天然林の分布を規定する気候要因と温暖化の影響予測 :とくにブ … ·...

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11 1 はじめに 気候変動に関する政府間パネル IPCC報告書 1によると地球温暖化が現在進行している20 世紀の 100 年間に地球の平均温度は 0. 6 上昇し そして21 世紀の 100 年間には 1.4 5.8 昇することが予測されている温暖化に伴い水量も合わせて変化するこのような気候変化が 生態系に与える影響の評価はIPCCの重要な課 題と位置づけられている 1欧米を中心に気候変化の生物の潜在分布域へ の影響を予測する研究が進められているたとえ 米国では東部の主要樹種 80 種について在および将来の気候下での潜在分布域が予測さ れている 2英国では 33 種の植物について在および将来の気候下での潜在分布域が予測さ 気候変化に対する脆弱性と感受性が評価さ れている 3, 4ヨーロッパ大陸では1,350 種の植 物について 7 つの気候変化シナリオによる将来の 潜在分布域の予測が行われている 5植物の分布を予測するモデルを開発することに より現在および将来の気候下における潜在分布 域を予測できるモデルでは量的な分布予測がで きるので潜在分布域の中を分布可能な地域 布可能域)、分布に適する地域 分布適域)、分布 頻度や優占度が最大となる地域 分布最適域など に区分することもできるこのような研究によ 気候変化による分布可能域分布適域の面積 天然林の分布を規定する気候要因と温暖化の影響予測 :とくにブナ林について 田中 信行 1 松井 哲哉 1 八木橋 勉 2 垰田 宏 1 1 独立行政法人 森林総合研究所2 独立行政法人 国際農林水産業研究センター摘  要 気候変化が日本のブナ林に及ぼす影響を評価するためにブナ林の分布確率を環境 要因から予測する分類樹モデルを構築して潜在分布域を予測した研究を紹介し今後 の課題を検討する分類樹モデルでは目的変数をブナ林の実際の分布としブナ林 や他の天然林の分布情報として第 3 回自然環境保全基礎調査による 3 次メッシュ植生 データベース MVDBを用いた説明変数を 4 気候変数 暖かさの指数最寒月最低気 夏期降水量冬期降水量5 土地変数 表層地質地形土壌斜面方位斜面 傾斜度とし現在の気候には 3 次メッシュ気候値を将来の気候には 2100 年の気候 変化シナリオCCSR/NIESRCM20 土地変数には国土数値情報を用いた分類樹モ デルによるとブナ林の分布を規定する要因の影響力を示す分離貢献度は冬期降水 暖かさの指数最寒月最低気温の順に高かった夏期降水量の貢献度は 4 気候変 数の中では最低で土地変数の貢献度は低かったまたブナ林の分布確率の高い地 域と低い地域の気候条件が明らかになり分布の限界を規定する気候変数と閾値が地 域間で異なることが示されたブナ林の成立に適する地域 分布適域を予測精度判定 に基づいて分布確率 0.5 以上の地域とするとその面積は現在の気候下では 26,220 km 2 である温暖化後の分布適域の面積はCCSR/NIESシナリオでは 9%RCM20 シナ リオでは 37%に減少すると予測される両シナリオとも九州四国本州太平洋側 の分布適域はほとんど消滅し分布適域の広い東北でもその面積が大きく減少する温暖化の影響でブナの生育環境が悪くなる程度を表す脆弱性指数 分布確率の逆数考案し脆弱性地図を作成した分布適域から外れるブナ林は100 年程度の時間を かけて衰退すると考えられるこの様な研究方法は広域で長期間 50 100 年後変化予測が可能という点が長所である分布データとして用いたMVDBは植生タイプ の分布情報で植物種の分布情報ではない欧米では気候変化の潜在分布域への影響 予測が多くの植物種について行われており日本でも多種について予測を可能にする ために種の分布情報のデータベース化が必要であるキーワード:気候変化シナリオ脆弱性指数潜在分布域分布適域分類樹モデル

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Page 1: 天然林の分布を規定する気候要因と温暖化の影響予測 :とくにブ … · 2.温暖化のブナ林への影響予測 2.1 気候データと気候変化シナリオ

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1.はじめに

 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)報告書 1)

によると、地球温暖化が現在進行している。20世紀の 100年間に地球の平均温度は 0.6℃上昇した。そして、21世紀の100年間には1.4~5.8℃上昇することが予測されている。温暖化に伴い、降水量も合わせて変化する。このような気候変化が生態系に与える影響の評価は、IPCCの重要な課題と位置づけられている 1)。

 欧米を中心に、気候変化の生物の潜在分布域への影響を予測する研究が進められている。たとえば、米国では東部の主要樹種 80種について、現在および将来の気候下での潜在分布域が予測さ

れている 2)。英国では 33種の植物について、現在および将来の気候下での潜在分布域が予測され、気候変化に対する脆弱性と感受性が評価されている 3), 4)。ヨーロッパ大陸では、1,350種の植物について7つの気候変化シナリオによる将来の潜在分布域の予測が行われている 5)。

 植物の分布を予測するモデルを開発することにより、現在および将来の気候下における潜在分布域を予測できる。モデルでは量的な分布予測ができるので、潜在分布域の中を分布可能な地域(分布可能域)、分布に適する地域(分布適域)、分布頻度や優占度が最大となる地域(分布最適域)などに区分することもできる。このような研究により、気候変化による分布可能域・分布適域の面積

天然林の分布を規定する気候要因と温暖化の影響予測:とくにブナ林について

田中 信行 1・松井 哲哉 1・八木橋 勉 2・垰田 宏 1

(1独立行政法人 森林総合研究所、2独立行政法人 国際農林水産業研究センター)

摘  要 気候変化が日本のブナ林に及ぼす影響を評価するために、ブナ林の分布確率を環境要因から予測する分類樹モデルを構築して潜在分布域を予測した研究を紹介し、今後の課題を検討する。分類樹モデルでは、目的変数をブナ林の実際の分布とし、ブナ林や他の天然林の分布情報として第3回自然環境保全基礎調査による3次メッシュ植生データベース(MVDB)を用いた。説明変数を4気候変数(暖かさの指数、最寒月最低気温、夏期降水量、冬期降水量)と5土地変数(表層地質、地形、土壌、斜面方位、斜面傾斜度)とし、現在の気候には3次メッシュ気候値を、将来の気候には2100年の気候変化シナリオCCSR/NIESとRCM20を、土地変数には国土数値情報を用いた。分類樹モデルによると、ブナ林の分布を規定する要因の影響力を示す分離貢献度は、冬期降水量、暖かさの指数、最寒月最低気温の順に高かった。夏期降水量の貢献度は4気候変数の中では最低で、土地変数の貢献度は低かった。また、ブナ林の分布確率の高い地域と低い地域の気候条件が明らかになり、分布の限界を規定する気候変数と閾値が地域間で異なることが示された。ブナ林の成立に適する地域(分布適域)を予測精度判定に基づいて分布確率0.5以上の地域とすると、その面積は現在の気候下では26,220 km2

である。温暖化後の分布適域の面積は、CCSR/NIESシナリオでは9%に、RCM20シナリオでは 37%に減少すると予測される。両シナリオとも九州、四国、本州太平洋側の分布適域はほとんど消滅し、分布適域の広い東北でもその面積が大きく減少する。温暖化の影響でブナの生育環境が悪くなる程度を表す脆弱性指数(分布確率の逆数)を考案し、脆弱性地図を作成した。分布適域から外れるブナ林は、100年程度の時間をかけて衰退すると考えられる。この様な研究方法は、広域で長期間(50~100年後)の変化予測が可能という点が長所である。分布データとして用いたMVDBは植生タイプの分布情報で、植物種の分布情報ではない。欧米では気候変化の潜在分布域への影響予測が多くの植物種について行われており、日本でも多種について予測を可能にするために、種の分布情報のデータベース化が必要である。

キーワード:気候変化シナリオ、脆弱性指数、潜在分布域、分布適域、分類樹モデル

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田中ほか:天然林の分布を規定する気候要因と温暖化の影響予測

変化、気候変化後も引き続き生育が可能な地域、気候変化により潜在分布域から外れる地域などが特定できる。これらの結果を用いれば、気候変化の時代における植物群落や野生植物の保全管理計画を準備することが可能となる。 気候変化が植物や植生の分布へ与える影響予測の研究は、日本や東アジアでは少ない。日本では1990年代から研究が始まり、6森林タイプ(エゾマツ林、ミズナラ林、ケヤキ林、アカガシ林、スダジイ林)6)や自然植生帯 7)の潜在分布域が温暖化によって北方に移動することが示された。これらの研究では、温度要因だけから潜在分布域が予測されている。我われは、温暖化の日本の森林への影響研究のレビュー 8)-11)、環境要因からブナ林やミズナラ林の潜在分布域を予測するモデルの開発 12)-16)、温暖化のブナ林への影響評価 17)などを推進してきた。 ブナ林は日本を代表する天然林の1タイプで、世界遺産の白神山地ブナ林が有名である。水源涵養機能や野生生物の生息地として、特に近年重要性が認められている(図1)。ブナは北海道南部の黒松内から鹿児島県高隈山まで分布し、その面積は日本の天然林総面積の17%にあたる23,000 km2

である。北海道南部、東北、本州日本海側に分布が広く、本州太平洋側、四国、九州では山岳上部に限られている。 本稿では、温暖化のブナ林への影響予測研究、すなわちブナ林の分布確率を環境要因から予測するモデルを構築し、ブナ林の分布適域を特定し、気候変化が与える分布適域への影響を予測し、気候変化に対する脆弱な地域を特定した研究を紹介する。さらに、今後の気候変化影響の研究課題について言及する。

2.温暖化のブナ林への影響予測

2.1 気候データと気候変化シナリオ 現在の気候データには、3次メッシュ気候値 18)

を使用した。3次メッシュとは、緯線方向に 30秒、経線方向に45秒の大きさ(約1 km2)の網の目に全国を区切り、各区画(セル)に固有番号を与えたものである19)。メッシュ気候値では全国の観測地点のデータが用いられ、観測点のないセルの気候値は重回帰分析によって推定されている 20)。この気候値の観測期間は、気温が1953~1982年、降水量が 1953~ 1976年である。植物の生育にとって重要な気候変数として、以下のものを取り上げた。すなわち、生育期の熱量の指標として暖かさの指数(WI)21)、冬季の低温の極値の指標として最寒月の日最低気温の月平均(最寒月最低気温、TMC)、生育期の水分供給の指標として5~9月の降水量(夏期降水量、PRS)、冬季の乾燥や積雪の指標として12~3月の降水量(冬期降水量、PRW)を 3次メッシュ気候値からセルごとに計算し、分布予測の説明変数とした。 二酸化炭素など温室効果ガスの増加により、気候がどのように変化するかについて予測した気候変化シナリオがいくつも作られている。地形の急峻な日本の植物や森林の分布への気候変化の影響を予測するには、最低限1~10 kmメッシュの空間解像度で解析を行うことが必要と考え、気候変化シナリオデータを空間内挿して 1 kmメッシュの気候データを作成した。利用した気候シナリオは、温室効果ガス排出シナリオIS92a 22)に基づく気候変化シナリオCCSR/NIES 23)と、排出シナリオSRES-A2 1)に基づく気候変化シナリオRCM20 24)である。 CCSR/NIESシナリオ(2091~ 2100年)とRCM20シナリオ(2081~2100年)を現在の気候 18)と比較すると、温度の違いが降水量の違いより顕著である(図2)。平均気温は全国平均で、CCSR/NIESシナリオが 4.9℃、RCM20が 2.9℃上昇する。暖かさの指数は、CCSR/NIESシナリオが42℃・月、RCM20シナリオが 23℃・月上昇する。最寒月最低気温は、CCSR/NIESシナリオが 5.1℃、RCM20シナリオが 4.1℃上昇する。降水量では、冬期降水量はどちらのシナリオも現在と比べてそれほど変化しないが、夏期降水量は増加する。なお、CCSR/NIESシナリオとRCM20シナリオでは平均期間が違うが、簡便化のため以後どちらも 2100年の気候変化シナリオと表現する。 2.2 気候以外の環境データ 植物の分布頻度や優占度には、気候だけでな

図1 分布適域のブナ林.秋田県藤里町岳岱自然教育林.

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く、地質、地形、土壌などの土地的要因も影響する。ブナ林の分布予測の研究では、表層地質、地形、土壌、斜面方位、斜面傾斜度も説明変数として使った 17)。これらの変数は、1/200,000の土地分類図に基づいて作られた国土数値情報 25)から情報を収集した。表層地質、地形、土壌データは都道府県ごとに作成されたため、類型が都道府県間で異なる場合があるので、類型を統一したものを利用した 26)。斜面方位と傾斜は、緯度方向 1.5秒、経度方向2.25秒(約50 m方形区)ごとの標高データDEM27)から計算した。その結果、表層地質が21、地形が15、土壌が18の類型に区分された 17), 26)。

2.3 植生分布データ 特定の植生タイプを目的変数、環境条件を説明変数として統計モデルに組み込むことにより、植生タイプの分布予測が可能となる。植生タイプの分布情報としては、環境庁の第3回自然環境保全基礎調査による全国の1/50,000植生図を3次メッシュに切り分けた3次メッシュ植生データベース(MVDB)を用いた 28)-30)。

 分布予測モデル構築にあたっては、MVDBの日本辺縁の島嶼を除く345,167セルから、人工的土地利用(農耕地、人工林、都市など)188,363セルを除いたあとの天然林156,804セルを使用した。天然林セルの中から群落名にブナを含む23,432セ

ルをブナ林として抽出した。潜在分布域の予測には、全国345,167セルを使って分布図を描いた。 2.4 モデルの比較 使用した分布予測モデルは、特定の種の潜在分布域を予測する統計モデルである 31)。植物分布予測で海外でしばしば用いられる一般化線形モデル(GLM)、一般化加法モデル(GAM)、分類樹モデル(TM)の 3種類のモデルを用いてブナ林の分布予測を行い、予測精度(適合度)を比較した 15)。さらに、GLMでは4気候変数のみを用いて作成した単純なモデルと(GLM-Simple)と、4気候変数にそれぞれの2乗項と2変数間の交互作用項を加えた複雑なモデル(GLM-complex)を作成した。モデル精度の比較には、AIC(赤池情報量規準)、尤離度および分布予測モデル研究でしばしば用いられるKappa統計量などの予測精度指標値を用いた。これらの指標値を比較した結果、 TM、GAM、GLM-complex、GLM-Simpleの順に予測精度が高かった。TMの予測精度が高いのは、データをそれ以上分割しても無意味になるまで、かつ均質になるように2分割を続けていくことで、説明変数間の複雑な交互作用をモデル化できるTMの特性が関係していると考えられる。したがって、TMは空間的に不均質な気候下の日本に広く分布するブナ林の分布予測を行う場合の最適なモデルと考えられる。また

図2 現在と将来の気候変数の分布.左列から現在,気候変化シナリオCCSR/NIESの2091~2100年,RCM20の2081~2100年の順に配列.

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田中ほか:天然林の分布を規定する気候要因と温暖化の影響予測

TMでは、分割する時に選択される環境変数とその閾値について生態学的な解釈が可能なことも研究にとって有用である。 2.5 ブナ林分布を規定する要因と閾値 4気候変数で形作られる空間(気候空間)におけるブナ林セルの分布を図3に示す。全ブナ林セルの最小値~最大値は、WIが30.5~118.7℃・月、TMCが-15.5~ 0℃、PRSが 440~ 2,750 mm、PRWが 165~ 1,593 mmである。PRSでは、存在する値の範囲のほとんどにブナ林が出現する。PRWでは最大値までブナ林が出現するが、165 mm以下には出現しない。ブナ林セルの 99%が出現する範囲は、WIが 42 .0~ 92 .6℃・月、TMCが

-13.0~-2.6℃、PRSが552~2,257 mm、PRWが251~1,485 mmである。 ブナ林の潜在分布域を 3つの分類樹モデルを作って予測した。ブナ林の有無を目的変数とし、説明変数として 4気候変数だけを用いたモデル(CLIMATE)、4気候変数に位置情報として緯度・経度を説明変数に加えたモデル(SPATIAL)、4気候変数に 5土地変数を説明変数に加えたモデル(ENVI)である 14),17)。SPATIALモデルとCLIMATEモデルを比べると、予測精度に大きな違いはなかった。分布を規定する要因の影響の大きさを示す分離貢献度 14)は緯度、経度とも低く、この2つの位置変数は地域的な要因としてモデルに現れる程度であった。この結果は、4気候変数でブナ林の実際の分布がほとんど説明できるということを意味する。また、ブナ林は気候的に分布可能なほとんどの範囲に広がっていることを示唆する。 ENVIモデルにおける分離貢献度は、冬期降水量、暖かさの指数、最寒月最低気温の順に高く、夏期降水量の貢献度は 4気候変数の中では最低であった 17)。土地変数の貢献度はどれも低かった。この結果は、空間解像度 1 kmによるブナ林の分布全域の予測という条件では、3気候変数がブナ林の分布に最も影響することを意味する。  4気候変数だけを使って作った分類樹モデル(CLIMATE)を図4に示す 14)。分布確率が0.67のブ

図4 ブナ林分布の分類樹モデル(CLIMATE).樹形の頂点からスタートし,各分岐で提示された条件を満たせば左へ,そうでなければ右へ進みながら85個のターミナルノードへ到達する.括弧内の数値はノード番号で,それに続いてブナ林存在予測値(分布確率)が示されている.モデルの説明変数は4気候変数(WI,TMC,PRW,PRS)である.(Matsui et al . 200414)を一部改変)

図3 4気候変数の軸で作られる空間(気候空間)上のブナ林の分布.黒点がブナ林のセル,灰点がブナ林でないセルを示す.WIは暖かさの指数,TMCは最寒月最低気温,PRWは冬期降水量,PRS は夏期降水量を指す.

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ナ林に適した立地は、本州の日本海側と北海道南部に分布し、その気候条件は多い冬期と夏期の降水量(564<PRW、731<PRS)、中庸な温度(48.9<WI< 77.2、- 12.3<TMC)が特徴であった。そのなかでも分布確率が 0.86と最も高い地域、すなわちブナ林に最も適した立地(分布最適域)は、富山県以北に分布し、その気候条件は564<PW< 1059 、916<PS< 1151、52.6<WI< 65.2、-12.3<TMCであった(ターミナルノードNo.51)。九州、四国、紀伊半島など日本の南西部におけるブナ林の分布地は、ターミナルノードNo.25とNo.46が対応し、分布確率はともに0.45であった。気候条件は、No.25が 331<PRW<494、1789<PRS、WI<74.0、-10.0<TMCで、No.46が494<PRW< 564、1941<PRS、48.9<WI< 77.2、-12.3<TMCであった。 分類樹モデルが示す分布確率の低い地域の気候条件から、分布を制限する見かけの要因とその閾値が明らかになる(図5)。分布確率の低い北

海道の大半は冬期の寒冷と乾燥(TMC<-12.5、PRW< 494)(図 5A)が、本州内陸部や東北の阿武隈や北上山地では冬期と夏期の乾燥(PRW<331、PRS<795)(図5B)が、本州の宮城県以南の太平洋沿岸域と四国・九州では夏期の高温と冬期の乾燥(89.6<WI、PRW< 494)(図 5C)が、本州の新潟県以南の日本海沿岸域では夏期の高温(95.2<WI)(図5D)が、ブナ林の成立を阻害する要因となっている 14)。この結果は、ブナ林の分布を制限する気候変数と閾値が地域間で異なることを示す。 2.6 ブナ林分布への影響予測 ブナ林の実際の分布域、分類樹モデルで予測した潜在分布域を図6に示す。分類樹モデルによるブナ林の分布確率予測では分布確率0.3~0.5以上を潜在分布域とすると、分布予測精度指数であるKappa統計量が 0.6以上となり、良好な予測精度と判定された。そこで、ブナ林の成立に適する地域(分布適域)を分布確率0.5以上の地域とすると、その面積は現在の気候下では26,220 km2になる。分布適域の面積は、現気候条件に比べCCSR/NIESシナリオでは9%に 17)、RCM20シナリオでは37%に減少する。両シナリオとも九州、四国、本州太平洋側の分布適域はほとんど消滅し、分布適域の広い東北でもその面積が大きく減少する。世界遺産に指定され、ブナ林が大面積に広がる白神山地も例外ではない。本州以南では温暖化により分布適域はより高標高に移動するので、低山では適域が消失し、高山では亜高山針葉樹林帯域に適域が侵入する。 温暖化に伴い低標高域はブナ林の成立にあまり適さなくなり、ブナは低標高域に分布する他の樹種に置き換えられるだろう。本州日本海側の低標高域ではコナラ、ミズナラ、クリが、九州・四国・本州太平洋側ではこれらの樹種に加えてカシ類、モミ、イヌブナが、ブナに置き換わる樹種になるだろう。ブナ林が人工林に囲まれて孤立する場合は、ブナに置き換わる樹種を含む天然林が辺縁に存在しないので、ブナ上層木衰退後に高木樹種が欠如する植生(低木林やササ原)に遷移するかもしれない。森林の優占樹種が置き換わるには、上層木が枯死してできた林冠穴(ギャップ)に後継樹が育つ過程を経なければならないから、100年程度の時間がかかるであろう。ブナに適さない高温・乾燥条件の限界環境にある低山の山頂にブナ林が孤立する場合、低山であるため高標高への逃げ場がないので、温暖化影響によるブナ林の消失がもっとも起こりやすいと考えられる(図7)。温暖化に伴い、このような限界環境のブナ林は、親

図5 ブナ林の分布確率が低い地域の気候条件.分類樹モデル(図4)における,分布確率が低く面積の広い4つのターミナルノードについて示す.

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田中ほか:天然林の分布を規定する気候要因と温暖化の影響予測

木枯死後のブナの再生が一層難しくなると予想される。ブナ林の分布適域が侵入する亜高山帯針葉樹林帯では、針葉樹類の枯死後にブナが更新して次第に増えていくだろう。しかし、ブナが置き換わるには針葉樹上層木の衰退が起こった後になるので、その変化にも100年以上の時間が必要だろう。

2.7 分布北限の動向 現在のブナ林の北限は、北海道の渡島半島黒松内低地にある。どちらの気候変化シナリオでも、分布適域は黒松内低地を越えて北東に広がる。したがって、温暖化に伴いブナが北限より北東域に侵入する機会が増えるだろう。花粉分析からわかった最終氷期以降のブナの北進速度は早い場所で 233 m/年 32)、北海道では 20 m/年 33)または、11 m/年 34)と推定されている。CCSR/NIESとRCM20シナリオの100年間の北海道における最寒月最低気温(TMC)の北進距離は地域により異なるが、10~50 kmになる。ブナの移動速度を11~233 m/年とすると100年では1.1~23.3 kmになる。このシナリオのような温暖化が進行すれば、ブナの移動が温度の移動に追いつけないことが十分予想される。 ブナがスムーズに移動するには、天然林が連続している必要がある。しかし、現在の土地利用は人工林、農耕地、都市などが天然林を分断しているのでブナの移動は容易ではない。とくに、温暖化後も高温・乾燥のため分布不適域に入る石狩低地が分布適域を分断するので、ブナの移動が阻害

図7 夏期の高温と冬期の乾燥という限界環境に成立する脆弱なブナ林(茨城県筑波山).親木枯死後のブナの再生が悪くササ原が広がる林分.

図6 ブナ林の分布.(A)実際の分布,(B)現在の気候における分布確率,(C)気候変化シナリオCCSR/NIES(2091~2100年)における分布確率,(D)気候変化シナリオRCM20(2081~2100年)における分布確率.図(B),(C),(D)で赤色に示される分布確率0.5以上の地域が,ブナ林の成立に適する地域(分布適域)と考えられる.

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されると予想される。 2.8 脆弱性地図 IPCC報告書 1)では、温暖化の影響評価のなかで、とくに脆弱性の評価が重視されている。温暖化による森林の機能の衰退を防止するためには、温暖化によって衰退が起こりやすい脆弱な森林がどこにあるかを予測して、脆弱な森林を日ごろ監視し、もし衰退が進行している場合には対策を講じることが必要である。そのためには、脆弱な森林の位置を地図上に示すことが有用である。 ブナ林の分布確率が低い場所は、ブナにとって生育環境が悪いことを意味する。温暖化によりブナの生育環境が悪くなる程度を表す指標として脆弱性指数(VI:vulnerability index、分布確率の逆数)を考案し、現存のブナ林分布地について計算した(図8)。両シナリオとも、九州、四国、本州太平洋側のブナ林の多くは分布確率が低下するので脆弱性指数が高くなり、これらの地域のブナ林が温暖化に対して脆弱であると予測された。北海道南部のブナ林は、CCSR/NIESシナリオでは低地を中心に脆弱性指数が高いが、RCM20シナリオでは低い。これは、CCSRシナリオがRCM20シナリオと比べて、北海道南部での暖かさの指数や最寒月最低気温の値が高いことが理由と考えられる。 2.9 適応策 温暖化により森林の構成種に消失、移動、加入といった変化が起こる。これに対し、変化をそのまま受け入れるのか、適応策により現存する種を保全するのかについて判断が求められる。いずれにしても、地域の実情に合わせた保全管理計画が必要である。適応策としては、西日本の常緑樹林

の上限に接しているブナ林における常緑種の侵入のコントロール、本州中部から北部の山脈が連なる地域における生態的回廊によるブナの移動経路の確保、また、北海道のブナ林北限以北におけるブナの北方林への侵入のコントロールなどが具体例として考えられる。

3.今後の課題

3.1 潜在分布域予測研究の意義と課題 生物の潜在的分布域の温暖化後の変化を予測する研究が米国 2), 35)、欧州 3)-5), 36)-38)、ニュージーランド 39)などで多数行われている。これらの研究は、生物の実際の分布と環境の情報に基づき生物の潜在分布域を予測する統計的モデルを構築し、気候変化シナリオを当てはめることにより潜在分布域の変化を予測している。この様な研究は、広域(北米東部、英国、欧州など)で、長期間(50~100年後)の変化予測が可能という点が長所である。現在と将来の気候条件における潜在分布域が特定されることにより、その予測結果を自然保護に活用できる。たとえば、衰退や絶滅の危険性のある脆弱な植物種や群落とその分布域が特定できるので、適応的保全計画の策定が可能となる。また、温暖化影響の検出のためのモニタリング地を選定する際に参考になる。 生物の潜在分布域の予測研究は、日本を除く東アジアではまだほとんど行われていない。東アジアは、植物相では日華区系として日本と同種や近縁種が多い。潜在分布域の研究は、日本だけでなく東アジアで国際的に進めることが望ましい。 生物の潜在分布域の移動と実際の移動は別であり、実際の移動の予測は今後の課題である。生物の移動を予測するためには、生物の移動を組み込んだ動的モデルの開発が必要である。植物の潜在的移動速度と土地利用から導かれる移動ルートを変数に入れた分布予測モデルの試みも行われている 40)。個体レベルの群落動態予測モデルでは、このような広域の予測ができるものは開発されていない。 3.2 データに由来する分布予測の限界と課題 正確な生物の分布情報を取得することは、今のところ非常に困難である。天然林の優占種であるブナは、植生図を作成される時に必ず判別され、それに基づいて作られたMVDBはブナ林の分布情報を多く含んでいた。MVDBから得られるブナ林の分布情報では、過去の伐採のためにブナ林がブナの優占しない二次林になってしまったセルは、ブナ林の分布地とされない。過去に人為影響の大

図8 現存するブナ林の脆弱性指数(VI)分布図.VIは分布確率の逆数で,大きいほどブナ林の成立が困難となり,2以下は衰退の危険性が低い.

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田中ほか:天然林の分布を規定する気候要因と温暖化の影響予測

きかった平野を含む低標高域では、ブナ林の面積が減少してしまっているだろう。このため統計モデルによる予測では、低標高域におけるブナ林の潜在分布域を過小評価していると考えられる。統計モデルは、生物の実際の分布情報に基づいて作られるので、このような問題が避けられない。 MVDBは日本全国の1 km解像度の植生タイプの分布情報を提供するが、植物種の分布情報ではない。したがって、種の潜在分布域の予測には不向きである。欧米では多くの種の分布情報が電子化され、気候的分布範囲や潜在分布域の予測が多種について行われている 5), 35), 36), 41), 42)。日本でも、多くの植物種の潜在分布域の予測を可能にするために、我われは植物社会学ルルベデータベース(PRDB)を作っている 43), 44)。これは、過去50年間に日本全国で行われた植生調査の資料をデータベース化したものである。各調査区(ルルベ)データには、地理的位置(緯度・経度、メッシュ区画コード)、環境条件、群落階層構造、植物の種名と優占度が含まれている。PRDBが利用できれば、多くの植物種の潜在分布域を予測することができる。潜在分布域の変化予測は、温暖化影響リスクの事例を示すことにより社会への警鐘として、気候変化の時代における植物や群落の保全の根拠として、役立つことが期待される。

謝辞 本研究は、環境省地球環境研究総合推進費(B-11、S-4)、及び科学技術振興機構重点研究支援協力員派遣事業(H12~15)の支援を受けた。

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田中ほか:天然林の分布を規定する気候要因と温暖化の影響予測

useful for assessing impact of climate changes in

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(受付2006年2月17日、受理2006年4月26日)