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  • 目次

    序 1

    ギターハーモニックス奏法を

    用いる純正律独習法の利点 2

    純正律を習得する必要性 3

    純正律独習法 4 ギターについて 4

    ハーモニックス奏法で出る音程 5

    ハーモニックス奏法の為の準備 6

    教程1 ハーモニックス音の出し方 8

    教程2 純正音程調弦法 9

    教程3 長三和音ドに対してミとソの音程 10

    教程4 長三和音ミに対してドとソの音程 10

    教程5 ドミソの和音内のすべての音程 10

    教程6 遠い音程 10

    教程7 高音域 11

    教程8 ソシレ、ファラドなど読み替え 11

    教程9 音階的音程 1 12

    教程10 属7型和音の音程 14

    教程11 アルペジオ奏法を用いる練習 14

    教程12 増1度音程 15

    教程13 音階的音程 2 15

    純正律とは 18

    著者略歴: 森田牧朗 1934年生 退職前の本業は実験化学者として大学の教職 大学合唱

    団副指揮者時代ギターハーモニックス奏法で純正律を習得

    古楽声楽家望月裕央、木島千夏両氏と共に実践的純正律講座、合唱団純正律俱楽部主宰

    本冊子はホームページ“純正律独習法”http://renshuu.s2.xrea.com からも pdf ファイルをダウン

    ロードできます。本冊子の著作権は著者に属しますが、無償で配布する目的のためならば許可

    なくコピーすることを認めます。

  • 1

    合唱の歌い手や指導者で、純正律に興味を持ち習得したいと考えている人は多いだろう。この小

    冊子はそのような人の為の純正律独習教本として書かれたものである。合唱関係者を対象に記

    述しているが、吹奏楽関係者などにも、声の記述を楽器に読み替え類推してもらえば、ほぼ同じよ

    うに使える内容である。ギターを用いるが、ギターを弾く技術は必要ないし、また人並み以上の音

    感も要求しない。

    純正律と言う語をインターネットで検索すると、純正律の和音や音程を経験できるサイトが数多く

    ヒットする。しかしそれを聴いているだけでは実際に合唱で音をうまく合わせられるようにはならない。

    アプリの中には、出した声が純正な音程とどうずれているか表示しそれを指針に音程を直せるもの

    もあるが、電子音オタクでない普通の合唱関係者には馴染みにくく、実際にこれで訓練できそうに

    は思えない。

    そこで本冊子では、ギターをハーモニックス奏法で純正な音程に調弦しながら、純正な音程を

    覚えるという、ローテクであるが音楽にとって本来的な、純正律の習得法を提供する。

    ところで著者は音楽の実技も音楽学も教育をうけたことのないアマチュアである。本業はすでに

    引退しているが実験化学の研究者で大学の教職についていた。その著者が実践的純正律講座と

    いう講習会の講師を勤め、また純正なハーモニーを目指す純正律合唱倶楽部と言う小合唱団の

    ハーモニー指導も担当している。著者は純正律を一体どのようにして習得できたのか?それは著

    者の大学時代にさかのぼる。著者が大学合唱団でプロ指揮者の下働きの副指揮者をしていた頃、

    ギターをハーモニックス奏法で純正な音程に調弦してその音程を記憶する訓練を試みた。そして

    記憶した音程で合唱団をトレーニングしたところ、かなり純正なハーモニーが出たので、著者が純

    正な音程を習得できていたことが確かめられたのである。本業引退後再開した合唱活動の中で、

    古楽方面の声楽家望月裕央氏、木島千夏氏の知遇を得て、共に実践的純正律講座と純正律合

    唱倶楽部を立ち上げ現在に至っている次第である。

    本冊子は著者がかって独習した、ギターのハーモニックス奏法を用いる純正律習得法を紹介し

    手ほどきするものである。著者は特に優れた音感の持ち主ではない。アマチュア合唱団員の平均

    より多少は良いとうぬぼれているが、それ以上のものではない。だから冒頭に記したように、純正律

    の音程を習得するのに必要な音感は、アマチュア合唱団でそこそこ歌っている普通の人のレベル

    で十分なのである。ギターの2本の弦を完全に同じ高さに合わせれば唸りが消えるが、普通の音感

    の人が同じ高さに聞こえるように合わせても、かなり唸りが残るものである。しかしその程度の音感

    で十分であるから、尻ごみしないでこの方法に挑戦されることを期待する。

    この冊子の内容に半信半疑の読者もおられるだろうから、ギターハーモニックス奏法を用いる純

    正律独習法の優れた点を次節、また純正律の習得の合唱や吹奏楽の演奏や指導への必要性を

    その後の節に、納得いただけるよう説明することにした。それらのことに特に疑問を持たれない方は、

    これらの節は飛ばして先に進まれたい。

    純正律の理論をよく知らない人は、実際に音を出す練習と並行して付録の「純正律とは」を学

    ぶのが良い。

  • 2

    ギターハーモニックス奏法を用いる

    純正律独習法の利点

    合唱、重唱を歌う人が純正なハーモニーを出せるようになる訓練をする王道と云うか本来的な

    やり方は、実際に声を合わせて練習することであろう。しかしよほど条件が良くなければ、これがう

    まく行かないことは、合唱関係者なら良く知っていることである。そこでこの王道にこだわらず、最も

    短期間、効率的に純正なハーモニーを出せる能力を身につける方法として、ギターハーモニック

    ス奏法を用いる純正律独習法を、ここに勧めるものである。

    上に挙げた普通のやり方では、アマチュアの歌い手にとって大変難しい条件を満たさなければ

    高いレベルに達することができない。その条件とは、1 音感が優れ、2 発声が良く、3 練習環境

    が適切である、の三つであるが、ギターハーモニックス奏法を用いるやり方ならこれらの条件が満

    たされる必要がない。まず1について。純正な音程やハーモニーを、ギターハーモニックス奏法で

    は自分の音感で探り出す必要なく作り出し記憶できる。次の大きな利点は、良い音程とハーモニ

    ーを記憶する練習を、声を使って行わないことである。これは1と2の両方に関係する。声は出した

    瞬間に消え主観的な記憶でしか残らないが、ギターの弦の音程は客観的に確認でき、記憶をフィ

    ードバックできっちり定着させる練習ができる。また音感と発声との関係においてきわめて大きな利

    点がある。良いハーモニーを出すには、声をコントロールしてぴったり合うところを探しそのポイントを

    記憶しなければならないが、発声の技術が未熟な状態で自分の声を使って音感の訓練をするの

    は非効率で、高いレベルに到達するのは至難である。高い苦しい音域での音合わせ練習が難しい

    のは、誰も経験するところである。 ギターハーモニックス奏法を用いるやり方で、自分の声をハー

    モニー練習に使わない利点は、発声技術が未熟な人に特に大きい。3の適切な練習環境という

    条件は、一般的にはどういう合唱団、重唱グループに属しているかとか、音合わせ練習をする相

    棒がどういう能力を持っているかなどがかかわって来ることで、実際問題としては大変重要な条件

    だが、ギターハーモニックス奏法を用いるやり方は独習法だから、そもそもこの問題は存在しない。

    現在では、電子音で純正な音程やハーモニーを出せるキーボード(ヤマハのハーモニーディレ

    クターやローランドのジャスティなど)が使えて、その音を重ねて合唱を歌わせていればハーモニー

    の感覚はかなり養われる。しかしそれには限界があり、普通の音感と発声のレベルの合唱団がこれ

    だけで本当にクリアなハーモニーを出せるようにはまずならない。そのためには、合唱団員個々人

    が漠然としたハーモニーの感覚だけでなく、純正な音程を習得することが必要である。純正音の電

    子チューナー、音程判定や訓練を謳った様々な機器やパソコン上のアプリが使用可能だが、その

    目的に十分かなう電子機器は、私の知る限りではまだ無いように思う。という訳で、このギターハー

    モニックス奏法を用いるやり方が、現時点では最良だと結論できる。付け加える利点として、これで

    訓練していると同時に純正律の理論が自然に実感的に理解し身につけられることが挙げられる。

    最後にギターハーモニックス奏法を用いるやり方のより高度の利点を指摘して終わりたい。普通

    の音合わせ練習で良い条件に恵まれ、かなり良いハーモニーを出せるようになった人でも、多くの

    場合出した音を合わせられるレベルに留まっていて、純正な音程で合う音を狙って出せるレベル

    には達しない。相当優れた音感の持ち主でなければ出した音を合わせているだけでは、自然にそ

    の域に達するのは難しいと思う。しかしギターハーモニックス奏法を用いるやり方でなら、普通の音

    感の持ち主でも純正な音程を比較的容易に習得できる。出た音を聴き合って合わせたハーモニ

    ーと、狙って出した純正な音程で合うべくして合ったハーモニーとでは、和音の変わり目のクリアさ

    が違い、それがハーモニーの色彩感と格調の違いになるように思う。

  • 3

    純正律を習得する必要性

    合唱や吹奏楽は純正律で演奏すべきだということをいう人は多い。世間ではこの純正律で演奏

    するという言い方を純正なハーモニーで演奏するという意味で大雑把に使っているようなので、著

    者もうるさいことは言わず通常はそれに従うことにするが、この両者は同じではない。本文は純正な

    ハーモニーと純正律の関係について説明しながら、純正律習得の必要性を説くものである。

    純正律や平均律というような音律が厳密に決められなければならないのは、高さを予めきっちり

    決めておかなければならない鍵盤楽器などだけである。人の声や吹き方で音程が微調整できる管

    楽器、指の位置で音程が自由に取れるバイオリンなどでは、最も良い音程は周囲の音に耳で合わ

    せて取るもので、予め決めてある音律通りに音を出してうまくゆくとは限らない。まったく自由に音程

    が取れる人の声では、極端な場合旋律パートがどんな音程で歌おうが、他のパートがそれに合わ

    せることができれば、純正な和音を並べることはできる。楽器の場合は人の声ほど自由はないが似

    たようなことが言える。

    ならば合唱を歌う人は、音を合わせる感覚さえ養えば、純正律を音律として訓練する必要はな

    いのではないか?さらに基本的な純正律を習得しただけでは、転調などに対応できないのではな

    いか?これらの疑問点に以下答えよう。

    旋律パートが純正律で歌わなくても、他のパートが合う音程をうまく取れれば、純正なハーモニ

    ーが出せないわけではない。しかしこれは一般的には大変難しい。その点純正律の音程で全パー

    トが歌えれば、純正律のカバーできる和音ならそのまま純正な音が出る。

    問題は純正律の音階体系でカバーできる和音が限られているという点である。転調などその調

    の音律でカバーできない和音が出て来た時、純正律の音階を覚えているだけで対応できるかが問

    題だが、それは実際にはむつかしいことではない。和音の響きに自然に従って歌うだけで良いので

    ある。カバーできない和音は、他の調の音階の一部分を借用継ぎ合わせて使うことで対応すること

    になるが、和声学の知識がなくとも、尤もらしい響きに収めるという感覚で自然にそれが実現できる。

    典型的な例を示そう。長音階でレファラが使われる時である。長音階の本来の音ではこの和音は

    不協和である。ここでは短音階の22セント(平均律半音の22%)も低いレを借用する。その後ソシ

    レが出て来るとレは元に戻すというふうに説明されている。しかし実際の演奏の感覚では、音程の

    微調整と意識されるより、和音の響き、色合いの違いに合う音を出すと感じられる。

    このような音程微調整が行われたら、曲のピッチがどんどん狂って行ってしまわないだろうか?

    実際にはその心配はなく、音階感覚がしっかりしていれば、曲の基準ピッチは保たれる。これは絶

    対音的なピッチの維持だが、絶対音感を持たない普通の音感の人でも短期記憶としてなら可能で

    あり、音階音がしっかり一体として認識されていると、ピッチの短期記憶は保持され易いようである。

    曲のピッチが保たれているのは、隣り合った音と音との音程が次々積み重なった結果が正確だか

    らではなく、音階音一体として保持されている基準ピッチという感覚の枠組みに、全体の流れが収

    まっているからである。基準ピッチの感覚がしっかりしていれば、その流れに音程の微調整が含ま

    れていても、微調整が終われば自然に本来のピッチに戻るものである。

    純正なハーモニーを出すに必要な習得すべき純正律の音程精度は、普通の音感の人にも十

    分習得可能な程度で、鍵盤楽器調律の精度に比べはるかに低くて良いが、それにもかかわらず

    曲全体のピッチはこのような仕組みで十分保たれ得るのである。

  • 4

    純正律独習法 本独習法は純正な音程を習得するための実技的内容のものであるが、純正律音体系全体の把握には理論的理解が必要であるので、付録 “純正律とは”を並行し

    て学習し、教程修了時には主要な内容を記憶出来ていることが望ましい。

    ギターについて

    まず使用するギターという楽器を大まかに理解しておこう。本書で用いるのにはアコースティック

    ギター(フォークギター)とクラシックギターはどちらでも良いが、初心者向けの廉価なものは前者な

    ので新たに購入する場合は前者が手軽である。なおアコースティックギターの語は、広義には電気

    的に音を出すエレキギターに対する言葉でナイロン弦のクラシックギターも含むが、通常金属弦の

    フォークギターを指す。エレキギターはこの独習法には使えない。

    使用するギターは、そのギターで普通のギターの練習もしようというのでなければ、最も廉価な

    入門用のもので十分である。通常サイズのものは結構図体が大きく置き場に困ることもあるかも知

    れない。その場合は子供用の4分の3サイズのもの(長さ約75㎝)が使える。さらに小さいものもあ

    るが、使いにくいので勧めない。小さいサイズのものを後述のように同じ調弦で合わせると弦の張力

    が弱いので、音がビビるのと、調弦が狂い易い欠点があるが、弦の張力が弱い方がハーモニックス

    音は鳴り易い利点があり、普通サイズのものとは一長一短である。どちらのサイズのものもインター

    ネット通販で4〜5000円から購入できる。

    ギターを購入すると、弦は本来の調弦より緩めに張った状態で手許に来る。ギターの演奏用の

    基本調弦は図1の音符の通りで、最高音の第1弦から最低音第6弦へ順に E3(ホ){ ピアノ鍵盤

    中央のハの三度上のホ }、B2(ロ)、G2(ト)、D2(二)、A1(イ)、E1(ホ)である。

    純正律練習では後掲の楽譜で示すようにいろいろな音程に各弦を合わせるが、どの弦もかなら

    ずこの基本調弦の音高を越えないようにしてある。

    実際の調弦は8頁“教程1 ハーモニックス音の出し方”で図6 aのDの上の長三和音に合わせ

    るのが最初だが、購入時の緩めた弦をベグというねじを回し弦の張力を強め音高を上げて調弦す

    る。

    その際間違えて基本調弦の音高より上げ過ぎないよう気を付けること。弦の張力が規定より高く

    なり切れる恐れがある。(3/4サイズのギターの場合四度ほど余裕があるがそれでも気を付けること。

    勘違いでオクターブ上に合わせようとしたりしないよう。ギターの金属弦は慣れない人がオクターブ

    間違えやすい音色である。また3/4サイズのギターの場合、購入時ほとんど基本調弦の張力で弦

    が張られていることもあるので注意。)

  • 5

    ハーモニックス奏法で出る音程

    弦のいろいろな振動の形を図2に示した。これは弦が上下に振れている様を拡大誇張して描い

    たものである。弦の振動は図の基本振動のような振れ方だけのように感じられるかも知れないが、

    実際には2倍振動以下のようないろいろな振動の仕方が混じっている。弦の振動数は長さに反比

    例する。 2倍振動、3倍振動、……はそれぞれ2分の1の長さ、3分の1、……の長さの弦の基本

    振動に相当するので、振動数はそれぞれ2倍、3倍、……になる。つまり弦の発する音には基本振

    動、2倍振動、3倍振動、……の音の波が混じっているのである。これらの振動数の音(倍音と言う)

    はばらばらには聞こえず、基本振動の高さの一つの音として聞こえ、倍音の混じり具合は音色として

    感じ取られる。

    ギターの棹の弦を張る側の面を指板と

    言い、半音刻みにフレットと呼ばれる金属

    棒が埋め込まれている。通常の奏法では、

    弦は左手の指で指板に押し付けられフレ

    ットに当たって、振動できる弦の範囲つま

    り長さが決まり出る音の高さが決まる。

    ハーモニック奏法は、弦が浮いたまま

    つまり開放弦の状態で、左手の指で軽く

    弦に触れその点の振動が起こらないよう

    にしながら、右手の指で弦を弾く奏法であ

    る。弦の長さのある整数分の1の位置に

    指を触れてその位置の振動を止めて弾く

    と、指を弦に触れずに弾いた時の音の整

    数倍の振動数の音が出る。例えばちょう

    ど弦の2分の1の点に触れて弾けば、元

    の弦の振動数の2倍の振動数の音が出

    る。この触れ方で、基本振動、3倍振動、

    5倍振動……が止められる。弦の振動で

    一番振れる位置を腹、振動しない位置を

    節と言い、腹の位置に触れればその振動

    は止められる。基本振動、3倍振動、5倍

    振動……はいずれも弦の2分の1の点が腹になっていて振動が止められることが分かるだろう。つ

    まり残る2倍振動、4倍振動、6倍振動……(これらは弦の2分の1の点が振動の節になっていて、

    触れられても振動が止まらない)が含まれる音が出て、これが弦に触れずに弾いた時の音の2倍

    の振動数の一つの音として聞こえるのである。 これは弦の張力が変わらず正確に長さが2分の1

    になった時に出る音に相当する。

    開放弦の振動数の正確に整数倍の振動数の音を出すことは、フレットがあるギターの通常の奏

    法では原理的に不可能である。フレットのないバイオリンなら可能だがその位置を耳で探さなけれ

    ばならない。ハーモニックス奏法では、弦長のおよそ整数分の1の位置に軽く指で触れてその場所

    の弦の振動を止めるやり方で、それが自然にできるのである。指で触れる位置が多少ずれても音

    が小さくなるだけで音程は変わらない。要はハーモニックス奏法なら弾く人の音感に頼らず、開放

    弦の振動数の整数倍の振動数音が正確に出せるということである。

  • 6

    図3の楽譜は、開放弦の音高が C2の弦のハーモニックス奏法で出る音を示した。

    開放弦を普通に弾いた譜面一番下の C2音をドとすると、ハーモニックス奏法によって出した振

    動数2倍の音はオクターブ上のド、振動数3倍の音はオクターブ上のソ、振動数4倍の音は2オク

    ターブ上のド、振動数5倍の音は2オクターブ上のミ、振動数6倍の音は2オクターブ上のソ、振動

    数7倍の音は2オクターブ上のシ-フラットになる。純正律の説明は音階音として、つまり移動ド唱法

    でしなければならないが、この譜例はハ長調で読んだ階名なので固定ド唱法に慣れた人にも理解

    し易いだろう。この譜面と付録「純正律とは」の図16とは、書かれた音符は同じであるが、そちらは

    自然倍音列を示すものである。実際のハーモニックス音では振動数2倍の音は2倍音だけでなく、

    4倍音、6倍音……など2の倍数の振動数の倍音が混じっものであることは、前ページに記した通り

    である。なお振動数何倍の音といちいち言うのは煩雑なので、以後単に何倍音という言い方をする

    こともある。

    ハーモニックス奏法の為の準備

    まず図4の写真で示されたギター指板の位置にラベルを貼り付ける(普通の紙ラベルがいい。ビ

    ニールテープの接着剤はギター指板にうまく着かない。なおギターによって指板上の目印など写

    真と違うところがあるだろうが、ベグ(調弦用つまみ)側からフレットを数えてラベルの位置を決める

    こと)。

    次に写真に倣った位置に弦に直交する線と数字を書き込む。この線はハーモニックス音を出す

    時に左手の指で軽く弦に触れる位置を示している。数字は出る音が振動数何倍の音かを表す数

    字である。線は弦のベグ側から弦長のその数字分の1の位置に引かれている。弦長の整数分の1

    の長さを正確に計算して線の位置を決めればなお良い。

  • 7

  • 8

    教程1 ハーモニックス音の出し方

    ハーモニックス音を出す練習をする前に、ギターは次頁図6 a の D の上の長三和音にざっと調

    弦しておく。音叉や鍵盤楽器などの音で、大体合わせておくだけで良い。弦が適切な強さの張力で

    張られている方がハーモニックス音を出す練習はやり易いし、教程2に進んでも大体調弦されたと

    ころから精密に調弦する方がやり易い。

    ハーモニックス音を上手く鳴らす要領は、左手は弦を押さえず指の腹で軽く弦に触れているだ

    けで、右手で弦を弾いた瞬間に弦から離すことである。離すタイミングが一番重要である。図5の

    写真で説明する。a:弾く前左手の指で弦に軽く触れ、右手は構えている。b:右手で弾く瞬間は左

    手の指は触れたまま。c:右手が弦を弾き切ったと同時に左手の指も離す (この写真は第6弦の3

    倍 音 を 出 し て い る 場

    合)。

    図は両手の関係を示

    すためテーブルの上で

    写しているが、実際には

    普通の持ち方で弾く。ギ

    ターを弾けない人は、

    腰掛けて膝の上にギタ

    ーを平らに置いて鳴ら

    す方がやりやすい。

    もう一つ重要な要領

    は右手がハーモニック

    ス音の出易い位置を弾

    くことである。弦を弾く位

    置は胴の丸い穴の近く

    だが、その倍音の振動

    の腹に近い位置を弾く

    方がよく鳴る(図2参

    照)。複数ある腹のうち、

    弦の胴側の端に一番近

    い腹の位置は、倍音が

    高くなるにつれて、丸い

    穴から端の方に寄って

    行く。図5の例は3倍音

    なので、あまり胴側の端

    に寄らずに弾いている

    が、4倍音を超える倍

    音の時は、端にかなり

    近づけた方がよく鳴る。

    ハーモニックス奏法

    で音を出すのは低い弦ほど易しく、また低い倍音ほど易しいので、まず易しいところから始めるのが

    良い。5倍音で調弦に使える程度音が延びるようになったら、次の教程に進むこと。

  • 9

    教程2 純正音程調弦法

    まずハーモニックス奏法を用いて6本の弦を純正な和音に調弦する練習をする。図6楽譜の a

    は教程3から9までの練習に用いる調弦法であり、b以降で具体的な各弦の音程の合わせ方を数

    字で示した。数字の意味を e の組み合わせを例に説明する。この D2音と A2音の組では、D に3、

    A に2がついているが、これは D2に合わせる第4弦の3倍音と、A2に合わせる第2弦の2倍音が同

    じ高さになるよう調弦せよ、という意味である。D-A 完全五度の振動数比2:3がひっくり返っている

    と理解できるだろう。この同じ高さになる両方の弦の倍音 D3の位置を譜面に×印で記してある。な

    お a の D2音に付けた※は、第4弦をピアノやキーボードなどでまずこの音に合わせ、この弦に対し

    て他の弦を合わせて行くようにという指示であり、bからfの数字は※を付けた D2音からの合わせ

    方を示すものとなっている。

    2本の弦を調弦する時は、通常低い方の弦のハーモニックス音を鳴らしておいて消えないうちに

    高い方のハーモニックス音も鳴らし、ベグ(調弦用つまみ)を回して同じ高さに合わせる。図6 e の

    例では先ず第4弦3倍音、次に第2弦2倍音を鳴らして合わせるのである。合わす方の弦(この場

    合は2弦)のベグを、唸りを聴きながら回す。唸りの振動数は二つの音の高さの違いが大きいほど

    多く、音が近づくほど唸りはゆるやかになる。ベグを回し音を近づけて行くと唸りが緩やかになり消え、

    さらに回し続けると再び唸りが出始める。行過ぎたら少し戻しやり直し、唸りの消える点で止められる

    まで繰り返す。慣れて来れば唸りが消える点で簡単に止められるようになる。

    この調弦は D の上の長三和音になっているので、各弦の階名は二長調の移動ド読みで示せば

    上の第1弦から下の第6弦に向かってド(D3)、ソ(A2)、ミ(F#2)、ド(D2)、ソ(A1)、ド(D1)となる。

    教程6まではニ長調読みのみで練習するが、教程7~9では他の移動ド読みもまじえる。

    6本の弦を合わせるには、最初6本の弦をおよそその音高にしておいてから、各弦を精密に調

    整して行くが、その手順はまず第4弦のドに対してオクターブの上下のド第1、6弦を合わせる。次に

    第4弦ドに対して第2、5弦のソを合わせる。最後に第4弦ドに対して第3弦をミに合わせる。その過

    程では、ある弦の音程をベグを回して調整していると他の弦が狂って来ることがしばしば起こるので、

    いろいろな弦を行きつ戻りつしながら調弦しなければならない。もちろん基準の第4弦が狂えばピア

    ノやキーボード、あるいは音叉などで合わせ直しながら進めなければならない。

    ハーモニックス音同士の唸りを聴きながら調弦するのは、耳の訓練されていない段階でできる

    方法であるが、慣れてきたら普通の奏法で二本の弦を同時に弾いて、唸りが消える点へ調弦する

    ことができるようになる。

  • 10

    教程3 長三和音ドに対してミとソの音程

    純正律の音程は和音の構成音間の音程、分散和音的音程が基本であり、音程習得もまずそこ

    から始める。長三和音(ドミソと意識して良い)の基音ドから長3度上のミと完全5度上のソの音程を

    覚えることが、そのまた一番の基本の基本である。

    ドミの音程を覚えるには、第3弦ミの弦を一度緩めて音を下げ、改めて第4弦ドの音を聴きながら

    (2本の弦を一緒に弾いて和音を聴くのではなく)ミと感じられる高さに上げ直す。その正しさをハー

    モニックス奏法で確かめる。最初はかなりずれるのが普通で、正しいとされる音程に違和感を覚え

    ることもあるが、何回も繰り返していると音程感覚が修正されて合うようになって来る。ドソの音程も

    同じように第4弦に対して第2弦を合わせる練習をする。

    心がけとして、一回の練習時間、繰り返し回数はあまり多くせず、そのかわり毎日とはいわないが

    継続すること。また二つのハーモニックス音が同じ高さに聞こえればOKとして、一緒に鳴らして唸り

    がでない高い水準までは無理に目指さないこと。ハードでなく完全を目指さず気楽に続けることが

    結局いやにならずに上達するこつである。

    教程4 長三和音ミに対してドとソの音程

    次に、長三和音の中の全ての音程を覚える段階に進むが、その中でミに対してドおよびソの音程

    を取る練習をまず行う。図6の調弦で第3弦ミに対して上方の1弦ド,2弦ソ,下方の4弦ド,5弦ソ

    を合わせる練習をするのである。特に順番にこだわらず思いつくままに行って良い。

    純正な音程からのずれ方の一般的な癖は、ミが高めなことであるが、純正な音程の訓練をする

    とド、ソからミを取る方は比較的容易に修正される。ド、ソに対してミが高すぎる癖は、裏返すとミに

    対してド、ソが低すぎる癖といえるが、こちらのド、ソの低くなる癖の方が修正しにくいことが、経験的

    に分かっているので、ミに対して音を取る練習をまず優先して行うのである。発声の点から見ても、

    ミのような長三和音の3度音から他の音に動くところで下がり勝ちになる。その観点からも、この音

    程感覚の修正はまず取り組むべき課題なのである。

    教程5 ドミソの和音内のすべての音程 教程5から教程11は順に進まなくとも良い。特に教程9は早めに取り掛かることを勧める

    ドミソの和音の分散和音型としてドミ、ドソ、ミソ、ミド、ソド、ソミの音程があり(以降の文中で音程の

    表記はすべて下から上の音の順で書く)、下の音に対して上の音を取るのとその逆の上の音に対し

    て下の音を取るのを合わせて、全部で12通りの練習がある。教程3,4で取り上げたもの以外もす

    べて練習する必要があるが、システマティックに網羅的にする必要はない。気の向いたあるいは気

    の付いた音程をあれこれやって行き、結果として最終的に全部カバーできればいい。第1弦から第

    5弦の範囲でこれらのすべての音程の練習ができる。なお、今までとこの後のすべての練習につい

    て言えることだが、純正な音程が簡単に覚えられるものと、なかなか修正できないものがある筈で

    ある。修正がむつかしいのは自分の音程の感覚が純正な音程とずれが大きい証拠だから、そのよ

    うな直しにくい音程に重点を置いて繰り返し練習すると、効率的である。

    教程6 遠い音程

  • 11

    オクターブを超える遠い音程は、ハーモニックス音を聴いて合わせる練習をする。ソプラノは、3

    弦ミあるいは2弦ソの2倍(オクターブ上)や4倍(2オクターブ上)のハーモニックス音を、4弦ドを聴

    きながら合わせる練習をすると良い。ソプラノは上から合わせるのが難しいパートだから、このような

    練習は極めて有用である。バスはこれらのハーモニックス音を聴きながら第4弦を合わせる練習を

    すると良い。また一般的傾向としてバスはドミソのミが低音に来ている和音を合わせるのが苦手だ

    から、第1弦ド、第2弦ソの2倍、4倍ハーモニックス音を聴きながら第3弦のミを合わせる練習も重

    要である。どのパートの人も、オクターブの感覚は意外に不正確であるので、オクターブの音程の

    練習も必要である。そのためには第1弦と第4弦、あるいは第2弦と第5弦の組み合わせを用いる。

    上の弦をハーモニックス音にすれば、2オクターブ離れた音の練習もできる。ソプラノは2オクター

    ブ上の音、バスは2オクターブ下の音を合わせる練習をしっかりすると良い。

    教程7 高音域

    女声は自分の声に近い音域の練習が必要だが、ギター弦をそのまま弾いた音は低すぎる。その

    時は適当なハーモニックス音同士で合わせる練習をすれば良い。とりあえず教程3、4,5を2倍音

    同士、3倍音同士、4倍音同士で試みることにする。3倍音同士ではニ長調読みではソシレになる

    が、イ長調読みでドミソと考え、今までの教程を参考にして練習できる。

    ところで女声と限らず、音域によって練習の重点の置き場所を変えねばならない。ハーモニーを

    合わせた時ぴったり合った感覚が一番捉え易い音域は、3度や6度は女声の低音域、5度や4度

    は男声の中音域と異なるからである。その音域から離れるほど合った感覚が捉えにくくなる。ハー

    モニーが合わせやすい音域では、ある程度合う音程で声を出せば、声が自然にハーモニーするポ

    イントに引き寄せられるが、合わせにくい音域ではより正確な音程を出さなければハーモニーのポ

    イントに引き寄せられない。だからそのような音域では、特にしっかり旋律的音程として記憶してお

    かなければならないのである。

    3度6度では上下割合広い範囲で声がハーモニーのポイントに引き寄せられやすいが、それで

    も男声の低音域とソプラノの高音域は合わせにくくなるから、旋律的音程としてしっかり記憶しておく

    ことが必要となる。5度4度の音程は女声中音域から高音域へと急激に合わせにくくなるので 、ソ

    プラノは上から合わせること、アルトは下から合わせることを、十分に練習する必要がある。(5度を

    合わせるのは3度を合わせるより易しいと思い込んでいる合唱関係者が多いようだが、女声にとっ

    て完全に合わせるのは5度の方が3度よりはるかにむつかしい。)

    教程8 ソシレ、ファラドなど読み替え

    図6の調弦を用いドミソについて教程3〜7で行った練習は、移動ド読みでソシレ、ファラド、ミ#ソ

    シなど音階内の位置の異なる長和音に読み換えて行うことが、音階の音程感覚を確認修正する

    のに効果的である。調性感覚がある人は、ドミソと読んだ時と他の読み方をした時とでは和音の色

    合いが違って感じられ、音程感覚にもある種のずれが生じる。それ自体は音楽的な感覚であるが、

    ハーモニーを合わせることを優先する状況では補正しておく必要がある。移動ド読みに慣れていれ

    ば、ドレミファを本来の音階音として感じ取れるが、固定ド読みの習慣の人は音階音として感じ取り

    にくいようである。そういう人はドレミファを意識せず知っているメロディーの部分を当てはめて,教程

    3~7のように耳で音程を合わせる練習をすると良い。シは高めに、ファは低めに取り勝ちなどが、

    典型的な純正な音程からずれる傾向である。

  • 12

    教程9 音階的音程 1

    教程9は音階的音程つまり2度音程の練習である。2度音程は協和音程ではないから、その大

    きさはその音程単独では定まらない。背景にある和音のつながり、実際の現れとしては二つの協和

    音程の差として決まるからである。

    短2度と2種類の長2度、大全音と小全音は、今まで用いてきた図6 aの調弦の倍音奏法で出

    せるので、教程9ではそれで練習する。図7は、×印のハーモニックス音列が楽譜に記した弦の奏

    法で出せることを示している。ニ長調読みでシドレミ、イ長調読みでミファソラの音列である。

    それらの音程を覚える

    練習に入る前に、協和

    音程の差としての2度音

    程の説明をしておこう。ド

    レ、レミ、シド(ニ長調読

    みで)はドミソとソシレの

    和音のつながりで出る音

    程であるが、ドレはソドとソ

    レの差、完全4度と完全

    5度の差で大全音(振動

    数比9/8)であり、レミは

    ソレとソミの差、完全5度

    と長6度との差で小全音(振動数比10/9)である。シドの短2度は、ソシ長3度とソド完全4度との

    差である。イ長調読みのミファソラではこれがファラド、ドミソの和音のつながりで説明される。この三

    つの2度音程がそれぞれどういう協和音程の差として決まるかをしっかり理解しておくことが重要で

    あるが、それは以下の練習で自ずと身に付くはずである。

    この四つの音、ニ長調読みでシドレミ、イ長調読みでミファソラは 第3弦3倍音、第4弦4倍音、

    第2弦3倍音、第3弦4倍音と弾いて旋律的音程として聴ける。図8上段にこれらのハーモニックス

    音列を出す時の左手指の当て方を図解しておいたので、弾き方に習熟しておくと良い。低い音域

    の3音の図8下段の使い方もある。(指の当て方は、ギターを膝に置いて弾く形で示したが、ギター

    の弾ける人は勿論普通の構え方で弾いて良い。)

    2度音程を耳で覚える練習は、隣り合った2弦の倍音(✕印の音)間の音合わせで行う。ハーモ

    ニックス音の唸りを消すことで調弦した後、一旦崩してから耳で音程を取って合わせる練習をする

    のは今までと同じであるが、直接協和する音程でない音程を覚えることがこの教程の主眼となる。

    例えば、短2度ニ長調で読んでシドC#4-D4を合わせる練習では、第3弦の3倍音と第4弦の4

    倍音を聴きながら短2度と感じる高さに合わせ、確かめは第3弦の4倍音と第4弦の5倍音が✕印

    の音(F#4)として同じ高さになっているかで見る。勿論シに対してドを合わせる練習、ドに対してシ

    を合わせる練習は両方行う。ドレD4-E4、レミD4-F#4では確かめはそれぞれ第2弦と第4弦、お

    よび第3弦と第4弦が合っているかで行う。2度音程を正確に記憶することは、協和する音程を記

    憶するよりかなり難しい。とりわけ短2度は狭くなりがちなので、しっかり練習することが必要である。

  • 13

  • 14

    教程10 属7型和音の音程

    属7和音ソシレファの振動数比は4:5:6:7で、7度音ファが純正律の基本形(ファラドのファ)よ

    りかなり低い7倍音系の音になっている。不協和音に分類されているが、このファは協和音程に準

    じる感覚で合わせることができる。図9-Ⅰは、教程9までに用いて来た図6の調弦の第1弦を C3

    に下げて四和音としたもので、ト長調(とト短調)の属7和音に当たり、ト長調読みで第4弦ソ、第3弦

    シ、第2弦レ、第1弦ファとなる。第1弦の調弦は第4弦あるいは第6弦と図9-Ⅰ指定のハーモニッ

    クス音間で唸りを聴いて合わせる。

    弦を崩してから合わせ直す練習は、今までの教程に準じて、ソファ、次にシファ,レファの音程合

    わせを行う。聴く音域は、ハーモニックス音を適宜もちいるとよい。例えばファソの長2度なら、第1

    弦と第4弦の2倍音を聴きながら合わせる。

    この調弦で教程9のシドレミ(ニ長調)に属7和音型のファ(第1弦3倍音 G4、図9-Ⅱ)を加えた

    シドレミファの音列が出せる。属7和音から主和音への終止進行の際の、このファからミへの短2度

    下行は極めて重要な音程である。後の教程12図15の練習課題に相当する。

    教程11 アルペジオ奏法を用いる練習

    ここで今までにしなかった奏法の使い方を紹介する。左手の人差し指を伸ばして何本もの弦に

    触れ、右手の指でアルペジオを掻き鳴らすと、ハーモニックス音の和音が鳴る。図9-Ⅱのように、

    全部の弦を3倍ハーモニックス音で鳴らすと、A の上の属7和音つまりニ長調の属7和音になるが、

    次に第1弦、第2弦を除く4本の弦を4倍ハーモニックス音で鳴らすとニ長調の主和音になり、ニ長

    調の典型的な終止進行となる。後の和音で上の2弦を弾かないのは、ファからミへの重要な進行

    を、最高音として聞こえるようにするためである。

    図6の調弦でも、勿論アルペジオ奏法で和声進行が出せる。3倍音と2倍音または4倍音を並

    べれば、ニ長調の属和音と主和音、あるいはイ長調の主和音と下属和音の進行となる。アルペジ

    オ最上音の進行として長音階の二度進行はラシを除きすべて出せることを確かめよ。

    今までこの教本では、声を使って音合わせの練習をする教程を置かなかったが、アルペジオ奏

    法で5度関係の二つの和音、ニ長調の主和音と属和音などを鳴らしながら、声でいろいろな音程

    を出してギターの和音と合わせる練習ができる 。2度音程の進行も、これまでの教程の和音内の

    様々な音程も練習できる。ギターのハーモニックス音に合わせるには、ハミングがやりやすいし、ま

    た女声ならば低音域、男声ならばやや高音域から始めると良い。

  • 15

    教程12 増1度音程

    この教程では増1度音程を練習する。この音程は半音階的半音ともいわれるもので、長3度と短

    3度との差の音程であり、和声的には長三和音と短三和音が並んだ時の3度音の違いである。図

    10には、D の上の長三和音と短三和音の二つの調弦を並べてある。

    両和音の3度音の調弦法だけ記した。第3弦をF音に調弦するのに第2弦の長三度下に合わせ

    るよう指示したのは、そのやり方が容易だからである。練習は第3弦の高さを変えて両者を行き来

    させるものであり、増一度の旋律的音程を覚えること、和音の響きを聴きながら調弦ですばやく両

    和音を交代させられること、双方が重要である。女声の場合この練習は2倍以上のハーモニックス

    音で行うと良い。

    アルペジオ奏法を使って声で増1度音程の練習をすることもできる。その場合は4、5、6弦だけ

    を鳴らし、声で第3弦に当たる音を出して練習すれば良い。女声の場合2倍、3倍ハーモニックス

    音を使うとやり易い。

    教程13 音階的音程 2

    音階の一つながりの音の音程関係を覚えること、和声の裏付けで旋律的音程を理解することは、

    極めて重要な内容である。弦の一部を旋律的音程に調弦する練習を通してそれを理解させること

    を意図して、教程13をおいた。しかし教程12までをしっかり習得し純正律の理論を理解していれ

    ば、この内容に相当することがらのほとんどは自分で考えてカバーできることであるので、それで納

    得できれば必ずしもこの教材を使わなくともよい。そのつもりの人は図11~15で示された課題に一

    通り目を通して、その意図を理解してもらいたい。

    調弦を崩しておいて音程を聴きながら合わせて、ハーモニックス奏法で確かめるのはこれまでと

    同じである。音程を聴いて合わせる練習は開放弦を使うより倍音同士で行う方がやりやすい。

    なお図11から図15はかなり無理な調弦で、高い方の弦何本かをギターの基本調弦より大きく

    下げているので、3/4サイズのギターの場合は張力が弱くなりすぎないよう、譜面右側の4度上げ

    た調弦を使うこととした(もともと3/4サイズの場合は同じ張力にすれば4度高くなる)。

  • 16

    図11のドレミファは長音階の主要三和音、ドミソ、ソシレ、ファラドで決まる基本形の音程の訓練

    である。ここで和音の並び方と2度音程の関係を理論と感覚でしっかり理解しておくと、図15まで続

    く音型の種々のバリエーションの意味がすんなり理解できるはずである。

    教程9で示した通りドレとレミはドミソとソシレの和音のつながりで出る音程であり、ドレは大全音(振

    動数比9/8)、レミは小全音(振動数比10/9)である。一方ミファはドミソとファラドのつながりで出

    る音程で短2度である。教程9でも述べているが、この三つの2度音程がそれぞれどういう和音のつ

    ながりで決まるかをしっかり理解することが重要で、それはギターの調弦の過程で自ずとできるはず

    である。

    図12 はシドレミ(長調)あるいはミファソラの音型の練習である。

    この練習は、教程9と同じ内容を調弦としてするものである。2度音程を聴きながら調弦する。例

    えばシを聴きながら、ドを合わせソと協和する高さになっているか確かめる(上段の階名読みで)。

    図13は短調でのドレミファ、あるいは長、短共通でソラシドの音型である。上段のイ短調(3/4サ

    イズではニ短調)読みで説明する。短音階ではラが主音で他の音はこれを出発点として音程が決

    まるので、調弦もラから合わせて行く。長調のドレミファと違うのはレの音程の決まり方である。長調

    ではレはソの5度上(4度下)の音として決まるのに対して、短調ではラの4度上(5度下)の音として

    決まる。少し長調より低い音になるが、その結果ドレの音程が小全音となり、レミの音程が大全音と

    なって、ドレミが長調の場合とひっくり返った関係になる。この練習はこの違いを理解する目的のも

  • 17

    のである。なお、ドとファはラから直接決められるのに、譜面のハーモニックス音の指示がラ→ミ→

    ド→ファの順で調弦するようになっているのは、その方がハーモニックス音が出しやすいからであり、

    図14も同様の配慮がしてある。

    この音型は下段の下属調で読むとソラシドであるが、この音型の音程感覚を正しく刻み込んでお

    くことが、特にソプラノにとって高い音域で声を下がらないよう保つのに非常に有効である。その際2

    オクターブ上の4倍ハーモニックス音(3/4サイズでは3倍音)で練習すると実際の声域に合う。

    図14は、図13の短音階の補足である。短音階のラシドレミの音程関係を長音階のドレミファソと

    対応させて覚えておくのが目的である。すなわちラシドレミとドレミファソの違いは、第3音の短音階

    音程ラドが短3度であるのに、長音階ドミが長3度であることだけである。教程12参照。

    なおシレの短3度が協和音程でないことに注意すること。協和関係のつながりで見るとシーミー

    ラーレとなっていて、両端のシーレが協和しないことが分かる。なお長音階の対応する不協和音程

    は図11のレファであって、協和関係のつながりで見るとレーソードーファと同じ関係になっている

    る。

    図15は属7和音型の音程の練習で、教程10の音階の部分の音程練習と同じ練習を低い音域

    で行うものである(ハーモニックス音でいろいろな音域をカバーできる)。ミを減1度下げると(C#→C、

    F#→F)同主短調の和声進行の練習を行うこともできる。7倍音系のファからミの減1度下の音へ

    の進行は、同主短調(イ短調、ニ短調)に読み替えれば、属7和音ミ♯ソシレのレから主和音ラドミ

    のドへの進行である。

  • 18

    付録

    純正律とは

    音は空気の波が耳に達して感じ取られるものだが、その波は一つの音に聞こえていても、複数の

    振動数の波が混じったものであり、その混じり具合が音色の違いとなる。はっきり高さが聴き取れる

    音は楽音と言い、ある基本振動の波(基音)とその整数倍の振動数の波(倍音)が混じっている。一

    方、我々の周りにある音の大部分は明瞭な高さが聴き取れないが、そのような音は一番振動数の

    小さい(音の高さが低い)波が弱く、かつその整数倍の振動数以外の波が成分に多く含まれる。普

    通の楽器音は強い基本振動とほどほどの強さの整数倍の倍音群からなっているが、中には鐘の音

    のように整数倍でない倍音を含むものもある。楽音の中に含まれる整数倍の振動数の倍音を並べ

    たものを、自然倍音列という。(5頁 図2 弦の振動図の記述参照。)

    自然倍音列の倍音の音程は基本振動

    の音とどういう関係になっているのだろう

    か?

    図16の楽譜に C2音の上の自然倍音列を

    示した。

    基本振動をドとすると(後続のページを含め

    説明はすべて移動ド読みで行っていると理

    解せよ。ハ長調イ短調の譜面では固定ド読

    みと区別できないが。ページ下方に注)、2

    倍音つまり振動数2倍の音はオクターブ上

    のド、3倍音はオクターブと完全五度上のソ、

    4倍音は2オクターブ上のド、5倍音は2オ

    クターブと長三度上のミである。これを見て分かるように、振動数が2倍になればオクターブ上がり、

    2分の1になればオクターブ下がる関係になる。3倍音と5倍音を、それぞれ1オクターブと2オクタ

    ーブ下げると、完全5度と長3度(基本振動からの振動数比 3/2と 5/4)となることが理解できる

    だろう。この二つの音程が他のすべての音程の基本になる。ドミソなどの長三和音は、自然倍音列

    の4倍音、5倍音、6倍音の組に当たり、構成する音程が長3度、完全5度という自然倍音列にあ

    る音程だけで出来ていて最もよく協和する和音である。

    注 移動ド唱法と音階感覚:旋律は全体の高さを色々変えても(いわゆる移調)同じ節に聞こえる。我々の耳が認識しているのは、旋律の個々の音が音階のどの音であるかであるので、音

    階が全体として上下しても同じ旋律と感じ取れるのである。ドレミファソラシドは元々音階の音を表

    すもので、本来の使い方は移動ド唱法なのであるが、現在義務教育の音楽教育で固定ド唱法が

    行われているため、この本来の移動ド唱法ができない人が多い。ハ長調・イ短調以外の曲で、音

    階音を説明しようとすると、移動ド読みでなければ混乱を招く。純正律はまさに音階の音としてそれ

    ぞれの音を認識しなければならないものなので、移動ド唱法に習熟されるようお願いする。純正律

    を実際に演奏する時は、音階の中のどの和音を出しているかに敏感にならねばならず、また音階

    の中のそれぞれの音の感じに敏感になること、すなわち音階感覚を高めることが重要である。移動

    ド読みで音の実際の感じと階名を感覚の中で結び付けることが望ましい。

  • 19

    ところで西洋音楽の音階は、主要三和音の構成音として音程が定まっている。長音階では、主

    和音ドミソ、属和音ソシレ、下属和音ファラドがそれぞれ長三和音である。その振動数比、すなわ

    ち根音:3度音:5度音=1:5/4:3/2 の音程の音を当てはめて音階音が定められたのが、純正

    律の長音階である。(音階内の他の和音については注を見よ)

    図17の楽譜に主要三和音の振動数比を載せた。図の下方に、C3のドを1とする音階音の振動

    数比の計算が示されている。音程は音の振動数比であるので、二つの音程を加え合わせる時は

    その数を掛け合わせ、差を取るときは高い音の数値を低い音の数値で割ればよい。

    ド(C3)=1 基準ドを1とする。

    ミ(E3)=5/4 ドミソは1:5/4:3/2である。

    ソ(G3)=3/2 同上。

    シ(B3)=15/8 ソの上にソシレ(G3 B3 D4)を取ると、その振動数比も1:5/4:3/2であるから、ド(C3)を基準1として計算すると、シ(B3)はソシの数値とドソの数値を掛け合わせた5/4×

    3/2=15/8

    レ(D3)=9/8 レ(D4)をド(C3)を基準1として計算すると3/2×3/2=9/4、オクターブ下げるには2で割ってレ(D3)は9/4÷2=9/8

    ファ(F3)=4/3 ド(C3)の下にファラド(F2 A2 C3)を取る。その振動数比1:5/4:3/2であるからド(C3)を基準1として計算するには、これらの数値を3/2で割れば良い。従ってファ(F2)

    は1÷3/2=2/3、オクターブ上げるのに2を掛けてファ(F3)は2/3×2=4/3

    ラ(A3)=5/3 ファと同様の計算で(A2)は5/4÷3/2=5/6となり、これをオクターブ上げてラ(A3)は5/6×2=5/3

    注:音階内の他の三和音すなわち副三和音の協和関係については後掲の図22とその説明を見よ。また純正律では音階音外の臨時記号音は周辺調の借用として解釈され、同じく図22で理

    解できる。

  • 20

    図18では、各音階音に主音ドに対する振動数比と平均律との差異のセント数を上下に記した。

    セント数(次ページ下段に解説)での表し方を、ミを例に説明すれば、-14は平均律のミ(ドから

    半音4個分高い音)より14セント低いこと (平均律400セント、純正律386=400-14セント)を

    表している。ドからミのように長3度上の音に進むと、その音は平均律の長3度上の音より14セント

    低くなり、逆に長3度下に進むと平均律の長3度下の音より14セント高くなる。ある音程に付けられ

    たセント数を見れば、純正律のその音程が平均律に比べてどのくらい広いか狭いか分かる。

    譜面の下に書き込まれた隣同士の音程、つまり2度音程の振動数値は、以下の計算の通り、後

    の音の値を前の音の値で割って求められる。平均律との差異のセント数も2段に並べ記した。

    ドレ 9/8 9/8(レ)÷1(ド)=9/8

    レミ 10/9 5/4(ミ)÷9/8(レ)=10/9

    ミファ 16/15 4/3(ファ)÷5/4(ミ)=16/15

    ファソ 9/8 3/2(ソ)÷4/3(ファ)=9/8

    ソラ 10/9 5/3(ラ)÷3/2(ソ)=10/9

    ラシ 9/8 15/8(シ)÷5/3(ラ)=9/8

    シド 16/15 2(ド)÷15/8(シ)=16/15 以下の純正律の音階の音程についての大まかな説明は、次頁以降の詳細な説明で細部を埋

    める形の学習を想定したもので、記述に若干重複した所も出来たがご容赦願いたい。

    まず通常全音といわれる長2度に ドレ、ファソ、ラシの振動数比9/8、セント数+4の大全音と、

    レミ、ソラの振動数比10/9、セント数-18の小全音の二種類があることが分かる。

    この音階音では、主要三和音の他にラドミとミソシの短三和音が協和するが、レとファラは協和

    する音程関係になく、レファラを副三和音として使うときは、音程を微調整して並行短調の音階の

    和音を借用することになる。短音階の音階音は、ラドミ、ミソシ、レファラが純正な短三和音(1:6/

    5:3/2)となるよう定められるが、並行長調の音階音と異なるのはレの音が低いことだけである。ド

    レ 10/9、レミ 9/8となり、レファラが協和になる代わりに、長音階で協和だったソシとレが不協和

    な音程関係になる。

    その他の転調、あるいは一時的な他調の和音の借用の際にも、臨時記号で変わる音以外の譜

    面上同じ音で、音程を微調整しなければならないものが出て来る。例えばハ長調からト長調に変

    わる時、ファが#ファに変わるだけでなく、ラ音も少し高くしないと、新しい調のレ音にならない。

    次に基本的な純正律には含まれないが、実際の音楽ではよく使われる音に触れる。ソシレファ

    は属7和音と呼ばれ、ファを7倍音系の音にする、すなわち振動数比が4:5:6:7になるようにする

    と非常に美しく響く。音階本来のファラドのファがソファ 16/9 であるのに対して、ソファ 7/4 の

    ファは極めて低い音であり、演奏では音程を微調整して合わせる。なお、ルネサンス期までの曲で

    は、7倍音系のファはシレファからドミソという、属7和音の根音ソが省かれたと考えられる形でのカ

    デンツとして使われた。ここでは長調の属7和音の例で説明したが、短調でも同様でミ♯ソシレのレ

  • 21

    が7倍音系の音になる。その他、近接調を借用している和声進行で、ドミソbシ、レ#ファラド、ラ#

    ドミソなどがこの形の和音である。

    図19には純正律長音階の2度音程と協和音程を載せた。基本としてしっかり記憶しておくこと。

    レとファラが不協和であることに注意。続く図20、21とで純正律の音程について細かく説明する。

    これらの図では、音程の平均律との違いを示すセント数の方を上に振動数比を下に記した。

    セント数の解説: 純正律では全音に2種類あり、また音程の微調整もしばしば必要だが、鍵盤楽器等ではそれは不可能だから、古来様々な近似的な調律法が工夫されて来た。現在一般

    的な平均律ではオクターブを12等分して半音とする。微小音程単位セントは1単位平均律の半

    音の値の 1/100 と定義され、電子音などの機器のデフォルトの設定は平均律なので、実用上純

    正な音程は平均律からのセント表示の差異として把握される。セントは振動数比の対数値の単位

    であり、振動数比の2を底とする対数で表せば1オクターブの値は1、従って半音の値は1/12とな

    り、さらに1セントの対数値はその100分の1の 1/1200 となる。ある音程のセント数を求めるには、

    振動数比の2を底とする対数値を、セントを単位として表すために1200倍すればよい。

    具体的計算は、関数電卓などで振動数比の常用対数値を出し、2の常用対数値(0.3010)で

    割り1200を掛ける。

    ある音程と音程を加え合わせた音程の振動数比は掛け算で出るが、セント数は対数であるから

    足し算となる。当然音程の差は振動数比では割り算、セント数では引き算で出る。

  • 22

    図20、21は並行長・短調間の転調および5度圏の転調、その他微調整する必要のある音程を

    まとめて示したものだが、まず音符下に記された数字等の意味を説明しておく。図20のⅠ-①と

    図21のⅠ-①の記載の仕方は図19と同じであるが、それ以外では二つの音を並べて音程を表し

    た。その音程の平均律との違いを示すセント数を2音の間の位置に記しているが、音程の振動数

    比は省いた。音程の振動数比を省いたのは、計算すれば分かるように煩雑な分数となり数値を知

    る意味が乏しいからである。二つの音のドに対する振動数比には算出法を載せ、さらにその下にた

    とえば図20のⅠ-②のハ長調→イ短調などのように、この算出法の根拠のメモを付した。図20の

    Ⅰ-②、Ⅱ-①および図21のⅠ-②で、音符間に矢印を入れたのは記譜上同じ音が微調整で

    異なる音程の音になることを示す意味で、微調整のセント数は矢印の1段上に記した。

    図20のⅠ段は長調が並行短調あるいは下属長調に動く場合で、イ短調のレはファラと協和す

    る音程に微調整され、ハ長調のレより22セント低くなる。ハ長調のレがヘ長調のラになる時も同じ

    音程に微調整される。Ⅰ- ➀は、イ短調型のレを含む2度音程と協和音程である。ここに記さな

    かったシレ、ソレは、ハ長調では協和音程であったものが不協和音程となる。Ⅰ-②は長調型から

    短調型へのレの音程微調整の記述である。Ⅰ-③のシにフラットが付く音程変化は、下属調への

    転調で現れる音程で、レの音程微調整とセットになる変化であり、シ-フラットと微調整したレは協和

    した長3度となり、下属調のファラとなる。

    Ⅱ段はⅠ段が下属調(ヘ長調)へ向かう形であるのに対して、属調(ト長調)へ向かう逆の関係

    になる。Ⅱ-①のラが+22セント変わるのが、Ⅰ-②のレが-22セント変わるのと、Ⅱ-②でファに

    ♯が付くのが、Ⅰ-③のシにbが付くのとに、それぞれ逆向きに対応している。

  • 23

    図21は属7和音型の音程と増1度あるいは減1度と呼ばれる音程である。

    Ⅰ段の①は属7和音(ソシレファ)内の音程を示し、②はファラドのファから属7和音のファへの微

    調整が-27セントであることを示す。このファからミへの短2度(-15セント)と短調のミ♯ソシレのレ

    からドへの長2度(-45セント)の狭まった音程は、カデンツ進行として極めて重要である。

    Ⅱ、Ⅲ段の増1度(下行で減1度と呼ばれる)音程は半音階的半音とも言われ、長3度と短3度

    の差つまり長・短三和音の3度音の違いである。この音程はハ長調からハ短調へなど同主長・短

    調間の転調の時、和声的短音階で属和音が長和音(ミ#ソシ)になる時などに現れる。後者は長

    調で並行短調あるいは下属短調の進行を借用する形でも(ハ長調がイ短調あるいはニ短調の属

    和音借用など)よく現れる。増一度と短2度は音程が大きく異なるので比較して見よう。 図19の

    Ⅰ-③で+12と記されている通り、短2度は上行すると平均律の半音より12セント高くなる。一方

    増1度上行ではⅡ段で分かるように平均律の半音より30セント低くなるから、増1度の方が短2度

    より42セントも狭い音程ということになる。ソの増1度上の♯ソとソの短2度上のbラは、いわゆる異

    名同音の関係として実際に頻繁に現れる。

  • 24

    最後に、周辺近接調まで含めた音程関係を整理図示した図22を示す。この図は、転調やいろ

    いろな臨時記号を含む和音などでの音程関係を明確に認識把握する助けになるだろう。

    この表は列の上下に5度関係で音を並べ、隣の列の音とは3度関係になっていて、各音の音程

    の平均律からの違いを、列Ⅱ中ほどのドを基準として各音の後ろにセント数で記してある。

    列の上下では、上行は属調側に進むことで1ステップが完全5度上行2セントプラス、下行は下

    属調側に進み1ステップが2セントマイナスとなる。図の左下の余白に5度圏の説明図を載せてお

    いた。これはドを0セントとしたものだが、他の音を出発点0セントとしても同じような図が作れる。純

    正な5度で5度圏を一巡するとbラ-8、♯ソ+16のような24セントのずれが生じることは、音律の理

    論上重要であるが、純正律の実際でこの形のずれが現れることはない(bラ、♯ソの実際に現れる

    関係はページ下方に後述)。

    列間の3度音程関係では、右上がりの斜線の隣同士で右側の音が長3度上行14セントマイナ

    スになる。(ドミなど) ということは、左下側の音は14セントプラスである。右下がりの隣同士の右側

    の音が16セントマイナスも見て取れるが、逆の左方向短3度上行で16セントプラスの方をしっかり

    記憶しておこう。(ミソなど)

    三和音の関係を基準のドの付近を例に説明する。列の縦線から右側の三角形はドミソをつくっ

    ていることから分かるように長三和音を表し、左側の三角形はドbミソから分かるように短三和音を

    表している。

    ドレミファソラシドの調の領域は点線で囲んで示した。……線は長調、— —線は短調の音になって

    いて、この囲み線の形(長調の場合 ド…ソ…レ…シ…ミ…ラ…ファ…ド)から調の中の和音の関係

    がよく分かる。この長調短調の関係では、長調はレ音が列Ⅱの調領域上端にあるのが、短調では

    列Ⅲの下端のレ音と交代する。5度圏の転調では、この囲み線領域が上下にスライドする。属調へ

    の変化では囲み線領域が上に一つスライドする結果、原調の列Ⅲの下の方のラ-16が使われなく

    なり22セントプラスの列Ⅱのラ+6(属調のレ)に替わり、逆向きの下属調への変化では原調の列Ⅱ

    の上の方のレ+4が 22セントマイナスで列Ⅲの下の方のレ-18(下属調のラ)に替わる。この囲み

    線領域の列Ⅱ上端と列Ⅲ下端の交代で生じる22セントの変化が最も一般的な音程の微調整で

    ある。なお、列Ⅱの上の方のレが列Ⅲの下の方のレに替わる22セントマイナスの音程微調整が、

    長調から並行短調と下属調(たとえばハ長調からイ短調とヘ長調)への両方の転調に共通するこ

    とを、しっかり認識しておくべきである。……線の領域を下属調側へずらしたものと— —線の領域とを

    見比べれば容易に理解できる。

    短調の囲み線領域にはミ♯ソシの和声的短音階の和音を加えたが,ソと♯ソが増1度関係であ

    ることに注意すること。図の中で増1度関係の音はこれと同じ位置関係にある音同士である。関連

    してこの♯ソと列Ⅰのbラの異名同音関係も記憶しておくべきことである。これらの音の間のセント

    数の関係は、各自確認しておいて頂きたい。なお5度圏転調の際のファ→♯ファ、シ→bシの増減

    1度は単なる長3度と短3度の差ではなく、22セントのずれが加わったものである。下属調への転

    調で見てみよう。列Ⅲ上方のシ-12が列Ⅱ下方のbシ-4に変わるのだが、次の2段階に分けて考

    えられる。列Ⅲ上方のシ-12がまず列Ⅰのbシ+18に移り、次に列Ⅱ下方のbシ-4に移ると考える

    と、前の段階が減1度+30、後の段階が-22 合わせて+8の変化でシ-12がbシ-4になるのが理

    解できる。

    属7型和音の7度音は長三和音の三角形の中に書き込んである。ただし書き込みは通常使わ

    れる属7型和音だけにとどめ他は省略した。囲み線領域内のソシレに三角形内のファが加わった

    四和音は属7和音そのものである。ファの上の属7型和音は記譜上短7度のbミでなく増6度のファ

    ラド♯レと書かれることが多いが、音程は同じである。bラ上の属7型和音の♯ファも同様である。

  • 25