ネ 海岸保全事業インドネシアにおける海岸保全事業

Julianti Manu・西 隆一郎・細谷和範Julianti Manu 西 隆 郎 細谷和範

Ministry of Public Works, Inodonesia

鹿 島 学 学 海 学鹿児島大学水産学部水産生物・海洋学分野津山工業高等専門学校

目的；

在 学 術・現在，日本の海岸工学分野の技術者は，日本国内の海岸保全事業に携わるのみならず，ODA事業を含めて，国外の海岸保全事業への関わりが大きくなっている．・国外からの留学生や研究者および技術者を日本に受け入れて，技術者教育を行う機会も増えつつある．・海岸工学分野においても技術および技術者の国際化が進行している現状海岸工学分野においても技術および技術者の国際化が進行している現状では，教科書や築造基準などに記述される標準的な設計哲学および工法以外に，その地域固有の設計理念や標準的な工法も知っておかなければ，国外の現場に適した海岸管理や海岸保全事業が実施できない可能性もある外の現場に適した海岸管理や海岸保全事業が実施できない可能性もある．・我が国の海岸工学関連の技術者も，”グローカル”な海岸工学事情に精通する必要がある．

本研究では，世界最大の島嶼兼国家で非常に長い海岸線延長を持つアジア圏のインドネシアを対象に，海岸保全の状況を文献調査及び現地踏査により明らか すより明らかにする．・インドネシアでは日本のODA事業や民間事業などにより我が国との関わりも深く，海岸保全に関するインドネシアの地域特性を明らかにすることは，日本の技術支援・輸出を行う場合に寄与するものと思われる．

インドネシアの自然条件・インドネシアは世界最大の島嶼国家である 海岸線延長は日本の約・インドネシアは世界最大の島嶼国家である．海岸線延長は日本の約35,000kmに対して約81,000kmとほぼ2.3倍の長さがあり，国土面積は1,904,569km2の広さである．また，島嶼の数は17,508で日本の約2.6倍である この内 主要な島はJ S t K li t S l i P の5る．この内，主要な島はJava, Sumatra, Kalimantan, Sulawesi, Papuaの5つである．

PACIFIC OCEAN

SUMATERAKALIMANTAN

SULAWESI

PAPUA

JAWA

INDIAN OCEAN

・ユーラシアプレート，太平洋プレート，オーストラリアプレートが接続する場所になっているために，地震，そして津波が多発する地域となっている．近年では，2004年12月26日に発生したスマトラ津波が甚大な被災を引き起こしている．

・インドネシアにおいて津波被災の可能性が高い領域は，Sumatra島群の西岸領域，Java島の南岸領域，Nusa TenggaraSumatra島群の西岸領域，Java島の南岸領域，Nusa Tenggara島の北岸と南岸領域，Moluccas諸島，Papuaの北岸領域，Sulawesi島のほぼ全沿岸領域である．また，Moluccas海は，最も津波の可能性が高い領域で，インドネシアでこれまでに起きた津波の31％が発生している（Ministry of Marine Aff i d Fi h i I d i による）Affairs and Fisheries Indonesiaによる）．

・インドネシアの気候は熱帯性で，高温，高湿度，そして，多雨多雨．・平均気温は27.7℃で，9月と10月の平均気温が33℃，6月から8月が約23度．ら 月が約 度．・年平均の相対湿度は80.6％で，9月の75％から1月と2月の85％の間で変動．

季節 燥季（南東 季）・季節としては，5月から9月の乾燥季（南東モンスーン季）と，12月から3月の雨季（北西モンスーン季），そして，雨季から乾季への遷移期間が 10月から12月である モンスーンから乾季への遷移期間が，10月から12月である．モンスーンのために平均的に風は，6月から9月は南と東から，12月から3月は北西から吹く(Indonesian Meteorology Climatology and 月は北西から吹く( gy gy

Geophysics Agency). ・Tropical Cyclone季は平均的には11月から4月であるが，年

少 時期がずれ ともあによっては，少し時期がずれることもある．Tropical Cycloneは，強風および大きな雨量を生じ，インドネシア沿岸の低平地に 洪水や高潮被災を生じることもあるの低平地に，洪水や高潮被災を生じることもある．

・洪水の危険性が高い沿岸域は Java島の北側沿岸域岸・洪水の危険性が高い沿岸域は，Java島の北側沿岸域岸, Lampung, Palembang, Aceh, West Sumatra, Sumatra島東側沿岸域，Kalimantan, Manado, Minahasa，そしてSumbawa島であ岸域， , , ，そして 島である(Ministry of Marine Affairs and Fisheries Indonesia).

上述 形 気象条件 ネ・上述した地形と気象条件の下で，インドネシアの国民人口2億4千万人の約60％の人々が海岸から50km以内の地域に居住し，沿岸域利用が高い(Research Institute of Water Resources沿岸域利用が高い(Research Institute of Water Resources Development, Ministry of Public Works).

・5千4百万haに及ぶ内陸の水域面積のうち，3,940万haが湿地帯（swamp），1,195万haが河川，210万haが湖と貯水池であり，比率 それぞれ ％ ％ ％とな比率はそれぞれ71.63％，22.13％，3.89％となっている(Research of Marine and Fisheries Agency 2005).

・沿岸域利用のうち，海域の埋め立てに関しては，2007年時点でインドネシアの主要な5島の湿地(10 802 132ha）の内の点でインドネシアの主要な5島の湿地(10,802,132ha）の内の約40％の3,950,026haの面積が埋め立てられている(Ministry of Public Works Indonesia 2007).

・埋め立ての中で，大型のものを例に挙げると，Sumatra島での 1 878 604 h K li t 島での1 491 087 h そしての 1,878,604 ha，Kalimantan島での1,491,087 ha，そして，Sulawesi島での357,840 haの埋め立て事業がある.

・これらの埋立地は，産業活動や，居住地，そして，農地として利用されている．

・インドネシアの主要な産業のひとつは漁業である．漁業者が利用する漁港の数に関しては 2008年時点で国内に813漁港が利用する漁港の数に関しては，2008年時点で国内に813漁港があり，この内792港が，地方分権化に伴い，管区自治体（Regional government）に 移管されている．（Regional government）に 移管されている．

・漁港の建設による海岸侵食も危惧される．漁 設 海岸侵食も危惧

・それ以外に，砂の採取が海岸侵食を引きおこす可能性もある 沿岸域 砂採取に関し は イ ドネ 国内ある．沿岸域での砂採取に関しては，インドネシア国内で，1970年から1990年までに，約54,000haで行われ，この内，最大のものはSumatra島で32％ Java島で15％ Sulawesi島最大のものはSumatra島で32％，Java島で15％，Sulawesi島で23％，そして，Maluku島とPapua島で残りの30％を占めている(Statistics Agency Indonesia).g y

・シンガポールへの砂の輸出を含めて，海底の砂採取には不透明な部分もある で 最終的にイ ドネシア不透明な部分もあるので，最終的にインドネシアのIndustry and Trade省は，海岸の砂の輸出をThe Act No. 117/MPP/Kep/2/2003により停止措置を施している117/MPP/Kep/2/2003により停止措置を施している．

海岸保全の状況

・写真(左）に示すように インドネシア沿岸域においても写真(左）に示すように，インドネシア沿岸域においても，日本と同様に海岸侵食が進行している．また，汀線近傍まで住民等の土地利用が行われ，そして，海岸保全も個人あるいは民間で行われることもある．・写真(右)は，土地所有者により設置された低コストの木製護岸の例である 場合によ ては ナイロン製の土嚢袋に製護岸の例である．場合によっては，ナイロン製の土嚢袋に砂を詰め込んで積み上げ，海岸保全構造物とする場合もある．

表ー1 インドネシアの代表的な地域での海岸保全事業費

・インドネシアの海岸線の約40％が侵食されつつあり，その延長は約

・バリ島の海岸保全事業には，日本も関係して養浜事業等が行われている．

30,000kmである（Ministry of Public Works Indonesia, September 2007)．・2004年から2009年の間に，インドネシア建設省は250km区間の海岸保全2004年から2009年の間に，インドネシア建設省は250km区間の海岸保全事業を行っている．これら海岸保全事業のうち，代表的な地域における海岸保全の事業費の変遷を表-1に示す．

表-2 建設省水関連部門での海岸保全の支出予算状況Note: 1 USD = 9,240 IDR Source: Ministry of Public Works Indonesia

Fiscal Year

Directorate general of water resource Shore protection structure %

Cost (IDR) Cost (USD) Cost (IDR) Cost (USD)Cost (IDR) Cost (USD) Cost (IDR) Cost (USD)

2005 3,208,640,447,000 347,255,460 66,249,714,000 7,169,882 2.06

2006 4,291,418,438,000 464,439,225 138,554,230,000 14,995,047 3.23

2007 5,786,082,405,000 626,199,394 143,710,693,000 15,553,105 2.482007 0 626,199,394 143,710,693,000 15,553,105 2.48

2008 7,296,793,600,000 789,696,277 320,105,956,000 34,643,502 4.39

2009 7,563,887,124,000 818,602,503 400,916,427,000 43,389,224 5.30

・表を見ると インドネシア国の海岸保全予算が2005年か・表を見ると，インドネシア国の海岸保全予算が2005年から2009年の間で基本的に増加傾向にあることが分かる．例えば，2005年と2009年を比較すると，事業費ベースでは＄7,169,882から＄43,389,224へ約6倍になっている．

99,8

15

A l t t l t

3 0 0 0

2 5 0 0

3,0

9

264

A n n u a l to ta l c o s t

USD

)スマトラ沖地震津波

2 5 0 0

2 0 0 0

1,5

59,9

10

388,0

33

399,2

33

1,8

62,2

9271,0

00 (

1 5 0 0

1 0 0 0

1

1,31,3

825,1

10

1,0

08,

710,2

86

601,9

28

781l cost

x

0987654321098

0

5 0 0

6

97,0

07

138,9

18

134,6

3

Tota

l

200

200

200

2006

2005

2004

2003

200

200

200

1999

199

F is c a l y e a r

図 2 N th S l iにおける海岸事業費の経年変化図-2 North Sulawesiにおける海岸事業費の経年変化

・1998年から2009年までの海岸事業費を示す．若干の増減はあるが基本的に上昇傾向にあり 1998年度では＄134 631であ たるが基本的に上昇傾向にあり，1998年度では＄134,631であったものが，2009年では＄3,099,845と，約23倍になっている．

インドネシアの海岸保全・管理のシステムは本図に示すようになっている．

district coastal management

funding & technical

i l

assistance

province central governmentsubmission of plan

or programor program

図-3 インドネシアにおける海岸管理の組織図

2000

Type of shore protection structures in 2009 fiscal year

1600

1800

︶

USD

1000

1200

1400

31%

︶

︶1.

01%

︶.8

5%

︶

17.4

4%

︶

1 b

illio

n U

400

600

800

all

︵43.3

︵3.02

%

︶

︵9.37

%

men

t

︵1

ead

︵15

wat

er

︵1

al c

ost

x

1 2 3 4 6

0

200

400

seaw

a

jetty

groi

n

reve

tm

bulk

he

brea

kw

Tota

1 2 3 4 5 6

Type of structures

図-4 インドネシアにおける海岸保全工法の使用状況図 4 インドネシアにおける海岸保全工法の使用状況

インドネシアにおける海岸保全構造物のタイプとしては，護岸が最も多く約43％を占め 次いで離岸堤（17％） Bulkheadによる工法多く約43％を占め，次いで離岸堤（17％），Bulkheadによる工法（16％），防波堤（9％）と続いている．

610m

8 0 0

1 0 0 0

4mbrea

kwat

er, 6

m

︵USD

︶

4 0 0

6 0 0

130m

& g

roin

, 474

ad, 4

98m

& o

ffsho

re b

& je

tty, 8

43m

13,

009.

1m

st x

1,0

00

2 0 0

00 . 8 4 %3 . 0 5 %3 . 2 0 %3 . 9 2 %5 . 4 2 %8 3 . 5 8 %

T-gr

oin,

seaw

all

bulk

hea

seaw

all &

seaw

all

seaw

all;

Tota

l cos

1 2 3 4 5 60

T y p e o f s t r u c t u r e

図-5 North Sulawesiにおける海岸保全の状況

インドネシアで第4位の大きさで複雑な地形を有するスラウェシ島内のNorth Sulawesiにおける海岸保全の状況を示す North Sulawesiでは護岸工法が構造Sulawesiにおける海岸保全の状況を示す．North Sulawesiでは護岸工法が構造物の総延長の83.6％を占めている．

写真-3 North SulawesiのBunaken島の護岸の状況

平地が少ないBunaken島（North Sulawesi東端の北側に位置する観光地）では汀線近くに写真のような護岸が敷設されている．これは，護岸工法が背後地を守るうえで有効でかつ経済的な負担が小さいためと考えられる 護岸は地を守るうえで有効でかつ経済的な負担が小さいためと考えられる．護岸は現場に応じて設計及び施工が行いやすいこともインドネシアのような発展途上国に適した工法の一つと考えられる．

coconut tree

b ld t d 50 1 mboulder stone d>50 cm

1 msand fill

写真 Belang地区Ratatotok beachのコンクリートパイプを使用した護岸工法

h l 東端 ク湾に面した l 地区 k b h 護岸North Sulawesi東端のマルク湾に面したBelang地区Ratatotok beachの護岸工法を示す．この地域では土砂流出を防ぐために，コンクリートパイプを用いた護岸が敷設されているが，天端は0.6mと日本沿岸で見られる護岸よりも低い．インドネシアでは一般に設計波が日本に比べて小さいために，護岸構造物などの設計断面は日本の外洋に面する構造物より小型のものが多く，かつ，単価が安いるのが特徴といえる

HEAPS OF STONE SAND coconut tree

GEOTEXTILE

PIPE 1.5MPIPE 1.0M

1 mboulder stone d>50 cm

1 msand fill

GEOTEXTILE

BOULDER STONE

図-6 Belang地区Ratatotok beachのコンクリートパイプを使用図 6 Belang地区Ratatotok beachの ンクリ ト イプを使用した護岸工法の断面図

まとめ：

インドネシアの海岸保全の状況を調べるために，文献調査と現地調査を行った査と現地調査を行った．

文献調査および現地踏査に基づいて，世界最大の海洋国家と言えるインドネシアの海岸保全事情に関して考察を行家と言えるインドネシアの海岸保全事情に関して考察を行った．本研究における主要な結論は以下のとおりである．

まとめ：

・インドネシアにおいては，日本の技術支援がなされたバリ島での養浜事業を除けば，基本的な海岸保全工法はハードス島 養浜事業を除けば，基本的な海岸保全 法は ドトラクチャー（海岸保全構造物構造物）を用いるものである．・海岸保全構造物のタイプとしては，護岸が約43％と最もよく築造され れ 護岸 法が 背後地を護 うえく築造されている．これは，護岸工法が，背後地を護るうえで有効かつ経済的にも高価でなく，しかも，現場に応じて設計も施工も行いやすいために インドネシアのような発展途計も施工も行いやすいために，インドネシアのような発展途上国では最適な工法の一つと考えられるためである．・2番目に多いのは，防波堤(breakwater)で約17％となって番目 多 ，防波堤( ) 約 ％いる．・インドネシアの立地条件上，設計波が日本に比べて小さいために 護岸構造物など 設計断面は 本 外洋に面する構ために，護岸構造物などの設計断面は日本の外洋に面する構造物より一般に小型のものが多く，かつ，単価が安くなっているいる

まとめ：

・2005年から2009年までの過去5年間においては，インドネシアの中央政府が水関連に支出している予算の中で，海岸保全事業予算は約2％から約5％へと増加傾向にある．・1998年からの統計デ－タが利用できるスラウェシ島での海岸保全事業に関しても 1998年の13万米ドル台から2009年の岸保全事業に関しても，1998年の13万米ドル台から2009年の300万米ドル台へと増加傾向が顕著である．・日本における海岸保全事業への予算支出と異なり，インド日本における海岸保全事業 の予算支出と異なり，インドネシアにおいては海岸保全事業が近年増加傾向にあることが明らで，今後の日本の技術輸出の可能性が示された．

インドネシアはアジアの中で日本に身近な国の一つであり，海岸保全事業が必要とされている国でもある したがって海岸保全事業が必要とされている国でもある．したがって，本研究は，国内・地域事情を理解して，日本の海岸工学関係者が技術交流や支援を行うことに資するものと思われる．者が技術交流や支援を行うことに資するも と思われる．