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Page 1: 病院感染対策の さらなる向上をめざして - kao(花 …病院感染対策をさらに向上させるための 組織作りと今後の課題 病院感染対策の さらなる向上をめざして

病院感染対策をさらに向上させるための組織作りと今後の課題

病院感染対策のさらなる向上をめざして病院感染対策のさらなる向上をめざして

 院内感染が社会問題としてマスコミで 大きく取り上げられるようになったのは、1990年 頃からである。MRSA(メチシリン耐性

黄色ブドウ球菌)による院内感染が社会問題となり、ちょうど今年 のS A R S(重 症急性呼吸器症候群)のような騒ぎで、マスコミ

は連日大きく報道していた。当時、保菌と感染症の区別をせずに、全 国にMRSA 患者が何千名存在しているとの新聞報道さえ

行われ、ある老人 病院は「MRSA 感染患者が多い」ということで、新聞の一面に大きく掲載された。「MR SAによる院内感染」が

社会的な問題となる契機となった一冊の本がある。富家恵美子氏の「院内感染」1)である。ご主人が 大学病院で食道静脈瘤の

手術を受けられ、順調に回復していたにもかかわらず、MR SA 感染症を発症され 不 幸にも亡くなられた。その原因について、

医療制度、病院組織、そして医師、特に研修医の勤務状況や 医学 教育に至るまで、多角的に院内感染が起こりうる要因を分

析し、教育を含めた感染対策全般の必要性を訴えている本である。医療、特に院内感染対策に 携わる方には、1度は読ん

で頂きたい本であり、さらなる院内感染対策の向上を考える基本となると思う。

 院内感染対策の目的は、「患者及び医療従事者の両者を無用な感染から守る」ことであり、患者への感染予防と同時に、医療従事者

への感染予防対策、すなわち職業感染予防対策も充実させてゆかねばならない。職業感染防止対策の充実は今後の課題である。

京都府立医科大学 臨床分子病態・検査医学教室 助教授附属病院臨床検査部 部長

はじめに

 感染対策に必要な組織とは、病院長、看護部長、

薬剤部長、臨床検査部長、事務部長など病院の各部

門の管理者から構成される諮問委員会としての「院内

感染対策委員会」(Infec t ion Control Commi t tee :

ICC)と実際に感染対策を実施する実働部隊としての

「感染対策チーム(Infection Control Team : I CT)」

である(図1)2)。感染 対策委員会の構成は、診療報酬

の「院内感染 防止対策に関する基準」3)に明確に定

められている。月一回の定期的開催や週一 回のMR

S A発 生報告など、一定の基準を満たす必要があり、

診療報酬上「院内感染対策の実施」は病院において

当然なされるべき事 項となり、実 施されていなけれ

ば減点となる。この規定の中には、I C T やリンクナー

感染対策に必要な組織と構成

感染対策委員会と感染対策チーム

文献3から引用

特集

ICT 感染対策委員会諮問機関

リンクナースリンクナース リンクナースリンクナース

現場現場 現場現場

病 院 長

図1 望ましい病院感染対策組織図

藤田 直久

2

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ス等についての基準はない。一方、病院機能評価

(ver.4.0)4)では、「組織的に院内感染管理が行われ

ている」ことは明記されているがICT/ICN/ICDと

いう言葉は見られず、「病院の規模・機能に応じて、

必要な知識・技術をもって院内感染管理を担当す

る医師と看護師が任命され、活動している」との記

載のみである。従って、感染対策委員会が出来上がれ

ば、あとはその病院の状況に応じて、IC T等の実践

的な組織を作り上げればよい。要するに、「感染予防

対策が確実に実施され、その結果院内感染の数が

減少すれば問題ない」わけである。

 欧米のように両者が専任であることは理想的であ

るが、ほとんどの病院では、どちらもいないか、ある

いは一部の病院でICNがおり、専任あるいは兼任

で活動しているのが現状である。今後基幹病院で

のICNの専任化は、リスクマネジメントの観点からも

避けて通れない状況になるのではないかと推測さ

れる。なお、日本におけるインフェクションコントロ

ールドクターとは、ここでいうICD(臨床微生物学者

あるいは感染症専門家)とは異なり、日本感染症学

会など感染症に関連する16学会で組織されたICD

制度協議会により認定された医師歴5年以上の医師

あるいは博士号を取得後5年以上のPh.Dである。

すべてのインフェクションコントロールドクターが、

微生物や病院疫学等の専門教育を受けたものでは

ない。感染症専門の内科医だけではなく、一般内

科医、外科医、眼科医、麻酔科医、学位を持つ検査

技師など、その職種の範囲は広く、資格取得には

病院感染制御に関わる活動実績が問われる。感染

症学会をはじめとする多くの関連学会がインフェクショ

ンコントロールドクターのレベルアップのために年間10

回近い講習会を実施し、ICDに必要な専門的知識

の教育にあたっており、今後、インフェクションコントロー

ルドクターは、欧米のICDとは異なる、多様性のある

日本独自の形で発展してゆくのではないだろうか?

 ICTは、感染対策の実践部門であり、構成はICD、

ICN、看護師、臨床検査技師、薬剤師、事務官から

なる混合編成であるが、実践部隊であるが故に、実

務にあたっている人達を選ぶ。病院の規模により組

織や人員の構成は異なってくるし、小さな病院では

ICCの委員の一部がIC Tとして活動しても構わな

い。IC Tの役割および活動内容について明確なも

のはないが、表1にIC Tの任務を列記3)するので

参考にして頂きたい。また、限られた人数では感染

対策への実効性が伴わないこともあるので、各病棟

にリンクナース(LN)を配置する。LNは、感染予防

対策のロール・モデル(模範)となる看護師であり、

感染予防対策手技を教育・実践し、病棟内で解決

できない感染管理に関わる問題点をICTへ報告す

る役割を果たす。大学病院など大規模病院では、

LN以外に、医師への感染対策の徹底と集団発生時

の対応の窓口として、病棟あるいは診療科毎にリン

クドクター(LD)を配置することもある5)。

感染管理医師(ICD)と感染管理看護師(ICN)

病院感染対策をさらに向上させるための組織作りと今後の課題

表1 ICTの任務

● 年間計画の作成と病院長への報告● 年間計画の実行とアウトカム評価● 年間予算計画の作成と交渉● 最低週一回の病棟ラウンド● 必要な対象限定サーベイランス● サーベイランス結果の病院長、委員会、現場への報告● アウトブレイクの防止と発生時の早期特定および制圧● 現場への介入(教育的介入、設備備品的介入)● 感染対策マニュアルの作成● 職業感染防止と針刺し事故等への対応● 耐性菌・結核・疥癬などの交差感染防止

 英国では、ICTは、感染管理看護師(ICN)と感染管理医師(ICD)の2名からなる、ICDの多くは臨床微生物学 者である。感染症 専門医が ICDとなることも

あり、また細菌検査室の技師がこれに加わることもあり、日本のような多人数ではない。これはICTが病院の重要な部門として位置づけられ、各ICDおよび

ICNが 専 任であることによる。日本のようにボランティア的につくられたICTとは根 本 的にそのベースが異なる。一方、米国では感染対策プログラムを実行

する上での中心的 役割として、ICTが構成され、実 施責任を負う。感染管理専門家ICP(Infection Control Professional / Practitioner)とICCの

委員長または病院疫学者の2または3名から構成されている。IC Pは、感染管 理に関する専門的知識をもつ資 格であり、必ずしも看 護 師に限らな い。

〈サイドメモ:英米でのICTは2,3名〉

感染対策実働部隊としての感染対策チーム(ICT)と下部組織

3

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ICTのラウンド

 I C T のラウンドは、目的と必要に応じて、人員構

成や間隔を決 める。例えば、バンコマイシンの適正

使用についてのラウンドをするのであれ ば 医師と薬

剤師だけでも可能であるし、血液培養陽性患者に対

する抗菌剤適正使用のラウンドであれば、前述の医

師・薬剤師に細菌検査室の技師を加えて実施する、

またこの場合には最低でも週 一 回はラウンドをおこ

なわないと対応 が 遅くなり、ラウンドによる効果が

上がらない。また感 染 予防対策の実施率あるいは

感染予防マニュアルの遵守率をチェックするのであ

れば、I C D、IC N や 看 護 師に加え、通常病棟に出

向く機 会 のない臨 床 検査 技 師や事務官を伴って、

ラウンドする。事務官や検査技師に病院の生の現場

を見てもらい、知識を深め、感染 対 策への動機付け

をねらっている。予め感染対策上遵守すべき項目の

チェックシート(東京都健康局

              作成を

参考にする)を作 成し、病 棟の数に応じて、月一回

程度順番 に各病 棟を回り、チェック項目に従 い 調

査し、調査結果を病棟にフィードバックし、是正する。

この時、悪いところばかりを 指 摘するのではなく、

良い部分も結果報告の中に組 み入れ、I C Tのイメ

ージが「小姑 の集団」にならないようにしたい。また

時には、病 棟 の現 状を知ってもらうた めに 病 院 長

や事務長を 連 れ 出し、一 緒 にラウンドしてもらうの

も良いかもし れない。なお、I C T のメンバーが多く

なると機 動 性が低下してくるので、集団発生あるい

は迅速な対応が必要な感染症発生の場合に備えて、

すぐに 集まれ、すぐに行動がおこせるような緊急対

応時 のコア・メンバーをあらかじめ決めておく必要が

ある。また、院内感染に時間外はないので、休日・夜

間でも対 応 できるように することも必 要 である。

 米国を中心に 数多くの院内感染管理に関するガ

イドラインが作 成され、翻 訳されている。国により

医 療 事 情、文化 や 生活環境、生活スタイルも異な

るため、すべてのガイドラインをそのまま日本に取

り入れることには注 意しなければならない。E BM

(科学的根拠に基づいた医学)により、これらのガイド

ラインは作成されているが、翻 訳だけではなく、必

要に応じてオリジナルおよびその引用文 献にも目

を向けて頂きたい。時 に、都合 の良い 部 分だけを

引用していることもある。また、日本の文化や生活

環境に即した形でこれらのガイドラインを導入し、実

践 的なマニュアルへと作りかえてゆく必 要がある。

ガイドラインにも、必 ず 個々の病 院 の 状 況 に合わ

せてガイドラインを参 考にマニュアル 作 成 すること

が 明記されている。

 ガイドラインは、単なる手引きであり、それぞれの

施設の医療現場で行われる感染予防対策の実施に

あたっては、その手技・手順は具体的なものでなけれ

ばならない。感染対策の手技・手順が標準化され

ていないと、各自の基準で対策が行われることとな

る。「感染対策が有効に実施されているか」を客観的

に評価できない。したがって、標準作業書を作成す

ることが必要となる。例えば、手指消毒でも「速乾

性 手 指 消 毒 薬 で 手 指 消 毒 をおこなう」ではなく、

①速乾性手指消毒薬3mLを手のひらにこぼれない

ように取り、②手のひら、手の甲、指の間、指先、親

指の回り、手首にまんべんなく擦り込み、③乾 燥する

までじゅうぶん(約30秒程度)に擦り合わせる」とい

う具体的な手技を書く。「手指消毒をおこなった」と

いうが、果たして全員がこれと同じ手技を実施して

いるとは 限らない。この様な標準作業書は、後述 す

るオーディットの作 成と深く関連している。

 現場でマニュアルどおりに対策が実施されている

かを確認するための方法として、オーディットがある。

オーディット(audi t )とは、会計監査あるいは審査と

いうことであり、実際に行われている手技がマニュ

アルに則って実施されているかをチェックし、問題

となる箇所を指摘し、改善しようというものである。

             http://www.kenkou.

metro.tokyo. jp/ian/shidou/kandl.html

マニュアルの遵守を評価する(オーディット)

ガイドラインから標準手順書(マニュアル)の作成へ

マニュアルの作 成と遵 守

各国のガイドラインから我が国独自のガイドラインやマニュアルへ

4

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いわゆるチェックリストであり、定期 的 に 実 施 する。

各項目毎にそれぞれのオーディットがあるが、その1例

を 表2に 示 す。

 サーベイランスが必要であることは、皆が理解し

ている。自分 の病 院で MRSAの感染 症患者が何人

存在しているのか?、血流 感 染 症 の発 生率はどの

程度か?、菌血症の患者からはどんな細菌が検出さ

れているのか?など、サーベイランスの種類は数多く

ある。現 在、血流感染、肺炎、尿路感染 症、創部感

染などが日本の病 院で 広く実 施され、病院間の比

較も可能である。院内感染の大半がこの感 染 症の

どれかに入るからであり、感染した場合の重篤化す

るリスクも高い。米国のNNIS(Nat ional Nosocomial

In fec t ion Surveillance)に倣って実 施されている

JNIS(Japan Nosocomial Infection Surveillance)

によるサーベイランスが、日本では全国規模で 実施さ

れ、これらの4感 染 症を対 象にターゲットサーベイラ

ンスが 実 施されている。また、厚 生労 働 省によるサ

ーベイランスもある。サーベイランスには目的があり、

実 施 する人々に動機 付けがあり、かつ継続 実 施でき

ることが 重 要であり、それができないと意 味をなさ

ない。サーベイランス実 施において、「継 続は力なり」

である。サーベイランスを始める際には、自分 の病院

にどんな指標が必 要なのか?何を目的に実 施するか?

を明確にしておかないと、巷で 流 行っているという

理由で 飛 び つくと継 続 できない(もっとも、診療報

酬で 点 数 加 算があれば 別であるが…、今はそれが

ない)。

 サーベイランスは、感染対策の効果をみたり、集団

発生を感知するうえで重要であるが、通常サーベイラ

ンスの結果は、リアルタイムではなく、多少の時間的な

遅れがある。従って、集団発生を少数の段階で発見す

るには、時間的な遅 れが生じる。病棟では現場の医

師や看護師、病院全体でおこる食中毒などは検査室

が、早期に集団発生を発見することもある。

表2 オーディットの1例

8:手指衛生基 準:手指は、交差感染の危険性を減らすために、�利用可能な手洗い場で、洗浄剤を使用し正しく洗う

文献6から引用、一部改変

1 液体石鹸が外来・病棟内のすべての手洗いシンクに設置されてある

2 ペーパータオルが外来・病棟内のすべての手洗いシンクに設置されてある

3 爪ブラシは手洗 いシンクに置いていない

4 手洗いシンクに容易に行ける

5 水とお湯との混合栓が外来・病棟内のすべての手洗い場に設置されてある

6 速乾性手指消毒剤が少なくとも一カ所には配置されている

7 手洗い方法を訓練されたスタッフが正しい手洗いを実施しているかを観察する

8 手洗いシンクに使用後の器具は置いていない

10

11

13

手洗い方法を訓練されていないスタッフが、正しい手洗い手技で手洗いを実施しているかを観察する�

手洗いや患者のケア時に、腕時計や宝石付きの指輪をしていない

正しい手洗い方法を示すポスターが最低1カ所に手洗いシンクに掲示されている

12 手袋を外した後には手洗いを実施している

正しい手洗い方法が 新規採用者の教育プログラムに入っている

チェック項目 はい どちらでもないいいえ

病院感染対策をさらに向上させるための組織作りと今後の課題

サーベイランスは何をすればよいのか?

5

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 感 染 管理に 関する知 識 が 増えれ ば増えるほど、

自分の病院内の不 備が目立ち、気 になる。なんとか

変えようと考え、行動するが、これがなかなかうまく

いかない。各方面からの抵 抗 勢力に出会い、精神

的にも肉体的にも疲弊し、いやになってくる。例え

ば、集中治 療 室や手術室の靴の履き替えや粘着マ

ットをなくそうと一 生懸 命 努力したことはないだろ

うか?よく考えると、院内感染とはかなり遠い部分

にこれらの問題(問題といえるかどうかもわからない)

は存在しており、これに大きなエネルギーを費やし

ていることに気づく。これらは 院内感染対策上、履

き替えがあろうとなかろうと大きな問 題 で はない。

もっと患者あるいは 医 療 従事者にとって感 染リスク

の高い部分に目を向け、そこにエネルギーを 投入す

る方が効率的である。

 したがって、指摘された問題点には、必ず 優先

順位をつけて対 応 することにし、緊急性、リスクの

程度や実施可能性について考慮 する。例えば、職員

全員の麻疹、水 痘、風 疹、ムンプスの予 防 接 種 実

施を提案しても、莫 大 な予算が必要であり、また既

往 歴 のある職員には不 要であり、4つの感 染 症のう

ちどれを優 先 的に実 施するか、その際の予算措 置

はどうするのか? など検討しなければならない部分

が多くあり、すぐに実行とはいかない。

 急性期を取り扱う病院、500床程度以上の病院

には、少なくともICNが1名必要である。現在、日本

看 護 協 会認定の感染管理看護師の育 成がおこな

われているが、必要 数にはまだ 遠い。しかしながら、

認 定 をうけた 看 護 師の感 染 管 理に関する能 力は

高く、知 識 のみならず 実 践 的 能 力をも持ち合わせ

ており、不 足 数を補うために 促 成栽 培による感 染

看護師育成は質の低下、ひいては院内感染対策全

体の質低下につながるらないように、個人的には希

望する。

ICDあるいはインフェクションコントロールドクター

現 時 点 で は 個々の能 力 や 知 識には大きな格差が

存 在 す るため、今 後 I C D 講 習 会を通して、一定の

教育を実施し、格差是正を行う必要がある。

ICN

日本 看 護 協 会 が 認 定 看 護 師 制 度 を 実 施しており、

標準化はかなりの程 度 で 実 施 できているものと思

われる。

ICT

現 在 I C T の行 動内 容は 明 確 になっておらず、今後

その役 割と内 容 を 明 確 に することにより、より実

際 的 で 専 門的な活動が可能となると思われる。

 微生物検査、特に細菌検査は機械化の困難な、

手作業による検 査 技 師 の 熟 練 の 必 要 な 部 門 であ

る。近 年外 部 委 託 への 傾向がますます強くなって

きているが、本来まじめに細 菌 検 査を実 施 すれば

赤 字 になる。診 療 報酬 が 実 際 の 仕 事 内 容 にとも

なっていない 。もし、細 菌検査で 赤 字にならない

外 部委 託検 査があれ ば、別の部門で 赤 字 部分を

補 填 するか、それとも細菌 検査の手順を省いてい

るかのどちらかである。後 者 の 場 合 は 最 悪である。

起 炎 菌 が 見 つからない、耐 性 菌も検出 できない

危 険 性 さえ生 ずる。外 部 委 託 する際 には 十 分 注

意して 頂きたい、「安 かろう悪 かろう」である。院内

で 細 菌 検 査 を 実 施 するメリットは 大きく、すぐに

グラム染 色 や 抗 酸 菌 染 色 が 可能である。培 養 検

査も同 定 検 査 結 果 が出る前に、コロニーからある

程度起炎菌を推測し、中間報告が可能であり、臨

床 現 場と密に連 絡をとることで、適 切な 治 療が迅

速に 実 施 でき、不 要 な 治 療 をしなくて良いことに

もなる。

 各病院に専任のICNやICDを配置できれば理想

的であるが、現時点では不可能である。中小の病院

は各地域の中隔病院で働く専任のICNやICDと契

約し、個々の病院の感染管理の指導監督を委託す

感染対策には優先順位をつける

今後の問題

感染対策に携わる専門家の標準化

微生物検査における外部委託と院内検査

病院間地域連携による感染管理

感染対策業務の専任化

6

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ることも、今 後視 野において 考える必 要がある。ま

た、慢性期患者を収容する施設でも同様にすれば、

個々の病院に専任者をおかずにすみ、不十分な知

識での無用な 感 染 対 策をせずにすむこととなり、

対費用効果もよい。

 現 在、院 内 感 染 対 策 管 理 は 実 施していて当然

であるが、病院間でその実施内容と質には大きな

開きがあり、感染 対策を 確 実に 実 施 することによ

るインセンティブがないのが 現 状 である。今後、病

院機能評価などの外部評価に関連して、診療報酬

に差をつけてゆく必要がある。

 職業感染(Occupational infection)は、欧米では

感染症における医療従事者の保 護と患者の安全の

確保から極めて重 要 視されているが、日本において

はまだまだ不十分である。新規採用時に実施すべき

ワクチンとしてB型肝炎ワクチンがある。当然針刺し

事故による感染 予防対策上必要であることは 言う

までもないが、医療従事者に対し、有料無料を問わ

ず、実施していない病院がいまだに存在することは、

病院長をはじめとする病院管理者の責任放棄に他

ならない。労働安全衛生法上の安全配慮義務違反

になる可能 性も十分考えられる7)。

 針 刺し 事 故 防止 における、針 廃 棄 容器と安全

器材の導入は必要不可欠である。しばしば、後者が

強調されすぎる傾向はあるが、針廃棄容器と安全器

材 はどちらも必 要であり、両 者 があってはじめて、

針刺し事故は減少する。これらは発生する要因が

異なるからであり、通常の注射針 は 針 廃 棄 容器で

防止できるが、翼 状 針や 留置針は、その使用状況

(救急室など)によっては安全器材が必要となる。

 新規採用時の麻疹、水痘、流行性耳下腺炎、風

疹などの既 往 歴 聴取や抗体チェック、あるいはワク

チン接種は今後必 要となる職 業 感染 防止対策の

ひとつである。

病院感染対策をさらに向上させるための組織作りと今後の課題

引用文献

1 )富家恵美子:院内感染。河出書房新社、1990年

2 )小林寛伊、吉倉 廣、荒川宜親:厚生労働省医薬局安全対策課編集

  協力「エビデンスに基づいた感染制御」。メヂカルフレンド社 2002年

3 )社会保険・老人保健診療報酬「医科点数表の解釈」平成14年4月版。社会保険研究所、2002年

4 )病院機能評価 総合版新評価項目解説集。財団法人日本医療機能評価機構、2002年

5 )Ayliffe GAJ, Babb JR, Taylor LJ: Hospital-acquired infection- Principles and Prevention 3rd edition.

But tewor th -Heinemann, UK. 1999

6 )Infection Control Nurses Association(UK): Community infection control audit pack 2nd edition, 2000

7 )増田聖子:環境の改善・社会的側面からみた「針刺し」の法的責任。

セーフティマネイジメントのための針刺し対策A t o Z 。木戸内清編集。

インフェクションコントロール 2 0 0 2 年 増 刊、メディカ出版。2002年

第三者による評価と診療報酬への組み込み

職業感染対策の充実

最 後 に

 院内 感 染 対 策が 本 格 的に 実 施されるようになって、まだ10数年を経たばかりである。I C Nについては、日本ではまだ

4年、英 国では50年近くが 経過しており、その差 は 歴 然としているが、確 実 にその 差 は 縮まっている。院内 感 染 対 策 先

進 国を見習いながら、日本 独自の感 染対策を造りあげることが要求されている。フローレンス・ナイチンゲールは「病 院は決

して患者に害を与えてはならない」という言 葉 を残しており、院 内 感 染 防 止を含めた 病 院 のあるべき姿を端 的に 表 現し

ている。

7