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日本科学教育学会研究会研究報告  Vol. 30 No. 2(2015) ― 13 ― 中学校理科「生命を維持するはたらき」呼吸モデル実験の改善に関する研究 ~新しい呼吸モデル装置 LuNG model 及び実験方法への教師及び学生による評価~ Proposal of Improved Model Experiments for Human Respiratory System in Science Class of Lower Secondary School Based on the Assessment by Teachers and University Students 西野秀昭 灘岡佑紀 後藤恵 NISHINO, Hideaki NADAOKA, Yuki GOTOH, Megumi 福岡教育大学 Fukuoka University of Education [要約] 中学校理科「生命を維持するはたらき」で,呼吸のしくみを学ぶ際に用いられるモデル装置 「へーリングの模型」及びそれを模したペットボトル等での簡易な装置の学術的な問題点について, 医学書等を参考にしながら実際の呼吸のしくみと乖離している現状を明確にした。そのことを踏まえ, これまでと同様に安価に,かつ簡易に作製できるモデル装置「LuNG model」を新しく開発し,このモ デルを用いた実験,及び胸式呼吸・腹式呼吸のしくみを自分の体で実感する実験方法を提案した。その 学習効果を,教師及び教師志望の大学生へアンケート調査を行って予想した。その結果,LuNG model を使う場合には,より高い学習効果とともに,これまでのモデル装置に比べてヒトの呼吸のしくみを より正しく学べるとの評価であった。一方で LuNG model で学んだ後,自分の体を使って胸式呼吸と腹 式呼吸を別々に学習する実験方法は,特に学生で「あまりできない・できない」との回答もあり,自分 の体の各部を意識することの難しさに課題が残った。 [キーワード] 呼吸,モデル装置,肺,胸膜,横隔膜,水の粘着力,腹式呼吸,胸式呼吸 1.はじめに 福岡県の中学校で最も多く採択されている理科 教科書(以降,教科書)(有馬他,2012)において, 「生命を維持するはたらき(以降,2章)」の前の 1章で,細胞が生物の体をつくる基本単位であり, 細胞が集まって器官ができ,それぞれの器官が生 物の生命を維持する上で,さまざまな大切な役割 を持っていることを生徒は学ぶ。それを踏まえ 2 章では,体内の器官が生命の維持にどのように役 立っているかを生徒は学ぶ。その始めに「呼吸」 における肺のはたらきが採り上げられている。す なわち,酸素を細胞へ供給するため,あるいは細 胞の呼吸でできた二酸化炭素を体外に運び出すた めに肺に空気が出入りするためのしくみの理解を 目標にしている。教科書2 章の観察・実験「やって みよう 肺が空気を出し入れしているしくみを考 えよう」を見ると,「へーリングの模型」(例えば, 高橋,2007)を模したペットボトルを使ったモデ ル装置での実験が紹介されている(有馬他,2012) (図1)。しかしこのモデル装置を,実際のヒトの 呼吸に関わる体内の構造(例えば,Cohen, 2005) と比較すると,横紋筋と腱中心からなる横隔膜の 動き方が実際とは逆になっている事,モデル装置 では胸郭内に肺が満たされていない事,肺が胸膜 を介して横隔膜に密着していない事,等の違いに 気がつく(西野・後藤,2015)。このような実際の 呼吸のしくみとの相違に基づき,実際の呼吸のし くみをできるだけ忠実に再現しようとしたモデル 装置は,理科教具として販売されているものも含 めて見出すことが出来ない。また実生活では,ヒ トは横隔膜による腹式呼吸と,肋間筋による胸式 呼吸を使い分けたり共に使ったりしている(越智, 1990;Cohen, 2005;坂井・河原,2011)が,その ような役割分担を呼吸のしくみと関連させて理解 できるようには教科書では構成されていない(有 馬他,2012)という現状がある。

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  • 日本科学教育学会研究会研究報告  Vol. 30 No. 2(2015)

    ― 12 ― ― 13 ―

    中学校理科「生命を維持するはたらき」呼吸モデル実験の改善に関する研究

    ~新しい呼吸モデル装置 LuNG model 及び実験方法への教師及び学生による評価~

    Proposal of Improved Model Experiments for Human Respiratory System in Science Class of Lower Secondary School

    Based on the Assessment by Teachers and University Students 西野秀昭 灘岡佑紀 後藤恵

    NISHINO, Hideaki NADAOKA, Yuki GOTOH, Megumi 福岡教育大学

    Fukuoka University of Education

    [要約] 中学校理科「生命を維持するはたらき」で,呼吸のしくみを学ぶ際に用いられるモデル装置

    「へーリングの模型」及びそれを模したペットボトル等での簡易な装置の学術的な問題点について,

    医学書等を参考にしながら実際の呼吸のしくみと乖離している現状を明確にした。そのことを踏まえ,

    これまでと同様に安価に,かつ簡易に作製できるモデル装置「LuNG model」を新しく開発し,このモ

    デルを用いた実験,及び胸式呼吸・腹式呼吸のしくみを自分の体で実感する実験方法を提案した。その

    学習効果を,教師及び教師志望の大学生へアンケート調査を行って予想した。その結果,LuNG model

    を使う場合には,より高い学習効果とともに,これまでのモデル装置に比べてヒトの呼吸のしくみを

    より正しく学べるとの評価であった。一方で LuNG model で学んだ後,自分の体を使って胸式呼吸と腹

    式呼吸を別々に学習する実験方法は,特に学生で「あまりできない・できない」との回答もあり,自分

    の体の各部を意識することの難しさに課題が残った。

    [キーワード] 呼吸,モデル装置,肺,胸膜,横隔膜,水の粘着力,腹式呼吸,胸式呼吸

    1.はじめに

    福岡県の中学校で最も多く採択されている理科

    教科書(以降,教科書)(有馬他,2012)において,

    「生命を維持するはたらき(以降,2章)」の前の

    1章で,細胞が生物の体をつくる基本単位であり,

    細胞が集まって器官ができ,それぞれの器官が生

    物の生命を維持する上で,さまざまな大切な役割

    を持っていることを生徒は学ぶ。それを踏まえ 2

    章では,体内の器官が生命の維持にどのように役

    立っているかを生徒は学ぶ。その始めに「呼吸」

    における肺のはたらきが採り上げられている。す

    なわち,酸素を細胞へ供給するため,あるいは細

    胞の呼吸でできた二酸化炭素を体外に運び出すた

    めに肺に空気が出入りするためのしくみの理解を

    目標にしている。教科書2章の観察・実験「やって

    みよう 肺が空気を出し入れしているしくみを考

    えよう」を見ると,「へーリングの模型」(例えば,

    高橋,2007)を模したペットボトルを使ったモデ

    ル装置での実験が紹介されている(有馬他,2012)

    (図1)。しかしこのモデル装置を,実際のヒトの

    呼吸に関わる体内の構造(例えば,Cohen, 2005)

    と比較すると,横紋筋と腱中心からなる横隔膜の

    動き方が実際とは逆になっている事,モデル装置

    では胸郭内に肺が満たされていない事,肺が胸膜

    を介して横隔膜に密着していない事,等の違いに

    気がつく(西野・後藤,2015)。このような実際の

    呼吸のしくみとの相違に基づき,実際の呼吸のし

    くみをできるだけ忠実に再現しようとしたモデル

    装置は,理科教具として販売されているものも含

    めて見出すことが出来ない。また実生活では,ヒ

    トは横隔膜による腹式呼吸と,肋間筋による胸式

    呼吸を使い分けたり共に使ったりしている(越智,

    1990;Cohen, 2005;坂井・河原,2011)が,その

    ような役割分担を呼吸のしくみと関連させて理解

    できるようには教科書では構成されていない(有

    馬他,2012)という現状がある。

  • 日本科学教育学会研究会研究報告  Vol. 30 No. 2(2015)

    ― 14 ―

    図 1 教科書における呼吸のしくみのモデル装置

    (引用:有馬他,2012) 写真左:ペットボトルの

    モデル装置の肺にあたる風船は胸郭を満たしてい

    ない;写真中:肺に空気が入る際には横隔膜が伸

    びている;写真右:押しつぶしは,外肋間筋が縮

    むことによって胸郭が膨らむことと逆の操作。

    2.研究の目的

    1)教科書の呼吸モデル装置が,「ヒトの肺はどの

    ようにはたらいているのだろうか.」(有馬他,

    2012)という疑問の解決に対して,ヒトの体のは

    たらきの実際を反映しているか再検討を行う。

    2)見出された問題点を踏まえ,実際の呼吸のし

    くみを考慮した新しいモデル装置を提案する。さ

    らに生活実感を伴って呼吸のしくみを理解できる

    よう,モデルに加え新しい実験方法の提案を行う。

    3)新提案のモデル装置や実験方法の効果予想は,

    教師や学生による評価をアンケート調査(質問紙・

    無記名)することで検証する。

    3.研究の方法

    1)これまでの呼吸モデル装置とヒトの呼吸のし

    くみとの比較:呼吸のしくみを学ぶための現在の

    モデル装置の構造を調査した。ヒトの呼吸のしく

    みを支える組織や器官の構造とはたらきを,医学

    解剖図等で精査した。両者を比較した結果を踏ま

    え,現行モデル装置の問題点を明らかにした。

    2)現行呼吸モデル装置の問題点を踏まえた新し

    いモデル装置及び実験方法開発:現在のモデル装

    置の問題点を解決するための新しいモデル装置

    「LuNG model」の開発を行った。その際,ペット

    ボトルや風船等,身の回りの物で作製できる現行

    モデル装置と同様に安価に作製できることを基本

    とした。また,LuNG modelで呼吸のしくみを学ん

    だ後,「自分の体」を使って意識しながら胸式呼吸

    や腹式呼吸を行う実験方法を提案した。いずれも

    医学的根拠に基づいた概念と共に生徒が実感をも

    って理解できる新しい観察・実験として提案した。

    3)LuNG model及び実験方法への評価:本研究で

    提案しているモデル装置は,現在の教科書としく

    みに違いがあるため,中学校の教師や生徒にアン

    ケート調査を行うことができない。そこで,教師

    は,中学校へ児童を送り出す小学校の教諭(10名)

    及び,中学生を生徒として受け入れる高校教師(10

    名)を調査対象とした。いずれも生命・生物領域

    の教員研修を活用し,提案しているモデル装置や

    実験方法をスライドと実物モデルで説明を行った

    後,質問紙によるアンケート調査を実施した。ま

    た,本研究代表者が所属する福岡教育大学での教

    員免許取得に必須の科目の受講学生(1年生50名,

    3年生 20名,計70名)を対象に教員と同様のア

    ンケート質問紙調査を行った。特に大学1年生は,

    4 年ほど前は中学生であったことから中学生の実

    感に近い回答が期待される。教師へのアンケート

    調査は,教員研修の実施主体である教育委員会の

    許可を事前に取得して実施した(図2,図3)。

    4.結果と考察

    これまでの呼吸モデル装置とヒトの呼吸のしくみ

    との比較:教科書の「やってみよう 肺が空気を出

    し入れしている〔本来は,肺に空気を出入りさせ

    る(西野・後藤,2015)〕しくみを考えよう」では,

    ペットボトルを使ったモデル装置での実験が紹介

    されている(図1)。しかしこのモデル装置を,実

    際にヒトの呼吸に関わる体内の構造(Cohen,

    2005)と比べると,幾つかの違いが見られる(図

    4)。まず,実際は横隔膜が縮むと肺に空気が入る

    が,現行モデルでは横隔膜の伸縮が逆で,横隔膜

    が伸びることによる,とのミスコンセプションに

    至ってしまうことが危惧される。詳細に見ると,

    まず肺は自身の弾性によって縮もうとする(図4,

    4)のを逆に,肺を包む二重の胸膜の,相対的に低

    圧な漿液を含む胸膜腔側への吸引力と漿液の水に

    よる胸膜への粘着力で阻まれて胸郭内の大きさに

    膨らまされている(図4,11)。その胸膜上部は胸

    郭と結合組織によって繋がり(図4,11),即ち胸

    膜に包まれた肺をぶら下げるようになっている。

    胸膜下部は横隔膜に密着していて(巌佐他,2013)

    (図4,11~14),脚踏み型の空気入れ(図4,17

    右下)ように,横隔膜の側面の横紋筋が収縮して

  • 日本科学教育学会研究会研究報告  Vol. 30 No. 2(2015)

    ― 14 ― ― 15 ―

    図 1 教科書における呼吸のしくみのモデル装置

    (引用:有馬他,2012) 写真左:ペットボトルの

    モデル装置の肺にあたる風船は胸郭を満たしてい

    ない;写真中:肺に空気が入る際には横隔膜が伸

    びている;写真右:押しつぶしは,外肋間筋が縮

    むことによって胸郭が膨らむことと逆の操作。

    2.研究の目的

    1)教科書の呼吸モデル装置が,「ヒトの肺はどの

    ようにはたらいているのだろうか.」(有馬他,

    2012)という疑問の解決に対して,ヒトの体のは

    たらきの実際を反映しているか再検討を行う。

    2)見出された問題点を踏まえ,実際の呼吸のし

    くみを考慮した新しいモデル装置を提案する。さ

    らに生活実感を伴って呼吸のしくみを理解できる

    よう,モデルに加え新しい実験方法の提案を行う。

    3)新提案のモデル装置や実験方法の効果予想は,

    教師や学生による評価をアンケート調査(質問紙・

    無記名)することで検証する。

    3.研究の方法

    1)これまでの呼吸モデル装置とヒトの呼吸のし

    くみとの比較:呼吸のしくみを学ぶための現在の

    モデル装置の構造を調査した。ヒトの呼吸のしく

    みを支える組織や器官の構造とはたらきを,医学

    解剖図等で精査した。両者を比較した結果を踏ま

    え,現行モデル装置の問題点を明らかにした。

    2)現行呼吸モデル装置の問題点を踏まえた新し

    いモデル装置及び実験方法開発:現在のモデル装

    置の問題点を解決するための新しいモデル装置

    「LuNG model」の開発を行った。その際,ペット

    ボトルや風船等,身の回りの物で作製できる現行

    モデル装置と同様に安価に作製できることを基本

    とした。また,LuNG modelで呼吸のしくみを学ん

    だ後,「自分の体」を使って意識しながら胸式呼吸

    や腹式呼吸を行う実験方法を提案した。いずれも

    医学的根拠に基づいた概念と共に生徒が実感をも

    って理解できる新しい観察・実験として提案した。

    3)LuNG model及び実験方法への評価:本研究で

    提案しているモデル装置は,現在の教科書としく

    みに違いがあるため,中学校の教師や生徒にアン

    ケート調査を行うことができない。そこで,教師

    は,中学校へ児童を送り出す小学校の教諭(10名)

    及び,中学生を生徒として受け入れる高校教師(10

    名)を調査対象とした。いずれも生命・生物領域

    の教員研修を活用し,提案しているモデル装置や

    実験方法をスライドと実物モデルで説明を行った

    後,質問紙によるアンケート調査を実施した。ま

    た,本研究代表者が所属する福岡教育大学での教

    員免許取得に必須の科目の受講学生(1年生50名,

    3年生 20名,計70名)を対象に教員と同様のア

    ンケート質問紙調査を行った。特に大学1年生は,

    4 年ほど前は中学生であったことから中学生の実

    感に近い回答が期待される。教師へのアンケート

    調査は,教員研修の実施主体である教育委員会の

    許可を事前に取得して実施した(図2,図3)。

    4.結果と考察

    これまでの呼吸モデル装置とヒトの呼吸のしくみ

    との比較:教科書の「やってみよう 肺が空気を出

    し入れしている〔本来は,肺に空気を出入りさせ

    る(西野・後藤,2015)〕しくみを考えよう」では,

    ペットボトルを使ったモデル装置での実験が紹介

    されている(図1)。しかしこのモデル装置を,実

    際にヒトの呼吸に関わる体内の構造(Cohen,

    2005)と比べると,幾つかの違いが見られる(図

    4)。まず,実際は横隔膜が縮むと肺に空気が入る

    が,現行モデルでは横隔膜の伸縮が逆で,横隔膜

    が伸びることによる,とのミスコンセプションに

    至ってしまうことが危惧される。詳細に見ると,

    まず肺は自身の弾性によって縮もうとする(図4,

    4)のを逆に,肺を包む二重の胸膜の,相対的に低

    圧な漿液を含む胸膜腔側への吸引力と漿液の水に

    よる胸膜への粘着力で阻まれて胸郭内の大きさに

    膨らまされている(図4,11)。その胸膜上部は胸

    郭と結合組織によって繋がり(図4,11),即ち胸

    膜に包まれた肺をぶら下げるようになっている。

    胸膜下部は横隔膜に密着していて(巌佐他,2013)

    (図4,11~14),脚踏み型の空気入れ(図4,17

    右下)ように,横隔膜の側面の横紋筋が収縮して

    図 2 肺呼吸「LuNG model」に関するアンケート

    腱中心の位置が下がると,モデル装置のような空

    間の気体の減圧ではなく,胸膜と肺の間に広がろ

    うとする隙間,即ち閉じていた肋骨横隔洞や肋骨

    縦隔洞が開かされてできた隙間を埋めるように滑

    り込まされることで肺は膨らまされている(図4,

    13・14)(越智,1990;坂井・河原,2011)。

    このように現在のモデル装置と実際の呼吸のは

    たらきを支える体の組織や器官の動きの違いがい

    くつか見出されるが,このような観点で注目して

    改善を行った例は,文献でもインターネット上で

    も見つけることができなかった。また実生活では,

    横隔膜による腹式呼吸と肋間筋による胸式呼吸を

    使い分けたり共に用いたりしているが,そのよう

    な役割分担も,呼吸のしくみと関連させて理解で

    きるようなモデル装置にはなっていなかった。

    現行の呼吸モデル装置の問題点を踏まえた新しい

    モデル装置及び実験方法の開発:このような現状

    を踏まえ,より実態に近いモデル装置「LuNG

    model」を開発した.「Lu」は肺の英語名「Lung」

    に由来しているが,「N」と「G」は,本研究代表者

    と分担者の姓の英語名の頭文字である。その開発

    図 3 腹式呼吸モデル・胸式呼吸モデル「自分の体」

    に関するアンケート〔「LuNG model」で呼吸のしくみ

    (腹式呼吸)を学習した後という設定〕

    コンセプトは,学校での作製しやすさ,利用しや

    すさを視野に,できるだけ簡易で安価にできる事

    を心掛けた(図4,18~22)。作製は簡単で,ペッ

    トボトル本体の側面に溝が複数入っているものの

    下半分を切り去り,切り口をハサミ等で滑らかに

    して半分に切った大きめのゴム風船を溝に沿うよ

    うに取り付ける。このゴム風船が横隔膜なのは現

    行モデルと同じだが,フィルムケースのフタを底

    から貼り付けて腱中心を模している(図4,19・21)。

    また,横隔膜の直ぐ下には腹膜に包まれた内臓,

    即ち肝臓や胃,十二指腸や小腸・大腸があることか

    ら,この内臓を水ようかんなどの空き容器を逆さ

    まにして表現した(図 4,18~21)。LuNG model

    では,横隔膜が伸びている時は,この水ようかん

    空き容器で表現した内臓があるためと,肺が縮も

    うとする弾性で伸びた横隔膜の位置が上がってい

    る様子を,空き容器へ押しつける事でゴム風船の

    横隔膜が伸びている状態として表現する(図 4,

    20)。横隔膜が縮むと腱中心の位置が下がり,内臓

  • 日本科学教育学会研究会研究報告  Vol. 30 No. 2(2015)

    ― 16 ―

    が押し下げられる。押し下げられた内臓は実際に

    は腹側に押し出されることになるが,これは「LuNG

    metabo model」(図 4,21・22)で内臓の風船が横

    に膨らむことで表現している。LuNG modelの最大

    の特徴は,ペットボトルの口からゴム風船の横隔

    膜までの全容積が肺の体積を表していることであ

    る。横隔膜腱中心の位置の下・上で肺の体積が増・

    減し,肺で空気が入・出する様子を,ペットボトル

    の口に取り付けた風船や玩具の吹き戻し(図 4,

    19・20),またはmodelの中に入る水溶液の体積を

    比べる(図4,20)ことで理解することができる。

    また,胸式呼吸と腹式呼吸を別々に「自分の体」

    で体感する実験も提案した(図 4,23・24)。息を

    止めた状態でお腹や胸を膨らますことが出来るか

    どうかで, 肺に空気を入れるにはお腹を膨らます,

    即ち横隔膜を下げて肺の体積を増やす必要があり,

    また肋間筋を引き上げることで胸を膨らませ肺の

    体積を増やす必要があることが体感できる。

    LuNG model及び実験方法への評価:教師及び教師

    を目指す学生による評価を得た(図2,表1,図3,

    表2).LuNG modelを使う場合には,より高い学習

    効果とともに,これまでのモデル装置に比べてヒ

    トの呼吸のしくみをより正しく学べるとの評価で

    あった(図2,表1)。一方で,LuNG modelで学ん

    だ後,自分の体を使って胸式呼吸と腹式呼吸を

    別々に学習する実験方法は,特に学生で「できな

    い」との回答もあり,生徒が自分の体の各部を意

    識することの難しさが予想された(図3, 表2 )。

    5.おわりに

    現行教科書の肺モデル装置は,例えば横隔膜(ゴ

    ム膜)が伸びて空気が肺に入るなど,しくみ理解

    を誤ってしまう可能性が考えられる。本研究で提

    案した呼吸モデル装置は呼吸のしくみの実際を反

    映しており,正しく呼吸のしくみを理解できる簡

    易で安価な新しいモデル装置であると考えられる。

    引用及び参考文献

    有馬朗人他57名:理科の世界2年,90-91,大日

    本図書, 2012

    Cohen, B.J.:Memmler’s The Human Body in Health

    and Disease, 10th ed., 65, Lippincott Williams

    & Wilkins, 2005

    巌佐庸・倉谷滋・斉藤成也・塚谷裕一編集:岩波生物

    学辞典 第5版,159, 岩波書店, 2013

    西野秀昭・後藤恵:中学校理科「生命を維持するは

    たらき」における呼吸モデル実験の改善に関する

    研究 ~呼吸モデル装置の現状調査及びヒトの呼

    吸のしくみとの相違点について~,平成 27 年度

    日本理科教育学会九州支部大会発表論文集, 42,

    26-27,沖縄県市町村自治会館,2015

    越智淳三:分冊解剖学アトラス 内臓Ⅱ,143, 文

    光堂, 1990

    坂井健雄・河原克雄:カラー図解人体の正常構造と

    機能,62, 日本医事新報社, 2011

    高橋長雄:からだの地図帳,38,講談社, 2007

    表 1 「LuNG model」への評価

    Q1 人数 % 人数 % 人数 % 人数 %

    できた 34 68 8 40 8 80 8 80少しできた 15 30 9 45 2 20 2 20どちらでもない 1 2 0 0 0 0 0 0あまりできなかった 0 0 3 15 0 0 0 0できなかった 0 0 0 0 0 0 0 0計 50 100 20 100 10 100 10 100

    Q2 人数 % 人数 % 人数 % 人数 %

    思う 2 4 0 0 1 10 0 0少し思う 1 2 2 10 2 20 0 0どちらでもない 7 14 3 15 0 0 1 10あまり思わない 26 52 8 40 3 30 3 30思わない 14 28 7 35 4 40 6 60計 50 100 20 100 10 100 10 100

    Q3 人数 % 人数 % 人数 % 人数 %

    思う 30 60 9 45 5 50 7 70少し思う 16 32 8 40 5 50 1 10どちらでもない 2 4 3 15 0 0 2 20あまり思わない 2 4 0 0 0 0 0 0思わない 0 0 0 0 0 0 0 0計 50 100 20 100 10 100 10 100

    大学1年 小学校教諭大学3年 高校生物教師

    表 2 胸式&腹式呼吸モデル「自分の体」への評価

    Q1 人数 % 人数 % 人数 % 人数 %

    できた 28 56 5 25 5 50 4 40少しできた 13 26 6 30 2 20 4 40どちらでもない 2 4 2 10 1 10 0 0あまりできなかった 5 10 7 35 1 10 0 0できなかった 2 4 0 0 1 10 2 20

    50 100 20 100 10 100 10 100

    Q2 人数 % 人数 % 人数 % 人数 %

    できた 11 22 4 20 2 20 4 40少しできた 15 30 4 20 3 30 3 30どちらでもない 8 14 2 10 4 40 0 0あまりできなかった 9 18 8 40 0 0 1 10できなかった 7 14 2 10 1 10 2 20

    50 100 20 100 10 100 10 100

    Q3 人数 % 人数 % 人数 % 人数 %

    できる 11 22 1 5 2 20 2 20少しできる 14 28 5 25 3 30 5 50どちらでもない 14 28 3 15 4 40 3 30あまりできない 10 20 11 55 1 10 0 0できない 1 2 0 0 0 0 0 0

    50 100 20 100 10 100 10 100

    大学1年 小学校教諭大学3年 高校生物教師

  • 日本科学教育学会研究会研究報告  Vol. 30 No. 2(2015)

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    図4

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    ~12

  • 日本科学教育学会研究会研究報告  Vol. 30 No. 2(2015)

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    LuNG

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    」及

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    24)

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