gpsggppssgps計測を用いたロックフィルダムの...

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GPS GPS GPS GPS 計測を用いたロックフィルダムの 計測を用いたロックフィルダムの 計測を用いたロックフィルダムの 計測を用いたロックフィルダムの 計測精度向上の取り組み 計測精度向上の取り組み 計測精度向上の取り組み 計測精度向上の取り組み 1 ・太 2 3 1()水資源機構 総合技術センター ダムグループ (338-0812 さいたま市桜区神田 936) 2()水資源機構 利根導水総合管理所 ○○課(338-0812 さいたま市桜区神田 936 前ダムグループ) 3()水資源機構 総合技術センター マネージャ (338-0812 さいたま市桜区神田 936) ダムの堤体変形計測は、川砂防基準に定められている必須項目であり、施設の適切な安全 管理の為には正確かつ継続的なデータ蓄積が重要である。しかし、堤体変形測量は、その頻度 が低いこと、その精度が観測者や計測手のわずかな違いにより影響を受ける可能性がある。 そこで、徳山ダム、阿木川ダム、香川用水調整池においては、連続かつ高精度の観測が可能な GPS による堤体変形計測を試験的に導入している。本論文では、これまでに蓄積した機構ダム のデータを基に、GPS によるロックフィルダムの鉛直方向計測値の精度向上を行い、併せて高 精度、連続観測という特徴を生かした、GPS 計測結果に基づく水平変形の予測手の提案を行 うものである。 キーワード:堤体変形、GPS 計測、ロックフィルダム 1. はじめに 近年、高度成長期に建設された構造物の老朽化が話題 になり、社会的インフラ設備の補強、改築の実施や検討 が行われている。これら施設を適切に維持管理し、適切 な補強や、改築を実施するには、構造物の現を把握し ておくことが重要である。水資源機構においても牧尾ダ ムのように竣工から 50 年以上が経過しているダムもあ り、総合技術センターでは、これまで機構が所管する 8 基のロックフィルダムの堤体計測データの蓄積を実施す ることにより、横断的な安全性の確認や堤体挙動の評価 を行ってきた。 これら堤体計測のうち堤体変形測量は、川砂防基準 に定められている必須項目である。しかしながら、堤体 変形測量は、その頻度が低いこと、その精度が観測者や 計測手のわずかな違いにより影響を受ける可能性があ り、計測により数値が変化したときに、誤差の範囲なの か、または計測上の問題が発生したのかの判断が常に求 められるものとなっている。 一方、堤体計測の高度化の一環として、斜面計測に用 いられる GPS 計測を用いられる事例が増加している 1) GPS 計測は連続、高精度、3 次元での計測を可能として おり、堤体計測に用いた場合には従前の手より正確な 計測、地震時等の変位の早期発見などの効果が見込まれ るとされている 2) 水資源機構においても GPS 計測についてはいち早く 取り組んでおり、阿木川ダムをはじめとしていくつかの ダムにおける計測結果がある 3) 。これら計測結果に基づ き詳細に分析することで、ダムの健全性評価手を高度 化する必要がある。これら手の高度化に当たっては過 去の実測記録に基づく傾向の分析 4) に基づき、定量的な 将来予測を行う必要がある。 本検討ではこれらを踏まえ、2.において徳山ダムによ り得られたデータに基づき GPS 計測において発生する とされる鉛直方向変位 5) の補正方について検討した。 加えて 3.ではダムの上下変位について、詳細に検討す ることにより中・長期的な堤体挙動の安定性確認手に ついて検討を行った。以上により計測精度の向上と、適 用性向上についてとりまとめたものである。

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Page 1: GPSGGPPSSGPS計測を用いたロックフィルダムの …GPSGGPPSSGPS計測を用いたロックフィルダムの計測を用いたロックフィルダムの 計測精度向上の取り組み

GPSGPSGPSGPS 計測を用いたロックフィルダムの計測を用いたロックフィルダムの計測を用いたロックフィルダムの計測を用いたロックフィルダムの

計測精度向上の取り組み計測精度向上の取り組み計測精度向上の取り組み計測精度向上の取り組み

曽 田 英 揮 1・太 田 垣 晃 一 郎 2・ 佐 藤 信 光 3

1(独)水資源機構 総合技術センター ダムグループ (〒338-0812 さいたま市桜区神田 936) 2(独)水資源機構 利根導水総合管理所 ○○課(〒338-0812 さいたま市桜区神田 936 前ダムグループ) 3(独)水資源機構 総合技術センター マネージャ (〒338-0812 さいたま市桜区神田 936)

ダムの堤体変形計測は、河川砂防基準に定められている必須項目であり、施設の適切な安全

管理の為には正確かつ継続的なデータ蓄積が重要である。しかし、堤体変形測量は、その頻度

が低いこと、その精度が観測者や計測手法のわずかな違いにより影響を受ける可能性がある。

そこで、徳山ダム、阿木川ダム、香川用水調整池においては、連続かつ高精度の観測が可能な

GPS による堤体変形計測を試験的に導入している。本論文では、これまでに蓄積した機構ダム

のデータを基に、GPS によるロックフィルダムの鉛直方向計測値の精度向上を行い、併せて高

精度、連続観測という特徴を生かした、GPS 計測結果に基づく水平変形の予測手法の提案を行

うものである。

キーワード:堤体変形、GPS 計測、ロックフィルダム

1. はじめに

近年、高度成長期に建設された構造物の老朽化が話題

になり、社会的インフラ設備の補強、改築の実施や検討

が行われている。これら施設を適切に維持管理し、適切

な補強や、改築を実施するには、構造物の現況を把握し

ておくことが重要である。水資源機構においても牧尾ダ

ムのように竣工から 50 年以上が経過しているダムもあ

り、総合技術センターでは、これまで機構が所管する 8

基のロックフィルダムの堤体計測データの蓄積を実施す

ることにより、横断的な安全性の確認や堤体挙動の評価

を行ってきた。

これら堤体計測のうち堤体変形測量は、河川砂防基準

に定められている必須項目である。しかしながら、堤体

変形測量は、その頻度が低いこと、その精度が観測者や

計測手法のわずかな違いにより影響を受ける可能性があ

り、計測により数値が変化したときに、誤差の範囲なの

か、または計測上の問題が発生したのかの判断が常に求

められるものとなっている。

一方、堤体計測の高度化の一環として、斜面計測に用

いられる GPS 計測を用いられる事例が増加している1)。

GPS 計測は連続、高精度、3 次元での計測を可能として

おり、堤体計測に用いた場合には従前の手法より正確な

計測、地震時等の変位の早期発見などの効果が見込まれ

るとされている2)。

水資源機構においても GPS 計測についてはいち早く

取り組んでおり、阿木川ダムをはじめとしていくつかの

ダムにおける計測結果がある3)。これら計測結果に基づ

き詳細に分析することで、ダムの健全性評価手法を高度

化する必要がある。これら手法の高度化に当たっては過

去の実測記録に基づく傾向の分析4)に基づき、定量的な

将来予測を行う必要がある。

本検討ではこれらを踏まえ、2.において徳山ダムによ

り得られたデータに基づき GPS 計測において発生する

とされる鉛直方向変位5)の補正方法について検討した。

加えて 3.ではダムの上下流変位について、詳細に検討す

ることにより中・長期的な堤体挙動の安定性確認手法に

ついて検討を行った。以上により計測精度の向上と、適

用性向上についてとりまとめたものである。

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2. 鉛直計測結果の補正

(1) 鉛直方向誤差の原因と補正方法

GPS 計測に用いる衛星からの電波は図図図図----1111 に示すよう

に、大気圏で屈折し、遅延することが知られている。数

km の距離までの計測においては水平方向での遅延によ

る差は無視できるほど小さいものの、高低差をもつ観測

では、これら屈折による遅延の影響が無視できないもの

となってくるとされている。

これら大気圏内での遅延について、増成ら6)は修正

Hopfield 法等により補正する方法を提案している。一方

で水資源機構では、現地で得られた固定点間に発生する

ゆらぎに基づき補正する手法7)を検討している。今回、

図図図図----2222に示す徳山ダムの 3 固定点(K-1,K-2,K-3)により計

測されたデータを用いてその適用性について検討し、現

地気象との比較も含めてどの手法が有効かを確認したも

のである。

(2) 補正式

補正のための式として、修正 Hopfield 法による補正式

を式(1)に示す。修正Hopfield式によれば、これら誤差は、

乾燥大気による屈折と、水蒸気による屈折により発生す

るとされる。気圧については直接計測が可能であるが、

水蒸気については直接計測が困難であることから気温に

基づく飽和水蒸気量に当該地点における湿度を乗ずるこ

とにより計算することが一般的に行われている。

一方、式(2)は、実測に現れる振れ幅の発生量が図図図図----3333

に示すように比高差に概ね比例することに着目し、式(1)

に示されるような乾燥大気・水蒸気のように原因を分別

せず、固定点間の計測値を補正に用いようとするもので

ある。

図図図図----1111 高低差による電波経路長の相違高低差による電波経路長の相違高低差による電波経路長の相違高低差による電波経路長の相違

図図図図----2222 観測点および基準点の配置観測点および基準点の配置観測点および基準点の配置観測点および基準点の配置

((((1111))))

ここに、⊿Rm,hop:対流圏遅延量(mm)

Ndry:乾燥大気の屈折性,Nwet水蒸気の屈折性,

Nd,0:乾燥大気の標高 0mの天頂方向の屈折性,

Nw,0水蒸気の標高 0mの天頂方向の屈折性,

hd, hw: 乾燥大気、水蒸気の最大高

h :標高、T:絶対温度(K)p:大気圧、e:蒸気圧

y = 0.08 x + 2.63

R² = 0.92

0

2

4

6

8

10

12

0 20 40 60 80 100

実測

記録

の年

間で

の振

れ幅

実測

記録

の年

間で

の振

れ幅

実測

記録

の年

間で

の振

れ幅

実測

記録

の年

間で

の振

れ幅

(mm

)

比高差比高差比高差比高差(m)

図図図図----3333 点間の比高差と年間の振れ幅の関係点間の比高差と年間の振れ幅の関係点間の比高差と年間の振れ幅の関係点間の比高差と年間の振れ幅の関係

(2)(2)(2)(2)

ここに K :補正後の変位

M :補正前の変位

Tk :ゆらぎ量=基準点間の計測値

h :計測点と基準点の高低差

hk :基準点間の高低差

GPSの電波は大気圏中で屈折する。

基線長が数km以下では同じ気象条件の大

気の中を伝播するとして良いので大気圏

内での屈折は相殺される

ところが高低差があると高さ方向

には気象条件は相殺されない

2

6

0,w0,

4

0,

4

0,

66.

10373.064.77

11

1010

T

eN

T

PN

h

hNN

h

hNN

dsNdsNR

d

wwwet

dddry

wetdryhopm

×==

−=

−=

+=∆ ∫∫−−

      

    

kk h

hTMK ×−=

・K-1~3は岩盤上に設置した

不動点を断面図上に投影

・GD-3~30は計測点

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'補正なし

式1 現地気象による補正式2 K1K2間計測による補正

式2 K2K3間計測による…

07/1/1 08/1/1 09/1/1 10/1/1 11/1/1 12/1/1 13/1/1 14/1/1

+ 隆起隆起隆起隆起

- 沈下沈下沈下沈下

10mm

'補正なし

式1 現地気象による補正

式2 K1K2間計測による補正

式2 K2K3間計測による補正

10/1/1 10/4/2 10/7/2 10/10/1 11/1/1 11/4/2 11/7/2 11/10/1

単位:mm+隆起隆起隆起隆起

-沈下沈下沈下沈下

10mm

(3) 補正結果

図図図図----4444 に GD-30 を K-2 から計測した場合の計測値、お

よび気象条件により求めた修正 Hopfield 式による補正値

を示す。補正値グラフの上は式(1)右辺左項に示す Dry 項

(乾燥大気による屈折分の補正)で、下は式(1)右辺右項

に示す Wet 項(水蒸気による屈折分の補正)である。観

測点である GD-30 は概ねダムの中間標高にあたり、K-2

との比高差は概ね 80m である。徳山ダムは豪雪地帯であ

り、概ね 12 月~2 月までの計測は、GPS 計測機器が積雪

に埋没して計測できない。そのため当該期間のデータは

削除されている。一方、対流圏補正値によれば乾燥大気

による補正は年間の最大と最小との差で 5mm 未満であ

る一方、水蒸気に関わる補正量は年間の最大と最小の差

が 1cm 以上あることがわかる。また、GD-30 の計測値で

は夏場に隆起し、冬場に沈下する傾向にあるが、気圧に

より決定されるドライ項の補正量は夏場小さくなり、水

蒸気により決定されるウェット項の補正量は夏場大きく

なる傾向にある。実測における変動の状況は、ウェット

項の補正量と同様な挙動を示している。

GD-30 の補正を行わない計測値および式(1)および式

(2)による補正結果を図図図図----5555 に、式(2)における補正条件を

表表表表----1111に示す。補正なしの場合には、年間で 1cm 以上の幅

の変動があり、mm 単位での変形を計測することが困難

な状況である。一方で式(1)、式(2)の補正結果はいずれの

方法も若干の変動がある程度となっている。これらにつ

いてより詳細に見るために各補正法による補正結果を並

べてみたものが図図図図----6666 である。図図図図----6666 によれば、現地気象

を用いて式(1)による補正を行った際にも若干の年間の

変動が残っていることがわかる。式(2)による方法はいず

れも大きな差を生じていないことから、この程度の外

挿・内挿の範囲であれば同等の補正が可能であると考え

られるが、外挿の倍率が大きくなると、基準点間で発生

するノイズが大きくなる可能性があることから、可能で

あれば内挿の範囲で基準点を設置することがより良い結

果になるものと考えられる。

表表表表----1111 式式式式((((2222))))による場合の補正条件による場合の補正条件による場合の補正条件による場合の補正条件

K1K2による補正 K2K3による補正

基準点~GD-30間

の比高差

約 80m 約 80m

基準点間の比高差 26.5m 134m

補正の方法 外挿 内挿

(補正値 上、Dry 項、下 Wet 項)

図図図図----4444 KKKK----2222 からのからのからのからの GDGDGDGD----30303030 計測結果(比高差計測結果(比高差計測結果(比高差計測結果(比高差 80m80m80m80m))))

および修正および修正および修正および修正 HopfieldHopfieldHopfieldHopfield 法による補正量法による補正量法による補正量法による補正量

図図図図----5555 各補正法による補正結果各補正法による補正結果各補正法による補正結果各補正法による補正結果

図図図図----6666 各補正法による補正結果各補正法による補正結果各補正法による補正結果各補正法による補正結果((((拡大拡大拡大拡大))))

-80

-60

-40

-20

0

20

2007/1/1 2008/1/1 2009/1/1 2010/1/1 2011/1/1 2012/1/1 2013/1/1

補正なし単位:mm

+隆起

-沈下

K-2からの計測値

-1

1

3

2007/1/1 2008/1/1 2009/1/1 2010/1/1 2011/1/1 2012/1/1 2013/1/1

対流圏遅延差対流圏遅延差対流圏遅延差対流圏遅延差 ドライ項遅延差(cm)

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3. 水平変位の将来予測に関する検討

(1) ロックフィルダムの水平変位

ロックフィルダムの変形および沈下について、総合技

術センターではこれまで、変形・沈下の要因分析 4)を行

い、さらに、多くのダムの沈下事例が図図図図----7777に示すように

対数軸で直線性を有することに着目しで既往の光波測量

による沈下実績に基づく将来予測手法を提案8)している。

一方で、水平変位については図図図図----8888に示すように一定以

上の水圧が継続して掛かることによる粘性的な挙動と、

水圧の変化に対する弾性的な挙動、加えて上流側ロック

ゾーンの浸水沈下が混在している。しかしながら光波測

量による計測頻度は試験湛水時においても 1 回/週であ

り、ダムの水位変化がこれに対して大きいことから、こ

れまで将来予測・評価が困難であるため、これまでの挙

動評価は主として定性的な評価が主であった。

これら粘性的な挙動と弾性的な挙動を分離すること

ができれば、今後のダムの挙動評価に定量的な指標を加

えることが可能と考えられる。筆者らは GPS 計測による

精密な連続計測結果を用いることで、ダムの水平変位挙

動を詳細に観察し、粘性的な挙動と弾性的な挙動を分解

することを試みたものである。

(2) 評価対象のダム

評価の対象としたのは徳山ダムである。徳山ダムでは試

験湛水開始より連続計測を実施しており初期の塑性変形、

その後の弾性変形への変化を GPS でとらえられている。

徳山ダムの水平変形量の経時変化および水位との相関図

を図図図図----9999,,,,10101010に示す。

図図図図----9999 徳山ダム徳山ダム徳山ダム徳山ダム水平変形量の経時変化水平変形量の経時変化水平変形量の経時変化水平変形量の経時変化

図図図図----7777 ロックフィルダムの沈下量ロックフィルダムの沈下量ロックフィルダムの沈下量ロックフィルダムの沈下量

図図図図----8888 ロックフィルダムの水平変形量ロックフィルダムの水平変形量ロックフィルダムの水平変形量ロックフィルダムの水平変形量

図図図図----10101010 徳山ダム水位と徳山ダム水位と徳山ダム水位と徳山ダム水位と水平変形量との相関水平変形量との相関水平変形量との相関水平変形量との相関

0

200

400

600

800

1000

1200

10 100 1,000 10,000 100,000築堤完了後の経過日数(日)

天端沈

下量(mm)

-50

0

50

100

150

200

250

300

350

400

10 100 1,000 10,000 100,000湛水開始からの経過日数

水平

変位

量(m

m)

300

320

340

360

380

400

-80-60-40-200

水平変位(mm:-が下流)

水位

(EL.m

GD-4

GD-11GD-18

GD-25

GD-30

水位

200

250

300

350

400-140

-120

-100

-80

-60

-40

-20

0

2006/01 08/01 10/01 12/01 14/01

水平

変位

量(m

m :

ー:下

流)

試験湛水期間

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(3) 評価の方法

水平変位は水圧による水平方向の圧密変形と水位変

化による弾性変形の重ね合わせで示されるのでは無いか

と考えた。仮にこの考えが妥当であれば、現在は傾向管

理的な安定性評価をしている水平変位データも数値基準

を持った安定性評価に替えられるのではと考えた。

評価の手順を以下に示す。

① 水平変位の全体像をとらえるために、図図図図----11111111のと

おり沈下と同様に日付を対数として、直線性を有

すると考えられる期間を設定した。対象期間は検

討の目的である、長期的な挙動を評価可能な範囲

を考慮した。

② ①で選定した期間において図図図図----12121212のとおり、同一

水位時の水平変位量を選定し、時間軸に対して対

数近似した。

③ ②で求めた対数近似式を実際の変形量から差し引

き、図図図図----11113333のとおり水位との関係を求めた。

a) 水平変位を想定する為の期間の設定

長期的な変形量を求めるために、試験湛水完了後から

の経過日数と変形量の関係をプロットしたものが図図図図----11111111

である。図図図図----11111111によると、水平変形量は 200 日を超えた

あたりから時間の対数と線形関係にあるように見える。

図図図図----7777に示すとおり、沈下量においては100日経過以降、

直線関係となっていることから、水平変形量においても

沈下量同様、応力の最大値を経験してからある程度時間

経過して時間の対数に直線的な傾向を示すものと考えら

れる。

この結果に基づき、試験湛水完了後、200 日以降のデ

ータを用いて整理することとした。

b) 同一水位時の水平変位量の選定と対数近似

a)において選定した期間における GD-11 の変形量を水

位別に色分けしたものが図図図図-12 である。図図図図-12 の各水位の

うち、最も長い期間のデータがある水位 EL.382m~

EL.384m について対数近似を行った。その場合の決定係

数は R2=0.945 と概ね良好な相関を示している。

c) 対数近似による変形速度の除去

b)に求めた対数近似による変形速度を実測の変形から

控除して、水位との関係としたものが図図図図-13 である。こ

こで基準水位は EL.383.0m としている。図図図図-13 によれば、

変形速度を除外した結果、水位と変形は常に一定勾配の

軌跡を描いているように見える。この関係に基づき、水

位差 18m に対して 12mm の変位を想定し、0.67×10-3の

関係を得た。

図図図図----11111111 経過時間と水平変形の関係経過時間と水平変形の関係経過時間と水平変形の関係経過時間と水平変形の関係

図図図図----11112222 同一水位条件下における同一水位条件下における同一水位条件下における同一水位条件下における

水平変形量の経時変化水平変形量の経時変化水平変形量の経時変化水平変形量の経時変化((((GDGDGDGD----11111111))))

図図図図----11113333 経時変化分を控除した水平変形量の経時変化分を控除した水平変形量の経時変化分を控除した水平変形量の経時変化分を控除した水平変形量の

水位との関係水位との関係水位との関係水位との関係((((GDGDGDGD----11111111))))

-10

-5

0

5

10

-10 -5 0 5 10

基準

水位

から

の水

位差

(m)

対数近似による変形を除外した水平変位(mm)

弾性挙動に対する

見かけの変形係数

GD-18 GD-11

GD-4

GD-25

GD-30

水位

320320320320

330330330330

340340340340

350350350350

360360360360

370370370370

380380380380

390390390390

400400400400-150-150-150-150

-100-100-100-100

-50-50-50-50

0000

水位

(EL.m

)

変形

量(m

m)

試験湛水後の日数(日)

100 1000

y = -18.468ln(day) + 27.062

R2 = 0.9457

-130

-120

-110

-100

-90

-80

-70

水平

変形

量(m

m)

(日)

392~394

390~392

388~390

386~388

384~386

382~384

380~382

378~380

線形 (384~386)

水位

高い

低い

クリープ速度

1000日 2000日500日

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以上の関係に基づき、徳山ダムの GD-11 における実測

挙動を経験的に定式化したのが式(3)である。

)385(67.027.062)ln(468.18 −++−= wh htδ (3)

ここに、δh:水平変位(mm,下流側を-)

t:試験湛水完了後の日数(日)

hw:予測対象日における水位(EL.m)

これら経験的な定式化は、徳山ダムに設置した他の

GPS 計測点においても実施され、定式化そのものが不可

能となる点は存在していないように見えた。

GD-11 における堤体の水平変位の実測値と式(3)によ

る予測値を重ね合わせたものが図図図図----14141414である。図図図図----11114444に

よれば、実測値と予測値は概ね整合しており、本手法に

より数年間の記録に基づき整理することで、堤体の水平

変位を経験的に予想できる可能性があることが示唆され

た。

-120

-115

-110

-105

-100

-95

-90

-85

-80

-75

-70 ln(日)

水平

変形

量(m

m)

黒線: 実測値

赤線: クリープ変形と、見かけの変形係数を用いた計算値

↑(1000日)

↑(2000日)

図図図図----14141414 水平変形量の実測値と予測値水平変形量の実測値と予測値水平変形量の実測値と予測値水平変形量の実測値と予測値((((GDGDGDGD----11111111))))

5. まとめ

本論文は、これまで評経験的に行われてきたロックフ

ィルダムの挙動評価を既存データに基づき定量化する一

環 4)8)として、GPS 計測を用いた変形挙動の計測並びに評

価手法について提案するものである。ここでは鉛直並び

に上下流変形に着目し、これまでに蓄積した機構ダムの

データを基に、GPS によるロックフィルダムの堤体変形

計測精度の向上や GPS 計測を採用する際の適用性向上

について検討を行った。

2.においては、GPS 計測を用いたフィルダムの計測に

おける、鉛直方向の計測値の精度向上を行う事を検討し

た。

3.においては GPS計測により得られたデータに基づき

ダム堤体の水平変形量を予測するための予備的検討とし

て、水位変動に伴う弾性挙動と時間経過に対する粘性挙

動に分解することを試みた。

検討の結果、GPS 計測において複数の基準点を用いて

得られた誤差を内挿または外挿する方法は、鉛直方向の

測量誤差を効率的に除去することが可能である事がわか

った。本手法は気象データを取り扱うこと無く補正がで

きることから有効な手法と考えられる。

また、GPS 計測により得られる連続かつ高精度な測量

結果に基づき、水平変形量を適切に表現することが可能

と考えられる。その上でロックフィルダムの定量的な安

全管理手法を提案出来ればと考えている。

これらの手法を行うことで、堤体変形の適切な管理と

将来予測が可能になると考えられる。今後は今回検討し

た手法の適用性について他のダムにおける計測結果を踏

まえて実用性の確認を行って行きたいと考えている。

最後に、中部電力株式会社様には内挿のための基準点

データとして GPS 基準点での計測データをご提供頂き

ました。ここに記し謝意を表します。

参考文献

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ム計測結果による安全性評価手法, 水資源機構 技術研

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を用いたフィルダムの堤体計測の高度化の検討, ダム技

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