にほんでいきる 全ての外国籍の子の就学求める報告...

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にほんでいきる 全ての外国籍の子の就学求める報告書案 文科省有識者会議、中教審に提出へ 毎日新聞 2020 3 16 19 25 (最終更新 3 16 19 25 ) 文部科学省、文化庁、スポーツ庁の看板=本橋和夫撮影 日本に住民登録する外国籍の子ども約 2 2000 人が、小中学校に通っているかどうか分からなくなっ ている問題で、文部科学省の有識者会議は 16 日、全ての外国籍の子どもに対する「就学促進」を法的に 位置づけるよう求める報告書案をまとめた。文科相の諮問機関である中央教育審議会に 4 月以降、正式 に提出する。 報告書案には就学不明の子どもが約 2 2000 人に上る現状を踏まえ「『誰一人取り残さない』という発 想に立ち、社会全体としてその環境を提供できるようにすべき」だと明記。「日本語教育推進法」の基本方針 に「就学促進」を位置づけ、同法で国や自治体の責務と定めた「日本語教育実施」に法的な根拠を持たせる よう提言した。 文科省には具体的な対策として、2019 年度に初めて行われた就学不明の子どもの全国調査継続や、小 中学校の就学年齢にある日本人をリストアップした帳簿「学齢簿」を外国人の子どもに準用する際の指針作 成を求めた。 また、日本語指導が必要にもかかわらず受けられていない外国籍の児童生徒が、公立小中学校では約 2 割に上る実態にも言及。26 年度までに指導が必要な児童生徒 18 人に 1 人の割合で教員を配置する 施策の徹底を要請した。この他、日本語が理解できないため特別支援学級に在籍しているとされる児童生 徒の現状把握なども求めた。【奥山はるな】

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Page 1: にほんでいきる 全ての外国籍の子の就学求める報告 …toguchi/imin-nanmin/nihon-de-ikiru...2020/03/16  · 小学1年生で来日。籍を置いた福島県の小中学校では、外見や日本語ができないことを理由にいじめら

にほんでいきる

全ての外国籍の子の就学求める報告書案 文科省有識者会議、中教審に提出へ

毎日新聞 2020 年 3 月 16 日 19 時 25 分(最終更新 3 月 16 日 19 時 25 分)

文部科学省、文化庁、スポーツ庁の看板=本橋和夫撮影

日本に住民登録する外国籍の子ども約 2 万 2000 人が、小中学校に通っているかどうか分からなくなっ

ている問題で、文部科学省の有識者会議は 16 日、全ての外国籍の子どもに対する「就学促進」を法的に

位置づけるよう求める報告書案をまとめた。文科相の諮問機関である中央教育審議会に 4 月以降、正式

に提出する。

報告書案には就学不明の子どもが約 2 万 2000 人に上る現状を踏まえ「『誰一人取り残さない』という発

想に立ち、社会全体としてその環境を提供できるようにすべき」だと明記。「日本語教育推進法」の基本方針

に「就学促進」を位置づけ、同法で国や自治体の責務と定めた「日本語教育実施」に法的な根拠を持たせる

よう提言した。

文科省には具体的な対策として、2019 年度に初めて行われた就学不明の子どもの全国調査継続や、小

中学校の就学年齢にある日本人をリストアップした帳簿「学齢簿」を外国人の子どもに準用する際の指針作

成を求めた。

また、日本語指導が必要にもかかわらず受けられていない外国籍の児童生徒が、公立小中学校では約

2 割に上る実態にも言及。26 年度までに指導が必要な児童生徒 18 人に 1 人の割合で教員を配置する

施策の徹底を要請した。この他、日本語が理解できないため特別支援学級に在籍しているとされる児童生

徒の現状把握なども求めた。【奥山はるな】

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外国からきた子どもたち 外国籍の子、就学促進 法的根拠求める報告書案 有識者会議

毎日新聞 2020 年 3 月 17 日 東京朝刊

日本に住民登録する外国籍の子ども約2万2000人が、小中学校に通っているかどうか分からなくなって

いる問題で、文部科学省の有識者会議は16日、全ての外国籍の子どもに対する「就学促進」を法的に位

置づけるよう求める報告書案をまとめた。文科相の諮問機関である中央教育審議会に4月以降、正式に提

出する。

報告書案には就学不明の子どもが約2万2000人に上る現状を踏まえ「『誰一人取り残さない』という発想

に立ち、社会全体としてその環境を提供できるようにすべき」だと明記。「日本語教育推進法」の基本方針に

「就学促進」を位置づけ、同法で国や自治体の責務と定めた「日本語教育実施」に法的な根拠を持たせるよ

う提言した。

文科省には具体的な対策として、2019年度に初めて行われた就学不明の子どもの全国調査継続や、小

中学校の就学年齢にある日本人をリストアップした帳簿「学齢簿」を外国人の子どもに準用する際の指針作

成を求めた。

また、日本語指導が必要にもかかわらず受けられていない外国籍の児童生徒が、公立小中学校では約2

割に上る実態にも言及。26年度までに指導が必要な児童生徒18人に1人の割合で教員を配置する施策

の徹底を要請した。

この他、日本語が理解できないため特別支援学級に在籍しているとされる児童生徒の現状把握なども求

めた。【奥山はるな】

文科省の報告書案 概要

<指導体制確保・充実>

・2026年度までに児童生徒18人に1人の割合で日本語教育担当教師を配置

・特別免許状、特別非常勤講師制度を利用した日本語教師の積極的な活用

<日本語教育担当教師の指導力向上と支援環境の充実>

・教員養成大学で教諭を目指す全学生が、外国人児童生徒への支援、指導を学べる取り組み

・特別支援学級における(外国籍の子どもの)実態調査の実施

<就学状況の把握、就学の促進>

・国が「学齢簿に準ずる」ものの作成や就学状況の確認指針を作成

・文科省の「就学状況調査」の継続実施

・住民基本台帳担当課や出入国在留管理庁と連携し、就学情報が保護者に伝わるように取り組みを推進

<中高生の進学・キャリア支援の充実>

・外国人学校卒業者の高校受験資格が自治体ごとに異なる事情に配慮し、高校進学を促進

<異文化理解、母語・母文化支援、幼児に対する支援>

・親子日本語教室などで、母語・母文化に配慮した取り組みを実施

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日本語分からずギャングになったホドリゴ ラップとの出合いで更生、仲間のために起業

毎日新聞 2020 年 3 月 21 日 16 時 44 分(最終更新 3 月 21 日 20 時 07 分)

首に「0574familia」のタトゥーを彫ったホドリゴさん。解体業の仕事は「地道やけど、まともに稼がせてくれる」

=岐阜県可児市で 2019 年 12 月 27 日、兵藤公治撮影

「この辺りに有名なブラジル人がいる」。そう聞いたのは 2018 年 6 月、岐阜県可児市を訪れた時だった。

そのブラジル人は男性で、中学時代には学校でボヤ騒ぎを起こし、卒業後は仲間を率いてけんかを繰り返

す「日系ギャング」と恐れられた。現在は解体業を起こし、ラッパーとしても活動しているという。男性の SNS

(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)には、サングラス姿でマイクを握る写真とともに、こんな自己紹介

がつづられていた。「俺生まれブラジル、そだちは 0574 町」「ぜたい(絶対)あしたくる信じて生きとる」。つ

たない日本語を並べた男性の背景を探ろうと、足取りを追った。【奥山はるな】

ブラジル人のラップユニット「0574familia」

男性の名前はホドリゴさん(31)。ブラジル人仲間とラップユニット「0574familia」を作った。最初に訪れた

のは、メンバーが経営するバー。青い照明の下に置かれた黒い革張りのソファに、両腕にタトゥーを入れた

メンバーの男性が座った。トーマス(26)と名乗った。「0574 は可児市や(隣接する)美濃加茂市の市外局

番で、音楽や仕事のつながり。昔は少年院に行ってたやつもいるけど、今はみんな、ホドリゴの会社で働い

ている」

トーマスさんはそう話し、スマートフォンの動画を見せた。「これがホドリゴ」。0574 のロゴが入った T シャ

ツを着たメンバーの中心に、ひげを生やしたいかつい男性がいた。隣には「兄貴」と呼ばれる人物。「この人

は日本人のラッパー。近くでたこ焼き屋をやってる」

バーからたこ焼き屋に向かった。途中、梅雨の生暖かい空気が漂う路上に座り込み、一つのコンビニ弁当

を分け合って食べるジャージー姿の少女らがいた。その脇でアフロヘアの少年が、地面に置いたスマートフ

ォンから音楽を流し、ラップの練習をしていた。たこ焼き屋の店員だという。

兄貴と慕われる日本人のラッパー、WA(ワ)MU(ム)さん(40)がいた。この地域にラップを広めた親友の

KJI(ケージェーアイ)さん(40)が、19 年 1 月に可児市内のホールでデビュー10 周年イベント「岐阜 0574

音楽祭」を開く予定という。イベントには 0574 のメンバーも出演することになっていた。

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ラッパーの KJI さん(左)、WAMU さん(中)らとイベント「岐阜 0574 音楽祭」の打ち合わせをするホドリゴさ

ん。無免許運転で逮捕され、出演はかなわなかった=岐阜県可児市で 2018 年 11 月 7 日午後 8 時 6 分、

奥山はるな撮影

初めての取材から 5 カ月後の 18 年 11 月、WAMU さんがたこ焼き屋の他に経営するバーで、イベント

の打ち合わせが開かれた。KJI さんら日本人のラッパー10 人が集まり、1 時間ほど遅れてホドリゴさんも到

着した。ラップを始めたきっかけについて、こう話した。「自分腐ってたとき、KJI さんがいたから、その存在で

立ち直れた。まじめにやっとる先輩たちがおって『これが日本人のやり方だ』と思った」。そして、これまでの

日本の生活について、語り始めた。

10 歳で来日 独りぼっちの少年時代の反動で非行に

ブラジル・サンパウロで生まれた日系 3 世。祖父は第二次世界大戦前、東京からブラジルに移民して精

米業を営んだ。仕事中のけがで失明した苦労人だったという。穏やかな祖父から「サムライ、カラテ、スモウ」

といった言葉を教わり、日本への憧れを募らせた。7 歳の時、離婚した母が日本への「デカセギ」を決め、ホ

ドリゴさんも後を追って 10 歳で来日した。可児市に着いたのは寒い冬の日。初めて見た雪の白さを覚えて

いる。

母と姉夫婦家族の 5 人暮らしが始まった。母や姉は、食品工場などで朝から晩まで働いた。「残業、残業

ばっかりで、さみしいばっかりだった」。通学先を、日本の小学校かブラジル人学校か決めかねているうちに

月日が過ぎ、学校に行く機会を失った。「友達一人もおらんかった」。日中は 1 人で自宅で過ごし、電子レン

ジで温めたピザを食べた。

12 歳で日本の中学校に入学した。この学校には外国人労働者の子どもが多く、日本語の学習経験がな

いホドリゴさんのような生徒は「直(ちょく)輸入」と呼ばれた。日本語を覚えようと、同級生にかけられる言葉

をひたすらノートにメモした。「くろい」「きたない」「くにかえれ」。しばらくしてノートの言葉の意味を知り、勉強

する気もうせた。

ブラジル出身の生徒でつるんで授業をサボる毎日。階段の踊り場でブレークダンスをして騒ぎ、校舎の屋

上でボヤ騒ぎを起こし、民家のブロック塀を蹴り壊した。日本の言葉や文化を学ばないまま卒業。部品工場

の働き口を見つけたが、2 時間で窓から逃げ出した。

けだるかった日本語教室に変化 高校進学を夢見るが……

当時、中学校の校長だった林伍彦(くみひこ)さん(74)は「思春期の子どもが言葉も分からずボーンと入り

込んで学校生活を送るのは、苦しいことだったと思う」と振り返る。それでも、居場所がないホドリゴさんらは、

卒業後も中学校に姿を見せた。ブラジル人の後輩に声をかけ、校舎の周辺にたむろして騒いだ。「うるさい」

と注意し、正門前で取っ組み合いになったこともあった。

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ホドリゴさんらへの対応に苦慮しつつ、林さんは学校の体制に限界を感じていた。日本語指導は週 3、4

時間のみで、授業が分からない外国人の生徒は机に突っ伏した。「どうせ親と一緒に工場で働くんや」。け

だるい雰囲気が漂い、中退者が続出した。

教室の様子を見学し「このままではダメです」と訴えた人物がいた。当時、大阪大の大学院生だった小島

祥美(よしみ)・愛知淑徳大准教授(46)。就学義務の対象外とされる外国人の子が、学校に行かないまま

放置される「不就学」の実態を調べようと、03~05 年にかけ、可児市や教育委員会と協力して戸別訪問調

査をした。15 歳以下なのに働く子、妊娠した子もいた。

調査を受け、林さんは 05 年に校内の日本語教室を拡充。国語や数学、英語を重点的に教えると、高校

に合格する外国人生徒も出てきた。英語の他、ブラジル人の母語であるポルトガル語を選択教科に加え、

評価の対象とした。後輩の話を通じて学校の変化を感じ取ったホドリゴさんは、17 歳のころ、思い切って林

さんに切り出した。「先生、日本語教えてくれる?」。林さんは校内に迎え入れ、高校進学を勧めたが、その

後、なぜか姿を見せなくなった。

ラップで日本人と通じ合い「この街で生きる」と決意

当時、ホドリゴさんは顔や腕にタトゥーを彫り、同じような外国人がたむろする夜の街を居場所にしていた。

日本人のチーマーを見つけてはけんかを売った。日本語を学ばなかったことを後悔しながらも、チーマーと

鉄パイプで殴り合う日々の中で、高校進学の道は現実味をなくしていった。傷害事件を重ねて 18 歳で少年

院に入った。数年で出所して地元に戻ると、対立後に和解していたチーマーの先輩、KJI さんがラッパーとし

て活動していた。電話で出所を報告すると「今日ちょうどイベントだから来いや」と誘われた。

人口 10 万人の街の小さなクラブに、人があふれていた。かつては恐れられていた先輩がマイクに向けて

叫ぶ。「産んでくれてありがとう、お袋。たくさん苦労かけたな」。悪ぶらず、真面目に家族や音楽に向き合う

姿が、輝いて見えた。感化されたホドリゴさんは 24 歳のころ、0574 を結成。ラップで日本人と通じ合えた

気がして「この街で生きる」と誓った。

WAMU さんは言う。「ラッパーは人前に顔をさらす仕事で、悪いことできん。ドロップアウトしとるやつに『更

生しろ』と言っても聞かんから、俺ら大人が楽しそうにラップして『こういうのもええよ』って示してやるのが大

事」。思惑通り、ホドリゴさんにも再び変化が見え始めた。

0574 には、15 歳未満で働く児童労働や路上生活といった過酷な少年時代を送ったメンバーもいた。日

本語が分からず、履歴書も書けない。「ちゃんと稼げる場所つくらんと悪いことするしかない」。26 歳で解体

業を起こし、仲間を集めた。

経営の知識はなく、請求書や印鑑の存在すら知らなかったが、日本人の元請けやアパートの大家が書類

の作成方法を教えてくれた。他の業者に「ガイジンが来た」「現場に入るな」と言われても「ここは日本や」と

従業員を諭し、頭を下げた。ブラジル人とペルー人を計 17 人雇うまでに成長し、0574 の活動も知られるよ

うになった。

無免許運転で逮捕 つきまとう過去のツケ

それでも日本語を学ばなかったツケは、度々回ってきた。イベントの打ち合わせから 1 カ月後の 18 年 12

月、仕事中の無免許運転で逮捕された。日本語でもポルトガル語でも筆記試験の問題が理解できず、運転

免許を取得したことがないという。17 年に無免許運転で有罪判決を受けて執行猶予中だったのに運転して

しまった。4 カ月間服役した。

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無免許運転で逮捕され、イベントに出演できなくなったホドリゴさんに宛て、ラップの師匠の WAMU さんが

送った手紙。ホドリゴさんのラップの歌詞「黒でも白でも関係ねえ」になぞらえてメッセージをつづった=岐阜

県可児市で 2019 年 12 月 6 日午前 11 時 48 分、奥山はるな撮影

服役中は 0574 のメンバーが解体の仕事を維持し、持病がある母を介助してくれた。まるで本当の

familia(家族)だった。WAMU さんからは「弟へ」と題した手紙が来た。「みんな待ってる。真面目にやって

一日も早く出てこい」。イベントや仕事に穴を開けたことを悔い、一時は体重が 17 キロ落ちた。「人間として

変わらなあかん」。何度も言い聞かせるのに、失敗を繰り返してしまう。

19 年の年の瀬、仕事を再開したホドリゴさんの事務所を訪れた。すきま風が吹き込む小さなプレハブに

は、ひっきりなしに電話がかかり、壁のホワイトボードには「BARASI(バラし)」「BONENKAI(忘年会)」とい

った年末のスケジュールがローマ字で書き込まれていた。従業員の多くも、日本語が読めない。

電話が一段落すると、ホドリゴさんはソファに体をうずめ、スマートフォンで音楽を再生した。0574 の曲だ。

「黒でも白でも関係ねえ くそガイジンでも漢(おとこ)」。自分に重ねた詞を、音楽に乗せて口ずさんだ。

「学校は行った方がいい」。ホドリゴさんは過去を振り返るように話すと、時間を持て余すと悪いことを考え

るという意味のブラジルのことわざを続けた。「Cabeça vazia é oficina do diabo(空の頭は悪魔の

遊び場)」。周りにいた従業員らが、無言でうなずいた。

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少年院から出所したばかりのホドリゴさんをライブに呼び、更生のきっかけを作ったラッパーの KJI さん(右)。

デビュー10 周年のイベント「岐阜 0574 音楽祭」には、ニューヨークなどでも活躍する AK-69 さん(左)らも

参加した=岐阜県可児市で 2019 年 1 月 5 日午後 8 時 42 分、奥山はるな撮影

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外国からきた子どもたち 強盗、服役…強制送還 22年ぶり母国、頼る人なく

毎日新聞 2020 年 4 月 2 日 東京朝刊

男性から記者に届いた年賀状。強制送還前、「母国で日本人観光客を案内するツアーガイドになりたい」と

語っていたが、音信は途絶えた=東京都千代田区で、大西岳彦撮影(画像の一部を加工しています)

「今年も良い年になりますように」

22年ぶりの母国は、どのように映ったのだろうか。南米出身の男性(32)は、日本で強盗事件を起こして

服役し、2019年11月末に強制送還された。長い日本での生活で、母国語は忘れつつある。両親は障害

がある中学生の弟のため、日本に残る道を選んだ。頼る人がいない男性。出国前に投函(とうかん)した年

賀状には、こう書いていた。「今年も良い年になりますように」

日系3世。10歳の時、職を求める両親と来日した。小学校では「ガイジン」と呼ばれ、持ち物を壊された。

ひらがなや低学年の漢字は覚えたが、中学校に入ると授業が理解できず、1年生の2学期で足が遠のいた。

「不良」と評判だった日本人の先輩から、自宅に呼ばれるようになった。冬のある日、先輩の問いかけが理

解できず黙っていると、ギターで何度も殴られた。「何無視してるんだよ」。頭から流れる血が畳を汚した。

帰宅すると、食品工場で働く両親は夜勤明けで疲れ果て、眠っていた。こっそりシャワーで血を洗い流した。

「日本に来たのだから、日本人の言うことを聞かなければならない」。先輩の命令で、さい銭泥棒や恐喝、バ

イクの窃盗などを繰り返した。小学校と違い、従っていればいじめられないのが救いだった。

窃盗と恐喝罪で15歳で少年院に入った。16歳で出所し「手に職をつけよう」とパン屋でアルバイトを始め

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たが、出所を知って訪ねてきた先輩に連れ出された。支配下に置かれ、パン屋に行けなくなった。17歳で放

火事件を起こし、再び少年院で1年を過ごした。

18歳で自動車部品の下請け工場に勤めたが、20歳の時、業績悪化で外国人は首を切られた。直後のリ

ーマン・ショックで、父親も働き口がなくなった。

しばらくして、工場で知り合った外国人の男性(31)から電話が来た。「遊びに来いよ」。自宅を訪ねると、

コンビニ強盗を伝えるニュース動画を見せられた。「生活費にしよう」。深く考えずに誘いに乗り、コンビニや

飲食店に押し入った。4件の強盗で起訴され、22歳の時に懲役7年の実刑が確定した。

服役中、フォークリフトや高所作業車の操縦資格を取った。「手に職を」という願いがかない、日本語学習

にも身が入った。刑務所内の「日本語教育教室」に通い、人生で初めて「がんばりました賞」の賞状をもらっ

た。

10カ月の刑期を残して28歳で仮釈放。「両親と暮らせる」。希望に胸を膨らませたが、すぐに入国管理局

(当時)の施設に連行された。1年以上の禁錮や懲役の実刑を受けると在留資格を失い、強制送還されると

知った。

母国にも、日本にも相談相手がいない。弁護士のアドバイスで退去強制処分の取り消しを求めて裁判を

起こしたが棄却された。

わらにもすがる思いで、刑務所で教材にしていた日本語単語帳の筆者、田巻松雄・宇都宮大教授に手紙

を書いた。「おいそかしい中とつぜん失礼です。オーバーステェーになりいつかは帰らなきゃならいが……」。

事情を聴いた田巻教授の嘆願書を添え、入国管理局に身柄の拘束を解く「仮放免」を申請したが、認められ

なかった。田巻教授は「日本語が分からず転落していく外国人特有のパターン。罪は個人の責任とされ、更

生の努力も認められない」と話す。

刑務所と収容施設で過ごした期間が10年目を迎えた19年10月。強制送還を受け入れた。収容施設で

面会した記者に、男性は「長い間、社会に出ていないから分からないことばかり」と不安を口にした。

2020年元旦。男性が帰国前に投函した年賀状が届いた。「僕は、母国での生活がやっとなれて来た頃で

ございますが大変です」。想像した1カ月後の未来。その後、田巻教授には、強盗事件の共犯で強制送還さ

れた男性が空港に迎えに来たと、連絡があった。ガイドツアーになる夢を抱いていたが、母国で仕事は見つ

かっていないという。【奥山はるな】=随時掲載

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外国からきた子どもたち 職転々の末、詐欺加担 言葉の壁、学校なじめず 日系ブラジル人被告

毎日新聞 2020 年 5 月 11 日 東京朝刊

東京拘置所に収容されているジャックから届いた手紙=東京都千代田区で2020年3月18日、長谷川直

亮撮影

「今さらですけど、もっと勉強しておけばよかったと思うんです」。アクリル板で隔てられた東京拘置所の面

会室。ブラジル出身の被告の男性(22)は、そうつぶやいた。言葉のハンディから学校になじめず、不安定

な仕事を渡り歩いた末に犯罪に関わった。国の調査では、日本で暮らす15~19歳の外国籍の未成年の

7・7%は学校にも仕事にも行かず、日本語教育の必要な外国籍などの高校生が卒業後に非正規の仕事

に就く割合は、高校生全体の10倍に上る。被告は今、育った環境を振り返り自問の日々を送る。

日系4世の被告は小学1年生の時、日本で工場勤務をしていた両親に呼び寄せられた。両親の転職で毎

年のように転校。言葉は全く分からなかったが、5年生で在籍した小学校でしか日本語教育を受けられなか

った。「知らない言葉が出てくる度、勉強が進まなくなる」。中学では勉強についていけず、ゲームで授業時

間をつぶした。高校でも分からない授業を3年間受けると思うとうんざりし、入試をすっぽかした。

卒業後は建設業など非正規の仕事を転々とした。「外国人だから」と軽く見られるのが悔しくて、仕事に打

ち込んだ。「頑張れば、他のブラジル人の評価もよくなる」と信じたが、20歳の時に雇われた派遣会社で半

年後、突然給料が払われなくなった。生活に困ったのを見透かしたように社長が言った。「バイトを紹介して

やる」

他人のキャッシュカードで現金自動受払機(ATM)から金を引き出す「バイト」だという。社長は「税金関係

の金だから大丈夫」と説明した。一度は断ったが、数日後、社長から「今すぐ行け」と怒鳴られた。たびたび

暴力を受けていた恐怖もあり、金を引き出して待っていた社長に渡した。もらった「バイト料」も社長に取り上

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げられた。

ある日、タイで日本の特殊詐欺グループが摘発されたというニュースが流れた。犯罪に加担しているので

はと感じ、社長に聞くと言葉を濁された。数カ月後、自宅に踏み込んできた警察に逮捕された。「これで終わ

った」。連行中、ほっとする自分がいた。高齢者の口座から約300万円を引き出した罪で1審で実刑判決を

受け、量刑が重すぎるとして控訴した。

中卒でも我慢して働けば将来が開けると願ったが、現実は違った。「自分がしっかりしていれば。今度こそ

高卒資格を取ってやり直したい」

2019年12月、東京地裁の被告席に座るブラジル出身の日系3世のジャック(22)=インターネットの「チ

ャット」のハンドルネーム=は、被害者との間に置かれた白い遮蔽(しゃへい)板を見つめていた。「だまされ

た私もバカだった。でもだます方はもっと大バカ」。詐欺被害にあった80代女性の厳しい声にうつむいた。

小学1年生で来日。籍を置いた福島県の小中学校では、外見や日本語ができないことを理由にいじめら

れ、「友だち料」として現金を要求された。チャットが悩みを打ち明けられる唯一の場だった。

中学1年生の時に東日本大震災が起き、埼玉県に避難。いじめられないように虚勢を張り、非行に走った。

生活は荒れ、せっかく進んだ高校も中退。非正規の仕事を転々とした。

19年夏、友人に紹介された日本人から、特殊詐欺の受け子に誘われた。「『仕事として契約している。断

ったら数百万円の賠償金を請求される』と脅され、後戻りできなくなった」。3回目の受け取り現場で警察に

逮捕され、3月に実刑判決を受けた。

東京拘置所で審判を待つ間、何ができるか真剣に考えた。思いついたのは通訳だった。「日本語と、母国

のポルトガル語の両方を話せることが数少ない強み」。言葉で苦しんだから、できることがあるかもしれない。

そんな思いも芽生え始めた。【堀智行】=随時掲載

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にほんでいきる

外国からきた子どもたち この子に苦労させない 小さな幸せに願い大きく

毎日新聞 2020 年 5 月 18 日 東京朝刊

3人の子どもの成長に合わせ「宿題を手伝ったりしながら、私も勉強し直したい」と話すアンドレアさん=栃

木県小山市で 2019 年 12 月 16 日、奥山はるな撮影

「どうして太陽は他の星より大きいの?」。5歳の長男に聞かれ、言葉に詰まった。ブラジル出身の日系3

世、アンドレアさん(28)は、中学時代から学校に通わず、町工場で働いた。景気悪化で「派遣切り」に遭い、

苦労して探した再雇用の職も「中卒扱い」で限られた。「もっと勉強できる環境だったら……」。あどけない質

問を投げかける我が子を前に、彼女は過去を悔やむ。

日本で働くことを決めた両親と一緒に、7歳で栃木県小山市に来日。11歳で両親が離婚し、母と兄の3人

で暮らすようになった。残業が続く母と兄。転入した小学校では日本語の授業が理解できず、ノートを取るの

に精いっぱいだった。学校生活に気を配る余裕は母にはなく、学期末に持ち帰る通知表も見てもらった記憶

がない。

中学1年の冬、ブラジルに一時帰国。真っ黒に日焼けして教室に戻ると、いじめが始まった。同級生に無

視され、給食の時は一人だけ机を離された。「学校来るんじゃねえ」。友達だと思っていた女子生徒からは、

汚い言葉を浴びせられた。

校内に日本語教室があったが、当時の担当教諭だった若林秀樹さん(57)は「学校が生徒の立場に立て

ていなかった」と振り返る。期末試験に通訳を同席させると0点にする教師がいた。問題文に仮名を振るよう

に頼むと「手間が掛かって迷惑」と拒否された。教師の態度が伝わるのか、教室には髪に消しゴムのかすを

かけられ、背中に靴跡が残る別の外国籍の生徒もいた。

工場で夜間に働く母とは、話す機会がほとんどなくなっていた。朝食は用意されておらず、コーラの炭酸で

おなかを膨らませて登校した。窮状を見た近くのパン屋のおばさんが、下校時に「好きなの選んでいいよ」と

渡してくれる2、3個のパンが救いだった。

中学3年の時、母に「お金がないから進学は無理」と言われた。「勉強しても意味がない」と、派遣社員とし

て電器工場で働く道を選んだ。14歳だった。週4回、午前8時から午後5時まで働き、月3万円を家に入れ

た。工員は外国人ばかりで、中学生もいた。学校には行かなくなった。

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中学卒業後も同じ工場で働いたが、週末は居場所を求めてクラブで遊ぶようになった。進学を許してくれ

なかった母と顔を合わせたくなくて、17歳で友人と暮らし始めた。

18歳の時、リーマン・ショックのあおりで派遣切りに。「外国人は使い捨て。要らなくなったらポイ」。安定し

た職に就くためには高校に行かなければ、と恩師の若林さんを頼った。「2年遅れで難しいけど、やってみた

ら」。受験を勧められた。独学で勉強し、県立宇都宮高校の通信制に合格。20歳で高校の門をくぐった。家

で課題を解いて郵送し、日曜日には車で片道40分の道のりを通った。

学費や生活費は自分で工面するしかなかった。機械工場に働き口を見つけたが、中卒扱いで夜勤での採

用だった。午後7時から午前4時までの勤務。勉強との両立は難しく、進級前に退学した。その後、高校の

課題を見てくれていた同僚男性と結婚。3人の子どもに恵まれ、心に決めたことがある。「この子らには、私

みたいな苦労をさせない」

高校は必ず卒業させ、海外留学もさせてあげたい。その資金をためるため、子育てが一段落したら仕事を

再開するつもりだ。子どもには母、自分と続いた負の連鎖を断ち切ってほしい。小さな幸せを手に入れたか

らこそ、そう願う。【奥山はるな】

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にほんでいきる

義務教育受けた外国籍未成年、不就学・不就労 8.2% 支援団体「社会に居場所を」

毎日新聞 2020 年 6 月 3 日 20 時 23 分(最終更新 6 月 3 日 21 時 58 分)

YSC グローバル・スクールで高校進学を目指す海外ルーツの若者=同スクール提供

日本で暮らし、日本の義務教育を一定期間受けたとみられる外国籍の未成年(15~19 歳)の 8・2%(小

数点以下第 2 位を四捨五入)が、通学も仕事もしていない「不就学・不就労」となっていることが判明した。

毎日新聞が国の統計データを基に分析した。小中学校時代に適切な日本語教育を受けられず、長期間に

わたって社会に溶け込めない若者が一定数いるとみられる。【奥山はるな、堀智行】 毎日新聞は、2015 年に実施された国勢調査について、独立行政法人「統計センター」に統計法に基づき

オーダーメードでの集計を委託。15 年調査で確認された 15~19 歳の外国籍の未成年の中から 5 年前

の 10 年時点で海外にいた人を除外し、少なくとも 1 年間以上、日本の義務教育を受けたとみられる人を

抽出して新たな統計を作成した。この統計データで「失業中で仕事を探している」「家事」「就学せず就労の

意思もない」と区分された人を「不就学・不就労」とした。 オーダーメード集計によると、15 年調査時点までの 5 年間で一定期間、義務教育を受けたとみられる外

国籍の 15~19 歳は、5 万 3620 人(10 年時点の居住地が明らかでない人も含む)。調査に回答した 3

万 6080 人のうち 8・2%にあたる 2950 人が進路がない不就学・不就労で、義務教育を受けても進学や

就職が困難な実態が浮かんだ。 内訳は「失業中で仕事を探している」1030 人(2・9%)▽「家事」650 人(1・8%)▽「就学せず就労の意

思もない」1270 人(3・5%)――。国籍別の不就学・不就労の割合はフィリピン 15・9%▽ペルー11%▽ブ

ラジル 10・7%▽ベトナム 10・1%――などだった。

YSC グローバル・スクールで高校進学を目指す海外ルーツの若者=同スクール提供

外国人の子どもの教育を支援する「YSC グローバル・スクール」の事業責任者・田中宝紀(いき)さんは

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「一定期間を日本で過ごした外国籍の子どもも、学校でいじめや差別を経験することが多い。社会で居場所

がないと感じることが少なくないため、学んだり働いたりというステージの手前でとどまっている可能性があ

る。学校で日本語能力や学力に関する適切な支援を受けられたか、家族が経済状況も含めて安定していた

かといった要素も、調査結果に反映していると考えられる。今後は新型コロナウイルスの影響で保護者の経

済状況が悪化し、進学できないリスクもより高まるだろう」と話す。 15 年調査に回答せず「労働力状態不詳」とされた人も 32・7%おり、不就学・不就労の割合はさらに増え

る可能性がある。日本人の同年代の不就学・不就労は 3・1%だった。一方、外国籍の就労者は 7090 人

(19・7%)にとどまり、非正規雇用が 7 割以上の 5220 人に上った。

学校に通っていたのは 2 万 6060 人(72・2%)で、ブラジル 62・7%▽フィリピン 57・4%▽ベトナム 52・

7%――など、日本と言語や文化の違いが大きな国ほど低い傾向にあった。

ことば「オーダーメード集計」 独立行政法人「統計センター」(東京都新宿区)が一般からの委託に応じ、行政機関などが実施した統計

調査の調査票を利用して新たな統計を集計・作成し提供するサービス。2009 年に全面施行された統計法

第 34 条により、学術研究や高等教育の発展に資すると認められた場合、作成される。今回は義務教育を

受けたとみられる「外国籍の若者の就学・就業状況」の集計を委託した。 委託によって作成された統計データは今後、同センターのポータルサイト(https://www.e−

stat.go.jp/microdata/jisseki)で公表される。

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にほんでいきる

背景に言葉の壁、いじめや差別による自信の喪失…外国籍未成年の不就学・不就労

毎日新聞 2020 年 6 月 3 日 21 時 52 分(最終更新 6 月 3 日 21 時 52 分)

YSC グローバル・スクールで高校進学を目指す海外ルーツの若者=同スクール提供

日本で暮らし、日本の義務教育を一定期間受けたとみられる外国籍の未成年(15~19 歳)の 8.2%が、

通学も仕事もしていない「不就学・不就労」となっていることが、毎日新聞が 2015 年の国勢調査を基に集

計した結果で判明した。彼らは小中学校でどのような教育環境に置かれ、なぜ日本の社会に溶け込めない

でいるのか。海外にルーツがある若者の高校進学を支援してきた「YSC グローバル・スクール」(東京都福

生市)の事業責任者、田中宝紀(いき)さんに聞いた。【構成・奥山はるな】 --15~19 歳の少年少女における不就学・不就労の割合を 15 年の国勢調査を基に分析したところ、外

国籍は 8.2%でした。15 年調査では日本国籍の不就学・不就労は 3.1%で、2 倍以上になります。背景に

はどんな要因がありますか。 ◆この集計は、5 年前に国外にいた人(留学生や技能実習生など)を除き、少なくとも 1 年間以上、日本

で義務教育を受けたとみられる 10 代後半の外国籍の若者を対象としています。従って、教育機関におけ

る何らかの挫折経験の影響が、要因として考えられます。 例えば 15 歳の人が 5 年前に 10 歳で来日したとします。10 歳の子どもが日本語教育の支援がない状

態で、授業を受けていても日本語が上達するかどうかは年齢的にギリギリで、子どもの性格などによっても

習熟の速度は異なります。学校の勉強についていけるだけの日本語力は身に付きづらく、結果として本人

が希望する高校に進学できなかったり、受験に失敗して再受験(浪人)するかどうか悩んでいるといった状

況に置かれている可能性もあります。 19 歳の人の場合、5 年前は中学 3 年生。編入しても、日本語が分からないまま進路未決定で卒業したり、

定時制高校等に進学したものの勉強についていけずに中退した可能性も低くないと想像されます。中卒や

高校中退で、かつ日本語が分からない 10 代の若者が働ける企業はあまり多くはないでしょう。加えて、生

まれ育った国と環境が違う日本で働くことに対するイメージが持てなかったり、社会経験や情報の乏しさか

ら教育と就労の境目で立ち止まっている状況に陥りやすいことも考えられます。 海外にルーツがある子どもは、学校の中でいじめや差別などを経験することが多く、社会の中で居場所が

ないと感じたり、自尊心やアイデンティティーが不安定になったりする場合が少なくありません。安心して学

びを継続する、働き続けるというステージの手前でとどまっている可能性もあります。

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YSC グローバル・スクールで高校進学を目指す海外ルーツの若者=同スクール提供

日本の小中学校で適切な支援を受けられない▽日本語力や学力が伸び悩む▽いじめや差別の多い環境

で自信を喪失しやすい▽保護者の経済状況の不安定さにより家庭が安心できる場所となりづらい--など、

複合的な困難に直面しやすい現状が、この結果に表れているものだと思います。 --高校などに通う「就学」の割合は、中国と韓国・朝鮮は 8 割を超えていますが、ブラジルやフィリピン、

ベトナムは 5~6 割にとどまっています。この背景には何があるのでしょうか。

◆一般的に、漢字圏出身の子どもは日本語習得に有利であるといわれています。加えて、中国、韓国・朝

鮮にルーツがある子どもの場合は、終戦前に先祖が日本に移った「オールドカマー」が多く、同郷出身者か

ら得られる情報や支援が、他の国にルーツがある家庭と比べて充実していたり、自治体等から発信される

多言語情報に、ほぼ必ず母語が含まれていたりすることなども要因の一つであると考えられます。また、支

援の現場で出会ってきた限りでは、中国や韓国・朝鮮にルーツがある保護者には、比較的、保護者自身の

教育バックグラウンドやリテラシーが高い方の割合が多い傾向が見られました。そうしたことも、要因として

挙げられるでしょう。 ブラジル、フィリピン、ベトナムなどの場合は、これとは逆に、漢字圏出身の家庭よりアクセスできる資源と

情報が限られていることなどが考えられます。オールドカマーなどが少ない国では、子どものお手本となる

ようなロールモデルが限られていることも、高校進学や大学・専門学校の進学率に影響しているといわれて

います。また、東アジアにルーツがある親子よりも見た目の違いがわかりやすく、いじめや差別をより受け

やすいという理由もあるかもしれません。 --現在、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、コロナショックともいわれる不況が日本を襲っています。

2008 年にブラジル人ら外国人労働者が大量解雇されたリーマン・ショックを思い起こさせるような状況です

が、不就学・不就労の子どもは、今後どうなると想像されますか。 ◆リーマン・ショック後と同様に保護者の経済的状況の悪化によって学費が払えず、不就学に陥るリスク

が高まっています。同様の理由からすでに高校進学をあきらめたというケースも発生しているようです。 就労については、新型コロナウイルスの影響がどこまで及ぶのか予想がつきません。人手不足が続いて

いる農業などでは就労の間口は一時的に広がるとは思いますが、10 代の若者の有効な選択肢になるか

は疑問です。海外にルーツがある若者が、就労で比較的つながりやすいのがサービス業などですが、これ

らの産業もどこまで吸収できるようになるか不透明です。日本人も含めてですが、今後、進学も就労もまま

ならないという若者は、一時的であっても増加する可能性は十分に高いとみています。

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にほんでいきる

外国からきた子どもたち 義務教育後、探せぬ進路 外国籍の15~19歳、不就学・不就労8.2%

毎日新聞 2020 年 6 月 4 日 東京朝刊

日本で暮らし、日本の義務教育を一定期間受けたとみられる外国籍の未成年(15~19歳)の8・2%(小

数点以下第2位を四捨五入)が通学も仕事もしていない「不就学・不就労」となっていることが判明した。毎

日新聞が国の統計データを基に分析した。小中学校時代に適切な日本語教育を受けられず、長期間、社

会に溶け込めない若者が一定数いるとみられる。 毎日新聞は、2015年に実施された国勢調査について、独立行政法人「統計センター」に統計法に基づき

オーダーメードでの集計を委託。15年調査で確認された15~19歳の外国籍の未成年の中から5年前の1

0年時点で海外にいた人を除外し、少なくとも1年間以上、日本の義務教育を受けたとみられる人を抽出し

て新たな統計を作成した。この統計データで「失業中で仕事を探している」「家事」「就学せず就労の意思も

ない」と区分された人を「不就学・不就労」とした。 オーダーメード集計によると、15年調査時点までの5年間で一定期間、義務教育を受けたとみられる外国

籍の15~19歳は、5万3620人(10年時点の居住地が明らかでない人も含む)。調査に回答した3万60

80人のうち8・2%にあたる2950人が進路がない不就学・不就労で、義務教育を受けても進学や就職が

困難な実態が浮かんだ。 内訳は「失業中で仕事を探している」1030人(2・9%)▽「家事」650人(1・8%)▽「就学せず就労の意

思もない」1270人(3・5%)――。国籍別の不就学・不就労の割合はフィリピン15・9%▽ペルー11%▽

ブラジル10・7%▽ベトナム10・1%――などだった。 外国人の子どもの教育を支援する「YSCグローバル・スクール」の事業責任者・田中宝紀(いき)さんは

「一定期間を日本で過ごした外国籍の子どもも、学校でいじめや差別を経験することが多い。社会で居場所

がないと感じることが少なくないため、学んだり働いたりというステージの手前でとどまっている可能性があ

る。今後は新型コロナウイルスの影響で保護者の経済状況が悪化し、進学できないリスクもより高まるだろ

う」と話す。【奥山はるな、堀智行】

■ことば オーダーメード集計 独立行政法人「統計センター」(東京都新宿区)が一般からの委託に応じ、行政機関などが実施した統計

調査の調査票を利用して新たな統計を集計・作成し提供するサービス。2009年に全面施行された統計法

第34条により、学術研究や高等教育の発展に資すると認められた場合、作成される。今回は義務教育を

受けたとみられる「外国籍の若者の就学・就業状況」の集計を委託し