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があり,成因的区分として鈴木 (1962) やMaejima (1967)

がある。

しかし,これらの区分では,例えば成因的区分では日

本スケールを対象としているため,ローカルスケール,

すなわち小気候段階までを区分することはできない (吉

野,2003)。また,経験的区分においては,気候型はあく

まで便宜的なものに過ぎず,むしろ気候の地域的配列の

知識を求める隣接分野の目的如何によってどのようにで

も変わりうるものである (前島,1969) といった問題が

ある。

以上のような問題に対して,主成分分析やクラスター

分析といった多変量解析を用いた客観的な気候区分の方

法がある。主成分分析は小島 (1973) により日本の東北

地方の気候区分に使われたのが最初である。その後,加

Ⅰ.はじめに

気候区分とは気候の特徴や気候を支配する要因によっ

て地域区分を行うことである。これまで,気候区分は多

くの研究者によって行われてきた (菊地原,1981)。気候

区分には大まかに経験的区分と成因的区分の 2 つに分か

れる。吉野 (1978) によると,経験的区分は幾つかの気

候要素の月や年の平均値を組み合わせて指数として表現

し,気候要素を階級区分してその階級によって表現し分

類する方法である。また,成因的区分は,気候をその成

因にまでさかのぼって考え,例えば低気圧・高気圧・前

線などの出現頻度などに注目して行うものである。天

気・天候といった,たえず変動している状態も基準の一

つである。経験的区分としては福井 (1933) や関口 (1959)

小泉 和也*・加藤 央之**

New climatic division of Japan was proposed depending on spatial variation pattern of monthly mean air temperature (MTEMP), monthly precipitation(PRCP) and monthly mean duration of sunshine (DUSS) at 132 meteorological observa-tion stations and 692 AMeDAS stations for 30 years (1979-2008) using multivariate analysis such as the principal compo-nent analysis and the cluster analysis. On the first step, a climatic division was clarified for each climatic element by the data at meteorological observation stations. The eight regions were constructed in the 36th dimensional space of factor loadings of MTEMP. Although conventional climatic divisions almost depend on the average or total amount of climatic elements, this study uses the variation patterns of three elements. The nine regions were constructed in the 36th dimen-sional space of factor loadings of PRCP. The nine regions were constructed in the 36th dimensional space of factor loadings of DUSS. On the second step, finer climatic borders were defined using AMeDAS data. On the third step, these three cli-matic divisions are synthesized in a map and 14 climatic zones and some transitional zones were obtained. These transi-tional zones correspond to the stations which are separated by the climatic border lines for three elements. The climatic zones are generally classified into three main areas (Japan-sea side, Pacific Ocean side and middle) in Japan. From a series of these analyses, new climatic zone with finer borders was defined in Japan.

Keywords : Climatic Division, Multivariate Analysis, Principal Component Analysis, Cluster Analysis

気候要素の変動パターンに基づく日本の気候区分

Climatic Division of Japan Depending on the Spatial Variation Pattern of Climatic Elements

Kazuya KOIZUMI* and Hisashi KATO**

(Received October 31, 2011)

日本大学文理学部自然科学研究所研究紀要

No.47 (2012) pp.185 - 197

31

* Graduate School of Integrated Basic Sciences, Nihon University: 3-25-40 Sakurajousui, Setagaya-ku, Tokyo 156-8550, Japan

** Department of Geosystem Sciences, College of Humanities and Sciences, Nihon University: 3-25-40 Sakurajousui, Setagaya-ku, Tokyo 156-8550, Japan

* 日本大学大学院総合基礎科学研究科: 〒156-8550 東京都世田谷区桜上水3-25-40 ** 日本大学文理学部地球システム科学科 〒156-8550 東京都世田谷区桜上水3-25-40

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小泉 和也・加藤 央之

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藤 (1983),Kato (1983) はこれにクラスター分析も取り

入れて北海道の気候区分を行った。さらに趙ら (1986)

はその方法を用いて中国の東北地方の気候区分を行っ

た。このような客観的な分類手法では,上記のように目

的によって結果が左右されることはないというメリット

はあるが,先行研究では,日本全体を対象にした区分は

行われていない。

そこで,本研究では日本における月平均気温・降水

量・日照時間の 3 気候要素に対して,多変量解析により

月ごとの地域特性を見いだし,その成因解析を通して気

候区分を行う。この方法は平均値を用いた区分とは異な

り,平均値や合計値をもたらす個々の変動パターンをも

とに区分できる。そのため,より気象学的・気候学的な

気候区分を行うことができる。本解析では,まず日本全

体の区分を気象官署のデータを用いて行う。また,さら

に細部の境界線決定については,AMeDAS地点のデー

タを含めて検討を行い,境界線の特徴を考察する。

Ⅱ.使用データと解析方法

Ⅱ-1.使用データおよび期間

本研究では,北緯29度~46度,東経126度~149度に

ある日本の気象官署 (132地点) とAMeDAS (629地点)

の月平均気温,降水量,日照時間データを用いた (図 1)。

なお,気象官署での解析において北海道は一地域と見な

されたので,北海道のAMeDAS地点は使用していない。

日照時間については,気象官署とAMeDASにおいて観

測機器の変更に伴うデータの変換が必要になるため,気

象観測統計指針 (気象庁,2005),新型日照計による観測

開始時期 (気象庁,2003) と,アメダスの「日照時間」の

観測測器変更情報(気象庁,2006,2008,2009)に基づき

補正計算を行った。解析期間は1979~2008年の30年間

とした。

月平均値の欠測や準統計値は,近隣の観測地点(欠測

を持つ地点と相関が高い地点)の値から式(1)を用い

て補間した。

Xai= xbi-μb―

σb

σa+μa (1)

Xai;a地点の i 年の欠測値 Xai;近隣b地点の i 年の値

μa ,μb;それぞれa,b地点の平均値(30年)σa ,σb;そ

れぞれa,b地点の標準偏差

月毎の主成分パターンの検討を行うために,同期間の

NCEP/NCAR再解析データから東アジア域(北緯15度

~60度,東経110度~160度)における高層の温度場・

高度場・東西風・南北風それぞれの月平均値を用いた。

対象とした高層等圧面は,500hPa,600hPa,700hPa,

850hPa,925hPa,1000hPaである。

Ⅱ-2.解析方法

気候区分図を作成するために,要素毎に気象官署の

データセットの各月30年分のデータをそれぞれ主成分

分析し,因子負荷量の分布パターンからそれぞれの主成

分の特徴を考察する。ここではさらに各主成分の分布パ

ターンと高層気象場との関連を考察し,各パターンを支

配する要因について検討する。各要素の主成分スコア

と,高層 (6 層) の各気象要素 (4 要素) を主成分分析し

て得られた主成分スコアとの間に単相関をとる方法で検

証した。

次に,各地点の因子負荷量をもとにクラスター分析を

行い,地域区分を行う。各月 3 主成分を12ヶ月分あわせ

て36次元空間内でのクラスター分析 (群平均法) を行っ

た。この計算によって,年平均の解析では見いだせな

い,月ごとの変動を含めた地域特性を見いだすことが可

能になる。最後に各区分地域の特徴を1月・4月・7月・

10月の主成分パターン(因子負荷量分布)を季節の代

表として,気象学的観点に基づいて記載した。以上の操

作で,気象官署をもとにした大まかな気候区分が完成す

る。

なお,主成分分析にあたっては,平均気温・日照時間

では気候要素の相対的な地域差に着目するため,データ

セットの数値から年ごとの地域平均を引いてその偏差

データを用いて解析を行った。そのため,平均気温と日

照時間では全地域で増減する成分を除去して地域差のみ図1  研究対象地域。大きい丸印は気象官署,小さい丸印は

AMeDASを示す。

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気候要素の変動パターンに基づく日本の気候区分

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の地域があり,それらの地域より南では 0℃以上である

ことがわかる。1月の平均気温の第一主成分,第二主成

分,第三主成分の因子負荷量パターンを図 3 に示す。

第一主成分は卓越指数 (主成分スコア) Z1が正のとき

(相対的に) 西日本で気温が高くなり,北日本で低くなる

南北パターンである (図3-(a))。この正のパターンと相

関が高い温度場600hPaの第一主成分(相関係数0.71)

(図4-(a)) では,Z1が正のときに西日本を中心に温度が

高くなることがわかる (図5-(a))。またZ1は高度場

500hPaの第一主成分と相関が高く (相関係数0.77) (図

4-(b)),Z1が正のとき北緯40°以南で高度が高くなり,

以北で低くなっている (図5-(b))。これらの結果から,

1月の平均気温の第一主成分は “日本の南方での高気圧

の発達状況” を示していると考えられる。地上気温第一

主成分のZ1が正のとき,すなわち西日本で (相対的に)

気温が高い場合は,西日本方面で例えば亜熱帯方面から

のリッジが張り出す,あるいは移動性高気圧の通過頻度

が増加していることを示す。

第二主成分は卓越指数Z2が正のとき北海道や西日本

で (相対的に) 気温が高くなり,東北地方,関東地方で

(相対的に) 低くなる本州パターンである (図3-(b))。こ

のパターンは500hPa南北風の第二主成分 (相関係数

0.53)と相関があることから,高層の “南北風の変動”

を示していると考えられる。地上気温第二主成分のZ2

が正のとき,すなわち東北地方,関東地方で(相対的

に)気温が低くなる場合は,高層の北風成分が強くなる

ことを示す。

第三主成分は地域パターンであり (図3-(c)),高層

データや地上の卓越指数から変動の成因を見いだせな

かった。

第一~第三主成分の寄与率は,61.8%,10.4%,4.6%

であり,第一主成分と第二主成分の累積寄与率は72.2%

である。これらで約7割の気象場を説明できる。

の変動をもとにすることになる。

地域の詳細な区分は以下の方法で行った。はじめに

AMeDASデータセットから,各月30年分のデータと気

象官署の解析で得られた各主成分の卓越指数との相関を

計算する。因子負荷量の定義 (河口,1973) から明らかな

ように,ここで計算された相関結果は因子負荷量と同じ

ものである。次に個々のAMeDAS地点について,36次

元空間内で全ての気象官署と因子負荷量の類似度(空間

距離)を計算する。この結果,各AMeDAS地点は最も

類似度の高かった各気象官署と同一の地域に入るとみな

し,気象官署の解析で描いた大まかな境界線をもとに,

AMeDAS地点をふまえて境界線を決定した。

Ⅲ.結果および考察

Ⅲ-1.1月の地上気候要素の主成分パターン

本節では,手法の説明のため代表して 1月の解析結果

を示す。

Ⅲ-1-1. 平均気温

1月の平均気温の30年平均偏差分布 (図 2) では,北

海道や東北地方で 0℃以下,また中部地方中部にも 0℃

図2  1月の月平均気温の30年平均偏差分布図。等値線・カラー

は30年平均値の偏差を表し,赤が正,青が負を示す。

図3 1月の月平均気温に対する各主成分の因子負荷量分布(a~c)。

   (a)第一主成分,(b)第二主成分,(c)第三主成分。等値線・カラーは因子負荷量を示す。

(a) (b) (c)

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小泉 和也・加藤 央之

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ことを示す。

第二主成分は卓越指数Z2が正のとき北海道の内陸や

西日本で降水量が多くなる,南北パターンである(図7-

(b))。このパターンは高度場500hPaの第二主成分(相

関係数0.59)や東西風500hPaの第一主成分(相関係数

-0.636),南北風500hPaの第一主成分と相関がある

(相関係数0.42)ことから,“冬型の強弱” を示している

と考えられる。すなわちZ2が正のとき,冬型が弱くな

るので北海道の内陸や西日本で降水量が多くなる。

第三主成分は卓越指数Z3が正のとき西日本で降水量

が多くなり,北日本で少なくなるパターンである(図7-

(c))。このパターンの成因は高層データや地上の卓越指

数から見いだせなかった。

第一~第三主成分の寄与率は,40.3%,17.8%,6.5%

であり,第一主成分と第二主成分の累積寄与率は58.1%

である。これらで約6割の気象場を説明できる。

Ⅲ-1-2. 降水量

1月の降水量の30年平均分布 (図 6) は,100mm以上

の降水が主に東北地方日本海側や北陸,中国地方日本海

側に見られる。1月の降水量の第一主成分,第二主成

分,第三主成分の因子負荷量パターンを図 7 に示した。

第一主成分は卓越指数Z1が正のとき北海道を除いて

全体的に降水量が少なくなるパターンである (図7-(a))。

卓越指数の変動 (図 8) の負に卓越している年 (1980,

1989,1998,2001,2002) の気象状態を調べると,多くの

南岸低気圧が通過していた。また,正に卓越している

年 (1981,1985,1986,1999) の気象状態を調べたところ

共通した現象は見られなかった。この主成分は高層デー

タとの有意な相関はみられなかった。以上の結果から,

1月の降水量の第一主成分は “南岸低気圧の状態” を示

していると考えられる。Z1が正のとき,すなわち全国

的に降水量が少ない場合は,南岸低気圧の通過が少ない

図4  1月の月平均気温第一主成分と関係が深い高層各気象要素のパターン。(a)600hPa温度場における第一主成分,(b)500hPa高度場における第一主成分の因子負荷量。等値線は各気象要素の30年平均値を示す。カラーは因子負荷量を示す。

図5  1月の月平均気温第一主成分における主成分スコアと高層各気象要素との空間相関図。(a)600hPa温度場,(b)500hPa高度

場。等値線は各気象要素の30年平均値を示す。濃色は有意水準99%,淡色は有意水準95%で有意な相関があることを示す。

(a)

(a)

(b)

(b)

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気候要素の変動パターンに基づく日本の気候区分

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る。1 月の日照時間の第一主成分,第二主成分,第三主

成分の因子負荷量パターンを図10に示す。

第一主成分は卓越指数Z1が正のとき日本海側で(相

対的に) 日照時間が長くなり,太平洋側で (相対的に) 短

Ⅲ-1-3. 日照時間

1月の日照時間の30年平均偏差分布 (図 9) は,平均偏

差の図で見て 0 時間の等値線が本州の中央を通り,日本

海側では短く,太平洋側で長くなっていることがわか

図6 1月の月降水量の30年平均分布図。等値線・カラーは30年平均値を表し,降水量が多いほど濃色。

図7 図 3 に同じ。ただし,月降水量。

図8  1月の月降水量に対する第一主成分の主成分スコア。 縦軸は主成分スコア,横軸は年。

(a) (b) (c)

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小泉 和也・加藤 央之

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このパターンの成因は高層データや地上の卓越指数から

見いだせなかった。

第一~第三主成分の寄与率は,28.9%,11.5%,9.9%で

あり,第一主成分と第二主成分の累積寄与率は40.4%で

ある。これらで約 4 割の気象場を説明できる。

Ⅲ-1-4. 各月のまとめ

前節で示した 1月の例と同様に,4月・7月・10月の

解析を行った。月ごと,要素ごとの各主成分における因

子負荷量パターンの気象学的成因の考察結果を表 1 にま

とめた。特徴が見いだせなかった項目は-(ハイフン)で

表した。

Ⅲ-2.各気候要素の時間的変動から見た地域特性

要素ごとに36次元空間内でクラスター分析を行っ

た。そして各グループに対して,1月,4月,7月,10月に

おける特徴をまとめた。区分の境界線は,太線を 1st

オーダー,実線を 2ndオーダー,破線を 3rdオーダーと

した。以下にこれらの結果をまとめて示す。

Ⅲ-2-1.平均気温

クラスター分析により得られた 8 つのグループについ

て,その地理的な位置を図13に,その樹状図を図14

くなる,日本海-太平洋パターンである (図10-(a))。こ

の正のパターンと相関が高い850hPa高度場の第二主成

分 (相関係数-0.70) (図11-(a)) では,卓越指数が正の

とき北緯50度以北に低圧部ができる (図12-(a))。また,

500hPa東 西 風・ 南 北 風 の 第 一 主 成 分( 相 関 係 数 -

0.68,0.40) (図11-(b),図11-(c)),卓越指数が正のとき

高層の北西風の強風軸(ジェット軸)が北海道側に北上

することがわかる (図12-(b),図12-(c))。以上の結果か

ら,1月の日照時間の第一主成分は “偏西風の位置” を

示していると考えられる。Z1が正のとき,すなわち日

本海側で日照時間が長くなるとき,偏西風が北上してい

ることを示す。

第二主成分は卓越指数Z2が正のとき東日本・西日本

で (相対的に) 日照時間が長くなり,北日本で (相対的

に) 短くなる,南北パターンである (図10-(b))。このパ

ターンは高度場500hPaの第一主成分 (相関係数0.38)

と相関があることから,“大陸高気圧の強弱” を示してい

ると考えられる。地上日照時間第二主成分はZ2が正の

とき,すなわち東日本・西日本で (相対的に) 日照時間が

長くなる場合,大陸高気圧が強くなることを示している。

第三主成分は卓越指数Z3が正のとき九州・東日本・

西日本の太平洋側で (相対的に) 日照時間が長くなり,

日本海側で短くなる,東西パターンである (図10-(c))。

図9 図 2 に同じ。ただし,月日照時間。

図10 図 3 に同じ。ただし,月日照時間。

(a) (b) (c)

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気候要素の変動パターンに基づく日本の気候区分

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図11  11月の月日照時間第一主成分と関係が深い高層各気象要素のパターン。(a)850hPa高度場における第二主成分,

(b)500hPa東西風場における第一主成分,(c)500hPa南北風場における第一主成分の因子負荷量。図 4 に同じ。

図12  1月の月日照時間第一主成分における主成分スコアと高層各気象要素との空間相関図

(a)850hPa高度場,(b)500hPa東西風場,(c)500hPa南北風場。図 5 に同じ。

図13 月平均気温の変動特性(36次元)に基づいた地域区分

図14  月平均気温の変動特性 (36次元) に基づいたクラス

ター分析の樹状図

(a)

(a)

(b)

(b)

(c)

(c)

30 25 20 15 10 5 0

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小泉 和也・加藤 央之

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因子負荷量をみると,Sグループに対して,Nグループ

はどの主成分に対しても因子負荷量の値が小さいNAの

特徴を見いだせなかった。

2ndオーダーを表す実線の境界線は,Sグループで日

本を東西に分けた。SAとSBでは,4月の第一主成分と

第二主成分,7月の第二主成分で特徴が異なる。また,

SAとSCでは,4月の第二主成分,10月の第二主成分で

特徴が異なった。NAとNBでは,1月の第二主成分,4

月の第一主成分で特徴が異なる。

3rdオーダーを表す破線の境界線は,SAグループでは,

4月,7月,10月での第二主成分や第三主成分での振る舞

いによる違いがある。SCグループでは,1月,7月での第

二主成分や第三主成分での振る舞いによる違いがある。

Ⅲ-2-3.日照時間

クラスター分析により得られた 9 つのグループについ

て,その地理的な位置を図17に,その樹状図を図18

に,それぞれの区分の特徴を表 4 に示した。

1stオーダーを表す太線の境界線は東日本を南北に分

け,北陸の南側を通り,中国地方の日本海側を抜けるよ

うに引かれた。各区分の因子負荷量をみると,Sグルー

に,それぞれの区分の特徴を表 2 に示した。

1stオーダーを表す太線の境界線は日本を東西に分け

ている。各区分の因子負荷量をみると,Wグループの

第一主成分が正のとき,EA,EBの第一主成分が負であ

り,EC,EDは第二主成分に関係がある特徴が見られた。

2ndオーダーを表す実線の境界線は,Eグループにお

いて,EA・EB・ECを分けている。各区分の因子負荷

量をみると,EAは第一主成分の影響が強く,EBは第一

主成分と第二主成分の影響を受け,ECは第二主成分の

影響を受けている。

3rdオーダーを表す破線の境界線は,WCとWD,EC

とEDに 引 か れ た。WCとWDで は,1月 の 第 二 主 成

分,10月の第一主成分,第二主成分で異なる。ECと

EDは,1月の第一主成分で特徴が異なっている。

Ⅲ-2-2.降水量

クラスター分析により得られた 9 つのグループについ

て,その地理的な位置を図15に,その樹状図を図16

に,それぞれの区分の特徴を表 3 に示した。

1stオーダーを表す太線の境界線は東日本を南北に,

また東北地方を東西に分けるように引かれた。各区分の

表1 各月各要素の主成分分析結果のまとめ

1月 4月 7月 10月

平均気温

F 1正:南方の高気圧発達

負:南方の高気圧不活発

偏西風の

正:東西成分卓越

負:南北成分卓越

正:梅雨前線発達

負:梅雨前線北上or南下

偏西風の

正:南北成分卓越

負:東西成分発達

F 2高層の

正:北風成分強

負:北風成分弱

正:移動性高気圧優勢

負:南岸低気圧優勢

偏西風の

正:東西成分卓越

負:南北成分卓越

正:寒気の南下弱

負:寒気の南下強

F 3 -正:太平洋高気圧強

負:太平洋高気圧弱

正:フェーン現象

負:--

降水量

F 1正:南岸低気圧少

負:南岸低気圧多

正:高気圧の影響小

負:高気圧の影響大

正:梅雨前線不活発

負:梅雨前線活発

正:暖気優勢

負:寒気優勢

F 2正:冬型弱

負:冬型強

九州付近で

正:前線・低気圧活発

負:前線・低気圧不活発

正:梅雨前線日本海側

負:梅雨前線太平洋側

正:秋雨前線北上

負:秋雨前線南下or不活発

F 3 -正:日本海低気圧多

負:日本海低気圧少- -

日照時間

F 1正:偏西風北上

負:偏西風南下

正:高気圧の影響大

負:高気圧の影響小

正:梅雨前線活発

負:梅雨前線不活発

正:秋雨前線活発

負:秋雨前線不活発

F 2正:大陸高気圧強

負:大陸高気圧弱

九州付近で

正:前線・低気圧活発

負:前線・低気圧不活発

正:偏西風が南北活発

負:偏西風が東西活発

正:寒気の南下弱

負:寒気の南下強

F 3 - -正:梅雨前線日本海側

負:梅雨前線太平洋側-

-(ハイフン)は特徴を見いだせなかったことを示す。

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気候要素の変動パターンに基づく日本の気候区分

39

プとNグループの第一主成分の因子負荷量の正負が反

対のためと考えられる。

2ndオーダーを表す実線の境界線は,Sグループにお

いて,中央日本の南側を通り,和歌山県から太平洋に抜

けるように引かれた。SAとSBには,1月の第一主成分

と7月の第二主成分,10月の第二主成分で異なってい

る。また,Nグループにおいて,東日本と北日本の境界

に引かれた。NAとNBは 4月の第二主成分,7月の第一

主成分で異なっている。

3rdオーダーを表す破線の境界線は,SAグループでは

4月の第二主成分や第三主成分,SBグループでは 7月の

第二主成分や第三主成分,10月での第二主成分や第三主

成分,NAグループでは 4月の第一主成分や第三主成分,

10月の第一主成分や第二主成分で異なっている。

Ⅲ-2-4.ゾーン分類

図19は平均気温 (図13),降水量 (図15),日照時間

(図17) での境界線を重ね合わせた図である。平均気温

が橙色,降水量が青色,日照時間を緑色で表している。

大まかに見てみると,それぞれの境界線に共通性がみえ

る。

ここで,3 種の境界線で気象官署 2 地点以上がまと

まって含まれる地域をゾーンとして分けた (図20)。本

研究では日本を14のゾーンに分けることができた。ま

た,各要素の境界線によって挟まれた範囲に気象官署が

1 地点以下の地域をゾーン分類から外した。本研究の

ゾーン分類では,白色の範囲を “遷移帯” とした。ゾー

ン分類図では,遷移帯が各ゾーンの線ではなく幅として

位置している。

表2 月平均気温の変動特性(36次元)に基づいた区分の月別特徴

区分 月 特   微

WA

1 月 南方で高気圧が発達すると(相対的に)上昇

4 月 偏西風の東西成分が卓越すると(相対的に)低下

7 月 梅雨前線が発達すると(相対的に)低下

10月 偏西風の南北成分が卓越すると(相対的に)上昇

WB

1 月 南方で高気圧が発達すると(相対的に)上昇

4 月 偏西風の東西成分が卓越すると(相対的に)やや低下

7 月 梅雨前線が発達すると(相対的に)やや低下

10月 偏西風の南北成分が卓越すると(相対的に)やや上昇

WC

1 月 南方で高気圧が発達すると(相対的に)上昇

4 月 偏西風の東西成分が卓越すると(相対的に)やや上昇

7 月 フェーン現象によって(相対的に)上昇

10月 偏西風の南北成分が卓越すると(相対的に)やや上昇

WD

1 月 高層の北風成分が強まると(相対的に)やや低下

4 月 -

7 月 フェーン現象によって(相対的に)やや上昇

10月 寒気の南下が弱まると(相対的に)やや上昇

EA

1 月 南方で高気圧が発達すると(相対的に)低下

4 月 偏西風の東西成分が卓越すると(相対的に)上昇

7 月 梅雨前線が発達すると(相対的に)上昇

10月 偏西風の南北成分が卓越すると(相対的に)低下

EB

1月 高層の北風成分が強まると(相対的に)低下

4 月 偏西風の東西成分が卓越すると(相対的に)やや上昇

7 月 梅雨前線が発達すると(相対的に)やや上昇

10月 偏西風の南北成分が卓越すると(相対的に)低下

EC

1 月 高層の北風成分が強くなると(相対的に)やや低下

4 月 移動性高気圧が優勢になると(相対的に)低下

7 月 偏西風の東西成分が卓越すると(相対的に)上昇

10月 寒気の南下が弱まると(相対的に)上昇

ED

1 月 南方で高気圧が発達すると(相対的に)やや上昇

4 月 偏西風の東西成分が卓越すると(相対的に)やや低下

7 月 偏西風の東西成分が卓越すると(相対的に)やや上昇

10月 寒気の南下が弱まると(相対的に)上昇

-(ハイフン)は特徴を見いだせなかったことを示す。

図15 図13に同じ。ただし,月降水量。

図16 図14に同じ。ただし,月降水量。

12 10 8 5 4 2 0

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小泉 和也・加藤 央之

─ ─194( )40

要素ごとにどの地域特性と対応するかを表 5 に示した。

以下にそれぞれのゾーンの特徴を記載する。

Zone. 1:降水量はNA区分に属すので,降水量に対する

特徴を見いだすことができない。それぞれの要素が同一

の区分になっているため,他のゾーンの関連はない。

Zone. 2:このゾーンは平均気温のEBを降水量・日照時

間の境界線によって太平洋側に分けられている。1st

オーダーで区分している降水量の特徴をみると,Zone.3

と比べて秋雨前線の影響を受ける。

Zone. 3:このゾーンは平均気温のEBを降水量・日照時

間の境界線によって日本海側に分けられている。Zone. 2

に対して,降水量では梅雨前線の影響を受ける。

Zone. 4:降水量はZone. 3と同じNBであるが,平均気

温と日照時間によって分けられている。平均気温では夏

季のフェーンが特徴的である。

それぞれのゾーンに対してこれまで得られた平均気

温・降水量・日照時間の地域区分を当てはめると,ゾー

ンごとの特徴を見ることができる。それぞれのゾーンが

図17 図13に同じ。ただし,月日照時間。

図18 図14に同じ。ただし,月日照時間。

表3 表 2 に同じ。ただし,月降水量

区分 月 特   徴

SAa

1 月 南岸低気圧の通過が少ないと減少

4 月 高気圧の影響が小さいと増加

7 月 梅雨前線が不活発だと減少

10月 暖気移流によって増加

SAb

1 月 南岸低気圧の通過が少ないと減少

4 月 高気圧の影響が小さいと増加

7 月梅雨前線が不活発だとやや減少・北上すると

やや減少

10月暖気移流によって増加

秋雨前線が北上するとやや減少する

SAc

1 月 南岸低気圧の通過が少ないと減少

4 月高気圧の影響が小さいと増加 低気圧や前線

によりやや増加

7 月 梅雨前線が不活発だと減少

10月暖気移流によって増加 秋雨前線が北上する

とやや減少する

SAd

1 月 南岸低気圧の通過が少ないとやや減少

4 月 高気圧の影響が小さいと増加

7 月梅雨前線が不活発だとやや減少・北上すると

やや増加

10月 暖気移流によって増加

SB

1 月 南岸低気圧の通過が少ないとやや減少

4 月高気圧の影響が小さいとやや増加

低気圧や前線によりやや増加

7 月 梅雨前線が北上すると減少

10月 暖気移流によって増加

SCa

1 月 南岸低気圧の通過が少ないとやや減少

4 月 高気圧の影響が小さいと増加

7 月 梅雨前線が不活発だとやや減少

10月暖気移流によって増加

秋雨前線が北上するとやや増加

SCb

1 月 南岸低気圧の通過が少ないと減少

4 月 九州付近で低気圧や前線が発達すると減少

7 月 -

10月暖気移流によって増加

秋雨前線が北上するとやや増加

NA

1 月 -

4 月 -

7 月 -

10月 -

NB

1 月 南岸低気圧の通過が少ないとやや減少

4 月 高気圧の影響が小さいとやや増加

7 月梅雨前線が不活発だとやや減少・北上すると

やや増加

10月 暖気移流によって増加

25 20 15 10 5 0

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─ ─195 ( )

気候要素の変動パターンに基づく日本の気候区分

41

Zone. 5:北・西側は 3 要素の境界線が共通している。南

側は平均気温によって分けられている。

Zone. 6:このゾーンはZone. 5と似ているが平均気温に

おいて性質が異なる。偏西風や高層の風の影響を受けて

いる。

Zone. 7:このゾーンはZone. 5やZone. 6とは平均気温の

1stオーダーによって区切られている。10月はZone. 5・

Zone. 6と比べて寒気の影響を受けづらい。

表4 表2に同じ。ただし,月日照時間。

SAa

1 月 大陸高気圧が強いと(相対的に)やや増加

4 月 高気圧が卓越すると(相対的に)やや減少

7 月 偏西風の南北成分が卓越すると(相対的に)増加

10月秋雨前線が本州で活発だと(相対的に)やや減少

寒気の南下が弱いと(相対的に)増加

SAb

1 月 偏西風が北上すると(相対的に)やや減少

4 月 九州で低気圧・前線が活発だと(相対的に)減少

7 月 偏西風の南北成分が卓越すると(相対的に)増加

10月 秋雨前線が本州で活発だと(相対的に)やや減少

SAc

1 月 -

4 月 移動性高気圧が卓越すると(相対的に)やや減少

7 月 梅雨前線が活発だと(相対的に)減少

10月 秋雨前線が本州で活発だと(相対的に)やや減少

SBa

1 月 偏西風が北上すると(相対的に)減少

4 月 高気圧が卓越すると(相対的に)やや減少

7 月 梅雨前線が活発だと(相対的に)減少

10月秋雨前線が本州で活発だと(相対的に)やや減少

寒気の南下が弱いと(相対的に)減少

SBb

1 月 偏西風が北上すると(相対的に)減少

4 月 高気圧が卓越すると(相対的に)減少

7 月 梅雨前線が活発だと(相対的に)やや減少

10月 秋雨前線が本州で活発だと(相対的に)やや減少

NAa

1 月 偏西風が北上すると(相対的に)やや増加

4 月 九州で低気圧・前線が活発だと(相対的に)やや増加

7 月 梅雨前線が活発だと(相対的に)やや減少

10月 -

NAb

1 月 -

4 月 九州で低気圧・前線が活発だと(相対的に)増加

7 月 偏西風の南北成分が卓越すると(相対的に)減少

10月 寒気の南下が弱いと(相対的に)減少

NAc

1 月 偏西風が北上すると(相対的に)増加

4 月高気圧が卓越すると(相対的に)やや増加

九州で低気圧・前線が活発だと(相対的に)やや増加

7 月 偏西風の南北成分が卓越すると(相対的に)やや減少

10月 秋雨前線が本州南岸で発達すると(相対的に)やや増加

NB

1 月 偏西風が北上すると(相対的に)やや増加

4 月 高気圧が卓越すると(相対的に)増加

7 月 梅雨前線が活発だと(相対的に)増加

10月 秋雨前線が本州南岸で発達すると(相対的に)増加

図19 月平均気温,月降水量,月日照時間の重ね合わせ図

図20  図19より得られたゾーン分布図

表5 図20の各ゾーンに対応する各要素の区分

平均気温 降水量 日照時間

Zone l EA NA NBZone 2 EB SCb NAbZone 3 EB NB NAcZone 4 WD NB NAaZone 5 EC SCa SBaZone 6 ED SCa SBaZone 7 WB SCa SBaZone 8 WB SAa SAcZone 9 WB SAd NAaZone 10 WC SAd NAaZone 11 WA SAa SAcZone 12 WA SAb SAbZone 13 WA SAc SAaZone 14 WA SB SAb

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小泉 和也・加藤 央之

─ ─196( )42

析を行った。ここではまず,グループ分けの結果をもと

に,大まかな境界線を描いた。さらにAMeDASデータ

を用いて,さらに詳細な境界線を描いた。それぞれのグ

ループの特徴を考察した後,それぞれの境界線を重ね合

わせて,各境界線で囲まれた範囲をゾーンとし,14の

ゾーンに分けた。

以上の解析によりわかったことは以下の通りである。

平均気温では,大きく 8 つのグループ (気候区) が得

られた。1stオーダーの境界線 (太線) は東日本を東西に

分けている。すなわち,日本の平均気温は東日本の東西

を境に性質が異なるといえる。境界線の特徴から月ごと

の主な支配要因は,1月は南方の高気圧の発達状況,4

月は偏西風の変動,7月は梅雨前線,10月は偏西風の変

動であると考えられる。

降水量では,大きく 9 つのグループ (気候区) が得ら

れた。1stオーダーの境界線は (太線) は北陸から東北地

方を東西に分けている。すなわち,日本の降水量は北陸

から東北地方の日本海側を境に性質が異なるといえる。

境界線の特徴から月ごとの主な支配要因は,1月は南岸

低気圧の頻度,4月は高気圧の優劣具合,7月は梅雨前

線,10月は暖気・寒気の発達状況であると考えられる。

日照時間では,大きく 9 つのグループ (気候区) が得

られた。1stオーダーの境界線 (太線) は東日本を南北に

分け,北陸の南側を通り,中国地方の日本海側を抜ける

ように引かれた。そのため,日本の日照時間はそれを境

に性質が異なるといえる。境界線の特徴から月ごとの主

な支配要因は,1月は偏西風の位置,4月は高気圧の優

勢具合,7月は梅雨前線,10月は秋雨前線であると考え

られる。

これらの結果を総合してゾーン分類図を作成した。こ

こでは日本を14のゾーンに分けた。大きくみると日本

は日本海側・太平洋側とその間の中央部の 3 つに分かれ

ている。また,“遷移帯” の存在も明らかになった。そ

れぞれのゾーンに対して,各気候要素に対応するグルー

プを当てはめることで,3 要素におけるゾーンの特徴が

明らかになった。

謝辞

日本大学非常勤講師永野良紀氏,日本大学研究員田中誠二

氏をはじめ多くの方々から有意義な助言をいただきました。

記して感謝いたします。

本論文は,著者の一人である小泉和也の平成21年度日本

大学文理学部地球システム科学科の卒業論文に加筆・修正を

行ったものである。

Zone. 8:このゾーンは降水量・日照時間によって中央

日本に位置している。北側は日照時間の 1stオーダーで

区切られている。

Zone. 9:このゾーンは日照時間の 1stオーダーによって

Zone. 8と異なる。北側は降水量の 1stオーダー,南側

は日照時間の1stオーダーがある。

Zone. 10:このゾーンはZone. 4に似ている。降水量の

1stオーダーによって分けられているが,Zone. 4と降水

量の特徴は似ている。

Zone. 11:このゾーンはZone. 8と似ているが平均気温

によって分けられている。7月の梅雨前線と10月の偏西

風の影響の受け方で違いがある。

Zone. 12:このゾーンは平均気温WAを降水量・日照時

間の境界線によって太平洋側に分けられている。秋雨前

線の位置の影響を受ける。

Zone. 13:このゾーンは平均気温WAを降水量・日照時

間の境界線によって東シナ海側に分けられている。4月

に低気圧や前線の影響を受ける。

Zone. 14:このゾーンは平均気温WAを降水量・日照時

間の境界線によって太平洋側に分けられている。また,

Zone. 12とは降水量での性質が異なる。梅雨前線の位置

に降水量が影響を受ける。

ゾーンを大まかに見ると,日本海側・太平洋側とその

中間地に分かれているといえる。また,西日本は主に降

水量と日照時間によって区分されていることがわかる。

Zone. 2とZone. 3は平均気温では同じグループである

が,降水量や日照時間によって分けられている。さら

に,Zone. 4とZone. 10では同じ日本海側であるが,降

水量によって東西に分けられている。関東地方のZone. 5,

Zone. 6とZone. 7は平均気温によって分けられている。

Ⅳ.まとめ

本研究は,気候要素の主成分分析により得られた因子

負荷量をもとにクラスター分析を用いて日本の地域区分

(気候区分) を試みた。主成分分析では,気象官署の

データから第一~第三主成分の因子負荷量を算出し,主

成分の変動パターンを導出した。そして,卓越指数の変

動や高層データとの比較を通して各変動パターンの気象

学的成因の考察を行い,区分された地域の気象学的特性

を付記した。次に,要素ごとに第一~第三主成分の

12ヶ月分,計36個の因子負荷量をもとにクラスター分

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─ ─197 ( )

気候要素の変動パターンに基づく日本の気候区分

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気象庁(2006):2006年度 アメダスの「日照時間」の観測測

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気象庁(2008):2007年度 アメダスの「日照時間」の観測測

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