chie sano lecture_for_archivist20151119
TRANSCRIPT
染織品?歴史資料?
• 染織品
シミがあると劣化を促進
→クリーニング
• 歴史資料
→脱酸素、乾燥
何の変哲もないシミのついた枕だけど・・・・リンカーンが暗殺された夜に、亡くなるまで使用されていたもの材料・・セルロース→鉄による酸化劣化、酸加水分解を抑制
寿命の長さの一般則
一点モノの美術品
>中央政権の歴史史料
>歴史資料
地方文書・公文書・アーカイブ・マイクロフィルム
>民俗資料
現代美術・画像/映像
>薄利多売の工業製品・生活資材
>一時的な資料・インスタレーション
均質性が重要
企業アーカイブズの特徴
• 材料種類の多様さ
• 不定型のサイズ
• 商業ベースの材料
• 保存専門家の不在
• 不確定な活用方法
• 未定な価値づけ
• 何年の寿命を期待?
ひとくくりでは取り扱えない
• 材料について知る
• 製造技術について知る
• 環境の、資料に与える影響について知る
• 取り扱いの、資料に与える影響について知る
• 総体での保存を図る
Preventive Conservation
資料保存の考え方の変化
修理してもオリジナルには戻らない
劣化→資産の減少
処置中心
被害が生じた後の対策
予防中心
被害を未然に防ぐ対策
Preventive Conservation
文化財の価値の喪失コスト
価値 価
値
環境整備
修理経費
資料の寿命
• 化学反応は、特定の温度で、材料の濃度にのみ依存して進行する
• 強度等は指数関数的に減衰
経過時間
強度・色などの指標
<修理>
他の要因による劣化促進・・温度湿度変動大/汚染物質/光による損傷/生物被害
劣化速度は10℃上昇で2.3倍に
・低温・低湿度
常温
資料保存の基本
<温度と湿度の制御> 湿度優先制御変動は緩やかに
<光の制御> 紫外線除去、赤外線除去可視光線 照度制御
<空気汚染> 清浄な空間
<生物被害防止> IPM (Integrated Pest Management)
総合的有害生物(害虫)管理
活用のための空間づくり
「活用なくして保存なし」
• 資料の価値付け・・・保存コストに反映
資料の資産価値 保存コスト上限は同等
実際には保存経費が多額の場合が多い(保存コスト=環境保全コスト+修理コスト)
リスクアセスメント(危険性の解析・評価、低減策の検討)
ハザードの特定
影響の量依存性評価
曝露評価
リスクの判定
ハザードアナリシス(危険源分析)
リスクマネージメント(許容水準以下に適切に管理)
リスクコミュニケーション(関係者への内容の周知、理解)
資料の損傷要因
• 防災(火災・水害・地震による倒壊)
• 防犯(盗難・ヴァンダリズム)
• 取り扱い(輸送・梱包)
• 温度・湿度変動の抑制
• 照明の制御
• 空気環境の保全(粉塵・化学物質汚染)
• 生物被害の防止
ハザードの大きさxリスクの発生頻度=危険度
保存管理上のリスク評価総合評価の一例
0
0.2
0.4
0.6
0.8
1防災
防犯
取り扱い
温度湿度照明
空気環境
生物被害防止 展示室
収蔵庫
移動レーダーの形を整った形に変えていくよう計画する
長期保存のための空間ーゾーニング
• 熱/光/大気汚染/害虫は外部から波及
• 区画を分けて防衛
• 保管区画は外周より内部に
入り口・受付等
活用区画 日常の見回り
収蔵区画 管理の徹底
緩衝地帯
危険地帯
管理区画
今年のトピックス「水銀に関する水俣条約」
• 水銀が人の健康や環境に与えるリスクを低減するための包括的な規制を定める条約
• 平成25(2013)年10月、熊本県で開催された外交会議で、採択・署名
• 50番目の国が締結した日から90日後に発効予定
概 要• 水銀供給と国際貿易
条約発効後の新たな水銀一次鉱山での採掘は禁止。既存鉱山は条約発効後15年で禁止
水銀の輸出は、条約上で認められた用途のみ。輸入国の事前同意必要
• 水銀添加製品
電池、蛍光灯(水銀を一定量以上含有)、高圧水銀灯、スイッチ・リレー、温度計 等計測機器の製造、輸出、輸入禁止(2020年)
禁止された水銀添加製品が組立製品に組み込まれることを防止する措置を講じ る義務
文化財での水銀の利用例1.鍍金材料(アマルガム) 水銀と他の金属との合金
アマルガム鍍金
箔鍍金
2.顔料
赤色: 辰砂、水銀朱
白色: 塩化第一水銀
3.写真材料 ダゲレオタイプ
4.からくり人形
5.近代における利用
水銀抵抗原器、水銀振り子時計、水銀整流器、・・
金、銀、銅、スズ
既存用途製品のリストアップ
「特に、文化的・歴史的価値のあるもの(条約発効前に製造された初期の試作品・歴史的な発明品など)に特殊な方法で水銀が使用されている可能性も想定され、これらを網羅的に奨励において指定することは困難であることを踏まえ、こうしたものを包括的に既存用途として規定しておくべきである。」
「EU REACH 規制では、『製造から50年を経
過した製品』や『文化的・歴史的価値のある展示用製品』が適用除外とされている。」
LED(発光ダイオード)
• 電圧をかけると発光する半導体
• ダイオードの種類によって赤、橙、黄、緑、青の可視光線から赤外線、紫外線までの光を出す
• ダイオードから出る青色の光で黄色の蛍光体を光らせて、擬似的に白色の光をつくる白色発光ダイオードが白色光源として広く用いられる
• 紫外線や赤外線を出さない(ように作られている)点が利点
防災と危機管理
<要因による分類>
• 地震 物理的破壊・水損・火災
• 火災 焼失・水損・煙害・熱
• 水害・漏水 汚染・微生物被害
• 大風・竜巻
• その他の要因 危険物施設など
• 防犯・ヴァンダリズム
自然災害と人的災害
文化財に被害をもたらす水損
• 火災時 消火による水損• 地震時 水消火設備の破損• 地震時 津波の襲来
被災文化財救済の初期対応の選択肢を広げる - 生物劣化を極力抑え、かつ後の修復に備えるために -被災文化財レスキュー事業情報共有研究会http://www.tobunken.go.jp/~hozon/rescue/rescue20110510.html 平成23年5月10日 東京文化財研究所
• 豪雨 漏水・河川氾濫等中~広域水害• 短時間降雨の増大 都市型水害の増加• 内水氾濫
気象情報を活用しよう
• 気象庁
• 環境省 黄砂、CO2情報は詳しい
• 気象協会 天気予報はこちら
• 地域情報は
区役所・市役所HP「暮らし・・」→「防災」→「ハザードマップ」
防災情報のメール配信サービスなどもある
濡れている場合
ビニール袋に入れて冷凍保管が望ましい。汚染量が下がってから処置。
湿っている場合
隔離した場所で、すみやかに乾かす。乾燥後、除塵清掃。汚染状況が改善しない場合、そのまま隔離して管理。
1,300cpm超
緊急資材の整備
• 被災した文化財を収納する箱(プラスチック)
• 一時保護のための薄様紙
• 水損を受けた場合の吸水・排水のための資材
• 労働者保護のためのマスク・手袋
胞子の大きさは、一般に1μmから200μm
HEPAフィルター装着の空気清浄機
• 修復の優先順位
トリアージできる人材の輩出を
乾かし方 が難しい・・・
• 早く乾かしすぎると形態が損なわれる
• 乾燥が遅くなるとバクテリア、カビが生える
• 濡れ方、分量、インクが水に溶けるか、など状況をみて判断する
• 厚みのあるものは、可能であればあらかじめ分ける(簿冊の表紙は外す、など)
基本的な施設要件ー安全な建物
• 浸水しない立地• 地震で崩れない建物• 漏水のない建物• 十分な断熱性能がある屋根・壁• 資料を安全に取り扱える十分なスペースがある• やや爽やかで快適な温度湿度環境• 温度湿度の変化はゆるやか• ゆるやかな気流• 深呼吸できる清浄な空気• 見やすい照明• 害虫に侵入されにくい開口部 箱
部屋
雨漏りしない屋根
亀裂のない壁
材質に応じた湿度の条件
◇高湿度◇
100% 出土遺物(保存処置前のもの)防黴処置が必要
◇中湿度◇
55-63% 紙・木・染織品・漆
50-63% 象牙・皮・羊皮紙・自然史関係の資料
50-55% 油絵
45-55% 化石
◇低湿度◇
45%以下 金属・石・陶磁器塩分を含んだ物は先に脱塩処置が必要
17~40% 写真フィルム
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1
2
3
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衝撃強さ(kgcm)
衝撃
強さ
(kgcm)
吸湿率(%)
紙の強さと湿度の関係
未さらしクラフト紙の吸湿率と衝撃強さ(吉野)
『材料と水分ハンドブック:吸湿・防湿・調湿・乾燥』、高分子学会高分子と吸湿委員会、共立出版、729(1968)
紙の強さと湿度の関係
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81%
耐折
強さ
時間(h)
耐折強さに及ぼす湿度の影響(ボンド紙、80℃にて老化)
尾関昌幸、大江礼三郎、三浦定俊:紙の劣化速度に関する検討、紙パルプ技術協会誌、36、233-242、(1985)
収納箱の効果
収納箱のテスト
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午前
日付
温度
℃あ
るい
は相
対湿
度%
RH
room Temp, °C room RH, % Large Temp, °C Large RH, % small Temp, °C small RH, %
環境保全コストの見直し
・すべての温度湿度変化は緩やかであるべきである
・温度変動は相対湿度変動よりも資料に与える影響は小さい
・±5%RH内の相対湿度変動では、資料に形態変化を起こすような状態は生じない
・±10%RHの相対湿度変動は、相対湿度変動に繊細な資料に被害を生じるおそれがある
・季節変化に伴って環境条件の設定値を変化させるべきである(恒温恒湿制御から変温恒湿制御へ)
・必要があれば気密性の高いケース・収納などを採用すべきである
主要な粉塵の粒子径• 2μmを境に挙動が異なる
1mm1μm=1/1000mm1nm=1/1000μm
顕微鏡で見える 肉眼で見える電子顕微鏡で見える
花 粉
細 菌ウィルス
カ ビたばこの煙
エアワッシャー
エアフィルターHEPAフィルター
電 気 集 塵
空中を浮遊 床に沈降
黄砂、PM2.5の由来黄砂の由来
• 中国大陸から偏西風に乗って飛来
• 経由地の大気汚染を吸着
• 中性能フィルターで捕集可能(直径4μm付近を中心に分布)
PM2.5の由来
• 西日本では5割が中
国からの寄与、東日本では自国内での発生
• 経由地の大気汚染を吸着
• 高性能フィルターでも捕集は困難(集塵機では捕捉可能)
化学物質の影響 - 屋外由来の汚染
化学物質 発生源 影響を受ける材質
硫黄酸化物 工場・火山 金属腐食
窒素酸化物 車 金属腐食、紙・染織品脆化
硫化水素 火山 金属腐食、特に銀の黒化
オゾン 太陽光 有機物脆化
塩化物 海 腐食促進、特にブロンズ病
微小カーボン 車 汚損
日本では、上記の化合物に関して、文化財保存のための目安となる数値は定まっていない(わずかな量でも影響があり、清浄化達成が難しいため)
窒素酸化物の影響
• 高濃度に短時間暴露するよりも低濃度に長時間暴露する方が変色が大きい
• 環境大気に曝露すると20ppm・hrで変退色に気づく(ΔE>5)*
• 湿度が高いほど変色が速い
• SO2と混合すると変色がより速い
• 光の影響も変色を速くする方向に働く
斉藤昌子・後藤純子・柏木希介:植物色素染織布の変退色に及ぼすNO2ガス濃度の影響、古文化財の科学、38、1-9(1993)
NO2に対する最低毒性発現量Lowest Observed Adverse Effect Dose : LOAED)
LOAED染料 もっとも影響を受けやすい染料
4種(クルクミン・ルチン・ヘマト
キシリン・クエルセチン)
1μg/m3・yr
顔料 鉄インク 40μg/m3・yr石黄 40μg/m3・yr
鉱物 鶏冠石 20μg/m3・yrフィルム染料 黄色 20μg/m3・yr金属 銅 30μg/m3・yr紙 化学パルプを原料とした紙 5μg/m3・yrJean Tetreault“Airborne Pollutants in Museums, Galleries, and Archives: Risk Assessment, Control Strategies, and Preservation Management,”Canadian Conservation Institute, 2003 のAppendix 2. Danage to Various Materials Due to Airborne Pollutants in Indoor Environment より抜粋
化学物質の影響 - 室内汚染
化学物質 発生源 影響を受ける材質
アンモニア コンクリート・水性ペイント 油絵の褐変、
緑青の青変
ギ酸・酢酸 ベニヤ・木材・接着剤 金属腐食、鉛丹変色
アルデヒド類 ベニヤ・メラミン 膠の硬化
オゾン 電気器具 有機物脆化
炭酸ガス 観客 高湿度下で鉛丹変色
含硫黄化合物 ゴムカーペット 銀の変色
気中濃度の目安
• アンモニア 推奨 30ppb以下
• 酢酸 推奨 170ppb以下
• 蟻酸 推奨 10ppb以下
• ホルムアルデヒド(人の健康影響) 80ppb以下
*部屋の中央は、壁際と気中濃度が異なるので数値の取り扱いには注意が必要*
<基準値・指針値はない>
文化財への影響-反応の進み方
• 高濃度
• 長時間
• 接触面積 大
• 資料の含水率 高
<化学平衡に基づいて反応が進行>
反応速度大
空間の相対湿度 高
<化学物質の濃縮>
→ エアタイトケースの功罪
監視(Detect)-適切な方法で-
• 嗅覚
• 定性的判断
変色試験紙 (「環境モニター」 @文虫研)
• 半定量 北川式ガス検知管
パッシブインジケータ®• 定量分析 大気中濃度の精密測定
• 影響評価 アマニ油試験紙、金属板
高価・専門的
資料のカビ被害防止
• カビが利用できる栄養源を減らす
– ほこりの除去、カビの死骸のクリーニング
1. 定期的な吸引清掃
2. 清拭
3. 塵埃の堆積防止
4. 清浄な空気の供給
5. 塵埃持ち込みの低減
• カビが利用できる水を減らす
1. 除湿
2. 送風
<被害があれば即処置、被害がないのに処置するのは無駄>
• 活動中のカビである(臭気がある)
• 大面積でカビ発生
化学薬剤に頼らない処置を検討
化学薬剤による処置を検討
(公財)文化財虫菌害研究所の認定を受けた方法で行う処置後はカビ死骸除去のためにクリーニングが必要
カビの処置
• 滅菌できる方法はガス燻蒸のみ
• 貴重書は、ガス燻蒸するか、カビの活性が落ちるまで相対湿度60%RH以下で保管(2~3年)
• 殺菌消毒後にはクリーニングが必要(作業区画を確保)
• 取り換えられるものは紫外線殺菌も
作業区画 紫外線殺菌消毒器
エスカルガゼット(これは冊子用)
RP用酸素インジケーター
シールするには、重なり部分をしっかりと
脱酸素処理薬剤RP(三菱ガス化学)
低酸素濃度処理-小規模
• 繰り返し使用は2~3回程度
• そのまま引き出し・棚に収納
• 空気を抜かない
Waller, R. and T.J.K. Strang. 1996. Physical chemical properties of preservative solutions-I. Ethanol-water solutions. Collection Forum, 12(2), pp.70-85.
消毒用アルコールは少量の使用で
フィルムの保管 ― 低温・低湿
<中期保存の温湿度条件> JIS K7641:2008・温度 平均温度21℃以下、25℃を超えないことが望ましい
短期間であっても32℃を超えないこと。
・相対湿度 平均値50%、最高相対湿度は60%を超えないこと。
・任意の24時間内の相対湿度の変動幅は±5℃・任意の24時間内の相対湿度の変動幅は±10%RH
札幌 仙台 東京 新潟 京都 広島 高知 福岡 那覇
年平均8.9
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23.1
74
各地の平年値(1981~2010年の平均値)上段:温度 ℃ 下段:相対湿度 %RH
収蔵にあたって・・低温・低湿・清浄
新築時のコンクリートからのアルカリ性粉塵に注意!
アルカリリザーブは怖い
酸性ガスにも注意が必要!
自己分解で発生する酢酸ガスも除去する
不衛生なところはアンモニアが多くて分解が進む
CD,DVD等はビネガーシンドロームのある状況では一緒に保管しない