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参考資料-1 熱帯性海藻類の生態特性に関する調査事例

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参考資料-1

熱帯性海藻類の生態特性に関する調査事例

■参考資料-1 熱帯性海草類の生態特性に関する調査事例 熱帯性の大型海草 4 種(リュウキュウアマモ、リュウキュウスガモ、ベニアマモ、ボウ

バアマモ)について、生態特性に関する調査事例の収集・整理を行った。 1.生息場所や季節変化に関する調査事例 インドの Nahpali Island では行われた調査によると、ベニアマモは、調査範囲が岸から

5~70m、水深 10cm~5m、平均水深約 40cmの海域で主に岸よりに分布しているという結果

が得られている。リュウキュウスガモについても岸より 50m までが主な生息域という傾

向が見られた。岸より離れるに従い、水深の増加による砂質基盤の減少やより強い流れが

生じるといった物理環境、海草捕食者(魚類、ジュゴン)の出現等により減少すると考え

られている(1)。

図-1 Nahpali Island における岸からの距離と熱帯性海草 3 種

ベニアマモ(Cymodocea rotundata)、ウミショウブ(Enhalus acoroides)、 リュウキュウスガモ(Thalassia hemprichii)の現存量

(文献 1 より引用)

参-1

リュウキュウスガモは海草地上部が地下茎部分より体積が大きくなることはないが、

被度や株数は、年変動をする事が知られている。台湾南部の Nanwan、Dakwan では 10~12月に成長率が増加し、2~4 月に減少する傾向がある。成長率の増加は、水柱内に含まれる

栄養塩や降雨と密接な関係にあるが、光に曝される時間や風速とはあまり関係が認められ

ていない(2)。

図-2 Nanwan、Dakwan(平均±

フィリピンの Cape Bolinao では、

における成長率と地下茎/株数の月変化図 す)

モとベニアマモの株数密度や、

標準偏差、白抜きのプロットは Nanwan,黒色プロットは Dakman を示

(文献 2 より引用) リュウキュウスガ

葉の成長率の月変化について調査が行われており、株数や葉の成長の季節変化は環境

に操作されているものではないと考えられている(3)。

図-3 Cape Bolinao におけるリュウキュウスガモ(Thalassia hemprichii)とベニアマモ

(Cymodocea rotundata)の株数密度と葉の現存量の月変化図 (平均±標準誤差) (文献 3 より引用)

参-2

2.環境に対する適応性に関する調査事例 2-1 干出や乾燥に対する調査事例 インドネシアでは、日中に海草が数時間干出する時期がある。干出前後のリュウキュウ

スガモの分析を行ったところ、干出後の現存量は減少するが、内部の窒素化合物に関して

は減少しないという結果が報告されている(4)。 ボウバアマモは、東アフリカの Zanjibar で行われた干出後の光合成量の測定結果から、

乾燥に非常に弱いということが報告されている(5)。同じ熱帯性海草であるウミヒルモで

は、10~40℃で 96 時間干出させ 5 日間回復させた後のクロロフィル a 量を測定する実験が

行われた。96 時間以内であれば、30℃までの熱衝撃を許容し、標準の成長状態へ完全に

回復するという知見がある(6)。乾燥に対する耐性は種によって異なり生息潮位等で決定

されることはないと考えられている。

2-2 シルトの堆積に対する耐性の調査事例 シルトを堆積させる実験を、フィリピンの熱帯性海草のリュウキュウスガモ、 ベニア

マモ 、ウミジグサ、リュウキュウアマモ、ウミショウブを使用して行った。その結果リ

ュウキュウアマモを除く全ての種の鉛直方向への成長速度が高くなった(7)。

参-3

フィリピンとタイにおいて地点の底質と熱帯性海草の現存量を測定し、その結果よりシ

ルトの堆積に弱いものより、熱帯性海草をランク付けしたところ、以下のようになった。 ボウバアマモ>ベニアマモ>リュウキュウスガモ>リュウキュウアマモ>ウミジグサ> ウミヒルモ>ウミショウブ(8)

(ウミショウブ)

(ウミヒルモ)(ウミジグサ)

(リュウキュウアマモ)(リュウキュウスガモ)

(ベニアマモ) (ボウバアマモ)

図-5 底質内の、シルト・粘土の割合と熱帯性海草 7 種の

葉部分の現存量(白抜きプロットは実測値、黒プロ

ットとバーはそれぞれ平均と標準偏差を示す) (文献 8 より引用)

参-4

またフィリピンの Cape Bolinao では、地点ごとのシルトの堆積量と葉の成長率より、海

草のシルト堆積に対する耐性を以下のようにランク付けしている。 ウミショウブ >リュウキュウアマモ> ウミジグサ>リュウキュウスガモ> ウミヒルモ > ベニアマモ>ボウバアマモ(9)。

(ウミショウブ)

(リュウキュウアマモ)

(リュウキュウスガモ)

図-6 Cape Bolinao における、地点別の大型海草 3 種の成長率(平均±標準誤差) (文献 9 より引用)

参-5

2-3 他種との競合に関する調査事例 の海域において行われた実験によると、ボウバア

.再生産・成長様式に関する調査事例

マモは、開花の頻度が非常に低く、ベニアマモで 1 株あた

8 時間、0.5 時間程度浮

遊 。

収する能力を持っており、葉による栄養素吸収が、

考文献(引用順)

. KARLA j. McDERMID (1999) .Seagrass Community Composition and Biomass at Nahpali

Hsing-juh Lin and Kwang-Tsao Shao (1998). Temporal changes in the abundance and growth of

. Agawin, N.S.R., C.M. Duarte, M.D. Fortes, J.S. Uri y J.E. Vermaat (2001). Temporal changes in

. Stapel J, Manuntun R, Hemminga MA (1997). Biomass loss and nutrient redistribution in

re

5. Mats k, Jacqueline Uku, Andreas Weil, Sven Beer (1999). Photosynthetic tolerances to

. Peter J. Ralph (1998). Photosynthetic response of laboratory-cultured Halophila ovalis to

熱帯性海草類数種が生息する南アジア

モの場合、ボウバアマモより現存量や生産量が大きい他の海草種が取り除かれると株数

や現存量を増加させ、リュウキュウスガモは、他の海草種が全て取り除かれたときのみ増

加したという結果が報告されている。熱帯海草の相互の種間関係は非常に不均整なものだ

と考えられている(10)。 3

3-1 再生産に関する調査事例 リュウキュウスガモやベニア

0.064 花/年、リュウキュウスガモでは 0.125 花/年である(11)。 リュウキュウスガモの果実と種子は浮遊性であり、それぞれ 15することが可能であった(12)。これにより離れた場所に生息範囲を広げると考えられる

3-2 栄養塩吸収に関する調査事例 葉がアンモニア塩基やリン酸塩を吸

物栄養素の要求を満たすことに欠かせないと考えられている(13)。 参

1

Island,Pohnpei. Micronesia 31(2):255-262

2.intertidal Thalassia hemprichii seagrass beds in southern Taiwan.Botanical Bulletin of Academia Sinica 39:191-198

3the abundance, leaf growth and photosynthesis of three co-occurring Philippine seagrasses. Journal of Experimental Marine Biology and Ecology 260: 217-239

4 an Indonesian Thalassia hemprichii seagrass bed following seasonal low tide exposu during daylight. Marine Ecology Progress Series 148:251-262 Björ

desiccation of tropical intertidal seagrasses. Marine Ecology Progress Series191:121-126

6thermal stress. Marine Ecology Progress Series 171:123-130

参-6

7. Duarte CM, Terrados J, Agawin NSR, Fortes MD, Bach S, Kenworthy WJ (1997). Response of

8. Terr J. , C.M. Duarte, M.D. Fortes, J. Borum, N.S.R. Agawin, S. Bach, U. Thampanya, L.

SE

. Steffen S. Bach, Jens Borum, Miquel D. Fortes, Carlos M. Duarte (1998). Species composition

0. Duarte, C.M., J. Terrados, N. S.R. Agawin, and M. D. Fortes (2000). An experimental test of

1. Duarte, C.M., J. Uri, N.S.R. Agawin, M.D. Fortes, J.E. Vermaat y N. Marbá. (1997). Flowering

2. Cristina Day A. Lacap, Jan E. Vermaat, Rene N. Rollon, Hildie M. Nacorda (2002). Propagule

3. Stapel J, Aarts TL, van Duynhoven BHM, de Groot JD, van den Hoogen PHW, Hemminga MA

a mixed Philippine seagrass meadow to experimental burial. Marine Ecology Progress Series 147:285-294

ados,Kamp-Nielsen, W.J. Kenworthy, O. Geertz-Hansen, and J. Vermaat (1998). Changes in community structure and biomass of seagrass communities along gradients of siltation inAsia. Estuarine, Coastal and Shelf Science 46: 757-768.

9and plant performance of mixed seagrass beds along a siltation gradient at Cape Bolinao, The Philippines. Marine Ecology Progress Series 174:247-256

1the occurrence of competitive interactions among SE Asian seagrasses. Marine Ecology Progress Series 197: 231-240.

1 frequency of Philippine seagrasses. Botanica Marina 40: 497-500.

1dispersal of the SE Asian seagrasses Enhalus acoroides and Thalassia hemprichii. Marine Ecology Progress Series 235:75-80

1(1996). Nutrient uptake by leaves and roots of the seagrass Thalassia hemprichii in the Spermonde Archipelago, Indonesia. Marine Ecology Progress Series 134:195-206

参-7

表-

1 熱

帯性

海草の

形態的

特徴

種名

全長

葉幅

葉脈

葉の先

地下茎

その他特

リュ

ウキュ

ウス

ガモ

10~

30cm

5~

10mm

10~17本

丸、細かい

突起

地下茎

の間に

鱗あり

茎に

竹の

皮のよ

うな鱗

があ

リュ

ウキュ

ウア

マモ

6~

30cm

4~

9mm

13~17本

丸茎に鱗

がない

リュ

ウキ

ュウス

ガモに

よく

似てい

ベニ

アマモ

5~

20cm

2~

4mm

9~15本

丸地下茎

の節が

長い

葉が

細く

まっす

ぐのび

ボウ

バアマ

モ 10~

30cm

1~

2mm

-円

柱固い地

盤に根

を張る

葉が

円柱

である

ウミ

ジグサ

5~

15cm

1~

3mm

3本

突起が

3個

-葉が

細く

先端が

3尖に

なる

マツ

バウミ

ジグ

サ 5~

20cm

0.5~

1.5mm

3本

小さな

ギザギ

ザ-

ウミ

ジグ

サより

も葉が

細い

参考

資料)

宇井

晋介・

亀崎直

樹:

沖縄海

中生物

図鑑(

1998).

  

   

千原

光雄:

学研生

物図

鑑海藻

(1983).

表-

2 沖縄地

方での熱帯

性海草の

開花結実期

種名 

 \  月

1月

2月

3月

4月

5月

6月

7月

8月

9月

10月

11月

12月

リュ

ウキュウス

ガモ

F◎J

◎◎

◎ J◎

◎F◎◎

◎FF

◎F

リュ

ウキュウア

マモ

ベニ

アマモ

ボウ

バアマモ

FF

F F

ウミ

ジグサ

FF

マツ

バウミジグ

サF

○◎

◎◎ ◎

◎ F◎

<凡例> 

F:開花、

○:つぼ

み、◎:結

実、J:発

芽体(幼植

物)

参考

資料)当真

武:平成

3年度沖縄

県水産試験

場事業報

告(1993)

.

参-8

参考資料-2

「中城湾港(泡瀬地区)公有水面埋立事業にかかる

海草移植計画」(抜粋)

参-15

■参考資料-2

「中城湾港(泡瀬地区)公有水面埋立事業にかかる海草移植計画」(抜粋)

海草移植計画目次(枠内抜粋)

1.海草移植の目的

1-1はじめに 1

1-2中城湾港(泡瀬地区)公有水面埋立事業における藻場生態系保全の考え方

1

1-3藻場生態系保全措置における海草移植の位置づけ 1

2.泡瀬地区における海草藻場の現況

2-1海草藻場の変遷 2

2-2海草藻場の現況 3

3.これまでの海草移植実験の経過と得られた知見

3-1手植え移植実験 5

3-2機械化移植実験 8

3-3移植適地の条件 11

3-4まとめ 14

4.海草藻場の移植計画

4-1海草の採取範囲・移植先及びスケジュール 16

4-2移植の方法 19

4-3移植結果のモニタリング 19

4-4移植結果の評価 20

5.本計画の見直しについて 21

6.総合的な対策による海草藻場機能の保全 21

参-16

3.これまでの海草移植実験の経過と得られた知見

3-1手植え移植実験

当該海域においては、平成 10 年 7 月に手植え法による移植実験を環境条件の異なる3地

点で行い、その後もモニタリングを継続している。この間、平成 12 年 9 月、平成 13 年 9

月など、数次にわたる台風を経験しているが、適切な環境条件が維持される位置に移植さ

れたと考えられる海草群落は、4年以上を経過した現在でも株数の増減を繰り返しながら

維持されている。(表 3.1-1、図 3.1-1)

なお、平成 14 年度には、9 月 4 日に台風が来襲しており、直後の観測のモニタリングで

は、台風の影響を受けて株数が減少している。

P5

単位:株数

調査時期 平成10年度 平成11年度 平成12年度 平成13年度

H10.7 H10.10 H11.1 H11.7 H11.9 H11.11 H12.2 H13.2 H14.2 H14.8 H14.9

調査点 (移植時) (3カ月後) (6カ月後) (1年後) (1年2カ月後) (1年4カ月後) (1年7カ月後) (2年7カ月後) (3年7カ月後) (4年1カ月後) (4年2カ月後)

ボウバアマモ株 3,806 3,146 1,085 1,890 846 585 460 325 0 0 0

St.Ⅰ リュウキュウアマモ株 2,449 1,339 1,284 1,837 1,160 461 285 230 250 444 290

小計 6,255 4,485 2,369 3,727 2,006 1,046 745 555 250 444 290

ボウバアマモ株 2,679 2,563 2,532 4,700 8,520 8,080 12,325 13,750 13,202 16,440 11,520

St.Ⅱ リュウキュウアマモ株 1,888 1,852 2,873 7,129 7,299 9,000 11,250 13,800 14,302 14,912 10,656

小計 4,567 4,415 5,405 11,829 15,819 17,080 23,575 27,550 27,504 31,352 22,176

ボウバアマモ株 3,128 2,576 3,271 10,200 8,816 4,229 5,765 6,125 6,321 3,816 3,080

St.Ⅲ リュウキュウアマモ株 2,366 1,635 1,846 3,722 4,906 5,729 5,590 8,825 7,127 4,366 3,600

小計 5,494 4,211 5,117 13,922 13,722 9,958 11,355 14,950 13,448 8,182 6,680

合計 16,316 13,111 12,891 29,478 31,547 28,084 35,675 43,055 40,952 39,978 29,146

移植した海草株数の変化

平成14年度

0

2000

4000

6000

8000

10000

12000

14000

16000

18000

7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 (年月)

株数

St.Ⅰ

St.Ⅱ

St.Ⅲ

0

2000

4000

6000

8000

10000

12000

14000

16000

7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 (年月)

株数

St.Ⅰ

St.Ⅱ

St.Ⅲ

平成10年度 平成11年度 平成12年度 平成13年度

平成10年度 平成11年度 平成12年度 平成13年度

平成14年度

平成14年度

ボウバアマモの株数変化

リュウキュウアマモの株数変化

図 3.1-1 手植え法により移植した海草の株数変化

表 3.1-1 手植え法により移植した海草株数の変化

面積 18 ㎡あたりの株数

参-17

移植実験は3地点において実施したが、良好に生育した地点、良好に生育したが台風の

影響を強く受けた地点、ほとんど株の成長が見られなかった地点に結果が分かれた(図

3.1-2)。この生育状況の違いは、水深、光量、水質等の一般的な海草の生育条件による違

いだけでなく、底質の局所的な違い、すなわち地下茎の伸張する深度(海底の底質 20cm 程

度)の状態(砂が安定しやすいこと、地下茎の伸張を妨げる礫や転石が少ないこと)を反映

しているものと考えられる。

St. Ⅰ

St. Ⅱ

St. Ⅲ

注)1.測定範囲は移植地付近の3×6mの範囲であり、その最大値18㎡が上限値となっている。

2.成長率(面積)は、平成10年7月から平成12年2月までの期間について指数近似することにより求め、値が大き

 くなるほど、成長が速いことを示す。仮に現在の成長速度が維持された場合、面積が2倍となるのに要する期

 間は、+0.04/月の成長率(面積)で17.3ヶ月、+0.13/月では5.3ヶ月、+0.11/月では6.3ヶ月である。

(㎡)

0

6

12

18

7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8(年月)

生育

面積

平成10年度 平成11年度 平成12年度 平成13年度

成長率(面積):+0.04/月

平成14年度

(㎡)

0

6

12

18

7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8(年月)

生育

面積

成長率(面積):+0.13/月

平成10年度 平成11年度 平成12年度 平成13年度 平成14年度

(㎡)

0

6

12

18

7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8(年月)

生育

面積

成長率(面積):+0.11/月

平成10年度 平成11年度 平成12年度 平成13年度 平成14年度

リュウキュウアマモ

ボウバアマモ

上記2種(リュウキュウアマモ、ボウバアマモ)の混生

凡例

図 3.1-2 手植え法による移植海草の生育面積の変化と面積をベースにした成長率

P6

参-18

また、このほかに、過去に熱帯性大型海草藻場の手植え移植実験が行われ、藻場として

移植した海草群落が維持されてきた事例については、糸満市南浜地先と石垣市新川地区に

おける二つの事例がある。

糸満市南浜地先においては、ベニアマモ・ボウバアマモ及びリュウキュウスガモの移植

実験が行われ、3年以上の期間、藻場として維持されてきたことが確認されている(図

3.1-3)(出典『平成 11 年度 糸満市南浜地先公有水面埋立事業に係る環境追跡調査等の取

り組み状況 -環境監視・追跡・創造に関する調査年報-』報告書)。石垣市新川地区にお

いては、リュウキュウアマモの移植実験が行われ、1年以上にわたり藻場が維持されてき

たことを確認している。(図 3.1-4)(出典『平成 9 年度 石垣港海藻類調査』報告書)。

以上のことより、適切な環境が維持される場所においては、手植え法は移植の手法とし

て適用性が高いと評価できる。

St.E:ベニアマモ、St.F:ボウバアマモ

リュウキュウスガモ

注)St.A、St.Bはそれぞれ平成 11 年 7 月、9 年 7 月以降、埋立工事区域に入ったため調査を中止した。

図 3.1-3 手植え移植したベニアマモ、ボウバアマモ、リュウキュウスガモの面積 18 ㎡あ

たりの株数の推移(糸満市)

P7

参-19

図 3.1-4 移植したリュウキュウアマモの面積 18 ㎡あたりの株数の推移(石垣市)

3-2機械化移植実験

バックホウを用いて生息地の底質ごと(海草を引き抜くことなく)移植する機械化移植

実験を実施した。本実験は、平成 13 年 11 月~14 年 2 月にかけて移植を行い、現在もモニ

タリングを継続している。実験では事前の検討で適地と考えられる広範囲な場所に移植を

行ったが、場所により生育状況にはかなりの差が見られた(図 3.2-1)。なお、自然の藻場

の分布域は CDL-4~+0.5m の水深帯に分布しているため(図 3.2-2)、CDL-1.2~+0.3m の水

深帯に移植した。移植後の生育状況のモニタリング結果を分析したところ、干出や気温の

影響を受けやすい浅所(概ね-0.3m 以浅)では明確に生育状態が悪かった。本工法のよう

に、海草の地下茎部分を土壌ごとブロック状に採取してそのまま海底に静置する場合には、

周囲と比べ地盤が高く(水深が浅く)なって大潮時期には干出しやすくなり、基盤となる

底質が流出しやすくなりその結果、移植海草群も減耗することが判明するなど、移植方法

の改善点や移植適地の条件に関する知見がさらに蓄積された。

また、生育が悪かった理由には、水深が合わなかったこと以外に、施工上の習熟不足等

の要因が挙げられると考えている。

平成 14 年 6 月の生育状況と水深の関係

図 3.2-1 平成14年6月時点の生育状況と水深の関係

0

200

400

600

800

1000

1200

+0.1以浅 +0.1~0.0 0.0~-0.1 -0.1~-0.2 -0.2~-0.3 -0.3~-0.4 -0.4~-0.5 -0.5~-0.6 -0.6~-0.7 -0.7~-0.8 -0.8~-0.9 -0.9~-1.0 -1.0~-1.1 -1.1~-1.2

水深(m)

移植

ブロ

ック

0

10

20

30

40

50

60

70

80

90

100

D判

定の

ブロ

ック

数割

合(%

:D

:C

:B

:A

D割合

生育状況

水深が浅かったため ←

採取翌日に移植したため

ブロックの崩壊が大きかったため

その他の要因

P8

参-20

図 3.2-2 既存藻場の水深帯別分布面積

干出や波力による底質の減耗を受けにくい水深の深い場所に移植した海草は、台風前の

平成 14 年 6 月まで良好な生育状況であったが、本年は 7 月から 3 度にわたる大型の台風が

沖縄に来襲し、自然の海草藻場も含め相当量の減耗を被った。そのため、残存する移植海

草は、台風後の回復状況を確認するとともに、平成 15 年 5 月(ラグ・フェイズ後 1 年目に

当たる時期)までモニタリングを行い評価することとしている。以下に移植後の変化を示

す代表例として深部のモニタリングポスト(St.l)の生育面積の変化を図 3.2-3 に、分布状

況の変化を図 3.2-4 に示す。平成 14 年 9 月上旬に台風が来襲し、その後に測定した平成

14 年 9 月のデータでは減少を確認しているが、さらに 1 ヶ月後の平成 14 年 10 月のデータ

では徐々に回復している様子がうかがえる。

以上のことより、①機械化移植工法においては、移植した基盤の安定が重要であること、

②地盤を安定させるために、移植の適地としては海草自体の適地よりさらに深い-0.5m 以

深であること、③機械化移植工法の適用性は来年 5 月までモニタリングする必要があるこ

と、④台風に対する耐力が重要であり、そのための減耗対策試験を行い、その成果を見て

から機械化移植に移行すべきであろうとの結論が導き出された。

0

20

40

60

80

100

120

140

160

180

+0.5m以浅 +0.5-0m 0-2m 2-4m 4m以深

水深帯

生育

被度10%未満

被度10-50%

被度50%以上

(ha) 大型海草藻場

凡例

大型 50%以上

海草 10-50%

藻場 10%未満

小型 50%以上

海草 10-50%

藻場 10%未満

50%以上

10-50%

10%未満

 調査範囲

ガラモ場

測定範囲

(生育面積測定範囲)

P9

(凡例)   試験移植海草類 50%以上 既存海草類 50%以上

試験移植海草類 10-50% 既存海草類 10-50%

試験移植海草類 10%未満 既存海草類 10%未満

St.l

0

20

40

60

80

H13.12 H14.2 H14.4 H14.6 H14.7(下旬) H14.9

(m2)

H14.1 H14.3 H14.5 H14.7(上旬) H14.10 H14.8

図 3.2-3 10m×10m のコードラート内における海草類の面積(St. l)

参-21

(凡例)   試験移植海草類 50%以上 既存海草類 50%以上

試験移植海草類 10-50% 既存海草類 10-50%

試験移植海草類 10%未満 既存海草類 10%未満

St.l

0

20

40

60

80

H13.12 H14.2 H14.4 H14.6 H14.7(下旬) H14.9

(m2)

P10

図 3.2-4 10m×10m のコードラート内における海草類分布状況の変遷(St. l)

参-22

3-3移植先適地の条件

海草の生育を支配する重要な各要因としては、水深、光量、水質、外力、底質などが一

般的に挙げられる。これまでの調査や実験結果から移植適地としての具体的な条件を以下

のように分析し記述した。なお、水質(濁り、有機物)については、環境監視点における

調査の結果では、当該海域全般で良好であり、場所による顕著な差異も無いことから、水

質の点ではいずれも適地であると判断した。

イ)水深:C.D.L.-4m~-0.5m

自然の海草藻場は、C.D.L.-4~+0.5mの水深帯に形成されており、この水深帯は適地で

あると考えられる。一方、機械化移植実験においては、干出や気温の影響を受けやすい

浅所(主に C.D.L.-0.3m以浅)では、移植後の生育状況が悪かった。機械化移植工法は

移植ブロックの厚さが約 20cm あることを考慮して絞り込み、C.D.L.-4m~-0.5m の水深

帯とした(図 3.2-1、3.2-2)。

ロ)外力:台風時の底面せん断力が 40dyn/cm2 以下

台風時の高波浪による外力は海草の流出や埋没の原因となり、自然の藻場はそうした影

響を毎年のように受けながら生息し、その影響は水深や場所によって異なる。そこで、

自然の海草の分布状態と外力の関係を整理し、生息しやすい条件を検討したところ、台

風時の底面せん断力(波によって生じ海底面付近の砂等を移動させる力)が 15~

20dyn/cm2 の場所に多くの海草藻場が形成されていることが確認できた(図 3.3-1)。

一方、台風時に大きな底面せん断力が発生する場所にも海草藻場は形成されているが、

台風後の藻場の被害状況を調査したところ、概ね 40dyn/cm2 以上の場所では、藻場周縁

部において、消失や地下茎の露出などの被害が見られたことから、これらの場所は減耗

が生じやすいと判断し、台風時の底面せん断力が 40dyn/cm2 以下であることを移植先適

地の条件とした。なお、底面せん断力の分布は、台風時における気象記録や沖波の観測

データから、当該海域全体における波高などの諸元をシミュレーションにより求め、底

面せん断力の計算式より算出した(図 3.3-2)。

図 3.3-1 既存藻場分布域における水深帯別底面せん断力

P11

1-56-10

11-1516-20

21-2526-30

31-3536-40

41-4546-50

51-5556-60

61-

-4.0~-5.0

-3.0~-4.0

-2.0~-3.0

-1.0~-2.0

±0.0~-1.0

±0.0~+1.0

0

50

100

150

200

250

300

底面せん断力(dyn/cm2)

水深(C.D.L. m)

既存

藻場

分布

域に

おけ

る50

m間

隔の

地点

注:1.芝植えによる移植地(図中◆印)の地盤高、せん断力は以下の通りである。

   St. Ⅰ:C.D.L.±0.0~-1.0-せん断力17dyn/cm2  St. Ⅱ:C.D.L.+0.2~±0.0-せん断力17dyn/cm

2

   St. Ⅲ:C.D.L.±0.0~-1.0-せん断力16dyn/cm2

  2.藻場分布は平成13年11月、底面せん断力は平成14年台風5号時のデータを使用した。

参-23

ハ)底質:砂質かつ貫入深度 5cm 以上を 20 回中 15 回以上

海草は砂中に地下茎を伸ばして生育することから、移植地の海底は岩盤や磯の多い区

域を避け、砂質であることが重要である。また、砂中に根の伸張を妨げる岩や転石が

あると移植後の生育が妨げられることになるため、地盤の柔らかさや砂層の厚さの指

標として、20 回の貫入試験において、深度:5cm 以上を 15 回以上確認することを条

件とした。なお、この条件値は以下のように設定した。

1)手植え移植試験は、自然藻場に隣接し、水深や外力の条件が同様な砂地の3地点で

行ったが、移植後の生育状況に差が生じた。したがって、差が生じた原因は、底質(特

に地中の部分)と考えられ、貫入試験を実施したところ、藻場内においては砂が堆積

して柔らかいこと及び3地点の底質には差があることを確認した(表 3.3-1)。藻場外

は移植前の底質と想定し、移植後の生育を St.Ⅲ程度と期待する場合、条件の値を 20

回の貫入試験において、深度:5cm 以上を 15 回以上確認することが一つの目安となっ

た。

2)移植候補地周辺においても、同様に貫入試験を 78 地点において行なった。藻場内

においては、ほぼ全地点で上記条件の値を満足していた。なお、藻場外においては条

件を満足できない地点が半数程度あることが確認できた(図 3.3-3、表 3.3-2))。

3)1),2)より、藻場外の上記条件値を満たす場所においては、藻場が生育するために

必要な底質を有していると考えられた。

P12

20~40dyn/cm2

凡例

40dyn/cm2 以上

(外力からみて移

植に適さない範囲)

西防波堤

奥武岬

泡瀬通信施設

評価対象範囲

0~20dyn/cm2

図 3.3-2 外力からみた適地評価図

参-24

表 3.3-1 手植え法試験移植地点における底質貫入試験結果

図 3.3-3 移植候補地における底質貫入試験の調査地点(全 78 地点)

調査日:平成14年8月20日

調査点調査項目

-0.2~-0.1 -0.3~-0.1 -0.2~-0.1

藻場外 藻場内 藻場外 藻場内 藻場外 藻場内

試験回数(回) 20 試験回数(回) 20 試験回数(回) 20 試験回数(回) 20 試験回数(回) 20 試験回数(回) 20

最大 10.0 最大 18.0 最大 21.0 最大 30.0 最大 14.0 最大 21.0

最小 3.0 最小 3.0 最小 5.0 最小 6.0 最小 3.0 最小 5.0

平均 6.2 平均 10.7 平均 11.9 平均 18.1 平均 6.9 平均 11.8

(cm) 標準偏差 2.0 標準偏差 4.8 標準偏差 5.3 標準偏差 6.0 標準偏差 2.7 標準偏差 4.3

鉄筋棒貫入試験

St.ⅢSt.Ⅰ St.Ⅱ

C.D.L(m)

貫入深度階級と頻度

0 5 10

頻度(回数)

貫入深度階級

(cm)

0

10

20

300 5 10

(cm)

0

10

20

300 5 10

(cm)

0

10

20

300 5 10

(cm)

0

10

20

300 5 10

(cm)

0

10

20

300 5 10

(cm)

0

10

20

30

貫入深度階級

貫入深度階級

貫入深度階級

貫入深度階級

貫入深度階級

頻度(回数) 頻度(回数) 頻度(回数) 頻度(回数) 頻度(回数)

P13

参-25

区 域 貫入試験結果(貫入深度 5 ㎝以上の値) 地点数

藻場内 15/20 以上 25

15/20 以下 1

藻場外 15/20 以上 25

15/20 以下 27

計 78

表 3.3-2 移植候補地における貫入試験の調査結果

ニ)その他:自然藻場に近接していること等

移植先適地の条件として、水深、外力、底質をそれぞれ設定したが、それ以外にどのよ

うな条件があるのかは、十分解明ができておらず、自然藻場に近接させること等により、

リスクを低減させることとした。例えば、既に自然のアマモ類が疎生していたり、周辺

にアマモ類の濃生域が形成されていれば、生育に必要な条件がある程度整っているもの

と判断される。また、緑藻類(石灰藻)の存在等によっても、ある程度判断できるもの

と考えている。

3-4まとめ

移植手法については、手植え法と機械化工法の2通りを検討した。

手植え法については、泡瀬で試みた移植試験において良好な生育状態を保った実績や沖

縄県内で知られている他の事例等を総合的に判断して、施工能力等に課題はあるものの台

風への耐力もあり、条件が整った場所では適用性が高いと評価された。

機械化工法については、生態系の保全という観点では事前の評価が高かったものの、そ

の後に、台風等への耐力に課題があり技術の向上を図るべきと評価され、現時点では未確

認の事項が多く、適用性を判断するにはさらなるモニタリングが必要と指摘された。

移植適地については、既存藻場の生育場所の状況及び広範囲で行った機械化移植実験の

結果等から、水深、外力、底質等について適地としての可能性の高い条件は以下のようで

あると推定された。

イ)水深:C.D.L.-0.5m~-4.0m

ロ)外力(台風時の底面せん断力):40dyn/cm2以下

ハ)底質:砂質かつ貫入試験において深度 5 ㎝以上が 20 回中 15 回以上

ニ)その他自然藻場に近接していること等

海草移植は、1)海草を活着しやすい手法で、2)適地に移植すること、の2つが必要条件

P14

参-26

である。事業者として現時点では、上記移植手法に関する知見、適地選定に関する知見の

2つを組み合わせ、移植候補地と考えられる西防波堤背後海域において、手植え法にて当

面の移植を進めることは妥当であると判断した。(組み合わせることによる不確実性につい

ては、環境監視・検討委員会においても議論のあったところであるが、モニタリングを行

いながら順応的な管理を行い、適地選定条件の見直しや、移植手法の改良等を行っていく。)

なお、移植候補地として考えられている西防波堤の背後海域は、概ね以下の状況である。

1)水深:0~2mの範囲

2)外力(台風時の底面せん断力):10~40dyn/cm2の範囲

3)底質:砂地であり、貫入試験において、深度5cm以上が20回中15回以上が確認でき

た地点が多い。

4)その他:自然藻場の近傍、なお、緑藻(ガラガラ、サボテングサ等の石灰藻)が点

在している。

上記のように、本海域は、自然の藻場の分布状況及び機械化移植実験結果から設定した

水深等の生育条件を満足する区域が多く、西側に海草藻場(濃生域)が形成されている。

また、その一方で、裸地の区域も存在している。

海草藻場は、種子が漂着して発達する場合と地下茎が伸張して拡大する場合の2種類が

あり、種子の場合は定着し根を張りやすいこと、地下茎の場合は伸張しやすいことが藻場

発達の条件と考えられ、裸地の区域は何らかの要因で藻場が発達できない状況下にあるも

のと考えられる。

手植え移植実験においては、水深、外力及び海底面(表層)の底質に顕著な差がなかっ

たにもかかわらず、移植後の生育状況に差が生じたことから、その原因の一つを地下茎の

伸張の難易度と考察し、地中の状況に着目し鉄筋を用いての貫入試験を行い、底質(地中

の砂礫等の存在)に差があったことを確認した。

移植候補地周辺の海底は、藻場(底質は砂地)から砂、砂礫・岩盤と変化しておりその

分布状態から、藻場と裸地の違いは主に底質によるものと考えている(図4.1-4)。したが

って、移植候補地全域78地点において、広範囲な貫入試験を行い底質(地中の砂礫等の存

在)の分布状況を調査し、候補地のさらなる絞込みを行なった。

移植候補地としては、生育条件1)~3)のような物理的条件を満たしていることを確認す

るとともに、これ以外の条件の解明が十分できていないことを踏まえ、リスク低減のため、

4)のように自然の海草藻場に近い区域を選定した。また、石灰藻等が生息しておりこの点

からも、活着しやすい海底であると判断した。

P15