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[特集]最注目トピックの今を知り、ベストな導入を!■仮想化テクノロジー・アップデート今、企業コンピューティングの世界で最も注目されているテクノロジー・トピックの1つである仮想化(Virtualization)。サーバ統合の切り札として紹介されることの多いサーバ仮想化をはじめ、早期から実用化が進んだストレージ仮想化、技術/製品の進展が著しいアプリケーション仮想化やデスクトップ仮想化といったように、ITの全領域にかかわるキー・テクノロジーとして期待されている。本特集では、構成済みソフトウェア・パッケージの新形態である仮想アプライアンス、「Viridian」「インテルTXT」「KVM」など新世代の仮想化技術、そして、こうした“仮想化時代”の先にある自律コンピューティングなど、このトピックの最新動向を追う。[特別企画]ラボ発! ハードウェア・テクノロジー最新情報■ナノテク研究の前線からCPU/HDD/メモリの明日を読むナノテクという言葉が使われるようになって久しいが、その進歩は今なお、とどまることを知らない。本企画では、ナノテクが生み出そうとしている近未来のCPU、ハードディスク、メモリの姿を紹介する。

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January 2008 Computerworld 3

Features 特集&特別企画

最注目トピックの今を知り、ベストな導入を!

仮想化テクノロジーアップデートグリーンIT /プロビジョニング/自律コンピューティング「仮想化時代」に到来する3つのテクノロジー・トレンド

栗原 潔

仮想化環境で即座に実行できるアプリケーションの新配布モデル注目の「仮想アプライアンス」がもたらすメリット渡邉利和

マイクロソフトの「Viridian」/「インテルTXT」/ Linuxカーネル標準「KVM」新世代仮想化技術の実力を探る山市 良/大原久樹/森若和雄

ベスト・プラクティスを実践し、悪意の攻撃からシステムを守る自社での対策は十分か? 「仮想化環境のセキュリティ」デブ・ラドクリフ

注目の製品が備える機能・特徴をチェックProduct Review[仮想化テクノロジー]Computerworld編集部

ラボ発! ハードウェア・テクノロジー最新情報

ナノテク研究の前線からCPU/HDD/メモリの明日を読む 45nmプロセス技術、3Dトランジスタ、EUV技術……スパコン並みの性能をPCにもたらすCPU後藤弘茂

垂直磁気記録方式、TMRヘッド、パターンド・メディア……テラバイト領域に突入したハードディスク土屋 勝

SLM、2光束干渉法、コリニア・ホログラフィ法……ホログラフィ技術で次世代DVDを凌駕するメモリ井上光輝

特集 42

44

52

58

66

71

77

78

85

92

Part1

Part2

Part3

Part4

特別企画

1発行・発売 (株)IDGジャパン 〒113-0033 東京都文京区本郷3-4-5TEL:03-5800-2661(販売推進部) © 株式会社 アイ・ディ・ジー・ジャパン

月刊[コンピュータワールド]

世界各国のComputerworldと提携

TM

January2008Vol.5No.50contents

2008年1月号

Part5

Part1

Part2

Part3

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January 2008 Computerworld 5

EventReport イベント・リポート

Citrix Systems iForum 07 The App Delivery Expoリポートアプリ/データセンター/デスクトップの「3レイヤ仮想化」を展開するシトリックス

河原 潤

Adobe MAX Japan 2007リポート開発者の“インスピレーション”を刺激しWebとデスクトップの融合を加速する、アドビのRIA戦略大川 亮

HotTopicsホットトピックス

Prospecting Tomorrow [ITの明日を見据える]自身を高く売り込むための「ITスキル12選」 メアリー・ブランデル

News&Topicsニュース&トピックス   16

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Applications

contents1

Chew-Mock

EventReport1

EventReport2

Chew-Mock

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P r o s p e c t i n g To m o r r o w

IT の明日を見据える

Computerworld January 200812

IT業界は、再び空前の人手不足時代に突入か

 一昔前には、「オフショアリングの影響で、米国など

先進国のプログラマーは絶滅の危機に瀕している」と

まで言われていた。しかし、現実はそれとは正反対の

様相を呈している。

 米国グーグルのシニア・エンジニアリング・マネ

ジャー、ケビン・スコット氏も、「シリコンバレーで日常

的に私が目にしているのは、ITプロフェッショナル不

足に悩む企業幹部の姿だ」と、人手不足の現状を認

める。米国計算機協会(Association for Computing

Machinery:ACM)で教育委員も務めている同氏は、

「大手企業から新興企業に至るまで、人手不足を解

消するために積極的に求人活動を行っている」との現

実を指摘する。

 現在、多くのリクルーターが、IT業界は売り手市

場にあると分析している。米国ウィスコンシン州ミル

ウォーキーにあるマルケット大学で情報技術学の助教

授を務めるケイト・カイザー氏によると、企業は学生

たちの“青田買い”を必死に進めているという。

 「今年1月、システム分析・設計のクラスで、5月に卒

業を控えた学生34人に就職状況を聞いたところ、24

人が1社以上の内定をもらっていると答えた。卒業ま

ドッグ・イヤーと呼ばれるIT業界。今日もてはやされている技術が、明日には見向きもされなくなることも日常茶飯事だ。せっかく苦労して習得したスキルでも、役に立たなければ意味がない。IT業界で生き残るためには、企業が求めるスキルを見極め、しっかりと身につけておく必要があるのだ。本稿では、IRワーカーとしての自身の“市場価値”を高めてくれる12種類のITスキルについて紹介しよう。

メアリー・ブランデルComputerworld米国版

自身を高く売り込むための「ITスキル12選」

「企業に選ばれるのではない。自分が企業を選ぶのだ」

でには、全員が内定をもらっていたはずだ」(カイザー氏)

 IT関連のスキルや知識を持つ人材にとって、再び

“就職(転職)貴族”の時代が到来しているのかもしれ

ない。ただしそれは、企業が求める“適切な”ITスキ

ルを持っていればの話だ。では企業は、どんなITス

キルを求めているのだろうか。

 以下の12の項目は、リクルーター、コンピュータ・

サイエンス学教授、業界アナリストら8人が挙げる「今

日の企業が求めるITスキル」のトップ12である。自分

を“高く売る”ために、ぜひ参考にしていただきたい。

IT SKILL

1 マシン・ラーニング

 グーグルのスコット氏が真っ先に挙げたのが、この

「マシン・ラーニング」である。マシン・ラーニングのス

キルとは、コンピュータの性能を向上させるアルゴリ

ズムとテクニックを熟知し、それをマシンの設計に生

かす能力である。

 「例えばセキュリティの分野において、膨大なデータ

の中から特定のパターンを認識するスパム・フィルタリ

ングや不正検知ソフトウェアを導入する企業が増えて

いる。そういったソフトウェアを導入する際に必要とさ

れるのが、マシン・ラーニングのスキルだ」(スコット氏)

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January 2008 Computerworld 13

自身を高く売り込むための「ITスキル12選」

「企業に選ばれるのではない。自分が企業を選ぶのだ」

 スコット氏によると、スパム・フィルタリングや不正

検知ソフトを扱うためには、データ・マイニング、統計

モデリング、データ構造などに関するスキルも要求さ

れるという。不適切なデータ構造やアルゴリズムを選

択してしまうと、マシンに10倍から100倍もの性能差

が表れることも珍しくないからである。

 マシン・ラーニングの知識は、現場での経験を通じ

て、あるいは大学/大学院で習得できる。

IT SKILL

2 モバイル・デバイス向けアプリケーション開発

 「今のモバイル・デバイス向けコンテンツ・サービス

競争は、インターネット普及初期の熱狂的な競争と

似ている」と指摘するのは、フロリダ州にある人材サー

ビス会社、スフェリオン・パシフィック・エンタープラ

イゼズのプロフェッショナル・サービス担当バイスプレ

ジデント、ショーン・エブナー氏である。

 「BlackBerry」や「Treo」、そして「iPhone」などの

モバイル・デバイスは、すでにビジネスパーソンにとっ

て必須アイテムとなっている。企業は、今までイント

ラネット内でのみ利用していたERPや経費承認など

の業務アプリケーションを、これらのモバイル・デバイ

スからもアクセスできるようにしたいと考えている。

 それを実現するためには、当然、既存のアプリケー

ションに対してモバイル・アクセスを可能にするための

開発やコード修正を行える人材が必要となる。企業

は今、このスキルを持った人材を血眼になって探して

いるのである。

IT SKILL

3 ワイヤレス・ネットワーク管理

 IT業界で実務能力基準の認定活動を行っている

業界団体のCompTIAで技能育成担当バイスプレジ

デントを務めるニール・ホプキンズ氏は、Wi-Fi、

WiMAX、Bluetoothといったワイヤレス規格の普及

に伴い、セキュアなワイヤレス・ネットワークを構築で

きる能力が求められていると指摘する。

 「複数のワイヤレス技術が普及した現在、企業は有

線LANよりもはるかに危険性の高い無線LANにどの

ようなリスクが潜んでいるのかについて、あらためて不

安を感じている」(ホプキンズ氏)

 現職は情報システム・セキュリティ協会(ISSA)の会

長で、米国イーベイでCISO(最高情報セキュリティ責

任者)とCSS(最高セキュリティ・ストラテジスト)を務め

た経験を持つハワード・シュミット氏も、ホプキンズ氏

と同様の見解を示す。

 「もし、私がワイヤレス・ネットワーキングの専門家

を採用するなら、ネットワークを構築する際に、あら

かじめセキュリティ設定を制御できる機能を組み込め

る人材を選ぶだろう」(シュミット氏)

 同氏はまた、「今後は、無線LANと有線LANの連

携方法を熟知しているネットワーク管理者が求められ

る。単にワイヤレス・ネットワーク関連の認定資格を

持っているだけでは意味がない」とも指摘している。

IT SKILL

4 ヒューマン・コンピュータ・インタフェース設計

 グーグルのスコット氏が、急速に需要が伸びている

職種として挙げるのは、Webアプリケーションやウィ

ジェットも含めたデスクトップ・アプリケーションの洗

練されたユーザー・インタフェース、いわば「ヒューマン・

コンピュータ・インタフェース」を設計できる、デザイン・

センスにすぐれたソフトウェア・エンジニアだ。

 「iPodに代表されるクールなデザインで、操作性も

すぐれた製品が大ヒットした影響で、コンシューマー

はすぐれたデザインを当たり前だと思うようになって

いる。当然、彼らはそれと同じレベルのデザイン性を、

ソフトウェアにも求めるだろう」(スコット氏)

IT SKILL

5 プロジェクト・マネジメント

 ITプロジェクトを統括するプロジェクト・マネジャー

に対する需要が高いのは、何も今に始まった話では

ない。米国カンザス州にあるIT専門人材サービス会

社のイントロニック・ソリューションズ・グループでマ

ネジング・ディレクターを務めるグラント・ゴードン氏は、

「雇用側が求めるのは、実際にプロジェクト管理の経

験がある人材だ」と指摘する。

 ゴードン氏によると、プロジェクト・マネジャーの採

用プロセスは、1年前よりも複雑になっているという。

これは、企業が求める条件に見合う人材が不足して

いるためだ。

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Computerworld January 200814

 ちなみに同氏が勤めるイントロニックがプロジェク

ト・マネジャーの面接を行う際には、社内の専門家が

面接を担当し、応募者が過去に担当したプロジェクト

で起きたトラブルや、その問題解決のプロセスを説明

させるという。

 「応募者が暗記してきたPMBOK(Project Manage

ment Body of Knowledge:プロジェクト・マネジメ

ントに関する知識体系フレームワーク)をそらんじさせ

たところでまったく意味がない。実際に現場で起きた

問題と、その解決方法を聞けば、応募者が自分の仕

事を真に理解しているかどうかがわかる」とゴードン氏。

 同氏は過去に採用面接の場で、「ゴルフでティー・

ショットの飛距離を伸ばすためには、ゴルフ・ボール

の表面のくぼみをどう設計すればよいか」という風変

わりな質問を応募者に対してしたことがあるという。

 「実のところ、この質問に正解はない。しかし、そ

の回答で、相手の思考プロセスが理解できる。同時に、

あいまいな質問の問題点を整理し、分析できる能力

があるかどうかを見極めることができる」(ゴードン氏)

IT SKILL

6 ネットワーク管理(初級)

 とにかくIT関連の職業に就きたいと考えているので

あれば、「ネットワークは専門外なので……」と言い逃

れすることはできない。たとえソフトウェア開発者のよ

うな、ネットワークに直接かかわりのない職種でも、

ITプロフェッショナルであれば、その基本知識は必ず

理解しているべきだ。最低限、TCP/IP、Ethernet、

光ファイバなどの基礎を頭にたたき込み、分散ネット

ワークやグリッド・コンピューティングの仕組みぐらい

までは身につけておく必要がある。

 「例えば、データセンターで導入するアプリケーショ

ンの開発を担当するとしよう。その際に必要なのは、

ネットワークのメリットを生かしたアプリケーションを

設計できる開発能力なのだ」(スコット氏)

IT SKILL

7 ネットワーク管理(上級)

 VoIP(Voice over IP)ないしはIP電話を導入する

企業が増えるのに伴い、LANやWANだけでなく、

電話やインターネットなどあらゆる情報通信技術を理

解し、これらを統合することのできるネットワーク管

理者が求められるようになってきた。つまり、ICT

(Information & Communication Technology)時代

のネットワーク管理者を目指すべきなのである。

 CompTIAのホプキンズ氏は、「われわれの調査に

よれば、テレコミュニケーションの世界にいながらも

企業ITのネットワークを理解している人、あるいはネッ

トワーク管理者でありながらテレコミュニケーションの

知識を持っていて、両者を融合させる手法を知って

いるような人材に対する需要が急増している」と話す。

IT SKILL

8 オープンソース・ソフトウェア・プログラミング

 オープンソース・ソフトウェア系の開発者への重要は

確実に増している。「かつてはオープンソース・ソフトウェ

アを斜陽分野だと見る向きもあったが、それは大きな

間違いだ。今、求められているのは、オープンソース

のOSと、その上で稼働するオープンソース・アプリケー

ションの両方を開発できる人材である」(エブナー氏)

 同氏によると、いわゆるLAMP(Linux、Apache、

MySQL、PHP/Perl)の開発/管理を経験したこと

のある人材は、多くの業種で引く手あまたの状況にあ

るという。

IT SKILL

9 ビジネス・インテリジェンス

 ビジネス・インテリジェンス(BI)関連分野も、完全

に売り手市場だ。特にコグノス、ビジネスオブジェクツ、

ハイペリオンなどのBI製品に精通し、それらを活用で

きる人材は、企業間で争奪戦が繰り広げられている

という。

 エブナー氏は、「われわれの顧客は現在、BIに多額

の資金を投じている。彼らが求めているのは、スクリ

プトやクエリを書くことのできる“単なる技術者”ではな

い。ビジネスの本質を理解し、必要なデータを的確に

分析できる知識を持ち合わせた人材だ」と指摘する。

IT SKILL

10 組み込み型セキュリティ

 セキュリティに精通した人材に対する需要は、ここ

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January 2008 Computerworld 15

Electronics Association)の協力を得て、「Digital

Home Technology Integrator(DHTI+)」という新た

な認定資格を設立した。CompTIAによると、DHTI+

資格の試験対象範囲は、ネットワーク、オーディオ/

ビデオ、電話/ VoIP、セキュリティ/監視、ホーム・

コントロール・マネジメント、文書化/トラブルシュー

ティングの6分野に及ぶという。ホプキンズ氏によれば、

これは「今、最も注目されているホットな技術資格」だ

という。

IT SKILL

12 複数の開発言語+α

 .NET、C#、C++、Javaなど、どれか1つの開発言

語をマスターすれば企業からお声がかかったのは、も

はや過去の話だ。

 イントロニックのゴードン氏は、「単なる“コード屋”

は必要とされていない。企業で求められているのは、

Javaなどの主要な言語のスキルを持ちながら、チーム・

リーダーとして、あるいはプロジェクト・コーディネー

ターとしてプロジェクトやスタッフをマネジメントして

いくことにたけた人材である」と指摘している。

数年伸び続けている。ISSAのシュミット氏によれば、

最近はすべてのIT職種で、セキュリティ関連のスキ

ルと資格を有していることを条件とする企業が急増し

ているという。

 「ここ6カ月間の求人情報を見ると、すべての職種

に『セキュリティ』という単語が含まれている。雇用側

はメール・サーバの管理者であれ、ソフトウェアの開

発者であれ、セキュアな環境を構築できる人材を求

めている」(シュミット氏)

 同氏は、こうした企業のニーズによって、セキュリ

ティは「スペシャリストによる付加的な機能」から「すべ

ての工程/運用に組み込む機能」へと変化しつつある

と指摘している。

IT SKILL

11 デジタル家電

 デジタル家電市場は大きな発展を遂げ、家庭向け

家電にもコンピュータが組み込まれるようになった。

しかしながら、これらの製品の修理やサポートをする

ことのできる人材は限られている。

 CompTIAは米国家電協会(CEA:Consumer

 市場調査会社の米国XMGが実施した調査によると、ITアウトソーシング、BPO(Business Process Outsourcing)、コールセンター・サービスなどを含む世界のオフショア・アウトソーシング市場は、2006年の2,490億ドル規模から、2007年は19.3%拡大し、2,970億ドル規模に達する見込みだ。また、2010年までには、同市場は4,500億ドル規模に拡大するとの予測も示されている。 この調査は、アジアの主要なオフショア諸国であるインド、中国、マレーシア、フィリピンでの市場動向に重点を置いて行われた。調査によると、インドのオフショア市場の年平均成長率(CAGR)は29.5%で、2007年末には341億ドル規模に達し、世界のオフショア市場の11.5%を占める見通しだという。その後2010年までは少なくとも同市場シェア15%を維持しながらトップの座にとどまると見込まれている。 一方、中国のオフショア市場は、2007年のCAGRが47.9%、売上高は131億ドルを記録、世界でのシェアは4.4%に拡大する模様だ。また、フィリピンは2007年に売上高41億ドルに達し、世界シェア1.4%、マレーシアの2007年の売上高は36億ドル、世界シェアは1.2%となると見込まれている。

なお、マレーシアとフィリピンの2006年の市場シェアは、それぞれ1.04%と1.02%だった。 XMGの創業時社長で主任アナリストを務めるラウロ・ビベス氏は、調査結果に関して次のように語っている。「今後も、インドや中国がオフショア市場をリードするのは予想どおりだが、今回の調査では、他のアジア諸国においても成長の見通しが明らかとなった。特にフィリピンはCAGR62%という驚異的な成長率で拡大している」 マレーシアが38%のCAGRを記録しながら、他の国に遅れをとっている背景には、オフショア産業の成長を維持するだけの人材が不足しているという事情がある。マレーシアはその点を認識し、最近では、より付加価値の高いサービスによって売上高の拡大に注力しているという。 なお、XMGの調査では、人件費や不動産価格の高騰の影響を受け、オフショア市場全体でオペレーション・コストが上昇傾向にあることも指摘している。特にインドとフィリピンに関しては、2008年は人材不足のためにそれぞれ11%と8%の人件費上昇が予想されている。こうした傾向には、米国ドルの下落とアジア通貨の上昇も影響しているという。

世界のオフショア市場は2008年も堅調に拡大──米国市場調査会社が予測c o l u m n

人件費や不動産価格の高騰でコスト上昇の懸念も メルバ・ジャン・ベルナ Computerworldフィリピン版

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Computerworld January 200816

モバイル市場大激震──グーグル、携帯電話プラットフォーム「Android」を発表パートナー33社とアライアンス「OHA」を設立、携帯電話アプリの開発を推進急伸するモバイル広告市場をねらい、2008年後半に新製品登場か

 米国グーグルは11月5日、オープンソー

スの携帯電話向けアプリケーション開発プ

ラットフォーム「Android」を発表した。か

ねてからうわさされていたグーグルの携帯

電話分野への進出が、とうとう現実のもの

となった。

 Androidのコンポーネントには、OS、ア

プリケーション開発用API(Application Pro

gramming Interface)セット、ミドルウェア・

レイヤ、カスタマイズが可能なユーザー・イ

ンタフェース、携帯電話向けブラウザが含

まれている。こうしたAndroidの開発を、グー

グルは33社のベンダーとともに発足させた

「Open Handset Alliance(以下、OHA)」

の下で行っていくことも明らかにした。

 OHAにはブロードコム、イーベイ、イン

テル、エヌビディアなどの米国企業をはじ

め、NTTドコモ(日本)、チャイナ・モバイ

ル(中国)、サムスン電子(韓国)、LG電子(韓

国)、ハイテク・コンピュータ(台湾)、Tモ

バイル(ドイツ)、テレフォニカ(スペイン)な

ど、世界の通信事業者や携帯電話メーカー

らが名を連ねている。発表会に列席したモ

トローラやTモバイルの親会社であるドイ

ツ・テレコムのCEOは、今後Androidをベー

スとした製品を積極的に開発すると明言し

た。

 グーグルによると、Androidの技術を使っ

た携帯電話は、2008年後半に登場する

予定だという。発表会に臨んだグーグル

CEOのエリック・シュミット氏は、「30億人

とも言われている世界の携帯電話ユーザー

のために、モバイル・アプリケーションを充

実させインターネット・サービスを向上させ

ることはグーグルの基本理念にかなったも

のだ。Androidによって、だれも想像でき

ないような新しいアプリケーションや機能

が備わった携帯電話が登場する」と語った。

 Androidは「Apache License バージョ

ン2」ライセンス規約の下で提供される。

シュミット氏は同ライセンス規約について

「最もリベラルなオープンソース・ライセン

スだ」とコメントしている。なお、Android

のアプリケーション開発に必要なツールを

まとめたソフトウェア開発キット(SDK)が、

同ライセンスの下で来週中にも公開される

予定だという。

 実はAndroidに包含されている技術は、

グーグルが2005年に買収した米

国アンドロイドが開発していたもの

である。アンドロイドの共同創設者

であるアンディ・ルービン氏は、現

在グーグルでモバイル・プラット

フォーム担当ディレクターを務めて

おり、今回の発表会にも出席した。

 ルービン氏によると、Android

のOSコンポーネントはLinuxをベー

スにしており、PC向けのWebブラ

●モバイル市場大激震──グーグル、携帯電話プラットフォーム「Android」を発表。パートナー33社とアライアンス「OHA」を設立、携帯電話アプリの開発を推進(11/5)⇒16ページ

●日立、主要IT機器の省電力化プロジェクト「Harmonious Green」を始動(11/5)⇒19ページ

●ミクシィ、グーグルのOpenSocialプロジェクトへの賛同を表明(11/3)

●今夏に猛威を振るったPDFスパム、パワーアップして蔓延の兆し(11/2)

●IBM、顧客のサーバ統合による省エネ成果を証明する業界初のプログラムを発表(11/2)⇒19ページ

●グーグル、SNSサイト向けアプリのAPIプロジェクト「OpenSocial」を発表(11/1)

●デル、約4年間の決算修正報告書をSECに提出(11/1)

●マイクロソフト、柔軟なSOA構築を目指す新構想「Oslo」を発表(10/31)

●イージェネラ、仮想化管理ソフトをOEM提供へ(10/31)

●株価操作をねらう「音声スパム」、10月にボットネットが1,500万通を送信(10/31)⇒23ページ

●ODFの推進団体、W3C推進のフォーマットに“鞍替え”(10/30)

●IBMとアルカテルがユニファイド・コミュニケーションで提携、マイクロソフトに対抗へ(10/30)⇒20ページ

●「時間、場所、使用する機器に依存しない情報アクセスを実現する」──EMCのトゥッチCEOが情報インフラ戦略をアピール(10/30)⇒21ページ

●米国連邦地裁、グーグルによるアメリカン航空訴訟取り下げ要求を却下(10/30)

●需要減少のベクトル型コンピュータ――スパコン市場ではクラスタが優勢(10/29)

●IBM、ストレージ関連ソフトを提供するノバスを買収(10/29)

NEW

S

ウザと同機能を持つWebブラウザを備え

ているという。またルービン氏は、SDKの

リリースと同時にAndroidの詳細な技術情

報を提供すると明言した。同氏は、SDK

を公開して外部開発者からのフィードバッ

クを取り入れ、Androidの機能向上を図り

たいとしている。

 一方、これまでグーグルと良好な提携関

係を築いていたアップルは、前評判どおり

OHAに加盟していない。同社の「iPhone」

は革新的なインタフェースを持つスマート

フォンとして人気を博しているものの、グー

グルが携帯電話事業へ参入したことで、そ

の人気にかげりが生じる可能性もある。

 いずれにせよ、今後、グーグルがアップ

ルだけでなくマイクロソフトやシンビアンと

いった既存のモバイル・プラットフォーム・

ベンダーの強力なライバルになることは間

違いない。 (Computerworld米国版)

Androidの詳細情報はOHAのWebサイトから入手できる(http://www.openhandsetalliance.com/)

Page 11: Computerworld.JP Jan, 2008

O c t o b e r , 2 0 0 7

January 2008 Computerworld 17

「IT業界の“スマイル・カーブ”に注目」──経済学者の伊藤元重氏、“フラット化する世界”で日本企業が勝ち残るための条件を説く

Cognos Performance 2007コンファレンスの基調講演で語られたビジネス戦略論

 コグノスは10月17日、東京コンファレン

スセンター品川で年次ユーザー・コンファ

レンス「Cognos Performance 2007」を

開催した。基調講演には、経済学者で東

京大学大学院経済学研究科教授の伊藤元

重氏が登壇、ITを中心とした技術革新やグ

ローバル化の進展の中で、日本企業が目

指すべきビジネス戦略のあり方について

語った。

 Cognos Performanceコンファレンスは、

世界各国の34都市で開催されるコグノス

のイベントで、ビジネス・インテリジェンス

(BI)および企業業績管理(EPM)製品/ソ

リューション/事例が紹介される。

 伊藤氏は講演の冒頭で、「インドのITが

世界に取り込まれるようになった背景に、

2つの大きな要因がある」とする、ベストセ

ラー『フラット化する世界』(原題:『The

World Is Flat』)で、著者のトーマス・フリー

ドマン氏が行った指摘を紹介した。同氏に

よると、その要因の1つは2000年問題、

もう1つはITバブルの崩壊だ。ITバブルの

崩壊が90年代に登場した新しい技術やイ

ンフラの低価格化をもたらし、人件費の安

いインドを中心にアジアのIT企業が世界で

重用されるようになった。その結果、グロー

バル化の流れが大きく進んだという。

 では、グローバル化や新興工業国の台

頭の中で日本企業が生き残るためには、ど

のようなビジネス・モデルが必要になるの

か。伊藤氏によれば、この考察で1つのキー

となるのは「スマイル・カーブ」と呼ばれる現

象だという。

 スマイル・カーブとは、上流層

(提供者側の層)と下流層(利用

者側の層)の利益率は高いが、

中流層(組み立て業者など中間の

層)では低いという現象を指す製

造業界の用語である。IT産業に

おいても、このスマイル・カーブ

現象が近年の国内市場において

きわめて顕著だという。

 興味深いことに中国では、逆

に中流層の利益が大きいという

現象が生じているらしい。した

●特許改革法案を巡って米国議会でロビー活動が過熱(10/25)⇒23ページ

●NECが新スパコンを投入──1コアで100GFLOPS超の性能を持つ世界初のCPUを搭載(10/25)⇒18ページ

●フェースブック株争奪戦でマイクロソフトがグーグルに勝利(10/25)

●インテルとトランスメタ、1年にわたる特許侵害訴訟合戦に幕(10/25)

●オラクル、オペレーション・プランニング・ソフトのインターレースを買収へ(10/25)

●マイクロソフト、次期Dynamics CRMのパート

ナー料金を40%値下げ。担当幹部は「使った分だけ支払えばよい」とオンデマンド・モデルへの注力をアピール(10/23)⇒22ページ

●SAPジャパン、SOA対応のアイデンティティ管理ソフト「NetWeaver Identity Management」を発表(10/23)⇒21ページ

●マイクロソフトが欧州委の反トラスト判決を受諾(10/23)

●日本IBM、100V電源対応のブレード・サーバ用シャーシを発表(10/22)

●シスコ、ユニファイド・コミュニケーション製品パートナーの支援を強化(10/22)

●ITU-R、WiMAXを国際標準規格として勧告(10/19)⇒18ページ

●シマンテック委託調査――企業のディザスタ・リカバリ対策は不十分(10/19)

●「IT業界の“スマイル・カーブ”に注目」──経済学者の伊藤元重氏、“フラット化する世界”で日本企業が勝ち残るための条件を説く(10/17)⇒17ページ

●マイクロソフト、ユニファイド・コミュニケーション製品群を正式発表(10/17)⇒20ページ

●富士通中部システムズがSaaS市場に本格参入、統合CRMの「CRMate」をSaaSモデルで提供開始(10/10)⇒22ページ

EVEN

T REP

ORT

がって、日本が中流層の領域で中国に対

抗してもかなわないことが想像できる。そ

こで、上流および下流層の市場でどのよう

な戦略を組むのかが重要になってくる、と

いうのが伊藤氏の見解だ。

 伊藤氏はまず、上流層においてはグロー

バルな視点を持つことが大切だと強調し

た。例えば、日本の携帯電話は技術面で

は世界のトップ・クラスだが、世界市場の

シェアを見ると、ノキアやモトローラ、サム

スンなどの海外メーカーに大きく水を開け

られている。これは日本の携帯電話メーカー

が国内市場のみに注力し、グローバル市場

に目を向けてこなかったからだと同氏は指

摘した。

 一方、下流層で成功を収めるためには、

iPodの成功が大きなヒントになる。伊藤氏

によれば、下流層で勝ち残るポイントは、「製

品(性能)」「ビジネス・モデル」「ブランド」の

3つをすべそろえることだという。国内メー

カーのポータブル音楽プレーヤーは、性能

に関しては世界トップ・クラスだが、ビジネ

ス・モデルやブランド戦略の面ではiPodに

及ばないのは明らかだ。

 「現実問題として、グローバル化が進ん

だ現代においては、中流で日本企業が勝ち

残るのは難しい。上流か下流か、いずれに

せよ、メリハリのある戦略が必要だ」

(杉山貴章)「製造業で見られるスマイル・カーブ現象が近年のIT業界でも顕著」と語る経済学者の伊藤元重氏

Page 12: Computerworld.JP Jan, 2008

Computerworld January 200818

NECが新スパコンを投入──1コアで100GFLOPS超の性能を持つ世界初のCPUを搭載1ノード当たりの演算性能は従来機種「SX-8」の13倍に

 NECは10月25日、新CPUを搭載した

ベクトル型スーパーコンピュータ「SXシ

リーズ」の新製品「SX-9」を発表、同日より

提供を開始した。同製品は、大学や研究

機関、気象・気候機関向けのHPC(High

Performance Computing)サーバ「SX-8」

の後継機。

 SX-9の最大の特徴は、1コア当たり

102.4GFLOPSの演算性能を実現した新

CPUを搭載したこと。NECによれば、1コ

アで100GFLOPS以上を実現したのは世

界初という。

 新CPUは、従来からのアーキテクチャ

を継承しつつ、演算器の追加、ベクトル・

パイプラインの増強といった複数の改良が

施されている。65ナノメートル(nm)製造

プロセスにより、ベクトル・ユニットとスカ

ラ・ユニットの1チップ化も図っている。

 SX-9は、1ノード当たり最大16個の

CPUを搭載することが可能だ。これにより、

演算性能は1.6TFLOPSまで拡張される。

13ノードで1.6TFLOPSを発揮したSX-8

と比べると、SX-9では単純計算で1ノード

当たり13倍の性能向上が図られたことに

なる。また、1CPU当たり256Gbpsのメ

モリ帯域幅も有しているため、1ノード当た

りの総メモリ帯域幅は4Tbpsに達する。

共有メモリは1ノード当たり1TB、ノード間

を接続するインターコネクトは128Gbps

の高速性を実現することで、最大512ノー

ドの接続(総合演算性能は839TFLOPS)

を可能にしている。

 ほかにも、SX-8(13ノード)に対して面積・

消費電力がそれぞれ4分の1程度に削減さ

ITU-R、WiMAXを国際標準規格として勧告基盤技術「OFDMA」への支持を投票で採択

 国際電気通信連合の無線通信部門

(ITU-R)は10月19日、高速無線通信技術

「WiMAX」を3G携帯電話の国際標準規格

である「IMT-2000」の1つとする勧告を採択

した。ITU-Rによる勧告名は「OFDMA

TDD WMAN」。これによりWiMAXは、

W-CDMAやCDMA-2000といった世界で

広く普及している3G方式に対抗できるよう

になる。

 各国政府は無線周波数の割り当てを行う

際、技術的要件としてITU規格を指定する

場合が多い。WiMAXは今後、IMT-2000

が要件とされた場合に、選択肢に加わるこ

とになる。

 WiMAXはIEEE 802.16規格をベースに

しており、2種類の規格(固定WiMAXとモ

バイルWiMAX)に分けられる。固定Wi

MAXは、WiMAX採用製品の相互運用性

を認定する業界団体「WiMAXフォーラム」

において認定作業がすでに行われている。

同団体はモバイルWiMAX製品についても

2008年から認定を開始する計画だ。

 WiMAXフォーラム代表のロン・レスニッ

ク氏は、「WiMAXがIMT-2000技術として

承認されたことは、WiMAX

フォーラムにとって大きな

勝利だ」とコメントしている。

 ITU -Rは今回、WiMAX

の基盤技術となっている

OFDMA(直交周波数分割

多重アクセス)への支持を

投票で採択した。OFDMA

は、GSMからの移行を想

定して開発されているLTE

(Long-Term Evolution)などの次世代技術

でも利用される予定。

 なお、ある調査では2012年までに世界

中で6,600万人がWiMAXを利用するよう

になると予測している。今回の決定で、こ

の数字がどこまで増えるかは未知数だ。

(IDG News Service)

NEW

SPR

ODUC

TS

れたこと、SX-9の迅速な導入・実行をサ

ポートするOS、ソフトウェアが用意されて

いるなどの特徴がある。

 価格は、最小構成で1ノード(4CPU搭

載)当たり約1億5,000万円となる。

(Computerworld)

新CPUを搭載したスパコン「SX-9」

0

1

2

3

2007

4

5

6

加入者(千万人)

2008 2009 2010 2011 2012(年)

ConsumerBusiness

WiMAXへの加入者予測

*資料:インフォーマ・メディア&テレコム

Page 13: Computerworld.JP Jan, 2008

O c t o b e r , 2 0 0 7

January 2008 Computerworld 19

IBM、顧客のサーバ統合による省エネ成果を証明する業界初のプログラムを発表エネルギー削減総量を計算し「効率証明書」を発行。炭酸ガス排出権取引市場での売買も目指す

 米国IBMは11月2日、顧客企業が行っ

たサーバ統合などの省エネ活動の成果に

応じて証明書を発行する「Efficiency

Certificates」(効率証明書)プログラムを

発表した。同プログラムでは、炭酸ガス排

出権取引市場でこの証明書を売買できるよ

うにもする。

 IBMによると、同プログラムは業界初の

試みであり、まずはメインフレームの顧客

を対象に実施する。将来的には同社のす

べてのサーバ、ストレージ・システムの顧

客に対象を広げるという。

 このプログラムでは、分散したシステム

の統合による省エネの成果を、独立系企

業のニューウィング・エナジー・ベンチャー

ズがリファレンス・データを基に検証して

数値化する。そして、データセンターの電

力と冷却のエネルギー削減総量を計算し、

メガワット時の単位で省エネルギー成果を

割り出したうえで、証明書を発行する。

 ちなみにIBMは現在、同社が保有する

3,900の分散システムを33台のメインフ

レームに統合するプロジェクトを進めてお

り、同プログラムによる試算では年間11万

9,000メガワット時の省エネルギーにつな

がる見通しだという。

 このIBMの例では、発行される証明書

の価値は市場環境に応じて30万〜100万

ドル規模になると、IBMのIT最適化担当

副社長、リッチ・レチナー氏は語った。同

氏によると、証明書の発行はプロジェクト

期間を通じて毎年受けられるという。

 同プログラムのように、金銭的インセン

ティブによって省エネルギー化の促進を図

日立、主要IT機器の省電力化プロジェクト「Harmonious Green」を始動製品開発のロードマップを策定し、5年間で33万トンのCO2削減を目指す

 日立製作所は11月5日、同社が提供する

サーバ/ストレージ/ネットワーク機器な

ど、主要IT機器の省電力化を推進する新

プロジェクト「Harmonious Green」を発表

した。同プロジェクトに基づき、日立は今

後5年間で累計約33万トンの二酸化炭素

(CO2)削減を目指す。

 新プロジェクトでは、日立の主要IT機器

に対してCO2削減のロードマップを策定し、

それに即した形で製品開発を進めていく。

具体的には、省電力化を推進するレベルを

「運用レベル」、「装置レベル」、「部品レベル」

に分けて実行する。

 運用レベルでは、サーバ/ストレージ/

ネットワークの仮想化技術を利用して、シ

ステム全体としての電力量の動的な制御や

使用リソースの最適化を進める。装置レベ

ルでは、長時間利用されていないハードディ

スクの回転を停止する「MAID (Massive

Array of Idle Disks)」技術の採用やテープ・

メディアの活用、熱交換を効率化する新た

なヒートシンク技術の開発などを行う。部

品レベルでは、電源モジュールおよび半導

体において省電力化に向けた技術開発を

進める。

 また、日立は新プロジェクトを具現化す

るための新製品として、低消費電力版ク

アッドコアXeonプロセッサを搭載したブ

レード・サーバ「BS 320 es サーバブレー

ド」と、テープ・ライブラリを接続/制御可

能なディスク・アレイ装置「Hitachi Tape

Modular Storage」を同時に発表した。

 なお、日立は9月27日にデータセンター

の省電力化プロジェクト「CoolCenter50」

SERV

ICES

NEW

S

を発表している。同プロジェクトは、今後5

年間でデータセンターの消費電力量を最大

で50%削減するというものだ。日立は、IT

機器レベルで省電力化を進めるHarmoni

ous Greenの成果を、データセンター・レ

ベルで省電力化を進めるCoolCenter50へ

も適用し、シナジー効果を図っていく構え

である。 (Computerworld)

る取り組みはこれまでにもある。例えば、

パシフィック・ガス&エレクトリック(PG&

E)は同業の大手公益企業と協力して、サー

バの削減台数1台につき150〜300ドルを

企業に支払うプログラムを展開している。

 IBMのプログラムでは、取得した効率証

明書を、省エネという企業責任を果たして

いるあかしとして利用できる点が強調され

ている。しかし、販売目的で証明書を取得

する企業が出てくる可能性もある。

 レチナー氏は、「自社でエネルギー消費を

削減できない企業は、第三者から効率証

明書を購入し、炭酸ガス排出権を追加取

得しなければならなくなるだろう。証明書

の発行を受けた企業には、こうした企業に

証明書を販売するという選択肢もある」と

語っている。 (Computerworld米国版)

「Harmonious Green」と同時に発表された省電力仕様の「BS 320 es サーバブレード」

Page 14: Computerworld.JP Jan, 2008

Computerworld January 200820

 マイクロソフトは10月17日、音声、ビ

デオ、Web会議などの連携を実現する、

ユニファイド・コミュニケーション(UC)製

品群の発表イベントを開催した。

 この発表イベントは全世界で開催され、

米国サンフランシスコでのイベントには、

同社会長のビル・ゲイツ氏が登壇。「ビジ

ネス・コミュニケーションを飛躍的に進化

させる製品群だ」とアピールした。

 今回発表されたのは、UCの中核となる

サーバ・ソフトウェアの「Office Communi

cations Server(OCS) 2007」、OCS 

2007のクライアント・ソフトウェアである

「Office Communicator 2007」、ホステッ

ド型Web会議サービスの「Office Live

Meeting 2007」、Web会議用パノラマ・

カメラの「RoundTable」である。

 OCS 2007は音声、ビデオ、インスタ

ント・メッセージング(IM)、会議、プレゼ

ンス(在席)情報などのコミュニケーション

機能をリアルタイムで提供するサーバであ

る。

 Office Live Meeting 2007は、会議

の開催をはじめ、文書、映像、アプリケー

ションの共有といった機能を、SaaS

(Software as a Service)モデルで提供

するサービスである。

 RoundTableは、OCS 2007および

Office Live Meeting 2007に対応した

Web会議用パノラマ・カメラで、会議室全

体を単一の画面に表示することが可能だ。

発売開始は11月中旬で、価格は40万円前

後の予定だという。

 日本での発表イベントでは、OCS 2007

を早期導入したユーザー事例として日産自

動車が紹介された。同社の執行役員CIO

グローバル情報システム本部長の行徳セ

レソ氏は、「OCS 2007を活用することで、

国内外を問わず会議を開催できる。複数

の拠点を持つグローバル企業には、必要

不可欠なシステムだ」と語った。

(Computerworld)

マイクロソフト、ユニファイド・コミュニケーション製品群を正式発表 「ビジネス・コミュニケーションを飛躍的に進化させる製品」とゲイツ氏

サンフランシスコでの発表イベントに登壇した米国マイクロソフト会長のビル・ゲイツ氏(左)とビジネス部門社長のジェフ・レイクス氏

IBMとアルカテルがユニファイド・コミュニケーションで提携、マイクロソフトに対抗へLotus Sametime用のOmniTouchプラグインを開発

 米国IBMとフランスのアルカテル・ルー

セントは10月30日、「Fall VON」コンファ

レンスにおいて、ユニファイド・コミュニケー

ション分野で提携したと発表した。両社製

品の連携強化を図り、マイクロソフトのユ

ニファイド・コミュニケーション製品に対

抗することが目的だ。今回の提携発表に

合わせ、アルカテル・ルーセントは「Lotus

Sametime」用の音声会議プラグイン

「OmniTouch My Teamwork for Lotus

Sametime」を披露した。

 このプラグインは、Sametimeのユニファ

イド・コミュニケーション機能を拡張する

「Lotus Sametime Unified Communi

cations and Collaboration API」をベー

スに開発されたもの。Sametimeとグルー

プウェア「Lotus Notes」の両方から直接

Click-to-Conference(クリック&会議通

話)できる機能を提供するとともに、Same

timeを通じて音声会議のスケジューリング

と管理を可能にする。

 アルカテル・ルーセントの「OmniTouch

Unified Communication」とSametime

の両ソフトを有するユーザーであれば、同

プラグインを利用することができる。なお

このプラグインは、数週間以内にSame

timeのパートナー向けサイトで公開される

予定だという。

 両社がユニファイド・コミュニケーショ

ン分野で協力関係を結んだのは今回が初

めてだ。ちなみにIBMは、アルカテル・ルー

セントのほかにシスコシステムズやアバイ

ア、ノーテル・ネットワークスなどのネット

ワーキング・プロバイダーともユニファイド・

コミュニケーション関連のパートナーシッ

プを結んでいる。

 今回の提携はIBMの対マイクロソフト戦

略を明確に打ち出すものである。IBMは、

Sametimeをはじめとする自社のコラボレー

ション製品を、マイクロソフトのユニファ

イド・コミュニケーション製品に対するオー

プン標準の代替選択肢と位置づけている。

 一方マイクロソフトは、ユニファイド・コ

ミュニケーション戦略の要となる「Office

Communications Server 2007」を10

月17日に発表した(上段記事参照)。さら

にマイクソフトは、同サーバのサポート・ベ

ンダーを増やすべく、電気通信会社やネッ

トワーキング/無線携帯端末プロバイダー

に対し、積極的に接触を図っている。

(Computerworld米国版)

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Page 15: Computerworld.JP Jan, 2008

O c t o b e r , 2 0 0 7

January 2008 Computerworld 21

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 SAPジャパンは10月23日、SOA(サー

ビス指向アーキテクチャ)ベースの異機種

混合環境におけるセキュリティ向上を支援

するアイデンティティ  管理ソフトウェア

「SAP Ne tWeave r Iden t i t y Mana

gement」を発表した。

 同製品は、SAPが今年5月に買収した

ノルウェーのID管理ソフトウェア・ベン

ダー、マックスウェアの技術をベースに開

発されたもの。ユーザー・プロビジョニン

グやID情報の同期、ならびにアプリケー

ションとシステム・リソースのためのアクセ

ス権限管理をサポートする各種機能を備

え、複数システムに存在するID情報を統

合的に管理するとともに、管理者の負担軽

減およびITの総体的な運用コスト削減を

実現し、SOA環境におけるセキュリティ確

保を支援する。具体的には、SAPおよび

SAP以外の人事管理システムと連携して、

人事データの変更をトリガーに各システム

のID情報を自動的に更新するといったこと

が可能になるという。

 SAPジャパンのバイスプレジデントで

GRC事業開発室室長を務める桐井健之氏

によると、同社はこれまで「SAP ERP」に

ロール・ベースの権限設定機能やビジネス・

トランザクション・レベルのアクセス管理

機能を追加し、アクセス管理自動化ツー

ルとして「SAP GRC Access Control」を

提供してきたが、こうした「アプリケーショ

ン・レベルのID管理」と非SAP製品による

「システム・レベルのID管理」を連携させる

には多大な労力を必要としていたという。

 桐井氏は、「ID管理に関しては、これま

でSAP以外のシステムまでサポートしてい

なかったが、NetWeaver Identity Mana

gementを導入することで、複数システム

が混在する環境下で、アプリケーション・

レベルとシステム・レベルの両方のID管理

を共通のプラットフォーム上で実現し、全

社レベルのID管理をサポートできるように

なる」と強調した。 (Computerworld)

SAPジャパン、SOA対応のアイデンティティ管理ソフト「NetWeaver Identity Management」を発表

非SAP製品が混在するシステム環境でID情報へのアクセスを一元的に管理

SAPジャパンのバイスプレジデントでGRC事業開発室室長を務める桐井健之氏

 「データが情報となり、情報が知識とな

り、最終的にビジネスにつながっていく。

そうした流れの中で、EMCはインフラ部分

を支えていく」――。EMCジャパンが10

月30日に開催したプライベート・コンファ

レンス「EMC Forum 2007」では、基調講

演に登壇した米国EMCのCEOである

ジョー・トゥッチ氏が、同社の役割をこう

「時間、場所、使用する機器に依存しない情報アクセスを実現する」──EMCのトゥッチCEOが情報インフラ戦略をアピールヴイエムウェアに代表される同社の買収戦略にも自信を示す

語った。

 基調講演でトゥッチ氏は、EMCの基本

戦略である「情報インフラストラクチャ」構

想を重点的に説明した。同戦略は、現在

の情報インフラ環境を8つのテーマ(スト

レージ、可用性、セキュリティ、アーカイ

ブ化、知的情報管理、エンタープライズ・

コンテンツ管理、仮想化、リソース管理)

に分けて、EMCがテーマごとに最適化し

た製品を提供していくというものである。

トゥッチ氏によれば、「情報がどこにあって

も、ユーザーがどこにいても、時間や場所、

使用するデバイスに依存しないでセキュア

な情報へのアクセスを実現する」ことを目

指しているという。

 講演の後に行われた記者会見では、

トゥッチ氏はこの5年間でEMCが大きく成

長している点を強調。「2002年は、54億

ドルを売上げながら利益面では赤字だっ

た。しかし、2007年では14億ドルを超え

る利益を予想している」(トゥッチ氏)

 また、同社の買収戦略についてトゥッチ

氏は、「(情報インフラ戦略に基づく)8つの

技術を強化するために買収を行っている。

大手ベンダーの買収にはこだわっていな

い」と語った。今年8月にヴイエムウェアが

IPO(新規株式公開)し、それによりEMCも

多額の配当を受けているが、そのことに関

しては、「RSAセキュリティの買収当時の売

上げは4億ドル、ヴイエムウェアに関して

は買収当時の売上げが5,000万ドル程度

だった。われわれは比較的小さな会社を買

収し、それが後に有機的に結びついた結

果だ」と説明した。 (Computerworld)「EMC Forum 2007」の基調講演に登壇したEMCのCEO、ジョー・トゥッチ氏

(ID)

Page 16: Computerworld.JP Jan, 2008

Computerworld January 200822

 富士通中部システムズは10月10日、同

社の統合CRMアプリケーション・サービス

「CRMate」を、SaaS(Software as a

Service)モデルで提供すると発表した。

すでに11月より提供が開始されている。

 CRMateはコンタクト・センターなどの

カスタマー・サポート業務をはじめ、営業

スタッフのスケジュール管理や活動実績

報告などの営業業務を支援するアプリケー

ションである。顧客情報を一元管理する

機能や、顧客対応のスピードを向上させる

機能が多数備わっているのが特徴だ。また、

商談の種類などに応じ、あらかじめ営業活

動のプロセスを設定することもできる。同

社は、「営業活動のプロセスを標準化する

ことで営業担当者どうしが経験値を共有

し、組織としての対応力を向上できる」とし

ている。さらに多くの入力項目が選択式と

なっているので、利用者の入力負荷が大

幅に軽減されているという。

 今回発表されたSaaSモデルのCRMate

は、システム導入時の初期費用や設計/

環境設定が不要だ。同社は「従来の業務

システムは、顧客の個別要件に応じてシス

テム開発を行っていた。そのためシステム

導入期間の長期化や、運用/保守にコス

トがかかるという課題を抱えていた。しか

しSaaSモデルのCRMateを利用すること

で、ユーザーは初期投資をはじめ、運用コ

スト/負荷を大幅に低減できる」とその優

位性を強調する。

 価格は1ユーザー/ 1カ月当たり5,500

円で、組織規模に合わせた段階的な拡張

導入も可能だ。

 なお、オプション・サービスを追加すれば、

携帯電話からでも利用できる。NTTドコモ、

au、ソフトバンクなどの動作環境はクライ

アントOSがWindows Vista/XP/2000、

対応ブラウザは「Internet Explorer 6.0」

以上となっている。

(Computerworld)

富士通中部システムズがSaaS市場に本格参入統合CRMの「CRMate」をSaaSモデルで提供開始1ユーザー当たり月額5,500円で、システム導入時の初期費用が不要。段階的な拡張導入も可能に

マイクロソフト、次期Dynamics CRMのパートナー料金を40%値下げ担当幹部は「使った分だけ支払えばよい」とオンデマンド・モデルへの注力をアピール

「ユーザーが支払う料金は値引きされないのでは」と懸念する声も

 米国マイクロソフトは10月23日、CRM

ソフトウェアの次期バージョン「Microsoft

Dynamics CRM 4.0」(開発コード名:

Titan)のパートナーが支払うサブスクリプ

ション・ライセンス料金を40%引き下げる

と発表した。これに伴い、従来バージョン

のDynamics 3.0の価格も40%引き下げ

られる。

 Dynamics CRMは、SaaSモデルでの

提供形態にも対応したCRMソフトウェア

である。同社のCRMチャンネル戦略担当

シニア・ディレクター、マーク・コーリー氏

によれば、料金は国によって異なるという。

 パートナーが支払うライセンス料金は、

顧客先でインストールしたシート数がベー

スとなる。同社のDynamics CRMワール

ドワイド製品マーケティング担当ディレク

ター、ブライアン・ニールソン氏は、「当社

が前もってソフトウェアを提供し、パート

ナーは利用シート数に基づいて毎月支払

う。つまり、実際に使った分だけ料金が発

生する」と語る。同氏によると、シート数に

関係なく、最初に料金を支払うことをパー

トナーに要求するベンダーもあるという。

 しかし、パートナーの支払い額が40%

値下げされても、ユーザーがこれらのパー

トナーに支払う料金も相応に引き下げられ

るとは限らない。パートナーには、独自に

料金を設定する権限が与えられる。これに

対しマイクロソフトの広報担当者は、「論理

的に考えれば、パートナー側のコストが下

がった場合、顧客に請求する料金も値下

げできるはずだ」と語っている。

 マイクロソフトに加え、SAPやオラクル

といった大手ベンダーは、ここ数年のセー

ルスフォース・ドットコムの成功に刺激を

受け、ホステッド製品への投資を強化して

いる。今のところホステッドCRM分野で

のマイクロソフトの勢力は大きなものでは

ないが、「同社はほかの大手ベンダーよりも

SaaSを重視している」(オーブムPLCの主

任アナリスト、デビッド・ブラッドショー氏)

という。 (Computerworld米国版)

「CRMate」のポータルサイト。導入を検討しているユーザーは30日間の無料版を試用してみよう(http://crm.fjcl.fujitsu.com/)

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Dynamicsの詳細情報が入手できる「Dynamics Online Service」のWebページ(http://www.micro soft.com/japan/dynamics/default.mspx)

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January 2008 Computerworld 23

マイクロソフト、次期Dynamics CRMのパートナー料金を40%値下げ担当幹部は「使った分だけ支払えばよい」とオンデマンド・モデルへの注力をアピール

「ユーザーが支払う料金は値引きされないのでは」と懸念する声も

 「Storm Worm」というボットネットが10

月に1,500万通の「音声スパム」を送信した

ことが、英国のスパム対策ベンダー、メッ

セージラブズの調べで明らかになった。

 音声スパムとは、受取人が添付ファイ

ルをクリックすると、株の売り込み口上な

どの音声を再生するというものだ。今回送

信されたのは「カナダのオンライン自動車

販売会社エグジット・オンリーへの投資を

勧めるもの」がほとんどだったという。メッ

セージラブズは「大きな被害があったとは

考えにくい」との見方を示している。

 この種の詐欺は、株価の変動が激しい

投機的な低位株の価格を、偽情報によっ

て1〜2セントほどつり上げたところで売り

抜くというもの。観測筋によると、こうし

た株価操作は現在、スパマーにとって最

も儲かる手口の1つになっているという。

 今回の音声スパムは、Storm Wormに

感染したPCを介して10月17日から約36

時 間にわたって送 信された。Storm

Wormは、昨年までに1,500万台ものPC

に感染したと考えられているが、最近、感

染PCのネットワーク規模は縮小しつつあ

る。カリフォルニア大学サンディエゴ校の

研究者らは、その数を約16万台、任意の

時間にアクセス可能なものは、そのうち2

万台と見積もっている。

 なお、エグジット・オンリーは、今回の

音声スパムの送信に一切関与していないと

主張している。同社の株は、音声スパム

が送信された翌日の10月18日に約41セン

トにまで上昇したが、10月30日の終値は

20セントだった。 (IDG News Service)

特許侵害訴訟で裁判所が損害賠償額を算

定する方法を改めるという条項の2点だ。

 現在、裁判所は製品の一部が特許を侵

害している場合でも、製品全体の価値を

考慮して賠償額を算定している。特許改

革法が成立すれば、特許侵害が発生して

いる部分の価値だけを考慮して賠償額を

算定できるようになる。

 反対派の「Innovation Alliance(革新連

合)」は、特許改革法が成立すれば、多く

の特許の価値が大幅に下落すると主張し

ている。同団体に属する医療機器ベンダー、

マシモのCEO、ジョー・キアニ氏は「中国

などの国々が、わずかなコストでわれわれ

の技術をコピーし、米国に輸出することが

できるようになる」との懸念を示した。

(IDG News Service)

 米国議会で特許改革法案を巡る攻防が

激しさを増しており、連邦議会の議事堂で

は10月25日、賛成反対双方のグループが

相次いで記者会見を開いた。

 ヒューレット・パッカード(HP)、シスコ

システムズ、SAPの弁護士などが加盟す

る「Coalition for Patent Fairness(特許

の公正さを求める連合)」は、特許を持つ企

業を訴える「特許相場師」の問題を解決す

る必要があると訴えた。HPの総合弁護士

マイケル・ホルストン氏によると、今年同

社は、特許訴訟への対応に約7,500万ド

ルを支出する見通しで、その半分以上は、

特許相場師が起こしたものだという。

 特許改革法において争点となっている

のは、承認された特許に異議を申し立てる

ための新たな手段を設けるという条項と、

特許改革法案を巡って米国議会でロビー活動が過熱

「特許相場師」が問題視される一方、特許の価値下落という懸念も

株価操作をねらう「音声スパム」10月にボットネットが1,500万通を送信PDF、Excelに続くスパムの巧妙化が新局面を迎える

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最注目トピックの今を知り、ベストな導入を!

今、企業コンピューティングの世界で最も注目されているテクノロジー・トピックの1つである仮想化(Virtualization)。サーバ統合の切り札として紹介されることの多いサーバ仮想化をはじめ、早期から実用化が進んだストレージ仮想化、技術/製品の進展が著しいアプリケーション仮想化やデスクトップ仮想化といったように、ITの全領域にかかわるキー・テクノロジーとして期待されている。本特集では、構成済みソフトウェア・パッケージの新形態である仮想アプライアンス、「Viridian」「インテルTXT」

「KVM」など新世代の仮想化技術、そして、こうした“仮想化時代”の先にある自律コンピューティングなど、このトピックの最新動向を追う。

仮想化テク特集

Computerworld January 200842

アップデート

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最注目トピックの今を知り、ベストな導入を!

仮想化テク

January 2008 Computerworld 43

ノロジーアップデート

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Computerworld January 200844

仮想化テクノロジー・アップデート特集

成要素に関連するものだが、今日において仮想化技

術と言った場合には、サーバ仮想化およびストレージ

仮想化を指すことが多い。

 サーバ仮想化、ストレージ仮想化のどちらもその歴

史は古い。特に、メインフレームの世界ではおよそ30

年以上にわたり、これらの仮想化技術が活用されて

きた。オープン系システムの世界においても、仮想化

技術が製品化されてから10年以上の期間が経過して

いる。近年になり、仮想化技術への注目度が急速に

高まった理由としては、システムの処理能力上の問題

仮想化──古くて新しいテクノロジー

 仮想化技術とは、物理的なハードウェア・リソース

を抽象化した論理的(仮想的)なハードウェア・リソー

スをユーザーに対して提供することで、物理リソース

と論理リソースを疎結合化し、システムの柔軟性・俊

敏性、そして、ハードウェア・リソースの利用率を大

幅に向上させるための技術の総称である(図1)。仮想

化の考え方自体は、企業の情報システムのあらゆる構

企業の情報システムにおける仮想化技術の活用が着実に進むにしたがい、新しいテクノロジー・トレンドが出現している。本パートでは、グリーンIT、プロビジョニング、そして、自律コンピューティングという、仮想化技術を前提とした3つのトレンドについて、これらがユーザー企業にどのような価値をもたらすのか考察してみたい。

栗原 潔テックバイザージェイピー 代表

「仮想化時代」に到来する3つのテクノロジー・トレンド

グリーンIT /プロビジョニング/自律コンピューティング1

Part

論理的(仮想)リソース

抽象化(仮想化)機能

物理的リソース

ユーザー(エンドユーザー、プログラマー、オペレーターなど)

●物理的リソースと同等の挙動●より高い柔軟性●ソフトウェアによる構成変更

図1:仮想化技術の概念

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January 2008 Computerworld 45

Part 1 「仮想化時代」に到来する3つのテクノロジー・トレンド

と比較してシステムの柔軟性・俊敏性の重要性が相

対的に高まってきたこと、および、PCサーバやデス

クトップPCの世界でも安価な仮想化技術が利用可

能になってきたことが挙げられるだろう。

 本誌2007年6月号の特集「仮想化技術の価値と活

用指針」において、仮想化技術の基本について述べた。

本稿では、前回の記事では触れられなかったトレンド、

ないしは、それ以降に注目度が増してきているトレン

ドについて考察していきたい。そうした新しいトレンド

とは、「グリーンIT」「プロビジョニング」「自律コンピュー

ティング」の3つである。それでは以下、順に取り上げ

ていくことにしよう。

仮想化とグリーンITの関係

グリーンITとは グリーンITとは、環境保護の観点からIT基盤を見

直そうという活動の総称である。具体的には、データ

センターにおける機器類の電力消費量と発熱量を低

減するための取り組みにフォーカスが当てられること

が多い(注1)。 特に、非製造業企業においては、IT基盤に要する

電力が、企業が消費する電力の中でもかなりの割合

を占めており、環境保護の観点から見たグリーンIT

の重要性は高い。実際、欧米では多くのIT調査会社

がグリーンITを今後、ユーザー企業が注目すべき重

要な案件の1つとして位置づけている。また、経済産

業省も「日本政府としてグリーンITに本腰を入れて取

り組んでいく」との見解を示している(注2)。

 しかしながら、今までのところ、日本国内の一般的

なユーザー企業のIT部門におけるグリーンITに対す

る関心は今ひとつのようである。その最大の理由は、

電気料金や空調コストなどが必ずしもIT部門の予算

管理の範囲内にないということであると思われる。だ

が、グリーンITの問題は単なる経費削減というレベ

ルで語られるべき問題ではない。CSR(Corporate

Social Responsibility: 企業の社会的責任)という観

点から企業のグリーンITへの取り組みが社会的な要

請となる可能性が高まっている。つまり、単なるコス

ト削減以上の問題になるということだ。

 この種の課題への対応は、往々にして、企業の経

営層からトップダウン型で突然に現場に要請されるこ

ともある。一般企業のIT部門、そして、当然ながら

IT基盤技術を提供するベンダーも、データセンター

の電力消費量と発熱量の低減に対する注目度を今ま

で以上に高めておく必要があるだろう。また、企業に

よっては、データセンターの電力容量あるいは冷却容

量の限界により、システムの拡張が困難になっている

場合もある。この場合には、グリーンITはより差し迫っ

た課題となろう。

グリーンITの推進における仮想化技術の役割 欧米のIT業界におけるグリーンITに向けた取り組

みの1つに、グリーン・グリッド(http://www.the

greengrid.org/、画面1、注3)というコンソーシアム

注1:当然ながら、機器の製造段階におけるエネルギーの最小化、廃棄された機器の産廃処理なども、環境保護の観点からはきわめて重要であるが、本稿ではデータセンターにおける電力消費と発熱量の低減に的を絞った議論を行うこととする

注2:日本AMD主催「グリーンITシンポジウム2007」(2007年10月4日)で講演した経済産業省商務情報政策局参事官、星野岳穂氏の発言より

注3:グリーン・グリッド・コンソーシアムの「グリッド」は、グリッド・コンピューティングとは直接の関係はない

画面1:グリーン・グリッド・コンソーシアムのWebサイト (http://www.thegreengrid.org/)

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Computerworld January 200846

仮想化テクノロジー・アップデート特集

の結成がある。グリーン・グリッド・コンソーシアムは、

エネルギー効率性にすぐれたCPUやサーバ、ネット

ワークその他の技術の開発を推進し、データセンター

運用のベスト・プラクティスを普及させることを目的と

した組織として、2007年2月に発足した。現在、同コ

ンソーシアムには多数のベンダー、SIer、データセン

ター施設関連企業が参加している(注4)。

 ここで注目したいのが、同コンソーシアムのボード・

メンバーとして、CPUベンダーのAMD、インテルや、

システム・ベンダーのヒューレット・パッカード(HP)、

IBM、サン・マイクロシステムズ、デルなどという当然

に想定されるベンダーに加えて、ヴイエムウェアが含

まれている点だ。なぜ、仮想化技術の専業ベンダー

である同社がグリーンITに強いコミットメントを行っ

ているのか。それは、仮想化技術がデータセンターの

電力消費量と発熱量を低減するうえで、きわめて有

効なアプローチであることが理由であろう。

 大型サーバの電力消費量は、絶対値で見れば小

型サーバと比較してはるかに大きく、電力効率が悪い

ように見える。しかし、仮想化技術を活用して大型サー

バにワークロードの集約を行うことは、処理能力と相

対的に見た電力消費と発熱量の最小化という点では

最も有効な戦略の1つである。

 具体的な例で見てみよう。図2に示すように、利用

率が低い小型サーバ群に対してサーバ仮想化技術を

適切に活用して大型サーバ1台へのサーバ統合を行

うことで、電力消費量の合計をおよそ5分の1に低減

可能という試算が成り立つ(注5)。その際には、必然

的に発熱量も同程度に低減できるだろう。

 もちろん、データセンターの個別の機器において省

電力型の製品を採用することは重要である。しかし、

それだけでは、この試算にあるような5分の1という大

幅なレベルの電力量カットを実現することはできない。

CPU、ハードディスク、電源、冷却ファンなどの構成

要素は休眠状態にあっても一定の電力を消費し、熱

を発している。ゆえに、機器の利用率が低い状態で

いることは、グリーンITという観点からは望ましくない。

意外に感じられるかもしれないが、「大型サーバ+仮

想化技術」は、“地球にやさしい”システム形態なので

ある。

 例えて言うなら、仮に低燃費/電力駆動対応のエ

コ・カーが普及したとしても、だれもが1台につき1人

しか乗車しないような状態(つまり、リソース利用率が

低い状態)ではエネルギー効率は高くない。最もエネ

ルギー効率が高いのは、100%に近い乗車率の公共

交通機関を利用することである。公共交通機関1台と

注4:残念ながら、本講執筆時点(2007年10月)では、日本のベンダーの参加はないようである

注5:この試算は、実在の製品のスペックの概算値を使用した理論値であり、実際の環境の測定値ではない点に注意していただきたい

*現実の事例とおおよその仕様に基づいた試算値であり、実際の数値ではないことに注意されたい

小型サーバ360台を

大型サーバ1台に集約可能

小型サーバ電力消費量 300W

処理能力指数 1

プロセッサ使用率 15%

大型サーバ(+仮想化)電力消費量 20,000W

処理能力指数 60

プロセッサ使用率 90%

電力消費量:300W×360台=108,000W 電力消費量:20,000W

電力消費量がおよそ5分の1に

図2:仮想化技術によるサーバ統合時の電力消費量低減効果(試算)

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January 2008 Computerworld 47

Part 1 「仮想化時代」に到来する3つのテクノロジー・トレンド

エコ・カー 1台を比較すれば、エコ・カーのほうが環

境にやさしいかもしれないが、利用率が低いままでは

十分な効果が上げられないということだ。

 一般に、仮想化技術の採用によるメリットとして

ハードウェア・リソースの利用率向上が挙げられるこ

とが多い。そして、これに対する反論として、「ハード

ウェアは十分安価であり、これらからも価格低下が進

行していくのであるから、利用率を上げる苦労などせ

ず、どんどん購入してしまえばよい」という意見が聞か

れることがある。これは、確かにハードウェアのコスト

だけを考えれば正論かもしれないが、上述したとおり、

グリーンITという観点からは適切な考え方とは言えな

い。さらに、システム管理のための人件費や設置スペー

スも含めたTCO(総所有コスト)も考慮すれば、利用

率の低いサーバやストレージが乱立する状況は決して

望ましいとは言えない。解決策としてのサーバ統合と

仮想化技術の採用を検討すべきだろう。

プロビジョニングがもたらす価値

プロビジョニングとは 仮想化の延長線上にある重要なテクノロジーにプ

ロビジョニングがある。ただし、IT業界においてプロ

ビジョニングという用語の定義は、かなりの期間にわ

たって安定していなかった。この用語が登場した当初

は、通信事業者においてネットワーク関連設備を事

前に用意しておき、顧客の回線開設の要求に迅速に

対応できるようにすることを意味していた。また、「収

容設計」という訳語が当てられることもあるが、英語

の「provision」のもともとの意味として「備蓄する」とい

うものがあり、それに由来する用法と考えられる。

 しかし、時の経過とともに、メインの意味は「準備」

ではなく「提供」に変わっていったようだ。今日のIT業

界において、プロビジョニングと言えば、ほとんどの

場合、リソースの動的な割り当てという意味で使われ

ている。「ダイナミック・アロケーション」という用語の

ほうがなじみのある方も多いかもしれない。

 また、プロビジョニングという用語が使われるとき

には、単なるリソースの動的な割り当てに加えて、関

連作業も同時に行われるというワンストップ性が提供

されるケースが多い。例えば、サーバの世界では、サー

バのハードウェア・リソース(CPU、メモリ)の割り当

てと併せて、OSなど関連ソフトウェアの導入設定作

業も同時に行い、ユーザーが直ちに利用可能な状態

にする機能をサーバ・プロビジョニングと呼ぶことが

多い。

 なお、仮想化技術を採用せずにプロビジョニング

を行うことも原理的には可能である。物理的サーバ(あ

るいは、ブレード・サーバにおけるブレード)を未使用

状態で備蓄しておき、ユーザーの要求に応じて立ち

上げ、利用可能にする場合もプロビジョニングと呼ぶ

ことができよう。とはいえ、仮想化技術による物理リ

ソースと論理リソースの疎結合化が実現されて初め

て、プロビジョニングは、柔軟性・俊敏性の面での価

値を発揮できるようになる。その意味で仮想化技術と

プロビジョニングは表裏一体の関係にある。

ストレージのシン・プロビジョニング プロビジョニング関連で最近、注目度が高まってい

る技術の1つ、シン・プロビジョニング(Thin Pro

visioning)について、ここで紹介しておこう。

 シン・プロビジョニングとは、ストレージのプロビジョ

ニングにおいて、より細かい単位でのプロビジョニン

グを行い、ストレージ・リソースの利用率を大きく向上

させるための手法である。この分野では、3PARがパ

イオニア的存在にあるが、日立製作所(および、同社

のOEMパートナーであるHPとサン)、EMCなどの大

手ストレージ・ベンダーも、シン・プロビジョニング機

能を備えるストレージ製品の提供を開始している。

 ストレージの世界において従来型のプロビジョニン

グを行う際に典型的に見られる問題の1つが、「オー

バープロビジョニング」である。つまり、業務アプリケー

ションの運用管理担当スタッフがITインフラ運用管理

担当スタッフに対して、必要以上に余裕を持ったスト

レージ容量を要求してしまうために、全体として(割り

当てはされているが)利用されていないストレージ容量

が大量に発生し、ハードウェア・リソースの利用率向

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Computerworld January 200848

仮想化テクノロジー・アップデート特集

上という仮想化技術の本来のメリットを相殺している

状況である。

 従来型のプロビジョニングだけでは、物理容量に

対する割り当て済み容量の割合という数値で見た利

用率を上げることはできても、物理容量に対する実際

の利用容量の割合という数値で見た利用率は必ずし

も向上できないことがある。シン・プロビジョニングは、

このような問題を解決するものだ。

ジャストインタイム型の購買を実現 図3に、シン・プロビジョニングの仕組みと効果を

示した。

 シン・プロビジョニングでは、要求に対してストレー

ジ容量の割り当てを行う際に要求されたスペースをす

べて物理的に割り当てず、その一部だけを割り当てる。

残りの容量の物理的割り当ては、実際にアプリケー

ションがストレージ容量を使用した時(最初の書き込

みが行われた時)に初めて行うのである。つまり、使

われていない部分に対して物理的な割り当てが行わ

れることがない。これにより、真の意味でのストレージ・

リソース利用率を高めることができる。各アプリケー

ションの追加ストレージの要求に迅速にこたえるため

に、ある程度の共通バッファ容量は用意しておく必要

があるが、ストレージ・ハードウェアの購入、あるいは

オフラインになっていたストレージのオンライン化を、

本当に必要になるタイミングまで先延ばしにすること

が可能になる。

 価格が継続的に低下していくことが確実なストレー

ジ・ハードウェアの購入を早め早めに行うことの必然

性は低い。ストレージの購入は、必要な時に必要な

容量だけを確保するジャストインタイム型の購買が基

本だ。シン・プロビジョニングにより、これに近い購

入のタイミングが実現できる。また、リソースの利用

率が高いということは、前節で行った説明と同様に、

グリーンITにも貢献する。アプリケーションに割り当

てられているだけで実際には使われていないディスク

が無駄な電力を消費したり、熱を発生したりすること

が抑制されるからである。

 実のところ、シン・プロビジョニングの考え方は、

メインフレームにおけるストレージ割り当ての手法に

類似している。メインフレームの世界ではジョブ(プロ

セス)がストレージ・リソースを要求するときには、一

度にすべての容量を要求するのではなく、初期容量

と段階的な追加容量(エクステント)を指定して要求す

ることが可能である。そして、ジョブが実際に追加ス

トレージ容量を必要とするまでは追加の割り当ては行

われない。このような仕組みは、ストレージが比較的

高価であった時代において最大限のリソース利用率

を達成することを目的としていたわけだが、同様の仕

組みが今日においても価値を発揮していることは興味

従来型プロビジョニング

A

B

C

100GB300GB

150GB

400GB

50GB200GB

実質利用率= =33%100+50+150300+200+400

シン・プロビジョニング

C150GB

50GB

100GB

100GB

実質利用率= =75%100+50+150100+100+50+150

A

バッファ

B

アプリケーションAが300GBを要求(実際の使用は100GB)

アプリケーションBが200GBを要求(実際の使用は50GB)

アプリケーションCが400GBを要求(実際の使用は150GB)

図3:シン・プロビジョニングの概念と効果

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January 2008 Computerworld 49

Part 1 「仮想化時代」に到来する3つのテクノロジー・トレンド

深い。

 なお、シン・プロビジョニングの実装形態によっては、

副次的効果としてストレージ・システムの性能向上が

得られることがある。シン・プロビジョニングを実現す

るためには、ストレージ容量を細かい単位(チャンク)

で管理する必要がある。そして、論理的(仮想的)に

は連続して見えるストレージ領域が、物理的には多数

のドライブに分散したチャンクから構成されることにな

る(ワイド・ストライピングと呼ばれる、注6)。この結果、

データ・アクセスを複数のドライブに対して同時並行

的に行うことができるようになり、性能を向上できる

可能性があるのだ。

シン・プロビジョニングの考慮点 シン・プロビジョニングは、仮想化技術の特徴を十

分に活用した将来有望なテクノロジーと言えるが、も

ちろん考慮すべき課題はある。

 第一に、ストレージ容量不足のリスクがある。シン・

プロビジョニングのポイントは、実際に使用されてい

る容量だけを割り当て、各アプリケーションで共通の

バッファ領域を用意することで全体的なリソース利用

率を向上させる点にある。しかし、ほとんどのアプリ

ケーションが同時に追加のストレージ容量を大量に要

求した場合には、バッファ領域が不足し、物理的な

ストレージ容量が不足してしまうリスクがある。スト

レージ管理者は従来型プロビジョニングの場合より

も、念入りなSRM(Storage ResourceManagement:

ストレージ・リソース管理)を行う必要があるだろう。

通常は、ストレージ製品を提供するベンダーが適切な

SRMツールや容量不足を事前に通知するためのア

ラート機能を提供している。

 また、前述のとおり、ストレージ領域は、実際には

不連続な形で多数のドライブに分散している。このこ

とは、アクセスの並列性向上による性能向上の可能

性ももたらすと同時に、特定のドライブにアクセスが

集中する“ホットスポット”の発生による性能劣化も発

生させてしまうリスクがあることを意味する。よって、

このような状況を回避するためのチューニング作業が

通常より複雑になる可能性がある。

再び訪れる自律コンピューティングの波

自律コンピューティングとは 仮想化技術やプロビジョニングが情報システムにも

たらす価値は明確だが、これらが脚光を浴び、普及

が進んでいくことで、さらに“その先”のテクノロジーが、

以前より具体性を帯びた形で見え始めている。それは、

自律コンピューティングである。

 自律コンピューティングは、システム自体がみずか

らの構成管理やチューニングを行い、自動的に障害

から復旧できるようにすることで、システム運用管理

にかかる負担を大幅に軽減し、柔軟性・俊敏性を飛

躍的に向上させるための技術/手法の総称である。

本誌の読者であれば、5年ほど前に、ほとんどのシス

テム・ベンダーが自律コンピューティングのビジョンを

提唱していたのを記憶している方も少なくないだろう。

 自律コンピューティングの構成要素をおおまかに図

示すると、図4のようになる。言うまでもないが、物

理リソースの制御(設置や導入作業)は人手の介在を

要するが、仮想リソースの制御はソフトウェアのみで

実現することができる。ゆえに、自律コンピューティ

注6:図3では、このようなワイド・ストライピングの仕組みを描写できていないが、作図の都合上、ご容赦いただきたい

プロビジョニング機能

自己修復機能

自己チューニング機能

仮想化機能

物理的リソース

図4:自律コンピューティングの構成要素

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Computerworld January 200850

仮想化テクノロジー・アップデート特集

ングを実現するためには、仮想化技術が全面的に採

用されていることが大前提となる。

時代のニーズに伴って重要性が増す自律化 今後、望むと望まざるとにかかわらず、情報システ

ムの複雑性は必然的に増大していく。どこかのタイミ

ングで、人海戦術だけに頼ったシステム運用管理が

限界を迎える可能性が高い。そのときに、自律コン

ピューティングの採用は、ユーザー企業にとって(お

よび、ITベンダーにとって)重要な差別化要素になる

だろう。現在、システム・ベンダーは、マーケティング・

メッセージとして自律コンピューティングをかつてほど

喧伝していない。しかし、これは自律コンピューティ

ングが相当に長期的なレンジで考えるべき戦略的案

件であり、短期的なメリットを求める顧客企業にとっ

てのアピール度が低いというマーケティング的な判断

によるものであり、このテクノロジーの長期的な重要

性が減少したということではないと見ることができる。

 図5に、IT基盤に求められる要件の変化を示した。

今後、情報システムが備えるべき重要要件は柔軟性

と俊敏性へシフトしていくと見られる。システムの複

雑性がより増していく中で、この目的を果たすために

は人手に頼った運用管理では十分ではないのは明ら

かだ。

 なお、自律コンピューティングを、実用化はまだま

だ先の非現実的なテクノロジーであるとの印象を持つ

方もいるかもしれないが、その基本的な技術はすでに

広範に利用されている。

 仮想化とプロビジョニングについては今までに説明

したとおりだ。自己修復機能については、クラスタリ

ングやディザスタ・リカバリの分野ですでに実用化さ

れている。自己チューニング機能については、OSの

ワークロード管理機能がこれに相当する。ワークロー

ド管理とは、OS下で稼働する多数のプロセスの性能

とリソースの使用状況を常にモニタし、総合的に最善

のパフォーマンスを提供するためにリソースの割り当

ての優先順位を動的に変更していくための機能であ

る。ワークロード管理により、例えば、特定のプロセ

スがシステムのリソースを使い切り、他のプロセスが

ほとんど稼働しなくなってしまうというような状況(ス

ターべーションと呼ばれる)を防ぎながら、高いスルー

プットを実現できる。

 メインフレームの世界においては、ワークロード管理

機能が古くからOSの組み込み機能として利用されて

いるが、オープン系システムの世界においてもワーク

ロード管理機能の普及が進み、ベンダー間の差別化

要素の1つになっている。今後、自律コンピューティン

グの本格的な普及に必要なブレークスルーは、これら

のワークロード管理的な機能を特定のマシンや特定の

ベンダーの閉じた世界ではなく、複数の多様なシステ

ムをまたがったオープンな世界で実現することである。

自律コンピューティングがもたらす次世代データセンター・ビジョン

 本稿の締めくくりとして、自律コンピューティング

1970年代 1980年代 1990年代 2000年代

変化への対応柔軟性と俊敏性を備えたい

実装スピード:できるだけ早く実装したい

コスト: できるだけ安く実装したい

性能: 人手の処理をできるだけ速く実行したい

図5:IT基盤に求められる要件の変化

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January 2008 Computerworld 51

Part 1 「仮想化時代」に到来する3つのテクノロジー・トレンド

に関するビジョンと製品体系において網羅性が高いと

思われるHPの基盤戦略を例に挙げ、これからの自律

コンピューティングが具体的にもたらすであろう次世

代データセンターの姿について考察してみたい。

 HPのIT基盤の基本戦略は、「アダプティブ・インフ

ラストラクチャ」(変化適応型IT基盤。以下、AI)と呼

ばれている。過去5年間において、HPではCEOを含

む主要経営陣の交代があり、IT基盤ビジネスへの再

フォーカスなど多くの戦略的変化があったが、AIへの

フォーカスは変わっていない。これは、同社が自律コ

ンピューティングという言葉こそ直接的には使ってい

ないものの、それを長期的に重要な基盤戦略と見な

していることの表れだろう(注7)。

 AIに基づくHPの次世代データセンター(NGDC)の

ビジョンにおいて顕著な特性の1つは、「24×7 Lights

Out」の運用にある。“24×7”は、言うまでもなく日24時

間、週7日間を無停止で稼働するということを指す。

“Lights Out”とは、電灯を消したままの運用、つまり、

人手を介さない運用を行うということだ。こうした理

想の実現のために、IT基盤の構成要素を標準化・仮

想化・自動化することで、あたかも製造業におけるサ

プライチェーンのようなイメージで、ビジネス部門に対

してITサービスを提供する環境の構築を目指すという

のが、HPのNGDCビジョンの中心にある(図6)。

 もちろん、このようなビジョンは理想的なものであり、

実現には長期間を要する。一般的な企業のIT部門に

おいては、IT基盤の構成要素を完全に標準化するだ

けでも相当に困難な課題となろう。しかし、理想の実

現は不可能であっても、理想につながるベクトルを理

解しておくことは重要だ。現時点では、そのようなベク

トルに向かうための最初のステップの要素として仮想

化技術があるということを認識しておくべきであろう。

 以上、グリーンIT、プロビジョニング、そして、自

律コンピューティングという3つのトレンドについて見

てきた。これらはすべて仮想化技術を基盤として、ユー

ザー企業に新しい価値を提供するテクノロジーであ

り、CIOやITマネジャーは、仮想化技術の価値を大

局的かつ長期的な視点からとらえるべきだ。単に1台

のサーバで複数のOSイメージを稼働するための技術、

あるいは、複数のストレージを集約するための手法と

考えていたのでは、のちのち重要な機会を見失うこと

になるだろう。

*資料 : ヒューレット・パッカード

ビジネス部門

サービスの発注 サービスの提供ビジネス・ユーザーに対する標準ITサービスの提供

共用されたIT構成要素の定義済み構成

アプリケーション・サービス

情報サービス

基盤サービス

コントロール室

自動化されたITプロセスによる管理

データセンター

構成 発注 プロビジョニング 監視 変更

図6:HPの次世代データセンター・ビジョン

注7:AIの上位レイヤであったアダプティブ・エンタープライズのビジョンは改訂され、BTO(BusinessTechnologyOptimization)とBIO(BusinessInformationOptimization)という構成要素が加えられている

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Computerworld January 200852

仮想化テクノロジー・アップデート特集

「イメージ・バックアップ」がよく使われるようになって

いるが、仮想マシンが読み込む仮想HDDは、こうした

イメージ・バックアップとほぼ同様のものだと考えれば

わかりやすいだろう。

 こうして作られた仮想HDDは、システムが動作す

るために必要なファイルをすべてまとめたものであり、

完全なシステム・イメージになっている。仮想化ソフト

ウェアを利用して1つの物理コンピュータ上に複数の

仮想マシンを動作させる場合、このファイルを必要な

だけ用意して仮想マシンに読み込ませればよいのであ

る。システム起動用のHDDを複数用意しておき、必

要に応じてHDDを交換し、複数のシステム・イメージ

を物理コンピュータ上で切り替えて利用することも可

能だが、仮想化ソフトウェアを利用すれば、複数のシ

ステム・イメージを同時に実行することで、1台の物理

コンピュータ上に複数の仮想マシンを並列的に動作

させることができるようになる。

 さて、ここでもう1つ仮想HDDのメリットを挙げたい。

それは、仮想HDDに書き込まれたシステム・イメージ

は、物理的なハードウェア構成に依存していない点だ。

実際にシステム・イメージが記録されたHDDを交換し

た経験があるユーザーならわかると思うが、システム・

イメージを作成した時点でのハードウェア構成と異な

るコンピュータに接続して起動しようとすると、最悪

仮想アプライアンスとは何か

 「VMware」など仮想化ソフトウェアを実際に利用し

ているユーザーであればよくおわかりのことと思うが、

仮想化されたシステム環境は、ホストOSからは単一

のファイルとして見える。仮想アプライアンスの根本

的なアイデアは、端的に言えば、このファイルをソフ

トウェアの配布手段として利用するというものだ。

 もう少し詳細に説明してみよう。物理的なコン

ピュータ上に仮想化ソフトウェアをインストールする

と、仮想化ソフトウェアは新たに仮想マシン(Virtual

Machine)を作り出す。仮想マシンは、ユーザーから

見ればOSすらインストールされていない裸のハード

ウェアに見え、この上にOSをインストールし、さらに

必要なアプリケーションなどをインストールすることで

ソフトウェア環境を作り上げる。それにより、実運用

可能な仮想システムを構成することになる。

 ここでインストールされるOSやソフトウェアは、仮想

マシンから読み出し可能な仮想的なハードディスク・ド

ライブ(HDD)上に書き込まれることになる。この仮想

ストレージは、実体としてはホストOSのファイルシステ

ム上に作られるファイルである。最近のバックアップ・

ソフトウェアでは、HDDのイメージを丸ごとコピーする

仮想化ソフトウェアを導入し、仮想マシン上で各種アプリケーションを稼働させるとなると、セッティングにそれ相応の手間がかかってしまう。そこで注目を集め出したのが仮想アプライアンスである。仮想アプライアンスは、OSを含む動作環境のセットアップを事前に済ませた状態で配布されるため、ユーザーはファイルをダウンロードし、インストールするだけで仮想インフラ上でアプリケーションを即座に実行できる。本パートでは、仮想アプライアンスの基本やメリットを押さえるとともに、その最新動向も併せて解説していく。

渡邉利和

注目の「仮想アプライアンス」がもたらすメリット

仮想化環境で即座に実行できるアプリケーションの新配布モデル2

Part

Page 29: Computerworld.JP Jan, 2008

January 2008 Computerworld 53

Part 2 注目の「仮想アプライアンス」がもたらすメリット

の場合システムの起動が不可能になる。変更個所が

ごく軽微な場合は、デバイス・ドライバの更新などで

運用可能な状態にまでもっていけるが、作業には手

間を要する。

 仮想化ソフトウェアの利用を前提に作成した仮想

HDDのシステム・イメージは、仮想マシンの構成に対

応してデバイス・ドライバなどを組み込んでいるため、

仮想マシンの構成が同じであれば、実際のハードウェ

アに搭載されているデバイスとは関係しない。つまり、

仮想HDDのシステム・イメージは、同じ仮想化ソフト

ウェアがインストールされ、かつ同じ構成の仮想マシ

ンが動作している環境であれば、どの環境に移行し

てもそのまま動作することが期待できる。仮想HDD

によるシステム・イメージは可搬性が高く、どのような

物理コンピュータでも同じように動作すると言えるの

である。

 この特性は、ユーザー・レベルで活用することも当

然できる。システムを仮想インフラ上に構築しておき、

その仮想HDDファイルをコピーしておけば、ハード

ウェア障害などで運用継続が不可能になった場合に、

別のハードウェア上で同じシステム・イメージを起動

することができる。通常、こうしたバックアップ・シス

テムでは本番環境と同じ構成の予備ハードウェアを

用意する必要があり、コスト面での負担が大きかった

のだが、仮想化ソフトウェアを利用することにより、

予備のハードウェア構成を厳密に一致させる必要が

なくなるという大きなメリットが得られる。この場合は、

ユーザーが自分で構成した仮想HDDを他のマシンで

転用するという使い方だ。

 仮想アプライアンスは、異なる物理コンピュータで

作成された仮想HDDのシステム・イメージを、より広

い環境に向けて提供するものだ。単純に言ってしまえ

ば、ソフトウェアの配布手段として、仮想HDDのシ

ステム・イメージを利用するということになる。

仮想アプライアンスのメリット

 仮想HDDのシステム・イメージを仮想アプライアン

スとして配布することには、どのようなメリットがある

のだろうか。

 まずは、逆にデメリットから考えてみると、配布サ

イズが大きくなることが挙げられる。特にアプリケー

ションの場合に顕著になるが、これはアプリケーショ

ンのみでなく、OSも含めたシステムの起動イメージ全

体を配布することになるためだ。OS自体を配布する

ような場合には問題にならないが、アプリケーション

の配布が目的の場合は、ファイル転送に要する時間

が長くなるというデメリットが生じる。

 一方、メリットは、ファイルを入手したユーザーに

とってインストールも実行もきわめて容易であるという

点だ。このメリットがファイル・サイズの増大というデ

メリットを補って余りあると考えられているからこそ、

仮想アプライアンスが普及し始めているのだとも言え

る。その背景として、ブロードバンド接続の普及によ

るユーザー・レベルでのインターネット接続帯域の拡

大も重要な意味を持っているだろう。

 ソフトウェア単体で入手した場合、プラットフォー

ムとなるOS上にインストールし、稼働環境を整えると

いう作業が必要になる。ソフトウェアによっては、OS

側の設定をアプリケーションに合わせて最適化するな

ど、ある程度の技術力を要することもある。Windows

の場合はレジストリに新たなエントリが追加されたり、

既存のエントリの内容が変更されたりすることもあり、

こうした積み重ねによって、アプリケーションのインス

トール/削除を何度も繰り返すとシステムが不安定に

なると考えているユーザーも多い。テストにしか利用

しないマシンを日常作業用のマシンとは別に用意して

いるユーザーであれば問題ないが、そうでないユー

ザーにとっては、日常使用しているマシンの安定性が

損なわれたり、場合によっては起動しなくなったりす

るなどのトラブルにつながるリスクもあるため、「ソフト

ウェアを追加でインストールして試してみる」という作

業は、手間もさることながら心理的にも抵抗感のある

作業だと言える。

 仮想アプライアンスのインストールは、ホストOSか

ら見れば、単にデータ・ファイルを1つコピーするだけ

の作業である。当然だが、ホストOSの環境設定を変

注目の「仮想アプライアンス」がもたらすメリット

Page 30: Computerworld.JP Jan, 2008

Computerworld January 200854

仮想化テクノロジー・アップデート特集

更する必要もない。さらに、仮想アプライアンスでは、

ファイルの提供側があらかじめOS環境まで含めてシ

ステム環境を最適化しておくこともできるので、ユー

ザー側で何も設定しなくとも、すぐにシステムを稼働

することが可能だ。あたかも家庭用ゲーム機にカート

リッジやディスクをセットするような感覚で、PC上に

新たなシステム環境を導入し、動作させることができ

るのである。インストールの際にホストOS側の環境を

一切変更しないため、不要になった場合にもアンイン

ストールなどの作業は不要で、ファイルシステム上に

コピーした仮想HDDファイルを単に削除するだけで

済む。既存の環境に与えるインパクトの小ささは、仮

想アプライアンスの大きなメリットとなっている。

 ソフトウェア配布側の視点では、サポートの負担が

大幅に軽減されることも見逃せないだろう。パッケー

ジ・ソフトウェアのサポートでも、インストールに関す

るトラブルへの対応は大きな比重を占めている。イン

ストールがうまくいかないという状況は珍しくはないの

だが、仮想アプライアンスでは、ソフトウェア配布側

があらかじめOSを含む動作環境のセットアップを済

ませ、確実に動作する状態で配布できるため、インス

トールに伴うトラブル発生の可能性を事実上ゼロにで

きる。そもそも仮想アプライアンスでは、物理的なデ

バイス構成の違いを仮想化ソフトウェアが吸収してく

れるため、インストールの際に想定すべき環境は標準

的な仮想マシン環境の1種類だけで済むわけだ。この

ことがインストールを容易にしている面も無視できな

いだろう。

仮想アプライアンスの流通

 仮想アプライアンスは、技術的な視点で見れば、

ユーザーが作成する仮想システム・イメージと何ら違

いはない。では、何をもって仮想アプライアンスと呼

ぶのだろうか。もちろん厳密な定義があるわけではな

いが、公式な流通チャネルが存在することが、仮想

アプライアンスと個人的に作成したファイルの自主的

な交換とを区別するポイントと見ることができるので

はないだろうか。

 仮想アプライアンスに関する取り組みで先行してい

るヴイエムウェアの場合、「Virtual Appliance

Marketplace」と呼ばれる仮想アプライアンスのダウ

ンロード・サイトを運営している(http://www.vm

ware.com/appliances/marketplace.html、画面1)。もっとも、これはヴイエムウェアのビジネスというわけ

ではなく、あくまでも公式な入手先となるサイトを“場”

として提供しているというスタンスだ。実際の仮想ア

プライアンスは、ソフトウェア・ベンダーなどが自発的

に作成し、提供している。ダウンロードに際してユー

ザー登録を求めるものや、有償配布のものなど、さま

ざまな配布形態となっている点も、ヴイエムウェアが

ビジネスとして厳格に運用しているわけではないこと

を反映していると言えるだろう。

 ヴイエムウェアによれば、仮想アプライアンスの登

録数はすでに600を超えており、内容も評価版から製

品版までさまざまだという。ジャンルも傾向も多岐に

わたり、およそあらゆる種類のソフトウェアが集積さ

れつつあるという状況のようだ。ダウンロード数の多

いものを見てみると、Linuxディストリビューションが

画面1:ヴイエムウェアが運営する仮想アプライアンスのダウンロード・サイト「Virtual Appliance Marketplace」

Page 31: Computerworld.JP Jan, 2008

January 2008 Computerworld 55

Part 2 注目の「仮想アプライアンス」がもたらすメリット

上位を占めているのだが、マイクロソフトが提供して

いる「Windows Server 2003 R2 Enterprise Edi

tion Virtual Appliance」も5位以内に食い込んでい

るのが興味深い(筆者が見たタイミングでの話だが)。

その気になりさえすれば既存の環境にインストールし

て試すことができるアプリケーションよりも、やはり既

存の環境を劇的に変革してしまうOSのほうが、仮想

アプライアンスとして試すには人気があるということだ

ろうか。また、マイクロソフトがWindows Serverを

提供していることからもわかるとおり、ヴイエムウェア

のVirtual Appliance Marketplaceは、ソフトウェア

の試用版配布チャネルとしては完全に認知された存

在だと見てよさそうだ。

 なお、ヴイエムウェアが全ファイルのダウンロード

を管理しているわけではないため、厳密な数ではない

ようだが、2006年8月末から現在までの1年少々の間に、

80万件以上の仮想アプライアンスがダウンロードされ

ているという数字もある。

 最近では、個人レベルで利用するクライアントPC

でもマルチコア・プロセッサを搭載することが珍しくな

くなってきている。マルチコア・プロセッサでは、複数

のプロセスを同時に実行する際の効率が向上する一

方、単一プロセスの実行では複数コアを活用できず、

目立った性能向上が体感できないことになる。それを

考え合わせれば、クライアントPCでも仮想化ソフトウェ

アを活用することで、ともすれば余剰となりかねない

マルチコア・プロセッサの処理能力を有効活用する道

が開けることになる。ユーザーが使用しているPCの

OSを入れ替えるとなるとおおごとだが、仮想アプライ

アンスとしてゲストOSを実行するのはごく簡単なこと

だ。さらに、マルチコア・プロセッサによって目立った

性能劣化もなしに複数のシステム・イメージを同時に

稼働できるようになれば、PCの利用スタイルが大きく

変化する可能性もある。そうした点からも、仮想アプ

ライアンスが広く流通し、ユーザーにとっても利用し

やすい環境が整うことの意味は大きいだろう。

 なお、Virtual Appliance Marketplaceが英語サ

イトのみである点からもうかがえるとおり、現時点では

日本のソフトウェア・ベンダーから仮想アプライアンス

の登録はないという。その点もあって、日本市場での

認知はまださほど高くないと言わざるをえないが、今

後、仮想アプライアンスがソフトウェアの配布手段と

して無視できない重要な存在になることは間違いない

だろう。

仮想アプライアンスの最新動向

業界標準フォーマット「OVF」の登場 仮想アプライアンスに関しては、ソフトウェアの標

準的な配布手段の1つとして積極的に活用していこう

という動きが見られる。この場合、問題になるのは、

仮想アプライアンスが本質的には仮想化ソフトウェア

が独自に作成した仮想HDDのイメージ・ファイルであ

ることだ。当然だが、仮想化ソフトウェアが異なれば

ファイルの形式も異なり、直接的な互換性はない。こ

のため、仮想アプライアンスに関しても、仮想化ソフ

トウェアごとに仮想HDDのイメージ・ファイルとして

用意する必要がある。

 これは当然のことでもあるのだが、やはり仮想アプ

ライアンスを提供する側からみれば、この点は煩雑で

面倒である。ユーザーにとっても、自分がインストー

ルした仮想化ソフトウェアに対応するアプライアンス

かどうかを意識しなくてはならないのは面倒だろう。

 この点を意識してか、「DMTF(Distributed Mana

gement Task Force)」は2007年9月10日、デル、ヒュー

レット・パッカード(HP)、IBM、マイクロソフト、ヴイ

エムウェア、ゼンソースの6社から提案されたOVF

(Open Virtual Machine Format)のドラフト仕様を

受け入れたと発表した。主要PCベンダーおよびx86

プラットフォーム上で仮想化技術を提供する主要ベ

ンダーが一丸となって、業界標準フォーマットの確立

に取り組んだ形だ。

 OVFは、各社の仮想HDDイメージ・ファイルを同

一にしようというものではなく、あくまでも仮想マシン

のパッケージングと配布のためのフォーマットである。

端的に表現してしまえば、OVFは仮想アプライアン

スのためのフォーマットだと言ってしまってもよいだろ

Page 32: Computerworld.JP Jan, 2008

Computerworld January 200856

仮想化テクノロジー・アップデート特集

う。x86環境では主要な仮想化ソフトウェアの開発元

であるマイクロソフト、ヴイエムウェア、ゼンソースの

3社が参加しているため、まだドラフトの段階ではある

が、現時点では事実上、業界標準として確立するの

は約束されたようなものだと考えられる。正式な仕様

が固まれば、その後は各社の仮想化ソフトウェアが、

OVF形式でのファイルの読み書きをサポートすること

になるだろう。そうなれば、ユーザーはOVFで配布さ

れた仮想アプライアンスを、自分が使用している仮想

化ソフトウェア上で自由に実行できるようになる。

 OVFは、各社の仮想化ソフトウェア上に仮想アプ

ライアンスをインストールするために必要な情報を付

加した、配布パッケージ作成用のメタフォーマットだ

と位置づけられる。これが標準として確立しても、仮

想化ソフトウェア間の競争には特に影響を与えず、ベ

ンダー間の競争に関してはニュートラルな標準として

利用されることになると期待できる。そのため、仮想

アプライアンスの普及を促す環境の整備に貢献する

と考えられる。

仮想アプライアンス専用の軽量OS「JeOS」 このほか興味深い動向としては、仮想化ソフトウェ

ア上で実行することを前提に、OS自体の軽量化を図

る動きがある。ヴイエムウェアではこれをJeOS(Just

enough OS、“Juice”と発音)と呼んでいる。

 JeOSは、具体的なOSのインプリメンテーションとい

うよりは、概念的な存在と位置づけられている。実際

ヴイエムウェアは、JeOSの具体例として、BEAが開発・

配布しているJavaアプリケーションのためのプラット

フォーム「BEA Liquid VM」や、マイクロソフトが

Windows Server 2008で導入する「Server Core」

をJeOSの例として挙げている。このほか、ヴイエムウェ

ア自身も、Debian GNU/Linuxをベースに、必要な

モジュールだけを組み合わせてサイズを20MB程度に

抑えたOS環境を「VMware ACE 2」で使用している

という。

 現在のOSは、膨大なユーザーランド・アプリケーショ

ンに加え、さまざまなハードウェア構成に対応するた

めのドライバやユーティリティを含んでいる。そもそも

OSは、ハードウェアを抽象化し、アプリケーションに

対する一貫したインタフェースの提供を根本的な目的

としているのだが、仮想化ソフトウェアの利用を前提

とするなら、その上で動作するOSがさらにハードウェ

アを抽象化するのは無駄であると言える。ハードウェ

アの抽象化の部分は仮想化ソフトウェアに任せ、OS

はアプリケーションの実行環境としての機能やユー

ザー・インタフェースの実装に専念すれば、無駄なオー

バーヘッドを減らすことができるし、OSのサイズを小

さくすることで仮想アプライアンスのサイズの肥大化

を避けることにもつながる。

 ヴイエムウェアでは、仮想アプライアンスを作成す

る際に利用できる「ソフトウェア開発キット」の1つとし

て、Ubuntu Linuxベースの軽量OSを独自のJeOS

実装として配布する計画もあるという。こうした流れ

が認知を得れば、仮想アプライアンスを利用したアプ

リケーション実行環境の配布がより現実的なものと

なっていくことは間違いないし、現状の肥大化した

OSの構成を見直し、コンポーネント化を推し進めて

いく原動力にもなっていくだろう。

 実のところ、仮想アプライアンスの成立には、

LinuxをはじめとしたオープンソースOSの存在が事

実上不可欠となっている。というのも、アプリケーショ

ン・ベンダーがOSを含めた実行環境を丸ごと仮想ア

プライアンスとして配布するためには、ライセンス問題

が生じない再配布可能なOSが必要であり、現時点で

はLinuxといったオープンソースOSがその役割を担っ

ているからだ。OSとして必要最低限のモジュールだ

けを組み合わせるなど、任意にカスタマイズできる点

も、こうしたOSのメリットである。

*  *  *

 仮想アプライアンスは、仮想化技術の発展はもちろ

んのこと、LinuxをはじめとするオープンソースOSの

普及と成熟があってはじめて実現できた新しいスタイ

ルだと言えるだろう。相互に独立して発展してきたさ

まざまな技術を統合した仮想アプライアンスは、まさ

に現在のITシステムにとっての1つの大きな到達点だ

と言っても過言ではないように思われる。

Page 33: Computerworld.JP Jan, 2008

January 2008 Computerworld 57

Part 2 注目の「仮想アプライアンス」がもたらすメリット

 仮想アプライアンスのダウンロード・サイトを開設する動

きがここ1年で相次いでいる。

 まず、米国ヴイエムウェアが2006年11月7日に、仮想ア

プライアンスのダウンロード・サイト「Virtual Appliance

Marketplace」の開設を発表した。米国バーチャルアイアン

も2007年1月24日、Windows/Linuxベースの検証済み仮

想アプライアンスをダウンロードできる「Virtual Appliance

Exchange」(画面A)を開設。さらに今年4月26日には、米国

パラレルズが「Parallels Technology Network」(画面B)と

いう上記2社と同様のサイトを開設している。

 これらの仮想化ソフト・ベンダーは、仮想アプライアンス

の正規流通チャネルを構築することで、仮想化技術をより

普及させ、全体的な仮想化市場の底上げをねらっている。

しかも各ベンダーは、仮想アプライアンスのダウンロード・

サイトを、アップルが提供する「iTunes Music Store」のよ

うに位置づけているようだ。

 バーチャルアイアンのCMO(最高マーケティング責任者)、

マイク・グランディネッティ氏は、企業が新規にアプリケー

ションを導入する際に感じる最大の不満は、物理的なインフ

ラの整備に時間がかかることだと指摘したうえで、同社が提

供する仮想アプライアンスについて、次のように語っている。

「(アップルの)iTunes Music Storeから曲をダウンロードし、

iPodで聞くのと同じくらいシンプルなものだ」

 ヴイエムウェアもまた、同社が主催する仮想化関連のユー

ザー・コンファレンス「VMworld 2007」(2007年9月11日〜

13日開催)のプレス向けセッションの中で仮想アプライアン

スの話題に触れ、同社のVirtual Appliance Marketplace

をiTunes Music Storeに例えて紹介していた。

 先行するヴイエムウェアが運営するVirtual Appliance

Marketplaceは、発表の時点で仮想アプライアンス数がお

よそ300であった。しかし、現在ではその数は600以上に増

加しており、仮想アプライアンスが着実に認知されてきてい

ることをうかがわせる。ただし、仮想アプライアンスは、本

文中で指摘しているように、ファイル・サイズが大きくなり、

ダウンロードに時間がかかるケースもある。

 そうした場合の対応としてヴイエムウェアは、現在、仮想

アプライアンスのストリーミング配信に向けて技術開発を進

めている。ストリーミング配信を実現すれば、ファイルをダ

ウンロードしながらアプリケーションを実行できるため、ファ

イル・サイズが大きくてもダウンロード時間はさほど問題には

ならないというわけだ。

相次ぐ仮想アプライアンスのダウンロード・サイト開設の動き Computerworld編集部

Side Story

画面A:バーチャルアイアンが運営する「Virtual Appliance Exchange」

画面B:パラレルズの「Parallels Technology Network」

Page 34: Computerworld.JP Jan, 2008

Computerworld January 200858

仮想化テクノロジー・アップデート特集

ゲストOSを同時実行することを可能にする仮想マシン・

モニタ(VMM)であり、物理サーバのホストOS上で複

数の仮想マシンをホストする。この仮想マシンは、x86

ベースのレガシーなコンピュータと標準的な周辺装置

をソフトウェア的にエミュレートしたもので、ゲストOS

の変更なしに任意の32ビットOSを実行できるというメ

リットがある一方で、プロセッサの切り替え処理やI/O

処理のオーバーヘッドが大きく、ゲストOSのパフォー

マンスに影響するというデメリットがある。

 一方、Viridianは、Virtual Serverの競合である

「VMware ESX Server」や「Xen」でもすでに採用され

ている、ハイパーバイザ型の仮想化レイヤを持つVMM

に生まれ変わる見通しだ。Viridianでは、この仮想化

レイヤを「Windows Hypervisor」と呼んでいる。

 Windows Hypervisorは、物理的なコンピュータと

OSを切り離し、複数のOSの並列実行のためにパーティ

ション分けを行うだけの非常にシンプルな実装になっ

ている。Windows Hypervisorは、インテルVTや

AMD-Vといったハードウェア仮想化支援機能が用意

する特別なモードで動作し、ハイパーバイザ上で動作

Windows Server 2008に組み込まれる標準機能

 マイクロソフトの次期サーバOSであるWindows

Server 2008(開発コード名:Longhorn)には、次世

代仮想化製品「Windows Server Virtualization」(開

発コード名:Vridian)が標準機能として組み込まれる

計画だ。開発コード名が別であることからもわかるよう

に、Windows Server 2008とは別のラインで開発され

ており、同製品の出荷後180日以内に追加提供される

予定となっている。

 マイクロソフトは現在、仮想化テクノロジーとして、

デスクトップ向けの「Virtual PC 2007」と、サーバ仮

想化のための「Virtual Server 2005 R2」を無償で提

供している。ViridianはVirtual Server 2005 R2の

後継という位置づけになるが、現在の提供形態から、

Windows Server 2008の1つの機能という位置づけに

変更されるほか、アーキテクチャ自体も根本から大きく

変更される見込みだ。

 Virtual Serverは、1台のコンピュータ上で複数の

ここにきて、「VMware」や「Xen」に対抗する技術として、既存の仮想化資産を引き継ぎながら、新たなインフラストラクチャへと発展する可能性を秘めた新世代の仮想化技術がいくつか登場し始めている。本パートでは、そのうち、マイクロソフトの仮想化ハイパーバイザ「Viridian」、インテルの次世代仮想化応用技術「インテルTXT」、そしてLinuxカーネル標準の仮想化機能「KVM」の3つを取り上げ、核技術の仕組みや特徴、メリット、課題などを探る。

山市 良/大原久樹/森若和雄

新世代仮想化技術の実力を探る

マイクロソフトの「Viridian」/「インテルTXT」/ Linuxカーネル標準「KVM」3

Part

■Windows Server Virtualization(開発コード名:Viridian)

ハイパーバイザ型を採用し、一新された仮想化プラットフォーム 山市 良

Page 35: Computerworld.JP Jan, 2008

January 2008 Computerworld 59

Part 3 新世代仮想化技術の実力を探る

するゲストOSに対して、1台1OSの環境と同じRing 0

〜Ring 3の特権レベルでの動作環境を提供する。また、

Virtual Serverとは異なり、ホストがゲストOSのプロセッ

サ命令を監視、トラップする必要がないため、処理の

オーバーヘッドは非常に小さい。

 Windows Hypervisorは、ストレージやネットワーク、

ビデオなどのI/Oの仮想化や、仮想マシンの管理機能

は持たない。この点は、ハイパーバイザ内に仮想デバ

イスを含むVMware ESX ServerやXenハイパーバイ

ザの実装と大きく異なる部分だ。Windows Hyper

visorが持たないこうした機能は、仮想マシン(チャイル

ド・パーティション)をホストする1つ目のパーティション

(ペアレント・パーティション)が担当する。ペアレント・

パーティションとチャイルド・パーティションは、

「VMBus」と呼ばれる仮想的なバスで橋渡しされ、この

仮想バスを通して、ゲストOSは物理的なデバイスに対

してI/Oを行う。ゲストOSは、サードベンダー(IHV)

のデバイス・ドライバではなく、「VSP(Virtualization

Service Providor)」というコンポーネントを通してデバ

イスにアクセスするため、オーバーヘッドが小さく、高

いI/Oパフォーマンスを実現する。

64ビット/マルチコア/大容量メモリをサポート

 Viridianは、インテルVTまたはAMD-Vに対応し

たx64プロセッサ搭載コンピュータのみをサポートす

るため、ペアレント・パーティションには64ビット版の

Windows Server 2008がインストールされていなけ

ればならない。ただし、GUIを持たない最小の

Windows Server 2008である「Server Core」への組

み込みをサポートしているため、メンテナンス・コスト

を削減し、より多くのリソースを仮想マシンへ割り当

てることが可能となっている。

 チャイルド・パーティションの仮想マシンは、x86ベー

スからx64ベースのコンピュータに拡張され、任意の

新世代仮想化技術の実力を探る

Parent Partition Child Partitions

アプリケーション アプリケーション アプリケーション

Windows Server 2008 x64 Windows Server 2003/2008 x86/x64 Xen-enabled Linux kernel

Virtual Machine Managementサービス

ストレージVSP

ネットワークVSP

ストレージVSC

ネットワークVSC

ストレージVSC

ネットワークVSC

Windowsカーネル Windowsカーネル

EnlightenmentHypercall AdapterIHVドライバ

VMBus VMBus

Windows Hypervisor

ハードウェア仮想化支援機能(インテルVT/ AMD-V)

“Designed for Windows” x64サーバ・ハードウェア

ネットワーク・アダプタ ストレージ(VHD) ビデオカード キーボード・マウス

ユーザーモードRing 1~3

カーネルモードRing 0

Ring -1

図1:ハイパーバイザ型を採用したViridianのアーキテクチャ。デバイスへのI/OアクセスはVMBusで高速化される

Page 36: Computerworld.JP Jan, 2008

Computerworld January 200860

仮想化テクノロジー・アップデート特集

32ビットおよび64ビットOSを動作させることが可能

になる。仮想マシンに割り当て可能なプロセッサは従

来のシングルプロセッサから最大8コアの仮想プロ

セッサに、メモリは3.6GBから32GBに拡張される。

これらの拡張により、大量のメモリを必要とする大規

模アプリケーションやマルチスレッド・アプリケーショ

ンの仮想化が可能になる。

 Windows Hypervisorの環境下でVMBusによる

I/Oパフォーマンスの恩恵を得るためには、32ビット

または64ビット版のWindows Server 2003または

Windows Server 2008が必要となるが、マイクロソ

フトはゼンソースおよびノベルと共同で、Xen対応の

LinuxカーネルをWindows Hypervisor上で動作可

能にする「Hypercall Adapter」と、VMBusによるI/

Oを可能にするLinux用VSCを開発中であり、Linux

ゲストOSもネーティブに動作させることが可能になる

予定だ。

 こうしたアーキテクチャの大幅な変更にもかかわら

ず、Viridianと現行のVirtual Serverとの互換性は

維持される見通しだ。Virtual Serverの仮想ハード

ディスクである「VHD(Virtual Hard Disk)」は

Viridianでも採用されており、互換性が完全に保た

れている。したがって、Viridianが正式にリリースさ

れる前に、Virtual Serverで仮想化を進めても、そ

の投資が無駄になることはない。

展開のしやすさと統合管理に期待

 Viridianのハイパーバイザ、64ビット・ゲスト、マ

ルチコア・ゲストへの対応は、他の競合製品に比べる

とやや遅れ気味だ。当初の計画では、オンラインのま

ま仮想マシンを移動できるライブ・マイグレーション機

能やオンラインでのリソースの追加、削除が可能なホッ

トアド機能がサポートされる予定であったが、最初の

リリースへの実装は見送られた。

 しかしながら、ViridianへのゲストOSの展開は非

常に容易であり、既存環境の移行もサポートされる。

また、Viridianに標準装備されるライブ・バックアッ

プ機能や、ネットワークを含めたリソース割り当て機

能、「System Center」による大規模環境向けの統合

管理機能は、管理者にとって非常に魅力的なものと

なるだろう。

 マイクロソフトと関係の深いシトリックスが、ゼン

ソースを買収したことも気になるところだ。マイクロソ

フトは仮想環境の相互運用性を高めるために、ゼン

ソースと共同で作業を進めてきたが、その成果が将

来の製品に反映されることはまちがいないだろう。

■インテル トラステッド・エグゼキューション・テクノロジー(インテルTXT)

システム全体のセキュリティ強化を支援する仮想化応用技術大原久樹

インテル

インテルTXT誕生の背景

 インテルTXTを理解するには、まず、インテルが提

供するハードウェアによる仮想化支援技術と、業界標

準化団体のトラステッド・コンピューティング・グループ

(TCG)において定義される関連技術を知っておく必要

がある。

 2005年に発表された、インテル バーチャライゼーショ

ン・テクノロジー(VT-x)によってハードウェアによる仮

想化支援がサポートされてから、PCクライアントとサー

バの仮想化環境は大きく変わった。例えば、Linuxでは、

Xenによる完全仮想化によりWindowsをゲストOSとし

て実行できるようになり、KVMやlguestといったイン

テルVTを前提とする新しい仮想マシン・モニタ(VMM)

がLinuxカーネルに取り込まれるようになった。また商

用VMMでは、従来の仮想化手法に加えてVT-xを用

いることで、サポート対象となるゲストOSの多様性を

深める一助となった。

 セキュリティの観点から見ると、VT-xを用いてゲス

Page 37: Computerworld.JP Jan, 2008

January 2008 Computerworld 61

Part 3 新世代仮想化技術の実力を探る

能であるし、ソフトウェアによるVMMの検出はそのソ

フトウェア自身が改竄される危険性が高い。したがって、

VMMが立ち上がる前のハードウェアによるサポートが

VMMの改竄検出には不可欠であり、この基盤技術を

提供するのがインテルTXTである。

 以下、インテルTXT対応のハードウェアが、何をど

のように検査(メジャーメント)することで正しい検査を

保証(トラストチェーン)するのかについて述べる。

TCGが定義する2つの重要な概念

メジャーメント メジャーメントとは、ソフトウェア・コンポーネント

(BIOS、ブートローダ、カーネルなど)のハッシュ値を

計算し、セキュアなハードウェアに格納することである。

ここで言うセキュアなハードウェアとはセキュリティ・

チップのTPM(Trusted Platform Module)を指す。

TPMの仕様はTCGによって策定されており、最新版

はTPM1.2で あ る。TPMに はPCR(Platform

Configuration Register)と呼ばれるレジスタがあり、

TCGのPC Clientの仕様では24個のPCRが定義され

ている。PCRは仕様によってそれぞれ各ソフトウェア・

コンポーネントに結び付けられている。

 メジャーメントでは、ソフトウェア・コンポーネントの

ハッシュ値はTPMに渡され、該当するPCR値の既存

のデータとビット演算が行われたあとで再度ハッシュ値

が計算される。TPMでの計算はすべてハードウェア内

で行われるため、任意の値にPCR値を設定したり、ユー

ザーがPCR値を改変したりすることは不可能である。

トラストチェーン システムを起動しVMMが立ち上がるまでの順番は、

一般的に「BIOSによるシステム情報の取得→ブート

ローダーの起動→VMMの起動」となる。こうしたブート・

プロセスの中で用いられるソフトウェア・コンポーネント

の中で1つでも改竄の可能性があると、VMMそのもの

の改竄を否定できなくなってしまう。逆に、ブート・プ

ロセス中に実行されるすべてのソフトウェア・コンポー

トOS間のアドレス空間を分離することで、よりセキュ

アなゲストOSを実現できるようになったと言える。アド

レス空間は、通常、仮想アドレスから物理アドレスへの

変換に用いられるページ・テーブルによって管理される

が、仮想化環境の場合は、VMM内で管理されたページ・

テーブルによってゲストOSのアドレス空間が分離され

る。このように、VMMはゲストOSのアドレス空間の“防

波堤”として、セキュリティ上、重要な役割も担っている。

 VMMにおける主要なセキュリティの課題としては、

①DMA(Direct Memory Access)を用いたドライバの

脆弱性、②VMMそのものの脆弱性の可能性、の2つ

が挙げられる。

 ネットワークやハードディスクのように性能が求めら

れる物理デバイスは、通常、CPUを介さず物理メモリ

に直接アクセスするDMAの仕組みを用いている。

DMAでは仮想アドレスではなく物理アドレスを使うた

め、DMAを用いたドライバやVMMに脆弱性があると

物理アドレスに自由にアクセスできてしまう。だが、

2007年8月にダイレクトI/O対応インテル バーチャライ

ゼーション・テクノロジー(VT-d)が発表されたことで、

ゲストOSにとっての物理アドレスからシステムの真の

物理アドレスへの変換はチップセット内で自動的に行

うことが可能になった。このように、VT-xとVT-dを

用いることで、ゲストOSはI/Oを含めてメモリ空間の

分離を実現し、ゲストOS内に仮に脆弱性があったとし

ても、他のゲストOSが影響を受けることはなくなった。

 しかしながら、肝心のVMMに脆弱性があった場合、

VMM上のすべてのゲスト・ドメインが影響を受けるおそ

れがある。通常のウイルスやマルウェアでも同様だが、

脆弱性への対策として重要なことは、改竄の検出であ

る。ソフトウェアの改竄を検出する方法としては、ハッ

シュ関数を用いて、利用中のソフトウェアと正常なソフ

トウェアのそれぞれのハッシュ値を比較することが一般

的に知られている。ハッシュ関数は電子署名などにも

用いられていて、ハッシュ関数がセキュリティ的に強固

であればあるほど異なるデータに対して同じハッシュ値

を出力することがまれになる。VMMの場合、改竄を検

出するためにVMMのハッシュ値を取得しようとしても、

VMMの支配下にあるゲストOSからの検出は当然不可

Page 38: Computerworld.JP Jan, 2008

Computerworld January 200862

仮想化テクノロジー・アップデート特集

ネントのハッシュ値を取得(メジャーメント)できれば、

そのシステムを信用できるかどうかを判断できる。これ

が、TCGで定義されたトラストチェーンと呼ばれる仕

組みが生まれた動機である。図1のように、メジャーメ

ント済みのソフトウェア・コンポーネントが、次に起動さ

れるソフトウェア・コンポーネントをメジャーメントする。

これを連鎖的に実行することで、カーネルやドライバな

どが立ち上がるまでに、すべてのコンポーネントがメ

ジャーメントされたことが保証される。

 トラストチェーンにおいて重要なのは、最初に実行さ

れるコンポーネント自身のメジャーメントの取り扱いで

ある。最初のコンポーネントをメジャーメントすることは

できないからである。TCGではこの最初のコンポーネ

ントをRTM(Root of Trust for Measurement)と定義

している。そしてこのRTMをどこに置くかでトラスト

チェーンは2種類に分類できる。1つはSRTM(Static

RTM)で、システムの起動直後に実行されるBIOS内

の書き換え不能な領域からトラストチェーンが構築され

る。もう1つはDRTM(Dynamic RTM)と呼ばれ、

CPUの命令など特定のイベントを契機としてトラスト

チェーンが構築される。SRTMではシステムの起動時

のみにしかトラストチェーンを構築できないのに対し、

DRTMではシステムを再起動しなくてもトラストチェー

ンを理論的には再構築できる。インテルTXTは

DRTMを実現している。

インテルTXTが実現する堅牢なセキュリティ環境

インテルTXTの構成要素 インテルTXTは、CPU、チップセット、TPM、そ

してAC(Authenticated Code)モジュールから構成さ

れている。ACモジュールとは、プラットフォームの構

成オプションを検証するためのソフトウェア・モジュー

ルであり、CPU内のACEA(Authenticate Code

Execution Area)という呼ばれる領域内でのみ実行さ

れる。ACモジュール自身は電子署名されていて、そ

の公開鍵のハッシュ値はあらかじめチップセット内に記

録されている。

インテルTXTのトラストチェーン インテルTXTでは、前述したDRTMによるトラスト

チェーンが構築される(図1を参照)。インテルTXT向

けのCPUの新しい命令セットであるSMX(Safer

Mode Execution)のGETSEC[SENTER]という命令

がRTMを構成する。この命令はメジャーメント環境の

構築プロセスを起動する。次のソフトウェア・コンポー

ネントであるACモジュールのメジャーメント結果は、

TCGの仕様に基づいてPCR17番に格納される。次に、

ACモジュールが起動し、プラットフォームの構成オプ

ションの検証が行われる。検証結果に問題がなければ、

次のソフトウェア・コンポーネントであるMLE(Measured

Launched Environment)のメジャーメント結果が

PCR18番に格納される。MLEとは、具体的にはメジャー

メントされるVMMのことである。

 ここまでが、インテルTXTによって構築されるトラ

ストチェーンである。必要があればOSブート時に起動

されるサービス・プロセスや、ドライバ、ユーザー・アプ

リケーションなどをメジャーメントし、トラストチェーン

を延長すればよい。なお、インテルTXTそのものがメ

ジャーメントの対象とするのは、ACモジュールとVMM

の2つである。

インテルTXTで有効に

*資料 : インテル

プロセッサチップセットTPM

ACモジュール MLE OS アプリ

ケーション

インテルTXT

図1:インテルTXTのトラストチェーン

Page 39: Computerworld.JP Jan, 2008

January 2008 Computerworld 63

Part 3 新世代仮想化技術の実力を探る

メジャーメントを用いたプラットフォームの検証方法 メジャーメントされた結果のPCRの値を用いて、ト

ラストチェーン内で改竄が行われたかどうかを検出する

ための方法としては、ローカルで実施する方法と、別

のシステムからリモートで実施する方法がある。

■ローカル検証

 正しいと期待されるハッシュ値をあらかじめTPM内

のNVRAMに格納し、トラストチェーン内でメジャーメ

ントされたPCR値との比較を行う。比較結果が同一で

あれば次のコンポーネントの実行を許可し、異なって

いればポリシーに応じてシステムダウンなどのアクショ

ンを実行する。

■リモート検証

 他のプラットフォームからネットワーク越しに検証を

行う際には、TPM内に保存されている情報が改竄さ

れないことと、検証先の機器そのものの認証を行う必

要がある(図2)。

セキュリティ面から見た利点

 インテルTXTのリモート認証の場合、AIK秘密鍵

がTPM内に保存されている点や、ハッシュ値や暗号

化の計算が物理メモリ上ではなくTPMで実行される

点から、セキュリティ強度は高いと言えよう。また、

MACアドレスやUUIDのようにソフトウェアによって偽

造が可能な手法と異なり、TPMを用いることで、より

堅牢な機器認証を実現できる。さらに、PCR17番以

降を確認することで、インテルTXTが導入された機器

であることを認識することも可能である。そのほか、イ

ンテルTXTでVMMを検証し、検証済みのVMMが管

理するVT-xおよびVT-dを用いて、ゲストOSのアドレ

ス空間が分離された機器だけネットワークへの接続を

許すなど、ネットワークを含めたさまざまな応用例が考

えられる。

*  *  *

 従来、セキュリティの運用として行われてきたウイル

ス/マルウェア対策、ソフトウェア・ベースの機器認証

とは異なり、インテルTXTでは、TPMという汎用デ

バイスを最大限に活用しながら、機器やOS、アプリケー

ションを認証するための基盤を提供する。また、イン

テルTXTはインテルVTの拡張として導入される。

VT-xとVT-dによってハードウェア・レベルでゲスト

OSの分離をしつつ、VMMの改竄を検出可能な技術

を採用することが、次世代セキュリティの基盤になる

からである。

 本稿をきっかけに多くの方がインテルTXTに興味を

持ち、インテルTXT上のソリューションの発展につな

がれば幸いである。

*資料:インテル

プラットフォーム

PCR

TPM

検証者

AIK秘密鍵 AIK公開鍵

CA秘密鍵 CA公開鍵

PCR値

AIK証明書

AIK CA局

①プラットフォームが検証者に(ネットワークなどの)サービスを要求する②検証者がPCRの送信を要求する③TPM内のAIK秘密鍵を用いてPCR値に対する電子署名を作成する④電子署名付きのPCR値と、AIK公開鍵が含まれたAIK証明書を検証者に送信する⑤検証者は電子署名の妥当性を確認する⑥検証者は送信されたAIK証明書の妥当性をAIK CA局から確認する⑦問題がなければ、機器認証とPCR値に改竄がないことが確認でき、検証者はPCR値に基づいた行動をとることができる

1

2

34

5 8

7

6

図2:リモート検証

Page 40: Computerworld.JP Jan, 2008

Computerworld January 200864

仮想化テクノロジー・アップデート特集

Linuxカーネル標準の仮想化機能「KVM」

 KVMとは「Kernel-based Virtual Machine」の略

であり、Linuxカーネルにハイパーバイザの機能を追

加する仕組みである。完全仮想化による仮想マシン

環境を提供し、仮想マシンを動作させたまま実マシン

間を移動するライブ・マイグレーションにも対応する。

 KVMはもともと、イスラエルの仮想化ベンダー、ク

ムラネットが独自に開発したもので、2006年10月にア

ナウンスされ、同年12月にLinuxカーネルにマージさ

れた。現在は公開から間がないため、今すぐ企業で

利用することは難しいと思われるが、次期Red Hat

Enterprise LinuxのベースとなるFedoraにも導入さ

れ注目を浴びており、コミュニティ(http://kvm.

qumranet.com/kvmwiki/)においても活発に開発が

進められている。

 KVMの基本的な実装はほぼ完成し、現在はゲスト

OS上で動作するパラドライバ(Para-virtualized De

vice Driver)の開発や、パフォーマンス・チューニング、

IA以外のアーキテクチャへの対応が行われている。

CPUの仮想化機能を活用し「ネーティブ並み」の速度を実現

 KVMでのI/Oエミュレーションは、従来から開発さ

れているユーザー・モードでの完全仮想化環境を提供

するエミュレータ「Qemu」をベースとしている。Qemu

の基本的な動作は、これから実行する命令をチェック

し、I/O処理などの特権が必要な場合には、ソフトウェ

アによるエミュレーション層に分岐して各種デバイス

やCPU動作のエミュレーションを行い、エミュレーショ

ンが不要な場合には命令をそのまま実行する。

 従来のQemuは、特権命令であるか否かの判定を

ソフトウェア・ベースで行っていたが、KVMではこれ

をCPUの仮想化支援機能を利用して行うことで、処

理の大幅な高速化を実現している。

 KVMは、Linuxカーネルのモジュールとして実装

されており、CPUの仮想化支援機能(インテルVTま

たはAMD-V)にアクセスするためのインタフェース

(/dev/kvm)を提供する。これにより、カーネル・モー

ド、ユーザー・モードに加えて、ゲスト・モードという

新しい動作モードが追加されることになる(図1)。 ゲスト・モードではI/O以外の動作は自由に行える

が、I/O動作の命令はトラップされて、カーネル・モー

ドに遷移する。そしてユーザー・モードで動作するハー

ドウェア・エミュレーション層に制御が移る。ハードウェ

ア・エミュレーション層は、必要に応じてエミュレーショ

ン処理、システムコールによる実デバイスへのリクエ

ストを行う。

 このようにKVMには、CPUの仮想化支援機能を

活用する仕組みが実装されている。

完全仮想化に特化した軽量なモジュール

 KVMでは独立したハイパーバイザが存在せず、

Linuxカーネルの1モジュールとして実装される。また、

追加されるコードも1万2,000行程度とXenなどに比

べて非常に短いのが特徴だ。なお、メモリ管理や

CPUスケジューラなど、通常のハイパーバイザとカー

ネルのどちらにも必要な機能は、Linuxカーネルのも

のがそのまま利用される仕組みになっている。

 このように、KVMはカーネルに対する変更が小さ

くて済むこともあって、Linuxカーネル開発者の間で

は非常に早く受け入れられた。

 また、準仮想化に特化して開発されたXenとは対

象的に、完全仮想化に特化しているのもKVMの特徴

の1つだ。「完全仮想化+パラドライバ」というKVMの

構成は、VMwareの構成に近いと言える。

■KVM(Kernel-based Virtual Machine)

Linuxカーネルに統合された仮想マシン環境森若和雄レッドハット

Page 41: Computerworld.JP Jan, 2008

January 2008 Computerworld 65

Part 3 新世代仮想化技術の実力を探る

 一方、KVMのハードウェア・エミュレーション層で

は、実績あるQemuのエミュレーション機能を利用する。

そのため、登場から間もない新しい実装であるにもか

かわらず、KVMで提供される仮想ハードウェア環境

の仕様は比較的安定していると言える。

シンプルなシステム構成で既存機能の利用も可能

 前述したように、KVMは独立したハイパーバイザ

を提供するのではなく、Linuxカーネルにハイパーバ

イザ機能を追加する。こうした構成には、ハイパーバ

イザが存在するシステムと比べてシステム構成が単純

になる、Linuxの既存機能を利用できるといったメリッ

トがある。

 例えば、KVMによる仮想化環境では、ホストとな

るLinuxカーネルが対応している各種デバイスの機能

(省電力機能やUSBなど)をそのまま利用することが

可能だ。また、通常の仮想化環境では、仮想マシン

を管理するためのツールを新しく用意しなければなら

ないが、KVMによる仮想化環境では、仮想マシンを

単なるユーザー・プロセスとして扱えるので、従来の

Linux管理ノウハウを生かすことができる。例えば、

仮想マシンを強制終了したいときにはkillコマンドで

終了できるなど、すでにUNIXに馴染んでいる管理

者であれば導入は非常に簡単と言えるだろう。

 管理ツールとしては、Qemu関連のツールをほとん

ど変更なしで利用できるため、最低限必要なものはす

でにそろっているが、レッドハットでは、KVMだけで

なくXenやQemuなど、複数の仮想化環境の管理用

API統一を目的にFedoraプロジェクトが開発中の

「libvirt」ライブラリをベースに、各種管理ツールの開

発を進めている。

残された課題

 現在のKVMの実装は、パフォーマンス面でチュー

ニングの余地が残されている。KVMのインタフェース

をゲストOS側から利用するためのパラドライバの開発

も待たれるところだ。

 例えば、KVMのI/Oエミュレーション層では、ハー

ドウェアのふるまいが非常に正確にエミュレーション

されるが、その分オーバーヘッドが大きくなってしま

うのが課題になっている。そうしたI/Oエミュレーショ

ン時のオーバーヘッドを回避するための技術として開

発が進められているのがパラドライバである。I/Oエ

ミュレーション層を経由せずにゲスト・カーネルが直

接ホストとなっているLinuxカーネルにリクエストを発

行する。同様の技術は、VMwareやXenの完全仮想

化でも採用されている。

 ほかにも、ハイパーバイザとなっているLinuxカー

ネルから特定のデバイスとのやり取りを仮想マシンに

委譲する「passthrough」の開発も検討されている。

 各種OSの対応状況は、クムラネットのWikiページ

に掲載されている。今のところworkaroundによる対

応が必要なものや、起動しないものもあるが、徐々に

改善されていく見通しだ。

 対応作業の実例としては、x86のリアル・モードの

ソフトウェアによる実装が進められていることが挙げ

られる。これは主にMS-DOSやWindows 95などの

古い環境への対応において必要となる作業だ。

 また、現在のKVMの実装は、CPUの仮想化支援

機能の利用が必須の条件となるため、最新ハードウェ

アを用意する必要もある。そうしたことから仮想化支

援を不要とするための機能も開発中だ。実装が公開

されてから約1年と短く、企業への導入の敷居は高い

ものの、LinuxコミュニティにおけるKVMの注目度は

高く、今後が期待される。

通常のユーザー・プロセス

通常のユーザー・プロセス

ゲスト・モード ゲスト・モード

Qemu I/O Qemu I/O

Linuxカーネル KVMドライバ

ゲストOSは通常のユーザー・プロセスと同レベルにある。I/O以外のコードはゲスト・モードで実行され、特権命令またはI/OはLinuxカーネルでハンドルされる。ゲストのI/Oの処理は、ユーザー・モードのQemuによって行われる

図1:KVMのアーキテクチャ

Page 42: Computerworld.JP Jan, 2008

Computerworld January 200866

仮想化テクノロジー・アップデート特集

よって構成されるセキュアな仮想化環境を実現して

おり、現在は主に、IBM製ブレード・サーバ上で仮

想Linuxマシンを稼働させている。同社が「新データ

センター」と呼ぶ新しいサーバ・インフラの基盤となっ

ているのは、インテル・プラットフォーム上で稼働する

ヴイエムウェアの仮想化技術である。

 イントラのIT担当バイスプレジデント、ジョン・ドベ

ネデット氏は、仮想データセンター環境のセキュアさ

を保ちながら、立証されたベスト・プラクティスをエミュ

レートすることは不可能ではないと見ている。

 しかしながら、今のところは、仮想Webサーバを

DMZ(Demilitarized Zone:外部ネットワークと内部

ネットワークの境界に位置する“非武装地帯”で、ファ

イアウォールの第3セグメントに相当する)の外側に置

いたり、管理が難しいエンドポイントに仮想マシンを設

置したりといったリスクを冒そうとまでは思っていない。

 「どんな企業でも、仮想化環境を構築し、業務に

利用することは可能だ。しかしながら、それは最終的に、

仮想化プラットフォーム・レイヤ自体に全幅の信頼を

置くということを意味する」と、ドベネデット氏は、仮

想化環境に対するセキュリティ上の不安を隠そうとし

ない。

 ちなみに、ドベネデット氏が言う仮想化プラット

フォーム・レイヤとは、ハードウェアと仮想マシン環境

クラッカーがハイパーバイザを狙っている?

 米国ニュージャージー州に本拠を置くイントラは、

世界最大規模の海運団体によって設立された、B2B

の海上貨物輸送ポータル・サービス「INTTRA」

(http://www.inttra.com/、画面1)の提供プロバイダー

である。同社では、数年前から、バックエンドのIBM

製メインフレームとシトリックス・システムズの製品に

仮想化技術が企業コンピューティングの世界で着実に根づくのに伴い、仮想化環境におけるセキュリティの重要性がクローズアップされるようになってきた。本パートでは、仮想化環境におけるセキュリティをテーマに、多くのユーザー企業にとって参考になるベスト・プラクティスの紹介、および、この分野の最新技術動向をお伝えすることにしよう。

デブ・ラドクリフNetwork World米国版

自社での対策は十分か?「仮想化環境のセキュリティ」

ベスト・プラクティスを実践し、悪意の攻撃からシステムを守る4

Part

画面1:B2Bの海上貨物輸送ポータル・サービス「INTTRA」のトップ・ページ画面

(http://www.inttra.com/)

Page 43: Computerworld.JP Jan, 2008

January 2008 Computerworld 67

Part 4 自社での対策は十分か? 「仮想化環境のセキュリティ」

(OSを含むすべてのデバイス・ドライバ)の間に位置す

る中間的なレイヤを指す。仮想化製品を提供するベン

ダー各社は、このレイヤのことを、自社の製品の特性

に応じてハイパーバイザ、仮想カーネル、仮想化エン

ジン、仮想マシン・モニタなどと呼んでいる。

 現時点ではまだ、このレイヤの脆弱性を見つけ、悪

用した例が報告されているわけではない。だが、

「RedPill」のような仮想マシンを認識するマルウェア

や、「BluePill」のような仮想マシンを悪用するルート

キット(クラッカーがネットワーク経由で不正行為を行

うために利用するツールの総称)の存在はすでに知ら

れており、ドベネデット氏がこの部分のセキュリティを

危惧するのも無理からぬところだろう。専門家たちも、

「ハイパーバイザは、仮想マシンをねらうマルウェアの

作成者が侵入を試みる際のターゲットになる」と警告

している。

 こうした仮想化環境の運用に際しては、セキュリ

ティに関するベスト・プラクティスが必要不可欠となる。

企業のIT/IS部門は、ベスト・プラクティスを参考に

して、物理マシンだけでなく、仮想マシンにも十分な

管理と保護対策を講じる必要がある。仮想化技術の

普及が進む今こそ、ネットワーク上の仮想マシンへの

不正なトラフィックに目を光らせ、新手の攻撃を寄せ

付けない高度なセキュリティを備えた仮想化環境の

構築に努めなければならないのである。

「仮想化のセキュリティ」に対するユーザーの意識

 Network World米国版は2007年6月に、読者を

対象として仮想化環境に関する調査を実施している

(有効回答者数707人)。それによると、「仮想化の導

入によってセキュリティ・リスクが高まったと認識して

いる」と答えた回答者が全体の36%にも上った。また、

そう答えた回答者のうち半数強が、仮想LAN内にファ

イアウォールとセグメント化された基幹ネットワークを

設置しており、残りの半数弱が侵入検知システム

(IDS:Intrusion Detection System)上で仮想マシ

ン向けトラフィック検知機能を有効にしていた。

 さらに、回答者のおよそ3分の1が、仮想化プラッ

トフォーム・レイヤ自体に脆弱性が存在していると考

えている一方で、残りの約3分の2が、仮想化製品ベ

ンダーはセキュリティ機能を必須機能として自社の製

品に組み込もうという意識が欠けていると見ているこ

とが判明した(図1)。 もっとも、現時点では、ベンダーにいろいろと注文

をつけているユーザー企業の側も、みずからが行うべ

き、仮想サーバを保護するための最も基本的なセキュ

リティ・ポリシーさえ確立できていないというのが実情

だ。その結果、企業は、十分に管理の行き届かない、

危険を内包した仮想サーバ群を多く抱え込んでし

まっている。

 「こうした問題は、一般に、仮想マシンのスプロー

ル(無差別増殖)として知られる」と解説するのは、『The

Definitive Guide to Virtual Platform Manage

ment』の著者としても知られるコンサルタントのアニ

ル・デサイ氏だ。同氏によると、「ITの知識なしに仮

想化環境の構築が進んでしまうと、どのネットワーク

上にどの仮想マシンが存在しているかを知ることさえ

難しくなる」という状況が生まれ、スプロールが引き起

こされるという。

自社での対策は十分か?「仮想化環境のセキュリティ」

自社の仮想化環境において、どのようなセキュリティ対策を行っているか?

56%

*資料 : Network World米国版「テクノロジー・オピニオン・パネル」

今回のNetwork World米国版の調査では、回答者の約3分の2が「仮想化によってセキュリティ・リスクは高まっていない」と回答した。一方、「仮想化によってセキュリティ・リスクが高まっている」と答えた残りの約3分の1は、さまざまな手法で対策を講じている。以下は、その具体的な対策である(複数回答)。

従来型のエージェント・ベースのスパム/マルウェア/ウイルス対策フィルタを仮想マシンに組み込んでいる

56%仮想マシン群へのアクセスを遮断する仮想LANを設置している

54%

仮想環境向けの侵入防止システム、ファイアウォール、あるいはモニタリング・ツールを導入している

34%セキュリティ機能を内蔵するよう仮想化製品ベンダーに求めている

8%その他

Q図1:仮想化環境におけるセキュリティ対策の実際

Page 44: Computerworld.JP Jan, 2008

Computerworld January 200868

仮想化テクノロジー・アップデート特集

監視ツールを使って仮想マシンの過剰な増殖を防ぐ

 デサイ氏以外にも、顧客サイトにおける仮想マシン

の際限のない増殖を懸念するコンサルタントは少なく

ない。特に、フォーチュン500に入るような大企業、

有名企業では、そうした問題が報告されることが多い

ようだ。デサイ氏によれば、今、企業では次のような

ことが起きているという。

 「ソフトウェア開発者、イントラネット・ユーザー、そ

してさまざま特権を持つデータセンターの管理者らが、

社内で仮想マシンをものすごい勢いで増やしている。

仮想マシンは特定の作業の処理に適しているうえ、

導入が容易だからだ」

 しかしながら、すべての企業がこのような状況を黙

認しているわけではない。例えば、イントラのドベネデッ

ト氏は、こうした現象を「理解できない」と切り捨てる。

優秀な企業であれば、ベスト・プラクティスに従って、

データセンターをしっかりと保護できるはずだというの

が同氏の主張だ。

 例えば、仮想サーバをIDSの監視対象とし、不正

侵入を検知すると警報を発するようにするといったベ

スト・プラクティスがあり、これを実践することにより、

仮想化の無秩序な拡大を阻止することも可能なはず

だ、とドベネデット氏。

 そういったことをみずから実践すべく、ドベネデッ

ト氏は自社で、ヴイエムウェアの仮想化管理ツール

「Virtual Center」を用いて、不正に構築された仮想

マシンの自動検知を行っている。なお、ノベルの

「ZenWorks」や、マイクロソフトの「System Center

Virtual Machine Manager」といった主要な仮想化

管理ツールは皆、Virtual Centerと同様の仮想マシ

ン自動検知機能が備わっている。

 ただし、こうしたツールを運用管理コンソールに統

合するのを嫌う管理者も少なくない。そうしたユーザー

に向けては、ここにきて、CA、ヒューレット・パッカー

ド(HP)、ネットワークジェネラルなどから、仮想マシ

ンをさまざまな段階で認識可能な機能を備えた運用

管理ソフトが提供されるようになってきた。

 なお、ノベルの製品ディレクター、リチャード・ホワ

イトヘッド氏によれば、仮想マシンを検知する機能は、

エンドユーザーのライセンス管理や製品サポートを行

う際にも役に立つという。

 「ライセンスされていない仮想サーバは、ベンダー

からサポートを受けられない。つまり、パッチやアッ

プデートが適用されず、セキュリティ・リスクにさらさ

れてしまうことになるわけだ」と同氏は説明する。

 ホワイトヘッド氏を含む専門家らは、仮想化製品に

備わる、その他のセキュリティ/データ保護機能とし

て、不必要な仮想マシンを強制的に停止させる機能

や、負荷バランス/ウイルス感染/ネットワーク攻撃

などに応じてセキュアなシステムにフェールオーバさ

せる機能も、仮想化環境のセキュリティ強化に役立

つとしている。

物理的な世界と同じように「分離作業」を怠らない

 仮想化環境のセキュリティでは、フェールオーバ機

能が1つのポイントになる。米国ベライゾン・コミュニ

ケーションズの子会社、ベライゾン・ビジネスでエグ

ゼクティブ・コンサルタントを務めるトム・パーカー氏

によれば、なかでも、「仮想マシンのフェールオーバを

“いつ”“どこで”行うかが重要だ」と指摘する。

 しかしながら、現在のところ、フェールオーバ・プ

ロセスの設定に関する企業IT幹部らの見解は、統一

されているというにはほど遠い状況にある。

 例えば、現在、ある仮想マシンからのフェールオー

バ先を、別の仮想マシンあるいは別の仮想サブネット

にしている企業も、少なからず存在するはずだ。だが、

ベスト・プラクティスでは、フェールオーバ先は元の

仮想マシンが構築されている物理サーバとは別の物

理サーバにすることが推奨されている。物理サーバ自

体にシステム障害が発生した場合、こちらの方法でな

ければフェールオーバ機能を用いる意味がないからで

ある。また、仮想化環境においては、システムの分離

やパーティショニングが、バックアップを考える際だ

けでなくDMZを構築する際にもカギとなる。

Page 45: Computerworld.JP Jan, 2008

January 2008 Computerworld 69

Part 4 自社での対策は十分か? 「仮想化環境のセキュリティ」

 ところが、一般にIT部門は、そうした分離作業の

必要性を見落としがちだ。パーカー氏は、そうした現

状を、「もし、データベース・サーバを仮想Webサーバ

群と同じ物理マシン上で仮想化したらどうなるだろう

か。少し考えればわかるように、そんなことをしたら、

Webサーバからデータベース・サーバへの侵入を許す

リスクが極端に高まってしまう。だが、IT部門の不注

意のせいで、こうしたケースが実際にしばしばまかり

とおっている」と嘆く。

 ベスト・プラクティスでは、こうしたタイプのシステ

ムは、DMZで分離することが推奨されている。DMZ

は、仮想的にも、物理的にも、あるいは仮想と物理

の両方の要素を組み合わせた形でも構築することが

できる。

 専門家らによれば、仮想DMZでは、仮想スイッチ

と仮想ファイアウォールを使って、仮想データセンター

のクラスタを仮想Webサーバのクラスタから仮想的に

分離することになる。

 仮想ファイアウォールと仮想スイッチを使えば、サ

ブネットのあらゆる部分を分離できるため、ユーザー

は分離レベルを必要なだけ細かく設定することができ

る。ただし、その場合、仮想ネットワーク・デバイスと

仮想ファイアウォールが、同じようにベスト・プラクティ

スや自社のポリシーに沿って適切に管理されているこ

とが前提になる。

 ただし、パーカー氏自身は、上述したように、こう

したサーバ・ファームについては物理的に分離するこ

とを勧めている。つまり、Webサーバとデータベース・

サーバとを別々の物理サーバに構築するよう勧めてい

るのだ。そうすることにより、「悪質な攻撃が(仮想マ

シン)サーバ・ファームの間に拡大するリスクを取り除

くことができる」(同氏)からである。

 先ごろ、米国ヴイエムウェアの仮想化ソフトウェア「VMware」のコ

ンポーネントに一連の欠陥が発見されたことで、仮想化環境の運用

に伴うセキュリティ・リスクへの注目が一気に上昇した。

 今年9月、VMware製品とともに出荷されているDHCPサーバ・ソフト

ウェアに3つの深刻なセキュリティ・バグがあることが明らかになり、同

社はただちにVMware製品をアップデートしてこれらのバグを修正した。

 問題のDHCPソフトウェアは、VMware上で動作する各仮想マシ

ンにIPアドレスを割り当てるために使われている。IBMの研究員が、

このソフトウェアの脆弱性を悪用することで、コンピュータを乗っ取

ることが可能であることを発見した。

 米国IBMのインターネット・セキュリティ・システムズ部門研究員、

トム・クロス氏は、「これらの脆弱性が悪用されると、VMwareベース

の仮想化環境で動作する任意のマシンが完全に乗っ取られるおそれ

がある」と説明する。クロス氏によると、IBMの研究員は、現在は修

正されているDHCPソフトウェアの3つの脆弱性を悪用する実証コー

ドを開発したという。だが、システムを攻撃するには、攻撃者はまず、

仮想マシン上で動作するソフトウェアにアクセスする必要がある。通

常、VMwareのDHCPサーバは、ほかのマシン上のシステムからアク

セスできるようには構成されないからだ。

 仮想化製品市場でのトップ・シェアを誇るVMwareは、セキュリティ

研究者にも広く普及している。PC上に仮想マシンをセットアップす

ることで、PCを危険にさらすことなく、悪意あるコードの疑いのある

コードを検証できるからだ。しかし、残念ながら、こうした仮想化アー

キテクチャを採用しているがゆえに、VMwareは攻撃者の格好の標

的にもなる。

 「重大な問題だと思う。VMwareベースの仮想化環境においては、

サーバ上で(テストなどに使用する)脆弱な仮想マシンが動作し、これ

と隔離された別の仮想マシンに機密情報が保存されているといった状

況もよくあるからだ」と、米国のセキュリティ・ベンダーのイミュニティ

のCTO、デーブ・アイテル氏はメールでコメントを寄せてくれた。

 「同社のESX Serverは、ホスティング環境用に急速に普及しつつ

ある。今回のようなセキュリティのバグは、仮想マシンへのリモート・

アクセスを許してしまう脆弱性を攻撃者が発見できた場合、深刻な被

害につながる危険がある」(同氏)

 また、IBMは、DHCPの脆弱性は、LinuxまたはWindows上で動

作する「VMware ACE」ファミリーの製品に影響を与えるとしている。

VMwareの脆弱性発見で、仮想化環境のセキュリティへの関心が高まる ロバート・マクミラン

IDG News Service

Column

Page 46: Computerworld.JP Jan, 2008

Computerworld January 200870

仮想化テクノロジー・アップデート特集

最下位レイヤを封鎖してマルウェアなどの攻撃を防ぐ

 

 コンサルタントのデサイ氏によれば、ホストOSや

ハードウェアに対する権限と特権を持ったVMware

プラットフォームは、現在、マルウェア作成者の格好

のターゲットになっているという。同氏はこう警告する。

 「技術的に言えば、仮想化レイヤは、ハードウェアま

たはハードウェア抽象化レイヤに直接アクセスして機

能する。つまり、物理マシンへの高レベルのアクセス

を許可して稼働しているというわけだ。ということは、

このアクセス・レベルで稼働するあらゆるアプリケーショ

ンが攻撃のターゲットになりうるということを意味する」

 言いかえれば、仮想マシンを狙ったマルウェアが仮

想マシン間を飛び回り、ホストOSや仮想マシン監視

レイヤといったコアの部分に到達するのも、もはや時

間の問題なのである。パーカー氏やマルウェアの研究

者らも、実際にこうした攻撃シナリオが開発段階にあ

ることを確認しているという。

 「攻撃者は、サンドボックスと仮想マシンのカーネ

ルから攻撃する手法を検討している」と、その攻撃シ

ナリオの一部を紹介するのは、ファイアウォールや

HDDを手がける米国ドライブセントリーのCTO(最高

技術責任者)、ジョン・サファ氏だ。

 一方、米国ヴイエムウェアのプロダクト・マネジメン

ト担当シニア・ディレクター、パトリック・リン氏は、同

社がいかにセキュリティ対策に力を入れているかを、

自社製品に施しているテストや認証項目を列挙するこ

とで強調してみせる。しかし、この分野でのベンダー

の姿勢に不信感を抱いているユーザーとしては、それ

だけでベンダーを全面的に信頼する気にはなれないか

もしれない。

チップ・レベルでの認証を仮想化環境に適用する試み

 米国インテルでサーバ・セキュリティ・ストラテジスト

を務めるポール・スミス氏は、上記のようなユーザーの

不安を解消するためには、仮想化環境における認証

プロセスをチップ・レベルで行う必要性があると説く。

 そういう意味で注目されるのが、セキュリティ標準化

団体トラステッド・コンピューティング・グループ(TCG)

が提唱しているTPM(Trusted Platform Module)に

含まれる「Root of Trust」コンポーネントである。

 TPMは、チップに書き込まれたシステムの認証コ

ンフィギュレーションのハッシュ値を収めた鍵を格納

するものだ。そしてコンピュータが起動すると、Root

of Trustがこの鍵とチップのハッシュ値を照らし合わ

せて、両者が一致しない場合には、一切の稼働を停

止することによって不正侵入を阻止する。

 インテルとAMDは、仮想マシン向けに、仮想マシン・

モニタ/ハイパーバイザのハッシュ値を確認する

TPM/Root of Trustをサポートしている。もし、ハッ

シュ値が変更されているときにコンピュータが再起動

を試みた場合、Root of Trustは元のハッシュ値に

戻るか、あるいは起動を許可しない。

 インテルのスミス氏は、「Root of Trustは、仮想マ

シン・プラットフォームの信頼性を保証し、その信頼

性によって仮想マシン・プラットフォームの安全性を

も保証することができる。なぜなら、プラットフォーム

の(最終的には仮想マシン自体の)どんな変更も許可

されることがないからだ」との表現で、この方式の優

位性を強調する。

 一方、ノベルの製品マネジャー、ラリー・ラッソン

氏によれば、最近は仮想TPMの開発も進められてお

り、これが実用化されれば、信頼性の認証プロセス

は仮想ゲストにも広がることになるという。

 ラッソン氏は、インテルが採用する方式については

それほど評価しておらず、「TCGのTPM/Root of

Trustモデルの場合、トラスト認証プロセスで、すべ

ての仮想デバイスにおける変更をチップ・レベルで逐

一複製し、再ハッシュしなければならないため、コン

フィギュレーションの変更やパッチの適用が難しい」

と、同方式の欠点を指摘する。

 しかしながら、ラッソン氏の言うような変更管理を

行うためには、チップにまったく新しいレイヤを生成

する必要があるとも見られる。いずれにしろ、早期の

実用化が期待される。

Page 47: Computerworld.JP Jan, 2008

January 2008 Computerworld 71

Part 5 Product Review[仮想化テクノロジー]

5Part

Product Review[仮想化テクノロジー]

VMware ESX Server 3i ヴイエムウェア

サーバ仮想化

サービス・コンソールを不要にした超軽量のサーバ仮想化ソフト 「VMware ESX Server 3i」は、ヴイエムウェアが

提供するハイパーバイザ型のサーバ仮想化ソフトウェ

ア「ESX Server」シリーズの最新版である。従来製

品である「ESX Server 3」では、容量が2GBに及ぶ

制御用インタフェースの「サービス・コンソール」が必

要であったが、ESX Server 3iではそれを不要にし、

仮想化機能をつかさどる専用カーネル「VMkernel」の

みで仮想化環境を構築できるようにしている。それに

より、ESX Server 3と比べて容量を98%削減し、

32MBへと軽量化を図っている。

 サービス・コンソールは、「Red Hat Enterprise

Linux 3」をベースにしたLinuxディストリビューショ

ンであり、これまでのESX Serverでは同ディストリ

ビューションへのセキュリティ・パッチの適用などを行

う必要があった。そのため、運用管理に手間とコスト

がかかっていたが、ESX Server 3iではこうした運用

面での負担が軽減される。

 また、32MBへと仮想化機能が軽量化されたことで、

USBメモリやSDカードなどの記録メディアへ格納が

でき、そこから直接、ESX Server 3iを起動するこ

とも可能である。

 ESX Server 3iは、サーバへの組み込みを意図し

た仮想化ソフトでもある。サーバ・ベンダーは、ESX

Server 3iをあらかじめサーバに組み込むことで、仮

想化機能を盛り込んだサーバを提供できるようにな

る。これは、サービス・コンソールに依存しないで仮

想化環境を構築できるようになったことが大きく影響

している。

 すでにデル、ヒューレット・パッカード(HP)、IBM、

富士通、NECなど複数のサーバ・ベンダーが仮想化

機能組み込み型のサーバを発売する意向を表明して

いる。

全体的な機能はESX Server 3と同じ 機能的な面では、ESX Server 3iは従来製品であ

るESX Server 3と何ら変わらない。

 ESX Server 3の特徴的な機能である、1つの仮

想マシンに複数の物理プロセッサ(最大4CPU)を割り

当てる「Virtual SMP」や、ESX Server上で動作し

ている仮想マシンを稼働させたまま別のESX Server

に移動させる「VMotion」、各ESX Serverが稼働す

る物理サーバの状態を監視し、物理サーバに障害が

発生したときには仮想マシンを他のESX Server上

で再起動する「VMware HA」など、ESX Server 3

でサポートしている各種機能を利用できる。また、各

仮想マシンには最大16GBまでメモリを割り当てるこ

とが可能だ。

 なお、ヴイエムウェアは2007年内に最新のハイパー

バイザ型仮想化ソフト「ESX Server 3.5」を含む新た

な仮想化ソフトウェア・スイートを発売する予定である。

製品名 VMware ESX Server 3i開発元 ヴイエムウェア稼働環境 要問い合わせ価格 要問い合わせURL http://www.vmware.com/jp/products/vi/esx/

Spec Sheet

従来型ESX Serverではサービス・コンソールが全体の98%を占める

サービス・コンソール(Red Hat Enterprise

Linux 3ベース)

2GB 32MB

ESX Server 3i

ヘルパー 仮想マシン・モニタ

仮想マシン・モニタ

VMkernel

ストレージ ネットワーキング

リソース管理

HAL、デバイス・ドライバ

98% 2%

Page 48: Computerworld.JP Jan, 2008

Computerworld January 200872

仮想化テクノロジー・アップデート特集

Citrix XenServer シトリックス・システムズ・ジャパン

サーバ仮想化

ゼンソースのサーバ仮想化ソフトの特徴と機能をそのまま継承 シトリックス・システムズ・ジャパンの「Citrix Xen

Server」は、データセンター内のサーバ・リソースを柔

軟的に運用管理するためのサーバ仮想化ソフトウェア

である。シトリックスが2007年10月に買収を完了した

米国ゼンソースの製品/技術をベースとした仮想化

製品の第1弾となる。

 XenServerは、Xenハイパーバイザを核としたゼ

ンソースの企業向けサーバ仮想化ソフト製品を、同社

の買収に伴い、特徴と機能はそのままにCitrixブラ

ンドに移行した製品である。

 同製品のエディション構成は、無料でダウンロード

できるシングル・サーバ用のExpress Edition(旧ゼン

ソースの「XenExpress」)、マルチサーバに対応した

Standard Edition(旧「XenServer」)、Enterprise

Edition(旧「XenEnterprise」)の3エディションが用

意される。

 なお、シトリックスは、XenServerの発表と同時に、

同製品の販売に関して米国ヒューレット・パッカード

(HP)およびデルとの提携を発表している。それによ

ると、HPは「HP ProLiant」および「BladeSystem」サー

バのユーザーにEnterprise Editionの販売を行い、

デルは、「PowerEdge」サーバにおいて、専用に開発

された組み込み型の「XenServer OEM Edition」を

バンドル販売するという。

Xenハイパーバイザが64ビット対応し高いパフォーマンスを発揮 前述したように、XenServerは、ゼンソース製品

をそのままCitrixブランドに移行した製品であり、ベ

アメタル・アーキテクチャ、“10分で導入完了”をうたう

インストーラ、Windows環境の高速処理を実現する

I/Oドライバなど、旧ゼンソース製品の特徴をそのま

ま引き継いでいる。

 Enterprise Editionのバーションはv4で、このバー

ジョンからXenハイパーバイザが64ビット対応となっ

ている。また、ある物理サーバ上のXenServerにお

いて稼働中のゲストOSを他の物理サーバ上に移動す

ることを可能にする「XenMotion」機能や、直感的な

GUI操作で仮想マシンの作成や管理を行える管理

ツール「XenCenter」などが備わっている。

製品名 Citrix XenServer開発元 シトリックス・システムズ・ジャパン稼働環境 Windows、Linux価格 要問い合わせURL http://www.citrix.co.jp/

Spec Sheet

Citrix XenServerのGUI管理ツール「XenCenter」の管理画面

Express Edition Standard Edition Enterprise Edition

対応サーバ数 シングル マルチ マルチ

対応物理メモリ 1GB~4GB 1GB~128GB 1GB~128GB

CPUソケット数 2 2 無制限

疑似アクティブ・ゲスト数 4 4 無制限

仮想マシン当たりのメモリ 4GB 32GB 32GB

リソース・プール ─ ─ ○

共有ストレージ ─ ─ ○

XenMotion ─ ─ ○

リソースQoS ─ ─ ○

VLAN設定 ─ ─ ○

Citrix XenServerのエディション構成と機能

Page 49: Computerworld.JP Jan, 2008

January 2008 Computerworld 73

Part 5 Product Review[仮想化テクノロジー]

物理/仮想リソースの一元管理を実現する「IBM Virtualization Manager」

IBM Virtualization 日本IBM

仮想化プラットフォーム

ITインフラ全体の仮想化を支援する統合プラットフォーム IBMの「IBM Virtualization」は、同社が提供する

ITインフラ全体の仮想化を支援する統合プラット

フォームである。同プラットフォームは、サーバ/スト

レージ/ネットワークなどを仮想化する各種ソフト

ウェアのほか、IBMのハードウェア製品を含む広範な

ポートフォリオで構成されている。

 サーバ仮想化においては、メインフレームで培った

技術を同社のサーバ製品「System i」や「System p」に

適用している。これらのサーバ製品には、サーバ仮想

化機能として、パーティショニングを動的に制御する

LPARや、1つのプロセッサを最大で10分割し、仮

想マシンに最適なリソースを配分するマイクロ・パー

ティショニングなどが実装されている。

 ストレージ仮想化においては、複数ベンダーのスト

レージを統合する「IBM System Storage SAN ボ

リューム・コントローラー」の提供、ネットワークの仮

想化についてはシスコシステムズと協業するなど、仮

想化をプラットフォームとして提供するための基盤強

化を推進している。

 数ある仮想化関連ソフトウェアの中でも特徴的な製

品は、仮想化環境にあるさまざまなハードウェア/ソ

フトウェアの統合を実現する管理ツール製品群「IBM

Systems Director」である。

「IBM Virtualization Manager」で物理/仮想リソースを一元管理 Systems Directorは、IBM製品はもちろんのこと

他社製品のハードウェア/ソフトウェアを、物理/仮

想リソースを問わず一元管理できるシステム管理製品

群のことである。

 サーバ、ストレージ、ネットワークなどのレイヤごと

に仮想化を実施していくと、リソースの最適化が図れ

る一方で、システム管理が複雑になる面も否めない。

こうした問題を解決するのがSystems Director製品

群であり、特に仮想化環境の統合管理において中心

的な役割を果たすのが「IBM Virtualization Mana

ger」である。

 Virtualization Managerは、ヴイエムウェアやマ

イクロソフト、ゼンソースといった主要ベンダーの仮

想化ソフトウェアに対応している。そのため、同ソフ

トを用いることでさまざまな仮想化ソフトが混在した

環境を容易に管理できるようになる。ヴイエムウェア

製品においては、複数の仮想マシンを一元管理する

「VMware Virtual Center」をVirtualization Mana

gerに統合することも可能である。

 Virtualization Managerを導入することで、これ

までサーバの運用管理に必要だった管理ツールの多

くが不要になり、その数を大幅に削減できるという。

また、Virtualization Managerのダッシュボード機

能は、Webベースのインタフェースで提供される。

製品名 IBM Virtualization開発元 日本IBM稼働環境 要問い合わせ価格 要問い合わせURL http://www-06.ibm.com/jp/solutions/virtualization/

Spec Sheet

Citrix XenServerのGUI管理ツール「XenCenter」の管理画面

Page 50: Computerworld.JP Jan, 2008

Computerworld January 200874

仮想化テクノロジー・アップデート特集

Data ONTAP 日本ネットワーク・アプライアンス

ストレージ仮想化

同社では、「FlexVol」と呼んでいる。

 FlexVolでは、複数のハードウェアにまたがるスト

レージ・リソースを単一のストレージ・プールに集約、

そのうえで、必要に応じた容量の論理ボリュームを複

数作成することができる。ストレージを利用するアプ

リケーションがアクセスするのは論理ボリュームとなる

ため、運用開始後でもハードウェアの追加や変更なし

に容量を増やすことができる。

 加えて、実際にデータが書き込まれたときに初めて、

物理ストレージ容量が消費されることになる。これら

により、ストレージの柔軟な運用を可能にし、物理容

量の利用効率を向上させることができる。

容量を抑えてクローンを作成できる仮想クローニング機能「FlexClone」 ほかには、ディスク容量の消費を抑えながら、論理

ボリュームのクローンを作成できる仮想クローニング

機能の「FlexClone」も、Data ONTAPに備わる特徴

的な技術である。

 FlexCloneにおけるクローンが単なるコピーと異な

るのは、コピーが元のボリュームと同一のストレージ

容量を消費するのに対し、クローンはいくつ作成して

もほとんど容量を消費しないという点だ。それは、ク

ローンを構成するデータには元データと同一のものが

使用され、クローンが存在していることはメタデータ

で示されるだけだからだ。

 また、クローンに対して変更が加えられたときには、

その部分だけが別途記憶されることになる。そのため、

クローンであっても通常のボリュームと同様に扱うこ

とが可能になっている。

多様な利用規模/形態に対応するストレージ専用OS 日本ネットワーク・アプライアンスの「Data ONTAP」

は、同社のストレージ・ハードウェア製品群「FAS」シ

リーズに搭載されるOSである。現行バージョンの「7G」

は、2004年より提供されている。

 FASシリーズには、最大4TBのエントリー・モデル

「FAS250」から、最大504TBのエンタープライズ・モ

デル「FAS6070」まで、さまざまな利用規模に応じた多

くの製品がラインアップされており、また、FC-SAN、

IP-SAN、NASといった利用形態に対応している。

同シリーズの特徴は、利用規模/形態が異なってい

ても運用管理は同一の手法で行える点にあり、そのた

めに統一的なアーキテクチャを提供し、技術的な基

盤となっているのがData ONTAPである。

シン・プロビジョニング技術の「FlexVol」を2004年から実装 ストレージ仮想化という観点からData ONTAPを

見た際に、特に重要な特徴として挙げられるのは、

物理的なストレージ容量にとらわれずに論理ボリュー

ムを作成できるシン・プロビジョニング機能に7Gのリ

リース時点から対応しているという点だ。この機能を

論理ボリューム(総容量2TB)

ストレージ・プール

ストレージ・ハードウェア(総容量1TB)

400GB 300GB 300GB

500GB 300GB 1TB

100GB 100GB

物理容量にとらわれない論理ボリュームを作成できるシン・プロビジョニング機能「FlexVol」

製品名  Data ONTAP開発元  日本ネットワーク・アプライアンス稼働環境 FASシリーズ価格   要問い合わせURL    http://www-jp.netapp.com/products/software/ontap.html

Spec Sheet

Page 51: Computerworld.JP Jan, 2008

January 2008 Computerworld 75

Part 5 Product Review[仮想化テクノロジー]

化コントローラと接続することで、パフォーマンスの

向上という効果が期待できる。

 なお、SANRISE時代には、仮想化コントローラ部

分だけを抜き出し、ストレージ部分を搭載しないモデ

ルもラインアップされていた。このモデルは新ブランド

の下に現在も販売されているが、USP V/VMの仮

想化コントローラと同等のものは、今のところライン

アップになく、今後の製品化が待たれる。

ストレージ利用の効率化を図るボリューム容量の仮想化機能 USP V/VMが備える仮想化関連機能の中でも特

に注目すべきは、同社が「ボリューム容量の仮想化機

能」と呼ぶシン・プロビジョニング機能である。これは、

物理ストレージの容量という制約にとらわれずに仮想

ボリュームの容量を設定可能とするものだ。この機能

を使えば、物理ストレージよりも大きな容量の仮想ボ

リュームを作成することができる。

 ボリューム容量の仮想化機能によって、ストレージ

にアクセスするアプリケーションを開発する際などに、

複雑なボリューム容量設計が不要となり、ストレージ

のキャパシティを見積もる作業が簡素化される。また、

外部ストレージにも適用できるため、ストレージ環境

全体で容量を効率的に利用できるようになる。

仮想化機能を重視したエンタープライズ・ストレージ 日立 製 作 所 の「Hitachi Universal Storage

Platform V(USP V)」および「同VM(USP VM)」は、

ストレージ仮想化に重点を置いたストレージ・ハード

ウェアである。最大物理容量が850TBのUSP Vは

エンタープライズ・モデル、177TBのUSP VMはエ

ントリー・モデルと位置づけられている。

 同社は以前、「SANRISE」(海外では「TAGMA

STORE」)というブランド名でストレージ製品を展開し

ていたが、2007年5月の「USP V」の発表と同時に、

「Hitachi Storage Solutions」という新ブランドに移

行した。この名称変更は、同社が、ハードウェアだけ

ではなく、ソフトウェアやサービスも含めたトータル・

ストレージ・ソリューションを提供していくという姿勢

を明示することをねらったものだ。

ストレージ本体に仮想化機能を搭載するアプローチを採用 ストレージ仮想化を実現するアプローチには、SAN

(Storage Area Network)内に仮想アプライアンスを

配置する手法や、SANスイッチに搭載した仮想化コ

ントローラを利用する手法がある。

 これらに対してUSP V/VMでは、ストレージ・ハー

ドウェア自体に仮想化コントローラが備わっている点

が大きな特徴だ。この仮想化コントローラは、USP

V/VMに接続された外部ストレージも仮想化環境に

含めることができる。特に、性能が低い旧モデルのス

トレージを利用するケースでは、USP V/VMの仮想

製品名 Hitachi Universal Storage Platform V/VM開発元 日立製作所稼働環境 ──価格 USP V:1億1,052万3,000円〜 USP VM:4,887万円9,600円〜URL http://www.hitachi.co.jp/products/it/storage-solutions/

Spec Sheet

Hitachi Universal Storage Platform V/VM 日立製作所

ストレージ仮想化

ボリューム容量の仮想化機能を備えたエンタープライズ・ストレージ「Hitachi Universal Storage Platform V」

Page 52: Computerworld.JP Jan, 2008

Computerworld January 200876

仮想化テクノロジー・アップデート特集

管理コンソール

SoftGridサーバ

SoftGrid対応アプリケーション

通常のWindows

アプリケーション

SoftGrid Sequencer

SoftGridクライアント

通常のWindowsアプリケーションを「SoftGrid Sequencer」がSoftGrid対応にパッケージング。それをSoftGridサーバが各クライアントに対してストリーミングで配信する

SoftGridによるアプリケーション・ストリーミング

同社のSoftGrid Data Storeに設定されているポリ

シーに基づいて自動的に配布され、セッション終了時

には削除される。また、アプリケーションのインストー

ル・ルーチンが行うシステムの変更は、シーケンサー・

ユーティリティによってカプセル化されて、アプリケー

ション・イメージと一緒にクライアント上のSystem

Guardに配信される。

 この環境では、アプリケーションをインストールす

る必要もなければ、競合という問題が発生することも

なく、アプリケーションの互換性テストに伴う費用が

最小限に抑えられる。また、従来のようにユーザーや、

ユーザーが使用するアプリケーションの環境が特定の

PCに束縛されることもなくなる。その結果、IT部門

のビジネス・ニーズに対する柔軟性と即応性が向上し、

最終的にはアプリケーションやOSの移行といったPC

管理コストの大幅な削減がもたらされるとしている。

ビジネスの継続性を確立しデスクトップを保護する環境を提供 SoftGridでは、仮想アプリケーションを他の企業

データと同様に複製することで、瞬時にフェールオー

バを実施することができる。また、SoftGridユーザー

のプロファイルをネットワーク上に保管するように設

定することで、ユーザー固有のアプリケーション設定

をバックアップ・サイトに簡単にコピーすることも可能

となっている。

 ほかにも、読み取り専用モードなど、アプリケーショ

ンのアクセス許可を一元管理し、不正な使用や変更

を防ぐ機能も備わっている。

ストリーミングで仮想アプリを配信しPC管理コストを大幅に削減 マイクロソフトの「Microsoft SoftGrid Appli

cation Virtualization」(以下、SoftGrid)は、アプリ

ケーションをネットワーク上で配信可能な仮想化され

たサービスに変換することで、動的なソフトウェアの

配信を可能にするソフトウェアである。もともと、米

国ソフトリシティが提供していた製品であったが、

2006年にマイクロソフトが買収したことで、現在は同

社のデスクトップ管理ソフトウェア製品群「Microsoft

Desktop Opt imizat ion Pack for Software

Assurance」に含まれる1製品として提供されている。

 SoftGridの特徴は、ストリーミング配信で仮想ア

プリケーションを提供する点にある。同製品では、ア

プリケーションのイメージをサーバに格納しておき、そ

れを仮想化して「SystemGuard」と呼ばれる仮想ラン

タイム環境を搭載したクライアントに配信し、そこで実

行させるという仕組みがとられている。アプリケーショ

ン・イメージは、マイクロソフトのActive Directoryや

製品名 Microsoft SoftGrid Application Virtualization開発元 マイクロソフト稼働環境 Windows 2000 Server/Advanced Server、 Windows Server 2003 SP1/R2価格 要問い合わせURL http://www.microsoft.com/japan/systemcenter/softgrid/

Spec Sheet

Microsoft SoftGrid Application Virtualization マイクロソフト

アプリケーション仮想化

Page 53: Computerworld.JP Jan, 2008

CPU/HDD/メモリの明日を読むナノテクという言葉が使われるようになって久しいが、その進歩は今なお、とどまることを知らない。本企画では、ナノテクが生み出そうとしている近未来のCPU、ハードディスク、メモリの姿を紹介する。パート1では、45nmプロセス技術や3Dトランジスタといった、CPUの高性能化を実現するための最新の技術動向に迫る。パート2では、大容量化が著しいハードディスクを、さらに容量アップさせるパターンド・メディア技術を中心に紹介しよう。最近では、ハードディスクの代わりにフラッシュメモリを搭載するPCが注目を集めているが、大容量となるとハードディスクの役割は、今後さらに重要になると考えられる。パート3では、次世代DVDのさらに先を行く新方式の光メモリとして編集部が注目するホログラム・メモリを紹介する。近い将来、これらの次世代ハードウェア・テクノロジーが企業コンピューティングの根幹を支えることになるかもしれない。

後藤弘茂/土屋 勝/井上光輝

January 2008 Computerworld 77

特別企画

ナノテク研究の前線からラボ発! ハードウェア・テクノロジー最新情報

Page 54: Computerworld.JP Jan, 2008

Computerworld January 200878

ナノテク研究の前線からCPU/HDD/メモリの明日を読む     特別企画

「ムーアの法則」に従うコンピュータ産業の発展

 コンピュータ産業は、「ムーアの法則」に従って躍進

を続けている。ムーアの法則は、半導体チップ上のト

ランジスタの集積度が18〜24カ月で倍増するというも

のだ。インテルの共同設立者であるゴードン・ムーア

氏が提唱し始めた半導体製造の経験則であり、ここ

10年ほどは、約2年で2倍のペースで集積度が上がっ

ている。

 2倍ごとの半導体技術の節目をプロセス(集積回路

の線幅のこと)世代と呼び、現在はナノメートル(nm)

単位を使っている。例えば、インテルのCPUの場合

は2004年に90nmプロセス、2006年に65nmプロセス、

2007年末には45nmプロセスに達しており(写真1)、ほぼ2年ペースで、プロセス世代を移行させている。

 ムーアの法則では、半導体チップの集積度は、指

数関数的に伸びてゆく。

 例えば、メモリ・チップでは、2年ごとに32MB、

64MB、128MBと容量が倍増する。CPUでは、プロ

セッサ・コアの数が1コア、2コア、4コアと、2年ごと

に倍増する。そのため、コンピュータの性能とコン

ピュータに搭載できるメモリ量が指数関数的に増えて

いく。コンピュータ業界の指数関数的な発展は、ムー

アの法則を源泉としているのだ。

 ムーアの法則で伸びるのはトランジスタの数だけで

はない。以前は、ムーアの法則に伴う「CMOSスケー

リング」(注1)に沿って、半導体以外の要素も指数関

数的に変化してきた。半導体チップの集積度が2倍に

上がることは、チップ上のトランジスタの幅と長さがそ

れぞれ0.7倍に縮小することを意味する。トランジスタ

が小型化すれば、トランジスタのスイッチ速度が速く

なり、チップが高速になる。また、トランジスタの小

型化は、トランジスタを駆動する電圧の低減を可能に

する。

 従来は、半導体のプロセスが1世代進んで、搭載

できるトランジスタ数が2倍になると、動作周波数は

1.4倍になり、電圧は0.7倍になった。チップの消費

電力は「トランジスタの電気容量(電気のたまりやす

さ)×電圧の2乗×動作周波数」に比例する。そのため、

トランジスタ数が2倍になり、周波数が1.4倍になるこ

とで消費電力が上がっても、トランジスタが小型で低

電圧になることで相殺されていた。

 つまり、チップの消費電力を増やすことなく、2倍

の規模のチップを1.4倍の速度で動かすことが可能

だったわけだ。

CPUに代表される半導体製品は、プロセス技術と呼ばれるナノテクの革新とともに進歩を続けている。その指標となっているのが有名な「ムーアの法則」だ。この法則が今後も続いていくとすると、やがてはスパコン並みの性能を持つPCが実現する可能性があるという。本パートでは、高性能化に向けて微細化を続けるCPUの歩み、そしてさらなる微細化・高速化を実現に導くとされる「3Dトランジスタ」技術や「EUV技術」などの次世代ナノテクを紹介しよう。

後藤弘茂

スパコン並みの性能をPCにもたらすCPU

45nmプロセス技術、3Dトランジスタ、EUV技術……1Part

Page 55: Computerworld.JP Jan, 2008

January 2008 Computerworld 79

Part1 │ スパコン並みの性能をPCにもたらすCPU

鈍化するムーアの法則と「モア・ムーア」の流れ

 ところが、2000年代に入り130nmプロセス以降、

こうしたCMOSスケーリングがうまく働かなくなってき

た。まず、トランジスタを駆動する電圧は、従来は1

世代ごとに0.7倍にスケールダウンしていたのが、現

在では0.9倍以下に下がってしまった。そのため、半

導体チップの動作時の消費電力がぐんぐん上昇を始

めたのだ。また、トランジスタ自体の高速化もペース

が落ち、動作周波数を上げにくくなった。

 さらにリーク(漏れ)電流が増大し始めた。トランジ

スタがより微細化されたことで無駄な電流が流れるよ

うになり、チップの動作時の消費電力がさらに上昇、

待機時でさえ多くの電力を消費するようになった。

 現在、半導体技術は、こうした問題に直面しており、

岐路にさしかかっている。しかし、半導体技術上の

根本的な改革が次々と進みつつあり、特に45nmプロ

セス以降は、1世代ごとに技術的な飛躍が起きると言

われている。

 そのため、半導体の最先端プロセスの開発は、非

常にハードルが高いものになりつつある。1世代ごとに、

これまでよりも開発費用と時間がかかると予想される。

実際、半導体業界のロードマップ「ITRS」(注2)の最

新版「ITRS 2006 Update」では、メモリもCPUも、

今後は1世代の移行に3年かかると予想している。ムー

アの法則が鈍化しつつあるのだ。

 その一方で、鈍化するムーアの法則を延命させよ

うとする技術の流れがあり、「モア・ムーア(more

moore)」と通称されている。その技術革新分野は多

岐に渡り、トランジスタや配線への新しい材料の導入、

トランジスタの構造や配線の生成方式の革新、回路

パターンなどを焼き付ける露光技術の改革などが進

められている。

 また、ムーアの法則が鈍化した場合でも、半導体

製品の容量増大や性能アップを継続するために、半

導体チップを複数重ね合わせる3D化の技術も、中間

解として浮上している。

 さらにその先の展開として、半導体技術をマイクロ

センサーやバイオチップ技術と融合させることで多様

化させる「モアザン・ムーア(more than moore)」や、

現在のCMOS以外の技術を模索する「ビヨンド

CMOS(Beyond CMOS)」と呼ばれる技術の流れも

広がっている。延命してもムーアの法則が2020年ご

ろには限界に当たると見られているからだ。

High-k材料の導入で45nmプロセスが飛躍する

 半導体チップの製造は大きく2つの工程に分けられ

る。シリコン上にトランジスタを形成する前工程と、

その上に配線を形成する後工程だ。前工程では、ト

ランジスタの小型化が進むにつれて漏れ電流が大きく

なるという問題があるが、それを解決する新しい技術

が投入されつつある。

 トランジスタは、ソース電極とドレイン電極の間にシ

リコン基板が挟み込まれる構造となっている(図1)。

スパコン並みの性能をPCにもたらすCPU

注1:Complementary Metal Oxide Semiconductor注2:International Technology Roadmap for Semiconductors

写真1:45nmプロセス技術を採用した「Penryn(開発コード名)」ウェハを掲げるインテルCEOのポール・オッテリーニ氏(2007年9月)

Page 56: Computerworld.JP Jan, 2008

Computerworld January 200880

ナノテク研究の前線からCPU/HDD/メモリの明日を読む     特別企画

ソースとドレインの間は、トランジスタがオフ状態では

電流は流れない。しかし、ソースとドレインの間の上

に配置されたゲートに電圧をかけると、ソースとドレイ

ンの間に電子の通り道である「チャネル」が形成され、

電流が流れ始める。これがオン状態で、オンとオフの

スイッチが高速であればあるほど、チップの動作を速

くできる。

 電流は、トランジスタの動作に必要な分しか流れな

いのが理想だ。ところが、現在のトランジスタは、動

作とは関係なく電流が漏れ出している。まるで、水道

の蛇口がしっかり締まらなくなり、水が常にポタポタ

とこぼれ落ちているような状態だ。高速のCPUでは、

消費電力の3分の1が漏れ電流になってしまっている

のである。

 トランジスタから電流が漏れ始めた原因は、トラン

ジスタが原子レベルにまで小さくなったことにある。

例えば、現在のトランジスタは、ゲートとチャネルの

間を絶縁する「ゲート絶縁膜」が5〜6原子分程度の

厚みしかない。そのため、絶縁膜を介して電流が流

れるようになってしまった。また、絶縁膜の原子1個

分のばらつき(厚みの増減)で、より多くの電流が漏

れるようになった。トランジスタを小さくする限界に近

づきつつあるのだ。

 この問題を解決するため、45nmプロセスでは、イ

ンテルやIBMが「High-kゲート絶縁膜」を導入した(図2)。

 High-kとは誘電率が高い(電気がたまりやすい)材

料という意味で、膜を厚くしても電流を流しやすい。

つまり、漏れ電流を抑えながら、トランジスタを速く

動かすことができる。これは、消費電力をある程度抑

えながらチップを高速化できることを意味する。

トランジスタの構造は2Dから3Dへと向かう

 High-kはトランジスタの材料を変えることで、漏れ

電流を抑える技術だが、現在のトランジスタが抱える

問題を、もっと根本的に解決しようという動きもある。

「3Dトランジスタ」と呼ばれる、これまでとはまったく

構造の異なるトランジスタだ(図3)。

 半導体の歴史が始まって以来、これまで、トランジ

スタは基板上に平面的に作られていた。今もトランジ

*資料:インテル

シリコン基板

シリコン・ゲートSiO2ゲート絶縁膜

ソース ドレイン

図1:一般的なシリコン・トランジスタ

*資料:インテル

シリコン基板

メタル・ゲートHigh-k

ゲート絶縁膜

ソース ドレイン

図2:「High-k」ゲート絶縁膜を導入したトランジスタ

Page 57: Computerworld.JP Jan, 2008

January 2008 Computerworld 81

Part1 │ スパコン並みの性能をPCにもたらすCPU

スタは、2D構造をしており「プレーナ型」と呼ばれる。

プレーナ型は平面に積み上げて作るため、構造が単

純で製造しやすい。

 だが、微細化の結果、薄くしなければならない絶

縁膜などが限界に来て、漏れ電流という問題を抱え

込んでしまった。

 今後、さらにトランジスタが小さくなると、ソースと

ドレインの両電極の距離が短くなり、ゲートがオフの

状態でも漏れ電流が流れてしまう「短チャネル効果」

が大きくなる。短チャネル効果を抑えようとすると、

トランジスタを高速化しにくくなってしまう。High-k

でゲートの漏れ電流を抑えても、すべての問題を解

決することができない状況にある。

 そのため、16〜22nm以降のプロセスからは、プレー

ナ型では対応できなくなると言われてきた。

 従来の2Dトランジスタに対して、3Dトランジスタは、

名前のとおり立体構造となる。チャネルを基板上に

立て、その回りをゲートで挟むか囲む構造を取る。プ

レーナ型が絵に描いたようなトランジスタなら、3D型

は積み木のようなトランジスタだ。

 3Dトランジスタでは、ゲートが両側や上からチャネ

ルを挟み込むため、ゲートの面積が大きくなる。その

ため、チャネルの駆動電流を上げやすくなり、トラン

ジスタがより高速になる。その一方で、短チャネル効

果を抑えることも可能になり、消費電力も抑えられる。

また、トランジスタを立てたことで、平面上の面積を

小さくすることも容易なので、チップの集積度を上げ

やすい。

 つまり、3Dトランジスタは「より高速、より低電力、

より高集積」という理想的なデバイスなのだ。

 ただし、問題もある。それは、ゲートを立体的に構

築するため、生成が非常に難しいことだ。

 2000年ごろから各社が試作を行っているが、難度

が高いため、まだ量産には至っていない。また、一口

に3Dトランジスタと言ってもさまざまな方式があり、

「FinFET」あるいは「ダブル/トライ・ゲート・トランジ

スタ」などと呼ばれるものが考えられている(図3)。

 そのほかにも、トランジスタのチャネルの下を完全

に絶縁層でカバーしてしまう「完全空乏型SOI(silicon

-on-insulater)基板」といったものが研究されている

が、いずれにしても、トランジスタ構造を立体化する

アプローチが注目を集めている。

*資料:インテル

ダブル・ゲート

ソース

ドレイン絶縁膜

ゲート1

ゲート2

トライ・ゲート

ソース

ドレインゲート3

ゲート1

ゲート2

図3:3Dトランジスタの構造

Page 58: Computerworld.JP Jan, 2008

Computerworld January 200882

ナノテク研究の前線からCPU/HDD/メモリの明日を読む     特別企画

究極の絶縁材料である真空を配線間に使う

 プロセスが微細化すると問題が発生するのはトラン

ジスタだけではない。トランジスタを結ぶ配線層も問

題となる。一般に、トランジスタが小さくなると、配線

も細くなる。配線が細くなると、配線の抵抗が増して、

信号が配線を伝達する速度が遅くなる。これは、道

路が細くなって車が通りにくくなり、交通渋滞が起き

るのと似ている。

 配線の遅延が大きくなると、チップの性能が上がら

なくなってしまう。つまり、渋滞のために、一定の時

間に車が走ることのできる距離が短くなる。すると、

車での荷物の輸送、つまり信号の伝達が遅くなり、チッ

プが性能を出せなくなってしまうのだ。

 今後、プロセスの微細化が進んで行くと、トランジ

スタは小型化できるが、配線が追いつかないために、

微細化の効果が薄れてしまう可能性もある。

 この問題を解決するために、半導体プロセスでは、

配線に抵抗の少ない銅(Cu)、配線の間の絶縁膜に

「Low-k」(誘電率が低い材料)を採用している。なぜ

なら、配線の遅延は、配線の抵抗と配線間の容量(電

気容量)の積に比例するからだ。そのため、銅配線だ

けでなく、誘電率の低い(電気がたまりにくい)Low-k

膜をセットで導入しないと、遅延を減らすことができ

ない。

 そこで、半導体ベンダーは、世代ごとにより誘電率

の低い材料を導入してきた。しかし、比誘電率(真空

の誘電率に対する比)が2以下で、かつ半導体に使え

る材料はなかなか見つからないのが現状であった。

 そこで画期的な発表を行ったのはIBMだ。IBMは

配線の間に、真空の透き間を作り、絶縁する技術を

発表した。

 真空は、最も誘電率が低い(比誘電率1)究極の絶

縁体だ。IBMの技術では「AirGap」と呼ばれる「真

空の透き間」を挟み込むことで、配線間容量が最低

になる(図4)。IBMの発表では、その結果、配線の

速度を35%アップするか、消費電力を15%抑えるこ

とができるという。

 これまでも、配線の間に真空を使うというアイデア

は出てきていた。配線間の絶縁膜に穴を開ける「ポー

ラス」技術は日本の半導体「MIRAIプロジェクト」で

も開発されている。

 しかし、透き間を大きく加工することは、製造上き

*資料:IBM

Low-k Ultra Low-k Porogens AirGap

年度

誘電率 3.0 2.4 1.9 1.5 1.3 1.3以下

2004 2007 2010 2013 2016 2020

真空の透き間

図4:配線間に用いる絶縁材料の革新

Page 59: Computerworld.JP Jan, 2008

January 2008 Computerworld 83

Part1 │ スパコン並みの性能をPCにもたらすCPU

わめて難しく、そのため実際には採用されてこなかっ

た。これまでは、積み木をぎっしりと並べて重ね合わ

せていたのが、積み木の間に透き間を作ろうとすると、

積み上げにくいというわけだ。

 IBMは、この問題を「自己組織化」によって解決し

た。自己組織化とは、自然界で雪の結晶が自発的に

できるのと同様のプロセスであり、IBMの技術では、

穴が自発的に形成される。穴の大きさはわずか20nm

で、1枚のウェハ上に何兆個もの穴が開く。その穴の

下の配線膜をエッチング(溶解)することで、真空の

透き間を作り出す。

 AirGap技術は、究極の絶縁体であり、配線間の

構造としては理想的だ。そのため、製造方法が確立

されればスタンダードになって行く可能性もある。

EUV露光技術がいよいよ試作段階に

 モア・ムーアを推進するうえでの、もう1つの壁は、

チップ上にパターンを刻む露光技術だ。トランジスタ

と配線が微細になれば、当然、回路を刻み込む露光

の波長も短くならなければならない。露光技術が追い

つかないと、太い筆で細い線を描くような状態になっ

てしまい、正確な露光ができなくなってしまう。

 ところが、現在のArF(フッ化アルゴン)露光は波

長が193nmで、実際にはプロセスの回路のハーフピッ

*資料:インテル

1980年 1990年 2000年 2010年 2020年

1000nm

100nm

10nm

露光の波長248nm

193nm

13nmEUV

プロセス技術のスケール

65nm

90nm

45nm

32nm

図5:露光技術の革新

Page 60: Computerworld.JP Jan, 2008

Computerworld January 200884

ナノテク研究の前線からCPU/HDD/メモリの明日を読む     特別企画

チ、つまり配線の一番細い部分の配線と配線間を足

した幅より太くなってしまっている。65nmプロセスな

らハーフピッチが65nmなので、現在は限界に近い。

そこで、45nmプロセスでは「液浸」と呼ばれる技術で、

解像度を上げることで対応するのが一般的になりつ

つある。液浸は、水の屈折を利用して解像度を上げ

る技術だ。

 問題はその先の32〜22nm世代で、22nm以降は液

浸でも対応がきわめて難しいと言われている。

 そこで、次世代のEUV(Extreme UltraViolet)

露光が脚光を浴びている(83ページの図5)。EUVは、

波長が13.5nmと短い極紫外線を使う露光技術だ。

EUV露光を使うと、今後予想されている10nm台の

プロセスまでの技術に対応できるという。これは、極

細のペンで回路を描くイメージで、22nm以降のプロ

セスにとっては理想的な技術だ。

 EUVは、最初は45nm前後の導入を目指してスター

トしたが、開発が難しいため計画が大幅に遅れていた。

しかし、最近になって試作機器の発表が相次いでお

り、実用化のめどがついてきた。

ムーアの法則の継続で1,000コアCPUも視野に

 こうした技術革新が順調に進んで行けば、今後も

ムーアの法則は、鈍化しつつも継続されていく。しか

し、実用化につまづく技術が出ると、ムーアの法則が

足踏みしてしまう場合も考えられる。また、技術難度

が上がったために、ムーアの法則の継続が可能であっ

ても、最新プロセス技術はコスト的に見合わないもの

になる可能性もある。そうした場合、ムーアの法則に

沿って発展してきたコンピュータ産業自体の勢いが鈍

化してしまうかもしれない。

 そこで、こうした問題を解決する手段として、2006

年から、半導体の「3D統合化(3D Integration)」と

いうアイデアが急浮上してきた。3D統合化は、複数

の半導体チップを積層化したり、1つのチップの上に

複数のトランジスタを積層する技術の総称だ。IBM

やインテルをはじめ、各社がこぞって論文を発表して

いるほか、今年2月に開催されたISSCC(注3)でも、

3D統合化の特別フォーラムが開催されている。

 3D統合化では、先端プロセス技術を使わなくても、

より大容量化が可能なので、プロセス開発コストが高

騰する場合にはコスト面で有利となる。これまでもワ

ン・パッケージに複数チップを搭載する技術はあった

が、現在開発されている3D統合化は、従来技術より

も密な統合を実現し、低コスト化だけでなく、高いパ

フォーマンスも実現する。

 半導体ベンダーは、プロセス技術の拡張を続けつ

つ、中間解として3D統合化技術も導入してくると予

想される。現在予想されているとおりにムーアの法則

が2020年まで継続されると、12〜16nmプロセスが実

現可能な範囲に入る。

 65nmから12nmへ微細化が進むと、原理的に32倍

のトランジスタが搭載できるようになる。65nmでデュ

アルコアのCPUは、12nmでは64コアにできる計算だ。

CPUコアを演算に特化した小型のコアとして設計す

ると、65nmで16〜32コア、12nmでは512〜1,024コ

アが搭載できる計算となる。

 実際には、チップすべてをCPUコアにできるわけ

ではないが、理論上は1,000コアCPUが見えてくる。

もし、動作周波数が4GHzにとどまるとしても、1,000

コアの演算性能は約32TFLOPS(注4)に達する(注5)。これは、大学や研究所に導入されている、科学

技術演算用のスーパーコンピュータ・クラスの性能だ。

2020年には、現在のスパコンの性能が、デスクトッ

プPCやノートPCにやってくることになる。

 その場合の問題は、膨大な演算リソースを活用で

きるだけの並列性のあるプログラムを作ることだ。OS

やアプリケーションだけでなく、プログラミング言語の

レベルからの改革が必要となる。ムーアの法則の継

続による半導体の進化は、最終的にソフトウェアの飛

躍も促すことになる。

注3:IEEE International Solid-State Circuits Conference注4:1秒間に32兆回の浮動小数点演算を行う処理速度注5:各CPUコアが1個のSIMD型浮動小数点演算ユニットを備える場合

Page 61: Computerworld.JP Jan, 2008

January 2008 Computerworld 85

Part2 │ テラバイト領域に突入したハードディスク

ナノテクはハードディスクの分野にも大きな革新をもたらしている。私たちが高品質の大容量データを扱えるようになったのも、ハードディスクを高密度化・大容量化させたナノテクがあってこそと言えるだろう。本パートでは、大容量化に向かうハードディスクの歩みと現状、そして1平方インチ当たり1テラビットという超高密度の次世代ハードディスクを実現に導く「パターンド・メディア」技術を紹介する。

土屋 勝

テラバイト領域に突入したハードディスク

垂直磁気記録方式、TMRヘッド、パターンド・メディア……2Part

かつては自販機サイズで5MBしかなかったハードディスク

 磁気円盤にデータを記録するハードディスクが登場

して50年以上がたつ。世界最初のハードディスクは

1956年に公開された「IBM RAMAC」だ。これは直

径24インチ(61cm)ディスクを50枚重ねたもので、自

動販売機より大きいにもかかわらず、たった5MBの

記憶容量しかなかった。

 それが、現在では手のひらに乗る3.5インチのハー

ドディスクで1TB(テラバイト:1,024GB)、切手サイ

ズの0.85インチでも4GB程度の容量を達成している。

かつてあった8インチ、5インチといった“大型”ハード

ディスクは今や生産されておらず、サーバ用、エンター

プライズ・ストレージ用としても3.5インチや2.5インチ

のものが使われている。一般家庭においても、ハイビ

ジョン対応の大容量ハードディスク・レコーダーとなる

と数百GBから1TBといったものが珍しくない。また、

ディスク内部や、ディスクとCPUなどのインタフェー

スの高速化も進んでいる。

 こうしたハードディスクの大容量化と小型化、高速

化は磁気メディアの高密度化、磁気ヘッドの微細化、

アーム制御の精密化といった技術進化の結晶とも言

える。どれか1つだけが突出して進化しても、製品と

しての小型・大容量ハードディスクは生まれないのだ。

ハードディスクの構造と記録原理をチェックしよう

 ここでハードディスクの構造をおさらいしてみよう。

現在では、サイズや容量が違っても基本的に同じ構

造原理を持っている(図1)。 まず、磁気メディアである「プラッタ」という円盤が

何枚か積み重ねられており、「スピンドル・モーター」に

よって高速回転する。プラッタはガラスやアルミニウ

ムなどに磁性体(磁気を帯びる性質を持つ物質)を塗

布したもので、その表面はきわめて滑らかである。

 プラッタの各面には磁気データを記録/読み書き

する「磁気ヘッド」が位置する。磁気ヘッドとプラッタ

の間隔は、タバコの煙粒子より小さい10〜30nm(ナ

ノメートル)程度しかない。磁気ヘッドは「スイングアー

ム」で支えられており、「ボイスコイル・モーター」でプ

ラッタ上を瞬時に移動するシーク動作を行うことがで

きる。

 データはプラッタを同心円上に区切った「トラック」

と、それを扇状に区切った「セクタ」という単位で記録

Page 62: Computerworld.JP Jan, 2008

Computerworld January 200886

ナノテク研究の前線からCPU/HDD/メモリの明日を読む     特別企画

される。また各プラッタで同位置にあるトラックの集

合を「シリンダー」という。セクタはディスクにおける物

理的な記憶領域の最小単位であり、OSはいくつかの

セクタをまとめたクラスタという単位でデータを記録

する。

 ハードディスクは、ビデオテープ、フロッピーディ

スクなどと同じ記録原理を持つ。すなわち磁性体粒

子を、あるパターンに磁化する(N極とS極を持つ棒

磁石のようにある方向に向かせる)ことで、データを記

録する。

 ビデオテープやフロッピーディスクでは、プラスチッ

クのテープや円盤に磁性体粉末を塗布したものが使

われているが、ハードディスクはその名前のとおり、

ガラスやアルミニウムなどの固い基板(円盤)に磁性体

を蒸着したものが使われている。その構造は下から、

約1mm厚の基板、約20nm厚の非磁性体下地層(ク

ロム系合金など)、約20nm厚の記録層(コバルト、ク

ロムなどの磁性体)、数nm厚の保護膜(カーボン)と

いった階層になっている。

現在のハードディスクでは垂直磁気記録方式が主流

 小型・大容量を実現するためには、同じ面積に書

き込む情報の密度を高めればよい。そのため、磁性

体の粒子を細かくすることが求められる。

 従来、使われてきた磁気記録方式は、ディスク表

面に対して磁性体を水平方向に磁化する水平磁気記

録方式(面内磁気記録方式、長手記録方式ともいう)

である(図2)。表面から見て、磁石が横に並んだ状態

である。ところが、ある程度以上に磁性体粒子を細

かくしていくと、隣り合った磁極どうしの反発などに

より、磁力が弱くなる問題が生じる。さらに密度を上

げていくと、熱によるゆらぎ(熱ゆらぎ)も無視できなく

なり、記録密度向上の限界が出てきてしまう。

 これを解決したのが、面に対して垂直方向に磁化

することでデータを記録する垂直磁気記録方式であ

る(図3)。垂直磁気記録方式は1975年、東北大学電

気通信研究所教授の岩崎俊一氏(現在は東北工業大

学学長)らにより、水平磁気記録方式に対する優位性

が提唱された。1970年代には六角板状バリウムフェ

ライトを使った垂直磁気記録テープが実用化され、

1980年代に入るとMOで採用された。

 ハードディスクへの応用はだいぶん遅れて、2005

年になり東芝が初めて1平方インチ当たり130ギガビッ

トの製品化に成功した。現在は各社が大容量ハード

ディスクに採用しており、ここしばらくは主流になっ

ている記録方式と言える。

スイングアーム

ボイスコイル・モーター(アクチュエーター)

スピンドル・モーターセクタ

プラッタ(ディスク)

トラック

ヘッド

シリンダー

図1:ハードディスクの構造

Page 63: Computerworld.JP Jan, 2008

January 2008 Computerworld 87

Part2 │ テラバイト領域に突入したハードディスク

記録密度の向上とともに磁気ヘッドにも進化が求められた

 ハードディスクの高密度化を実現するためには、記

録と読み書きを行う磁気ヘッドの改良も不可欠であ

る。初期の磁気ヘッド(電磁誘導型)では、ギャップ(空

間)のある磁気コアにコイルを巻き、ギャップから漏れ

る磁場によってデータを読み書きしていた。しかし、

記録密度を上げるためにはヘッドの小型化が必要に

なり、機械的な加工方法では対応できなくなってきた。

そこで半導体技術を応用し、エッチングによって精

密加工した薄膜ヘッドが登場した。

 記録方式の高密度化によって、もう1つ大きな問題

が出てきた。それは磁性体粒子を小さくしたために磁

性体から発生する磁場が弱くなり、コイルとギャップ

を使ったこれまでの電磁誘導型ヘッドでは読めなく

なってしまうというものだ。そこで開発されたのが磁

場の変化に応じて電気抵抗が変わるNi-Fe(ニッケル-

鉄)合金などの磁気抵抗素子(MR素子)を利用し、磁

場の変化を抵抗の変化として読み取ることで従来の

10倍以上の感度を持たせたMRヘッドである。この場

合もデータの書き込みには薄膜電磁誘導型ヘッドを

利用するハイブリッド構造になっている。

 MRヘッドは1990年代にハードディスク用磁気ヘッ

ドの主流となったが、1990年代後半には、さらなる高

密度化に対応するため、2倍以上の磁気抵抗効果を持

つコバルト系素材を使った巨大磁気抵抗素子(GMR

素子)を採用したGMRヘッドが製品化された。ちょう

ど2007年のノーベル物理学賞は、巨大磁気抵抗効果

を発見したフランス・パリ南大学教授のアルベール・

フェール氏とドイツ・ユーリヒ固体物理研究所教授の

ペーター・グリュンベルク氏に決まったばかりである。

 しかし、GMRヘッドもこれ以上の高密度化に対応

することは困難となり、2006年ごろからはトンネル磁

気抵抗(TMR)効果を使ったTMRヘッドが主流となり

つつある。トンネル磁気抵抗効果とは、強磁性体と

強磁性体の間に絶縁物の薄膜を挟み、磁場の影響に

よるトンネル効果(絶縁物を越えて電流が流れる微視

的世界の現象)によって電気の流れに変化が起きる現

象だ。この現象を利用することで、高密度用磁気ヘッ

ドに必要な高い磁気抵抗効果を得ることができる。

 また、TMRヘッドよりもさらに微細化が可能とされ

るCPP-GMRヘッド(GMR素子の面に対して垂直に

電流を流す方式)の開発も、一方で進んでいる。

さらなる高密度化を実現する「パターンド・メディア」

 垂直磁気記録方式の記録密度をさらに高める方法

として注目されているのが、磁性体を非磁性体で区

NS NS NS NS NS

磁気ヘッド

磁性体磁場

再生ヘッド

図2:水平磁気記録方式

NS

SN

NS

SN

NS

SN

NS

SN

NS

SN

磁気ヘッド

磁性体磁場

再生ヘッド

軟磁性体

図3:垂直磁気記録方式

Page 64: Computerworld.JP Jan, 2008

Computerworld January 200888

ナノテク研究の前線からCPU/HDD/メモリの明日を読む     特別企画

切ることで微細化する「磁性ドット方式」である。磁性

ドットを作成する方法としては、電子線描画/エッチ

ング式、ポリマーの自己組織的な偏析(物質中の不純

物などの分布が不均一になる現象)を利用する方法な

どが提唱されている。

 山形富士通では磁性ドットの作成にアルミナ(酸化

アルミニウム)の「ナノホール・パターンド・メディア方

式」を採用、科学技術振興機構の助成を受け、富士

通研究所、神奈川科学技術アカデミー(KAST)、首都

大学東京益田秀樹研究室と共同研究を進めている。

 この方式はアルミニウムの表面に微細な穴(ナノ

ホール)を作り、そこに磁性体を充填するというもの(図4)。この穴はメディアに垂直方向に形成されるため、

磁性体は垂直に磁化されやすい。また厚みを増すこ

とでビット体積を大きくできるので、熱揺らぎに強い。

さらに、ナノホールに充填された磁性体は相互に離れ

て存在するため、影響し合うことが少なくなる。

 ナノホールは、アルミニウムを電解酸化(陽極酸化)

させてできる酸化アルミニウム(アルミナ)の膜上に作

られる。このアルミナの穴は、日本で開発された「ア

ルマイト処理」として、古くからアルミニウム製品の表

面着色や耐食性向上のために用いられてきた。ナノ

ホールが生成されたアルミ板に磁性金属であるコバ

ルトを電気メッキで充填し、表面を研磨するとナノ

ホール・パターンド・メディアの完成となる。穴の周期

(ピッチ)は、数百〜10nmまで、陽極電圧によって制

御することができる。

 現在、開発が進められている次世代大容量ハード

ディスク・メディアの記憶密度は、1平方インチ当たり

1テラビットを目指している。これには25nm間隔でナ

ノホールを生成する必要がある。

 ただし、ナノホールの間隔以外にも問題はある。従

来の方法で電解酸化を行うとナノホールが膜上に均

一に生成されてしまうのだ。これでは、円周方向に沿っ

て磁気記録を行うハードディスクには適さない。

 そんななか、電解酸化する前にアルミ表面にすじ

状の窪み(凹凸パターン)を付けておくと、ナノホール

がその窪みに沿って成長するという発見(1997年)に

注目が集まった。つまり、特定の方向にナノホールを

作ることができる秩序配列技術の発明である(図5)。

 2006年には秩序配列技術に改良が加えられ、円周

方向に(すじ状の窪みに沿って1列に)ナノホールを並

べる1列配列技術に成功した。

ナノホールの2列配列技術で25nmピッチを実現

 しかし、1列配列技術では45nmピッチが限界であり、

S

N

アルミナ

ナノホール

磁性体プラッタ

N

S

S

N

N

S

S

N

図4:ナノホール・パターンド・メディア

Page 65: Computerworld.JP Jan, 2008

January 2008 Computerworld 89

Part2 │ テラバイト領域に突入したハードディスク

25nmピッチの実現は困難だった。ところが、KAST

でこの限界を突破する技術が開発された。2007年1

月に発表された2列配列技術である(図6)。これは陽

極酸化条件を操作することにより、窪みの壁に沿っ

て2列のナノホールを形成するものだ。つまり、50nm

間隔の凹凸パターンを作れば、25nm間隔でナノホー

ルを生成させることができる。

 この発表について富士通研究所ストレージ研究所

専任研究員兼山形富士通磁気媒体統括部統括部長

付/厚木分室長の伊藤健一氏は次のように語る。

 「凹凸の間隔が50nmピッチで、溝の両側にナノホー

ルが形成され、ナノホールの平均間隔は25nmピッチ

を達成した(写真1)。長さ方向も平均25nmピッチに

なっており、ナノホール形成のポテンシャルとしては1

平方インチ当たり1テラビットを実現できるめどがたっ

た」

 当初、この凹凸パターンはダイレクト・インプリント

と呼ばれるプレス法によって生成されていた。凹凸が

逆になったSiC(炭化シリコン)製のモールドを作り、

アルミ表面に1平方cm当たり数十トンという圧力で押

し付けることによって微細な凹凸を刻印するのだ。

 だが、この方法では作業効率が低く、モールドの

損傷も激しいので大量生産には適していない。研究

グループではダイレクト・プリントに代わるナノ・インプ

リント・リソグラフィ法を用いることで、アルミ表面に

ナノメートルサイズの凹凸パターンを作ることに成功

した。

 これは、アルミ表面に樹脂の皮膜を作り、それにモー

ルドで溝を切り、エッチングしてから電解酸化処理を

行うというものだ。工程が複雑にはなるものの加圧が

不要で、製品化に不可欠な大面積のアルミ板への処

理も可能になるという。

 ただし、パターンド・メディア技術によって、ディス

ク円盤に1平方インチ当たり1テラビットの記憶容量を

実現したとしても、それがすぐに超大容量ハードディ

スクにつながるわけではない。ハードディスクの大容

量化にはメディアだけでなく、磁気ヘッド、制御系、

電子回路などの改良が同時に実現されなければなら

ない。

 現在製品化されている磁気ヘッドは100nmピッチ

までしか読み書きができない。1平方インチ当たり1テ

ラビットを実現するためには、磁気ヘッドも25nmピッ

チの読み書きに対応したものが必要になる。

 また、その磁気ヘッドの位置の制御も重要だ。物

ナノホール

ナノホール

均一に生成されたナノホール(方向性なし)

窪みに沿って1列に生成されたナノホール

窪み

図5:ナノホールの分布

Page 66: Computerworld.JP Jan, 2008

Computerworld January 200890

ナノテク研究の前線からCPU/HDD/メモリの明日を読む     特別企画

理的にどのセクタを読み書きするかは、磁気ヘッドの

位置とスピンドル・モーターの回転角で決まるからだ。

メディアが高密度化されるということは、当然ながら

シリンダーの間隔も狭くなり、磁気ヘッド位置の制御

もきわめてシビアになる。こうした課題に向けた開発

も進められている。

市場に相次いで投入される大容量ハードディスク

 1平方インチ当たり1テラビットという高密度ハード

ディスクが製品化されることで、私たちの生活やビジ

ネスはどう変わるのだろうか。

 1平方インチ当たり1テラビットという記録密度を持

つハードディスクが実際に商品化されるのは2011年

ごろではないかと伊藤氏は見ている。3枚のディスク

を使った2.5インチのハードディスクで2TBの記憶容

量が実現するという。

 伊藤氏はまた、「1台で100本以上のハイビジョン映

像ライブラリーを保存できる10TBハードディスク・レ

コーダー、12時間以上の長時間にわたってハイビジョ

ン撮影が可能な600GBの記憶容量を持つ家庭用カ

ムコーダー、2TBのハードディスクを内蔵し、ハイビジョ

ン映像の編集も簡単にできるノートPCなども可能に

なる」と語っている。

 研究室レベルでは、すでに1平方インチ当たり1TB

を超える、さらなる大容量ハードディスクの研究も行

写真1:ナノホールの電子顕微鏡写真

凹凸の溝に沿って25nm間隔で並ぶナノホール(a)、富士通が試作したパターンド・メディアの断面図(b)と磁性体(コバルト)充填後のようす(c)※資料:富士通

ナノホール列の平均間隔:25nm

凹凸間隔:50nm

ab

c

充填磁性体(コバルト)

1列配列

2列配列

アルミ

SiCモールド

電解酸化(陽極酸化)

図6:ナノホールの1列配列技術と2列配列技術

Page 67: Computerworld.JP Jan, 2008

January 2008 Computerworld 91

Part2 │ テラバイト領域に突入したハードディスク

われているという。

 伊藤氏によれば、「益田教授の研究室では13nmピッ

チ、1平方インチ当たり4テラビットのポテンシャルが

ある記憶メディアを、小さい面積だが、すでに実証し

ている」ということだ。

 現在、市販されているものは記録密度で言えば1平

方インチ当たり200ギガビットといったもの。2007年1

月、日立グローバルストレージテクノロジー(日立

GST)とシーゲイトは相次いで1TBの記憶容量を持つ

3.5インチ・ハードディスクを発表した。日立GSTの

「Deskstar 7K1000」はディスク枚数が5枚、これに対

してシーゲイトの「Barracuda 7200.11」(写真2)はディ

スク枚数が4枚である。よりいっそうの高密度化が進

んでいるとともに、ディスク枚数が減ることで消費電

力低減も実現している。

 ハードディスクの高密度化、大容量化は今後もとど

まることがなさそうだ。

2007年1月、ついに1TBの記憶容量を持つ3.5インチ・ハードディスクが登場した。編集部は、1TBハードディスクを投入したシーゲイトジャパンから、大容量ハードディスクの今後の使われ方や次世代ハードディスクの動向などについてコメントを得た。

──開発のうえで、どのような点に苦労したか。シーゲイト:従来の長手記録方式では限界だった記録密度を高めるため、垂直磁気記録方式を採用したが、これまでとはまったく異なる方式であるため、軌道に乗るまでは記録密度の伸び悩みや量産への対応に苦労した。──市場の反応はどうか。シーゲイト:デジタル・データは、企業よりも個人によって生成される割合の方が大きくなった。ストレージ容量は大きいほどよく、垂直磁気記録がもたらす記録密度はすでに不可欠だ。今後のハードディスクは垂直磁気記録方式に確実にシフトする。弊社ではすでに、第2世代の垂直磁気記録製品を投入している。──今後のロードマップは。シーゲイト:垂直磁気記録方式の次の技術についてもさまざまな研究が進められているが、しばらくは垂直磁気記録方式でさらに記録密度の向上を目指すことになるだろう。

──大容量化と小型化、どちらが主流になるのか。シーゲイト:エンタープライズ市場では小型化(2.5インチ)への移行が加速している。それは、サーバなどの運用に必要とされる電力消費の低減が昨今の環境問題、エネルギー問題を背景に、ユーザーの大きな関心事となっているからだ。──大容量ハードディスクによってPCや情報家電はどう変わるか。シーゲイト:ユーザーが高品質の画像、映像、音楽などをより大量に、高速に扱うことができるようになる。ハードディスクへの需要も維持されるだろう。最近のフラッシュメモリの台頭により、超小型(1インチ、1.8インチ)市場でのハードディスクの劣勢は否定できない。しかし、大量のデジタル情報を収集、操作、流通、保存するストレージとしてハードディスク市場は拡大していくと思われる。──次世代ハードディスクの動向は。シーゲイト:ハードディスク1台当たりの容量競争が製品の優劣を決める唯一の判断尺度ではなくなり、ユーザーのニーズに対応した製品開発がカギとなる。今後は、例えばフラッシュメモリを搭載したハイブリッド・ハードディスク、データの暗号化機能を備えるハードディスク、過酷な温度や湿度の環境下に耐えるハードディスク、低消費電力のエコ・ハードディスク、ストレージ用のニアライン環境を考慮したファームウエア設計など、多様な視点が求められる。なおかつ、より信頼性が高く、より低価格な製品が求められるだろう。

大量のデジタル情報を扱うハードディスク市場は拡大していくColumn

写真2:シーゲイトの1TBハードディスク「Barracuda」の内部

Page 68: Computerworld.JP Jan, 2008

Computerworld January 200892

ナノテク研究の前線からCPU/HDD/メモリの明日を読む     特別企画

次世代メモリとして注目されるホログラム・メモリ

 情報通信技術の普及によって、テラバイト級の大

規模情報を高速に記録・再生できる光メモリの実現

が熱望されるようになってきた。表1は、光(ディスク)

メモリの進展を記録容量とデータ転送レートの観点か

らまとめたものであるが、Blu-rayやHD DVDに次ぐ

第4世代の光メモリとしてホログラム・メモリと呼ばれ

る高密度記録技術が注目を集めている。

 ホログラム・メモリは過去何度もチャレンジされてき

た技術であるが、装置を構成するレーザーやSLM(空

間光変調器)、あるいはCMOS(注1)イメージ・センサー

などの光学機器の発展に伴い、にわかに再認識され

るようになってきた。特に、1994年ごろから行われた

米国の2つのプロジェクト「PRISM」と「HDSS」(注2)

では、デジタル・ページ・データをホログラムとして体

積的に記録する方式について、記録材料や記録シス

テムの広い範囲で重要な成果が得られている。

 最近では、これらの成果を基礎として、光ディスク・

メモリへの応用も国内外で検討されるようになってき

た。また、容量は小さいが製品化の段階に入ってい

るものもすでにある。ただし、ホログラムの特性を生

かしきれているとは言えず、また現行の光ディスク技

術と相性が悪いなどの種々の問題を抱えている。

同一場所に多重記録が可能なホログラム・メモリ

 ホログラム・メモリは、ホログラム(3次元像)の生成

に使われるホログラフィ技術を基礎とする(図1)。ホ

ログラフィ技術では、2つの光(信号光と参照光:信

号光が情報を保持)を重ねることで形成される位相干

渉パターン(水面上で重なり合う波紋のようなイメー

ジ)をデータとして記録し、その後、参照光を記録パ

ターンに再び照射して信号光(情報)を再生するとい

う原理に基づく。ホログラフィ技術の原点は古く、

1894年にP.M.G.リップマン氏が光ビームを干渉させ

ることでカラー写真形成を試みたことに端を発する

(注3)が、ストレージへの応用は1963年にP.J.ヴァン・

光メモリに代表されるメモリの分野では、すでにBlu-rayやHD DVDの次の世代を担う新しいメモリの開発が始まっている。とりわけ注目を集めているのが、ホログラム・メモリと呼ばれる大容量の光メモリであり、ナノテクが大きく寄与している。本パートでは、ホログラム・メモリの仕組みに迫るとともに、ホログラム・メモリの1方式で、将来的にさらなる大容量化が可能とされる日本発のコリニア・ホログラフィ法を紹介しよう。

井上光輝豊橋技術科学大学 研究専任教授

ホログラフィ技術で次世代DVDを凌駕するメモリ

SLM、2光束干渉法、コリニア・ホログラフィ法……3Part

第1世代

650MB1.4Mbps

第2世代

4.7GB10Mbps

第3世代

27GB38Mbps

HD DVD/Blu-ray ホログラム・メモリ?

第4世代

1TB?1Gbps?

CD DVD

表1:光ディスク技術の変遷

Page 69: Computerworld.JP Jan, 2008

January 2008 Computerworld 93

Part3 │ ホログラフィ技術で次世代DVDを凌駕するメモリ

ヒールデン氏によって提案された概念が基礎となっ

ている(注4)。

 一般的なホログラフィ技術は、3次元物体から散乱

された光を記録し、その記録情報を可視化して再生

する。一方、上述したデジタル・ホログラフィ技術は、

SLMが出す光(信号光)を利用する。SLMは1と0の

バイナリ・データを白黒の2次元ビット列(2次元バー

コード)として表示するマイクロデバイスだ。

 このSLMを用いて、ホログラムの記録は94ページ

の図2(a)に示す方法で行われる。まず、画像データ

から得られるバイナリ・ビット列が2次元バーコード状

に配置され、SLMに表示される。表示されたデータ

は信号光としてSLMから記録メディアに照射され、

それと同時に、別の光(参照光)が記録メディアの同

じ場所に照射される。そこで形成される位相干渉パ

ターンがホログラムとして記録されることになる。

 通常、参照光の入射角度や波長を変えて、同一場

所に多数のホログラムを重ねて記録する。これはホロ

グラムの多重と呼ばれ、記録材料の特性や厚さに依

存するが、数百から数千に達するホログラムを重ねる

ことができる。

 情報の特定のページを再生するには、図2(b)に示

すように、そのページを記録した際に使った参照光を

記録メディアに照射する。角度多重の場合は、対応

する参照光の方向が選択される。

 参照光は、記録されているすべてのホログラムと相

互作用するが、特定の参照光(方向)のみがその対応

するホログラムから影響を受け、ある光のパターンを

作り出す。このパターンは、当該ページを記録した際

にSLMから出た光のパターンと同じであり、CMOS

などの2次元光検出器で受光して電子的な信号に変

換され、元データが再生される。各々のホログラムは

対応する参照光によって独立に再生可能である。

 ホログラム・メモリは、1960年代から1990年代に

かけて、さまざまなものが提案されてきた(注5)。しか

し、記録材料の感度やダイナミック・レンジが不足し

ていたことや、レーザー、SLM、CMOSを含む光学

機器・デバイスが高価であったこと、さらに光学系が

複雑で既存のCDやDVDなどとの整合性がまったく

なかったことなどから、実用化には至っていなかった。

 ところが最近、前述したPRISM/HDSSプロジェ

クトの成果として、収縮率が小さく、厚みのあるフォ

トポリマ材料や、感度がきわめて高いフォトポリマ材

料などが現れ、新しいホログラム記録材料として一躍

脚光を浴びた。日本でも、NEDO(新エネルギー・産

業技術総合開発機構)のプロジェクトや科学技術振

興機構のCRESTプロジェクトで高感度、高ダイナミッ

ク・レンジないくつかのフォトポリマ材料が開発され、

ホログラム記録材料の開発が活発化している。一方、

すぐれた性能を有する比較的安価な光学機器も市場

で容易に手に入るようになり、ホログラム・メモリの実

注1:Complementary Metal Oxide Semiconductor注2:「the PhotoRefractive. Information Storage Materials」、「the

Holographic Data Storage System」注3:出典 P.M.G.Lippman,“Sur la theorie de la photographie des

couleurs simples et composees par la methode interferentielle,”J.De Phys.,vol.3,pp.97-107,1894.

注4:出典 P.J.van Heerden,“Theory of optical information storage in solids,”Appl.Opt.,vol.2,No.4,pp.393-400,1963.

①情報の記録信号光と参照光の干渉パターンを記録

参照光を照射して信号光を再現

信号光(情報)

信号光

参照光 記録メディア

位相干渉パターン③情報の再生

参照光を照射

②記録の完了

記録された情報(ホログラム)

記録メディア 記録メディア

図1:ホログラフィ技術の記録・再生原理

Page 70: Computerworld.JP Jan, 2008

Computerworld January 200894

ナノテク研究の前線からCPU/HDD/メモリの明日を読む     特別企画

用化がにわかに注目されるようになった。

CDやDVDとの整合性があるコリニア・ホログラフィ法

 ホログラム記録には、図2で紹介した2光束干渉法

がよく用いられるが、この方式は日本が得意とする光

ディスク技術との整合性が必ずしもよくない。この難

点を克服できるホログラム記録方式として、SLMを

キー・デバイスとするコリニア・ホログラフィ法(注6)

がある。

 図3に示すように、この方式は記録メディア(反射

層を持つホログラム光ディスク)に対して、見かけ上、

1光束でのホログラムの記録/再生を可能にするもの

で、従来の光ディスクで用いられているフォーカス・

サーボ技術がそのまま活用できる特徴を持つ。

 図4(a)、(b)にコリニア・ホログラフィ法による記録/

再生時のSLMパターンの一例を示す。記録時には、

中心部と外周部に分離したページ・データを用い、中

心部を記録データ、外周部を参照光形成に用いる。

それぞれの部分から出る光をレンズで記録メディアに

集光し、両者の位相干渉パターンを記録する。再生

時はSLMに外周部のみ表示させ、ホログラム光ディ

スクから記録データ(中心部)を取り出す。

 96ページの図5はコリニア・ホログラフィ法を用いる

コリニア・ホログラム・メモリの基本構成である。ホロ

SLM

信号光 参照光

レンズ

記録メディア

一般には、SLMと記録材料との間にレンズを挿入して、SLMのパターンを変換(フーリエ変換)して記録する。その場合、再生時には、当該レンズに等価なレンズを記録媒体と受光器との間に挿入し、逆変換(逆フーリエ変換)により適切なページ・データを得る。

(a)記録プロセス

(b)再生プロセス

記録データ

再生データ

バイナリ・データ

2次元ビット列(2次元バーコード)

ハーフミラー

ミラー

CMOS

参照光

レンズ

記録メディア

ミラー

0010101101101....

0010101101101....

0010101101101....

1001010101101....0011001101101....0110101101101....

0010101101101....1001010101101....0011001101101....

......

0110101101101....

0010101101101....1001010101101....0011001101101....0110101101101....

バイナリ・データ

0010101101101....1001010101101....0011001101101....0110101101101....

0010101101101....1001010101101....0011001101101....

......

0110101101101....

0010101101101....1001010101101....0011001101101....0110101101101....

2次元ビット列(2次元バーコード)

図2:2光束干渉法によるデジタル・データの記録/再生

Page 71: Computerworld.JP Jan, 2008

January 2008 Computerworld 95

Part3 │ ホログラフィ技術で次世代DVDを凌駕するメモリ

グラムの記録/再生には緑色レーザを用い、ホログラ

ム光ディスクのサーボ制御には赤色レーザを用いる。

図5に示されているように、光ディスクの上部に位置

する1つのレンズのみでホログラムの記録・再生ができ

る構成となっている。これが、CDやDVDなどの従来

の光ディスクと上位互換性が取れる理由である。

 ホログラムは、記録された干渉パターンの方向や位

置をわずかにずらすだけで、ほぼ同じ場所に何千もの

画像イメージを重ねて書くことができる。これが、記

録密度が飛躍的に高い理由の1つである。

 コリニア・ホログラフィ法では、96ページの写真1に示すように、シフト多重と呼ばれる手法でホログラム

の多重が行われる。この写真は、0μmと示した位置

にホログラムを1つ記録して、光スポット位置を

100nmずつずらしながら再生した画像データである。

もともとホログラムが書かれた0μm位置での再生像

にはエラーが認められない。空間的にわずかに読み取

り位置をシフトさせていくと再生像の信号部分(中心

部分)が消え、3μmほどのシフトで信号再生像はまっ

たく認められない。このことは、3μmシフトさせなが

らホログラムを何枚も多重できることを意味している。

この例では光スポットの直径は、おおむね200μm程

度であるが、この状態で光ディスクには3TBに達する

データの記録が可能になると考えられている。

国際標準規格として採択されたHVD方式のホログラム・メモリ

 前節で紹介したコリニア・ホログラフィ法による光

ディスク・メモリは、HVD(Holographic Versatile

Disc)方式としてプロトタイプの構築が進んでいる。

写真2は実際に構築されているHVDホログラム光ディ

スク装置の内部写真である。すでに密度換算でディ

スク1枚当たり200GB、160Mbpsの性能を持つ回転

系システムでの動画記録・再生デモンストレーション

も行われている。技術的な性能向上を図ることで、

将来的にはディスク1枚当たり1TB、1Gbpsの性能を

有する装置の実現も可能と考えられている。

 HVD方式のホログラム・メモリは、記録/再生とサー

ボ制御に2色のレーザ光源を使うことから、光ディス

クの構造が工夫されている。図6はHVDの断面構造

を描いたものである。基板上部にサーボ用のプリフォー

マットされたピットが形成されており、この情報を赤

色レーザーで読み取ることでディスクを制御する。ホ

ログラムが記録されるのは、その上部に位置するフォ

トポリマ層(400μm程度の厚さ)で、緑色(あるいは青

色)レーザーを用いて記録/再生を行う。特徴的なの

は、記録層とピット部との間に設けられた波長選択膜

SLM

CMOS

信号光参照光 参照光

ハーフミラー

レンズ

記録メディア

図3:コリニア・ホログラフィ法による情報の記録/再生

注5:出典 H.J.Coufal,D.Psaltis,G.T.Sincerbox eds.,“Holographic Data Storage,”Springer Series in Optical Sciences,10,2000.

注6:本稿で紹介したコリニア・ホログラフィ法による光ディスク・メモリの開発の一部は、科学技術振興機構CRESTプロジェクト、文部科学省超光メモリプロジェクトとして、オプトウエア、FDK、共栄社化学、メモリーテック、船井電機との産官学共同研究事業として実施しているものである

図4: コリニア・ホログラフィ法による情報記録・再生時のSLMパターンの例

(b)再生時のSLMパターン(a)記録時のSLMパターン

Page 72: Computerworld.JP Jan, 2008

Computerworld January 200896

ナノテク研究の前線からCPU/HDD/メモリの明日を読む     特別企画

(ダイクロイック・ミラー層)で、この膜によって記録/

再生用のレーザ光がピット部に達しない工夫がなされ

ている。これは、記録/再生光がピット部に達すると、

散乱ノイズによってエラーが増加することによる。

 このHVD方式は、国際的な標準化組織「Ecma

International」で、ホログラム・メモリとしては初の

国際標準規格として採択されている。日本発の技術

が国際標準規格として採択されたことの意義は深く、

今後の展開が非常に楽しみである。

HVD方式の実用化に向けて周辺技術や材料の革新も進む

 コリニア・ホログラフィ法では、記録/再生のいず

れにあってもSLMを利用する。レーザー光源や受光

器への組込みを考えると固体デバイスが好ましく、ま

たピクセル数の制限下で高速のデータ転送レートを

実現するには動作速度の速いものが望まれる。この

観点から、写真3に示す磁気光学効果を用いたSLM

の開発が進んでおり、すでに1ピクセル当たり10ns(ナ

ノ秒)レベルの高速光変調デバイスが完成している。

このSLMも国産技術として開発されたもので、HVD

との組合せが期待されている。

 ホログラム・メモリの実用化には、記録/再生用の

材料がきわめて重要となる。多くのホログラムを多重

化するには多重性にすぐれ、かつ記録感度の高い材

料が望まれる。また、ノイズの少ないことも重要である。

現時点では、これらの要求を満たす記録材料として

フォトポリマ材料が期待されている。フォトポリマ材

料はWORM(Wright Once Read Many)メディアで

あるため、アーカイブ記録用やROMメディアとしての

応用が考えられている。

緑色レーザー

CMOS

ミラー

ミラー

ミラー

受光器

赤色レーザー

レンズ

レンズ レンズ

ホログラム光ディスク(HVD)

QWP

PBS

DBS

DMD

DMD (Deformable Mirror Device:TIから販売されている MEMSを用いたSLM。商品名としてDMD)DBS (Dual Beam Splitter:2重ビーム・スプリッタ)PBS (Polarization Beam Splitter:偏光ビーム・スプリッタ)QWP (Quarter Wave Plate:4分の1波長板)

図5:コリニア・ホログラム・メモリの基本構成

写真1: コリニア・ホログラフィ法におけるシフト多重 (記録材料は共栄社化学製のフォトポリマ)

0μm 2.0μm 3.0μm

100nm 200nm 300nm

600nm 700nm 800nm

400nm

900nm

500nm

1000nm

Page 73: Computerworld.JP Jan, 2008

January 2008 Computerworld 97

Part3 │ ホログラフィ技術で次世代DVDを凌駕するメモリ

今後5年以内には登場する大容量のホログラム・メモリ

 ホログラム・メモリの開発が、最近にわかに再燃し

ているのは、光学機器が発展していることに加え、上

述したように、記録材料としてすぐれたフォトポリマ

が開発されてきたことも主因の1つである。

 記録/再生の面から考えると、従来の光ディスク

技術が利用できるコリニア・ホログラフィ法は魅力ある

ものと言える。実際、その光学系は従来の2光束干渉

法に比べると非常にシンプルであり、実用化の観点か

らは都合がよい。現行の光ディスク・メモリに次ぐも

のとしていくつかの方式が検討されているが、最近の

ホログラム・メモリの展開は一歩先んじた感がある。

 2007年10月に、マレーシアのペナン島で、ホログ

ラム・メモリの実用化を目指して「ホログラム・メモリ

国際ワークショップ」が開催された。国内外の企業・

大学から約100名の参加者があり、実用化に向け白

熱した議論がなされた。その内容からは、少なくとも

今後5年以内には、第4世代の大容量光ディスクとし

てのホログラム・メモリが登場するものと思われる。実

際、コリニア・ホログラム・メモリ自体は基礎開発から

実用化開発にフェーズが移っており、いかに工業化し

ていくかを考える時期にさしかかっている。

 一方で、その次の世代のホログラム・メモリとして、

コリニア・ホログラフィ法をさらに発展させた超光情報

メモリの基礎開発が進んでいる。このメモリは、コリ

ニア・ホログラフィ法を基本としながら、光フェーズロッ

ク方式と呼ばれる、光位相を巧みに使った技術(多

値ホログラム体積記録技術)を実現しようとするもの

である。光位相を利用するためにノイズに弱いが、そ

の難点を克服する光学系や、超高速で光位相をペー

ジ・データとして変調できるSLM、さらには超高密度

記録に耐えうるナノ構造を有するフォトポリマ材料や

リライタブル記録材料などの開発が進展している。

 ホログラム・メモリの開発は実用化と基礎研究が非

常に早いスピードで展開されてきており、今後とも目

が離せない重要なメモリ技術と言える。

写真2:HVDシステムの内部写真(オプトウエア製)

赤色レーザー緑色レーザー

ダイクロイック・ミラー層ギャップ層

ギャップ層

ホログラム

基板2

フォトポリマ(記録層)

アルミ反射層

ピット部基板1

図6:HVDの構造

写真3:磁気光学効果を用いた高速SLM(FDK製)

Page 74: Computerworld.JP Jan, 2008
Page 75: Computerworld.JP Jan, 2008

「話題の製品の機能を詳しく知りたい」「自社では、どのような技術を使うのが最適なのだろうか」──企業において技術や製品の選択を行う「テクノロジー・リーダー」の悩みは尽きない。そこで、本コーナー[テクノロジー・フォーカス]では、毎号、各IT分野において注目したい製品や技術をピックアップし、その詳細を解説する。

[テクノロジー・フォーカス]

A

TechnologyFocus

January 2008 Computerworld 101

pplications[アプリケーション]

「エンタープライズ・ウィジェット」 その可能性と課題を探る

Page 76: Computerworld.JP Jan, 2008

Technology Focus

Computerworld January 2008102

「デスクトップ」と「Web」ウィジェットの2形態

 現在、ウィジェット(注1)と呼ばれているものは、大

きく2つに分類できる。その1つがデスクトップ・ウィ

ジェット、もう1つがWebウィジェットである。

■デスクトップ・ウィジェット デスクトップ・ウィジェットとは、PCのデスクトップ

に常駐するミニ・アプリケーションだ。「Yahoo!ウィ

ジェット」がその一例である(画面1)。 デスクトップ・ウィジェットには、電卓や時計、カレ

ンダーのようにスタンドアロンで動作するものと、イン

ターネットに接続してWebサイトと連動し、ニュース・

フィードや天気予報などを表示するものがある。

 常時接続のブロードバンドが普及し、PCの性能も

飛躍的に向上した今日、注目されているのは後者であ

る。Webサイトと連動するタイプのデスクトップ・ウィ

ジェットを使えば、ブラウザを介さずに直接ユーザー

のデスクトップに情報を送り届けることができる。そ

のため、特にB2Cサービスを提供する企業にとって、

ユーザーと自社とを最短距離でつなぐ効果的な広

告/マーケティング・ツールとなる。例えば、新製品/

サービスの発表に合わせてコミュニケーション・ツー

ルとして配布したり、キャラクターを使ったブランディ

ングを行ったりといった形でマーケティングに利用す

ることができる。

 すでに、こうしたマーケティング手法を採用する企

業も現れている。その1社が、「ドコモダケ」のキャラク

ターを用いたウィジェット(画面2)をWebサイトで配布

しているNTTドコモだ。また、松竹は映画『ゲゲゲの

鬼太郎』の公開に合わせて目玉おやじのウィジェット

をリリースした。

■Webウィジェット Webウィジェットは、ポータル・サイトやブログといっ

たWebサイト上で動作するものである。グーグルの

「Googleガジェット」がその代表例だ。これは、「iGoo

gle」というカスタマイズ可能なポータル・サイトに、

「Googleマップ検索」や「Wikipedia検索」などのウィ

ジェットを組み込めるというものだ。

 同様なものに、マイクロソフトが運営するポータル・注1:�この種のミニ・アプリケーションは「ガジェット」とも呼ばれる。本稿では、特定のサービス名を指

す場合を除き、「ウィジェット」という呼び方を用いる

Aウィジェット(Widget)とは、PCのデスクトップ上、あるいはポータル・サイトやブログなどのWebサイト上に置かれるミニ・アプリケーションのことである。今のところウィジェットは、B2Cサービスを提供する企業のマーケティング・ツールとして使われることが多いが、ここにきて社内ポータルなど社内で活用しようとする動きも見え始めている。本稿では、ウィジェットの概念と基本的な仕組みを解説するとともに、企業利用に向けた先進的な取り組みを紹介し、エンタープライズ・ウィジェットのメリットと現時点での課題を明らかにする。

城田真琴野村総合研究所技術調査部 主任研究員

pplications[アプリケーション]

「エンタープライズ・ウィジェット」その可能性と課題を探る企業内で新たな活用領域を見いだすなか、セキュリティには手つかず

Page 77: Computerworld.JP Jan, 2008

Applications

Applications

January 2008 Computerworld 103

サイト「Live.com」上で使える「Windows Liveガジェッ

ト」がある。この2社のようなビッグ・ベンダーのほかに

も現在では、ネットバイブス(画面3)やページフレーク

ス、ウェブワグといった独立系新興ベンダーも同様の

サービスを提供しており、Webウィジェットがブーム

となる兆しが見られる。

 こうしたユーザーの好みや必要に応じてカスタマイ

ズできるポータル・サイトは、パーソナライズド・ページ、

あるいはスタート・ページと呼ばれる。その大きなメリッ

トは、インターネット上に散らばったコンテンツを1画

面に集約できるという点だ。

 パーソナライズド・ページにウィジェットを組み込む

には、各社のWebサイトに用意されているウィジェッ

トの一覧(一種のカタログ・サービス)から、必要なも

のを選択して「追加」ボタンをクリックするだけでよく、

非常に簡単だ。

 さらに、Webウィジェットは、ユーザー個人が運営

するWebサイトにはり付けるという使い方も可能だ。

ランタイム・エンジンがウィジェットの稼働基盤

 ウィジェットを動かすためには、その実行環境とな

るランタイム・エンジンが必要となる(104ページの図1)。ランタイム・エンジンは、Windows VistaのようにOS

が標準で備える場合や、ウィジェットの提供者側が用

意する場合、あるいはWebブラウザ自体をランタイム・

エンジンとして用いる場合がある。いずれにせよ、ウィ

ジェットを動作させるためには、何らかの実行環境が

必要であり、その上で対応したウィジェットが動くと

いう仕組みになる。

 現在、ウィジェットのランタイム・エンジンは、マイ

クロソフトやヤフー、グーグル、アップルのようなグロー

バルなプレーヤーに加えて、「GIZMO」を開発する日

本のantsなどが提供している。

 ウィジェットによっては、Windows上のランタイム・

エンジンでしか動作しないもの(マイクロソフトの

Windowsサイドバー・ガジェット)、Mac OS Xでしか

画面1:デスクトップ・ウィジェットの1つである「Yahoo! ウィジェット」

画面2:NTTドコモが提供するウィジェット「いつでもドコモダケ」

画面3:ネットバイブスのパーソナライズド・ページ「Netvibes」の画面

Page 78: Computerworld.JP Jan, 2008

Technology Focus

Computerworld January 2008104

動作しないもの(アップルのDashboardウィジェット)

などがある。主なウィジェットと、ランタイム・エンジ

ンなどの必要な環境を表1に記す。これらのほか、ア

ドビ システムズが開発中の「Adobe AIR(Adobe

Integrated Runtime)」も、ウィジェット用ランタイム・

エンジンとして注目すべきものの1つだ。

通常のアプリよりも開発の敷居は低い

 ウィジェットの開発は、C++やVisual Basicによる

通常のアプリケーション開発に比べて、はるかに容易

に行える。

 ウィジェットの中身は、Webコンテンツに近いもの

で構成されている。ウィジェットの名前や作者といっ

た基本情報をXMLで記述したマニフェスト・ファイル、

ウィジェット本体のデータ構造などを記述するための

HTML/XMLファイル、アプリケーションとしての動

作を記述するJavaScriptファイル、ウィジェットの外

観などを規定するCSS(Cascading Style Sheets)ファ

イルといったものが含まれている。

 このようにウィジェットでは、Webコンテンツ開発

図1:デスクトップ・ウィジェットの仕組み

クライアントOS

ランタイム・エンジン 他のアプリケーション

ウィジェット1

ウィジェット2

ウィジェットn

Webウィジェットでは、ブラウザがランタイム・エンジンと同等の役割を担う…

表1:主なウィジェットと動作環境

3,849

580

2,949

370

70

1,326

21,311

90,913

デスクトップ

デスクトップ

デスクトップ

デスクトップ

デスクトップ

Webポータル(Live.com)

Webポータル(iGoogle)

Webポータル(Netvibes)

Yahoo!ウィジェット/ヤフー

Googleデスクトップガジェット/グーグル

Windows Vistaサイドバーガジェット/マイクロソフト

Dashboard ウィジェット/アップル

GIZMO/ants

Windows Live Gadgets/マイクロソフト

Google Gadgets for your Webpage/グーグル

Netvibes/ネットバイブス

専用エンジン「Yahoo!ウィジェットエンジン」OS:Windows 2000/XP、Mac OS X 10.3.9以降

専用エンジン「Google デスクトップ」OS:Windows 2000 SP3/XP/Vista、Mac OS 10.4以降、Linux

Windows Vista

Mac OS X 10.4以降

専用エンジン「GIZMO」、CommunityデッキOS:Windows 2000/XP/VistaInternet Exploler 5.5以上、最新版のFlashPlayer

Internet Explorer 6.0以降

Internet Explorer 5.5以降、Firefox 0.8以降、Opera 8以降、Safari 1.2.4以降など

Firefox 1以降、Internet Explorer 6/7、Opera 9.02、Safari 2以降

使える場所 名称/提供元 動作環境 公開されているウィジェット数

※「公開されているウィジェット数」は2007年10月23日時点での調査による

Page 79: Computerworld.JP Jan, 2008

Applications

Applications

January 2008 Computerworld 105

の技術が用いられている。そのため、開発に対する

敷居は低いと言えよう。

 なお、デスクトップ・ウィジェットとWebウィジェッ

トでは、ローカルで実行させるか、サーバ上で実行さ

せるかという違いはあるが、開発方法に関して言えば

ほとんど同じだ。

互換性確保という課題と解決のための取り組み

 どのウィジェットも基本構造は似ているものの、現

状では異なるランタイム・エンジン向けに開発された

ウィジェット間では互換性が確保されていない。同様

の技術で開発されているとは言っても、細かい仕様

が異なるためだ。

 このウィジェット間の互換性確保という課題を解決

しようと、現在、W3Cにおいて「Widgets 1.0」と呼ば

れる標準規格の策定が進められている。その進捗状

況は、2007年10月に2回目のワーキング・ドラフトが

公開された段階だ。

 一方、こうした標準規格の策定を待たずに、種類

の異なるウィジェットの相互利用の仕組みを独自に構

築しようという動きがある。ネットバイブスが開発した

「Universal Widget API」というウィジェット用APIが、

それである。このAPIを使ってウィジェットの開発を

行うと、NetvibesやiGoogleといったWeb上のプラッ

トフォームに加え、Windows Vistaサイドバーやアッ

プルのDashboardなどのデスクトップ・プラットフォー

ム、さらにはiPhone、Operaなどの携帯プラットフォー

ムでも使用できるウィジェットを一度に開発すること

ができる。

 このようにウィジェットの互換性確保に向けた動き

はあるが、肝心の大手ベンダー(ヤフー、グーグル、

マイクロソフト)は、開発者やユーザーの囲い込みに

熱心で、互換性の問題については動きが鈍いのが現

状だ。大手ベンダーが提供するウィジェット間で相互

利用が実現されなければ、ユーザーが享受できる利

便性は限定的なものになるだろう。

ウィジェットの社内利用に向けた試み

 現状では、広告/マーケティング・ツールとしての

利用が多いウィジェットだが、社内システムへの影響

はどうだろうか。ここでは、社内システムのウィジェッ

ト適用に対するベンダーの取り組みと、ユーザー企業

の萌芽事例を紹介する。

アプリケーションのユーザー・インタフェース エンタープライズ・アプリケーションのユーザー・イ

ンタフェース(UI)としてウィジェットを利用するための

ツールが登場し始めている。

 その1つが、シトリックスが配布している「Extentrix

Citrix Published Application Widget」である(画面4)。これは、シトリックス・システムズのサーバ上で

稼働しているOutlookやCitrix RSSフィード、ある

いはWeb会議やリモート・アクセス・サービスを提供

する「Citrix Online」にダイレクトにアクセスできるよ

うにするウィジェットである。

 同様にSAPも新しいUIとして、各種ウィジェット

を公開している。106ページの画面5の「SAP BI

Data Widget」では、地域ごとの営業組織の売上リポー

トをデスクトップ上に表示させておくことができる。

画面4:シトリックスの「Extentrix Citrix Published Application Widget」

Page 80: Computerworld.JP Jan, 2008

Technology Focus

Computerworld January 2008106

 このようにUIとしてウィジェットが用いられるのは、

高い表現力とリアルタイム性を兼ね備えているからで

あろう。

外部情報/ツールとポータルのマッシュアップ IBMは今年2月末に、ウィジェットに関してグーグ

ルと提携し、Googleガジェットのランタイム・エンジン

に相当する「IBM Portlet for Google Gadgets」とい

うポートレットを開発した。これは、グーグルが公開

している2万以上のウィジェットすべてを利用できる

仕組みを、WebSphere Portalのユーザーに提供す

るというものだ(画面6)。

 この仕組みが画期的であることは、従来の企業ポー

タルにおけるポートレットの仕組みと比較するとよくわ

かる。これまでのポートレットは、SAP R/3やLotus

Notesなどのアプリケーションのデータを取り込むと

いった目的で、個々に開発されてきた。つまり、ポー

トレットとアプリケーションは1対1の関係だったので

ある。

 これに対してIBM Portlet for Google Gadgets

では、Googleガジェット用のポートレット1つだけで、

グーグルが提供する2万以上ものウィジェットが利用

可能となった。つまり、ポートレットとアプリケーショ

ンの関係が1:nになったのである。

 もちろん、両者の用途は異なるため、単純な比較

はできないが、日常的なちょっとした作業を効率化す

るツールが社内ポータル上で利用可能となるメリット

は大きい。また、IBMがみずからウィジェットを開発

しなくても、ユーザーが利用できるGoogleガジェット

は増え続けているため、ベンダーにとっても非常にメ

リットの大きい仕組みだと言える。

既存アプリとの連携にも配慮したユーザー事例 パーソナライズド・ページは、Ajaxをフル活用した

UIによって画面遷移を伴わないコンテンツの切り替

えを実現するなど、直感的な操作を可能にしている。

さらに、外部のディベロッパーによって開発された豊

富なウィジェットを容易に利用できる。

 こうしたすぐれた特徴を企業内でも生かそうと、最

近では、パーソナライズド・ページと同様なコンセプト

のポータルを構築する先進的な企業も現れている。

例えば、三菱UFJフィナンシャル・グループで情報シ

ステムの企画・開発・保守を担当するUFJISでは、

Ajaxを全面的に採用した社内ポータル・システムを独

自に構築し、同社の社員400名が活用している。

 このポータルを見て驚くのは、その洗練されたUI

である(画面7)。Ajaxに加えて、RSSを採用し、「情

報へのすばやいアクセス」「情報洪水からの脱却」を追

求している。画面7では、右側のカレンダー、CPU利

用率の表示、ToDoリストなどがウィジェット化されて

いる。また、他のWebページをクリッピングして取り

込む機能により、画面中央下のインターネット・バン

キング・ログイン画面が表示されている。

 加えて、Lotus NotesやExchange Serverのデー

タもWebサービスとして呼び出せるようにするなど、

画面6: IBMの「WebSphere Portal」。画面右の「ポートレット・パレット」からドラッグ&ドロップでGoogleガジェットを追加する

画面5:SAPの「SAP BI Data Widget」

Page 81: Computerworld.JP Jan, 2008

Applications

Applications

January 2008 Computerworld 107

既存アプリケーションの取り込みも可能としている。

こうした点では、iGoogleなどのサービスを凌駕して

おり、今後の社内ポータルが目指すべき姿を示してい

ると言えよう。

社内利用ウィジェットのメリットと課題

 以上の萌芽事例から、ウィジェットを社内で活用す

る際のメリットと留意点が見えてくる。

社外情報を容易に活用できるのが大きなメリット メリットとしては、まず、単なる「社内サイトのリン

ク集」に陥りがちであった従来のポータルとは異なり、

社外の情報も活用できる点が挙げられる。

 今や、インターネット上には膨大な量の情報が溢

れている。毎日の出社後に、いくつかのニュース・サ

イトをチェックすることが日課となっているビジネス

パーソンも多いことだろう。

 最近では、こうしたニュース・サイトが更新情報を

RSSフィードとして配信するケースが増えており、そ

れが社内ポータルに一覧表示されれば、出社後すぐ

に、日々のニュースのナナメ読みが可能となる。

 また、ウィジェットを活用すれば、地図サービスや

乗換え案内など、外部の便利なサービスを取り込む

ことも容易だ。しかも、これらのサービスを利用する

際には社内か社外かをユーザーが意識する必要がな

いという点もすぐれた特徴である。

 企業内で利用できるアプリケーションが、基本的に

情報システム部門の用意したものに限られていた従来

と比べれば、その発展ぶりを理解できるだろう。

現時点では配慮されていないセキュリティが課題 留意すべき点としては、セキュリティ対策が挙げら

れる。前述のようにウィジェットの中身はWebコンテ

ンツに非常に近いため、同種の脆弱性を抱えうると考

えられる。

 特に外部のフィードを利用するものは、信頼できる

コンテンツであっても悪質なコードが便乗してくる可

能性があるため、注意が必要だ。実際に、Live.com

で利用可能なRSSリーダー・ウィジェットで、攻撃者

からのデータ・フィードを通して悪質なコマンドを招き

入れるという脆弱性がすでに発見されている。この欠

陥を悪用すれば、ユーザー・アカウントから特権情報

を入手してそのユーザーになりすまし、ブラウザを乗っ

取ることができる。

 前述のWebSphere PortalとGoogleガジェットの

連携でも、現状ではポートレット側で特別なセキュリ

ティ対策がなされているわけではない。これらに限ら

ず、現在、ウィジェットを活用している企業の多くは、

その利便性ばかりに目を向け、セキュリティ対策まで

手が回っていない印象を受ける。

 しかし、今後の普及に伴い、ウィジェットを通じた

外部からの攻撃は増加すると予想できる。特に、

Windowsサイドバー・ガジェットのようにランタイム・

エンジンがOSと密に連携しているものが被る被害は、

非常に大きなものになるだろう。

 自社内でのウィジェットの利用を検討する際には、

大きな被害を受けて手遅れになる前に、ぜひ、ウィ

ジェットの利用に関するポリシーを策定し、セキュリ

ティ対策を徹底してほしい。

画面7:Ajaxを全面的に採用したUFJISの社内ポータル・システムの画面

Page 82: Computerworld.JP Jan, 2008

IT

K

EY

WO

RD

34

Computerworld January 2008110

 CDF(Compound Document Format)とは、Com

pound Document(複合ドキュメント)を扱うことを目

的としたXMLベースのドキュメント・フォーマットであ

る。現在、W3Cが標準化作業を進めている。

 複合ドキュメントについてW3Cは、XHTMLや

SVG(ベクター画像記述言語)、SMIL(マルチメディ

ア統合言語)、XForms(Webフォーム記述言語)など、

多様な種類のフォーマットを組み合わせたドキュメン

トと説明している。このような複合ドキュメントを扱う

CDFは、テキスト/画像/音声/動画の処理やプロ

グラムの実行などを目的とした各種XMLデータを混

在利用するためのフレームワークだと言える。

 異なるXMLデータの混在方法としてCDFでは、2

種類の形態を想定している。その1つが、外部XML

データのURIを参照して組み合わせる「CDR(Com

pound Document by Reference)」、もう1つが複数

のXMLフォーマットを1つのデータに記述して埋め込

む「CDI(Compound Document by Inclusion)」である。

 CDFのように各種のXMLデータを扱えるXMLド

キュメント・フォーマットとしては、OASISが策定し、

OpenOffice.orgが採用しているODF(OpenDocument

Format)が知られている。このODFがワープロ文書

やスプレッドシートなどのフォーマットを定め、それら

の相互利用を可能としているのに対し、CDFは異な

る複数のXMLデータを集約するコンテナのような役

割を果たすという点が大きな違いだ。

 W3CのCDFワーキング・グループは2004年より活

動しているが、ここにきてCDFがにわかに注目を集め

ることになった。10月30日にODFの推進団体の1つ、

OpenDocumentファウンデーションの幹部のブログに

おいて、ODFに見切りをつけ、CDFに鞍替えするこ

とをほのめかす発言があったからだ。ブログでこの幹

部は、フォーマットの汎用性や機能性においてCDF

のほうがすぐれていると述べている。特に、ODFの

対抗馬と見なされるOffice Open XML(OOXML)と

の互換性についてODFを問題視しているようだ。

さまざまな種類のXMLデータを集約するW3C標準の複合ドキュメント・フォーマット

CDF

Computerworld 編集部

(Compound Document Format)

▼34

IT KEYWORD

*写真:W3CSVG Tinyファイル XHTML Mobile Profileファイル

URIを参照して、SVG Tinyファイルを呼び出す

<XHTML> <・・・>

 <・・・></XHTML>

SVG Tinyで記述されたグラフを統合して

携帯電話の画面に表示

CDFを利用して記述された統合ドキュメントの例

CDFは、その仕様策定の当初から、携帯電話における統合ドキュメントの利用を想定していた。この写真は、CDRによる実装例。モバイル端末向けのXHTML言語である「XHTML Mobile Profile」と、同様にモバイル端末向けに開発されたベクター画像記述言語の「SVG Tiny」とを組み合わせたコンテンツが、ノキアおよびソニー・エリクソンの携帯電話の画面に表示されている

Page 83: Computerworld.JP Jan, 2008

January 2008 Computerworld 111

もそもがインターネットに移行できるわ

けがないのだ。

 かといって、このまま紙販売に頼り続

けていては、いずれジリ貧になるのは目

に見えている。「前門の虎、後門の狼」か、

それとも「進むも地獄、退くも地獄」なの

か。いずれにしても新聞がにっちもさっ

ちもいかない状況に陥りつつあるのは、

まがうことのない事実である。

 そして困ったことに、この難問の解は

どこにも存在しない。米国でも新聞の

危機は日本と同様で、この苦境を乗り

越えた新聞社は、今のところ世界を見渡しても皆無な

のである。

 加えて、新聞社の経営層がインターネットやWebの

ことをほとんど理解できていないという問題がある。い

や経営層だけでなく、これから会社を担うべき40代ぐ

らいの社員でも、その無理解は驚くほどだ。先の合同

会見でも、どのようにWeb戦略を進めるのかというこ

とを具体的に語っていたのは日経の社長だけだった。

読売と朝日は、Webについてはほとんど語っていない。

おそらくは語るべきことばを持っていないのだ。

 グローバリゼーションの中、嫌が応もなくITの世界

に足を突っ込まなければならないのが2000年代の経

営者の宿命だが、新聞社のようなドメスティックなビ

ジネスにおいては、その常識はまったく通用しない。ま

ずは、こうした姿勢をひっくり返さなければ新聞の再生

はありえない。新聞社の若手社員は危機感を抱いてい

るが、その道のりは遠いというのが現実だ。

 最初のきっかけは、週刊ダイヤモンド

が9月22日号で「新聞没落」という特集を

組んだこと。ここで、朝日新聞、読売新聞、

日経新聞の3紙が共同で「ANY」という

ポータル・サイトを運営する構想を立て

ていることがスクープされた。そして10

月1日には報道のとおり、3紙の社長が

そろって記者会見し、販売網で協力し

ていくことと、ANYサイトを開設するこ

とが発表された。さらに、隔週刊誌の

サピオが11月14日号で「大新聞の『余

命』」というタイトルの特集を展開した。

 インターネット利用者層の拡大と新聞購読率の低

下、そしてネット広告市場の拡大/新聞広告市場の下

落などで、新聞業界が危機的状況にあることは何年も

前から語られてきた。ここにきて問題がいよいよ大きく

なり、外部に向かって噴出してきているという状況だ。

 とはいえ、新聞がインターネットと融合する方向に

行くのかというと、そう簡単ではない。

 まず第一に、インターネットはマネタイズ(収益化)

が難しい。全国紙にとって、新聞販売は1,000億円単

位の巨大ビジネスだが、現状のWeb媒体で得ている

収益は10億円単位にすぎない。コンテンツの有料化

が難しくて販売収益が存在しないうえに、広告の単価

も安いからだ。販売と広告の収益比率が2:8程度と

される米国の高級紙でも、もし仮にビジネスを完全に

Webに移行させてしまうと、売上げは半減すると言わ

れている。この比率が6:4、広告収入が芳しくないと

ころでは8:2となっているような国内の新聞では、そ

P R O F I L E

ささき・としなお。ジャーナリスト。1961年兵庫県生まれ。毎日新聞社記者として警視庁捜査一課、遊軍などを担当し、殺人事件や海外テロ、コンピュータ犯罪などを取材する。その後、アスキーを経て、2003年2月にフリー・ジャーナリストとして独立。以降、さまざまなメディアでIT業界の表と裏を追うリポートを展開。『ライブドア資本論』、『グーグル——既存のビジネスを破壊する』など著書多数。

インターネット劇場

佐々木俊尚T o s h i n a o S a s a k i

新聞業界の危機

Entry

18

Page 84: Computerworld.JP Jan, 2008

Computerworld January 2008112

P R O F I L E

えじま・けんたろう。インフォテリア米国法人代表/ XMLコンソーシアム・エバンジェリスト。京都大学工学部を卒業後、日本オラクルを経て、2000年インフォテリア入社。2005年より同社の米国法人立ち上げのため渡米し、2006年、最初の成果となるWeb2.0サービス「Lingr(リンガー)」を発表。1975年香川県生まれ。

 私は普段からよくデジタルカメラで写

真を撮るほうだと思いますが、その枚数

が年々増えていて、今この原稿を書い

ているマシン上では、実に1万8,000枚

の写真が31GBの容量を占めています。

過去12カ月だけでも6,000枚の14GB

ですから、ここ数年で枚数・サイズ共に

急増してきたようです。

 このぐらいのサイズになると、今まで

は想像もしなかったような問題が出てき

ます。例えば、バックアップ。31GBに

もなるとDVDメディアに収まらないの

で、外付けのハードディスクにバックアップをとること

になります。それから、共有。写真は多くの場合、自

分で見るだけでなく、離れた場所にいる家族や友達に

も見せたいものです。しかし、最近のデジカメで撮る

高解像度の写真データは1枚当たり3〜4MBにもなり、

とてもメール添付などでは送っていられません。

 最近ではWeb上のサービスが進化してきたので、

これらの問題を解決できるようになってきました。私

が使っているヤフーの画像管理サービス「Flickr」(フ

リッカー)は、月額2ドルのPro版に加入すれば容量無

制限で写真のオリジナル・データを永久保管してくれ

るので、まず、これをバックアップ・メディアとして使

うことができます。

 Flickrはかなりのスグレモノで、写真データの保存

と同時に、Web上で見やすいサイズのサムネールも自

動生成され、メール添付ではなくURLを送るだけで閲

覧することが可能です。また、プライバシー設定もき

め細かく指定でき、家族や友人に限定

して公開することもできます。

 ところが、1つだけ解決していない問

題がありました。

 それは、肝心の「自分たちで見て楽し

む」という点です。月に500枚もの写真

を撮っていると、もうPC上でソフトを

使って見てはいられません。なんだか閲

覧しているだけで疲れてしまい、こんな

に写真をたくさん撮って意味があるのだ

ろうか、とさえ、自問しつつありました。

 そこに現れた意外な救世主が、アップルから発売さ

れている「Apple TV」です。Apple TVは、Macの内

蔵ディスクに入っている写真データをネットワーク越

しに取り込み、テレビ上で再生することができます。

iTunesのプレイリストをBGMに指定できることはもち

ろん、スライドショーもシャッフル再生が可能で、複

数の写真が一度に浮かび上がってくるような美しいエ

フェクトをつけて再生させることもできます。

 これをリビングで流しているだけで、数々の意外な

写真を発見して驚き、また、その驚きを奥さんとその

場で共有することができます。これは、パソコンの前

にかじりついて写真を見るのとはまったく異なる新鮮

な体験でした。とうとう写真も「ながら視聴」ができる

時代になったのか、と。

 量は質に転化することがある、とは技術の世界では

よく言われることですが、まさに写真の未来像を見た

気がした瞬間でした。

IT哲学

江島健太郎K e n n E j i m a

写真のある生活の未来

Entry

28

Page 85: Computerworld.JP Jan, 2008

January 2008 Computerworld 113

P R O F I L E

くりはら・きよし。テックバイザージェイピー(TVJP)代表取締役。弁理士の顔も持つITアナリスト/コンサルタント。東京大学工学部卒業、米国マサチューセッツ工科大学計算機科学科修士課程修了。日本IBMを経て、1996年、ガートナージャパンに入社。同社でリサーチ・バイスプレジデントを務め、2005年6月より独立。東京都生まれ。

 NCRから分社したデータ・ウェアハ

ウス・ベンダー、テラデータ主催の年次

ユーザー・コンファレンス「PARTNERS

2007」に参加してきました。過去にも

何回か参加していますが、世界中のデー

タ・ウェアハウスの先進ユーザー事例の

詳細を知ることができる貴重なイベント

です。

 特に興味深かったセッションの1つ

に、英国の保険会社ノーウィッチ・ユニ

オンによるPAYD(Pay-As-You-Drive)

自動車保険の事例がありました。日本

語に訳せば「従量制自動車保険」となるでしょう。この

システムについては、今までも自分の講演で何回か紹

介してきたのですが、今回、ノーウィッチ・ユニオンの

担当者から直接話を聞けたことは大変貴重な経験でし

た。

保険契約者と保険会社の双方にメリット PAYD自動車保険の仕組みはこうなっています。保

険契約者の車両にはGPSを搭載した専用機器が設置

され、契約者の走行パターン情報、つまり、どの時間

帯にどの地域をどの程度の速度で走ったかなどが記録

されます。この情報は保険会社に集約され、保険料

が月ごとに計算されたのち契約者の元に届けられます。

 走行が多かった月、事故のリスクが高い地域を多く

通った月、盗難が多い地域に車を停めることが多かっ

た月は保険料が高くなるでしょう。その一方で、ほと

んど車に乗らなかった月は保険料が安く済むことにな

ります。あたかも携帯電話の通話料のように、自動車

保険の保険料が毎月、従量制の形で決

定されるというわけです。

 この仕組みは、契約者にとっては公

平な保険料につながります。特に、実

際には、ふだんほとんど運転しないにも

かかわらず、年齢が若いというだけで高

額の保険料を支払わざるをえなかった

層にとっては朗報でしょう。

 また、保険会社にとってはリスクの

低減につながります。高リスクの契約

者は保険料が高くなることから、他の

保険会社に移ってしまうかもしれませ

ん。しかし、これはノーウィッチ・ユニオンにとっては

望むべきところです。低リスクの契約者、つまり、保

険金を支払わなくてはならない可能性が低い契約者だ

けが残ることになるからです。正に、Win-Winのソリュー

ションと呼べるかと思います。

ビジネス・コンピューティングにおける“リアルタイム”とは 本誌2007年10月号の特集記事で、「ビジネス・コ

ンピューティングの世界における“リアルタイム”とは、

正確には“ライトタイム”(right time)、つまり、ビジネ

ス上の価値を提供できるレベルの迅速性で処理を行

うということを意味するのである」と書きました。その

意味では、このノーウィッチ・ユニオンの事例も、従

来は年間ベースで行っていた保険料の計算を月ベー

スで行うようにすることでビジネス上の価値を提供し

たという点で、「リアルタイム化」の事例の1つと言える

かもしれません。

テクノロジー・ランダムウォーク

栗原 潔K i y o s h i K u r i h a r a

自動車保険の「リアルタイム化」

Entry

28