶発資産及び債務の数値の合理性を検証する。そして ・ 経営者から、財務報告の枠組みによって要求されたとおりにすべての偶

発資産及び債務が記録され開示されているとの陳述を得る。 評価

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IAPS1006 44

これらの取引の多くは、信用供与の代りであるか、又はその完了を取引相手

の信用力に依存するかのどちらかである。そのような取引に伴うリスクは、

おおむね「貸出金」に伴うリスクと異ならない。監査目標及びパラグラフ

89 で述べられた特別重要な検討事項は、これらの取引に関しても同様に適

切である。 表示と開示 資産又は負債が証券化されたか又は別の方法で銀行の貸借対照表から除か

れる会計処理が適格である場合は、監査人は、その会計上の取扱いの適切性

並びに適切な引当がなされたかどうか検討する。同様に、銀行が、クライア

ントの事業体が資産又は負債をその貸借対照表から除くことを可能にする

取引の相手である場合は、監査人は、財務報告の枠組みが貸借対照表又は財

務諸表の注記に記載することを要求するような資産又は負債があるかどう

か検討しなければならない。 適切な財務報告の枠組みは通常そのような債務を貸借対照表上ではなく財

務諸表の注記により開示することを要求するが、監査人は銀行の資本、資金

調達、支払う必要のある債務の可能性が財務諸表に特に開示する必要のある

なしに関わらず、銀行の財務諸表に与える影響について検討しなければなら

ない。

93. (例えば、外

国為替契約、

金利及び通

貨スワップ、

先物、オプシ

ョン、並びに

金利先渡契

約)

デリバティブ及びオフ・バランスシート金融商品 これらの金融商品の多くは、銀行の資金及びトレーディング活動の一部とし

て取引される。付録2は、資金及びトレーディング活動についての監査人の

検討に関するより多くの情報を提供している。銀行がエンド・ユーザーとし

て取引するデリバィブを伴う取引については、IAPS1012 がさらに詳細な指

針を提供している。 権利と義務 監査人は、新株引受権やオプションのような、すべての権利及び義務が適切

に会計処理されたかどうかを判定するためにそのような取引の裏付けとな

る証拠書類を検証する。 実在性 監査人は、バックオフィスの未決済の取引並びに承認された取引相手、ブロ

ーカー及び取引所のリストから抽出された未決済残高について第三者確認

の必要性を検討する。システムは既存の取引相手とのすべての取引抽出が容

易ではないことがあるため、様々な商品に関して別々に確認テストを実施す

ることが必要なことがある。 網羅性 新しい金融商品の継続的な開発のために、参加者間及び銀行の中で確立され

た手続が不足していることがある。したがって、監査人は、特に以下に関し

て、内部統制システムの適切性を評価する。 ・ 取引相手から受取った書類の照合及び取引相手との勘定調整に関する手

続及び職務の分離の適切性。

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IAPS1006 45

・ 内部監査によるレビューの適切性。 監査人は、適切な間隔での定期的な損益勘定の照合、並びに特に期末での未

決済の持ち高の記録の網羅性と正確性に関する期末の調整手続を含む、関連

する内部統制システムの適切性を評価することを検討する。(このために

は、監査人は銀行間の確認手続に精通することが必要である。) 監査人はまた、期末財務諸表に記録されるべきであった項目の証拠を求め

て、期末後の取引を検証することが有益であることがわかることがある。

ISA560「後発事象」は、期末後に発生する事象の監査人による検討に関し

てさらに詳細な指針を提供している。 評価 上述の「その他の金融資産」について生じるのと同じように、ここでも似た

検討事項が生じる。しかし、以下のそれ以上の検討事項もまた生じる。 デリバティブ及びオフ・バランスシート金融商品は、財務報告の枠組みによ

ってはヘッジ手段の金融商品はヘッジ対象の原資産と同じ基準で評価され

ることを除いて、通常市場価値又は公正価値で評価される。適用される財務

報告の枠組みは、金融商品が貸借対照表に表示されることを要求しないこと

があり、また原価で評価することを要求することもある。そのような場合は、

デリバティブ又はオフ・バランスシート金融商品を財務諸表の注記に開示す

る義務があることがある。 その金融商品が投資取引所で売買されている場合は、その価格は独立した情

報源によって決定されるであろう。それが売買されていない場合は、独立し

た専門家がその価格を評価することを要請されることがある。 さらに、監査人は、流動性リスク引当金、モデル化リスク引当金及び事務リ

スク引当金のような、金融商品1に係る公正価値の修正の必要性及び適切性

を検討する。監査人は、以下のような事項を検討する。 ・ 未実現損益を計算するために財務諸表の日付で用いられた為替レート、

金利又は他の基礎となる市場の率の適切性。 ・ 財務諸表の日付時点で未決済の金融商品の公正価値を決定するために用

いられた評価モデル及び仮定の適切性。さらに、監査人は、用いられた

個々の契約の詳細、評価レート及び仮定が適切にモデルの構成要素とな

っているかどうか検討する。 ・ 特に実現損益と未実現損益との区別について適切な会計原則に関連をも

つ会計方針の適切性。 市場価格が検討される必要があるが、入手可能ではない場合は、監査人

は、適切な代替的評価技法が用いられ、適切な場合は、現在の利率ある

いは外国為替レートに基づいているかどうか検討する。 これらの金融商品によっては、ほんの最近になって開発されたため、監

査人は、特別な注意を払ってその評価を検証し、そしてその際に以下の

1 財務報告の枠組みが国際財務報告基準である場合は、IAS39 のパラグラフ 109-165 は公正価値引当金及

び金融資産の取扱いについて論じている。

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IAPS1006 46

要素を心に留めておく。 ・ 基礎となる契約の条件に関して法的な前例がないことがある。これは、

それらの条件の強制力を評価することを困難にする。 ・ これらの金融商品の固有のリスクに精通している管理者の数は比較的少

ないことがある。これは、虚偽表示が発生するより高いリスク及び虚偽

表示を防止するか、又は適時に発見し是正する統制手続の確立のより高

い困難さをもたらす。 ・ これらの金融商品によっては、全経済循環(強気市場と弱気市場、高金

利と低金利、多い売買と少ない売買そして価格のボラティリティー)を

通じて存在しなかったため、より確立した金融商品と同じ程度の確実性

をもってそれらの価格を評価することはより困難なことがある。同様に、

その持ち高をヘッジするために銀行が用いている他の相殺する金融商品

との価格の相関関係を十分な程度の確実性を持って予測することは困難

なことがある。 ・ そのような金融商品を評価するために用いられたモデルは異常な市場の

状況では適切に働かないことがある。 測定 監査人は、特にその取引がトレーディング取引であるか又はヘッジ取引であ

るか、その金融商品を生じさせた取引が行われた目的を検討する。銀行は、

自己売買の持ち高を作るためか、又は他の資産をヘッジするために本人とし

て売買してきているかもしれないし、あるいは仲介業者として売買してきて

いるかもしれない。その目的は、適切な会計上の取扱いを決定するかもしれ

ない。 そのような取引の決済は将来であるため、監査人は、財務諸表に記録される

ことが必要な損益が年度末までに生じているかどうか検討する。 監査人は、主として損益の認識時期の違いを利用する意図でなされたかもし

れない、ヘッジとトレーディング取引/持ち高との再区分があったかどうか

検討する。 表示と開示 財務報告の枠組みによっては、適切な会計原則は、オープンポジション(未

決済の持ち高-訳注)が貸借対照表に記録されているかどうかを問わず、そ

の発生損益を記録することを要求している。他の財務報告の枠組みでは、コ

ミットメントを開示する義務だけがある。後者の場合は、監査人は、記録さ

れていない金額が財務諸表上の開示又は監査報告書の限定を必要とするほ

ど重要であるかどうか検討する。 以下の検討事項が追加で生じる。 ・ 監査人は、そのような取引の、適切な財務報告の要求事項に準拠した適

切な会計上の取扱い及び表示を検討する。その要求事項がヘッジ目的の

ために行われた取引について別の取扱いをしている場合は、監査人は、

取引が適切に識別され、取り扱われているかどうか検討する。 ・ 財務報告の枠組みによっては、オープンポジションから生じる潜在的な

リスク、例えば、信用リスクと同等のリスク及び未決済のオフ・バラン

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IAPS1006 47

スシート金融商品の現在価格の開示を要求している。

94. 受取利息及び支払利息 測定 受取利息及び支払利息は、通常銀行の損益計算書上二つの主たる項目を構成

している。監査人は以下のことを検討する。 ・ 年度末における発生損益に関する適切な会計処理のための十分な手続が

存在しているかどうか、 ・ 関連する内部統制システムの適切性を評価すること、そして ・ 報告された金額の合理性を評価する際に分析的手続を利用すること。

そのような技法は、パーセンテージによる利回りの以下の項目との比較

を含んでいる。 - 市場利率 - 中央銀行の利率 - 広告された利率(貸出金又は預金の種類別) - ポートフォリオ間 そのような比較を行う際に、利率の変動によって生じるゆがみを避ける

ために実効平均利率(例えば、月次)が用いられる。 監査人は、特に延滞貸出金に関する収益(income)が通期のベースで受け

取られていない場合は、そのような収益に関する収益の認識に適用された方

針の合理性を検討する。監査人はまた、延滞貸出金に関する利益の認識が、

適用される財務会計の枠組みに加え、銀行の方針に従っているかどうか検討

する。

95. 貸倒引当金 測定 この領域における主な監査上の関心事は、「貸出金」の項で論じられている。

通常、引当金は二つの形をとる。すなわち、識別された損失に関する個別貸

倒引当金並びに存在していると思われるが特に識別されていない損失を対

象とするための一般引当金である。監査人は、過去の経験やその他の関係す

る情報のような要素に基づいてそのような引当金の適切性を評価し、特定の

及び一般貸倒引当金が貸出金ポートフォリオに伴う見積り信用損失を吸収

するのに適切であるかどうか検討する。本ステートメントの付録2は、貸倒

引当金の評価のための実証手続の例を含んでいる。国によっては、一般引当

金の水準はその国の規則によって規定されている。それらの国では、監査人

は、報告された引当金繰入額はそのような規則に準拠して計算されているか

どうか判定する。監査人はまた、財務諸表の開示の適切性、並びにその引当

金が適切ではない場合は、監査報告書への影響を検討する。

96 手数料収入 網羅性

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IAPS1006 48

監査人は、記録された金額が網羅性があるか(すなわち、すべての個々の項

目は記録されているか)どうかを検討する。この点で、監査人は、記録され

た金額の合理性を評価する際に、分析的手続を用いることを検討する。 測定 監査人は、以下のような事項を検討する。 ・ その収益は財務諸表の対象となる期間に関連するものかどうか、並びに

将来期間に対応する金額は繰り延べられていること。 ・ その収益は回収可能であるかどうか(その手数料が未回収貸出金残高に

加えられている場合は、これは貸出金の監査手続の一部として検討され

る)。 ・ その収益は、適用される財務報告の枠組みに準拠して会計処理されてい

るかどうか。

97. 法人税等 測定 監査人は、報告対象の銀行がある管轄区での銀行に適用される特別な課税規

則に精通するようになる。監査人はまた、銀行の海外での業務に関してその

作業が依拠されることが予定されている監査人がその管轄区の規則に精通

しているかどうか検討する。監査人は、銀行が業務を行っている様々な管轄

区間の租税条約に通じる。

98. 関連当事者間取引 表示と開示 財務報告の枠組みは、多くの場合関連当事者の存在及びそれらとの取引の開

示を要求している。関連当事者間取引は、銀行のビジネス活動の通常の過程

で発生することがある。例えば、銀行はその役員又は取締役あるいは役員又

は取締役によって所有されているか又は支配されている事業体に対して長

期貸出を行うことがある。監査人は、関連当事者とそのような貸出取引があ

る場合は、信用評価や担保の要求のような銀行業務の慎重性に関する通常の

処置が適切になされないことがあるリスクを知るようにする。監査人は、関

連当事者に対する貸出しに関して適用される規制上の要求事項に精通する

ようになり、関連当事者融資の承認及び関連当事者貸出の実績を監視するこ

とを含む、関連当事者貸出に対する統制手続を識別するために手続を実施す

る。 銀行のビジネス活動の通常の過程で発生することがあるその他の関連当事

者間取引は、取締役、役員、又は関連会社との預金取引及び他の取引を含ん

でいる。銀行はまた、関連会社への貸出金、又は財務上の履行を保証するこ

とがある。その保証は、契約書で正式なものになっていることもあり、ある

いはその保証は正式なものではないこともある。正式ではない保証は、口頭

による契約、関連会社の歴史的な実績に基づいた「暗黙の」契約、又は銀行

が業務を行うビジネス文化の結果であることがある。そのような契約は、正

式であろうとなかろうと、その保証が非連結関連会社に関連する場合は、そ

の契約は銀行の連結財務諸表に開示されないため、特に重要な問題である。

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IAPS1006 49

監査人は、そのような保証が存在しているかどうか、並びに銀行の財務諸表

上その保証の適切な開示があるかどうか判定するために、経営者に質問し、

取締役会の議事録をレビューする。 評価 関連当事者間取引はまた、不利な状況を避けようとする経営者の試みから生

じることがある。例えば、銀行の経営者は、貸倒引当金の不足を回避するた

め、又は資産の質についての批判を回避するために、年度末又はその近くに、

あるいは当局の検査の前に、問題資産を非連結の関連事業体に移すことがあ

る。監査人は、記録されていない遡及義務があるかどうか判定するために、

売上取引として会計処理された関連当事者が関わる取引を検証することを

検討する。 経営者又はその他の者からの陳述は、しばしば特定の取引のビジネス上の目

的を理解するために必要となる。そのような陳述は、明らかな誘因やその他

の監査証拠を考慮して評価される。取引について完全な理解を得るために、

一定の状況は、その取引に精通しているその関連当事者、その監査人、又は

法律顧問のような他の当事者との討議の正当な根拠となる。ISA580「経営

者の陳述」は、経営者の陳述の利用に関してさらに詳細な指針を提供してい

る。

99. 受託業務活動 網羅性 監査人は、そのような活動から発生する銀行の利益のすべてが記録され、銀

行の財務諸表で適正に開示されているかどうか検討する。監査人はまた、銀

行が、資産の保護預りを含む、受託者の義務違反から生じた重要な開示され

ていない債務を招いているかどうか検討する。 表示と開示 監査人は、財務報告の枠組みが、財務諸表の注記に受託業務活動の性質と範

囲の開示を要求しているかどうか、並びに要求された開示がなされているか

どうか検討する。

100. (該当する

場合は、会計

方針の表示

を含む)

財務諸表の注記 表示と開示 監査人は、銀行の財務諸表の注記が適用される財務報告の枠組みに準拠して

いるかどうか判定する。 財務諸表に対する報告 101.銀行の財務諸表に対して意見を表明する際に、監査人は以下のことを行う。

・ 法律、規制機関、会計士団体及び産業の実務によって明記された、特定の様式及び

用語に従う。 ・ 銀行がそれに従って報告している財務報告の枠組みに準拠させるように、銀行の連

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IAPS1006 50

結財務諸表に含まれる外国支店及び子会社の勘定に修正がなされたかどうか判定

する。これは、そのような支店及び子会社がある国は数多くあることと、ほとんど

の国では、その国の規則が主として銀行に適用される特別の会計原則を規定してい

る事実から、銀行の場合特に関連がある。これは、支店及び子会社が準拠する会計

原則においては、他の営利企業の場合よりも、より大きな相違をもたらすことがあ

る。 102.銀行の財務諸表は、様々な国で支配的な法律及び規制上の要求事項に従って作成され

るため、会計方針はそのような規則によって影響を受ける。国によっては、銀行のた

めの財務報告の枠組み(銀行業務の枠組み)はその他の事業体のための財務報告の枠

組み(一般的枠組み)と相当異なっている。銀行が両方の枠組みに準拠した一組の財

務諸表を作成するよう要求されたときは、監査人は、その財務諸表が両方の枠組みに

準拠して作成された場合にのみ、完全な無限定意見を表明することができる。その財

務諸表が一つの枠組みにのみ準拠している場合は、監査人は、その枠組みへの準拠に

関しては無限定意見を表明し、その他の枠組みへの準拠に関しては限定付意見又は不

適正意見を表明する。銀行が一般的枠組みではなく銀行業の枠組みに準拠することが

要求されたときは、監査人は、強調事項パラグラフでこの事実に言及する必要性を検

討する。 103.銀行は、多くの場合監査済財務諸表も含む年次報告書に追加の情報を表示する。この

情報は、財務諸表上の開示に加え、しばしば銀行のリスク修正後の資本の詳細、並び

に銀行の健全性に関連する他の情報を含んでいる。ISA720「監査済財務諸表を含む書

類中のその他の情報」は、そのような追加情報に関して実施される手続に関する指針

を提供している。

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IAPS1006 51

付録 1 不正及び違法行為に関するリスクと諸問題 本ステートメントのパラグラフ 26 は、不正に関する一般的な検討事項のいくつかを示して

いる。これらはまた、ISA240「財務諸表の監査において不正及び誤謬を検討する監査人の

責任」の中でさらに詳細に論じられている。ISA240 は、監査人に不正な財務報告か又は資

産の不正流用のどちらかの可能性を示す不正リスク要因が存在しているかどうか検討する

ことを要求している。その ISA の付録1は、一般的な不正リスク要因を示している。本付録

は、銀行に当てはまる不正リスク要因の例を提供している。不正行為又は違法行為のリスク

は、その銀行においてその機関内又は外部者の両方から生じる。銀行が直面することがある

多くの不正行為及び違法行為は、小切手振出しの不正、不正な貸出しやトレーディングの取

決め、マネーロンダリング並びに銀行の資産の不正流用である。不正行為は、銀行の経営者

とそのクライアントによる共謀を伴うことがある。不正行為を行う者は、不適切な取引を正

当化し、違法行為を隠すために、虚偽で人を誤解させる記録を作成することがある。不正な

財務報告はもう一つの重大な関心事である。 さらに、銀行は、コンピュータ不正の脅威に絶えず直面している。コンピュータ・ハッカー

や、銀行のコンピュータ・システム及び情報データベースに未承認のアクセスができるその

他の者は、個人の口座に資金を不正に移し、その金融機関及びその顧客についての秘密の情

報を盗むことができる。また、すべてのビジネスの場合と同様に、銀行内の権限の与えられ

た利用者が犯す不正や犯罪的活動は、特別な関心事である。 不正は、企業統治及び内部統制における重大な欠陥がある銀行で行われることがよりありそ

うである。以下の種類の企業統治及び内部統制の崩壊から重大な損失が生じることがある。 ・ 適切な経営者の監視及び説明責任の不足、並びに銀行内で強固な統制文化を作らないこ

と。重大な損失は、しばしば銀行の統制文化に対する経営者の注意不足及びあいまいさ、

統治責任者及び経営者による不十分な指針と監視、並びに職務と責任の割当てを通じた

明確な経営者の説明責任の不足の結果として生じる。これらの状況はまた、経営者にと

って強固な経営部門の監督を実施し、ビジネス領域内に高い水準の統制の意識を維持す

る適切な動機の不足を伴うことがある。 ・ オンバランスとオフバランスのどちらであるかを問わず、一定の銀行業務に関するリス

クの不適切な認識及び評価。新しい商品のリスク及び活動が適切に評価されず、より単

純な商品についてはうまく機能する統制システムが新しい複雑な商品を取り扱うために

最新のものにされていない場合は、銀行は不正から生じる損失のより大きいリスクにさ

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IAPS1006 52

らされることがある。 ・ 職務の分離、承認、確認、照合、及び業務実績のレビューのような、重要な統制機構及

び活動の欠如又は不足。特に、職務の分離の不十分さは、銀行における重大な損失をも

たらした不正行為において主たる原因となった。 ・ 特に諸問題に関して上に向かう伝達における、銀行内の様々な階層の経営者間の情報の

不十分な伝達。方針及び手続が一つの活動に関与するすべての人に適切に伝達されてい

ない場合は、不正行為を助長することがある環境が作られる。さらに、より高い階層の

経営者の注意を引くべき不適切な活動に関する情報が適切な階層に伝達されない場合は、

その問題が厳しい状況になるまで不正は発見されないままであることがある。 ・ 不適切な又は有効ではない内部監査プログラム及び監視活動。内部監査又はその他の監

視活動が統制の弱点を識別し報告するために十分厳格ではない場合は、銀行において不

正は発見されないままのことがある。監査人によって報告された欠陥を経営者が是正す

ることを確実にするために適切なメカニズムがきちんとしていない場合は、不正は減ら

ないままのことがある。 本付録の以下の表と説明は、不正リスク要因の例を提供している。

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預金の受入れ 自己売買 貸出し 経営者と従業員の

不正 ・ 預金者の偽装 ・ 未記帳の預金 ・ 特に休眠口座から

の顧客の預金又は

投資の窃盗

・ 売買取引取消しの電

話 ・ 関連当事者の売買 ・ 仲介業者のリベート ・ 虚偽の売買取引 ・ 未記帳の取引 ・ 売買取引の配分の遅

れ ・ 一任勘定の乱用 ・ 照合手続における弱

点の乱用 ・ 帳簿に不正な印を付

けること ・ 評価上の共謀(不法な

評価の一味) ・ 担保として保有して

いる物件の窃盗又は

乱用

・ 架空の債務者への

貸出し ・ 名義上の会社の利

用 ・ 預金の変換 ・ 縁故会社との取引 ・ キックバック及び

報奨金 ・ 並列組織体の利用 ・ 資金の変換 ・ 回収した担保物件

を市場価格未満で

売却すること ・ 担保を解消するた

め又は要求する金

額を減らすために

得る賄賂 ・ 担保として保有し

ている物件の窃盗

又は乱用 預金の受入れ 自己売買 貸出し 外部の不正 ・ マネーロンダリン

グ ・ 不正な指示書 ・ 偽造通貨又は小切

手 ・ 取立て中の小切手

の不正な利用(空

小切手の振出し)

・ 不正な保管物の売却 ・ 取引相手に関する虚

偽の情報又は書類

・ 貸出申込書及び後

で提供された書類

に関する偽装又は

虚偽の情報 ・ 担保物件の二重抵

当 ・ 不正な評価(土地

転がし) ・ 偽造されたか又は

無価値の担保物件 ・ 代理人/顧客によ

る貸出資金の横領 ・ 担保物件の未承認

の売却

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IAPS1006 54

預金受入れサイクルに関する不正リスク要因 預金者の偽装 (資金の変換又はマネーロンダリングに関連している可能性のある、預金者の身元を隠すこ

と) ・ 様々な口座にわたる類似の又は同じような名前 ・ 明確ではないビジネスの、又はわずかな詳細しかないオフショア会社の預金者 未記帳の預金 ・ 銀行の一部であるかどうかを問わず、店内にその部分がある他の会社による預金の受入

れの証拠 ・ 銀行のビジネスに関係がないと主張されている経営者のオフィスに保管されている書類、

又はそのような書類に関する責任逃れの回答 顧客の預金又は投資の窃盗 ・ 郵便を送らない取決めのある、銀行とごくたまにしか接触のない顧客 ・ 顧客の苦情の独立した解決又は郵便を送らない口座のレビューがないこと 自己売買の不正リスク要因 売買取引取消しの電話/関連当事者の売買 ・ 自己売買の取引の価格に対する抜打ち検査がないこと ・ 特定の取引相手との異常な水準の活動 仲介業者のキックバック ・ 特定の仲介業者との高水準のビジネス ・ 仲介業者の手数料の異常な傾向 虚偽の売買取引 ・ 相当な数の、取り消された売買取引 ・ 異常に高い量の未決済の取引 未記帳の売買取引 ・ 定まった売買取引戦略に比較して特定のディーラーによる高い水準の利益 ・ 相当な数の合わない取引相手の確認状

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IAPS1006 55

売買取引の配分の遅れ ・ 時刻印のない売買伝票又は記帳時間の検証 ・ 売買取引記録紙の改変又は上書き 一任勘定の乱用 ・ 特定の一任勘定に関する異常な傾向 ・ 取引明細の作成及び発行に関する特別な取決め 帳簿の不正な記録 ・ 詳細な評価方針及び指針がないこと ・ 特定の帳簿の価格の異常な傾向 貸出しサイクルに関する不正リスク要因 架空の債務者への貸出し/縁故会社との取引 ・ おおざっぱで不完全な財務情報、債務者は富裕で疑いなく信用力があるとの貧弱な文書

又は経営者の主張がある「薄い」貸出しファイル ・ 高いと思われる評価、通常容認されている分野以外から利用される鑑定人あるいは数多

くの貸出申込書に関して利用される同じ鑑定人 ・ 債務者が債務不履行になった場合の寛大な猶予又は改訂された条件 預金の変換又は見返り貸出し ある銀行預金が他の銀行によってなされ、それはその預金に質権が設定されている事実を隠

す、最初の銀行の詐欺的なスタッフによって指名された受取人に対する貸出金を保証するた

めに用いられる。 ・ 預金に対する質権(そのような質権が開示されるように特に要請された確認によって発

覚した) ・ 通常のファイルがある場所の外の取締役又は上級管理者によって保有されている文書フ

ァイル、流動性がきつい場合でも絶えず書き換えられているか又は預けられた預金 名義人会社の利用/縁故会社との取引 ・ 密かに覆い隠されている複雑な構造 ・ 一人とだけ接触する、すなわち、スタッフの一人によって独占的に処理されているいく

つかの顧客 ・ 所有権が十分に開示されないか又は複雑な共通の所有権構造を持った有限責任パートナ

ーシップ

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キックバック及び報奨金 ・ 特定の貸出担当者によってもたらされた極端な額の取引 ・ 与信ファイルのデータ又は文書の紛失した、取締役又は貸出担当者による強い推薦 ・ 例えば、文書が完全になる前に資金を提供することのような文書の弱い統制手続の徴候 並列組織体の利用 (共通の取締役/株主による共通の支配を受けている会社) ・ 年度末の直前又は監査の訪問の前の問題貸出の予期しない解決又は年度末に近い予期し

ない新規貸出 ・ 関連組織体との取引形態の変更 資金の変換 (貸出金の返済に見えるようにするための、銀行資金の使用を隠すために用いられる方法) ・ 年度末の直前又は監査の訪問の前に突然契約条件通り履行された貸出金 ・ グループ内の会社又は事業目的が不明確なその関連会社との取引 ・ 債務者の収益の創出及び返済能力の裏付けとなるキャッシュ・フロー分析の不足 貸出申込書に関する偽装又は虚偽の情報/担保物件の二重抵当/詐欺的な評価/偽造され

たか又は無価値の担保物件 ・ 現場の鑑定又は債務者の訪問がないこと ・ 個人の信用証明書を入手することが困難であること、矛盾があるか又は紛失した書類及

び個人の詳細における矛盾 ・ 財産がある地域の外の評価者 ・ 貸主ではなく債務者によって注文され受取られた評価 ・ 先取特権の地位及び優先順位を確証するための先取特権の検証の不足 ・ 貸出金の支払いを保証するために物理的な所有が必要な、担保品(例えば、宝石類、無

記名証券及び芸術品)の物理的管理の不足

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付録2 銀行業務の二つの領域についての内部統制上の検討事項及び実証手続の例 1.以下に列挙されている内部統制及び実証手続は、統制及び実施されるべき手続の包括的

な一覧を表していないし、満たされるべき最低限度の要求も表していない。むしろ、

それらは、監査人が以下の領域を取り扱う際に検討する統制及び手続に関する指針

を提供している。 (a) 資金及びトレーディング業務 (b) 貸出し

資金及びトレーディング業務 序説 2.資金業務は、この文脈では、金融商品の購入、販売、借入れ及び貸出しに関連するすべ

ての活動を表す。金融商品は、有価証券、短期金融市場商品又はデリバティブ金融商品

であることがある。銀行は、通常自分自身の利用のためか(例えば、リスク・エクスポ

ージャーをヘッジするため)又は顧客のニーズに応じるためにそのような取引を行う。

銀行はまた、大小の程度はあれ、トレーディング活動を行う。トレーディングは、期間

にわたって市場価格のパラメータ(例えば、外国為替相場、金利、株式の価格)におけ

る変動から利益を得る意図を持った金融商品(デリバティブを含む)の売買(又は実行

及び決済)と定義されることがある。銀行は、取り扱われる金融商品の特定の種類に基

づくのではなく、それに伴う様々なリスクに基づいて、その資金活動を管理し統制する。

監査人は、通常監査証拠を入手するときに同じアプローチを採用する。IAPS1012 は、

銀行がエンド・ユーザーとして取得したデリバティブの監査上の意味合いに関する指針

を提供している。 内部統制上の検討事項 3.一般的に、資金業務は IT システムによって記録される取引を伴う。もしそのような取

引が信頼性のあるシステムによって処理されるならば、その処理上の誤謬のリスクは通

常低い。したがって、監査人は、固有リスク及び統制リスクの水準を低いと評価する前

に、主要な処理の統制及び手続が有効に働いているかどうかをテストする。資金業務の

環境における典型的な統制手続は以下に列挙されている。これらは、銀行のビジネス・

リスクを取り扱う統制手続を含むが、監査リスクを取り扱い、固有リスク及び統制リス

クの水準を評価するために監査人によってテストされる統制手続を必ずしも表さない。 典型的な統制に関する質問

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戦略的統制 4.統治責任者は以下のことを説明する銀行の資金取引のための正式な方針を確立している

か? ・ 理想的には商品又はリスクのグループによって分類された、承認された活動及び銀

行が自己のためか又は第三者のために売買することができる商品 ・ 地方市場又は取引所市場に対する店頭市場“OTC” ・ リスクを測定、分析、監督そして統制するための手続 ・ 受入れ可能とみなされるリスクを考慮した後の、容認されるリスク局面の程度 ・ 適切な限度及び定められた限度超過を対象とする手続 ・ 文書化を含む、新しい商品又は活動が導入される前に遵守されなければならない手

続 ・ 統治責任者に対する報告書の種類と頻度 ・ その方針が見直され、最新のものにされそして承認されるスケジュールと頻度

事務上の統制 5.フロントオフィスとバックオフィスとの間の適切な職務の分離があるか? 6.以下の活動は、フロントオフィス/ビジネス単位から独立して行われているか?

・ 売買の確認 ・ 持ち高及び結果の記録及び照合 ・ 売買の評価又は市場価格の独立した検証 ・ 売買の決済

7.売買伝票は連番が付されているか(自動的に作成されないとしても)? 8.銀行は、ディーラーのための以下の事項を取り扱う行為規定を持っているか?

・ ディーラーが自分自身の口座のために売買するのを禁止すること ・ 贈り物の受取り及び接待活動を制限すること ・ 顧客情報の機密保持 ・ 承認された取引相手の特定 ・ 経営者によるディーラーの活動のレビューのための手続

9.報酬の方針は、過度のリスクの引受けを促進することを回避するように組み立てられて

いるか?

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10.新しい商品は、適切な承認が得られ、適切な手続及びリスク管理システムが設けられた

後ではじめて導入されているか? 限度及びトレーディング活動 11.銀行は、銀行全体、ビジネス単位及び個々のディーラーのための市場リスク、信用リス

ク及び流動性リスクを管理するために適切な包括的セットの限度を持っているか?い

くつかの一般に用いられる限度は、標準物又は数量の限度(通貨又は取引相手毎)、損

切り限度、運用・調達の期間及び金額の差の限度、決済限度及びバリュー・アット・リ

スク限度(市場リスク及び信用リスクの両方について)である。 12.限度は、銀行全体の限度と一貫してリスクに配分されているか? 13.すべてのディーラーは、その限度及びそれの利用を知っているか?すべての新しい取引

は、直ちに利用可能な限度を下げるか? 14.限度超過を対象とする手続が設けられているか? リスク管理及び測定 15.リスクを測定、監視そして統制するための独立したリスク管理機能(時にはミドルオフ

ィスと呼ばれる)はあるか?それは、統治責任者及び上級管理者に直接報告している

か? 16.トレーディング活動から生じるリスクを測定するためにどのような方法が用いられるか

(例えば、持ち高限度、感応度限度、バリュー・アット・リスクなど)? 17.資金活動の量、複雑さ及びリスクを扱うために、リスク統制及び管理システムは適切に

備えられているか? 18.リスク測定システムはすべてのポートフォリオ、すべての商品及びすべてのリスクを対

象としているか? 19.リスク測定システムのすべての要素(技法、計算、パラメータ)について適切な文書が

備えられているか? 20.活発な自己売買業務については少なくとも毎日、すべてのトレーディング・ポートフォ

リオは再評価され、リスク・エクスポージャーは定期的に計算されているか?

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IAPS1006 60

21.リスクを測定し、変えられたパラメータなどを考慮するために定期的に評価され、文書

化され、そして継続的に最新のものにされたエクスポージャーを制限するためにリスク

管理モデル、技法及び仮定が用いられているか? 22.緊迫した状況が分析され、「最悪のケース」(価格又はボラティリティーの異常な変動、

市場の流動性又は主な取引相手の債務不履行のような不利な市場の事象を考慮した)の

予想される展開が実施されテストされているか? 23.経営者は、適時で意味のある報告書を受取っているか? 確認 24.銀行は、以下について使用される文書化された手続を持っているか?

・ ディーラーによって行われたすべての売買について、連番の付された取引相手への

外部確認状の独立した発送 ・ すべての返送された確認状の独立した受取り及びそれと内部の売買伝票の連番を

付された控えとの突合せ ・ 返送された確認状の署名と見本の署名との独立した比較 ・ 返送用の確認状が受け取られていないすべての取引についての独立した確認 ・ 受け取られた確認状に記載された不一致の独立した追跡

取引の決済 25.決済の指図書は、受取り及び発送の確認状の使用によって取引相手と文書によって交換

されているか? 26.決済の指示書は契約書と比べられているか? 27.決済は、取引の開始及び記録から独立した適切な承認された従業員によってのみなされ、

それはまた、承認された書面による指示書に基づいてなされているか? 28.すべての予定された決済(受取り及び支払い)は、支払いを受ける二重の要請及び支払

いを受けられないことが即時に発見され追及されるように、文書によって決済部門に通

知されているか? 29.会計記帳は、未完了の契約の記帳を行うか又は現金取扱機能を果たす者以外の事務職員

によって証拠書類から行われるかあるいは証拠書類と照合されているか?

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IAPS1006 61

記録 30.限度超過、一人のトレーダー、一つの顧客又は取引相手毎の売買量の突然の増加、異常

な契約レートでの取引などについて例外報告書が作られているか?その報告書は、ディ

ーラーから独立して即時に監視されているか? 31.銀行は、以下のことを要求する文書による手続を持っているか?

・ 使用済み及び未使用の売買伝票の連番調べ ・ 拒絶された取引を識別し是正するための手続を含む、すべての取引から独立した者

による会計記録への即時の記帳 ・ ディーラーの持ち高及び利益の会計記録との毎日の照合並びにすべての差異の即

時の調査 ・ 上記の限度の監視を可能にするのに適切な詳細さでの経営者に対する定期的報告

32.すべての当行勘定(nostro)及び先方勘定(vostro)との照合は、頻繁に、かつ決済機能から

独立した従業員によって実施されているか? 33.仮勘定は定期的に検査されているか? 34.例えば、以下のような商品の様々な種類について、現物、先物、純未決済及び全体的な

持ち高を示す報告書を作成するのを可能にする会計システムを持っているか?

・ 購入及び売却毎、通貨毎 ・ 満期日毎、通貨毎 ・ 取引相手毎、通貨毎

35.未決済の持ち高は定期的に(例えば、毎日)相場レート又は独立した情報源から直接得

られたレートに基づいて現在の価格に再評価されているか? 全般的監査手続 36.一定の監査手続が、資金活動が行われている環境に対して適用される。この環境を理解

するために、監査人は最初に以下の理解を得る。

・ 資金活動の規模、量、複雑さ及びリスク ・ 銀行の他のビジネスと比較した資金活動の重要性

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IAPS1006 62

・ 資金活動が行われる枠組み ・ 資金活動の組織的な統合

37.ひとたび監査人がこの理解を得て、内部統制のテストを実施し、納得のいく結果を得ら

れたならば、監査人は通常以下の事項を評価する。

・ 売買伝票及び確認伝票に照会することによる、その年度中に行われた取引並びに関

連する損益の記録の正確さ、 ・ 年度末における取引の網羅性及び未決済の持ち高に関する、フロントオフィスと会

計システムとの適切な照合、 ・ 期中の日付又は年度末における第三者への確認による未決済の持ち高の存在、 ・ 未実現損益を計算するために年度末に用いられる為替相場、金利又は基礎となる市

場レートの適切性、 ・ 年度末に未決済である金融商品の公正価値を決定するために用いられた評価モデ

ル及び仮定の適切性、 ・ 特に収益の認識並びにヘッジ対象金融商品とトレーディング金融商品との区別に

関して用いられる会計方針の適切性。 38.高まった監査リスクを一般に引き起こす資金業務の関連する側面は、以下で取り扱われ

ている。 商品又は活動の変動 39.新しい商品又は活動が導入された場合は、特定のリスクが生じる。そのようなリスクを

取り扱うために、監査人は、最初これらのケースに関してあらかじめ定められた手続が

設けられていることを確かめようとする。一般的に、統制システムを通じて新しい取引

の円滑な流れが確証され、関連する IT システムが十分に備えられ(又は適切な暫定シ

ステムが備えられる場合)、そして関連する手続が適切に文書化される場合にのみ、銀

行はそのような活動を始めるのでなければならない。新しく売買された金融商品は、最

初にその年度中に導入された新しい商品のすべての一覧表(又は取引されたすべての商

品の完全な一覧表)を入手した監査人による注意深い検証を受ける。この情報に基づい

て、監査人はそれに伴うリスク概要を作り、内部統制及び会計システムの信頼性を確認

しようとする。 コンピュータの専門家への依拠 40.取引の量のために、ほとんどすべての銀行は IT システムを利用して資金取引サイクル

を支えている。利用するシステム及びそれに伴う手続の複雑さのために、監査人は、通

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IAPS1006 63

常システム及び関連する勘定残高のテストにおいて適切な技能及び知識を提供する ITの専門家の補助を求める。

取引が行われる目的 41.監査人は、銀行が金融商品の投機的持ち高を保有しているか、又は他の取引に対して金

融商品をヘッジしているのか検討する。そのような取引を行う目的は、ヘッジとトレー

ディングのいずれを問わず、正しい会計上の扱いが適用されるために売買の段階で識別

されなければならない。取引がヘッジ目的で行われる場合は、監査人は、適切な会計上

の要求事項に準拠して、そのような取引及び対となる資産/負債の適切な会計上の取扱

い及び開示を検討する。 評価手続 42.オフ・バランスシート金融商品は、ヘッジ目的で利用される商品を除き、通常市場価格

又は公正価値で評価される。それらは、多くの財務報告の枠組みでは、ヘッジ対象の原

項目と同じ基準で評価される。ある金融商品について市場価格が容易に入手可能ではな

い場合は、公正価値を決定するために銀行産業で広く用いられている金融モデルが用い

られることがある。未決済の持ち高の想定金額の開示に加え、国によっては、生じる潜

在的なリスク、例えば、信用リスクと同等のリスク及びそのような未決済金融商品の取

替価格の開示を要求している。 43.監査人は、通常その運用を取り囲む統制手続を含む、評価モデルをテストし、そして個々

の契約、評価レート及び仮定の詳細がそのようなモデルに適切に入っているかどうか検

討する。これらの金融商品の多くがほんの最近になって開発されたため、監査人は、そ

の評価に注意を払い、その際に以下の要素を心に留めておく。

・ 原契約の条件に関して法的な前例がないことがある。これは、それらの条件の強制

力を評価することを困難にさせる。 ・ これらの金融商品の固有リスクに精通している管理者の数は比較的少ないことが

ある。これは、虚偽表示の発生するより高いリスク並びに虚偽表示を防止するか、

又は適時に発見し是正する統制手続を確立するうえでより大きな困難さをもたら

す。 ・ これらの金融商品によっては、全経済循環(強気市場と弱気市場、高金利と低金利、

多い取引と少ない取引そして価格のボラティリティー)を通じて存在しなかったた

め、より確立された金融商品と同じ確かさの程度を持ってその価値を評価すること

はより困難なことがある。同様に、銀行がその持ち高をヘッジするために用いてい

る他の相殺する金融商品の価格の相関関係を十分な程度の確かさをもって予測す

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ることは困難なことがある。 ・ そのような金融商品を評価するために用いられるモデルは、異常な市場の状況では

適切に働かないことがある。 44.さらに、監査人は、流動性リスク、モデル化リスク引当金及び事務リスク引当金のよう

な、金融商品に対する引当金の必要性、及びその適切性を検討する。一定の金融商品の

複雑さは専門家の知識を必要とする。監査人が必要な監査手続を実施するための職業専

門家の能力を持っていない場合は、適切な専門家の助言が求められる。 45.監査人にとって特別な関心事のさらなる問題は、支配的な市場レート以外のレートで行

われる取引である。これらはしばしば隠れた損失又は不正行為のリスクを伴う。その結

果、銀行は、通常市場の状況に合わない取引を発見することができる仕組みを提供する。

監査人は、この任務を果たす機能の信頼性に関する十分で適格な監査証拠を入手する。

監査人はまた、識別された取引のサンプルを検証することを検討する。 貸出金 序説 46.銀行監督に関するバーゼル委員会によって公表された、諮問文書「信用リスクの管理原

則」によれば、信用リスクは、銀行の債務者又は取引相手が合意された条件に従ってそ

の義務を果たすことができない可能性である、と最も簡潔に定義されている。 47.貸出金は、ほとんどの銀行にとって信用リスクの主たる原因である。なぜならば、それ

らは、通常銀行の最も重要な資産であり、そして収益の最も大きい部分を生み出すから

である。貸出しを行う際のもっとも重要な要素は、貸出しプロセスに伴う信用リスクの

金額である。個々の貸出しに関しては、信用リスクは債務者の支払う能力及び意欲に関

連する。貸出しの他に、信用リスクのその他の原因は、手形引受け、銀行間取引、貿易

金融、外国為替取引、金融先物取引、スワップ、債券、株式、オプション、並びにコミ

ットメントや保証及び取引の決済の猶予を含んでいる。 48.信用リスクは、重大な銀行業務の問題の主な原因を表しており、債務者及び取引相手に

関するあいまいな与信基準、能力のある貸出しの専門家の不足、欠陥のあるポートフォ

リオ・リスク管理、並びに銀行の取引相手の信用状況の悪化をもたらすことがある経済

的又はその他の状況における変動に対する注意不足に直接関連している。有効な信用リ

スク管理は、リスク管理に対する包括的なアプローチの重要な構成要素であり、銀行業

組織体の長期的な成功にとって欠くことのできないものである。信用リスクを管理する

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際に、銀行は、個々の信用又は取引及び資産ポートフォリオ全体における固有のリスク

の水準を検討しなければならない。銀行はまた、信用リスクと他のリスクとの間のリス

クを分析する必要がある。 典型的な統制に関する質問 49.信用リスクは、債務者の特質及びエクスポージャーの性質から生じる。信用力、業務を

行う国及び債務者のビジネスの性質は、信用リスクの程度に影響する。同様に、信用リ

スクは、そのエクスポージャーについての目的及び担保によって影響を受ける。 50.与信機能は便宜的に以下の区分に分けられる。

・ 創出及び貸出実行、 ・ 監視、 ・ 回収、 ・ 定期的レビュー及び評価。

創出及び貸出し実行 51.銀行は、債務者の財務諸表、貸出金の返済及び資金の予定された使用を含む、完全で情

報量の多い貸出申込書を入手しているか? 52.銀行は、貸出申込書を評価する際に使用されるべき規準(例えば、インタレスト・カバ

レッジ、利ざやの要求事項、負債資本比率)に関する文書による指針を持っているか? 53.銀行は、将来の債務者に関して実施された信用調査報告書又は独立の調査書を入手して

いるか? 54.銀行は、関連当事者貸出が識別されることを確実にするために用いられる手続を持って

いるか? 55.貸出しのサービシングや返済の予測される源泉を含む、顧客の信用情報に関する適切な

分析はあるか? 56.貸出担当者の専門的知識に基づいた貸出承認の限度はあるか? 57.規定された限度を超過する貸出しについて必要とされる、適切な貸出委員会又は取締役

会の承認はあるか?

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58.貸出承認機能と貸出実行、監視、回収及びレビュー機能との間で職務の適切な分離はあ

るか? 59.貸出金の担保物件の所有権及び担保権の優先順位は確認されるか? 60.銀行は、貸出金を返済する義務の証拠として債務者が法的に強制できる文書に署名する

ことを確認しているか? 61.保証は、それが法的に強制力があることを確実にするために検証されるか? 62.貸出申込書の裏付けとなる文書は、貸出担当者から独立した従業員によってレビューさ

れ、そして承認されるか? 63.担保物件の適切な登記を確実にする統制(例えば、留置権の政府機関への登録)はある

か? 64.手形、担保物件及び裏付書類の適切な物理的保護はあるか? 65.貸出実行は即時に記帳されることを確実にする統制はあるか? 66.可能な範囲で、貸出資金が債務者によって予定された目的のために使用されることを確

実にするための統制はあるか? 監視 67.貸出取引を処理又は記録しない従業員によって試算表が作成され、統制勘定と照合され

ているか? 68.元本又は利息の支払が延滞している貸出金に関して適時に報告書が作成されているか? 69.これらの報告書は貸出機能から独立した従業員によってレビューされているか? 70.債務者による貸出しに伴う制限(例えば、誓約条項)や銀行に対する情報提出の要求事

項の遵守を監視するために用いられる手続はあるか? 71.担保物件の価値の定期的な再評価を要求する手続が設けられているか?

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72.債務者の財政状態及び経営成績が定期的にレビューされるのを確実にするための手続が

設けられているか? 73.抵当物件の登記の更新のような重要な管理上の日付は、それらが到来したら正しく記録

され、それに従うことを確実にする手続が設けられているか? 回収 74.元本及び利息の回収の記録並びに貸出金勘定残高は、信用供与機能から独立した従業員

によって維持されているか? 75.滞っている貸出金は適時に支払を請求するために追跡されることを確実にするための統

制はあるか? 76.未回収の元本及び利息を抵当権実行又は取戻しのような法的手続によって回収するため

の銀行の方針を定義する文書による手続は設けられているか? 77.信用供与機能及び貸出しを記録する機能から独立した従業員による債務者との直接の文

書での通信による貸出金残高の定期的な確認、並びに報告された差異の独立した調査を

規定する手続は設けられているか? 定期的レビュー及び評価 78.以下を含む、すべての貸出金の独立したレビューのための手続が設けられているか?

・ 上記の手続を監視した結果のレビュー、 ・ 債務者に影響を与える地理的及び産業の部門に関連した現在の問題のレビュー。

79.以下の事項のための規準を確立するために有効な、適切な文書による方針はあるか?

・ 貸倒引当金の設定 ・ 利息計上の停止(又は相殺する引当金の設定) ・ 貸倒引当金設定のための見返り担保物件の評価 ・ 以前に設定された引当金の戻入れ ・ 利息計上の復活 ・ 貸出金の償却

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80.すべての必要とされる引当金は適時に会計記録に記帳されることを確実にする手続は設

けられているか? 全般的監査手続 81.以下の監査手続は、監査人が、銀行が確立した業務基準及びプロセスのことを知り、信

用リスク管理に関する統制手続が適切であるかどうか検討することを可能にすること

が意図されている。 計画 82.監査人は、銀行の信用リスクを統制する方法についての知識及び理解を得る。これは、

以下のような事項を含んでいる。

・ すべての縁故会社への貸出しが識別され合計されていることを確実にするための

銀行のエクスポージャー監視プロセス、及びそのシステム、 ・ 銀行のエクスポージャーの担保物件の価値を鑑定すること並びに潜在的及び顕在

した損失を区別することのための方法、 ・ 銀行の貸出実務及び顧客基盤。

83.監査人は、エクスポージャーのレビュー・プログラムが貸出機能からの独立を確実にし

ているかどうかを、その頻度がポートフォリオ及び全般的経済の状況における発生して

いる傾向に関して適時な情報を提供するために十分であるかを含め、検討し、そしてそ

の頻度が識別された問題の与信に対して増加しているかどうか検討する。 84.監査人は、与信レビュー機能に関わる者の資質を検討する。銀行産業は急速に変化して

おり、根本的に、資質のある貸出しの専門的技術の不足を生み出している。監査人は、

与信レビューを行う者が貸出活動を管理し評価するために必要な知識及び技能を持っ

ているかどうか検討する。 85.監査人は、以前にもたらされた情報を通じて、システム内に存在する問題又は弱点の原

因を検討する。監査人は、これらの問題又は弱点が将来の問題の可能性を表しているか

どうか検討する。 86.監査人は、管理報告書を検証し、それがリスク要因を評価するために十分に詳細である

どうか検討する。 87.関連当事者への貸出取引の定義及び監査は難しいことを知るべきである。なぜならば、

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関連会社との取引は容易に識別できないからである。すべての関連当事者及び関連当事

者間取引を識別するためには主として経営者に依拠することになるため、そのような取

引は銀行の内部統制システムによって容易に発見されないことがある。 統制のテスト 88.監査人は、銀行の信用リスクを統制する方法についての知識及び理解を得る。これは、

以下のような事項を含んでいる。

・ エクスポージャー・ポートフォリオ及びそのエクスポージャーの様々な特徴 ・ 銀行によって用いられているエクスポージャーの文書化 ・ 異なった種類のエクスポージャーに関する適切なエクスポージャーの文書化を構

成するもの ・ エクスポージャーを与えることに関する銀行の手続及び権限の階層

89.監査人は貸出方針をレビューし、以下の事項を検討する。

・ 方針は、それが変化している市場の状況及び銀行の新しいビジネスの種類にそって

いることを確実にするために定期的にレビューされ最新のものされているかどう

か ・ 統治責任者はその方針を承認しているかどうか、並びに銀行はそれを遵守している

かどうか 90.監査人は、与信ファイルのメモ及び年間計画又はエクスポージャーのレビュー計画を含

む、エクスポージャーのレビュー報告システムを検証し、それが完全で、正確で適時で

あるかどうか、並びにそれが、経営者がリスクを識別し統制することを可能にするよう

に十分な情報を提供しているかどうか検討する。報告書は以下を含んでいるか?

・ 問題のある与信が何であるか ・ ポートフォリオ・リスクに関する最新の情報 ・ ポートフォリオ及び貸出しの領域における発生している傾向に関する情報

91.監査人は、以下を含む、エクスポージャーのレビューの範囲の性質及び程度を検討する。

・ エクスポージャーの選択の方法 ・ 以下を含む、エクスポージャーがレビューされる方法 支払能力を示す債務者の最新の財政状態の分析

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文書化の例外事項、方針の例外事項、内部手続の不遵守、及び法令及び規制の違反につ

いてのテスト 92.監査人は、以下を検証することによって、与信管理の有効性及びポートフォリオ管理を

検討する。

・ 経営者の回答を引き出すような方法での経営者の全般的貸出哲学 ・ 最新のかつ完全な財務情報及び返済能力の分析に裏付けられていない与信の影響 ・ エクスポージャー及び担保物件の文書化が不完全な与信の影響 ・ 例えば、返済計画がエクスポージャー目的と合わない場合の、不適切に仕組まれた

エクスポージャーの量 ・ 分類され問題となった与信の集中を含む、与信の集中の量及び性質 ・ 質の低い与信の他の関連事業所への又はそこからの振替えの適切性 ・ 報告書の正確性及び完全性 ・ 上級管理者、エクスポージャー担当者及び与信管理者の能力

実証手続 93.監査人は、抽出したエクスポージャー・ファイルを通じて、銀行自身の信用エクスポー

ジャー問題についての経営者の知識の程度を検討する。抽出の規準は以下のとおりであ

る。

・ 特定の金額と等しいかそれより大きい未決済残高の口座 ・ 特定の金額を超過した未決済残高である「要注意先リスト」の口座 ・ 特定の金額を超過した引当金のある口座 ・ 銀行の問題又はより高いリスクの口座を管理する部門によって扱われる口座 ・ 特定の金額より大きい金額の元本又は利息が特定の期間より長く延滞している口

座 ・ 未決済の金額が承認された信用供与限度を超過している口座 ・ 監査人自身の一般的な経済の知識によれば、リスクの可能性のある産業又は国で業

務を行っている事業体の口座 ・ 銀行規制機関によって特定された問題の口座及び過年度に抽出された問題の口座 ・ 銀行間取引における他の金融機関に対するエクスポージャーの程度

94.さらに、銀行の職員が取引先に関してグループ化された特定の規模を超えるすべてのエ

クスポージャーの特徴を要約するよう要請されている場合は、監査人はその要約を検証

する。以下の特徴のあるエクスポージャーは、より詳細な検証の必要性を示すことがあ

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る。

・ 最近の事業年度における多額の営業損失 ・ 持続する営業損失(例えば、2以上の事業年度) ・ 高い負債/資本比率(例えば、2:1-比率は産業によって異なる-を超える) ・ 財務制限条項の不遵守 ・ 修正された監査報告書 ・ 最新のものでないか又は完全ではない提供された情報 ・ かなりの部分が無担保であるか又はほとんど保証によって担保されている貸出し ・ レビューが銀行経営者によって適時に実施されていない口座

95.監査人は、詳細な検証のために上記のエクスポージャー一覧から上記のサンプル抽出規

準を用いてエクスポージャーを抽出し、エクスポージャーの回収可能性を検討するため

に必要な文書を入手する。それらは以下を含んでいる。

・ エクスポージャー及び担保ファイル ・ 延滞一覧又は報告書 ・ 活動の要約 ・ 過年度の延滞口座一覧 ・ 非流動エクスポージャー報告書 ・ 債務者の財務諸表 ・ 担保物件の評価報告書

96.監査人は、エクスポージャーの文書ファイルを用いて、以下のことを実施する。

・ エクスポージャーの種類、金利、弁済期限、返済方法、担保及びエクスポージャー

の目的を確かめる。 ・ 担保に関する文書は、適切な場合に登記の証拠を提供しているかどうか、並びに銀

行は担保の法的強制力について適切な法律に関する助言を受けたことを検討する。 ・ エクスポージャーを担保するための担保の公正価値は適切であると見えるかどう

か(特に引当金が必要かもしれないエクスポージャーについて)並びに、該当する

場合は、担保は適切に付保されていることを検討する。鑑定人の方法及び仮定を含

め、担保物件の鑑定を批判的に評価する。 ・ エクスポージャーの回収可能性を評価し、その口座に対する引当金の必要性を検討

する。 ・ 銀行内の適切な権限の階層がエクスポージャーの申請又は借換えを承認したかど

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うかを判定する。 ・ 債務者の財務諸表を定期的に検証し、重要な勘定及び経営比率(すなわち、運転資

本、利益、株主持分及び負債資本比率)に注意する。 ・ エクスポージャーのレビュー・ファイルに含まれているメモや通信文書を検証する。

銀行のスタッフによって実施されたレビューの頻度に注意し、それが銀行の指針の

範囲内であるかどうか検討する。 97.監査人は、以下を含め、問題エクスポージャー及び要チェック・エクスポージャーのた

めの方針及び手続が存在しているかどうか検討する。

・ 個々の問題与信の定期的レビュー ・ 担保物件の価値や留置権の状況を最新のものにすること、文書のレビュー、当局宛

報告書に関する要求事項を含む、エクスポージャーを回収または強化するための指

針 ・ 期日経過又は利息不計上の与信の量及び傾向 ・ 問題エクスポージャーを処理する、資質のある担当者 ・ 問題エクスポージャーのための適切な会計処理に関する指針、例えば、利息不計上

の方針、特定の引当金の方針 98.個々のエクスポージャーに対する引当金の適切性を評価することに加え、監査人は、特

定の種類又は分類のエクスポージャー(例えば、クレジットカード・エクスポージャー

やカントリーリスク・エクスポージャー)に対して追加的引当金が設定される必要があ

るかどうか検討し、銀行が経営者との討議を通じて設定している引当金の適切性を評価

する。

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付録3 銀行の財政状態及び成績の分析において一般に用いられる財務情報、比率及び指標の例示 銀行の財政状態及び経営実績を分析するために用いられる多くの財務比率がある。これらの

比率は国々の間及び銀行間で幾分異なっているが、その基本的目的は依然として同じままで

ある。すなわち、過年度、予算及び他の銀行と比較した経営実績の尺度を提供することであ

る。監査人は、自分が十分な情報を持っているか又は入手するかもしれない、他の銀行が達

成した同様の比率の状況から、ある銀行が入手した比率を検討する。 その比率は一般的に以下の種類に分けられる。 ・ 資産の質 ・ 流動性 ・ 利益 ・ 適正資本量 ・ 市場リスク ・ 資金調達リスク 以下に述べられているのは、監査人が直面することがありそうな全般的な比率である。銀行

並びにその様々な種類の資産・負債、部門及び市場セグメントの財政状態及び経営実績の分

析に役立たせるために、通常多くのその他のより詳細な比率が経営者によって作られる。 (a) 資産の質を表す比率

・ 総貸出金に対する貸倒れ ・ 総貸出金に対する延滞貸出金 ・ 延滞貸出金に対する貸倒引当金 ・ 貸倒れに対する利益の負担能力 ・ 総収益に対する引当金の増加 ・ 規模、信用リスクの集中、引当計上

(b) 流動性比率

・ 総資産に対する現金及び流動性のある有価証券(例えば、30 日以内に満期の到来

する有価証券) ・ 総資産に対する現金、流動性のある有価証券及び高い市場性のある有価証券 ・ 総資産に対する銀行間及び短期金融市場預金負債

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(c) 利益比率 ・ 平均総資産利益率 ・ 平均自己資本利益率 ・ 平均総資産及び平均利益創出資産のパーセンテージとしての純利ざや ・ 平均有利子資産のパーセンテージとしての受取利息 ・ 平均有利子負債のパーセンテージとしての支払利息 ・ 平均コミットメントのパーセンテージとしての非利息収益 ・ 平均総資産のパーセンテージとしての非利息収益 ・ 平均総資産のパーセンテージとしての非利息費用 ・ 平均業務収益のパーセンテージとしての非利息費用

(d) 適正資本量比率

・ 総資産に対するパーセンテージとしての自己資本 ・ リスク・ウェイトを掛けた資産のパーセンテージとしての Tier1資産 ・ リスク・ウェイトを掛けた資産のパーセンテージとしての総資本

(e) 市場リスク

・ 特別な産業又は地理的領域のリスクの集中 ・ バリュー・アット・リスク ・ ギャップ(ALM における金利感応度-訳注)及びデュレーション(債券の存続期

間を各時点のキャッシュ・フローの現在価値の加重平均で表したもの-訳注)分析

(基本的には満期構成分析及び銀行の利益又は自己資金に対する金利の変動の影

響) ・ 債務の相対的規模 ・ 銀行の利益又は自己資金に対する金利の変動の影響

(f) 資金調達リスク ・ 総資金調達(クライアント・プラス銀行間)に対するクライアントからの資金調達 ・ 満期 ・ 平均借入金利

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付録 4 証券引受及び証券売買受託におけるリスク及び諸問題 証券引受 多くの銀行は、公募証券の引受け又は証券の私募における補助のような金融サービスを提供

している。これらの活動に従事する銀行は、監査上の影響がある相当なリスクにさらされる

ことがある。これらの活動及びそれに伴うリスクは極めて複雑であり、そのような事項の専

門家に相談することが検討される。 募集の構造に加え、引き受けられる証券の種類は証券引受活動に存在するリスクに影響を与

える。証券の募集がどのように仕組まれているかによって、引受けは、募集されている証券

の一部を購入することが要求されることがある。これは、未販売の部分の資金を調達する必

要性を生じさせ、事業体をその所有による市場リスクにさらす。 証券募集が行われるところの司法権によって引き起こされる法的リスク及び規制リスクの

重要な要素もある。法的リスク及び規制リスクの領域の例として、証券届出書又は募集明細

書に含まれる虚偽表示、並びに流通及び公募における売買を統治するその国の規則に対する

引受人のエクスポージャーが含まれる。インサイダー売買及び経営者又は銀行の職員による

市場操作から生じるリスクもまたそれに含まれる。私募は通常代理の原則で行われ、したが

って証券の公募に伴うリスクより低いリスクとなる。しかし、監査人は私募を対象とするそ

の国の規則を検討する。 証券売買受託 多くの銀行はまた、顧客の証券取引を促進することを含む証券売買受託に関わっている。証

券引受の場合と同様に、そのような活動(仲介業者、自己売買業者、あるいはその両方とし

て)に従事する銀行は、監査上の影響がある相当なリスクにさらされることがある。これら

の活動及びそれに伴うリスクは極めて複雑であり、そのような事項の専門家に相談すること

が検討される。 顧客に提供されるサービスの種類及びそのために用いられる方法は、証券売買受託に存在す

るリスクの種類及び程度を決定する。銀行がビジネスを行っている証券取引所及びその顧客

のために実行している取引の数もまた、リスクの概要に影響を与える。しばしば提供される

一つのサービスは、信用取引で証券を購入した顧客への与信の提供であり、それは銀行に対

する信用リスクという結果となる。その他のよくあるサービスは、顧客が所有する証券の保

管人として行動することである。事業体はまた、証券売買受託業務の資金調達に伴う流動性

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リスクにもさらされている。その関連する監査リスク要因は付録 5「資産管理におけるリス

クと問題」に述べられているリスク要因と似ている。 証券売買受託が行われるところの司法権によって引き起こされる法的リスク及び規制リス

クの重要な要素もある。これは、銀行による当局への報告、規制当局に対する監査人による

直接の報告書に関して、並びに銀行による規則違反の場合に発生するかもしれない評判リス

ク及び財務リスクの観点からも考慮される。

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付録 5 個人銀行業務及び資産管理におけるリスク及び諸問題 個人銀行業務 個人、典型的には多額の正味資産を持っている人に対する高級なレベルの銀行業務の提供は、

一般的に個人銀行業務として知られている。そのような個人は、しばしば銀行のある国と異

なった国に定住していることがある。個人銀行業務活動を監査する前に、監査人はこれらの

活動に対する基本的な統制活動を理解する。監査人は、そのクライアントである人の個人的

及びビジネスの背景、富裕の源泉、及び個人銀行取引口座の使用についての不十分な知識及

び理解に伴うことがある潜在的な評判リスク及び法的リスクを認識し、管理する事業体の能

力の程度を検討する。監査人は、以下の事項を検討する。 ・ 経営者が個人銀行業務活動に対して監視をしているかどうかは、適切な会社文化を作る

ことを含んでいる。さらに、高い階層の経営者が目標を設定し、上級経営者は会社の方

針及び手続の遵守を積極的に求めなければならない。 ・ 個人銀行業務活動に対する方針及び手続は書面でなければならず、事業体の顧客に関し

て適切な知識があることを確実にするための十分な指針を含まなければならない。例え

ば、その方針及び手続は、事業体がそのクライアントに関する ID 及び基本的背景とな

る情報を入手することを要求し、クライアントの富裕の源泉及び営業種目を記述し、人

物証明書を要請し、紹介状を処理し、疑わしい取引を識別しなければならない。事業体

はまた、とりわけ、現金担保による貸出しのような、マネーロンダリングに関連する問

題を取り扱う適切な与信の方針及び手続書を持たなければならない。 ・ リスク管理の実務及び監視システムは、クライアントに関連する文書の入手と維持に重

点を置き、そして顧客又はその代表者から提供された情報を確証又は裏付けることが必

要な場合は、追跡調査の情報を入手する際の十分な注意に重点を置かなければならない。

健全な個人銀行業務に固有のものは、顧客の ID の要求事項を遵守する必要性である。

情報システムは、事業体の個人銀行業務活動のすべての側面を監視することができなけ

ればならない。これらは、経営者が個人銀行業務を分析し、有効に管理するために必要

となる適時な情報を経営者に提供するシステム、並びに疑わしい取引について口座を監

視し、規則又は法によって要求されるとおりにそのような事例を法執行機関や銀行業監

督当局に報告することを可能にするシステムを含んでいる。 監査人は、実証手続の種類、実施時期及び範囲を決定するとき、個人銀行業務活動に関連す

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る固有リスク及び統制リスクの評価されたレベルを検討する。以下の一覧は、実施すべき実

証手続の種類、実施時期及び範囲を決定するときに検討するための一般的な監査リスク要因

の多くを特定している。個人銀行業務はしばしば資産管理活動を伴うため、資産管理活動に

伴う監査リスク要因もまた、以下に含まれている。 ・ 規制上の要求事項の遵守。個人銀行業務は、多くの国では非常に規制されている。これ

は、銀行による当局への報告、規制当局に対する監査人による直接の報告書に関して、

並びに銀行による規則違反の場合に発生するかもしれない評判リスク及び財務リスクの

観点からも考慮される。また、個人銀行業務活動は、銀行のマネーロンダリングの影響

の受けやすさを増加させ、したがって、監査上の影響がある事務リスク、規制リスク、

及び評判リスクを増加させたかもしれない。 ・ 機密保持。これは、一般に個人銀行業務の特徴である。ほとんどの国が銀行/クライン

トの関係を許している通常の秘密厳守に加え、個人銀行業務が一般的である多くの管轄

区は、追加的な銀行業務の秘密厳守に関する法律を持っている。その法律は、その管轄

区自身又は他の管轄区からの、規制当局、税務当局あるいは警察当局のクライアントの

情報へアクセスできる能力を低くすることがある。銀行は、銀行の個人クライアントの

名前に対する監査人のアクセスに対して制限を課そうとすることがある。そのことは、

監査人の関連当事者間取引を識別する能力に影響を与える。関連する問題は、銀行は、

クライアントから口座明細票を含む、通信物を送らないように要請されること(「郵便停

止口座」)があることである。これは、網羅性及び正確性に関する証拠を入手する監査人

の能力を低くさせ、適切な代替手続がない場合には、監査人は監査報告書に対するその

影響を検討する。 ・ 経営者の不正。厳格な機密保持及び個人銀行業務における個人的な人間関係の特徴は、

個人的なクライアントの問題を扱うスタッフに対する監督及び監視を行う内部統制の有

効性を低くすることがある。クライアントとその個人銀行業務担当者との間の高度の信

頼は、多くの個人銀行業務担当者がそのクライアントの問題の管理に対するある程度の

自律性を与えられるという点で、リスクを増加させる。このリスクは、個人銀行業務の

クライアントは上記のように定期的にその個人的問題を確かめることができない程度に

よって悪化する。 ・ 信託及び他の類似の法的取決めを含む、資産のある程度の所有権/支配を第三者へ法的

に移転することを予定されたサービス。そのような取決めは個人銀行業務に限らないが、

それは一般に個人銀行業務に見られる。銀行にとって、そのリスクは信託又は他の法的

取決めの条件が遵守されていないか、又は適用される法律を遵守しないことである。こ

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れは、銀行を受益者に対する債務にさらす。この領域の統制手続は、誤謬がしばしば、

場合によっては信託又は他の取決めが作られてから何十年も後で、それが終わって初め

て確認されることを考えると、特に重要である。個人銀行業務担当者はまた、しばしば

遺言書又は他の遺言による書類の作成に関わり、そして遺言執行者として行動する。遺

言書の不適切な草稿作成は、銀行に財務的重大事をもたらすことがある。この領域及び

遺言執行者の活動を監視する領域には統制手続がなければならない。監査人は、そのよ

うなサービスに関連して明らかになっていない債務があるかどうか検討する。機密保持

の要求事項は、十分で適格な監査証拠を入手する監査人の能力に影響を与えることがあ

る。そしてもしそうであるならば、監査人は監査報告書に対するその影響を検討する。

最後に、個人銀行によって提供される信託及び類似の取決めは、しばしば第三者に外部

委託される。監査人は、その外部委託されたサービスにどのようなリスクが残っている

か、そのリスクを理解するために必要な手続及び関係を検討し、外部委託されたサービ

スの提供会社に対する、そしてその提供会社内の統制手続を検討する。 ・ 信用リスク。信用リスクは、プライベートバンキングにおいて提供される顧客の借入要

求の性質により複雑になる。以下のサービスは、しばしば信用リスクを判断することを

困難にさせる。すなわち、特別に組成された信用供与(課税、規則、ヘッジなどのよう

な領域でのクライアントの要求事項を取り扱う多数の目的を持った信用供与取引)、担保

として預かっている例外的な動産(例えば、美術所蔵品、容易に売却可能ではない財産、

その価値が将来のキャッシュ・フローに頼っている無形資産)、及び個人的な保証に置か

れている信用(「名前貸し」)である。 ・ 保管。個人銀行は、現物の投資資産又は貴重品についてクライアントに保管サービスを

提供することがある。それに関連した監査リスク要因は、資産管理の表題のもとで以下

に述べられているリスクと類似している。 資産管理 以下のリスク要因は、銀行の資産管理活動の監査の方針及び実施を計画する際の検討事項と

して与えられている。この領域に含まれるものは、資金管理、年金管理、信託又は類似の取

決めのような第三者へ資産のある程度の所有権/支配を法的に移転することが予定された

手段である。財務サービス産業は急速に変化している産業であるため、本リストは包括的で

はない。 ・ 資産管理会社と資産そのものの両方が同じ監査事務所によって監査されない場合。資産

管理会社のパフォーマンスと資産そのものは、一般に密接に結び付いている。ある事業

体において生じる問題の他の事業体の財務諸表に対する影響を識別し理解することは、

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その両方が同じ事務所によって監査されているか、あるいはその取決めが二つの監査事

務所の間で情報の適切な交換を可能にするようになされている場合はより容易である。

資産及び資産管理会社の両方が監査される要求がない場合、あるいは他の監査事務所へ

の適切なアクセスが可能ではない場合は、監査人は完全な見解を形成する立場にあるか

どうか検討する。 ・ 第三者に対する受託者責任。第三者の資金の誤管理は、資産管理会社への財務的又は評

判上の影響を与えることがある。この種類に入る事項は以下を含んでいることがある。 - 不適切な記帳 - 資産の保護及び評価に対する不適切な統制手続、 - ファンドマネージャーの不正を防止するには不適切な統制手続、 - クライアントの資金と管理会社の資金又は他のクライアントの資金との不適切な

物理的及び/又は法的分離(しばしば規制されている)、 - クライアントの投資と管理会社自身の投資(個人的又は会社のどちらかあるいはそ

の両方)又は他のクライアントの投資との不適切な分離、 - 資産管理に従事している銀行のスタッフと他の業務に従事しているスタッフとの

不適切な職務分掌、 - クライントとの委任契約又は資金が管理されるべきであると想定された投資方針

の不遵守、そして - クライアントへの報告に関する要求事項(契約上又は規制上)の不遵守。

・ クライアントの承認、投資決定、クライントの指示の遵守、利益相反、規則の遵守、資

金の分離及び保護並びにクライアントの資産及び取引の適切な報告に対して検討がなさ

れる。 ・ ファンドマネージャーの報酬。ファンドマネージャーがボーナス又は報奨金の取決めを

通じた個人的な利益に対する欲望に基づいて、慎重でないか又は違法なビジネス上の決

定をする高い可能性がある。 ・ 情報技術。情報技術は、ほとんどの資産管理会社の業務にとって重要である。したがっ

て、全体的なコンピュータ統制環境に加え、監査上コンピュータの統制手続に依拠する

場合は、データ及びデータ入力のセキュリティー、完全性並びに正確性が検証される。

クライアントのための取引が銀行自身の取引と区分して記録されることを確実にするた

めに適切な統制手続が存在しているかどうかについて検討がなされる。 ・ グローバル化及び国際的多様化。これは多くの資産管理会社の特徴であり、このことは、

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値決め及び保管ルール、規則、法的システム、市場の実務、開示ルール並びに会計基準

のような事項に関して、国毎の実務の多様性を原因とする追加的なリスクを引き起こす

ことがある。

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用語集 秘密積立金 (Hidden Reserves)

いくつかの財務報告の枠組みは、銀行が、多額の利益を上げた

年度に金額を非開示の積立金に移すこと、並びに損失が出たか

又は利益の小さい時にその積立金から金額を振替えることによ

ってその報告された利益を操作することを許容している。報告

された利益は、そのような振替えの後の金額である。その実務

は利益の変動を減らすことによって銀行がより安定的であるよ

うに見せることに役立ったし、低い利益を報告することになる

機会を減らすことによって銀行に対する信頼の喪失を防止する

ことにも役立つことになる。

当行勘定(Nostros) 取引先銀行に自行の名前で保有されている勘定。

引当金(provision) 事業体にとってその資産価値を低くする要因を考慮するため

の、資産の簿価に対する修正。時には引当金(allowance)と

呼ばれる。

慎重な比率 (Prudential Ratios)

銀行が引き受けることのできる貸出しの種類及び金額を決定す

るために規制当局によって用いられる比率。

ストレス・テスト (Stress Testing)

正常な市場環境以外の前提及び最初のデータを用いた評価モデ

ルをテストし、そのモデルの予測がなお信頼性があるかどうか

評価すること。

先方勘定(Vostros)

自行に取引先銀行の名前で保有されている勘定。

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Reference Material The following is a list of material that auditors of banks’ financial statements may find helpful. Basel Committee on Banking Supervision. Publication 30: Core Principles for Effective Banking

Supervision. Basel, 1997.

Publication 33: Framework for Internal Control Systems in Banking Organisations. Basel, 1998.

Publication 55: Sound Practices for Loan Accounting and Disclosure. Basel, 1999.

Publication 56: Enhancing Corporate Governance in Banking Organisations. Basel, 1999.

Publication 72: Internal Audit in Banking Organisations and the Relationship of the Supervisory Authorities with Internal and External Auditors. Basel, 2000

Publication 75: Principles for the Management of Credit Risk. Basel, 2000.

Publication 77: Customer Due Diligence for Banks. Basel, 2001.

Publication 82: Risk Management Principles for Electronic Banking. Basel, 2001. Publications of the Basle Committee on Banking Supervision can be downloaded from the web site of the Bank for International Settlements: http://www.bis.org. International Accounting Standards Board. IAS 30: Disclosures in the Financial Statements of Banks and Similar Financial Institutions. London, 1999.

IAS 32: Financial Instruments: Disclosure and Presentation. London, 2000.

IAS 37: Provisions, Contingent Liabilities and Contingent Assets. London, 1998.

IAS 39: Financial Instruments: Recognition and Measurement. London, 2000.

In addition a number of IFAC member bodies have issued reference and guidance material on banks and the audits of the financial statements of banks.