Title 血尿の原因となる左腎静脈圧追の非侵襲的画像診断 第2報 CTによる検討

Author(s) 菅谷, 公男; 小浜, 丈夫; 塚田, 大星; 下田, 直威; 能登, 宏光;西沢, 理; 原田, 忠; 土田, 正義

Citation 泌尿器科紀要 (1991), 37(5): 485-489

Issue Date 1991-05

URL http://hdl.handle.net/2433/117187

Right

Type Departmental Bulletin Paper

Textversion publisher

Kyoto University

紀 尿紀 要37:485-489,1991 485

血尿の原因となる左腎静脈圧追の非侵襲的画像診断

第2報 CTに よる検討

秋田大学医学部泌尿器科学教室(主 任:土 田正義教授)

菅谷 公 男,小 浜 丈 夫,塚 田 大 星,下 田 直威

能登 宏 光,西 沢 理,原 田 忠,土 田 正 義

NON-INVASIVE IMAGING DIAGNOSIS OF LEFT RENAL VEIN

COMPRESSION CAUSING HEMATURIA

PART 2. CT

Kimio Sugaya, Takeo Kohama, Taisei Tsukada,

Naotake Shimoda, Hiromitsu Noto, Osamu Nishizawa,

Tadashi Harada and Seigi Tsuchida

From the Departmant of Urology, Akita University School of Medicine

Left renal veins of 77 patients were examined by computed tomography (CT) to evaluate its usefulness in determining the left renal vein compression which is causing renal bleeding. From CT image, left renal vein compression was observed in 6 (86%) of the 7 cases which had been classified as idiopathic renal bleeding, in 9 (21%) of the 42 cases which had urinary tract diseases causing hematuria, and in 3 (11%) of the 28 cases which did not have hematuria. In 15 of the 18 cases of left renal vein compression, left renal vein was compressed between the superior mesenteric artery and the abdominal aorta, showing so-called nutcracker phenomenon. In the remaining 3 cases, however, the superior mesenteric artery provided sharp delineation from the abdominal aorta. The superior mesenteric artery and the abdominal aorta made the mean angle of 35.5° in patients with normal left renal vein, the mean angle of 45.4° in those with left renal vein compression without nutcracker phenomenon, and the mean angle of 11.9° in those with nutcracker phenomenon.CT was superior to ultrasonography, in revealing left renal vein compression.

(Acta Tirol. Jpn. 37: 485-489, 1991)

Key words: Hematuria, Left renal vein compression, Nutcracker phenomenon, CT

緒 言

血尿の原因 となる左腎静脈圧迫の画像診 断は左腎静

脈造影に よってな されていたが,最 近は経腹壁的超音

波検査に よる診断が行われ,腎 静脈造影 よりも超音波

検査のほ うが診断に適 してい るとす る報告 もある且).

しか し,超 音波検査では,後 轡症や肥満な どのために

被検者全例の左腎静脈 の観察は期待で きず2),ま た,

検者が超音波検査に習熟 しているか否かに よって左腎

静脈の描出や診断 能力に 差が生 じる ことが ある.一

方,腎 の超音波検査 や尿路 造影で 異常 がみ られ た場

合,つ ぎに行 う画像診断 としてCTが ある,CTの

撮影には数秒 を要す るが,CTで 左腎静脈 の圧迫像や

その他 の静脈系の異常 も捕 えられればその診断的価値

は一層高い ものになる.そ こで,CTで 腎静脈の異常

が捕 えられているのか血尿 の有無 との関係において検

討 した.

対象および方法

1988年1年 間に当科 で 腎CTを 行 った83例 を 対

象 と し,CT上 か ら腎静脈の異常 の有無を検討 した.

また,CT上 で上腸管膜動脈 の起始部が映 っている画

面か ら左腎静脈が腹大動脈 と交差す る画面 までの距離

をa,左 腎静脈が腹大動脈 と交差す る画面で腹大動脈

と上腸管膜動脈の間の距離をb,腹 大動脈 と上腸管膜

動脈がつ くる角度 を θとして,tanθ=b/a,B=arc一

486 泌尿紀要37巻5号1991年

SMA

ノ

0

!!

!!

bLRV

Ao一囚Fig.1.Anatomicalrelationshipoftheab-

dominalaorta,thesuperiormesenteric

arteryandtheleftrenalvein.Ao;

abdominalaorta,LRV;leftrenalvein,

SMA;superiormesentericartery.

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評 ㊥酒リ ノ ア

乱 』一.』醐/

tanb/aか ら θを求めた(Fig.1).血 尿は尿潜血反

応が1+以 上 で,尿 沈渣で毎視野1個 以上の赤血球 の

あるもの とした.対 象を特発性腎出血 とされていた例

(以下,特 発性腎出血群),血 尿の原因と成 りうる疾

患を 有 し,か つ血尿のあ る例(以 下,血 尿疾患 群)

と,血 尿のない例(以 下,非 血尿群)の3群 に分 類

し,そ れぞれ の群でのCT上 の腎静 脈異常の頻度 と

腹大動脈 と上腸管膜動脈がつ くる角度 θを比較 した・

CT装 置はGE社CT9800と 横河CT9200を 用いた

が,撮 影時間はCT9800が2秒 でCT9200が5秒 で

あった.

結 果

83例 中2例 の左腎摘 出例,1例 の 巨大水腎症例 と体

動によると思われる評価不能の1例 を除 く79例で左腎

静脈が観察で きた.79例 中には慢性腎不全で無尿の患

者2例 が 含まれていたので,こ の2例 を除いた77例 を

評価の対象 とした,77例 中,特 発性腎 出血群は男性2

例 と女性5例 の計7例,血 尿疾患群は男性25例 と女性

17例の計42例 で,血 尿疾患の内訳は疑 いを含む膀胱腫

X14例,腎 腫瘍6例,無 機能腎を含む水腎症6例,尿

路結石5例,腎 孟腫瘍5例,多 発性 腎嚢胞3例,尿 管

腫瘍,前 立腺癌 と直腸癌 の尿路浸潤がそれぞれ1例 で

あった.非 血 尿群は男性21例 と女性7例 の計28例 であ

った.年 齢は特発性腎出血群が18～75歳 で平均45歳

血尿疾患群が23～86歳 で平 均65歳,非 血 尿群が ユ7～77

歳で平均52歳 であった.

CTは5～10mm毎 の スライスで77例 中72例 で

plainCTに 加えenhanceCTが 行われていた.

腹大動脈 上腸間膜動脈,下 大静脈 と左右 腎動静脈は

plainCT,enhanceCTと もに比較的 よく観察で き

た.CT上 では左腎静脈に圧迫像がない正常例(Fig.

2a～c)は59例 で,左 腎静脈 が腹大動 脈 と交差す ると

C 　 へ　避 ・ ヤ

髄鏑一Fig.2.a^-c.AbdominalenhancedCT.Fig.2a

showedtheoriginofthesuperiormes-

entericartery.Fig.2bshowed10mm

caudalplanefromFig.2a,theleftrenal

veinconnectedtotheinferiorvena

cava.Fig.2cshowed20mmcaudal

planefromFig.2a,theleftrenalvein

intersectedtheabdominalaorta.

ころで圧迫 されている例は18例 であ った.圧 迫像 のあ

った18例 の内訳は特発 性腎 出血群の7例 中6例(86

%),血 尿疾患群の42例 中9例(21%)と 非血 尿群 の28

例中3例(11%)で あ った,統 計学的(XZ検 定)に

は,特 発性腎 出血群は血尿疾患群 と非血尿群のいずれ

よ りも有意(p<0・005)に 左腎静脈圧迫例が多か った

が,血 尿疾患群 と非血尿群の間には有意差はなか った

菅谷,ほ か:左 腎静脈圧迫 ・CT 487

Table 1.ClassificationofCTfindingsoftheleftrenalveininpatients

withorwithouthematuria.

Leftrenalvein

Classification

Normal Compression

Total

Idiopathicrenalbleeding

Urinarytractdiseasewithhematuria

Nohematuria

1(14%)

33(79%)

25(89%)

6(86%)7(100%)

9(21%)42(100%)

3(11%)28(100%)

Table2.Anatomicalrelationshipoftheabdominalaorta,thesuperiormesentericarteryandtheleftrenalveinwithorwithoutcompressionandnutcrackerphenomenonoftheleftrenalvein.Thereweresignificantdefferences(p<0.Ol)inl),2),3)and4).

FindingofLRV

No.SMA-LRV

Pts.(a)mm

mean±S,D.

SMA-AortaAngle

(b)mm(B)°

mean±S.D,mean±S.D.

Compression(‐),Nutcracker(‐)59

Compression(十),Nutcracker(‐)3

Compression(十),Nutcracker(十)15

17.7±4.7'}13.0±6.33)35.5=ヒ14.4a)

10.0±0.01)2}11.3±5.1

18.7±7.22} 3.5ゴ=1.13)

45.4±13.3

11.915.0"'

Fig.3.PlainCTofthenutcrackerphenomenon

oftheleftrenalveinbetweeentheabdom-

finalaortaandthesuperiormesenteric

artery.

(Tablel).左 腎静脈圧迫 の18例 中,左 腎静脈が上腸

間膜動脈 と腹 大 動脈 に挾 まれて圧迫 され るnutcrack-

er現 象のみられたのは15例(Fig.3,Fig.4)で,

血尿疾患群の2例 と非血 尿群の1例 では上腸間膜動脈

と腹大動脈の間隔は開いてい るのに左腎静脈が腹大動

脈と交差す るところで狭 くなっていた(Fig.5).

上腸間膜動脈の起始部か ら左腎静脈が腹大動脈 と交

差す るところまでの距離(a)は10～30mmで 圧迫の

ない例は平均17.7mm,nutcracker現 象 はないが圧

迫 のあ る3例 ではいずれ も10・Omm,nutcracker現

象のある例では平均18・7mmで あった.左 腎静脈が

腹大動脈 と交 差す る部位での上腸間膜動脈 と腹大動脈

、一 一 テ 頑 甲 『1、竃 ぞ'

一_.ノ/

1謙灘ノ!-r

Fig.4.PlainCTofthenutcrackerphenomenon

oftheleftrenalveinbetweentheab-

domira:aortaandthesuperiormesen-

tencartery.

の間 の 距 離(b)は 圧 迫 の な い 例 で43～35・7mmで 平

均13.Omm,nutcracker現 象 は な い が 圧迫 の あ る例

で5・4～17・9mmで 平 均11.3mm,nutcracker現 象

の あ る 例 でL8～5・4mmで 平 均3・5mmで あ った.

距 離(b)に 関 して は,nutcracker現 象 の あ る例 では

圧 迫 の な い例 よ り有 意(P<0.Ol)に 狭 か った(non-

pairedt検 定).腹 大動 脈 と上 腸 間 膜 動 脈 の つ くる角

度(θ)は 圧 迫 の な い例 で12.i～70.2。 で 平 均35.5。,

nutcracker現 象 は ない が 圧 迫 の あ る例 で28.4～60.8。

で 平 均45.4。,nutcracker現 象 の あ る 例 で6・0～21・3。

で 平 均11.9。 で あ った.角 度(θ)に 関 して は,nut-

cracker現 象 の あ る例 で は 圧 迫 の な い 例 よ り有意(p

<0.01)に 狭 か った(Tablc2)・

〆

488

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泌尿紀要37巻5号1991年

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ぞツ/Fig.5.EnhancedCTofthecompressionofthe

leftrenalveinatthepointwhereitin-

tersectedtheabdominalaortawithout

thenutcrackerphenomenon.

考 察

超音波検査 はrealtimeで 捕え られ るか ら,第1

報2)で 述べた ように動静脈の拍動や収縮期拡張期別の

左腎静脈の圧 迫の有 無を みる こ とがで きる.一 方,

CTは その撮影 に2～5秒 を要 し,そ の間に少な くと

も1回 以上の収縮期 と拡張期が あるが,腹 大動脈,上

腸間膜動脈,下 大静脈 と左右腎動静脈は比較的鮮明に

描出でき,CTで も超音波検査 と同様 のnutcracker

現象が捕 えられることが報告 されてい る3-6).し か も,

CTの 場合は超音波検査の ように検者の技量 に影響 さ

れる ことがな く説得力 のある画像を得 ることがで きる

ので,放 射線被爆の問題は あるが,よ り確実なnut-

cracker現 象 の診断ができると考え られ る.

FairleyとBirch7)は 尿中赤血球形態が一様であれ

ば非糸球体性の 出血 が考xら れる とし,清 水 ら8)も左

腎静脈 圧迫 に よる 腎出血 の診断 のひ とつに尿中赤血

球形態の一様 さを用いている.し たがって,今 後は左

腎静脈圧迫 に よる腎 出血の診 断は,一 般的 な血液 学

的検査,血 液生化学的検査,免 疫学的検査,尿 一般 検

査,尿 細胞診,尿 中赤血球形態 と経腹 壁的超音波検査

または腹部CTで なされ,侵 製的な 左腎静脈造影 の

頻度は著明に減少する と思われ る.

今 回の検討ではnutcracker現 象の有無は,上 腸間

膜動脈の起始部か ら左腎静脈 が腹大動脈 と交 差す ると

ろまでの距離 には関係な く,左 腎静脈が腹 大動脈 と交

差す るところでの上腸間膜 動脈 と腹大動脈 の距離に よ

るものであ った.し か し,上 腸間膜動脈 と腹大動脈の

距離が十分あ り,nutcracker現 象がないのに左腎静

脈が腹大動脈 と交差す るところで圧迫 されている例が,

3例 あった.永 瀬と有吉B)はCTでnutcracker現

象を認 めた例 で,リ ンパ管や神経線維 を混L'xた 索状

物が左腎静脈を腹大動脈表面 に押 し付 ける ように圧迫

しいた例 を報告 している ことか ら,左 腎静脈圧迫像は

血管以外の組織 による圧迫で も起 こる可能性 がある.

中村 と山田10)や林11)は,左 腎静脈圧迫 に よる腎 出血

は側副血行路 の形成に伴 って消失す る可能性 があると

述べてお り,今 回の検討で非血尿群に も左腎静脈 の圧

迫像が認め られ た例がいたのは この理 由に よると思わ

れ る.

結 語

特発性腎出血患者7例 を含む77例 の腹 部CT像 か

ら,血 尿の原 因 となる左腎静脈圧迫 がCTで 捕xら

れるのか検討 した.

1.左腎静脈 の圧迫像が認め られたのは特発性腎 出血

とされた7例 中6例(86%)と,血 尿の原因となる疾

患を有 し,か つ血尿のある42例 中9例(2]%)と,血

尿のない28例 中3例(ll%)で あ った.

2.左 腎静脈 圧迫 のある18例 中,そ の原因が上腸間膜

動脈 と腹大動脈で挾 まれ るnutcracker現 象 に よるも

のは15例 で,3例 では圧迫は あるが これ ら2本 の動脈

は十分離 れていた.

3,nutcracker現 象 の有無は,上 腸間膜動脈の起始

部から左腎静脈 までの距離には関係 な く,左 腎静脈が

腹大動脈 と交差する ところでの上腸間膜動脈 と腹大動

脈の距離に よるものであ った.

4.左 腎静脈の圧迫のない例では,上 腸問膜動脈 と腹

大動脈のつ くる角度は平均35・5。 で,nutcracker現

象のある例でのこの角度は平均11.9。 であ った.

5.左 腎静脈圧迫 の診断において,CTは 超音波検査

よ りも確実な検査法 と考え られた.

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