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EMI スキャナ EMI Scanner A computerized tomograph called "EMI scanner" has been worked out by the Electric and Musical Industry,Ltd.,and its sale within Japan is entrusted to Toshiba.It has an X ray generator that emits a thin beam and a high-sensitivity detector facing each other with the subject between themthe information obtained about the absorption of transmitted X rays from different directions is processed by a computer,and a tomograph is made up. Thus this scanner is essentaially different from the existing kind. The splendid clinical effect of the tomography using the EMI scanner is now widely known.Its technical and clinical features are outlined here. 〔1〕まえがき EMIスキャナは英国EMI社により開発された全身ならびに頭部用X線断層撮影装置である。 当社は今回,英国EMI社と本装置の国内販売協定を結び,最も独創的なX線診断装置として日本国内に紹介,販売する こととした。ここに紹介するEMIスキャナはその一機種である。 X線管とX線フイルムを連動させ,断層面以外の情報をぼかして断層像を得ようとする従来のX線断層撮影装置とは,原 理的にも根本的に異なるものである。EMIスキャナの臨床診断に与える医学的効果は斯界に広く認められるところとな り,現在ではComputerized Axial Tomography(コンピュータ断層撮影法)という身体計測の画期的一手法として医学界に 多大な影響を与えている。 1967年,当時,画像処理の研究に従事していたEMI社のGodfrey Hounsfield博士が開発に着手し,1973年8月商業ベース の第一号機を発売して以来,今日までに米国を中心に250台以上が設置されるに至り,現在なお加速度的な普及をみせ ている。 〔2〕EMIスキャナの構成と横能 頭部用EMIスキャナに次いで,更にそれを発展させた全身用EMIスキャナが開発された。全身用EMIスキャナでは,体部 の呼吸性移動が振影に与える悪影響を考慮し,20秒という超短時間撮影影を可能とした。それに伴い種々の新技術が 開拓されたが,撮影法の基本原理は頭部用EMIスキャナと同じなので,ここでは簡単にするため,まず頭部用EMIスキャナ についてその仕組を記し,全身用EMIスキャナについては相違点を中心に述べるものとする。 2.1頭部用EMIスキャナ ドーナツ形のスキャニングユニット(図1)の中にX線発生部と検出部が対向するように組み込まれている。検査時,頭 部をスキャニングユニットの中央部にはめ込むかたちをとるため発生したX線は頭部を通過し,対向する検出部で透過X 線として検出される。 図1.頭部用EMIスキャナ スキャニングユニット EMI-scanner(brain)-scannimg nit X線としては,断層面の厚さに合わせたスリット状のものを用い,これを受ける検出部は頭部組織による微妙なX線吸収 の差を検出するため,X線フイルムに比べ極めて感度の高い,シンチレータと光電子増倍管を組み合わせたものを使用し Vol.31 No.1 (1976) UDC 621.386:616-075.75 牧野 純夫 (1) 岸 敬 (2) 斎藤 清人 (3) Sumio MAKINO * KeiKISHl ** Kiyoto SAITO ** Key words : Scanners, Medical equipment, Diagnosis, X ray qpparatus, Radiogrqphy, Biomedical ,measurement, Data processing

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Page 1: EMI スキャナ EMI ScannerEMI Scanner A computerized tomograph called "EMI scanner" has been worked out by the Electric and Musical Industry,Ltd.,and its sale within Japan is entrusted

EMI スキャナ EMI Scanner

A computerized tomograph called "EMI scanner" has been worked out by the Electric and Musical Industry,Ltd.,and its

sale within Japan is entrusted to Toshiba.It has an X ray generator that emits a thin beam and a high-sensitivity detector facing each other with the subject between them;the information obtained about the absorption of transmitted X rays from different directions is processed by a computer,and a tomograph is made up. Thus this scanner is essentaially different from the existing kind.

The splendid clinical effect of the tomography using the EMI scanner is now widely known.Its technical and clinical features are outlined here.

〔1〕まえがき

EMIスキャナは英国EMI社により開発された全身ならびに頭部用X線断層撮影装置である。 当社は今回,英国EMI社と本装置の国内販売協定を結び,最も独創的なX線診断装置として日本国内に紹介,販売する

こととした。ここに紹介するEMIスキャナはその一機種である。 X線管とX線フイルムを連動させ,断層面以外の情報をぼかして断層像を得ようとする従来のX線断層撮影装置とは,原

理的にも根本的に異なるものである。EMIスキャナの臨床診断に与える医学的効果は斯界に広く認められるところとなり,現在ではComputerized Axial Tomography(コンピュータ断層撮影法)という身体計測の画期的一手法として医学界に多大な影響を与えている。

1967年,当時,画像処理の研究に従事していたEMI社のGodfrey Hounsfield博士が開発に着手し,1973年8月商業ベースの第一号機を発売して以来,今日までに米国を中心に250台以上が設置されるに至り,現在なお加速度的な普及をみせている。 〔2〕EMIスキャナの構成と横能

頭部用EMIスキャナに次いで,更にそれを発展させた全身用EMIスキャナが開発された。全身用EMIスキャナでは,体部の呼吸性移動が振影に与える悪影響を考慮し,20秒という超短時間撮影影を可能とした。それに伴い種々の新技術が開拓されたが,撮影法の基本原理は頭部用EMIスキャナと同じなので,ここでは簡単にするため,まず頭部用EMIスキャナについてその仕組を記し,全身用EMIスキャナについては相違点を中心に述べるものとする。

2.1頭部用EMIスキャナ ドーナツ形のスキャニングユニット(図1)の中にX線発生部と検出部が対向するように組み込まれている。検査時,頭

部をスキャニングユニットの中央部にはめ込むかたちをとるため発生したX線は頭部を通過し,対向する検出部で透過X線として検出される。

図1.頭部用EMIスキャナ スキャニングユニット EMI-scanner(brain)-scannimg nit

X線としては,断層面の厚さに合わせたスリット状のものを用い,これを受ける検出部は頭部組織による微妙なX線吸収の差を検出するため,X線フイルムに比べ極めて感度の高い,シンチレータと光電子増倍管を組み合わせたものを使用し

Vol.31 No.1 (1976) UDC 621.386:616-075.75

牧野 純夫(1) 岸 敬(2) 斎藤 清人(3)

Sumio MAKINO* KeiKISHl** Kiyoto SAITO**

Key words :  Scanners, Medical equipment, Diagnosis, X ray qpparatus, Radiogrqphy, Biomedical ,measurement, Data processing

Page 2: EMI スキャナ EMI ScannerEMI Scanner A computerized tomograph called "EMI scanner" has been worked out by the Electric and Musical Industry,Ltd.,and its sale within Japan is entrusted

ている。 撮影に当たってはX紙管と検出器は正確に連動しながら,頭部を直線状に横切り(スキャニング動作),その間に検出器

が240箇所における通過X線の強度をサンプリングして読み取る。(図2)に直線スキャニング動作を示す。隣接した2面の断層像を1回の撮影で得る目的で,図中には2組の検出器が描かれている。

図2.頭部用EMIスキャナ直線スキャニング動作説明 EMI-scanner(brain)-linear scanning

1回のスキャニング動作が完了すると,スキャニングユニットは1°頭のまわりを回転する(インデックス動作)。この過程を180回操り返し,結果として180回のスキャニングが行われ,スキャニングユニットが頭のまわりを180°回転すると撮影は完了する(図3)。

図3.頭部用EMIスキャナインデックス動作説明 EMI-scanner(brain)-indexing

この間に得られる240×180=43,200箇所に及ぶ透過X線の強度を示すデータは,ミニコンピュータ,磁気ディスクなどを内蔵するプロセシングユニットにオンラインで高速転送される。その後断層像を得るため画像再構成処理が行われる。処理の結果,頭部各所のX線吸収率を示す頭部断層像として再構成された画像は,160×160 マトリクスの画素〔1画素は,1.5×1.5mm(選ばれた断層面の厚さ)の組織に対応する。断層面の厚さは8mmまたは13mmである〕によるグレースケール画像としてビューイングユニットに内蔵されたCRT上に表示されるほか,ラインプリンタにより,組織のX線吸収率そのものを数値として取り出すこともできる。頭部用EMIスキャナのシステム構成図を図4に示す。

図4.頭部用EMIスキャナシステム構成図 EMI-scanner-system block diagram

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1回の撮影で,空気から骨に至る1,000段階に及ぶ幅広いX線吸収に関する情報が得られるうえ,それらの情報がコンピュータにすべて記録されるので,診断に当たっては,必要に応じX線吸収に関して任意の領域を取り出して,表示することができる。すなわち,骨,脳実質,脂肪など,対象に応じX線吸収に関して適当な範囲のデータを取り出して表示することにより,1回の撮影でそれぞれの組織を詳しく診断することが可能である。

2.2 全身用EMIスキャナ(図5) ファンビーム(扇状)X線を使用し,検出部は一列に並べられた複数個のシンチレータと光電子増倍管からなる。その結

果1回の撮影に要する時間は20秒となり,従来に比べ飛躍的に短縮された。 撮影に当たっては,X線管と検出部は連動しながら体部を直線状に横切り(スキャニング動作)その間に検出部が

18,000箇所における透過X線の強度を読み取る(図6)。一回のスキャニング動作が完了すると,スキャニングユニットは10°体部のまわりを回転する

図5.全身用EMIスキャナ スキャニングユニット EMI-scanner(whole body)-scanning unit

図6.全身用EMIスキャナスキャニング動作説明 EMI-scanner(whole body)-scanning

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図7.全身用EMIスキャナインデックス動作説明 EMI-scanner(whole body)-indexing (インデックス動作)(図7)。この過程を18回繰り返し,スキャニングユニットが体部のまわりを180°回転すると撮影は完了する。この間に得られる,18,000×18=324,000箇所に及ぶ透過X線の強度を示すデータは,断層像一面を得るための画像再構成処理に用いられる。

体軸に対し直交方向の断層像だけでなく,角度をもつ断層像の撮影も可能である。撮影領域は,400mmφ(直径),320mmφ,240mmφの三段切換えが可能であり,断層像は320×320マトリクスの画素で表示される。

一画素は,以下に示す大きさの人体組織に対応する。 撮影領域 400mmφ 1.25×1.25×13(mm) 撮影領域 320mmφ 1.0×1.0×13(mm) 撮影領域 240mmφ 0.75×0.75×13(mm) 但し,13mmは断層面の厚さを示す。

〔3〕CATシステム

EMIスキャナが開発されてからというもの,他社においても同様の構想に基づく断層撮影システムが取り上げられつつあるが,これらによる断層撮影を総称するものとして,コンピュータ断層撮影法という言葉が生まれた。

3.1 工学の立場から見たCATシステムの特徴 (1)コリメートされた細いX線ビームを使用

ペンシルビームまたはファンビーム(扇状)が用いられるが,いずれの場合も断層面の幅に合わせたスリット状の細いビームであり,不必要な被ばくと散乱線による悪影響を防いでいる。

(2)X線フイルムに代わる,高感度検出系を使用 通常NaIシンチレータと光電子増倍管を組み合わせたものが用いられており,X線吸収に関してS/N比の良い高精度の情報を取り出している。

(3)断層面の外周に沿ってX線を照射(X線照射面と断層面が一致)。 ペンシルビームの場合 直線スキャニング照射と回転照射の組合せとなる。 ファンビームの場合 回転照射だけまたは,直線スキャニング照射と回転照射の組合せとなる。

(4)コンピュータを用いて画像(断層像)の再構成を行う。 断層面に沿って横断する多方向からの情報(横断方向に沿った組織のX線吸収に関する積分値)をソフトウェアで処理し,ぼけのない断層像を復元する。

(5)X線吸収に関し,任意の範囲をコントラストの良い画像として取り出すことができる。 従来のX線撮影法では組織中の極めて似かよったX線吸収率の差をX線フイルムに表現できないのに比べ,CATでは

回の撮影で,断層面の広範囲にわたるX線吸収に関する精密な情報(通常,空気~骨)をコンピュータに貯えているため,X線吸収に関し任意の範囲をコントラストの良い画像として取り出すことができる。

3.2使用者の立場から見たCATシステムの特徴 (1)頭部,体部を輪切りにした(体軸に直交した)断層像が得られる。 (2)X線吸収に関し,定量的な診断も可能である。

EMIスキャナでは組織によるX線吸収率の違いが絶対的な数値として与えられる。 (3)従来の断層撮影法のように,ぼけにより断層効果を得るものとは原理的に異なるため,ねらった断層面を極めてシ

ャープに取り出すことができる。 (4)1回の撮影で,軟部組織から骨に至るまで,興味ある対象に対しそれぞれコントラストの良い画像を独立して得るこ

とができる。 (5)従来の撮影法では,撮影中の患者の動きなどは画像のぼけとして現われた。しかしCATシステムではソフトウェア

により画像の再構成を行っているため,Artefactsと呼ばれる特殊な線模様で表現される。この判定が時に要求される。 (6)非観血,無侵襲であり,患者に不安と苦痛,造影剤注入による危険などを与えない。このため重症患者,術後の患者,

子供,老人の診断,スクリーニングテストにも適している。頭部撮影を例にとると,従来撮影法として次のようなものがある。脳室撮影 前頭部を穿頭,脳室に針を刺入し,脳室内の脳脊髄液を空気または酸素ガスで置換して撮影する。 気脳撮影 腰椎穿刺によって脊髄腔内に空気を入れ,それを頭蓋内に誘導して撮影する。

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脳血管撮影 頸動脈または椎骨動脈から造影剤を注入し,頭蓋内血管を撮影する。 (7)X線被ばく線量が総体的に小さい。 頭部撮影の場合,従来の頭部単純撮影と同程度の被ばくであり,脳血管撮影,

気脳撮影などに比べ格段に小さい。 (8)撮影に当たり,従来撮影法のように,多くの医師,技師を必要としない。脳血管撮影などと異なり,麻酔医,術者を必要

とせず,技師1名による操作も可能である。 〔4〕EMIスキャナによる臨床

頭部用EMIスキャナに関する臨床報告は多数にのぼり,その極めて高い臨床的効果は既に定説となっている。 ここではまず頭部用EMIスキャナの臨床的な意義を記し,ついで目下,世界の医師の耳目を集め,加速度的な普及をみ

せている全身用EMIスキャナによる興味ある臨床例を紹介する。(図8) 脳動脈瘤,脳動静脈奇形などの脳血管障害,脳腫瘍,硬膜下・硬膜上血腫などの頭部外傷,先天性奇形などに代表され

る疾患を取り扱う脳神経外科,脳神経放射線科の立場からすると,手術に当たっては病巣の広がり,病巣と周囲組織との関係が極めて重要であるといわれている。

EMIスキャナは組織のX線吸収に関する測定精度が非常に高く,病巣部位,組織異常,正常構造の偏位,疾患の性質などを直接観察できる点など,まさに脳外科の要求にこたえたもので,従来のX線撮影法に比べ,一般により多くの臨床情報を提供することができる(図9)。

動脈硬化症による卒中,脳腫瘍(良性,悪性),先天性欠陥,頭部外傷などについてより正確な所見を得ることができるほか,従来の撮影法では判定困難だった腫瘍と周囲浮腫の判別,脳外傷に伴う頭蓋内血腫と脳挫傷の判別,脳出血と脳硬塞の判別,眼窟内腫瘍の観察などが可能となり,交通傷害,成人病など今日問題となっている領域においても非常な威力を発揮する。

特に脳浮腫は,あらゆる脳の病的状態に随伴して発生するばかりでなく,手術によっても発生することがある。その意味で脳腫瘍をてき出する,動脈瘤を処置するなどは,手術手技の問題であり,患者の術前術後の管理は結局は脳浮腫との戦いであるともいわれている。従来の撮影法でははあくできなかったこの脳浮腫をEMIスキャナは,その程度,広がり,消長に至るまで撮影できるため,臨床検査としてのEMIスキャンの重みを一層増している。

また,従来頭部のスクリーニングテストとして脳波検査,超音波検査,脳シンチグラフィなどが行われてきたが,非観血,無侵襲なEMIスキャンはスクリーニングテストとしても精密なデータが得られる,false negativeが少なく信ぴょう性が高いという点において従来の検査とは比較にならないほど水準が高いものである。

動脈瘤の手術に不可欠な詳細な頭蓋内血管像を脳血管撮影が,また頭蓋底部における髄液通路障害や腫瘍の手術に必要な情報を気脳撮影が,EMIスキャナにもまして有効に与えることも事実であるが,スクリーニングテストを兼ねて実施されていた従来撮影については今後EMIスキャンが完全に取って代わるであろう。

図8(a).第12胸椎部断層像 Slice through twelfth thoracice vertebra

 

図8(d).頭骸底部断層像 Slice through base of skull 図8.全身用EMIスキャナによる臨床例 Clinical case of EMI-scanner(whole body)

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〔5〕あとがき

このように,EMIスキャナに代表されるCATシステムは,スクリーニングテスト,手術の可否の判定,術後の経過観察,治療を必要とする部位の確認などにおいて,いずれも極めて有効であることを証明し,大きな成功を収めている。

(1)医用機器事業部 * Medical Appliance Div. (2)玉川工場 ** Tamagawa Works (3)玉川工場 医用電子設計部

図8(b).第4仙椎部断層像 Slice through fourth sacral segment

 

図9(a).複数個の転移性脳腫瘍 Metastatic brain tumour(melanoma)

図8(c).肺野断層像 Slice through lower chest

 

図9(b).左島部脳内血腫 Intracerebral hematoma 図9.頭部用EMIスキャナによる臨床例(東京女子医科大学脳神経センター御提供) Climical cace of EMI-scammer(brain)By courtesy of Instiute of Neurology, Tokyo Womem's Medical College