h21年度シーズ集(04 b24)「長嶋比呂志」(明治大学)改訂版

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3a 3b 3c 3d 平成21年度シーズ発掘試験採択課題の研究成果 糖尿病モデルブタの確立と生殖細胞の 保存 ―新しい治療薬、治療方法の開発に役立つ動物の作出― キーワード 糖尿病モデル動物、遺伝子改変動物、ブタ 研 究 概 要 我々は若年発症成人型糖尿病(MODY)の原因遺伝子である変異型ヒト Hepatocyte Nuclear Factor-1 α 遺伝子を導入したトランスジェニッククローンブタを作出した(図 1)。このブタは、糖尿病の診断基準である「随時血 糖値 200mg/dl 以上」の血糖値を示し(図 2)、経口 糖負荷試験でもヒト糖尿病患者と同じ血糖値推移 を示した。病理組織像では膵臓ランゲルハンス島の 形成異常(図 3a, 3b)、高血糖の影響と推定される 腎糸球体の硬化と肥大が確認された(図 3c, 3d)。 これらの症状から、作出したブタは糖尿病モデル動 物としての特性を備えていると言える。このブタは 遺伝子組み換えにより作出された世界初の糖尿病 を発症する大型動物モデルである。現在、糖尿病ブ タを研究に供給できるように、生殖細胞(精子)を 得るための作業を進めている。 0 100 200 300 400 500 600 700 0 14 28 42 56 70 84 98 112 126 140 154 Days after birth Blood glucose (mg/dl) シーズ集 配布用 図2 随時血糖値の推移 青線はコントロ ール群(n=3)、その他は個別の糖尿病発症ブ 図1 糖尿病発症トランスジ ェニッククローンブタ 図3 病理組織象 3a:正常ブタ膵臓(抗イン スリン抗体染色)、3b:糖尿病ブタ膵臓(抗インスリン 抗体染色)、3c:正常ブタ腎臓(HE 染色) 、 3d:糖尿病ブタ腎臓(HE 染色)、黒矢印:正 常糸球体、青矢印:硬化した糸球体、緑矢印: 肥大した糸球体、サイズバー:100μm

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3a 3b

3c 3d

平成21年度シーズ発掘試験採択課題の研究成果

糖尿病モデルブタの確立と生殖細胞の保存

―新しい治療薬、治療方法の開発に役立つ動物の作出―

キーワード

糖尿病モデル動物、遺伝子改変動物、ブタ

研 究 概 要

我々は若年発症成人型糖尿病(MODY)の原因遺伝子である変異型ヒト Hepatocyte

Nuclear Factor-1α遺伝子を導入したトランスジェニッククローンブタを作出した(図

1)。このブタは、糖尿病の診断基準である「随時血

糖値200mg/dl以上」の血糖値を示し(図2)、経口

糖負荷試験でもヒト糖尿病患者と同じ血糖値推移

を示した。病理組織像では膵臓ランゲルハンス島の

形成異常(図3a, 3b)、高血糖の影響と推定される

腎糸球体の硬化と肥大が確認された(図3c, 3d)。

これらの症状から、作出したブタは糖尿病モデル動

物としての特性を備えていると言える。このブタは

遺伝子組み換えにより作出された世界初の糖尿病

を発症する大型動物モデルである。現在、糖尿病ブ

タを研究に供給できるように、生殖細胞(精子)を

得るための作業を進めている。

0

100

200

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400

500

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700

0 14 28 42 56 70 84 98 112 126 140 154

Days after birth

Blo

od g

luco

se (

mg/

dl)

シーズ集 配布用

図2 随時血糖値の推移 青線はコントロ

ール群(n=3)、その他は個別の糖尿病発症ブ

図1 糖尿病発症トランスジ

ェニッククローンブタ

図 3 病理組織象 3a:正常ブタ膵臓(抗イン

スリン抗体染色)、3b:糖尿病ブタ膵臓(抗インスリン

抗体染色)、3c:正常ブタ腎臓(HE 染色) 、

3d:糖尿病ブタ腎臓(HE染色)、黒矢印:正

常糸球体、青矢印:硬化した糸球体、緑矢印:

肥大した糸球体、サイズバー:100µm

課題番号:04-B24  JSTイノベーションサテライト茨城

セールスポイント

ブタは生理学的、解剖学的、病理学的に

ヒトと似ている事、また体の大きさがヒ

トに近い事から、大型動物モデルとして

医療研究分野で注目されてきた。近年の

遺伝子操作技術、発生工学技術の進歩に

より、遺伝子改変ブタの作出が可能とな

り、それらを新しい治療方法や新薬の開

発に利用することも注目されている。

我々の開発した糖尿病モデルブタはイ

ンスリン投与による血糖コントロールが

可能なので、長期間生存させることも可

能で有る。また、恒常的に高血糖値を示す

事から、糖尿病治療薬の開発、糖尿病治療

を目的とする新規療法・ティバイス開

発、膵臓(膵島)の移植・再生医療など

の前臨床的研究に有用である。

将来の展望や応用・用途

 我々が既に報告した(Transgenic Research Vol.18 697-706, 2009)糖尿病発症ブ

タは体細胞核移植により作出されたクローン個体なので、作出できる頭数には限界があ

った。現在、糖尿病発症ブタの精子保存に取り組んでいる。精子凍結保存が完成した際に

は、糖尿病発症ブタを実験動物として大量供給することが可能となり、同時に糖尿病発

症大型実験動物としての系統が樹立されることになる。

表1 48 日齢時の血漿生化学値

糖尿病

ブタ#17

糖尿病

ブタ#21

LDH (units/L) 2683.6 2475.7 1922.3 ± 274.6

AST (units/L) 37.2 61.7 52.9 ± 5.8

ALT (units/L) 33.3 36.9 34.2 ± 4.9

ALP (units/L) 1342.3 769.4 1334.0 ± 99.8

g-GTP (units/L) 29.7 26.0 40.9 ± 12.8

ALB (g/dL) 2.3 2.3 3.8 ± 0.2

Ig (g/dL) 2.5 2.6 1.6 ± 0.2

TP (g/dL) 4.9 4.9 5.3 ± 0.2

TB (m g/dL) 0.1 0.1 0.3 ± 0.1

T-CHO (m g/dL) 92.5 87.4 73.9 ± 13.6

TG (m g/dL) 26.5 34.1 24.4 ± 11.2

PL (m g/dL) 107.2 93.5 91.6 ± 25.5

CK (units/L) 3628.0 3984.6 2212.8 ± 1307.2

ChE (units/L) 241.6 233.0 240.4 ± 26.1

BUN (m g/dL) 21.3 11.3 9.1 ± 2.0

CRE (m g/dL) 0.8 0.7 0.7 ± 0.1

UA (m g/dL) 0.02 0.02 0.04 ± 0.03

GLU (m g/dL) 508.0 239.1 80.3 ± 14.9

Ca (m g/dL) 11.1 11.1 11.6 ± 0.4

IP (m g/dL) 4.4 6.8 9.6 ± 0.5

Na (m Eq/L) 143.2 154.2 140.5 ± 2.7

K (m Eq/L) 5.8 6.3 5.9 ± 0.5

Cl (m Eq/L) 105.7 112.6 101.0 ± 3.2

1,5-AG (μg/m l) 1.8 3.1 8.8 ± 2.2

48日齢

コントロール(n=3)

課題番号:04-B24  JSTイノベーションサテライト茨城

研 究 者 明治大学  長嶋比呂志

研究テーマ クローンブタの作出

遺伝子改変ブタ(トランスジェニックブタ)の作出

ブタの繁殖技術研究

問い合わせ

(Tel/Fax/Ema

il)

独立行政法人科学技術振興機構 JSTイノベーションサテライト

茨城(Tel: 029-898-9533 Fax: 029-898-9663 Email: jimu_1@ibaraki-jst-

satellite.jp)