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Title イタリア歌曲の歌いかた
Author(s) 小手川, 晶子
Citation 長崎大学教育学部人文科学研究報告, 41, pp.11-21; 1990
Issue Date 1990-06
URL http://hdl.handle.net/10069/33082
Right
NAOSITE: Nagasaki University's Academic Output SITE
http://naosite.lb.nagasaki-u.ac.jp
11
イタリア歌曲の歌いかた
小手川 晶 子
長崎大学教育学部音楽教室
A Study of Expression on Italian Songs
Akiko KOTEGAWA
Department of Music， Faculty of Education
Nagasaki University， Nagasaki
1．はじめに
現在，日本において西洋音楽は，どの分野を考えてみても日本の生活文化の中に，解け
こんでいるように見える。クラシック音楽について考えても同じことが言えると思う。西
洋で誕生した西洋音楽のための楽器は，どの場所で誰が演奏しても西洋の音色を出して演
奏が成り立つ。しかし，クラシック音楽の分野での声楽はどうであろうか。我が国のこの
分野の声楽の現状は，一般的に考えて他の器楽の演奏や作曲等より遅れている。
歌うと言う行為は，子供の頃からでき得ることなので，そのこと自体は単純な行為なの
である。そしてクラシック音楽の声楽を学ぶ場合，子供の頃から歌って来たその状態と，
誰でも歌えると言う意識の上に，一応クラシックの声楽の面での専門的と思われる発声の
方法や芸術歌曲の歌唱の方法を上塗りして今日に至ったと考える。
けれども日本の声楽と西洋の声楽の間には，文化の異りによって，理想とする音色に大
きな違いがある。日本の音は，鋭く，強く，特に瞬間的に強い音，又そのような音を長く
持続させるためには，瞬間的に強い音を，小きざみに連続して発音してフレーズを作る。
琴や三味線等の演奏や尺八の最初の音が強く装飾的に奏されることなどを思い浮かべると
理解できよう。そしてこのような音色は，木や紙又は畳等でできている吸音性の高い日本
の家屋の中で演奏する場合に，最も効果的な音色として定着したと考えられる。発声の場
合も，共鳴の悪いこのような家屋の中での演奏には，鋭く，強く，そして尺八のように「節」
を入れて，日本独特の発声の方法ができ上ったと考えられる。一方，西洋の住居は，石や
土でできた天井の高い建物で，音をそのまま美しく響かすことができる音の為には，大変
都合のよい共鳴道具である。楽音としての声を考えた時，日本では，捻り声で，西洋では，
響く声と言うように発声上の大きな違いがあるのである。日本の音楽における発声の方法
は，生理的な苦痛を感じない程度に，喉に多少の不自然な作用があっても発声し，又そう
することで音楽の抑揚をつけて演奏の効果を計ったりする。西洋では，常に体全体が自然
な状態で発声することを心がけ，喉をいつも自由に保ち，楽譜が求める多様な性質を持っ
たフレーズを完全に歌唱できるよう努める。このように喉に対する考えが全く違っている
ので，日本人がクラシック音楽の声楽を研究する際に，この大きな違いを重要な問題とし
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て認識しながら研究を進めないと声楽の水準は高くならないと考えている。
クラシックの声楽を研究する場合は，広くは西洋の歴史や文化に興味を持って，できる
だけ多くの事柄について精通し，声楽だけでなく色々な演奏会で，音楽をよく聞くことが
大切である。そして頭の中に西洋の音楽の美しさを認識することが必要である。そして西
洋の音色やフレーズ感を感じとることが容易になれぼ，声楽の場合の音作り，フレーズ作
りに大変役立つものである。このようにして西洋の美意識を育てつつ適切な指導が成され
れぽクラシック音楽の声楽も高い水準に延びることができよう。
以上のようなことから声楽学習の初期に，練習曲と併用して歌唱の方法を研究するのに
使われるイタリア歌曲について，その演奏の方法を述べてみる。明瞭な発音が特徴のイタ
リア語で歌うイタリア歌曲は，発声や歌唱の方法を研究する上で非常に好ましい教材と考
えられている。学習の初期の段階から理想とする歌唱の方法を体に教え込み，少しずつよ
りよい歌いかたへ近づくよう学習することが文化の異なる日本の声楽家の西洋音楽の声楽
の研究への態度でなけれぼならない。
2．イタリア歌曲の歌いかた
1 Caro mio ben いとしい女よ G．ジョルダー二
声楽の練習曲，例えばコンコーネ50番，25番等の第1曲で要求されているレガートな歌
Caro mio ben いとしいi女よ
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イタリア歌曲の歌いかた（小手川） 13
いかたで美しいフレーズを作るという声楽の基本的な練習がこの曲でも求められている。
コンコーネと異る点は，歌詞が付けられていることである。コンコーネのように音だけか
ら曲想を想像するのでなく，歌曲の場合はその付けられた歌詞の意味も感じとって歌うこ
とが大切でもある。“Es”の音から始まる最初のフレーズはイ，歌詞のとおり呼びかける気
持ちを持って，言葉の中に気持ちを入れて歌うことで体が黙Es”から声が出るように働き
容易に美しい歌いかたができる。この瞬間体から声が出たように感じることができれば
電s”の音は，美しい理想とする響きになっている。高い音だと考えて声を出そうとする
と，体は緊張して働かなくなり理想的な歌いかたはできない。最初の4個の音符と同様に，
次の4個の音符も言葉の意味を考えて歌うようにする。以降，同じ方法で歌うのであるが，
注意することは，言葉の母音を会話の時と同じ自然な感じで明瞭に発音し，しかも同じフ
レーズの母音は，体のコントロールで同じ方向性を持った響きになるよう歌わなければな
らない。口の装飾音は，意味なく正確に歌うより黙憔埣する”とか黙しおれる”と言う感
じを持って歌うと喉にも抵抗がなく音楽の流れも自然である。ハからは，更に積極的に訴
えかける感じで歌い，二は黙止めて”の意味を感じて歌えば、F”の声は容易に出るし，
その声を基本にして母音に注意して歌うと，なめらかな美しいフレーズになるであろう。
このフレーズは，伴奏も積極的な感じにできているのでそのことも十分考慮して歌わねぼ
ならない。ホは，前出の頂点の“F”音からのフレーズの反すうとして歌う。この際注意
しなけれぼならないのは，フォルテもピアノも発声のフォームを変えないで歌うことが大
切である。この歌いかたが容易にできれば，声は体から出ていることになり発声のフォー
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ムの一つの手がかりとなると思う。へは二と同じく“ひどい惨さ”を感じて歌い，特に
黙rigor”で非嘆を感じて歌うことでポルタメントも美しく歌える。以上のようにしてこの
曲を練習すれば練習の過程で体が発声にいかに関わっているかと言うことの発見ができる
と思う。
2 Sebben crudele たとえつれなくとも A．カルダーラ
レガートで歌う練習のためにこの曲を選曲した。旋律の進行に無理がない美しい曲で歌
い易く基本的な歌唱練習に向いている。曲の内容は，恋の歌であるけれどもCaro mio ben
よりは穏やかな情感で恋情を訴えている。イのSebbenは同じ音が使われていて興味深い。
これは悲嘆の中のつぶやきであろうか。この後反動のようにCrude leが高音に跳躍して心
の苦しさを表現している。ロの“誠実”と言う言葉のアクセントは，無理をせず話すよう
に歌って言葉にアクセントをつけるようにすると自然に表現できる。ハの音に付けられた
アクセントも特に力んだりせず，嘆きと，恋人への切望の意味を持って会話の際の，この
ような情況の感覚で表現して歌うと喉は緊張しないで美しく歌える。この際も基本には，
体によるコントロールで母音が美しく連続するように意識して歌うこと。このフレーズの
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Sebben， crudele たとえ つれなくとも
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アクセントの歌いかたが理想通りにできると，二は，反対に大きなレガートの表現で美し
く歌うことができる。ホはハと同じ感じで，へは二と同じにして大きな感情を持って歌う
ように。この曲では，常に母音を同じ響きで美しく連続させることに気をつけレガート唱
法を会得することである。
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イタリア歌曲の歌いかた（小手川） 15
3 Nina ニーナ G．B．ペルゴレージ
Sebbencrudeleと同じように，美しくレガートで歌い始める。イの8分音符と三連音符の
フレーズは，拍の最初の音に少しアクセントをつけるようにして歌うと表現が良くなるが
この際移動する同じ高さの音の音質を揃えること。口“笛よ，太鼓よ，シンバルよ”のフ
レーズは，命令する気持ちで話し言葉のアクセントを必ずつけて歌うこと。爪シンバルよ”
の1オクターブ下の音に進む際には，体の力が抜けないよう保ち歌うこと。力が抜けると
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泪ざめでハの懇願の意味のフレーズが歌いにくい。二は，テヌート気味に祈りを込め
て歌うこと。ホはイと同じ感じで歌う。へは，たっぷり息をとり大きな願望でフレーズを
上行する。この際，体の自由感を確認しながら上行して歌うこと。オクターブの低い音は
体の支えが抜けないように注意すること。全体になめらかに歌うことが大切で，アクセン
トや附点のリズムも体のコントロールでレガートな歌いかたを土台にしたアクセントや附
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点の歌いかたであるよう注意して歌うことである。
4 0cessate di pia garmi 私を傷つけるのをやめるか A．スカルラッティ
アジタートで奏される1小節の前奏に引き出されるようにして同じ高さの音で歌この2
小節のフレーズは“わたしを傷つけることは止めてくれ”と言う意味で，冷たくされた恋
人への強い願望を表現している。歌う時は，内容と同様に高揚した感覚で訴えかけ，piagar－
miのアクセントは，音よりも言葉のアクセントを感じて歌うと，フレーズをレガートで歌
うことができる。次のフレーズの最初の2個の音も同じ美しさで、しかも意味を感じて歌
うと理想的なフレーズになる。次の同じ旋律の2小節イは，先の旋律と同じように歌い，
ディミヌエンドの指示の所はつぶやきのように美しく歌う。又ロの8分音符は，テヌート
を少し入れると美しい。ハでは，白きのフレーズの終わりの音と母音を同じにする感じで，
しかも最初のフレーズと同じ技術で癩い”の表現で先きへ先きへと訴え，略冷酷な”と嘆
く感じで音は，ピアノにする時，優しいピアノでなく感情の深さと，強さを持った歌いか
Ocessate di piagarmi 私を傷つけるのをやめるか Arietta
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たをすると劇的な表現ができる。この曲は，前出の3曲と同じように，レガート唱法の練
習に適した曲であるが，先きの3曲よりやや劇的表現が強い。このような曲には，楽譜の
記号をそのまま音にしようとせず楽譜の裏にある音楽的内容を読みとって感じた通りの音
を表現するようにしたい。
5 Gia il sole dal Gange 陽はすでにガンジス川から A．スカルラッティ
この曲は，前出の3曲とは異り明るく動きのある曲である。呂分音符の連続と，4分音
符が力強く上下した後，1小節を1拍と感じる軽快な音楽が続く。夜明けの太陽が昇る情
イタリア歌曲の歌いかた（小手川） 17
Gia il sole dal Gange
陽はすでにガンジス川から CanzonettaAu・g・。 gi。，t。〔J．・261 Ales灘爵a「la［n
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景を清々しく、活き活きと表現している。イは，ブリランチと指示があるように，喜ばし
く，意気高く，8分音符2個の後拍は，スタカット気味に弾んで歌い，この曲の情景を表
現すること。ロでは，太陽が昇り明るくなる様子を表現するよう段々気分を高揚して歌い
ハでその喜びが音の上昇につれて頂点に達するよう歌う。このような曲は，曲想だけを思
うと声のバランスが保てなくなるので体でコントロールし，母音も揃えて歌うようにする
こと。二からは，言葉の意味を考えて，話すようにして歌う。ホからは，全く自然に話す
ように発音することで，このフレーズでは理想的な発声の方法が体得できると思う。この
曲では，強く押すような発声をしていると，細かい音符が歌えなくなるので，喉で歌い勝
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18 長崎大学教育学部人文科学研究報告 第4！号
ちな日本の声楽家には，難しいけれど理想的に歌えれば発声や歌唱の方法を理解するのに
大変適した曲と言える。
6 Lasciar d’amarti あなたへの愛を捨てることは F．ガスパリー二
前奏の左手の附点のリズムが楽しく軽い感じにならないこと。右手のシンコペーション
は，恋する想いを表現し，左手の二二は，恋の苦しさを表現する音楽と考えたい。心の痛
みを持って歌い出し，イのリズムは，前奏と同じ感情で歌うこと。恋しい人への呼びかけ
：Lasciar d’amarti あなたへの愛を捨てることは CantataA11。g，。 m。d，，at。（」．84） F「anc課膓pa「’n1
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は口，その心を持って歌い，そのフレーズが理想的に歌えればハの部分も美しく歌える。
このフレーズも発声の基本のレガート唱法を考えて歌うことが大切である。二は，アクセ
ントがついているのでよくこの音だけ喉を固くして，力を入れ歌ったりしてしまうが，そ
れは理想的ではない。前の’far”から音を続ける気持ちで歌えば美しく歌えよう。又ブレ
スをせず歌う練習をくり返してからそれと同じフォームでプレ！スを入れて歌うと歌い易い。
ホからは，会話のようにして歌うと自然な発声になり美しいフレーズになる。その間伴奏
はしっとりと，荒々しくなったり軽くなったりせず歌と同じ感覚で奏することが大切であ
る。この伴奏に支えられるように歌もカンタービレに歌うこと。へからは，心の思いをはっ
きりと断言する感じでしっかり歌う。トの装飾音は母音を揃えて，切望の感じに，工夫を
して歌うこと。
イタリア歌曲の歌いかた（小手川） 19
へ Meno mossoθ；72）
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この曲は，前出の曲よりリズムに，揺れがあるがやはりレガート唱法を考えて歌うこと
が大切である。この曲は，4分音符が伴奏のリズムの影響で軽くなり勝ちであったり荒々
しくなったりするが，やはり基本を考えて母音の響きとその連続を考え体をコントロール
して歌うことである。
7 Chi vuo目a zingarella ジプシー女をお望みの方はどなた G．パイジェロ
外回で賢く美しい，ジプシー女をお望みの方はどなだ最初のこの呼びかけのフレー
ズはイ，色々な感じの想像ができる。ここではピアノと指示してあるので魅惑的に，秘め
Chi vuol la zingareUa
ジプシー女をお望みの方はどなた
Canzone ゆソおけけユ どエユリ Moderato（」昌76） 〔1740－1816）
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20 長崎大学教育学部人文科学研究報告 第41号
やかに，ジプシー娘らしく振る舞う情景を考えて歌わなけれぼならない。伴奏譜に付され
ているスタッカートは，歌の譜には無いがその雰囲気で歌うと一層情景的によくなると思
う。口は，附差をきかせて，8分音符は軽くより魅惑的に表現すること。ハはこの情景を，
より強く表現するような伴奏にのって誘い込むように，ささやくように歌い，二からは，
音楽は違うがハと同じ情感で歌う。この部分の音楽の表現は難しいが，情況を考え会話の
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庭 撃一旨
so be－ne ln－do－vエ 一nar， igユ。－va－nしalcan’
ように歌詞を考え歌うことで，ここでも発声の方法が習得できよう。ホからは，この曲全
体の感覚を，もっと激しく表現して言葉の意味を感じて歌うと表情豊かな良い演奏となる。
8 Vergin tutto amor 愛に満ちたおとめよ F．ドウランテ
この曲は，祈りの曲である。三連音符の伴奏にのって荘厳に，敬度に歌うことが望まし
い。イの呼びかけは自然に美しく歌うことができると思う。ロのフレーズは，大小の音程
で上下に動くフレーズが難しいがイのフレーズと同じ歌いかたで歌うようにする。音程に
Vergin， tutto amor あ とめ 愛に満ちた処女よ Preghiera とけ ロし Largo religiGso （ユ＝40） 〔1684－1755）
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イタリア歌曲の歌いかた（小手川） 21
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開きがある程，美しく歌うのが難しくなるが体のコントロールで発声を理想通りにし，母
音を美しく揃えて歌えば，音はなめらかに美しく歌えるようになり理想的表現ができるよ
うになる。ハもロのフレーズと同じことが言える。ただ音が低いのでよりしっかりした体
のコントロールが必要で，二の低い音のフレーズは，高音での発声と同じフォームで歌わ
なければならない。そうすることで又同じフォームでオクターブの跳躍も美しく歌うこと
ができ，ホからの歌唱が容易にできるのである。へからの言葉の繰り返しは，会話の時と
同じ感覚で歌うと歌い易いし，こういう自然なフレーズを理想的に歌おうとすることで歌
唱のための体の動きもわかるようになるのである。
3．終りに
イタリア歌曲を，8曲選んでその歌いかたについて述べた。西洋の声楽では，言葉の意
味と，そこに付けられた音楽とでその曲にふさわしい情景を想像し，そのことを体の自然
な行為として歌うのである。したがって喉は，会話の時のように抵抗なく自由に保たれね
ばならないが，その為には音の高さに応じて平常の会話のように，全身を使って喉が自由
に保てるようにしなければならない。この作業は特別なことではなく，極めて自然に自由
な体で為されねばならない。歌うことを特別な作業と考えて無理な声を作ろうとしたり，
大きな声を出そうとしたりすると，不自然な力が喉や色々な所に入り，声は大きく出ても，
自然な美しさはなく，リズムは重く，言葉も明瞭でなく，楽譜の求める表現はできなくな
る。短日は疲れ，それを続けていると喉を悪くしてしまうのである。そして何よりも重要
なことは，このような歌いかたで演奏した場合，西洋の声楽の響きは無く，西洋の美しい
声の音色にならない。日本において西洋音楽の声楽の専門家達は，ここで述べた歌いかた
を理解して，日本音楽（日本の伝統音楽）の声楽とはっきり区別して認識することである。
なお本論で述べた歌いかたは，指導者の適切な助言と共に練習することで完成度の高い演
奏ができるようになる方法だと考える。
（平成2年2，月28日受理）