サルコイドーシスの骨・関節・筋肉病変 ·...
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35日サ会誌 2013, 33(1)
〔総説〕サルコイドーシスの骨・関節・筋肉病変
サルコイドーシスの骨・関節・筋肉病変
玉田 勉
Tsutomu Tamada
【要旨】サルコイドーシスの骨・筋肉・関節病変は比較的頻度は低いものの,しばしば難治性であり長期間の副腎皮質ステロイ
ドホルモン薬(ステロイド)投与を要する傾向がある.診断については整形外科医の協力が必要であるが,手術を要しない内科的治療に関しては,サルコイドーシスに対する全身ステロイド療法の経験の多さからか,われわれ内科医が行うことが多い.骨・筋肉・関節病変に対する治療効果の判定やステロイドの漸減のタイミングなどの判断は,患者の自覚症状に頼ることが多く,われわれ内科医にとって客観的指標に基づく判断をするのは困難である.また患者の側でもステロイドの導入および減量にあたっては,症状が軽度で日常生活が可能な程度であれば,ステロイドを内服せずに我慢する場合もあり,治療方針の決定がスムーズにいかないことも多い.本セミナーではこれら骨・筋肉・関節病変について,東北大学病院サルコイドーシス外来で経験した症例を紹介しつつ,われわれ内科医でできる範囲での診断の手順や,特徴的な画像所見および治療方針などに関して概述する.
[日サ会誌 2013; 33: 35-42]キーワード:骨サルコイドーシス,関節サルコイドーシス,筋肉サルコイドーシス,MMP-3,three stripes
Bone, joint and muscle involvement in sarcoidosis
Keywords: osseous sarcoidosis, sarcoid arthritis, muscular sarcoidosis, MMP-3, three stripes
東北大学病院 呼吸器内科
著者連絡先:玉田 勉(たまだ つとむ) 〒981-8574 宮城県仙台市青葉区青陵町1-1 東北大学病院 呼吸器内科 E-mail:[email protected]
Department of Respiratory Medicine, Tohoku University Graduate School of Medicine
本論文の要旨は第32回日本サルコイドーシス/肉芽腫性疾患学会総会の教育セミナー2:サルコイドーシス 各科領域のトピックスで発表した.
1.骨サルコイドーシス症状を伴う骨サルコイドーシスは日本人にはそれほど
多くなく,海外の症例,とくに黒人・女性に多いとされる.骨病変単独で発症することは少なく,皮膚や鼻腔に難治性の病変を有する症例に発症しやすい傾向がみられ,一度発症すると難治性であり副腎皮質ステロイドホルモン薬(ステロイド)治療が長期化する場合が多い.重症例では病的骨折から関節の機能障害をきたす場合もあり,疑わしい症状があったら積極的に精査を行うべきである.
a.特徴・症状わが国において症状を有する骨サルコイドーシス患者
は,サルコイドーシス全体の1–2%と比較的稀であると報告されている1, 2).一方,海外ではサルコイドーシスの1–13%と報告されており3, 4),中でも黒人・女性に多く,とくにびまん浸潤型(lupus pernio)の皮膚病変を伴うと,その頻度は20倍に上昇するともいわれている.わが国においても無症候性の症例を含めるとその割合は若干高くなると考えられる.
骨病変が初発することは多くなく,肺野,両側肺門リンパ節腫脹(BHL),眼などの一般的に罹患が多い臓器や皮膚,鼻腔などに病変を形成したあと,数年たってから骨病変が出現する傾向がある.
骨病変の罹患部位としては,四肢末端とくに手足の基節骨と中節骨が多い2).ほかに頭蓋骨,椎体骨,肋骨,鼻骨などでの発症も報告されている3–6)がきわめて稀である.サルコイドーシスに特徴的な肉芽腫がこれらの骨髄や骨皮質に形成され,骨破壊と骨吸収を生じて,結果として脆弱な骨となり病的骨折をきたしやすくなる.純粋な骨病変では骨膜や関節軟骨は障害されにくい.
骨病変の初発症状としては手指の疼痛と腫脹が多い.山口らの報告2)にあるように,もっとも多い手指骨の病変の合併をスクリーニングする方法として“握手によって疼痛が増すこと(握手兆候)”は臨床的に有用である.
b.診断骨サルコイドーシスの診断には,疑ったらまず握手兆
候の有無を確認し,疼痛の訴えがあるようなら疼痛部位
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サルコイドーシスの骨・関節・筋肉病変〔総説〕
の単純X線,MRIにて局所の評価をし,そして骨シンチグラフィーで全身骨病変の検索を追加するのが妥当であると考えられる.ほかにFDG-PETやGaシンチグラフィーでも描出は可能であるが,四肢末端に病変部が多いという点や骨への特異性の問題などから,核医学検査の中では病変の把握には骨シンチグラフィーが優れるといえる.Figure 1に自験例の核医学検査の比較を提示する.骨シンチグラフィー(a)は上肢では両手指の基節骨・中節骨に複数の集積亢進,また下肢では両脛骨の骨端部,両足関節・両足基節骨・末節骨に集積亢進を認める.同じ症例でもGaシンチグラフィー(b)や18F-FDG-PET(c)では骨病変の分布はかなり不明瞭となり,合併する両側肺門・縦隔鎖骨上窩・腋窩・唾液腺・鼠径部リンパ節・上腕内側の軟部組織など,骨病変以外への集積亢進も目立つようになる(すべて同一症例).骨病変の単純X線像としては,レース状の骨梁像や嚢胞状の溶骨性変化を呈することが多い3, 4).Figure 2(a)の自験例の単純X線像でも両手指の基節骨・中節骨に複数の嚢胞,溶骨性変化(矢印)を認めた
(Figure 1と同一症例).MRIでは骨病変部位がT1強調画
像で明瞭な低信号を呈することが多い.またMRIでは周囲の軟部組織の病変も同時に評価することができ有用であるとされる.Figure 2の自験例でも第2,3,5基節骨,3,4中節骨の骨髄はT1強調画像で低信号(b),脂肪抑制Ga-T2強調画像で高信号(c)を示した(Figure 1と同一症例).
確定診断には骨生検が必要であるが,生検部位の疼痛や機能障害が残存する可能性などあり,全例での生検は困難な場合が多い.前述の握手兆候やX線所見,MRI所見,骨シンチグラフィー所見などの非侵襲的検査を考慮して総合的に判断することが重要である.
c.病態生理骨サルコイドーシスにおける骨破壊の病態生理はいま
だ十分に解明されていない4).これまでにさまざまな病態が推測されており,たとえば骨サルコイドーシスでは血清1,25(OH)2D3が高値であることが原因で骨破壊や骨吸収が刺激されると想定している説7),肉芽腫が骨内の破骨細胞活性化因子を産生し骨吸収を促進しているとする説8),
a)骨シンチグラフィー b)Gaシンチグラフィー c)18F-FDG-PET
Figure 1. 骨サルコイドーシス患者の核医学検査の比較
Figure 2. 手単純X線像(a)および左手MRI(b:T1強調画像,c:脂肪抑制Ga-T2強調画像)
a) b) c)
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サルコイドーシスの骨・関節・筋肉病変 〔総説〕
さらには肉芽腫そのものが骨組織の破壊を起こしているとする説9)などが報告されている.
自験例による検討(Figure 3)では,骨病変部位に破骨細胞はほとんど観察されず,むしろ骨の栄養血管であるハバース管やフォルクマン管を圧排するように肉芽腫形成がみられ,骨の虚血性変化を示唆するempty lacunaeの存在も多数認められていたことから,骨組織の虚血が骨破壊の原因である可能性が考えられた(Figure 1と同一症例).
過去の文献においても,破骨細胞の過剰な活性化が原因ではなく,虚血性変化と肉芽腫の存在が本態であるとする報告10)や,病変周囲での血流が乏しいためにサルコイドーシスの骨病変に伴う病的骨折は機能予後が不良であるとする報告11)も散見され,われわれの考えを支持するものと考えられる.
d.治療骨病変に対する治療に関しても現時点で確立した治療
法はなく,ステロイドやその他の免疫抑制薬,クロロキンで改善した報告や,対症療法としてコルヒチンや非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)が有効であったとの報告が散見されるのみである2, 4).ATS/ERSのガイドラインでも骨サルコイドーシスに対する最良の治療法は明確にされておらず12, 13),これまでにステロイドと他の免疫抑制薬を比較した大規模臨床試験も行われていないのが現状である6).
他のサルコイドーシス病変同様にステロイド全身投与を行うことに関しては,もともと骨破壊が進行して脆弱になっている病変部位がステロイド性骨粗鬆症の副作用のために,かえって病的骨折の危険性が高くなる可能性もありうるので注意が必要との考えも否定できない.しかし前述のように,骨の栄養血管を圧迫するような肉芽腫形成およびそれによる骨組織の虚血が病態に強く関与していると仮定すると,ステロイド投与により肉芽腫が縮小し骨組織への血流が回復することで,間接的に骨形成が促進されるという考えも成り立ち,ステロイドの有
Figure 3. 骨生検(HE染色)
a) b)
症例 サルコイドーシスについて 骨病変に対する検査 骨病変に対する治療 現在の状態
年齢・性別 発症年齢 罹患部位
骨病変出現
発症時年齢
骨病変関連症状 骨生検 単純X線 MRI 核医学
開始時PSL全身投与量
(mg/日)
PSL以外 症状PSL全身投与量
(mg/日)PSL以外
No.1 33・M 23BHL,眼,皮 膚,骨,全身 皮下結節
30 叩打痛, 握手兆候 生検なし 手 手 Gaシンチ
骨シンチ 30 なし 寛解 – –
No.2 38・M 25BHL,肺野, 眼,皮膚LP, 骨,鼻腔
34 叩打痛, 握手兆候 肉芽腫あり 手,足 手
Gaシンチ骨シンチ FDG-PET
30 DOXY(100 mg) 再燃 9 –
No.3 40・F 32 BHL, 肺野, 皮膚LP,骨, 鼻腔 40 叩 打 痛, 可 動 制
限, 握手兆候肉芽腫あり 手,足 手 骨シンチ – MINO(200 mg)
NSAIDs 不変 – MINO(200 mg)
No.4 49・M 22BHL, 肺野, 皮膚LP,骨, 鼻腔,精巣
46 叩打痛, 握手兆候 生検なし 手 手 FDG-PET 30 MINO(200 mg) 再燃 4 MINO(200 mg)
No.5 66・F 49 BHL, 肺野, 皮膚LP,骨 62 叩 打 痛, 可 動 制
限, 握手兆候生検なし 手 手 骨シンチ –
MINO(200 mg:6M→ 100 mg:44M)ITCZ(400 mg:24M→ 200 mg:26M)
軽快 – MINO(100 mg)ITCZ(200 mg)
LP:扁平苔癬,PSL:プレドニゾロン,DOXY:ドキシサイクリン,MINO:ミノサイクリン,ITCZ:イトラコナゾール
Table 1. 当科の骨サルコイドーシス5症例 一覧表
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サルコイドーシスの骨・関節・筋肉病変〔総説〕
効性が期待される.実際,ステロイド全身投与後に単純X線像で明らかに骨硬化を確認できた症例も報告されており14),またTable 1に示した自験例でもステロイドが有効であった症例が散見される.なおプレドニゾロン換算で5mg/日以上のステロイドを長期投与する際は,日本骨粗鬆症学会のガイドライン15)ではビスホスホネート製剤の併用が推奨されているため,前述のように,組織学的に破骨細胞の関与が乏しくてもビスホスホネート製剤は必ず併用すべきである.なお,肺野病変が進行し肺アスペルギルス症を合併したためステロイド治療ができずに,抗真菌薬(イトラコナゾール)を投与したのちに骨症状と骨病変の改善を認めた症例をわれわれも報告しており16),なんらかの抗菌薬が骨病変に有効である可能性も考えられるが,今後の症例の集積による検討を要する.
e.予後症状の軽微な症例や無症状の症例では2年以内に自然
消褪するとの報告もあるが,手指の腫脹や疼痛および骨破壊の進行した症例ではステロイドなどの投与を長期間必要とし,しかも漸減に伴ってプレドニゾロン換算で5mg/日程度で再燃をきたす症例も多く,治療には難渋することが多いと考えられる.病的骨折を起こすと高度の関節機能障害を引き起こすとされており,病変部位の打撲等の回避などの生活指導も重要である.
f.注意点手指・足趾における病変を特徴とする関節リウマチや
変形性関節症などとの鑑別が重要である.すでに全身性サルコイドーシスの診断がついており,リウマチ関連血清マーカー(MMP-3,抗CCP抗体など)が陰性で,単純X線像にて関節構造が比較的よく保たれ,さらに骨の嚢胞状の溶骨性変化を認めた場合には,骨サルコイドーシスの可能性が高いと考えられ精査が必要である.
2.関節サルコイドーシスについて関節サルコイドーシスと診断がつく症例は比較的稀で
ある.急性型はLöfgren症候群の一部として知られ,外国での報告は散見されるが日本人ではきわめて稀である.多くの関節サルコイドーシスは慢性型であることが多く,関節リウマチ合併サルコイドーシスとの鑑別が困難である.サルコイドーシス経過中に関節症状が出現する場合や,関節症状がサルコイドーシスの診断に先行する場合などがある17-19).診断の確定は滑膜生検を要するため全例には実施困難な場合が多い.
a.特徴・症状サルコイドーシスにおける関節病変合併は比較的稀で
あり,わが国での全国統計によると,サルコイドーシス症例のうち発症時に関節痛を伴ったのは1.5%のみであった20).またサルコイドーシス初期における関節症状の出現頻度は2–38%とされる21).関節サルコイドーシスは急
性型と慢性型に分類される21).急性型はLöfgren症候群として知られる.Löfgren症候
群は,BHL,発熱,紅斑に合併して左右対称性の多発関節炎を認めることが特徴とされる症候群であり,海外ではよく知られるが日本ではきわめて稀である22–24).罹患部位は左右対称性に膝,足,肘,手などの関節に多く,皮下組織炎や滑液鞘炎などを伴い,疼痛,腫脹,関節滲出液が認められる.
慢性型はリウマチ性関節炎に類似し,左右対称性に肩,膝,手,足などの比較的大きい関節に多く,滑膜滲出液や滑膜肥厚を認める.手指や足趾などの小関節は免れることが多いとされる21).関節リウマチとの鑑別は症状だけでは困難である.
サルコイドーシスは稀に膠原病を合併することが知られており,わが国の1994年の全国調査では悪性腫瘍,感染症に次いで頻度が高く,とくに関節リウマチの合併は3.4 %で膠原病の中でもっとも高い合併率であった25).関節リウマチとの鑑別に際しては,①関節病変のないサルコイドーシスと関節リウマチの偶発的な合併なのか,②関節サルコイドーシス単独なのか,あるいは③関節サルコイドーシスと関節リウマチの合併なのかなど,さまざまな可能性を検討しなければならない.診断確定には滑膜生検による組織学的検索が必要になるが,症例によっては罹病期間も長く,すでに治療が開始されている場合もあり,また症状のある部位の生検ということで患者の同意が得にくい面もあり,滑膜生検は実施困難であることが多い.
b.診断関節の単純X線像では軟部組織の腫脹,関節腔の消失・
びらんなどを認める.超音波検査では,関節液滲出,滑膜鞘炎,皮下組織の浮腫などを認める.関節部のMRIでも同様に描出が可能である.確定に必要な滑膜生検では,非特異的滑膜炎の所見に加えて,滑膜や腱鞘に非乾酪性肉芽腫形成を証明できることもある17).血液検査では血沈やCRPの高値といった非特異的炎症の上昇は必発とされる.
リウマチ因子は通常陰性であるが,慢性型の10–47%で陽性となることもあるとされている.リウマチ関連マーカーであるMMP-3が診断時に高値であり,かつ治療効果
Table 2. 過去の慢性型関節サルコイドーシスの報告との比較
文献17より
文献18より
文献19より 自験例
ACE (IU/L) 7.8 13.3 41 7.7sIL-2R (U/L) – 1,037 – 735CRP (mg/dL) 4.4 8.9 2.1 9.8MMP-3(ng/mL) 242 – – 800以上抗CCP抗体(mg/dL) – – – 陰性RF(U/mL) 5 <20 28.2 41ツ反(mm) 100×50 9×9 陰性 5×5
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サルコイドーシスの骨・関節・筋肉病変 〔総説〕
を反映して低下した興味深い症例が報告されている17).MMP-3値は特異的ではないが関節サルコイドーシスの病勢を反映する有用なマーカーの一つである可能性がある.また自験例でも,MMP-3高値に加えて抗CCP抗体陰性であった症例を経験している.
抗CCP抗体は関節リウマチに特異的な検査項目と考えられており,サルコイドーシス症例で左右対称性の比較的大きな関節痛があり,関節超音波検査にて滑膜炎の所見を認めるものの,X線写真上関節破壊が軽度であり,かつ血清学的にCRP高値,MMP-3高値,抗CCP抗体陰性などの場合は,関節サルコイドーシスを積極的に疑うべきかもしれない.Table 2にこれまでの報告例と当科自験例についてまとめた.今後症例の集積を増やし,検討を重ねる必要があると考えられる.
c.治療多くはNSAIDsの内服で症状の軽減が得られる.難治例
ではステロイド内服,ステロイド関節内注入などを必要とする場合もある.文献的にはメトトレキサートなどの免疫抑制薬やミノサイクリンなども試されているようで
あるが17),エビデンス構築まではなされていない.
d.予後急性型は3–6ヵ月以内に自然寛解する.慢性型は一般
的に難治性で,NSAIDsや全身ステロイド投与などで改善して治療中止しても,14–87%が1年以内に再発する21).慢性型は再発・寛解を繰り返し,関節破壊・変形で機能障害を残すことが多く,初期から適切な治療介入を要する.
e.注意点急性型におけるLöfgren症候群の実態,また慢性型にお
けるリウマチ性関節炎との鑑別方法および推奨される治療方針など,今後解決されるべき点は多い.
3.筋肉病変についてサルコイドーシスによる筋肉病変は全身性サルコイ
ドーシス症例の50–80%と比較的多く認められるが,症候性のものは稀である.腫瘤型はMRIでは“dark star”や
“three stripes”などのきわめて特徴的な所見を認め,筋
Figure 4. 筋肉サルコイドーシスの画像所見
a)FDG-PET(下腿) b)Gaシンチグラフィー c)下腿MRI
SUVmax 5–7程度と中程度の集積を認める.
冠状断
T1強調画像T2強調画像
水平断(T1,T2)
矢状断
Figure 5. 筋肉サルコイドーシス症例の筋肉生検
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サルコイドーシスの骨・関節・筋肉病変〔総説〕
力低下や筋萎縮はほとんど認めず予後良好である.ミオパチー型は予後不良であり,病態も不明な点が多い.
a.特徴・症状サルコイドーシス症例の50–80%に筋組織内に類上皮細
胞肉芽腫が検出されるが,症候性の筋肉サルコイドーシスの頻度は0.5–2.3%と稀であると報告されている21, 24, 26).症候性のものは腫瘤型,ミオパチー型(急性〜亜急性,慢性)に分類される27, 28).1994年の立花らの報告によると,腫瘤形成型78例,ミオパチー型29例と前者が多いとされている24).腫瘤型は主に大腿あるいは下腿筋内の腫瘤として触知することが多く,その半数は痛みを伴うものの筋力低下や筋萎縮はほとんど認めない.一方,ミオパチー型は筋肉内腫瘤を触知せず,左右対称性の四肢近位筋優位に筋力低下や筋萎縮をびまん性に認めるとされる21).
b.診断全身性サルコイドーシスの診断のほかに,筋病変は筋
生検にて非乾酪壊死性類上皮細胞肉芽腫を確認して診断を確定する.実際は全例で筋生検を行わずとも,典型的な画像が得られた場合には総合的に判断される場合も多い.すなわち,無症候性と症候性の腫瘤型はGaシンチグラフィー,骨格筋MRIなどで検出可能であるとされる29, 30).Table 2に自験例(腫瘤型)を示す.Gaシンチグラフィーでは両下腿に結節状の集積亢進を認め,FDG-PETでは同部位の筋肉組織内に中程度の集積亢進を確認できた.
腫瘤型では筋電図は正常であり,筋由来逸脱酵素(CKなど)の上昇も稀であるとされるが,ミオパチー型では筋由来逸脱酵素の上昇は半数以上で認められ,筋電図では85–93%に筋原性変化がみられる21, 31).
腫瘤型の骨格筋MRIではきわめて特徴的な所見が知られており,T1強調画像, T2強調画像いずれでも周辺部が高信号,中心部が低信号を呈する.水平断では中心の低吸収域が星形にみえるため“dark star”サインと呼ばれ,冠状断では中心部が低信号,両端が高信号の3層構造の帯状を呈するため“three stripes”サインと呼ばれる所見
Table 3. 当科における筋肉サルコイドーシス一覧表
症例 サルコイドーシスについて 筋肉病変に対する検査 筋肉病変に対する治療 現在の状態
年齢・性別発症年齢
罹患部位筋肉病変出現時年齢
筋肉病変関連症状
筋生検 MRI 核医学
開始時PSL全身投与量
(mg/日)
PSL以外 介入理由 症状PSL全身投与量
(mg/日)PSL以外
No.1 21・M 19BHL,肺,皮膚,精 巣,両大腿,両下 腿
19 腫脹 – 検査なし Gaシンチ – – – 不明(他院へ転院)
No.2 41・F 34BHL, 両 下 腿, 脳 神経
34 腫脹,疼痛 – 下腿 Gaシンチ 1,000 – 脳神経病変 治療後消失 5 –
No.3 54・M 42 BHL,肺,右大腿 42 腫脹肉芽腫あり
大腿 Gaシンチ – – –1年以内に自然寛解
– –
No.4 44・F 44 BHL,眼,両大腿 44 – – 下腿 Gaシンチ – – – – – –
No.5 53・M 49 BHL,眼,両大腿 49 腫脹,疼痛 – 大腿 Gaシンチ 30トラニラスト内服
眼病変 軽快と増悪 5NSAIDs貼付
No.6 55・M 48 BHL,眼,右大腿 49 – – 検査なし Gaシンチ – – – – – –
No.7 55・F 50 BHL,眼,両下腿 50腫脹,重苦感
– 下腿 Gaシンチ 30NSAIDs内服
筋肉病変 軽快と増悪 3NSAIDs内服
No.8 62・M 51BHL,肺,眼,右大 腿
51 –肉芽腫あり
大腿 Gaシンチ – – – – – –
No.9 62・F 59BHL, 眼, 両下腿, 末梢神経
59腫脹,腫瘤触知
肉芽腫あり
下腿 Gaシンチ 30 –筋肉および神経病変
不明(他院へ転院)
No.10 64・F 52BHL,眼,頚部リンパ節,右下腿
59 疼痛肉芽腫あり
下腿 Gaシンチ –MINO 200 mg
–1年以内に自 然寛解
– –
No.11 60・F 60 BHL,両下腿 60 腫瘤触知肉芽腫あり
下腿Gaシンチ, FDG-PET
– – – 不変 –NSAIDs塗布
No.12 67・F 57 BHL,両下腿 62 腫脹 – 下腿 Gaシンチ – – – 不変 – –
No.13 71・F 62 BHL,眼,右下腿 62 疼痛肉芽腫あり
下腿 Gaシンチ – – – 不変 – –
No.14 67・F 63BHL,眼,左大腿, 心臓
63 – – 大腿 Gaシンチ 30 – 心臓病変 – 5 –
No.15 76・F 64BHL,肺,眼,両下 腿
64 –肉芽腫あり
下腿 Gaシンチ – – – – – NSAIDs塗布
No.16 77・M 67BHL, 眼, 右大腿, 皮膚
67 腫脹 – 大腿 Gaシンチ – – –1年以内に自 然寛解
– –
No.17 81・F 68BHL,肺,眼,両下 腿
68 腫瘤触知肉芽腫あり
下腿 Gaシンチ – – – 不変 –NSAIDs塗布
No.18 69・F 69 BHL,眼,両下腿 69 – – 検査なし Gaシンチ – – – – – –
PSL:プレドニゾロン,MINO:ミノサイクリン
41日サ会誌 2013, 33(1)
サルコイドーシスの骨・関節・筋肉病変 〔総説〕
を呈する(Figure 4の自験例でも確認できる).これらの所見は,腫瘤型にきわめて特徴的な所見で,特異性も高い29, 32).辺縁の高信号は炎症性肉芽腫を,中心の低信号は線維組織を反映するとされるが,Figure 5に示すように自験例の筋肉生検によっても裏付けられた.すなわち病巣中心部(右側)に横紋筋はほとんど残存しておらず,線維性組織で置換され,多数の類上皮細胞肉芽腫が形成されている.辺縁部(左側)には,横紋筋筋束間に肉芽腫を認め,周囲はリンパ球主体の炎症細胞の浸潤を認める.
c.病態生理(筋の崩壊機序)腫瘤型の筋サルコイドーシスの筋崩壊機序は,基本的
に肉芽腫病変の形成過程で筋線維内の小血管周囲に肉芽腫性炎症細胞が浸潤し,肉芽腫が形成される過程で筋線維が崩壊していくことが考えられている21, 31).腫瘤型において筋力低下や筋萎縮が臨床的にほとんどみられないこと,およびMRIなどの画像検査所見等から,上記筋線維の崩壊は局所的であると考えられる.
慢性ミオパチー型の成因,筋崩壊機序については詳細は不明の点が多い.病理学的には著明な筋線維の脱落と脂肪置換,高度線維化の所見がみられるが,肉芽腫形成はほとんど認めない21, 31).臨床的にも筋力低下や筋萎縮が近位筋優位にびまん性に左右対称性に認められ,肉芽腫性病変とは直接関係なく,自己免疫機序あるいはなんらかの液性因子が深く関与しているのではないかと推測される21, 31).
d.治療腫瘤型で筋肉の腫脹,疼痛などの筋症状が軽度の場合
には,NSAIDsの頓用や湿布などで経過をみることも多いが,症状が強く日常生活に支障をきたす場合にはステロイド全身投与が考慮される.効果不十分の場合は免疫抑制薬(メトトレキサート,シクロスポリン)などの併用により改善する症例の報告も散見される.Table 3に当科の筋肉サルコイドーシス症例の特徴および治療内容をまとめた.ミノサイクリン内服後に筋症状が1年以内に消失した症例も経験しているが,エビデンスは十分ではないため,今後の症例の集積による検討が必要である.
e.予後比較的良いとされるが,治療介入例では,ステロイド
漸減に伴って再発する症例も多い.筋線維脱落例は後遺症を残すとされる.
f.注意点ミオパチー型の病態は不明であり,今後さらに解明さ
れ,診断法や治療法の確立が前進することが期待される.
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