平成 28 年度産業経済研究委託事業 保育ニーズに応じた保育供給 … · 6 3...

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1 平成 28 年度産業経済研究委託事業 保育ニーズに応じた保育供給の在り方及び 保育の経営力向上に関する調査研究 平成 29 3 株式会社船井総合研究所

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平成 28年度産業経済研究委託事業

保育ニーズに応じた保育供給の在り方及び

保育の経営力向上に関する調査研究

平成 29年 3月

株式会社船井総合研究所

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内容

1 はじめに(調査背景・目的) ............................................................................................. 3

2 調査視点・手法 ............................................................................................................... 4

(1) 調査視点 ...................................................................................................................... 4

(2) 調査方法及び内容 ........................................................................................................ 5

3 現状及びこれからの保育供給の在り方 ........................................................................... 6

(1) 保育ニーズ増加の社会的背景 ...................................................................................... 6

(2) 量的保育ニーズについて ............................................................................................. 9

ア 現状及び将来の保育ニーズと供給量 ....................................................................... 9

イ 都市部における待機児童の状況と課題 ................................................................. 15

ウ 広域エリアにおける通園バス活用の可能性 .......................................................... 28

(3) 質的保育ニーズについて ........................................................................................... 36

ア 情報開示における現状と課題 ................................................................................ 36

イ 監査・評価制度における現状と課題 ..................................................................... 50

(4) 諸外国の保育政策 ...................................................................................................... 70

ア フランスの保育政策について ................................................................................ 72

イ スウェーデンの保育政策について ......................................................................... 75

4 保育事業者の経営力向上について ................................................................................ 81

(1) 事例調査 .................................................................................................................... 81

ア 調査方法 ................................................................................................................. 81

イ ヒアリングについて ............................................................................................... 82

(2) ICT活用における経営効率化..................................................................................... 91

ア ICTが解決できる保育現場のオペレーション ....................................................... 91

イ 具体的な ICT ツールの種類と特徴 ......................................................................... 94

ウ ICT導入による効果について ................................................................................. 97

エ まとめ .................................................................................................................... 99

オ 現状の ICT導入における課題 .............................................................................. 101

(3) 保育施設における複数拠点展開 .............................................................................. 106

ア 施設展開の現状分析 ............................................................................................. 106

イ 複数拠点展開の効果分析について ........................................................................ 116

ウ 社会福祉法人における複数拠点展開の課題 ......................................................... 118

エ 株式会社における複数拠点展開の課題 ............................................................... 120

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1 はじめに(調査背景・目的)

我が国において、少子化問題を解決するためには、一人でも多くの人々が就労と子育て

を両立することができるよう保育分野における課題を解決することが重要である。しかし

現状では依然として待機児童問題が解決されておらず、さらに女性活躍の推進を背景とし

て保育ニーズが増加傾向にあるが、我が国における財源不足や制度の構造などによって、

解決に足る保育量の充実、保育の質の確保が実現されていない。

そこで保育供給量を充実させると同時に、中長期的な視点から保育の質の向上に向け、

課題を特定し解決策を検討する必要がある。そのためには、財政的な側面のみならず保育

分野の構造的・制度的な側面からの課題を正確に捉える必要がある。あわせて、望ましい

保育の量と質を実現するために、保育事業者の経営力を向上させていくことが必要である。

以上のような時代的背景及び問題意識から、本調査では「保育ニーズに応じた保育供給

の在り方及び保育の経営力向上に関する調査研究」と題して文献調査と事例調査を実施し

た。

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2 調査視点・手法

(1) 調査視点

前述の時代的背景及び問題意識を受けて、本調査は以下の視点から実施した。

① 現状の保育ニーズ及び保育の供給状況を踏まえた目指すべき保育供給体制

② 安心・安全な保育供給を確実なものにするための方策

③ 保育事業者が経営力を向上させる上での課題

①は待機児童解消に向けた今後の取組みであり、②は保育施設の更なる拡充を検討

するに際して考慮すべき事項である。③は保育供給者である保育事業者が取り組むべ

き課題である。

図 1 保育政策を考える上で求められる視点

(出典)

株式会社船井総合研究所(平成 28年)

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(2) 調査方法及び内容

以上の視点を踏まえて本調査では文献調査と事例調査を実施する。

まず現状及び今後における保育ニーズとそれに対する保育供給量を見ることで、今

後の保育供給の在り方を大局的につかむ。また直近で解決が求められている待機児童

問題について、優先順位が一番高い都市部を中心に現状と課題を文献調査により調べ

る(3(1)(2)を参照)。また、保育供給を今後行っていく上で、保育の質を担保するため

の取組みを強化する必要があるため、情報開示、監査・評価制度における課題を検討

する(3(3)を参照)。さらに、諸外国の保育政策を通じて今後参考となる保育政策を概

観し、日本における保育政策への示唆を得る(3(4)を参照)。

次に、保育事業者が経営力を強化する上での保育経営の課題を検討するため、現在

の保育産業の動向を踏まえて適当と思われた 10法人を選定し、現状について事例調査

を実施する(4(1)を参照)。最後に、事例調査から抽出された保育事業者が経営力向上

の一環として取り組むべきである ICT の活用及び複数拠点展開について考察する

(4(2)(3)を参照)。

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3 現状及びこれからの保育供給の在り方

(1) 保育ニーズ増加の社会的背景

図 2によると、2005年の 12,729万人をピークに総人口は減少し、将来推計において

減少し続ける見込みである。2060 年になると、総人口は 8,674 万人となりピーク時に

比べておよそ 30%の人口減少幅となる。うち、年少人口は 2005年の 1,752万人と比較

して 2060 年には 791 万人に減少しその幅は約半分の 53%である。このように、将来的

に少子化はますます進んでいくと考えられる。

図 2 我が国の人口動態と将来推計

(出典)

平成 23 年までは総務省「国勢調査」(年齢不詳人口を除く)、平成 26 年は総務省「人口推計」(12 月 1 日

確定値)、平成 27年以降は国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成 24年 1月推計)」(出

生中位・死亡中位推計)から経済産業省編

他方、少子化の流れを受けているにも関わらず、待機児童数は拡大・横ばいの傾向

にあり、女性活躍の推進により、保育ニーズが高まってきていると思われる。図 3 及

び図 4によると、共働き世帯数が増加し、女性の就業率も上昇していることが分かる。

1980年から共働き世帯数が増加し、2012年直近では 1,065万世帯になっている。また、

女性就業率も上向きに推移し 2013 年には 62.5%になっている。共働き世帯では家庭で

子どもを養育することが時間的制約により困難になる。後述するように、保育所等の

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利用率は女性が活躍する時代背景から増加する傾向になっている。

図 3 共働き世帯数の推移

(出典)

総務省「労働力調査」

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8

図 4 女性の就業率の推移

(出典)

総務省「労働力調査」

また、政府では平成 28 年 6 月 2 日に閣議決定された「日本再興政略 2016」におい

て平成 32年までに 25~44歳の女性就業率を 77%にすることにしており、短期的にこの

傾向は続いていくと考えられる。

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(2) 量的保育ニーズについて

ア 現状及び将来の保育ニーズと供給量

女性活躍の推進による保育ニーズの高まりについては前述したが、本項では現状

及び将来の保育ニーズの実態はどのようになっているかを整理する。

(ア) 現状の待機児童数及び保育所利用率について

現状の保育ニーズを知るために、まずは待機児童数と保育所等利用率の状況に

ついて確認する。

図 5 保育所等待機児童数及び保育所等利用率の推移

(出典)

厚生労働省「保育所等関連状況取りまとめ」(平成 28年)

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図 6 保育所等数の推移

(出典)

厚生労働省 「保育所等関連状況取りまとめ」(平成 28年)

図 5 を見ると、待機児童数は、平成 21 年 25,384 人から平成 23 年 25,556 人に

増加した。その後は減少傾向であったが、平成 27年度に 23,167人、平成 28年度

に 23,553人と増加している。また、厚生労働省より、保護者が育児休暇中である

などの理由で集計から除外されている潜在待機児童も加えた待機児童数は約 9 万

人であるとされている1。

政府では、待機児童ゼロを目標として掲げ、「待機児童解消加速化プラン」等に

基づき、保育所の増設を中心とした対策を講じてきたが(図 6)、根本的な解決を図

るためには、更なる一手が必要である2。

また表 1 及び表 2 では、年齢区分別の利用児童数及び待機児童数と地域別に見

1 朝日新聞「(いちからわかる!)「隠れ待機児童」って何?」(平成 28年 10月) 2 日本経済新聞「待機児童ゼロ『17年度末の達成厳しい』首相が答弁」(平成 29年 2月 17日)

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た待機児童数の現状を述べている。

表 1 年齢区分別の利用児童数・待機児童数

(出典)

厚生労働省「保育所等関連状況取りまとめ」(平成 28年)

表 2 都市部とそれ以外の地域の待機児童数

(出典)

厚生労働省「保育所等関連状況取りまとめ」(平成 28年)

表 1 によると、平成 28 年度の待機児童数は低年齢児の割合が多く 86.8%になっ

ている。これは、0~2歳児と 3~5歳児の受入れに際して、その定員数及び人員配

置基準が異なることに起因していると考えられる。一般的に 0~2歳までの定員数

は、3~5歳の定員数に比べて非常に少ない3。また人員配置基準については低年齢

児になるにつれて、児童数に対して、配置すべき保育士の人数が増えるため、保

育事業者が必要な保育士を確保できず、保育供給量が伸び悩んでいる可能性もあ

る。

3 児童福祉法最低基準(省令)

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また、表 2によれば、待機児童数の大半は都市部に偏っている。7都道府県・指

定都市・中核市においては待機児童数の割合が 74.3%になっており、その他の道県

25.7%と比較しても割合が高いことが分かる。

(イ) 将来の保育ニーズ及び保育供給量について

a 前提

前述のとおり、女性活躍の推進により、短期的には保育ニーズは増加傾向に

あるが、中長期的には少子化を背景として保育ニーズはピークアウトする可能

性がある。中長期的な少子化も踏まえた対策が必要となる。

本項では、将来の保育ニーズの動向と供給量について考察する。

b 将来の保育ニーズの試算

日本総合研究所の池本氏は、「保育所の利用希望者の割合と乳幼児を持つ妻の

就業率」との関係性が正の相関を示すことに着目して、47 都道府県別の保育ニ

ーズの試算をしている4。

本項では、池本氏による試算結果を用いて、今後の保育ニーズの将来展望を

検討する。ただし、待機児童数には偏在性が内包されていることを踏まえ、「全

国」、「都市部」、「その他の地域(地方部)」の 3 つの視点から5 6、地域特性を加

味した場合における、保育ニーズのピークアウトの時期を考察する。

4 池本美香 「保育ニーズの将来展望と対応の在り方」(平成 29年) 5 厚生労働省の定義を、国土交通省の地域定義に基づき、次のように試算用に変更した。都市部を、東京圏(埼玉、千葉、

東京、神奈川)、名古屋圏(岐阜、愛知、三重)、関西圏(京都、大阪、兵庫、奈良)の 3地域圏の和とし、それ以外を地方

部と仮定した。 6 傾向値を算出することを目的としているため、より詳細な議論を今後展開する場合は、より実態に即した地域分類を

行うべきである。

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図 7 全国の保育所・幼稚園ニーズの試算(出生中位・就業中位ケース)

(出典)

池本美香「保育ニーズの将来展望と対応の在り方」(平成 29年)から株式会社船井総合研究所編

図 8 都市部の保育所・幼稚園ニーズの試算(出生中位・就業中位ケース)

(出典)

池本美香「保育ニーズの将来展望と対応の在り方」(平成 29年)から株式会社船井総合研究所編

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図 9 地方部の保育所・幼稚園ニーズの試算(出生中位・就業中位ケース)

(出典)

池本美香「保育ニーズの将来展望と対応の在り方」(平成 29年)から株式会社船井総合研究所編

表 3 保育所・幼稚園ニーズ試算(出生中位・就業中位ケース)

(出典)

池本美香「保育ニーズの将来展望と対応の在り方」(平成 29年)から株式会社船井総合研究所編

図 7~図 9及び表 3はそれぞれ全国、都市部、地方部における保育所及び幼稚

園のニーズを示している。僅かな差異はあるものの、どの地域においても 2015

年から保育所及び幼稚園の利用ニーズは減少していく傾向であり、その主な原

因は幼稚園ニーズの縮小であることが分かる。

保育所ニーズに注目すると、全国、都市部、地方部において増減傾向に差異

2000年 2005年 2010年 2015年 2020年 2025年 2030年 2035年 2040年

保育所(0-2歳) 538,749 647,300 759,829 914,783 1,153,344 1,173,195 1,230,816 1,277,129 1,298,063保育所(3-5歳) 1,296,207 1,398,940 1,374,305 1,481,870 1,452,390 1,373,737 1,372,405 1,394,687 1,398,146保育所利用(0-5歳) 1,820,957 2,026,323 2,108,464 2,363,013 2,554,933 2,494,483 2,547,758 2,613,849 2,636,516幼稚園利用 1,811,545 1,774,743 1,639,532 1,544,953 1,248,051 1,018,807 876,529 763,124 650,159計 3,632,502 3,801,066 3,747,996 3,907,966 3,802,984 3,513,290 3,424,287 3,376,973 3,286,675保育所(0-2歳) 223,979 269,621 322,810 405,956 530,425 549,579 588,571 620,813 638,540保育所(3-5歳) 532,535 584,293 588,385 658,428 650,868 620,634 626,702 643,793 650,519保育所利用(0-5歳) 756,514 853,914 911,195 1,064,384 1,181,293 1,170,213 1,215,273 1,264,606 1,289,059幼稚園利用 954,705 968,520 909,092 861,117 717,008 591,848 517,280 458,881 398,982計 1,711,219 1,822,434 1,820,287 1,925,501 1,898,303 1,762,062 1,732,554 1,723,486 1,688,040保育所(0-2歳) 314,770 377,679 437,019 508,827 622,919 623,616 642,245 656,316 659,523保育所(3-5歳) 763,672 814,647 785,920 823,442 801,522 753,103 745,703 750,894 747,627保育所利用(0-5歳) 1,064,443 1,172,409 1,197,269 1,298,629 1,373,640 1,324,270 1,332,485 1,349,243 1,347,457幼稚園利用 856,840 806,223 730,440 683,836 531,043 426,959 359,249 304,243 251,177計 1,935,282 1,998,549 1,953,379 2,016,105 1,955,485 1,803,674 1,747,194 1,711,454 1,658,329

実績 推定値

地方部

都市部

全国

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がみられた。全国的な保育所ニーズは 2025年に一時的に減少するが、2040年ま

で増加傾向である。この増加の理由は都市部における保育所ニーズと、地方部

における 0~2 歳の保育所ニーズが伸びているためである。都市部では今後も

2040 年まで 0~5 歳の保育所ニーズは増加するが、地方部では 2035 年をピーク

に 0~5歳全体での保育所ニーズは減少すると予測されている。

保育ニーズがピークアウトした時期からは、保育供給が保育ニーズを上回る

ため、保育事業者間での競争が生じてくると思われる。

イ 都市部における待機児童の状況と課題

厚生労働省が定める定義7によれば都市部における待機児童数割合は、74.3%(表 2)

となっており、更にその割合は増加傾向にある。

待機児童数を減らす施策の 1 つとして、保育所の数を増やすことが分かりやすい

解決策であるが現状では十分な供給が確保されているとは言えない。なぜ保育所数

が保育ニーズに合わせて増えないのかを、待機児童数が特に多い東京 23区に絞って

考察を行う。

(ア) 状況

表 4及び表 5は東京 23区における認可保育所の数と、0~5歳の人口を区別に比

較したものである。

7 平成 28年 4月 26日雇児保発 0426第 3号厚生労働省雇用均等・児童家庭局保育課長通知『調査日時点において、保育

の必要性の認定( 2号又は 3号) がされ、特定教育・保育施設(認定こども園の幼稚園機能部分及び幼稚園を除く。 以

下同じ。) 又は特定地域型保育事業の利用の申込がされているが、利用していないものを把握すること。』

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表 4 東京 23 区における認可保育施設数及び 0~5歳の人口推移①

(出典)

東京都福祉保健局・各区年齢別人口データから株式会社船井総合研究所編(平成 28年)

表 5 東京 23 区における認可保育施設数及び 0~5歳の人口推移②

(出典)

東京都福祉保健局・各区年齢別人口データから株式会社船井総合研究所編(平成 28年)

過去 5 年間、増加幅に差異はあるものの総じてどの区においても認可保育所の

数は増加している。しかし同時に、保育が必要な年齢の人口も増えていることが

分かる。したがって、問題点は保育供給量が保育ニーズに追いついていないとい

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うことである。

本項では、保育所を新たに設置しようとした場合の課題を、特にヒト(保育士)・

モノ(保育所に適した物件)・カネ(運営資金)の 3つの観点で考察する。

(イ) 課題

a 課題①:ヒト:保育士の確保

そもそも保育士の数については、前述のとおり国が定めた配置基準により必

要数が定まっている8。したがって、定員数を考慮すれば最低限必要な保育士数

を算出することができる。

8 主に 0歳児の場合、3名の子どもにつき 1名の保育士が必要となり、1,2歳児の場合は 6名の子どもにつき 1名の保育

士が必要となる。

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表 6 東京 23区における各種保育士数の推移

図 10 東京 23区における各種保育士数の推移

(出典)

株式会社船井総合研究所 試算9 (平成 28年)

図 10は東京 23区における保育士数を推計したものである。平成 27年の時点

で保育士数が充足していないことが分かる。不足分は他地域の保育士を雇用す

ることで賄われており、東京都に登録10している保育士のみでは運営ができてい

ないのが実態である。

また、保育士の職場環境についての意識調査によると、保育士が職場に改善

を要求する内容として、上位から「給与・賞与等の改善」、「職員数の増員」、「事

9 東京都福祉保健局『都内の保育サービスの状況』『東京都保育士実態調査』、厚生労働省『第 3回保育士等確保対策検

討会資料』より算出 10 保育士は資格習得後、保育士試験合格地の都道府県知事に対して保育士登録申請手続きが必要となる。

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務・雑務の軽減」等が挙げられている(図 11)。また、図 12 及び図 13 は、東京

都の保育士における離職に関連するデータである。図 12によると東京都の保育

士の総数に対し、2 割が退職を考えている。図 13 は、その 2 割の保育士におけ

る退職意向理由を示しており、上位の理由として「給料が安い」、「仕事量が多

い」、「労働時間が長い」等が挙げられている。さらに、保育士再就職時の希望

条件としては、「勤務日数」、「通勤時間」、「勤務時間」等、労働環境の項目が上

位に入っている(図 14)。

図 11 保育士における現在の職場の改善希望状況

(出典)

厚生労働省「第 1回保育士確保対策検討会における『保育士等における現状』」(平成 27年)

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図 12 現在保育士の就業継続意向

(出典)

東京都「東京都保育士実態調査報告書」(平成 26年)

図 13 退職意向理由

(出典)

東京都「東京都保育士実態調査報告書」(平成 26年)

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図 14 保育士再就業時の希望状況

(出典)

東京都「東京都保育士実態調査報告書」(平成 26年)

これらのデータより、保育士が働きたい環境をつくるためには、「給与の改善」

や、「業務負担の軽減」が重要であることが分かる。

しかし、すでに厚生労働省は保育士確保に向け、現在にいたるまでに様々な

取組みが行ってきた(図 15)。

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図 15 保育士確保プラン及び新たな保育人材確保対策

(出典)

厚生労働省「平成 28年度当初予算(案)(保育対策関連)の概要」(平成 28年)

この図は、厚生労働省が保育士不足の解消の一環で、取り組んできた施策の

一覧である。処遇改善など保育士の待遇を改善するための政策により、保育所

に勤務する保育士数は年々増加していることから、一定の効果は見られている11。

また、保育士の「業務負担の軽減」を目的とした ICT の導入を促進する補助金

も厚生労働省から出されている。

b 課題②:モノ:保育所に適した物件

新規で保育所を作る際のもう 1つの障害は保育所に適した物件の確保である。

保育所を設置する場合、主に更地に新築で保育所を作る場合と既存の物件を活

用する場合がある。待機児童の特に多い東京 23区ではまとまった土地の確保は

11 厚生労働省大臣官房統計情報部「社会福祉施設等調査」

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難しいため、既存の物件を活用する例もある。

既存の物件を活用する場合は、その物件がそもそも保育所としての利用に適

しているのかを判断する必要がある12。まず保育所を設置する物件の階層である。

保育所は必ずしも 1 階に設置しなくてはならないわけではないが、災害時の避

難等を考慮し上層階になればなるほど物件に対する条件が厳しくなる13 14。

これらの条件を満たした物件が見つかったとしても、2方向避難の確保が困難

なため、物件として活用できないケースが多く存在する。

2 方向避難15の確保とは、災害時に備え最低 2 つ以上の避難経路を確保しなけ

ればならないことを指す(図 16)。都内では、物件の構造上、2 方向避難を確保

することが困難なケースもある。2方向避難の確保を求める制度趣旨は、災害発

生時に片方の避難経路が塞がれた場合を想定し、避難経路を二重に確保してお

く必要があるというものであるが、この基準の解釈方法として同じ道路に出て

はいけないと解釈する自治体もある16。

12 保育所を設置する場合の物件に係る条件は認可保育所か、認可外保育所かにより異なる。また、自治体によってもそ

の判断は異なる。 13 条件の具体例として認可外保育所の場合、上層階になると耐火、または準耐火の建造物であることが求められる自治

体がある。 14 上層階に保育所を設置する場合、避難器具を設置する必要があるが、その場合、避難器具として滑り台を代用する方

法もある。しかしながら、乳幼児を主とする小規模保育において災害時に園児が 1人で使用する可能性を考慮すると現

実的ではない。 15 児童福祉施設の設備及び運営に関する基準第三十二条、東京都児童福祉施設の設備及び運営の基準に関する条例施行

規則 16 同じ道に避難したとしても、2つの避難路が 10メートル以上離れていれば良いと判断する場合もある。

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24

図 16 都における認可・認証保育所の避難路に関する考え方

(出典)

東京都福祉保健局(平成 28年)

前述した課題に加え、「検査済証」の問題もある。100 ㎡を超える賃貸物件で

保育所を運営する場合、多くの場合用途変更が必要となる17。その際、ほぼ確実

に必要になるのがその建物を建築した際に発行される検査済証である。検査済

証なしでの用途変更は原則受け入れられないため、検査済証がない物件では保

育所を運営することができないというのが実態である18。

17 建築基準法第六条第一項、法第八十七条第一項 18 横浜市など、自治体によっては検査済証の代わりに台帳記載事項証明書の提出でも保育所用途への変更を認める場合

がある。

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25

図 17 特定行政庁(建築主事)・指定確認検査機関における検査済証交付件数・完了検査率

の推移

(出典)

国土交通省「問題効率的かつ実効性ある確認検査制度等 確認検査制度等のあり方の検討」

図 17 は平成 26 年に国土交通省が出した検査済証のある物件の割合である。

平成 10 年の段階で 38%しか検査を行っていないため、平成 10 年度に作られた

物件のうちの 6 割はそもそも保育所を設置するのが難しい物件となる。このよ

うな条件に加え、都心部の高騰する家賃に関しても保育所を設置する上で大き

な障害の 1 つになる。実際、賃借料に対して補助する例もあるが、賃借料が補

助額上限を超えると、満額が支払われない場合もある。

また保育所を設置する際の基準も自治体によって異なる部分が多く19、園児 1

人当たりの保育面積をとっても自治体ごとに規定が異なる。そのため、複数拠

点展開を行う保育事業者にとっては、設置する地域によって規定等を確認する

必要があり負担になっている。

以上より、施設基準や検査済証の取扱いについても現状を踏まえた柔軟な運

19 保育所設置に関する条例等は自治体で決められている例が多くみられる。(参考資料参照:保育所の設備及び運営に関

する基準の条例制定状況及び運用状況等について)

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26

用を検討していくことも考えられる。

今回、都市部において保育施設に適する物件を見つけることが難しいことと、

また待機児童問題は都市部の 0~2 歳児に偏って発生していることを見てきた。

これらの問題を解決する上で、小規模保育の活用もひとつの選択肢であり、子

ども・子育て支援新制度では、図 18 のように小規模保育を含む地域型保育事業

を実施する仕組みを整えた。

図 18 地域型保育事業の認可定員数について

(出典)

内閣府子ども・子育て本部「子ども・子育て支援新制度について」(平成 29年)

表 7 地域型保育事業の認可基準について

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27

(出典)

内閣府子ども・子育て本部「子ども・子育て支援新制度について」(平成 29年)

小規模保育は従来の認可保育所よりも 1 人多い職員の配置基準、もしくは 1

歳児以上に対しても 0 歳児と同じ配置基準となっているため、手厚い保育を実

践できる。実際、小規模保育所を利用している保護者は、90%が満足している

と答えている20。

一方で、小規模保育には、3歳児以降の受入れができないという課題も存在す

る(表 7)。しかし、近年では年齢制限を撤廃する戦略特区を設けられたり21、積

極的に幼稚園などの連携施設と提携するなどの施策が推進されている。

さらに、空きスペースの有効活用の観点から考えれば、在宅保育へのシフト

も考えられる。後述するが、フランスでは母親アシスタントという制度が発達

しており、日本の家庭的保育がそれにあたる。これは子育て経験者を活躍させ

ることにより、保育士不足を補う政策である。定員数が少ないため、マンショ

ンの 1室などでも実施が可能である。

20 全国小規模保育協議会「小規模保育白書」(平成 28年) 21 国家戦略特区諮問会議

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28

c 課題③:カネ:運営資金について

保育所の運営資金は主に、認可保育所か認可外保育所かにより大きく変わる。

認可保育所では、運営に必要な資金が補助金として給付され、園児の確保は行

政が行うため比較的安定した運営が可能となる。一方で、認可外保育所を運営

する場合、運営に必要な資金が補助金で十分に給付されず、園児募集も独自に

行う必要があるため運営が厳しい状況にある。22

ウ 広域エリアにおける通園バス活用の可能性

次に、現在定員枠に空きのある保育所23が通園バスを活用することで、園児を受け

入れるエリアを広げ、空き定員枠を有効活用する方法についても検討していく。

(ア) 通園バスの議論が行われてきた背景

これまで、保育所の通園バスが大きく取り上げられることは少なかった。共働

き世帯の増加と少子高齢化を受け、保育所における保育ニーズが高まる一方で(図

19)、幼稚園における定員充足率の低下が問題となった。そのため他園との差別化

や商圏拡大による園児確保という経営上の課題解決の文脈で通園バスは議論され

てきた。

(イ) 幼稚園等における通園バスの主な議論

乳児をバスに乗せる場合はチャイルドシートの設置等が必要になる場合がある。

また、乳児を乗車させるリスクを回避する意味からも一般的には 3~5歳児を預か

22 平成 28年度より始まった企業主導型保育事業に関しては認可外保育所の位置づけではあるものの、認可保育所並み

の補助が受けられるため比較的安定した運営が可能である。 23 平成 28 年度の全国的の保育所のうち、定員に空きのある保育所は全体の 93.3%にのぼる(厚生労働省 保育所等関連

状況取りまとめ(平成 28年))

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29

る幼稚園等で園バスを導入している例が多く挙げられる。

図 19 保育所等定員数及び利用児童数の推移

(出典)

厚生労働省「保育所等関連状況取りまとめ」(平成 28年)

私立幼稚園等の園バス導入は園児確保を主な目的としている場合も多いが、地

域によってはすべての子どもに保育サービスをいきわたらせることを目的とし園

バスの運用に対して補助を出している自治体もある。このような自治体による補

助金は、前述のような目的から地方ほど活発に行われている(山形県の各市、茨城

県神栖市、新潟県出雲崎町等)24。通園に関する補助金については、園バスの購入

や運営の補助を行う方法と、既存の交通手段(バス・タクシー・鉄道等)の利用

料(通園費)の一部または全額補助を行う方法の 2通りが確認される。

しかし、都市部においてはこのような補助が多くないことを鑑みるに、現在の

バスの利用方法は地方における保育サービスの拡充を目的とする場合が多いと考

24 認定こども園は園児 1名につき月額 3,640円までの通園送迎加算を内閣府が用意している。

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30

えられる。

(ウ) 広域的保育所等利用事業の実施について

保育事業者におけるバス活用の文脈に戻ると、政府による取組みとして厚生

労働省は平成 27年に「広域的保育所等利用事業の実施について」の中で、送迎

バスの活用を促す通知を行った。この事業は『近隣に入所可能な保育所、認定

こども園、小規模保育事業、家庭的保育事業又は、事業所内保育事業(以下「保

育所等」という。)が見つからない児童に対し、自宅から遠距離にある保育所等

でも利用を可能にするため、保護者にとって利便性の良い場所にある学校や児

童館などに市町村が設置するこども送迎センター(以下「送迎センター」とい

う。) 25を中心とし、原則、各保育所等の保育士等が付き添いのもと、送迎バス

等により児童の送迎の実施に要する費用の一部を補助することにより、子ども

を安心して育てることができるような体制整備を行うことを目的とする。』26も

のである。

この制度では、「送迎センター」が設置され、各保育所へ子どもを送迎するた

めに必要となるバスの購入費等が補助される。その他にも運航費、当該バス等

の運転手雇上費、駐車場の賃借料、送迎センターの実施場所の賃借料及び、子

どもの送迎に付き添う保育士等の雇上費等が補助される。

補助基準額は下記のとおりである。

・ バス等購入費 送迎センター1 か所につき 1,500万円

または借上げ費年間 750万円

・ 保育士雇上費 1保育所・1送迎センターにつき 年間 500万円

・ 運転手雇上費 年間 500万円

25 平成 27年度時点では設置に関して特に厳しい制限は存在しなかったが、平成 28年度より送迎センターでも認可外保

育所と同じ設置基準が求められるようになった。 26 平成 28年に改正が行われ、屋外遊技場に代わる場所への移動も認められた。

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31

・ 事業費(送迎センター実施場所の賃借料等) 年間 1,000 万円

またかかる経費に対する補助率は国が 2 分の 1 で、市町村が 2 分の 1 とな

っている。

図 20 広域的保育所等利用事業のシステム

(出典)

株式会社船井総合研究所(平成 28年)

保護者は利便性の高い駅等の付近に設置されている送迎センターへ子どもを預

ければ、地域内の各園へ子どもを届けてくれるという仕組みである。多少遠い園

であっても、保護者は送り迎えのために園へ行く必要がない。また自治体にとっ

ても定員の空いている園へ効率的に子どもを入園させることができるというメリ

ットがある。

平成 27年に補助が始まる前からすでにこの仕組みを導入している自治体が存在

した。そのような自治体を含め平成 26 年度現在で 18 の自治体が導入に至ってい

る。代表的な地域について表 8にまとめた。

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32

表 8 広域的保育所等利用事業のシステムの主な実施自治体

地域 開始時期 実態 問題点

千葉県流山市 平成 19年度

送迎センターから市内すべ

ての認可保育所へ通園する

ことができる

事業開始後 30代人口が増加

し、保育の充実した街として

の認知が高まっている

主に 1歳児から利用可能

-

神奈川県横浜市 -

平成 24年度には利用定員が

10分の 1になった

0歳児から利用可能

待機児童対策が進み、近隣に保

育所が設置されニーズがなく

なった

週 1回は預け先の保育所への迎

えが必要となり、保護者が負担

に感じるようになった

0~1歳児がバスに乗ることに

対する抵抗感が払しょくされ

なかった

東京都江東区 平成 26年度 主に 2歳児から利用可能 -

東京都世田谷区 - プロポーザルは実施

運営実績は確認できず -

(出典)

株式会社船井総合研究所(平成 28年)

(エ) 課題

上記の各自治体での運営状況からも推測されるように、順調に運営が行われて

いる自治体がある一方で、事業としてうまく運用されていない自治体も存在する。

ここでは何が課題となり当該事業が普及せずにいるのかをステークホルダーごと

に考察する。

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33

図 21 主なステークホルダーと課題

(出典)

株式会社船井総合研究所(平成 28年)

a 参入・運営にあたっての課題

まず参入における課題は行政や送迎ステーションの設置事業者に存在する。

制度上、補助額としてはある程度充実しているが、市町村が補助金の 2 分の 1

を負担しなければならないため、市町村の負担が大きいことが課題としてあげ

られる。また、バスの運行自体を経営上のリスクと考える保育事業者もいる。

乳幼児を乗せたバスが万が一事故を起こした場合、社会的に大きな影響を与え

ることは想像に難くない。したがって、設置事業者にとって送迎バス事業参入

へのハードルは高いと言える。

さらに、利用者にとっての課題も存在する。子どもにとって、バス移動が大

きな負担になりかねない。さらに保育所と保護者の接点が減ってしまうことに

よって、子どもに関する情報共有が難しくなってしまう可能性も大いに考えら

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34

れる。ベネッセ教育研究所の調査27から、保育所の場合、幼稚園と比較すると、

園選びにおいて利便性を重要視する傾向が明らかになっている。そのため、保

育所を「こどもを預けるだけの場所」にせず、相互にコミュニケーションを図

ることの重要性から、送迎バスを利用する上で子育て支援の不足を補うコミュ

ニケーション方法の模索の必要性が指摘されている28。低年齢・低月齢児につい

てはとりわけ情報共有が重要となるため、送迎バスでの子どもの受渡しには注

意が必要である。また、運用上でも遅延による連絡業務の発生や災害対策など

の課題が明らか29となっており、情報システムを活用した園バスの運営が求めら

れる。

b 地域性における課題

送迎バス及び広域的保育所等事業は、主に地域内における待機児童の偏在を

解消する施策としての有効性が認められる。一方で、東京 23 区のようにどの保

育所も満員の場合、あるいはそもそも偏在していない場合は効果が薄いと言え

る。江東区の場合は湾岸に土地があったためそこに保育所を新しく設置するこ

とができたと考えられるが、土地そのものを見つけ出すことが難しいような都

市部の場合は、送迎バスによる効果は薄いと考えられる。

また、待機児童解消の方法としてのバス利用の有効性も限られる。全国的に

定員は利用児童数を上回っているにも関わらず、待機児童がいまだに多く存在

する主な原因は待機児童の多くが 0~2歳であることと、地域によっては子ども

が減少していることの 2点である。

27 ベネッセ教育総合研究所「第 3回子育て生活基本調査(幼児版)」 (2008年) 28 松尾寛子『子育て支援を見越した保育所における保護者との連携方法について-H県における保育所の送迎方法につ

いての調査とある市における送迎保育ステーション事業について-』神戸常盤大学紀要 (8) 平成 27年 29 小野寺 瞬,岡本 東,堀川 三好[他],菅原 光政『幼稚園における通園バスロケーションシステムの構築』情報文化学

会誌 20(1)平成 25年

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35

表 1 年齢区分別利用児童数・待機児童数

(出典)

厚生労働省「保育所等関連状況取りまとめ」(平成 28年)

表 2 都市部とそれ以外の地域の待機児童数

(出典)

厚生労働省「保育所等関連状況取りまとめ」(平成 28年)

前述のとおり表 1によると、待機児童の多くは低年齢児(0~2歳)であるため、

待機児童の解消を行うには単純に定員数を増やすだけでなく低年齢児に対する

取組みを行う必要がある。また、表 2 より、待機児童の多くが都市部に存在し

ていることがわかる。埼玉県・千葉県・東京都・神奈川県・京都府・大阪府・

兵庫県の 7都府県とその他の政令指定都市・中核市だけで全待機児童数の 74.3%

を占めている。そのため、待機児童の解消を論じるにあたっては都市部の 0~2

歳向けの対策を行っていく必要がある。しかし、前述のとおり乳幼児をバスへ

乗せることのリスクと都市部の保育所設置における土地不足を考慮すると、待

機児童の解消施策として、更なる工夫が必要である。

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36

(3) 質的保育ニーズについて

質的保育ニーズは、本調査では保育の質を指す。既存の保育の質の向上に関しては、

面積基準、配置基準、保育所保育指針、保育時間等について議論がなされてきた30。本

論では、いまだに保育業界で多く議論がなされていない、情報開示と監査・評価制度

を中心に考察を行う。

情報開示の目的は、保護者がよりよい保育所を探すための参考情報を提供すること

である。保護者が保育所の情報収集しやすい環境を整備するためにはいかなる仕組み

が必要であるか、情報開示の現状を踏まえて検討する。

また、監査・評価制度の目的は、保育の質を向上させるために保育事業者を適切に

チェックすることである。望ましい監査・評価制度を確立し、保育の質を向上させる

ことができないか、またそのための課題は何かを議論していく。

ア 情報開示における現状と課題

(ア) 情報開示に関しての現状整理

子ども・子育て支援法では、保育所に対して、都道府県知事への保育所の運営

状況等に関する報告義務を課している(同法第五十八条第一項)。さらに、当該報

告を受けた都道府県知事に対しては、この内容を公表する義務が課されている(同

法第五十八条第二項)。

一方、児童福祉法では、保育所に対して、当該保育所を利用する地域住民への

保育に関する情報提供を行う努力義務を課している(同法第四十八条第一項)。 具

体的な情報開示の内容に関しては、子ども・子育て支援新制度で表 9 のとおり定

められている。

30 稲毛文恵「保育の質から見た保育所の現状と課題」(平成 25 年)

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37

表 9 情報公開の内容に関して

(出典)

内閣府子ども・子育て支援新制度施行準備室「子ども・子育て支援新制度について」(平成 29年)

次に情報開示の現状を調べるために保護者との接点がある市区町村と保育事

業者の情報開示の状況を見る。

公正取引委員会の報告書によると、認可保育所利用者は、主に「周囲・知人等」、

「説明会への参加」、「保育園のウェブサイト」等により保育所の情報を入手して

いる(図 22)。また、認可保育所を利用している保護者がウェブサイトで入手困難

だった情報、つまり、保護者が求めている情報の上位には、「定員や空き状況」、「ク

ラス編成」、「保育料以外の追加費用」等があがってくる(図 23)。

市区町村は、保育所名や定員等の基本情報をウェブサイトで提供しているが、

利用者が求めている「空き状況」や「保育料以外の保護者負担」については、提

供している市区町村の割合が少ない(図 26)。

また、保育所がウェブサイト等で公開している情報については、「保育方針・保

育内容・保育の特色」や「年間の催し物などの行事予定」の割合が高く、市区町

村同様、「空き状況」や「保育料以外の保護者負担」についてはウェブサイトで提

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供している保育所の割合は少ない(図 27 28 29)。

図 22 市町村がウェブサイト上で提供している情報

(出典)

公正取引委員会「保育分野に関する調査報告書」(平成 26年)

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図 23 事業者の情報開示手段について

(出典)

公正取引委員会「保育分野に関する調査報告書」(平成 26年)

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40

図 24 保護者の情報入手手段

(出典)

公正取引委員会「保育分野に関する調査報告書」(平成 26年)

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図 25 事業者が公開している情報

(出典)

公正取引委員会「保育分野に関する調査報告書」(平成 26年)

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図 26 事業者が公開している情報

(出典)

公正取引委員会「保育分野に関する調査報告書」(平成 26年)

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図 27 保護者がウェブサイトで入手困難だった情報の内容(認可保育所)

(出典)

公正取引委員会「保育分野に関する調査報告書」(平成 26年)

図 28 保護者がウェブサイトで入手困難だった情報の内容(認可外保育所)

(出典)

公正取引委員会「保育分野に関する調査報告書」(平成 26年)

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図 29 保護者がウェブサイトで入手困難だった情報の内容(保育施設非利用者)

(出典)

公正取引委員会「保育分野に関する調査報告書」(平成 26年)

(イ) 介護分野に関する情報開示

保育業界に近く、情報開示が進んでいる業界として情報開示義務がある介護

業界を挙げる。

介護保険法に基づき、介護サービスの利用者が求める介護サービスを適切か

つ円滑に利用する機会を確保するために、原則としてすべての介護サービス事

業者に対し、介護サービスの内容等に関する情報を管轄する都道府県知事に報

告する義務が課されている(介護保険法第百十五条の三十五第一項)。さらに、

当該報告を受けた都道府県知事に対しては、この内容を公表する義務が課され

ている(同第二項)31。

この介護サービス情報公表制度は、図 30のとおり実施されている。

31 公正取引委員会「介護分野に関する調査報告書」(平成 28年)

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45

図 30 介護サービス情報公表制度

(出典)

厚生労働省ウェブサイト

しかし、介護サービス情報公表制度の利用状況(図 31)を見てみると、利用率は

伸び悩んでおり、義務化を推進しても利用者が活用しなければ、形骸化する恐れ

があることを示唆している。

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図 31 介護サービス情報公表制度の利用状況

(出典)

公正取引委員会「介護分野に関する調査報告書」(平成 28年)

このように、介護事業の事例から、情報開示の義務化を最初に検討するのでは

なく、保育所利用者が求めている情報と市区町村及び保育所が開示している情報

の差を埋めていくことが必要である。

(ウ) まとめ

a 現行法制度と保護者が求める情報

保護者は保育所の定員や空き状況に関する情報を求めているが、現行法制度

ではその努力義務について明記されていない。

b 自治体と保護者における関係

保護者は、知人や友人等だけではなく、自治体ホームページも情報の収集手

段として重視している。しかし、現状において、自治体ホームページでは「定

員や空き状況」、「保育料以外の追加費用」等、保護者が求めている情報が不足

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47

している。

c 保育事業者と保護者における関係

保護者が保育事業者から情報を得る主な手段の 1 つとして、説明会も挙げら

れているが、現状で実施している保育事業者は多くない。(図 23)一方、ホーム

ページでの情報開示は保育事業者側と保護側ともに重視していることが分かっ

た。ただし、ホームページ上では、「定員や空き状況」、「保育料以外の追加費用」

等保護者が求めている優先度の高い情報が提供されていない状況である。

(エ) 課題

以上、現状を検討してきたが、情報開示の目的に照らし合わせると 3 点の課題

が抽出できると考えられる。

・保護者が望む手段での情報開示

現状で保護者が保育所を選択する際の情報入手手段として、説明会があること

は取り上げた。しかし、保護者に納得してもらうための資料作成や当日準備等保

育事業者の負担が増加する手段でもある。そのため導入に際しては検討が必要で

あるが、本来の情報開示の目的に立ち返ると、保護者が普段知りえない不透明な

保育所内部を知り、理解するためには有用な手段である。

・保護者が望んでいる情報のホームページでの提供

保護者が望んでいる情報としては、一番に「定員や空き状況」があげられるが、

自治体及び保育事業者ともにリアルタイムで情報の更新が行われておらず、保育

の質を検討する以前に、そもそも保護者が利用できる保育所を選択することさえ

困難な状況になっている。表 10のとおり東京都では多くの区がリアルタイムで「定

員の空き状況」を提供しているため、23 区の取組みを参考に、他の自治体及び保

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育事業者が空き状況をリアルタイムで公表していくことも考えられる。

・保育所の情報一覧化

保護者が保育所を比較できるように保育所情報の一覧化が必要である。参考例

としては、東京都が実施している「とうきょう福祉ナビゲーション」(以下「福ナ

ビ」という。)が挙げられる。このホームページでは、保育所の情報を一覧で見る

ことが可能であり、後述する評価制度に関しても 5 年分の評価結果が掲載されて

いる。今後、自治体は福ナビ等を参考に、保育所の空き状況を把握し、保育所の

比較検討が可能な一覧化された情報を掲載する等、保護者がよりよい保育所を見

つける手助けをすることを検討する必要がある。その結果、保育所同士の競争が

促進され、保育の質の向上に繋がる可能性も考えられる。

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49

表 10 東京都 23 区における自治体ホームページ上の情報開示状況

(出典)

株式会社船井総合研究所(平成 28年)

基礎情報(住所等) 保育所定員 保育所の空き状況 経営形態・主体 ウェブサイトのURL 保育士数 保育料 施設概要(面積等) 延長・病児・休日保育 コメント

1 千代田区 ○ ○○

(リアルタイム更新)○ × × △ × ×

・保育所情報が一覧化された表なし

・園の詳細は別ページで確認可

2 中央区 〇 〇○

(リアルタイム更新)〇 × × △ × ×

・所在地、定員を一覧化した表あり

・各保育所の詳細はPDFデータのみ確認可

3 港区 〇 〇○

(リアルタイム更新)〇 〇 × △ × 〇

・保育所情報が一覧化された表あり

・園の詳細は別ページで確認可

4 新宿区 △ △○

(リアルタイム更新)△ △ △ △ △ △

・区内すべての保育所について詳細を記したパンフレットあり

・パンフレット(PDF)内の記載のみのため比較が難しい

5 文京区 〇 ×△

(申し込み状況のみ)× × × △ × ×

・保育所情報が一覧化された表なし

・各保育所別のパンフレットあり

6 台東区 〇 〇○

(リアルタイム更新)× 〇 × △ × 〇

・保育所情報が一覧化された表あり

・保育所名をクリックすれば、園のホームページに直結

7 墨田区 〇 △△

(申し込み状況のみ)△ △ △ △ △ △

・区内すべての保育所について詳細を記したパンフレットのあり

・パンフレット(PDF)内の記載のみのため比較が難しい

8 江東区〇

(保育所名のみ記載)× × △ △ △ △ △ △

・保育所名の一覧があり、そこからパンフレットPDFを見られる

・保育所情報が一覧化された表なし

9 品川区〇

(保育所名のみ記載)△

(リアルタイム更新)× × × △ × △ ・各保育所情報が複数のPDFに分かれて記載

10 目黒区〇

(保育所名のみ記載)△

(リアルタイム更新)× × × △ × △

・各情報が複数のページに分かれて記載

・保育施設の詳細情報については詳細な記載なし

11 大田区 〇 〇○

(リアルタイム更新)

(公立・私立の記載のみ)× × △ △ × ・各情報が複数のページに分かれて記載

12 世田谷区〇

(保育所名のみ記載)△

(リアルタイム更新)△ × △ △ △ △ ・各情報が複数のページに分かれて記載

13 渋谷区 〇 △○

(リアルタイム更新)△ 〇 △ △ △ △

・公立園については統一フォーマットで保育所の概要が記載

・私立園については各園のHPへ直結

14 中野区 〇 〇○

(リアルタイム更新)△ × △ △ △ 〇

・保育所情報が一覧化された表あり

・園の詳細は別ページで確認可

15 杉並区 〇 〇○

(リアルタイム更新)

(公立・私立の記載のみ)× × △ × 〇

・保育所情報が一覧化された表あり

・園の詳細は分からない

16 豊島区〇

(保育所名のみ記載)△

(リアルタイム更新)△ × × △ × 〇

・保育所情報が一覧化された表あり

・園の詳細は別ページで確認可

17 北区 〇 〇△

(申し込み状況のみ)△ △ △ △ △ 〇

・保育所情報が一覧化された表あり

・園の詳細は別ページで確認可

18 荒川区 〇 △△

(申し込み状況のみ)△ △ × △ × △

・一覧化された表あり

・園の詳細は別ページで確認可

・私立園については各園のホームページへ直結

19 板橋区 〇 △○

(リアルタイム更新)△ × × △ × △

・保育所情報が一覧化された表あり

・園の詳細は別ページで確認可

20 練馬区 〇 △○

(リアルタイム更新)△ × × △ △ △

・保育所情報が一覧化された表あり

・園の詳細は別ページで確認可

21 足立区 〇 △×

(募集なしのため)× × × △ × 〇

・保育所情報が一覧化された表あり

・園の詳細は分からない

22 葛飾区 〇 △○

(リアルタイム更新)△ △ × △ × △

・保育所情報が一覧化された表あり

・園の詳細は別ページで確認可

23 江戸川区 〇 〇○

(リアルタイム更新)

(公立・私立の記載のみ)〇 × △ △ ×

・公立園については統一フォーマットで保育所の概要が記載

・私立園については各園のホームページへ直結

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50

イ 監査・評価制度における現状と課題

(ア) 監査における現状

a 監査の目的

保育所の監査の目的について、内閣府は「子ども・子育て支援法に基づく特

定教育・保育施設等の指導監査について」32に示している。それによれば、「特

定教育・保育、特別利用保育、特別利用教育、特定地域型保育、特別利用地域

型保育、特定利用地域型保育及び特例保育(以下「特定教育・保育等」という。)

の質の確保並びに施設型給付費、特例施設型給付費、地域型保育給付費及び特

例地域型保育給付費等(以下「施設型給付費等」という。)の支給の適正化を図

ることを目的とする。」との記述がなされている。

そして、上記の監査目的に沿って監査が適切かつ効果的に実施されるために、

内閣府(平成 27年)は「市町村が 3(2)の実地指導を行うに当たっては、実地指導

の計画段階から認可等を行う都道府県等と調整を行い、可能な限り、当該都道

府県等が実施する認可基準等の遵守状況の確認等に関する事務と同時に実施す

るほか、監査の際に求める資料やその様式等について県内において統一化する

など連携を図ること。」33と記述している。

b 監査の概要

子ども・子育て支援新制度の下においては、各法令に基づき、施設監査と確

認監査が実施される34。施設監査は都道府県知事の指示によって行われる、認

可・設置基準を施設の類型毎に遵守しているかどうかの確認を目的とした監査

である。また確認監査は市区町村あるいは市区町村長の指示によって行われる、

32 内閣府 「子ども・子育て支援法に基づく特定教育・保育施設等の指導監査について」(2015 年) 33 児童福祉法(昭和 22年法律第百六十四号) 34 施設監査:児童福祉法第四十六条(都道府県知事)、確認監査:子ども・子育て支援法十四条(市町村)、三十八条(市

町村長)

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51

教育・保育環境の整備に関する事項、教育・保育内容に関する事項、健康・安

全・給食に関する事項の確認を目的とした監査である。(以下、都道府県による

施設監査及び市町村による確認監査の双方を総称して「自治体監査」という。)

これらの自治体監査の結果をもとに、園長に対して結果を公表し、指導や助言

を行う。そして指導内容どおりに是正が行われたかどうかの確認を行う。対象

施設は、特定教育・保育施設である。

具体的に監査の内容として東京都の例を表 11で挙げる。

表 11 平成 28 年度における一般指導検査等の重点項目

(出典)

東京都福祉保健局「平成 28年度 保育施設指導検査等実施方針」(平成 28年)

大項目 中項目 小項目

(ア)職員配置基準に定める職員の員数及び資格を満たしているか。

(イ)職員の状況を把握するため、雇用契約書、出退勤記録等が適正に整備され ているか。

(ウ)職員の健康診断や労働条件に係る運用が適正に行われているか。

(エ)職員の資質向上のための取組を適切に行っているか。

(ア)在籍児童に見合う基準面積が確保されているか。

(イ)消防計画に基づく避難訓練、物品の転倒落下防止等の防災対策が徹底されているか。

(ア)子供の人権に配慮した適切な保育が行われているか。

(イ)保育所保育指針に基づく保育課程及び指導計画の編成等がなされているか。

(ア)児童の健康状態の把握が適正になされているか。

(イ)アレルギー児等の児童の状況に応じた食事の提供が適正に行われているか。

(ア)保育にあたる職員は適正に配置されているか。

(イ)食中毒・感染症予防対策が徹底されているか。

(ウ)乳幼児突然死症候群の予防対策が徹底されているか。

(ア)会計基準等に従った適正な会計処理が行われているか。

(イ)財務諸表等が適正に作成されているか。

(ウ)会計基準の移行処理を関係通知等に基づき適切に終えているか。

(エ)資金移動等に係る経理は、関係通知に基づき適正に行われているか。

(ア)会計責任者と出納職員を区分するなど、内部牽制体制が確保されているか。

(イ)資産管理が適正に行われているか。

(ア)契約締結の必要性を文書により明確化し、契約の透明性、正当性を第三者にも証明しうるものとしているか。

(イ)契約締結に当たっては、入札の実施により透明性を確保しているか。

エ, 保育料の徴収額が実施要綱に定める限度額を超えていないか。(主に認証保育所)

-

イ, 管理組織の確立

ウ, 契約事務の適正化

(1)運営関係

(2)保育内容関係

ウ, 安全対策の徹底

(3)会計関係(主に認可保育所)

ア, 職員の確保及び処遇

イ, 安全対策の徹底

ア, 保育所保育指針の徹底

イ, 児童一人ひとりに応じた保育の徹底

ア, 適切な会計処理の徹底

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52

c 監査の実態

日本総合研究所の池本氏(平成 28 年)によれば、監査の運用について、所在す

る自治体によって異なる35。例えば、厚生労働省の監査指針では年 1回以上の実

地監査を求めている36。これに沿って毎年実地監査を実施している都道府県があ

る一方、東京都では平成 26 年度の認可保育所の実地監査実施率は 12%37と低い

水準になっている。さらに主要都市圏に対してヒアリングを行ったところ、監

査結果の公表方法も地域によって異なるということが分かった(詳しくは後述)。

また現在、一部の地域においては、施設監査と確認監査の項目に一部重複が

認められる。このことについて内閣府(平成 27 年)は、「子ども・子育て支援新

制度下においては、各法令等に基づき、複数の指導監査等が行われることとな

る。その実施に当たっては、実施主体や監査事項について、一部重複が見られ

ることから以下のとおり、都道府県及び市区町村において相互に連携して対応

する等負担軽減に努め、効果的な指導監査となるよう努められたい。」38 39とし

ている。

d 自治体監査に関してのヒアリング調査

自治体監査の現状及びその課題について、都道府県及び市町村で特定の 3 地

域を抽出し、ヒアリングを実施した。

35 株式会社日本総合研究所 池本 美香「保育の質の向上に向けた監査・評価の在り方」(平成 29年) 36 児童福祉行政指導監査の実施について(平成 12年 4月 25日児発第 471号) 37 東京都「指導検査報告書」(平成 26年) 38 平成 27年 12月7日付三府省課長名通知 「子ども・子育て支援新制度における指導監査等の実施について」 39 内閣府「子ども・子育て支援新制度における指導監査等の実施について」(平成 27年)

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53

表 12 特定の都道府県及び自治体における監査に関するヒアリング結果

(出典)

株式会社船井総合研究所(平成 28年)

項目 ヒアリング項目 ヒアリング内容 A地域 B地域 C地域

どのような目的ですか 児童福祉法46、47条を満たすため 児童福祉法46、47条を満たすため 児童福祉法46、47条を満たすため

なぜそのように規定しましたか その様に規定されるため その様に規定されるため その様に規定されるため

監査内容 どのような内容ですか

入所者の処遇、職員の配置及び勤務条件、経理状況、設備の状況施設の運営管理全般等を把握するため、福祉諸法をはじめ労働基準法、消防法などの関係法令の適合状況についても確認

入所者の処遇、職員の配置及び勤務条件、経理状況、設備の状況施設の運営管理全般等を把握するため、福祉諸法をはじめ労働基準法、消防法などの関係法令の適合状況についても確認

入所者の処遇、職員の配置及び勤務条件、経理状況、設備の状況施設の運営管理全般等を把握するため、福祉諸法をはじめ労働基準法、消防法などの関係法令の適合状況についても確認

監査方法 どのような内容ですか 監査課の職員が実施 指導検査課の職員が実施 指導検査課の職員が実施

監査人の属性いかなる人が監査を行っていますか

監査課職員 指導検査課職員 指導検査課職員

監査人の教育体制 どのような内容ですかOn-the-Job Training座学研修

On-the-Job Training座学研修

どの程度ですか 2年に1回 3、4年に1回実施 年1回それはなぜでしょうか 人員不足 人員不足 -

監査結果の活用監査結果の内容をどのように活用していますか

ホームページで公開し改善を促す ホームページで公開し改善を促す -

いつでしょうか 随時公表 随時公表 非公表どの媒体を利用していますか ホームページ ホームページ -どの程度公表していますか 指摘事項のみ公表 指摘事項のみ公表 -

監査と評価制度の重複監査と評価制度が重複し非効率だと思ったことはありますでしょうか

市が第三者評価を実施しないので、非効率と感じた事はない

市が第三者評価を実施しないので、非効率と感じた事はない

各施設主体で実施しているため、非効率と感じた事はない

監査制度への親の参加監査に保護者視点を取り入れる取り組みを行っていますか

-監査項目に保護者満足度を入れているため、実質的に保護者の視点を取り入れている

-

現状

課題

実施目的

監査結果の公表

監査頻度

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54

表 12によると実施目的等、多くの項目については差異がみられなかった。し

かし、監査頻度に関しては、大きなばらつきがあり、文献調査の内容を裏付け

るものであった。国の方針に比べ監査の頻度が下がってしまう原因としては、

人員が足りないことがヒアリング結果から考えられる。また、監査結果の公表

については、C地域のみ非公表としている。

(イ) 評価制度の現状整理

a 現行制度の状況について

現状の評価制度は社会福祉法に定められており、第三者評価制度として運用

されている40。

第三者評価制度とは、事業者が提供するサービスの質を、事業者及び利用者

以外の公正・中立な第三者評価機関が専門的かつ客観的な立場から評価するも

のである41。個々の事業者が事業運営における問題点を把握し、サービスの質の

向上に結び付けることを目的とするものであり、評価結果が公表されることに

より、結果として利用者の適切なサービス選択に資するための情報となること

が期待される。

40 その中では「社会福祉事業の経営者は、自らその提供する福祉サービスの質の評価を行うことその他の措置を講ずる

ことにより、常に福祉サービスを受ける者の立場に立って良質かつ適切な福祉サービスを提供するよう努めなければな

らない」と規定されており(同法第七十八条第一項)、この条文から、保育所事業を含む社会福祉事業における第三者評

価の受審が推進されている。なお正式名称は「福祉サービス第三者評価」と呼ぶ。 41 厚生労働省雇用均等・児童家庭局長通知「『福祉サービス第三者評価事業に関する指針について』の全部改正につい

て」(平成 26年 4月 1日)

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55

図 32 福祉サービス第三者評価事業の推進体制

(出典)

社会福祉法人全国社会福祉協議会(平成 29年)

第三者評価を行う機関は、厚生労働省の助成・助言を受けた全国社会福祉協

議会と都道府県推進組織によって認証される。また、第三者評価の基準に関し

ては社会福祉協議会によってガイドラインが設定されている(表 13)。このガイ

ドラインの項目の中には、表 11で取り上げた監査の項目と比較すると一部重複

している項目がある。たとえば、表 11の「(1)ア(エ)職員の資質向上のための

取組を適切に行っているか。」と表 13の「Ⅱ-2-(3) 職員の質の向上に向けた

体制が確立されている。」である。

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56

表 13 福祉サービス第三者評価基準ガイドライン(保育所版)

(出典)

社会福祉法人全国社会福祉協議会から株式会社日本総合研究所編(平成 28年)

また、現行の保育所の第三者評価制度には以下のような課題があると言われ

ている。42

① 都道府県によって評価者や評価機関の認証基準が異なっているため、全国の

施設の結果を比較することができないこと

② 評価者の質がばらばらで、かつ保育所の側が評価者を自由に選択できること

から、評価結果の信憑性に疑問があること

42 株式会社日本総合研究所 池本美香「保育の質向上に向けた監査・評価の在り方」(平成 28年)

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57

③ 評価者や評価機関が広域的に活動し、評価経験を蓄積して、評価の質を高め

ていくことが難しいという問題があること

さらに保育所の第三者評価制度の受審率は、平成 24年度で 4.27%43とかなり低

くなっている。

図 33 第三者評価制度の受審状況

(出典)

公正取引委員会「保育分野に関する調査報告書」(平成 26年)

43 社会福祉法人全国社会福祉評議会「受審数等の状況」(平成 26年)

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58

図 34 第三者評価制度の受審状況

(出典)

公正取引委員会「保育分野に関する調査報告書」(平成 26年)

b 受審率の向上にむけた自治体の取組みについて

受審を促す補助制度の取組みを実施している自治体は少ない(図 35)。また、

公正取引委員会が実施した市町村に対するアンケートでは、回答者の 73.4%が、

「特に何もしていない」と回答している(図 36)。

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59

図 35 市町村における第三者評価制度の受審費に対する補助制度の有無

(出典)

公正取引委員会「保育分野に関する調査報告書」(平成 26年)

図 36 市町村における第三者評価の受審に係る施設の状況

(出典)

公正取引委員会「保育分野に関する調査報告書」(平成 26年)

c 保護者と第三者評価制度に関して

公正取引委員会が実施したアンケートによると、保育所利用者のうち、第三

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60

者評価制度の結果を参照したと回答したのはわずか 9.6%である(図 37)。また

第三者評価の結果を参照しなかった保育所利用者のうち 6 割以上がその理由と

して「第三者評価制度の存在を知らなかった」と回答している(図 38)。

一方、第三者評価の結果を参照した保育所利用者の 9割以上が、「参考になっ

た」、「どちらかというと参考になった」と回答しており、第三者評価制度は保

育所の利用者にとって役に立っていると言える(図 39)。

図 37 保育所利用者における第三者評価の利用状況

(出典)

公正取引委員会「保育分野に関する調査報告書」(平成 26年)

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61

図 38 保育所利用者が評価結果を参照しなかった理由

(出典)

公正取引委員会「保育分野に関する調査報告書」(平成 26年)

図 39 第三者評価制度の結果を参照した保育所利用者の感想

(出典)

公正取引委員会「保育分野に関する調査報告書」(平成 26年)

d 子ども・子育て支援新制度下における評価制度の状況

新制度下においては、評価制度における優遇措置として、公定価格における

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62

第三者評価受審加算がある44 45。また、「子ども・子育て支援新制度における『量

的拡充』と『質の改善』について」によると、表 14 のように、3 年に 1 度は全

額補助を行うことが検討されている46。

表 14 第三者評価等の推進について

(出典)

内閣府「子ども・子育て支援新制度における「量的拡充」と「質の改善」について」(平成 26年)

e 評価制度の義務化について

更に進んだ議論として、義務化を検討することも考えられるが、公正取引委

員会が実施したアンケートによると、第三者評価の義務化に対して、社会福祉

法人のおよそ半数が「賛成」、「どちらかというと賛成」と回答している。さら

に、68.8%の株式会社が「賛成」、「どちらかというと賛成」と回答しており、保

育事業者は第三者評価制度に対して積極的な姿勢を示していると言える(図 40

41)。

また、図 42、43によると賛成の理由として「保育士・職員が自らの保育を振

り返る機会になるから」、「保護者のためになるから」、「保育所間で保育が比較

されることで質の向上につながるから」等が挙げられている。一方、「反対」又

は、「どちらかというと反対」の回答の理由としては「受審費用が高いから47」、

「受審には多くの手間がかかるから」等が挙げられているほか、「自己評価や自

44 「厚生労働省 保育所における第三者評価の推進に関する検討状況について」(平成 27年) 45 この加算では、「15万円÷3月初日の利用子ども数」を 3月初日に利用する子ども保育料単価に加算することができ

る。 46 東京都では平成 26年度まで第三者評価制度の受審に関する補助があったが、それ以降はなくなっている(東京都福

祉保健局ホームページより)。 47 受審料は 1回平均的に 30万円程度である(社会福祉法人全国社会福祉協議会)。

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63

治体の指導・監査で十分に対応可能であるから」との意見もある。このことか

ら、第三者評価の必要性や意義を十分に認識していないと思われる保育事業者

もいることが分かる。

図 40 第三者評価制度の義務付けに対する事業者の意見及びその理由

(出典)

公正取引委員会「保育分野に関する調査報告書」(平成 26年)

図 41 第三者評価制度の義務付けに対する事業者の意見及びその理由

(出典)

公正取引委員会「保育分野に関する調査報告書」(平成 26年)

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64

図 42 「図 40」の回答理由

(出典)

公正取引委員会「保育分野に関する調査報告書」(平成 26年)

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65

図 43 「図 41」の回答理由

(出典)

公正取引委員会「保育分野に関する調査報告書」(平成 26年)

f 第三者評価制度の運用状況

第三者評価制度の義務化について先の項で述べたが、第三者評価制度そもそ

もの改善が必要かどうかについて考察するために第三者評価制度の運用状況を

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66

調べた。その結果、義務化以前に評価制度そのものの改善検討が必要であるこ

とが明らかになった。まず受審が決定した保育事業者は、評価機関から評価を

受ける前の書類準備が負担になっているとの声が非常に多い(図 44)。事前に準

備すべき書類は、①自己評価結果、②園のパンフレット、③直近の広報誌、④

事業計画、⑤事業報告、⑥収支予算書、⑦重要事項説明書、⑧契約書、⑨組織

表等である。また、当日には、①個別記録、②ボランティア受入れに関する書

類、③接遇に関する書類、④拘束・虐待に関するもの、⑤プライバシー保護に

関するもの、⑥安全管理に関するもの、⑦意見箱・提案箱に関するもの、⑧サ

ービスの標準的な手順、留意点に関するもの、⑨相談に関するもの、を準備す

る必要がある。これらを日常の保育業務と並行して準備することが、負担の増

大に繋がっていると推察される。

図 44 受審決定後の負担感

(出典)

田中まさ子「保育の質の評価に関する一考察―保育所と第三者評価―」(平成 26年)

また、評価項目や評価基準の中には重複する内容や、分かりづらい項目があ

り、答えづらいという声が約 4割の被評価保育所からあがっている48。同様に評

価基準の内容について改善が必要であるとの声も多い(図 45)。

48 田中まさ子「保育の質の評価に関する一考察-保育所と第三者評価-」(平成 26年)

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67

図 45 評価に用いた評価基準の内容に関して

(出典)

社会福祉法人全国社会福祉協議会「福祉サービスの質の向上に向けて」(平成 24年)

他にも評価機関を選ぶ際に、質のいい評価機関を選択することができないと

いう問題もある49。さらに評価結果は、保育所の同意がなければ公表することが

できないため50、今後、第三者評価制度そのものを改善していく必要がある。

(ウ) 監査及び評価制度の課題

上記より監査・評価制度のいずれも全国で、統一されていないことが分かった。

49 池本美香「保育の質の向上に向けた監査・評価の在り方」(平成 28年) 50 社会福祉法人全国社会福祉協議会「福祉サービスの質の向上に向けて」(平成 24年 3月)

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68

さらに、監査と評価制度の内容は一部重複していることが判明した。この項では

監査・評価制度の現状を受けての課題点を整理する。

・監査及び評価制度における重複の解消

監査及び評価制度においても、一部内容の重複が確認された。重複した監査・

評価制度は、事業者の負担になる。例えば評価制度で評価した内容を監査にも活

かすなど、重複をなくした監査・評価体制を確立させることにより、より効率的

に監査・評価制度を運用していくことが必要である。

こうした監査・評価制度に関して、一元的な監査・評価制度を確立している国

としては、ニュージーランドやイギリスが挙げられる51。これらの国ではそれぞれ、

Office for Standards in Education(以下「Ofsted」という。)及び Education Review

Office(以下「ERO」という。)という一元的な監査・評価制度体系を設けており、

今後の日本においてのモデルケースになりえると池本氏は述べている。このよう

な制度も今後参考にしていく必要がある。

・評価制度自体の改善の実施

評価制度に関して、今回の調査で受審率が著しく低いことが判明した。受審率

が低い理由としては受審時の保育事業者の業務負担が重いこと、評価項目に改善

の余地があること、評価結果の公表には保育所の同意が必要なこと等が挙げられ、

改善を検討していくことも考えられる。

・比較可能な評価結果の公表

保護者が保育所を選択する上で、施設の評価が分かりやすく公表されることは

重要である。そこで、「情報開示における現状と課題」で述べた福ナビを参考に評

価結果の公表方法を改善していく必要がある。福ナビでは、東京都の保育所が一

覧化されており、5年間の第三者評価が掲載されている。保護者は一覧化された保

51 池本美香「保育の質の向上に向けた監査・評価の在り方」(平成 28年)

Page 69: 平成 28 年度産業経済研究委託事業 保育ニーズに応じた保育供給 … · 6 3 現状及びこれからの保育供給の在り方 (1) 保育ニーズ増加の社会的背景

69

育所の情報を閲覧することができるため、保育所選びに資すると考えられる。

・評価制度の統一化による効率的な事例の蓄積

評価の実績を蓄積することでよりよい評価制度を作り出せる可能性がある。ま

た、全国共通の評価体制を作ることができれば、優れた保育所の事例を全国的に

広めることも容易になる。さらに、集約された評価結果を分析することで、政策

の立案及び遂行に活かしていくこともできるだろう。

Page 70: 平成 28 年度産業経済研究委託事業 保育ニーズに応じた保育供給 … · 6 3 現状及びこれからの保育供給の在り方 (1) 保育ニーズ増加の社会的背景

70

(4) 諸外国の保育政策

諸外国の保育政策を検討する上で、出生率が高くかつ保育分野52における財政支出の

割合が高い国は保育制度が発達しているであろうという仮説の下、フランスとスウェー

デンの 2か国を取り上げる。

フランスとスウェーデンの合計特殊出生率は、2013 年時点で主要国 7 か国及び経済協

力開発機構(以下「OECD」という。) の中で、上位に位置している(図 46)。また OECD に

よりまとめられた就学前教育・保育への公的投資の対 GDP 比についてもフランス及びス

ウェーデンは上位になっている(図 47)。積極的に保育政策に対して財政支出を行い、高

い出生率を維持していると考えられる。さらにフランス及びスウェーデンでは、女性の

就労率が日本よりも高いため (図 48)、女性が働きやすい環境も整えられていると考えら

れる。したがって、日本の今後の保育政策を検討するにあたり示唆が得られる可能性が

高い。これらの理由から次項からフランス、スウェーデンの保育政策を検討する。

図 46 主要国の合計特殊出生率の推移(2004~2013)

(出典)

52 諸外国では保育に教育を取り込んでいるケースがあり、保育政策といっても保育と教育の両方を指すことがある。

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71

OECDから株式会社船井総合研究所編(平成 28年)

図 47 就学前教育・保育への公的投資の対 GDP 比

(出典)

OECD, Starting Strong Ⅱ(2006)から株式会社船井総合研究所編(平成 28年)

図 48 15歳未満の子どもが少なくとも 1人以上いる 15~64歳の全ての母親の就業率

(出典)

OECDから株式会社船井総合研究所編(平成 28年)

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72

ア フランスの保育政策について

(ア) 保育政策

a 概要

フランスの幼児教育施設では 0~6歳までの子どもの受入れが行われており、

3歳を境に明確な違いがある。3歳以上児に対しては、保育学校という無償の公

教育機関への入学が保障されている。これは国民教育相の管轄のもと教育を受

けられる幼児教育機関であり、希望する家庭の子どもの就学が保障されている。

また、3歳未満児に対しては、乳幼児受入れ施設が該当する。施設型の保育所以

外にも、保育ママや自宅保育、母親アシスタント等、家庭的保育による受入れ

も実施されており、フランスの保育で重要な役割を担っている(図 49)。

図 49 2014年の乳幼児保育状況

(出典)

家族手当金庫「全国乳幼児生活報告書平成 27年」(平成 27年)から株式会社船井総合研究所編(平成 28年)

b 保育施設の状況

フランスの公的な保育施設は表 15のように規定されている。

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73

表 15 フランス保育所施設の概要

(出典)

社会福祉法人全国社会福祉協議会「機能面に着目した保育所の環境・空間に係る研究事業」(平成 21年)

(イ) 財政支出について

フランスの社会保障制度は、社会保険、労働災害補償、家族給付の 3 つの柱か

らなる。その中で家族給付は、フランス独自の制度である家族手当金庫によって

フランス Crèche collective(集団保育所) / Halte garderie(一時保育所) / Crèche familiale(家庭保育所) /Jardin d’enfant(児童園) / Multi - accueil(複合保育所)等【集団保育所】常時預かりの保育所。運営主体は地方自治体、親、協同組織。サブカテゴリーとして、親が運営に加わる crèche parentale(親保育所)、定員の小さな mini crèche(ミニ保育所)ないし micro– crèche(マイクロ保育所)がある【一時保育所】一時預かりの保育所。運営主体は地方自治体、親、協同組織【家庭保育所/家庭保育事業】保育ママの自宅での保育と共通施設での集団保育とを組み合わせた常時預かり(週のうち 4 日程度は保育ママの自宅で、それ以外の日は共通の施設で集団保育という合が多い)。運営主体は地方自治体、協同組織【児童園】常時預かり。保育所と幼稚園の中間的性格の施設で、保育所よりも教育的要素が強い。運営主体は地方自治体、協同組織【複合保育所】集団保育所に一時保育所が付設されているもの、集団保育所・一時保育所と家庭保育所が連携しているもの等。運営主体は地方自治体、協同組織【集団保育所】法律上は 6歳未満だが、実際にはほとんどの場合 3歳未満。3歳以上は幼稚園に入園するのが通常。障がい児等幼稚園入園を遅らせたい場合は3歳以上でも保育所に残ることができる【一時保育所】6 歳未満。3 歳以上の利用者は幼稚園の時間外に利用している場合が多い【家庭保育所】6 歳未満【児童園】3~6 歳【複合保育所】6 歳未満法令の定める最大定員は以下のとおり。カッコ内は公衆衛生法典における参照条文【集団保育所/一時保育所】60 名(R.2324-25)【親保育所】25 名(R.2324-25)【家庭保育所/家庭保育事業】150 名(R.2324-26)【児童園】80 名(R.2324-25)【複合保育所(集団保育所と家庭保育児業との複合施設)】100 名(R.2324-26)【ミニ保育所、マイクロ保育所】9 名(R.2324-28)※週平均の利用率が100%未満の場合に限り、週の間の数日は、定員数の一割まで、定員数を超過した人数の受け入れが認められる(R.2324-27)ただし、上記の法定定員を下回る定員を設定している施設が大多数であり、実際の平均的定員数は、集団保育所で 36 名(法定 60 名)、一時保育所で 15 名(同 60 名)、親保育所で 14 名(同 25 名)、家庭保育所/家庭保育事業で 62 名(同 150 名)となっている

面積基準

全国統一基準はなし【パリ市(推奨)】最大定員60人(年長20人、年中20人、年少20人)の保育所の場合、年長用、年中用、年少用各エリアそれぞれ120㎡、屋外スペース400㎡、その他87㎡【メーヌ・エ・ロワール県(同)】子ども1人あたり10㎡以上【イヴリン県(同)】総面積は子ども1人あたり10~12㎡。子ども専用区域面積は1人あたり6~8㎡

必要諸室

「施設は、教育計画の実施を可能にするようなものでなければならない。施設内部は、子どもの親の受入れや、従業員の会議が開けるように整備しなくてはならない。家庭保育事業(サービス)は、保育ママと子どもの親専用の区画と、会議室、子どもの知育活動専用スペースを設けねばならない。」(R.2324-28)県の推奨基準には具体的規定あり

職員配置保育士は(許可された最大定員数ではなく、実際の定員数に応じて)、歩けない乳幼児 5人につき1人以上、歩ける乳幼児 8 人につき 1 人以上。対象年齢の高い児童園に関しては、3~5歳の幼児15人につき平均1人以上。安全のために、最低2人の保育士を配置(R-2324-43)

その他全国統一の施設基準が設けられていない理由として、各種保育所は形態や場所、目的に応じて個別の性格を有しており、数値基準を設置すると施設計画の目的や運営を妨げる危険性があることが挙げられるle décret n° 2007-206 du 20 février 2007(2007 年 2 月 20 日付政令第 2007-206 号)根拠法令・資料

名称

定義

対象児童

人数

施設基準

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74

支給されており、その財源は事業主負担(給与支給総額の 5.4%)と一般社会拠出

金(労働者の給与等の 7.5%)である53。

(ウ) 日本にとって参考となる保育制度

a 保育方法自由選択補足手当

保育方法自由選択補足手当は前述した家族給付の 1つである。これは、6歳未

満の子どもを扶養している世帯(個人)が、母親アシスタント又はベビーシッ

ター(以下「保育者」という。)を個人的に雇用した場合に、その保育者を雇用

するために係る賃金や社会保険料の一部を補填するための手当である。保育者

を保護者が直接雇用した場合には、公的補助により保育料が低く設定されてい

る保育所に預ける場合と比べて、より多額の負担が発生するが、この手当によ

ってその負担差が縮小する。そのため保護者はより自由に保育方法を選択する

ことが可能となっている54。

b 母親アシスタント55

前述のとおり 3歳未満児に対しては、多様な保育サービスが用意されており、

施設型の保育より、母親アシスタントを含む在宅型の保育サービスが広くフラ

ンスの保護者に利用されており、特に母親アシスタントの数は増加傾向にある。

母親アシスタントとは、保育者の家において、最大 4 人の子どもを預かる保育

制度である。母親アシスタントは、公的機関である「母子保健センター」の認

可が必要になる56。また母親アシスタントでは、多様な教育プログラムを認めて

53 神尾真知子「フランスの子育て支援―家族政策と選択の自由―」(平成 19年) 54 神尾真知子「フランスの子育て支援―家族政策と選択の自由―」(平成 19年) 55 髙崎順子「フランスはどう少子化を克服したか」(平成 28年) 56 ニッセイ基礎研究所 天野馨南子「フランスにおける少子化社会脱却への道程の段階的考察-出生率 2.0を早期達成

したフランスの少子化対策を日本に活かすことは出来るのか-」(平成 28年 2月)

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75

おり、モンテッソーリ教育57などを取り入れている母親アシスタントもいる。そ

のため、保護者にとって安心できる保育を提供することが可能である。

また、近年では「母親アシスタントの家」という新たな保育制度が設けられ

た。この制度は数人の母親アシスタントが、共同の託児場所で保育する方法で

あり、保育所と母親アシスタントの折衷案として注目されている。

イ スウェーデンの保育政策について

(ア) 保育政策

a 概要

スウェーデンは男女平等の観点から、家庭と仕事の両立を可能とする社会経

済システムの構築に努め、子どもの権利保護の観点から子育てをめぐる社会的

支援制度の整備を推進してきた。公的保育を公教育の一環と位置付け、社会全

体で子どもを育む支援体制を整えている58。

スウェーデンでは主に、0 歳児については両親手当等を支給し、両親が出産・

育児休業を取得することで自宅保育を行っている。1 歳児については両親の育

児休業の取得又はプレスクールへの通学、2 ~5 歳児についてはプレスクール

等への通学により、親の就労・就学の両立を図りつつ、子どもの教育・保育を

行っている59。

57 モンテッソーリ教育とは、1人ひとりが独自の創造性を発揮しやすい環境を準備し、自主性・協調性・社会性をはぐ

くむ教育方法である。 58 高橋美恵子「スウェーデンの子育て支援―ワークライフ・バランスと子どもの権利の実現―」(平成 19年) 59 樋口修「スウェーデンの子育て支援策」(平成 23年)

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76

表 16 スウェーデンの教育保育機関

(出典)

樋口修「スウェーデンの子育て支援策」(平成 23年)から株式会社船井総合研究所編(平成 28年)

スウェーデンの就学前教育や保育は、親の就業・就学を可能にすると共に、安

全な保育環境の下で子どもの発達と学習を促進することを目的としており、教

育的性格が強いことが特徴である60。

これは、平成 8 年 7 月に社会省の管轄であった保育政策が、教育省に移管さ

れたことに起因する。そのため、就学前「保育」は就学前「教育」へと位置付

けが変わり、従来の保育所はすべて「就学前学校」と称されるようになった。

この移管の目的は、学校教育への準備段階である就学前保育を公教育の一環と

し、子どもの知識と能力の向上を図ることとされている61。

b 保育施設の状況

施設の概要は表 17のとおりである。

60 上智大学「諸外国における幼児教育・保育の現状や動向に関する調査研究」(平成 24年) 61 樋口修「スウェーデンの子育て支援策」(平成 23年)

教育保育機関 年齢家庭内保育 0~1歳

就学前教育(プレスクール) 1~5歳家庭型デイケアセンター 2~3歳

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表 17 保育所施設の概要

(出典)

社会福祉法人全国社会福祉協議会「機能面に着目した保育所の環境・空間に係る研究事業」(平成 21年)

政府は就学前の教育としてカリキュラムの大枠を規定しているものの、具体

的な内容は各地方自治体や就学前学校の裁量に任せている。そのため、各自治

体や学校はそれぞれ独自のカリキュラムを実践している62。

(イ) 財政支出について

国民の税負担率が高い一方で、国民に還元される社会保障水準も極めて高い。

平成 13年の社会保障支出の対 GDP比は 30.6%で、子どもと家族を対象とした現金

給付・サービス費は同 2.9%を占めている63。子どものいる家族への支援政策は、

①現金給付制度、②経済的負担の軽減措置、③その他の支援制度、の 3 軸から成

る。

62 上智大学「諸外国における幼児教育・保育の現状や動向に関する調査研究」(平成 24年) 63 På tal om kvinnor och män. SCB 2004

スウェーデンFörskola(就学前学校)/Familjedaghem(家庭型デイケアセンター)【就学前学校】常時預かりの保育所。運営主体は地方自治体・一般の会社を含む民間組織【家庭型デイケアセンター】常時預かりの保育所。運営主体は地方自治体・一般の会社を含む民間組織。通常、1人の保育士が自分の家庭で2~3家族の子どもを保育するという形を取る就学前のすべての児童。ただし0歳児については両親が育児休暇を取得して育児にあたることが前提とされているため、例外的な場合を除き、受け入れない。したがって実質的には、1歳から5歳までの児童である定員に関する一律の規制はない。ただし就学前学校については、1クラスの児童は 15~20 人程度、1つの施設に3クラス程度が設けられているというのが標準な形態として認知されているなおストックホルム市が 2003年に策定した計画では、1~3歳児のクラスの最適人数の目標を 12 人、上限を 14 人とし、4~5 歳児については、クラスの最適人数の目標を 16 人、上限を 18 人とした

面積基準【ストックホルム市】児童 1 人あたり 7.5 ㎡。玄関、廊下、おむつ替えの部屋、児童用のトイレは「児童のために使われる場所」として算入されるが、職員室、職員のトイレ、キッチン、倉庫等は算入されない

必要諸室

【ストックホルム市】トイレについては、児童 15 人あたり最低1つ以上設置することが推奨されている。またそれとは別に職員のトイレを設置しなければならない。また集合住宅の場合は、ベビーカーの置き場を確保し、ほかの住人の迷惑にならないようにしなければならない

職員配置全国基準なし、地方に義務的基準あり【ストックホルム市】1 クラスにつき 3 人の職員を配置するのが標準的である

その他【ストックホルム市】2 階以上に保育室を設ける場合、避難、採光、換気、天井高、有害物質、消防設備に関する規定ありSkolverket (2005) Kvalitet i förskolan.Stockholms Stad (2003) Förskoleplan för Stockholms stad.Stockholms Stad Miljöförvaltningen (2006) En skrift om miljö och hälsa i förskola, skola ochfritidshem.

人数

施設基準

根拠法令・資料

名称

定義

対象児童

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78

表 18 子どものいる家族への支援政策

(出典)

Elmér m.fl . (2000) Tabell 4.2 から「スウェーデンの子育て支援-ワークライフ・バランスと子どもの

権利の実現-」の筆者高橋美恵子編

またスウェーデンでは、国と地方自治体の間で、財政支出の明確な役割分担が

ある。国の主な役割は、現金給付を主体とした経済的保障(年金、妊婦手当、労災

給付、失業手当、住宅手当、養育費補助等)である。ランスティング64の主な役割

は保健医療サービスであり、歳出の 87%を占める。例えば、病院の 90%はラン

スティングにより経営されている。また、コミューン65の主な役割は、社会サービ

ス(児童福祉、高齢者・障害福祉、生活保護等)の提供であり、歳出の割合は福祉

関係が 51%、教育関係が 32%となっている。このようにスウェーデンでは実施

主体の役割は明確に分けられており、保育関係の実施はコミューンが担っている66。

コミューンでは 3歳~就学前のすべての子どもに対し、少なくとも年 525時間

の無料の保育サービスが提供される。また、保育サービスの自己負担額について

は 2002年 1 月から上限額を設定する制度が始まり、2011年 時点で全てのコミュ

64 ランスティング:県 65 コミューン:市町村 66 内閣府「スウェーデン企業におけるワーク・ライフ・バランス調査」(平成 17年)

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ーンがこの制度を導入している。67

(ウ) 日本にとって参考となる保育制度

a 休業制度及び両親保険制度

保育制度の特徴の 1つに「休業制度」が挙げられる。「両親休業法」に基づき、

就労する親には子どもが 1 歳半になるまで休職する権利と、子どもが 8 歳にな

るまで(あるいは小学校 1年生を終えるまで)、労働時間を所定労働時間(フルタ

イム)の 75%まで短縮する権利が保障されている。

この育児休業に関する給付制度の多くは、国により「両親保険制度」に管轄

されている。その主な財源は、雇用者が負担する社会保障拠出金(両親保険へ

の拠出は従業員給与の 2.2%)である。この各種手当は社会保険事務所を通して

対象者に支給される。両親保険には、出産予定日の 10日前から子どもが 8歳に

達するまでに両親で分割取得可能な「育児休業手当」と、子どもの出生後、父

親のみを対象とする「父親手当」、12歳未満の子どもをもつ親を対象とした「一

時看護手当」がある。さらにこれらの手当は労働時間短縮制度と併用して取得

することもできる68。

b 幼保一元化

またスウェーデンでは、幼保一元化が約 20年以上前に実施された。前述のと

おり、1996 年に就学前学校(保育政策)の社会省から教育省への行政移管が行わ

れた。また 1998 年には就学前学校カリキュラム策定及び就学前クラス(義務教

育の準備教育)の設置が実施された69。

67 厚生労働省「定例報告[2015年の海外情勢]スウェーデン王国」(平成 27年) 68 高橋 美恵子「スウェーデンの子育て支援―ワークライフ・バランスと子どもの権利の実現―」(平成 19年) 69 上智大学「諸外国における幼児教育・保育の現状や動向に関する調査研究」(平成 24年)

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80

就学前学校における学習指導要綱は表 19のとおりである。保育に子どもの学

びが取り入れられていることが分かる。

表 19 就学前学校学習指導要綱

(出典)

上智大学「諸外国における幼児教育・保育の現状や動向に関する調査研究」(平成 24年)

教育内容としては、言語、数学、自然科学、科学技術等がある。1年間に 1回

テーマを決め、そのテーマにそった活動やプロジェクト型の実践学習が行われ

ている。

1 就学前学校の価値観の基礎と任務2 目標と指針

2.1 規範と価値2.2 発達と学習2.3 子どもによる影響2.4 就学前学校と家庭2.5 就学前クラス、学校、学童保育との協同2.6 フォローアップ、評価、発展2.7 就学前学校長の責任

        学校学習指導要領

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81

4 保育事業者の経営力向上について

本調査では保育供給を支える保育事業者の経営力向上に必要な対策を検討するため、

保育事業者に対してヒアリング調査を行った。

経営力向上のためには、採算性の確保が求められる。保育園の収益については、主に

公定価格による利用者負担と補助金で賄われており、採算性を向上させるためには、バ

ックオフィス業務等を効率化させ、事務的経費を削減していくことが必要である。その

ためには、複数拠点展開による規模の拡大や本部機能の集約による効率化は重要である。

また、保育所の複数拠点展開を行うには保育士の確保が必要になるが、前述(3(2)を

参照)のとおり現状では保育士が不足している。複数拠点展開による規模の拡大を実現

するためには、組織マネジメント(採用、定着)強化、ICT活用を含む労働環境の改善が

必要不可欠になる。また、複数拠点展開を実際に行っている保育事業者へのヒアリング

を通して複数拠点展開の課題点を抽出することができた。本章ではそれらを述べていく

こととする。

(1) 事例調査

ア 調査方法

ヒアリング対象法人に事前にヒアリングシートを共有した上で、当日法人の代表

者である理事長、社長、保育事業の責任担当者等にヒアリングを行った。ヒアリン

グ内容は表 20のとおりである。

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82

表 20 ヒアリング内容

(出典)

株式会社船井総合研究所(平成 28年)

イ ヒアリングについて

(ア) 今回事例調査にてヒアリングを行った企業は以下のとおりである。

【株式会社等 5社】

・ 都市部分散展開:S社

・ 全国展開:A社

・ 委託事業全国展開:K社

・ 都市部分散展開:I社

・ 都市部一拠点展開:P社

【社会福祉法人 5社】

・ 都市部集中展開:S法人

・ 都市部分散展開:K法人

大項目 中項目 小項目

現在賃金評価制度を導入していますか

賃金評価制度作成後、定着にあたり行ったことがあれば教えてください

職員の賃金評価制度について、何か課題があれば教えてください

法人理念の浸透 代表者が現場職員と話す機会、もしくは法人全体で集まる機会の頻度を教えてください

現場の声の反映 現場職員の声を反映した実績はありますか

現場との意思統一 中間管理職との会議の頻度教えてください

学習機会 現場職員の研修機会の頻度を教えてください

直近3年間の勤務保育士数と退職者数の数値を教えてください

職員の定着のために設けている福利厚生がありましたら教えてください

保育士の定着について、何か課題があれば教えてください

現在ICTを導入していますかしている場合は導入の目的、導入に至る経緯を教えてください

導入しているICTの概要を教えてください(製造企業やコンサルティング企業等の仕組みも含む)

導入に当たり、何か課題がありましたら教えてください

ICTの導入後、残業時間等に変化はありますか

ICTの導入によって、保育士・保護者・児童から反響はありましたか

ICTの導入後、活用していく上での課題がありましたら教えてください

経営・組織マネジメントについて

賃金評価制度の導入について

保育士の定着について

ICT活用

ICT(機器・システム)の導入について

ICT活用の効果について

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・ 都市部分散展開:A法人

・ 都市部・地方部展開:J法人

・ 都市部二拠点展開:E法人

なお、上記における都市部は「首都圏(埼玉・千葉・東京・神奈川)、近畿圏(京

都・大阪・兵庫)」及びその他の政令指定都市・中核市と定義付け、それ以外を地

方とする。また「株式会社等」には、1法人のみ学校法人が含まれている。

ヒアリング先の区分・概要は表 21のとおりである。

表 21 ヒアリング 10 法人の概要

(出典)

株式会社船井総合研究所(平成 28年)

また、ヒアリング先を分類すると図 50 51のように分けることができる。

法人区分

No. 1 2 3 4 5

法人名 S社 A社 K社 I社 P社

展開施設

地域の待機児童問題の解消のため、積極的に保育事業の展開を実施してきた。複数展開を行うことのメリットを感じながらも、課題も多く存在すると感じている

創業時から企業理念のもと、施設展開を続けている

複数拠点展開を実行する際の判断基準が、よりよい保育を提供したいという気持ちが前提にある。拡大戦略の一環として複数拠点展開を重視している

展開する施設を分散させないことで職員の各園間のヘルプ・異動を可能とし、人件費率を45%ほどに抑えることができている

現在は平成28年7月に開園した1園のみを運営しており、施設展開も検討している

展開都市 都市部分散展開 全国展開 都市部分散展開 都市部一拠点展開

複数展開 ○ ○ ○ ○ ×

ICT導入 ○ × × ○ ○

法人区分

No. 6 7 8 9 10

法人名 S法人 K法人 A法人 J法人 E法人

展開施設将来に夢を持てるような職員のキャリアパス構築のために、施設展開を続ける

人の効率化を目的とし、施設展開を行う

認可保育所を、関東圏を中心に複数園展開している保育園としては珍しいコンセプトとして打ち出しており、メディアにも取り上げられている

施設展開によりスケールメリットが働くことで、コストの削減に繋がる

2000年代に社会福祉法人を設立また系列法人として学校法人も展開しており、多様化する地域社会のニーズに応えるべく、介護・保育・幼児教育を三本柱とした事業展開を行っている

展開都市 都市部 都市部分散展開 都心部分散展開 都市部・地方部展開 都市部二拠点展開

複数展開 ○ ○ ○ ○ ○

ICT導入 ○ × × ○ ×

株式会社等

社会福祉法人

Page 84: 平成 28 年度産業経済研究委託事業 保育ニーズに応じた保育供給 … · 6 3 現状及びこれからの保育供給の在り方 (1) 保育ニーズ増加の社会的背景

84

図 50 事業区分×ICT 導入

(出典)

株式会社船井総合研究所(平成 28年)

図 51 展開拠点×展開数

(出典)

株式会社船井総合研究所(平成 28年)

(イ) ヒアリング対象企業のまとめ

本章冒頭で述べたとおり、採算性の向上を目指すにあたって、組織マネジメン

ト(採用、定着)強化、ICT活用が必要不可欠な施策として挙げられる。また、複

数拠点展開そのものを実施するにあたっての課題点も考察する。

まず、組織マネジメント(採用、定着)強化に関する、10 法人に対するヒアリ

ング結果のまとめは以下のとおりである。

Page 85: 平成 28 年度産業経済研究委託事業 保育ニーズに応じた保育供給 … · 6 3 現状及びこれからの保育供給の在り方 (1) 保育ニーズ増加の社会的背景

85

a 組織マネジメント(採用、定着)強化について

まず、組織マネジメント(採用、定着)強化に関する、10 法人に対するヒア

リング結果のまとめは以下のとおりである。

(a) 職員の採用について

【実施している施策】

・ 採用以後の理念浸透を重視するため、新卒採用を主としている

・ 法人理念を採用前に伝えることで、採用後のミスマッチを減少させ、採

用以後の定着に結び付けている

・ 社員紹介制度の導入等、縁故採用を活用することで定着率の向上につな

げている

【認識されている課題】

・ 紹介会社を介した採用が増加傾向にあるため、中途採用を中心に展開し

ている法人では採用コストが年々増加している

・ 競合保育事業者の増加により、採用が困難になってきている

【まとめ】

職員の採用については、いかに事前にミスマッチを減らすことができるか

が 1 つのポイントとなる。そのため、採用段階で自園の方針や理念を求職者

に伝え、共感し就職してもらう仕組み作りが必要である。

(b) 定着率向上に向けた働きやすい環境づくり

【実施している施策】

・ 研修機会を定期的に設け、職員の自己実現を園内で実施できるようにサ

ポートを行っている

・ 離職率の低下や保育士のモチベーションの向上のため、評価制度を導入

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86

している

・ 評価制度の中で年に数回定期的に職員との面談を実施し、評価だけでな

く職員の考えについてヒアリングを実施している

・ 研修機会を定期的に与え、必須研修以外に自主的に参加できる研修機会

を設けている

・ 家賃補助の支給を実施している

・ 個々の職員の状況に合わせてフレックス制の時短勤務を導入する等、柔

軟な働き方に対応できるよう工夫を行っている

・ 法人トップより直接理念や方針を聞く機会が年に1度以上設けられてい

・ 法人のトップが定期的に各園に訪問したり、役職階層別の会議に最低で

も年に 1回は参加するようにしている

・ 法人規模が拡大しても、園長会議を月に 1度以上実施している

・ 仕事の持ち帰りが保育士の負担になると考え、持ち帰りがそもそもでき

ない環境を整備するべく保育業務の見直しを実施している

・ 子育て関係の支援制度を法定よりも手厚く整備している

・ 保育時間以外の作業工程を簡易化かつフォーマット化し、作業時間を減

らしている

・ チューター制度の導入により、フォロー体制を強化することで早期離職

を防ぐようにしている

【認識されている課題】

・ 定着のためには労働環境の改善が必要であると考えているが、どのよう

な施策を行うべきか分からない

・ 各職員の評価は行っているもののその評価が、賃金に直結しない場合が

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87

多々あり、運用方法に悩んでいる

・ 人材不足により、やむを得ず理念にそぐわない人材を採用してしまった

場合、定着率が下がってしまう

・ 男性の育児休業取得の推進がなかなか進まない

【まとめ】

働きやすい環境整備のため、各法人が様々な施策を行っている。特に法人

トップとの接触頻度を増やすことや研修を取り入れることで、理念の浸透を

図っている法人が多く見られた。また、チューター制度の導入が早期離職の

防止施策として功を奏している法人もあった。保育士の残業時間が増加した

ことにより離職者が増えたという経験を持つ法人が多く、危機感を持ってい

るため、残業時間の削減に向けて保育業務の見直しに取り組んでいる。

b ICT活用について

ICT活用については次のようなヒアリング結果となった。

【ICT導入の背景】

・ 業務負担の軽減

・ 業務効率化

・ 残業時間の減少

・ 情報共有のしやすさ、業務スピードの改善

・ 保育に従事する業務時間の拡大

・ 保護者満足度向上のための施策

・ 経理や人事系の業務軽減、本部での業務の一元化

【ICT活用の効果】

・ ペーパーレス化の促進

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88

・ 作業時間の短縮による保育時間の増加

・ 業務効率化

・ 連絡帳記載内容の共有化

・ 保護者満足度の向上

・ 保護者負担の軽減

【ICT活用の課題】

・ 保育士の ITスキル不足により、使いこなすのに時間がかかる

・ 登降園管理では 1分単位で時間が管理されるため、1 分でも降園時間を

過ぎると延長請求とされてしまうことから、導入初期には保護者から否

定的な意見が出ることが想定される

・ 残業時間の減少に直接的な影響があるかどうか、明確な相関関係が判断

しづらい

・ まとまった初期投資が必要

【まとめ】

ヒアリング対象企業の中で、ICTを積極的に活用している企業の平均残業時

間は一般保育士が 1~2 時間/月、園長が 10 時間/月であった。しかし、残

業時間削減を目的とする場合は ICT導入のみに頼るのではなく、「残業をして

まで行う作業は意味が無い」とう意識付けを日々行うことが重要である。そ

の結果、職員が日々の業務の隙間時間を上手く活用し、事務的な業務を行う

ようになったと実感できている法人もある。

c 複数拠点展開について

最後に、複数拠点展開については次のような結果となった。

【複数拠点展開のメリット】

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89

・ 効率的な人員異動による相互サポート体制の充実化が図れる

・ 1 園では限界のある保育士ポストの確保、法人の社会的な位置づけの向上

が見込まれる

・ 事務機能の統一、および法人での一括採用によるコスト低減が見込まれる

・ 成功事例の蓄積スピードが加速化することで、より充実した法人運営の実

現が見込まれる

【複数拠点展開を実施する際の課題】

・ 施設間の距離があると、職員間の異動が難しい

・ 遠方やドミナント展開していないエリアは応援に行きにくく、応援に手間

や費用がかかる

・ 複数拠点展開を実施している法人に対するメリットが、現状の制度におい

ては少ない

・ 複数拠点展開を行っても社会福祉法人の理事長報酬が増えない

・ 社会福祉法人は内部留保の使途制限により、展開による享受が少ない

・ 同じ 23区内でも地域によって手当、加算、補助が異なり、平等性を担保で

きないために制度を利用することができない場合がある

・ 制度が自治体によって大きく異なっており、諸手続き等に必要以上の手間、

時間、人件費を要することになる

・ 保育士不足により展開スピードが遅い

・ 本部人員も限られた人数で行っているため、人の育成に手が回りきらない

ことがある

【まとめ】

複数拠点展開をすることで得られるメリットは各経営者の中で明確に認

識されてはいるものの、現制度では複数拠点展開を推進するには不十分な

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90

点が多々あると感じられていることがわかった。一方で、複数拠点展開は、

事務機能の統一化や経営ノウハウ蓄積によるコスト削減をもたらし、保育

士のキャリアアップや人事異動による組織マネジメント改善に対する期待

があるとの声が多かった。

(ウ) ヒアリング対象企業における現状と課題

マネジメントにおいては採用段階でミスマッチをいかに減らして採用できるか

がポイントである。そのためには法人理念をしっかりと伝え、そこに共感をした

職員を採用していくことで、その後の定着にもつながる。さらに定着施策の一環

とし、研修制度の充実や評価制度の運用も多くの法人で見受けられた。

また、すでに ICT を活用している法人においては、作業時間の短縮による保育

時間の増加、業務の効率化、保護者満足度の向上等の効果が出ていることが分か

った。しかし、全園で完全に導入しているところはいまだ少ない。その理由とし

て、費用対効果が明確ではないこと、まとまった初期投資が必要なこと、さらに

保育士の ICTリテラシーの低さ等が挙げられた。

最後に、複数拠点展開に向けて、ヒアリング対象企業のうち大多数は保育士の

採用・定着、収益性の向上が必須事項であると考えていることが伺えた。しかし、

自治体間での諸手続きや申請書類の差異により必要以上の労力や人件費がかかっ

ていること、同じ都道府県内であっても管轄市区町村によって手当や加算が異な

るために制度利用を諦めていること、現制度では複数拠点展開をするメリットが

享受しにくいこと等、課題を抱えていることが分かった。

次項では文献調査でこれらの課題にさらに迫っていくことにする。取り上げる

テーマとしては、ヒアリングで課題が浮き彫りとなった ICT 活用と複数拠点展開

に絞る。

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91

(2) ICT活用における経営効率化

ア ICTが解決できる保育現場のオペレーション

前項では ICT を導入している法人の ICT の効果についてのヒアリング結果を示し

た。ここでは、具体的にどのような業務が ICTによって効率化されるかを検討する。

表 22には、保育士が 1日に 5分以上費やす業務の内容と時間、発生率が示されて

いる。保育士が最も時間を費やしている業務は、「室内遊び」、「会議・記録報告(施

設内の活動)」であり、それぞれ 1 日 62.6 分、52.5 分の時間を使っていることが分

かる。

この中で ICT によって業務が効率化される可能性が高いのは、事務的業務だと考

えられる。たとえば「連絡帳:13.8 分」、「保育の計画・準備・調整:8.8 分」、「登

降園時のコミュニケーション:8.0分」、「保育の記録:6.8分」が挙げられる。

表 22 保育士 1 人 1日当たりの主な業務の時間及び業務発生

(出典)

厚生労働省「第 1回保育士確保対策検討会における『保育士等における現状』」(平成 27年)

ここで、表 22 の中から ICT 効率化に適した保育業務を抽出し表 23 で具体的に示

した。「連絡帳」であれば、記載内容の確認や家庭連絡の記入、「保育の計画・準備・

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92

調整」であれば子どもの育成計画の作成やその確認などが業務内容にあたる。また、

「登降園時のコミュニケーション」は、子どもが何時に来たのか、何時に帰ったの

かだけではなく、保護者と保育士の交流の時間も含まれる。さらに、「保育の記録」

は、児童票や成長記録の作成、発達経過の記入などを行う。

また、表 22 では保育士の業務のみを挙げたが、保育所には会計、事務・総務、人

事などの業務も存在する。表 23では、それを加味した場合の業務効率化可能業務を

整理した。次項では、具体的に使用できる ICTツールを紹介する。

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93

表 23 保育士 1日当たりの主な業務内容と具体的な業務例

主な業務内容 具体的な業務例

連絡帳 連絡帳記載内容の確認・指導

家庭連絡

保育の計画・準備・調整

教育・保育計画の準備・立案・指導

(日案・週案・月案・年間における)

反省・評価についての確認評価

登降園時のコミュニケーション 登降園管理

登降園時の保護者とのコミュニケーション

保育の記録

児童票の点検

成長記録の点検(身長・体重等)

発達経過記録の点検

教育・保育諸記録に関する点検と管理

事務・総務

連絡・保護者管理

情報共有

消防訓練の準備対応

アレルギー対応

自治体への報告資料作成

会計

各種請求管理

帳簿

現金管理の出納帳

人事

求人案内

シフト管理

勤務表・勤怠管理

給与計算

(出典)

株式会社船井総合研究所(平成 28年)

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94

イ 具体的な ICT ツールの種類と特徴

表 24は保育事業における ICTサービスを提供している企業と、そのサービス内容

及び特徴を示したものである。

表 24より基本的にどの企業も保育計画、登降園管理、指導計画等の一般的な保育

業務に関するものはサービス内容に入れていることが分かる。一方で、1つの内容に

特化したサービスを提供している企業もある。共通するサービスはあるものの、各

社とも差別化を図っており、企業ごとに特色のある ICT サービスを提供しているこ

とが分かる。

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95

表 24 主な ICTベンダーのサービス内容及び特徴

(出典)

株式会社船井総合研究所(平成 28年)

連絡帳 保育の計画・準備・調整 登降園時のコミュニケーショ ン 保育の記録 事務・総務、会計、人事

株式会社日立システムズ保育施設向け業務

支援サービス保育計画

登園管理

降園管理

園児基本情報管理

日誌作成

保護者管理

連絡管理

請求管理

・HITACHIのグループ会社が実施している保育施設向けの業務支援サービス

・そのため日立システムズのヘルプデスクサービス、現地サポートを受けられる

NTT東日本&株式会社グローバルブリッジ Child Care System保育計画作成

幼児教材成長記録

自動シフト作成

請求サポート

消防訓練

おたより作成

アレルギー対応

小口現金出納帳

求人掲載

発注g-mallshop

・NTT東日本の基幹システムを活用して生まれた保育業務の効率化支援システム

・(この会社による)直営認可保育園20園で実際にノウハウを蓄積したシステムを活用し

ている

・30分区切りでのシフト作成機能がついている

・消防訓練、アレルギー対応機能、おたより作成機能など付帯サービスが充実してい

日本ユニシス株式会社 ChiReaff Space園児台帳/園児カルテ指導計画

の策定出欠登録/出欠管理 発達記録

シフト管理

アレルギー管理

・40,000人の子どもの成長データに基づいた基本情報により成長段階に応じた指導計

画を作成できる

・園児台帳、アレルギー管理も可能

株式会社シーアイエヌ はぐくむ保育 計画作成 登降園バーコード管理

日誌の記録

成長記録

身体測定

健康診断

成長チャート

児童保育要綱

予防接種

保護者確認

園児台帳

卒園児管理

・開発の協力が社会福祉法人の東京都同胞援護会であるため、保育の実態により即

したサービスを提供している

・保育所保育指針などの園の指針を3,800事例完備

・監査資料の提出内容にも対応

・園児の健康や防災・安全面にも対応

株式会社リクルートホールディングス kidsly(キッズリー)

連絡帳

園からのお知らせ

カレンダー

フォト

個別連絡

登降園管理

・リクルートが実施している保育サービス

・初期費用0円、月額利用料0円

・スマートフォンを利用した保護者と保育士の連絡ツール

三井情報株式会社 きっずノート

連絡帳

お知らせ

アルバム

カレンダー

・スマートフォンとPC対応の連絡帳ツール

・お知らせ機能で、写真や画像、動画を共有可能

・本日の食事をタイムリーにスマートフォンで共有

・投薬依頼など子どもの健康面でも支援

日本ソフト開発株式会社 キッズビュー個別お便り

掲示板

年間・月間・週間指導計画

年間・月間行事計画

個別指導計画

出席簿

QRコード管理

タッチ出欠管理

スマホ・携帯予約伝言受付

個人記録

保育日誌

身体検査の記録

発達チェック

保育要録

指導要録

こども要録

午睡記録

保険記録

名簿

名前シール

連絡網連絡先

家族情報

禁忌情報

生育歴

アレルギー管理

保険料計算

・1年間の子どもの成長記録をまとめる「要録作成」システムを日本で初めて開発・導

・PCからだけではなく、スマートフォンや携帯からも情報を入力することができる

・各種業界団体から推薦・紹介を受けている

・WEB上に園独自のライブラリが無償で設けられており、日々作成する個別の文書な

どを園関係者で共有化できる

・第三者評価の事前シミュレーション機能なども備えている

・送迎バス管理システムも連携し、保護者向けにバス位置表示や接近案内ができる

ニューアーチデザイニング株式会社 wel-kids 指導計画管理

出欠簿

登降園記録

園児情報の集計

保育予約

オプション予約

園の様子

保健集計

保育日誌管理

献立

レシピ

お休み・遅刻申請

延長保育料計算

オプション管理

シフト管理

勤怠管理

勤務表

申請書

情報共有

ヒヤリハット管理

事務日誌

・タブレット型の登園・降園記録システム

・口コミで評判が広がりユーザーが増えている

・セキュリティ対策が整っている(自治体向け業務支援システム導入数500団体以上の

実績を持つIT企業によるシステム管理を受けられる、外部監査機関の審査を毎年実

施)

株式会社エステム SAKURA System メール連絡

年間・月間・指導計画

週案

個別指導計画

タッチ出欠確認

園児台帳

成長記録

行事記録

グラフシミュレーション

保育記録

日誌出力

保育所児童保育要録・児

童保育要録

保護者請求

事故・ヒヤリハット・相談・

苦情管理

・新保育所保育指針に対応した各計画書、指針要領の文言から計画を応用作成した

り、義務化されている卒園時に小学校へ連携する保育所児童保育要録も標準搭載

・保育指針準拠の各種計画書は専門の保育大学教授の協力のもと作成

・(運営会社が大阪市にあることも起因していると思われるが)大阪府下で一番活用され

ている

特徴企業名 システム名サービス内容

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96

また前項で挙げた ICT 導入により改善可能な業務と ICT ベンダーが提供している

サービス内容を体系的に分類すると、表 25のようになる。

表 25 保育士 1日あたりの主な業務内容と ICTベンダーが提供しているサービス内容

主な業務内容 ICT ベンダーが提供しているサービス内容

連絡帳

連絡帳 フォト 個別連絡 園からのお知らせ カレンダー

保育の計画・準備・調整 保育計画 幼児教材 本日の食事

登降園時のコミュニケーション 登園管理 降園管理 登降園バーコード管理

保育の記録

日誌作成 おたより作成 成長記録 健康診断 予防接種 児童保育要録

事務・総務

園児基本情報管理 連絡管理 保護者管理 情報共有 消防訓練 アレルギー対応 発注 g-mallshop 遊具・設備点検 投薬依頼 事故・ヒヤリハット・相談・苦情管理

会計 請求管理 小口現金出納帳

人事

自動シフト作成 求人掲載 勤怠管理 勤務表

(出典)

株式会社船井総合研究所(平成 28年)

表 25 のとおり、ICT の導入により改善が見込める業務に対し、ICT サービスが提

供されていることが分かる。

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97

ウ ICT導入による効果について

下記では ICT 導入した時の業務効率化効果を示す。

(ア) ICTにおける業務効率化の定量的効果

以下にシステムの例を示す。

・日本ソフト開発株式会社(キッズビュー)70

キッズビューは、保育教諭を支援する総合保育ポータルサイトで、インターネ

ット利用による保育業務の時間短縮やサポートを目指すシステムである。この事

例によれば、「保育の計画・準備・調整」の項目で、業務時間が短縮した例を挙げ

ている。月間実績で以下のような効果がみられたと報告されている。

・ 月間指導計画:90分から 30分まで削減

・ 週間指導計画:6時間から 2時間まで削減

・ 個人記録:8.3時間から 3時間まで削減

・ 要録作成:40時間から 19時間まで削減

・株式会社リクルートホールディングス(kidsly)

スマートフォンや交流サイトを活用することが特徴である。以前は 1 時間かか

っていた 12 名分の連絡帳作成をおよそ 20 分に短縮できたという事例がある。ス

マートフォンで撮った写真を載せたり、予測変換機能により記入時間を削減する

ことで、業務時間が短縮された。

以上の ICTベンダーの事例により、ICT導入の効果を確認することができた71。

(イ) ICTにおける業務効率化の定性的効果

70 キッズビュー公式ホームページから抜粋(http://kidsview.jp/news/kv-video.html) 71 事業会社からの事例紹介であること、事例数が少ないことから、実際の効果には差異がある。

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ICTの導入による労働環境の定性的な改善の可能性も考えられる。包括的な調査

がなされていないため、雑誌や新聞での調査になるが、ICTを導入した事業者から

は以下のようなメリットが挙げられている72。

・保育士及び事業者側のメリット

・ データの一元管理による業務ミスの軽減

子どもの情報を保育士間で共有することで、子どもに関する情報共有漏れ

を防ぐことが出来る。

・ 仕事の質の改善

子どもだけでなく保育士や教諭自身の業務記録も残せるため、日々の業務

を振り返り、課題を踏まえながら仕事の質を向上させるためのアイデアを考

えることができる。

・ 保育士のモチベーションの向上

保護者との距離が SNSを通じて近づくことで、保護者からのコメントや相

談の頻度が増え、保育士の勤労意欲が上昇することが期待できる。

・保護者側のメリット

・ 保護者の満足度の上昇

保育士が保育時間中に子どもの写真を保護者に届けることで、子どもの状

況がリアルタイムで分かるため、子どものことをより知ることができ、保護

者の満足度が向上するという効果が期待できる。

・ 保護者と保育士の親密性向上

SNSを活用することにより連絡の頻度が上がり相談や連絡を気軽にできる

ようになる。

以上のように、保育事業者や保育士にとっては、保育士間のコミュニケーショ

72 ビジネス+ICT「ICTとマニュアル化でコストダウン!女性を支える保育の今に迫る」(平成 27年)、日本経済新聞社

「ICT化の”最終ランナー”保育の現場を変える」(平成 28年)

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ンの円滑化や、様々な情報の記録が容易になることによる業務の質の向上等の点

で、ICTの効果がみられる。また、保護者にとっては、ICTの導入により、保育士

との距離が近くなること、連絡・情報交換の円滑化における効果が大きい。した

がって、ICT を導入することにより、量的な観点だけでなく質的な改善の可能性も

あると考えられる。

エ まとめ

最後に今まで議論してきた保育士の主な業務内容と、ICT化における試算内容をま

とめた結果を表 26に示す。

左から、「主な業務内容」、「具体的な業務例」を示している。次に「ICT ベンダー

が提供しているサービス内容」を載せ、今回試算した「試算業務例」とその業務の

月当たりの時間及び日当たりの時間を示している。ICTベンダーごとにサービス内容

が異なるが、たとえば、連絡帳記録であれば、改善前 20.8分から改善後 6.9分のよ

うに ICT導入によって業務時間を短縮することができることが分かる73 74。

73 この合算は 100名規模の保育所を仮定し行っているが、一部の ICTベンダーは、保育所の規模感を把握しておらず、

また、会計と人事に関しては他業界から引用しているため、条件が一致した試算結果になっていない。

74 複数人で分担している場合は、その人数分だけ削減時間が按分されることになる。これは、1施設あたり実質 1人で

全ての試算業務例を抱えている場合における数値である。

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100

表 26 ICT で業務効率化できる領域と試算結果

(出典) 75

株式会社船井総合研究所(平成 28年)

75 人件費は、非常勤講師が時給 1,000円と仮定。連絡帳記録は、12名分の削減効果を事例で挙げたが、ICT導入における効果をより正確に表すため試算では 100名分として明記してい

る。また、保育所は月に 24日開所と仮定した。会計の一部の業務において 100名程度の払戻伝票が毎月あると想定。会計に関しては、前橋市立元総社南小学校「児童生徒と向き合う時

間の確保に向けた業務改善」から引用した。また人事に関しては、株式会社エフエムが公表している毎月の給与計算処理時間を参考にした。

主な業務内容 具体的な業務例 ITで業務効率化可能な例 試算業務例 改善前(分/日) 改善後(分/日) 差分(分/日) 人件費改善前(円) 人件費改善後(円) 差分(円)

連絡帳連絡帳記載内容の確認・指導家庭連絡

連絡帳フォト個別連絡園からのお知らせカレンダー

連絡帳記録 20.8 6.9 13.9 340 110 230

月間指導計画 3.8 1.3 2.5 60 20 40

週間指導計画 15.0 5.0 10.0 250 80 170

登降園時のコミュニケーション 登降園管理 登園管理 登降園管理 - - - - - -

自治体への報告資料作成と提出 - - - - - -

個人記録 20.8 7.5 13.3 340 120 220

要録作成 100.0 47.5 52.5 1,660 790 870

事務・総務

連絡・保護者管理情報共有消防訓練の準備対応アレルギー対応自治体への報告資料作成

園児基本情報管理連絡管理保護者管理情報共有消防訓練アレルギー対応発注g-mallshop遊具・設備点検投薬依頼事故・ヒヤリハット・相談・苦情管理

利用名簿の登録及び整理 - - - - - -

会計各種請求管理帳簿現金管理の出納帳

請求管理小口現金出納帳 払い戻し伝票への記載 5.0 0.2 4.8 80 0 80

人事

求人案内シフト管理勤務表や勤怠管理給与計算

自動シフト作成求人掲載勤怠管理勤務表

給与計算処理 15.0 2.5 12.5 250 40 210

保育の記録

児童票の点検成長記録の点検(身長・体重他)発達経過記録の点検教育・保育諸記録に関する点検と管理

日誌作成おたより作成成長記録健康診断予防接種児童保育要録

保育の計画・準備・調整教育・保育計画の準備・立案・指導(日案・週案・月案・年間における)反省・評価についての確認評価

保育計画幼児教材本日の食事

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101

オ 現状の ICT導入における課題

以上の ICT 導入による効果を踏まえて、導入を検討した場合に保育事業者が直面

するであろう ICT導入の課題を挙げる。

(ア) 不明瞭な費用対効果

前述のとおり、ICTの導入には、定性的・定量的にもメリットがあることが分か

ったが、保育事業者にとってはその効果が見えにくい。定量的な情報は公表され

ていないところが多いため費用対効果がわかりにくいという現状がある。

したがって、ICT機器やシステムを導入することを通して得られる費用対効果を

明確にする必要がある。

(イ) 現場における ICT機器の不足

ICTを導入するためには、パソコン、スマートフォン、タブレット端末などが必

要である。しかし、保育所における機器の設置数は極めて少ない。パソコンであ

れば、設置数 0 台が保育所全体の 21.8%、1 台が全体の 27.1%になっており、パソ

コンの設置数が 1 台以下の保育所が全体の約半数を占める(図 52)。また、タブレ

ット端末はほとんど保有されていないことが分かった(図 53)。

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102

図 52 保育士が使用できる ICT機器(PC)

(出典)

社会福祉法人日本保育協会「保育士における業務の負担軽減に関する調査研究報告書」(平成 26年度)より

株式会社船井総合研究所編

図 53 保育士が利用できる ICT機器(タブレット端末)

(出典)

社会福祉法人日本保育協会「保育士における業務の負担軽減に関する調査研究報告書」(平成 26年度)より

株式会社船井総合研究所編

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103

保育所の ICT 導入に当たり、その効果を最大限発揮するために必要十分な ICT

機器設備が整っていないことが原因で ICT導入が進まない可能性が考えられる。

ICT化を進めるにあたって最低限必要な ICT機器数はどの程度なのだろうか。

各保育施設に必要な PC 台数について、保育業務の所要時間から試算した結果、

表 27のようになった。

表 27 前提条件と試算

(出典)

株式会社船井総合研究所(平成 28年)

表 27 から 15 人の保育士が全員稼働していて、かつ、29.4 分後にすぐ次の人が

パソコンを使えるケースを考えてみると、1日に約 16名(保育士の労働時間/合計)

が使える計算になるため、1 施設 1 台の PC があれば ICT 化を進めることができる

と試算される。

ただし、現場では 1 日の保育スケジュールに従い行動するため、パソコンの利

用時間が被る場合は、複数のパソコンが必要になる。したがって、重複するケー

スを考えると 2台~3台は保有しておくことが望ましい。一方、タブレット型端末

の利用目的としては登降園管理が主であるため、1 施設 1 台は最低限設置したい。

一般的に想定される保育所認可保育所(定員数) 60保育士(人) 15保育士の労働時間 480

ITで業務効率化が可能な領域連絡帳 13.8保育の計画・準備・調整 8.8保育の記録 6.8合計 29.4(注)「登降園時のコミュニケーション」は主にタブレット端末になるためここでは省略

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104

さらに、スマートフォンを活用する場合は連絡帳機能が主となるため、保育士 1

人あたり 1台の準備が必要であると考えられる。

(ウ) ICTリテラシーの不足

ヒアリング結果から ICT を導入しても活用できない保育士が多いことが分かっ

た。したがって、ICTの導入を進めるためには保育士の ICTリテラシーの向上につ

いても考える必要がある。

・教育カリキュラムや保育士試験における ICTリテラシー向上の検討

現状の保育士養成課程におけるカリキュラムを示したものが表 28である。大分

類としては、教養科目、必修科目、選択必修科目からなっており、必修科目はそ

れぞれ、①保育の本質・目的に関する科目、②保育の対象の理解に関する科目、

③保育の内容・方法に関する科目の 3 つから構成されているが、そのカリキュラ

ムには ICTを取り扱う分野が存在しない。

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105

表 28 保育士養成課程教科目と保育士試験科目

(出典)

厚生労働省「指定保育士養成施設の指定及び運営の基準について」(平成 27年)

また、保育士試験においても、ICTに関連する出題範囲は存在しない76。以上から、

ICTリテラシー向上に関する保育カリキュラムが整備されておらず、保育士試験に

も ICT リテラシーの項目は存在しないことから、保育士資格取得前に ICT リテラ

シーの向上を図るプログラム等を整備することも考えられる。

・資格習得後の取組みについて

保育士資格取得前に ICT リテラシーの向上を図るプログラム等を整備すること

以外にも、保育士資格取得後における取組みで ICT リテラシーの向上を図ること

が可能である。保育現場での OJTにおいて ICT機器を導入して業務を行うことや、

OFF-JT において協会や研修機関の ICT スキル向上研修への参加、システム会社に

76 一般社団法人全国保育士養成協議会「保育士試験とは」

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106

よる導入研修及びアフターサポートの充実等が想定できる。

しかし、保育業界における ICT リテラシーの向上を目的とした研修内容や取組

みは、今のところ未整備である。例えば、保育士資格の研修を担っている日本保

育協会では、保育所長、主任保育士、保育所等における地域子育て支援強化研修、

保護者支援研修、アレルギー対応研修などを実施しているが、ICT に関する研修は

実施されていない77。また、全国保育士会における研修制度でも、ICT リテラシー

向上に関しての研修会は存在しない78。

そのため、ICTリテラシー向上という観点で考えれば、保育業界以外の研修等の

活用も視野に入れ、基本的な情報技術79を学ぶ事ができる環境を整えていくことも

考えられる。また、システム会社による導入研修の充実、及びアフターフォロー

により、直接的に ICTリテラシーを向上させることも考えられる。

(3) 保育施設における複数拠点展開

ア 施設展開の現状分析

(ア) 複数拠点展開の定義と施設展開の現状分析

複数拠点展開を考える際に、保育産業における施設数と法人別形態を確認する。

77 社会福祉法人日本保育協会「研修会のご案内」 78 全国保育士会「研修会」 79 パソコン基本操作、メール、社内システムの活用、WEB、SNS等

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107

図 6 保育所等の推移

(出典)

厚生労働省「保育所等関連状況取りまとめ(平成 27年 4月 1日)」(平成 27年)

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108

表 29 法人形態別分布

(出典)

株式会社帝国データバンク「特別企画:保育所経営業者の実態調査」(平成 28年)

図 6 から、平成 27 年度の新制度移行による施設数の急増が見て取れる。一方、

表 29 によると、社会福祉法人の構成比が 85.8%となっている。また、株式会社の

構成比は 6.0%にとどまっており、依然として主な保育事業者は、社会福祉法人で

あると言える。

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109

図 54 保育所を経営する社会福祉法人の全国分布

(出典)

厚生労働省「保育所の設置主体別数」(平成 26年)

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110

図 55 保育所を経営する株式会社・有限会社の全国分布

(出典)

厚生労働省「保育所の設置主体別数」(平成 26年)

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111

表 30 都道府県別保育所設置主体数

(出典)

厚生労働省「保育所の設置主体別数」(平成 26年)

社会福祉法人 株式会社・有限会社

北海道 198 1青森県 342 1岩手県 155宮城県 68 7秋田県 98山形県 122 5福島県 75茨城県 348 5栃木県 117群馬県 196埼玉県 398 36千葉県 231 21東京都 932 193神奈川県 183 14新潟県 150 1富山県 78石川県 105福井県 130山梨県 89長野県 72岐阜県 133静岡県 177 2愛知県 155 9三重県 187 2滋賀県 102京都府 96大阪府 356 2兵庫県 247 5奈良県 70和歌山県 39鳥取県 60 3島根県 201 3岡山県 72広島県 106 6山口県 127徳島県 84香川県 48愛媛県 71高知県 44福岡県 340 1佐賀県 160長崎県 283 1熊本県 313大分県 148 1宮崎県 216鹿児島県 297沖縄県 250

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112

図 55を見ると、株式会社等については、東京都を中心に分布していることが分か

る。これは、東京都の「民間社会福祉施設サービス推進補助金」に代表される、

大都市部での独自の助成制度80の導入により、営利法人参入を促進してきたことが

背景にある81。大都市地域では深刻な待機児童問題の解消のため、こういった独自

制度を用意することで、株式会社等の参入を促し、問題の解決を図ろうとしてき

た。以上のように、社会福祉法人及び株式会社等の参入状況は、地域によって大

きな違いがみられる。

a 社会福祉法人における現状について

(a) 社会福祉法人の施設展開

社会福祉法人は、「1法人 1施設モデル」82を前提した従来型の経営モデルと

して、①施設管理中心、法人経営の不在、②事業規模零細、③再生産・拡大

生産費用は補助金と寄付が前提、④画一的サービス、⑤同族的経営という 5

つの特徴が指摘されている。

平成 24年の調査によると、同一法人で複数の社会福祉施設の経営を営んで

いる法人は、約半数である(図 56)。さらに同一法人内で保育所を複数経営し

ているケースは、78.3%あり、その場合の平均保有保育所数は 3.7か所である

(図 57 58)。

80 他にも東京都保育士等キャリアアップ補助金、補助金による整備(賃貸物件)などがある。 81 帝塚山大学現代生活学部紀要「認可保育所への営利法人参入の実態」(平成 26年) 82 社会福祉法人経営研究会(平成 18年)

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図 56 同一法人での他の社会福祉施設の経営状況

(出典)

社会福祉法人全国社会福祉協議会全国保育協議会「全国の保育所実態調査報告書 2011」(平成 24年)83

図 57 同一法人で経営している社会福祉施設の種類

(出典)

社会福祉法人全国社会福祉協議会全国保育協議会「全国の保育所実態調査報告書 2011」(平成 24年)

83 全国保育協議会の会員企業(20,678施設、有効回収数 8,205件(39.7%))による結果

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図 58 同一法人で経営している保育所の数

(出典)

社会福祉法人全国社会福祉協議会全国保育協議会「全国の保育所実態調査報告書 2011」(平成 24年)84

以上の図 56~図 58までを見てみると、社会福祉法人が大多数を占める私営

保育所において、およそ 4割85の私営運営法人が保育所の複数施設を展開して

いる。裏を返せば、6割程度がまだ 1法人 1施設の法人であり、まだ複数拠点

展開を積極的に進められる可能性があると考えられる。

(b) 社会福祉法人制度

社会福祉法人が複数拠点展開に取り組もうとする場合、資金運用には数多

くの制約が存在するため、躊躇するケースが存在する86。そういった現状を踏

まえ、平成 12年に「児発第 299号 保育所運営費の経理等について」により、

運営費の弾力運用87が開始された。

84 「私営」は、市町村(行政)が保育園を運営しているケース以外を指す。内訳は、社会福祉法人(46.5%)、財団法人(0.7%)、

宗教法人(0.7%)、社団法人(0.1%)、NPO法人(0.1%)、その他(2.1%)である。公営は、49.3%である。そのため、このデー

タ上は私営の保育所の大多数が社会福祉法人であるとみなしてもいいと考える。 85 50.1% (複数の社会福祉施設を営む法人割合)×78.3% (その内保育所を営んでいるケース) =39.9% 86 例えば、参考の「社会福祉法人の収入・収益の取り扱い」における「法人外支出」や「収益事業会計への繰入」等 87

弾力運用とは、運営費を本来の使途以外に流用できる規定を指す。

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弾力運用には第 1段階から第 3段階88までがあり、その中の第 3段階におい

て、「最大運営費の 3 か月分」89は内部留保を活用して、他の保育所における

運営費に充てることができる。(詳細は後述する。)

b 株式会社における現状について

表 29にもあったように、保育所を営む法人のうち株式会社の割合はわずか 6%

である。しかし、2000 年に認可保育所への株式会社の参入が解禁されたことも

あり、様々な民間企業が保育ビジネスに参入し市場の拡大に寄与している90。

2010 年の厚生労働省の調査によると、保育所を営む法人のうち、株式会社の割

合は 0.9%であった。ことを踏まえると、約 6 年間で 6 倍にまで株式会社の数が

増加していると言える。

図 59 保育所運営法人別分布状況

(出典)

株式会社日本政策投資銀行「少子化の現状と子育て支援サービス市場の拡大」 (平成 23年)

88 本報告書の最後(参考)を参照 89 児発第 299号 保育所運営費の経理等について 90 株式会社日本政策投資銀行「少子化の現状と子育て支援サービス市場の拡大」(2011年)

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表 31 収入規模別 損益分布状況

(出典)

株式会社帝国データバンク「特別企画:保育所経営業者の実態調査」(平成 28年)

また、表 31 から、株式会社の方が黒字の割合が 2%多いことが分かる。一方、

赤字企業の割合は株式会社の方が 2%少ない。図では株式会社とその他を比較し

ているが、表 29 から社会福祉法人は保育所を営む法人の 88.8%を占めているこ

と鑑みると、株式会社の損益状況は社会福祉法人と変わらず高い水準であるこ

とがわかる。

近年の制度変更により、保育所数は大幅に増加した。また、保育所を営む法人

の約 8 割以上を社会福祉法人が占めており、地域別に見てみても、日本全国で広

範囲に分布している。さらに、1施設しか運営していない法人がいまだに 6割程度

存在するため、複数拠点展開の余地があると考えられる。

一方で平成 12年からの株式会社の認可保育所への参入解禁を機に、徐々に保育

所を営む株式会社の割合は増えてきている。現状の参入スピードを考慮すると今

後も、株式会社による参入が拡大することが見込まれる。

イ 複数拠点展開の効果分析について

一般的に、複数拠点展開をすることにより規模の経済性が働く。つまり、「事業規

模が大きくなるにつれて 1 つの製品(サービス)当たりのコストが低下することによ

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117

り、利益率が改善する」91ということである。サービス業において、一般的にこの規

模の経済性は、ほぼすべての分野で働くことがわかっており、複数事業所における

生産性は単独の事業所に比べて 10%~40%高いことが明らかにされている92。

(ア) 複数拠点展開の収支面の効果

表 32では、児童福祉事業(保育所等、児童養護施設等の児童福祉事業)における

複数拠点展開をした場合と、複数拠点展開をしていない場合の収支状況を比較し

ている。その結果、複数拠点展開をしている法人の方が、収支状況が良いことが

分かった。例えば、従業員 1 人当たりのサービス活動収益は増加しており、従業

員 1 人あたりの人件費に還元されている。一方で経費率が減少しているため、表

によると収支差率93は、4.2%から 5.2%へと改善している。したがって、複数拠点展

開をしたほうが収益性に改善が見られ、従業員への人件費還元を行えるほどの運

営の安定化が実現されていると言える。

表 32 児童福祉事業94における単複施設別の収支状況

(出典)

独立行政法人福祉医療機構 小寺俊弘「社会福祉法人の複数事業および施設の展開について」(平成 28 年)

から株式会社船井総合研究所編(平成 28年)

91 宮崎卓朗「小売業における規模の経済性について」(平成 24年) 92 森川正之「サービス業の生産性と密度の経済性―事業所データによる対個人サービス業の分析―」(平成 20年) 93 一般事業会社でいう収益率 94 児童福祉事業とは、保育所及び児童養護施設等を指す。児童(単独)に関しては、母集団が 787法人あるが、内訳は保

育所が 718法人、児童養護施設等が 69法人である。一方、児童(複数)に関しては、内訳が保育所のみ複数で 378 法人、

保育所及び児童養護施設等をそれぞれ少なくとも1つ運営している法人数が 64法人、児童養護施設等のみを複数運営し

ている法人数が 16法人ある。

区分 児童(単独) 児童(複数)

サービス活動収益(千円) 138,168 393,390経常増減差額(千円) 5,858 20,618従業員1人あたりサービス活動収支(千円) 5,030 5,160従業員1人あたり人件費(千円) 3,647 3,741人件費率(%) 72.50 72.50経費率(%) 20.30 19.80収支差率(%) 4.20 5.20赤字法人比率(%) 26.70 19.20

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118

(イ) その他の複数拠点展開の効果

複数拠点展開のその他のメリット95は以下のとおりである。

・ 施設間での資金を融通することが可能になることによる資金繰りの容易化

・ 職員採用と異動の幅が生まれること、また従業員にとってのキャリアパスの

拡充

施設間での資金を融通することは、後述する96第三段階弾力運用の要件を満たす

範囲で可能であるため、その限りにおいて運営の安定化に貢献すると考えられる。

また職員を採用し、複数拠点間を異動させることにより、職員のキャリアパスの

多様化を実現できることもメリットの 1 つである。さらに、単一施設だけでは難

しい他施設のノウハウの共有による業務の効率化が実現できる。

ウ 社会福祉法人における複数拠点展開の課題

(ア) 弾力運用における課題

現状、社会福祉法人が複数拠点展開で活用できる資金面での制度上の緩和策と

して、第三段階の弾力運用が整備されているが、十分に活用されていない可能性

がある。

厚生労働省の通知により「認可保育所の運営実績が1年以上(12か月以上の決算)

ある設置主体」であるという条件があり、複数拠点展開を認可保育所で実施した

際に、1年たたなければ運営費の弾力運用申請ができないこととなっている。

また、第三段階の弾力運用の適用条件を満たした上でも、3か月分の運営費しか

他の事業に補填することができない。社会福祉法人が新たな拠点展開を行う場合

95 平成 28年独立行政法人福祉医療機構小寺俊弘「社会福祉法人の複数事業および施設の展開について」から抜粋。経

営数字の裏返しの理由に関しては省略している。ただし一般的な社会福祉法人の話であり、保育所に限定した話でない

ことに注意が必要である。 96 <参考>における「表 38 社会福祉法人の収入・収益の取り扱い」を参照

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119

などを想定すると、十分な経費がまかなえない可能性がある。

さらに、本部会計への繰入に関しては、前年度措置費及び保育所運営費収入の

30%以下という制限が存在する97。

複数拠点展開を進める上で重要となる第三段階の弾力運用については、各種制

限が細かく規定されている。社会福祉法人の複数拠点展開を円滑にさせるために

は、保育事業者の 8割を占めている社会福祉法人における弾力運用の制度緩和が 1

つの策として考えられる。

(イ) 報酬規程に基づいた役員の報酬制限

また事業を拡大する上で、理事長や役員陣の拠点展開への意欲を高めることも

課題の 1つに挙げられる。現状、1法人 1施設における社会福祉法人と、社会福祉

法人は、透明性の高い事業運営を前提として役員報酬規程を公開する必要がある

ため、必要以上の報酬設定はできないことが考えられる。いくつかの公開されて

いる報酬規程を調査した結果、拠点数に関する報酬規定は見当たらず、一般に出

勤日数により報酬が規定されていることが分かった。つまり、役員報酬が拠点数

によって変化することがない。以上より、役員の報酬により複数拠点展開の意欲

を高めることは、現状では難しいと言える。

(ウ) 施設展開に際しての障壁

複数拠点展開を進める際には、展開先の地域に応じた申請資料の作成を要求さ

れることになる。申請資料に関しては各自治体によって様式が異なる98ため複数拠

点展開のメリットである事務業務の効率化が機能しないことも課題である。

97 <参考>社会福祉法人の収入・収益の取扱いを参照 98 例えば保育所運営費の概算請求 1つを取っても、「請求金額と口座情報」、「その明細書」等、簡素な内容で良い地域

もあれば、「新設園又は定員変更等のある施設」、「各種費用」、「保育所運営費加算要件の確認」等の項目も記述する必要

のある地域も存在し、各種地域によって申請手続きにかかる事務作業は異なる。

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エ 株式会社における複数拠点展開の課題

株式会社における複数拠点展開に関しては、社会福祉法人とは異なり、参入自体

に課題点がある。都市部においては保育産業全体の課題でもあるが保育士等の人材

確保の問題や用地確保の問題がある。また地方においては自治体の補助や税制の法

人別差異も問題になっている、さらに地方における公募プロポーザルの不公平性が

挙げられる。

(ア) 補助制度及び税制の法人別差異

表 33に、補助金、貸付、税制面における社会福祉法人と株式会社の違いをまと

めた。

表 33 補助金、貸付、税制における社会福祉法人と株式会社の差異

(出典)

社会福祉法及び商法・株式会社日本政策投資銀行産業調査部「少子化の現状と子育て支援サービス市場の

拡大」(平成 23年)・株式会社日本総合研究所 池本美香「幼児教育・保育分野への株式会社参入を考える-

諸外国の動向をふまえて-」(平成 25年)から株式会社船井総合研究所編(平成 28年)

株式会社と比較して社会福祉法人は福祉事業を営む法人であるため、より優遇

されている。例えば、参入時及び複数拠点展開時に、保育施設を建てる場合、株

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121

式会社は建築費(内装費)の全額を負担する一方で、社会福祉法人は係る経費の約

3/4 の補助を受けることができる。そのため株式会社は、表 34 のような補助制度

を頼りに採算性を確保するために東京都に進出している場合もある。

表 34 東京都独自の補助制度内容

(出典)

東京都福祉保健局(平成 28年 12月)

厚生労働省「保育対策総合支援事業費補助金」(平成 28年)

東京都公式ホームページ (平成 28年 12月) から株式会社船井総合研究所編(平成 28年)

株式会社が複数拠点を展開する際に、施設整備費の補助を行うなど、株式会社

がより広範囲に複数拠点展開をしていけるような制度環境整備も必要である。

(イ) 公募プロポーザルの不公平性

前述のとおり、社会福祉法人は全国的に存在する一方で、株式会社等は比較的

東京に集中していることが分かった。この背景には、東京都における独自の補助

金の手厚さだけではなく、地方には株式会社の参入に消極的な自治体が存在する

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ことが考えられる。

平成 26 年に 公正取引委員会における「保育分野に関する調査報告書」で実施

された株式会社へのヒアリング調査によると、「株式会社等の営利法人であること

を理由に自治体から認可を拒否されたり、事実上、株式会社等が参入不可能な条

件を設定されたりすることで、参入をあきらめたことがある」との回答があった。

具体的には、「既存の社会福祉法人の参入しか認めない自治体がある」、「社会福祉

法人のみ認可しており株式会社は認めない自治体がある」、「表向きは株式会社も

含めて公募しているが、結果的には社会福祉法人だけが選考される」、「表向きは

株式会社の参入を認めているが、事業者の選定を行う委員に、株式会社の参入に

批判的な人物を配置し、株式会社の参入を実質的に制限している」等の現状が背

景にある99。

図 60に示すとおり、これらの問題からおよそ 4割の株式会社が、参入を諦めて

いる状況であり、法人形態によらない公平な事業環境の整備が必要である。

99 公正取引委員会「保育分野に関する調査報告書」(平成 26年)

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図 60 株式会社等であることを理由に認可を拒否されたり、株式会社等が参入不可能な条

件を設定されたりすることで参入をあきらめた事例の有無

(出典)

公正取引委員会「保育分野に関する調査報告書」(平成 26年)

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124

<参考>

保育所における運営費の弾力運用については、「保育所運営費の経理等について」(平成

12 年 3 月 30日付け児発第 299号厚生省児童家庭局長通知)等により規定する範囲内におい

てのみ運営費の弾力的な運用が認められている。以下に第 1 段階~第 3 段階までの弾力運

用の要件100を挙げて、第 1段階のみを満たすケース、第 1段階~第 2段階のみを満たすケー

ス、第 1段階~第 3段階の全てを満たすケースにおける運営費の流用に関して述べる。

第 1段階

① 児童福祉法第 45条第 1項に基づく児童福祉施設最低基準(昭和 23年厚生省令第 63号)

が遵守されていること。

② 保育園運営費国庫負担に係る交付基準およびそれに関する厚生労働省局長通知等に示

す職員の配置等の事項が遵守されていること。

③ 給与に関する規定が整備され、その規定により適正な給与水準が維持されているなど

人件費の運用が適正に行われていること。

④ 給食について必要な栄養量が確保され、嗜好を生かした調理がなされているとともに、

日常生活について必要な諸経費が適正に確保されていること。

⑤ 入所児童に係る保育が保育所保育指針(平成 20年 3月 28日厚生労働省告示第 141号)

を踏まえているとともに、処遇上必要な設備が整備されているなど、児童の処遇が適

切であること。

⑥ 運営、経営の責任者である理事長などの役員、施設長および職員が国等の行う研修会

に積極的に参加するなど役職員の資質の向上に努めていること。

⑦ その他保育所運営以外の事業を含む当該保育所の設置者の運営について、問題となる

事由がないこと。

100 厚生労働省「保育所における運営費の弾力運用について」(児発第 299号通知)12月 15日閲覧 株式会社船井総合

研究所編 http://spwww.city.osaka.lg.jp/kodomo/cmsfiles/contents/0000208/208185/299.pdf

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125

第 2段階

第 1段階の弾力運用の条件を満たした上に、以下の事業のいずれかを実施すること。

①延長保育促進事業

②一時保育促進基盤整備事業

③乳児を 3 人以上受入れているなど低年齢児童の積極的な受入れ

④地域子育て支援センター事業

⑤特別児童扶養手当の支給対象障害児の受入れ

⑥家庭支援推進保育事業

⑦休日保育事業

⑧乳幼児健康支援一時預り事業

⑨特定保育事業

第 3段階

第 1段階、第 2段階の条件を満たした上で、以下の 1~3(3においてはアまたはイ)をす

べて満たすこと

1. 社会福祉法人会計基準(学校法人においては学校法人会計基準)に基づいて経理処理を

行うこと

2. 資金収支計算書及び資金収支内訳表、貸借対照表等の財務諸表を保育所に備え付け、

閲覧に供すること

3. 毎年度、次のアまたはイが実施されていること

ア 第三者評価を受審し、その結果について公表を行い、サービスの質の向上に努め

ること。

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イ 入所者等に対して苦情解決の仕組みが周知されており、第三者委員を設置して適

切な対応を行っているとともに、入所者等からのサービスに係る苦情内容及び解

決結果について、利用者のみならず一般に対しても定期的な公表を行うなど、利

用者の保護に努めること。

以下では、弾力運用の要件にあった場合、適用される資金運用の緩和基準を述べる。

<弾力運用の要件において第 1段階のみを満たすケース>

表 35 運営費に係る第 1段階の弾力運用

(出典)

厚生労働省「①弾力運用の要件 Aのみを満たす場合」12月 15日閲覧 株式会社船井総合研究所編

<弾力運用において第 1段階~第 2段階までを満たすケース>

表 36 運営費に係る第 2 段階の弾力運用

(出典)

厚生労働省「②社会福祉法人会計基準適用保育所で弾力運用の要件 A・Bを満たす場合」12月 15日閲覧 株

式会社船井総合研究所編

<弾力運用において第 1段階~第 3段階までを満たすケース>

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表 37 運営費に係る第 3 段階の弾力運用

(出典)

厚生労働省「④社会福祉法人が設置主体の社会福祉法人会計基準適用保育所で弾力運用の要件 A・B・C を

すべて満たす場合」12月 15日閲覧 株式会社船井総合研究所編

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<社会福祉法人の収入・収益の取り扱い>

表 38 社会福祉法人の収入・収益の取り扱い

(出典)

第 2回社会福祉法人の在り方等に関する検討会「社会福祉法人における収入・収益の取り扱いの現状」(平

成 25年)

<保育所の設備及び運営に関する基準の条例制定状況及び運用状況等について>

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表 39 保育所の設備及び運営に関する基準の条例制定状況及び運用状況等について

(出典)

厚生労働省「保育所の設備及び運営に関する基準の条例制定状況及び運用状況等について」(平成 27年)から株式会社船井総合研究所編

区分 中央区 新宿区 文京区 台東区 墨田区 江東区 品川区 目黒区 大田区 世田谷区

条例名等

・東京都児童福祉施設の設備及び運営の基準に

関する条例

(平成24年3月30日東京都条例第43号)

・東京都保育所設置認可等事務取扱要綱(平成

27年3月31日 付26福保子保第3017号)

・東京都児童福祉施設の設備及び運営の基準に

関する条例

(平成24年3月30日東京都条例第43号)

・保育所設置認可等事務取扱要綱(平成10年3

月31日付9福 保子推第1047号)

・公募による整備については、各公募要項

・東京都児童福祉施設の設備及び運営の基準に

関する条例

(平成24年3月30日東京都条例第43号)

・東京都保育所設置認可等事務取扱要綱(平成

27年3月31日 付26福保子保第3017号)

・文京区特定教育・保育施設及び特定型保育事

業の運営の基 準に関する条例(平成26年9月

30日条例第25号)

・文京区立保育所条例(昭和36年3月31日条例

第4号)

・文京区保育所における保育に関する条例(昭

和62年3月20 日条例第11号)

・台東区認可保育所設置運営事業者募集要項

(平成27年1月)

・墨田区保育所条例(昭和36年3月29日条例第

4号)

・江東区私立保育所等補助要綱(平成27年4

月)

・明文規定なし

※保育士の配置基準に関しては、認可に向けた

協議の際に事 業者に依頼

・目黒区保育所運営費等補助要綱 平成27年

度賃貸物件による認可保育所開設事業者募集要

項(平成27年3月9日)

・中目黒保育園民営化に伴う保育園整備・運営

事業者公募要 項(平成27年3月5日)

・目黒区中央町二丁目(旧第六中学校南側跡

地)保育所整備・ 運営事業者公募要項(平成

27年10月22日)

・大田区特定教育・保育施設及び特定地域型保

育事業の運営に関する基準を定める条例(平成

26年9月30日)

・民間保育所に対する運営費実施要綱(昭和58

年4月1日)

・大田区立保育園運営事業者プロポーザル応募

要項

・世田谷区特定教育・保育施設及び特定地域型

保育事業の運営の基準等に関する条例(平成26

年9月)

・世田谷区保育所等運営費助成金交付要綱(平

成27年8月)

乳児室(1.65㎡/人) 公立:0歳児6.0㎡/人以上、1歳児3.5㎡/人以上 都と同じ(2歳未満児1人につき3.3㎡以上) 都と同じ(2歳未満児1人につき3.3㎡以上) 都と同じ(2歳未満児1人につき3.3㎡以上) 0歳児5.0㎡/人、1歳児3.3㎡/人

0歳児5.0㎡/人、1歳児3.3㎡/人 (私立・公設

民営保育所で は0歳児特別要件あり。0歳児を

取扱定員を超えて入所させる 場合について

は、当該年度内に限り取扱定員を超えた人員1

人につき、3.3㎡以上の有効面積があれば差し

支えない。)

都と同じ(2歳未満児1人につき3.3㎡以上) 公立:0歳児5.0㎡/人 都と同じ(2歳未満児1人につき3.3㎡以上) 0歳児5.0㎡/人

ほふく室(3.3㎡/人) 都と同じ(2歳未満児1人につき3.3㎡以上) 都と同じ(2歳未満児1人につき3.3㎡以上) 都と同じ(2歳未満児1人につき3.3㎡以上) 都と同じ(2歳未満児1人につき3.3㎡以上) 0歳児5.0㎡/人

0歳児5.0㎡/人、1歳児3.3㎡/人 (私立・公

設民営保育所で は0歳児特別要件あり。0歳

児を取扱定員を超えて入所させる 場合につい

ては、当該年度内に限り取扱定員を超えた人員

1 人につき、3.3㎡以上の有効面積があれば差

し支えない。)

都と同じ(2歳未満児1人につき3.3㎡以上) 都と同じ(2歳未満児1人につき3.3㎡以上) 都と同じ(2歳未満児1人につき3.3㎡以上) 都と同じ(2歳未満児1人につき3.3㎡以上)

医務室、調理室、便所 国と同じ 国と同じ 国と同じ 国と同じ 国と同じ 国と同じ 国と同じ 国と同じ 国と同じ 国と同じ

保育に必要な用具 参酌基準 国と同じ 国と同じ 国と同じ 国と同じ 国と同じ 国と同じ 国と同じ 国と同じ 国と同じ 国と同じ

保育室又は遊戯室(1.98㎡/人) 公立:2.0㎡/人以上 国と同じ 国と同じ 国と同じ 2歳以上児3.3㎡/人 国と同じ 国と同じ 国と同じ 国と同じ 国と同じ

屋外遊戯場(保育所の付近にある屋

外遊戯場に代わるべき 場所を含

む。)(3.3㎡/人)

国と同じ 国と同じ 国と同じ 国と同じ「保育所の付近にある屋外遊戯場に代わるべき

場所を含む」 は規定しない。国と同じ 国と同じ 国と同じ 国と同じ 国と同じ

調理室、便所都と同じ(2歳以上児のみの受け入れ施設にお

いても医務室を 必置)

都と同じ(2歳以上児のみの受け入れ施設にお

いても医務室を 必置)

都と同じ(2歳以上児のみの受け入れ施設にお

いても医務室を 必置)

都と同じ(2歳以上児のみの受け入れ施設にお

いても医務室を 必置)

都と同じ(2歳以上児のみの受け入れ施設にお

いても医務室を 必置)

都と同じ(2歳以上児のみの受け入れ施設にお

いても医務室を 必置)

都と同じ(2歳以上児のみの受け入れ施設にお

いても医務室を 必置)

都と同じ(2歳以上児のみの受け入れ施設にお

いても医務室を 必置)

都と同じ(2歳以上児のみの受け入れ施設にお

いても医務室を 必置)

都と同じ(2歳以上児のみの受け入れ施設にお

いても医務室を 必置)

保育に必要な用具 参酌基準 国と同じ 国と同じ 国と同じ 国と同じ 国と同じ 国と同じ 国と同じ 国と同じ 国と同じ 国と同じ

標準 対象(未適用) 対象(未適用) 対象(未適用) 対象外 対象(未適用) 対象(未適用) 対象外 対象(未適用) 対象(未適用) 対象(未適用)

参酌基準 国と同じ 国と同じ 国と同じ 国と同じ 国と同じ 国と同じ 国と同じ 国と同じ 国と同じ 国と同じ

設備の基準の特例

(省令第32条の2)参酌基準 国と同じ 国と同じ 食事の外部搬入規定なし(自園調理) 食児の外部搬入規定なし(自園調理) 食事の外部搬入規定なし(自園調理) 国と同じ 国と同じ 国と同じ 食事の外部搬入規定なし(自園調理) 国と同じ

児童福祉施設の設備及び運営に関する基準(昭和23年厚生省令第63号)

一定の要件を満たす場合、3歳以上児に対する食事の外部搬入可

設備の基準

(省令第32条)

0~1歳児を入所させる

保育所

従うべき基準

2歳以上児を入所させる保

育所

従うべき基準

厚生労働大臣の指定地域における居室面積の特例

保育室等に関する耐火上の基準

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