疎植無追肥栽培した「あきたこまち」の生育,収量,品質疎植無追肥栽培した「あきたこまち」の生育,収量,品質...

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疎植無追肥栽培した「あきたこまち」の生育,収量,品質 誌名 誌名 日本作物学会東北支部会報 ISSN ISSN 09117067 著者 著者 松波, 寿典 能登屋, 美咲 三浦, 恒子 金, 和裕 佐藤, 雄幸 松波, 麻耶 巻/号 巻/号 56号 掲載ページ 掲載ページ p. 27-28 発行年月 発行年月 2013年12月 農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センター Tsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research Council Secretariat

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Page 1: 疎植無追肥栽培した「あきたこまち」の生育,収量,品質疎植無追肥栽培した「あきたこまち」の生育,収量,品質 誌名 日本作物学会東北支部会報

疎植無追肥栽培した「あきたこまち」の生育,収量,品質

誌名誌名 日本作物学会東北支部会報

ISSNISSN 09117067

著者著者

松波, 寿典能登屋, 美咲三浦, 恒子金, 和裕佐藤, 雄幸松波, 麻耶

巻/号巻/号 56号

掲載ページ掲載ページ p. 27-28

発行年月発行年月 2013年12月

農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センターTsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research CouncilSecretariat

Page 2: 疎植無追肥栽培した「あきたこまち」の生育,収量,品質疎植無追肥栽培した「あきたこまち」の生育,収量,品質 誌名 日本作物学会東北支部会報

日作東北支部報 (TohokuJournal of Crop Science) No.56 (2013)

疎植無追肥栽培した「あきたこまち」の生育,収量,品質

松波寿典 1)・能登屋美咲2)・三浦恒子 1)・金 和裕 1)・佐藤雄幸 1)・松波麻耳目3)

(1) 秋田県農業試験場・ 2)元秋田県農業研修センター・ 3)秋田県立大学)

Growth, Yield and Grain Quality of Rice Cultivar Akitakomachi under Sparse Planting

without topdressing

Toshinori MATSUNAMI!), Misaki NOTOYA2), Chikako MIURA!l, Kazuhiro KON!l, Yuko SATO!l

and Maya MATSUNAMI3l

(! l AkitαPrefecturαl Agriculturαl Experiment Stαtion, Akitα010・1231,J,αpαn;

2) AkitαPrefecturαl Agriculturαl TrαLnL九.gCenter, MinαmLαkitαgu夙 Akitα010-0444,J,αpα町

3) AkitαPrefecturαl University, Akitα010・0444,J,αpαn)

水稲の疎植栽培は育苗箱数を低減で、きることから,

橘種・育苗作業の省力化や生産費の削減が可能となり,

現在,急速に技術普及が進展している.しかし疎植

栽培の品質に関しては,標準栽培と差はないとされる

(井上ら 2004)一方で,疎植では 2次枝梗籾数が増加

するため,玄米の高タンパク化や稔実障害の発生助長

が懸念されている(松江 ・尾形 1999,中谷 1975,杉

山 2004) 筆者らも前報において,疎植栽培した「あ

きたこまち」の収量性は標準栽培と同程度であったが,

生育期間を通して葉色が濃く推移し玄米蛋白質含有

率は標準栽培に比べ,高くなる ことを認めた (松波ら

2013) .

そこで,本研究では疎植栽培した「あきたこまち」

に対する追肥の有無が収量性や品質に及ぼす影響を明

らかにし「あきたこまち」の疎植栽培による良食味米

安定生産技術の方向性について検討した

材料と方法

本研究は橘種量が乾籾100g I箱の中百あきたこまち

を用い,秋田県秋田市雄和の水田 (細粒グライ土)で

実施した 2010年 5月17日, 2011年 5日16日, 2012年

5日15日に15.2株/ぱ,11.2株/凶の栽植密度で移植 し

た移植 時 の かきとり本数は 4本とし,田植機

(NSU67 ;クボタ社製)を用いた機械移植とした 機

械移植後,ボーダーを除く試験区内の植え付け本数が

I株 4本となるよう補植と間引きを行った 移植 5~

6日前に基肥として硫加燐安11号 (N: P205 : K20 =

O. 7, O. 7, O. 7kgl a )を全層施用した.試験区として

減数分裂期に硫安をN成分としてO.2kgl a施用した追

肥区と施用しなかった無追肥区を設け,それぞれ2反

復とした

生育調査,収量および収量構成要素の調査, 品質評

価,精玄米蛋白質含有率,良質粒率の調査は前報 (松

波ら 2013)と同様の方法で、行った

分げつ調査は l株 4個体植えで各株の l個体を調査

対象とし連続10株 (計20株)について行い,穂へ有

効化した分げつについて節位,次位別に精玄米蛋白質

含有率はケルダール法で,良質粒率は品質判定機 (RS

2000,静岡製機)により調査した.分げつの数え方

は,不完全葉を除き, 1葉目の基部から発生した場合を

第 l節の分げつとした

粒厚分布の調査は, 1.8, 1.9, 2.0, 2.1, 2.2mmの穀

物用縦目段飾(大屋式坪刈試験用縦目段飾,木屋製作

所製)を用いて粗玄米を粒厚別に選別しその重量割

合を測定した.食味官能試験は,追肥区を基準(::t0 )

として, -3 ~+3 で比較し パネリストは農業試験

場職員および関係者の16~ 19名で構成した

結果と考察

無追肥区では15.2株1m. 11. 2株1mとも2.1mm以上

の玄米割合が低下し(第 1図)干粒重は2.4~2. 6%減

少した しかしぱ当たり穂数,一穂籾数は減少せず,

d当た り総籾数は確保され登熟歩合への影響も認め

られなかったことから収量性は追肥区と同程度であっ

50 ロ15.2株1m2有四 15.2株1m2無口 11.2株1m2有

・11.2株1m2無

40 (ポ)

ハU

ハU

ハU

つdη

L

11

0一品侍令

。2. 2以上 2.2-2.12.1-2.0 2.0一1.9 1.9以下

粒厚階級 (mm)

第I図追肥の有無が粒厚分布に及ぼす影響 (2012年)

図中のエラーパーは標準誤差 (n=2)示す

Copyright日本作物学会東北支部 THETOHOKU BRANCH. THE CROP SCIENCE SOCIETY OF JAPAN

巧/つム

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庄司H

口口ロ収量,疎植無追肥栽培した「あきたこまち」の生育,松波(寿)・能登屋 ・三浦 ・金 ・佐藤・松波(麻)

品質に及ぼす影響

追肥 最高 穏数 有効茎 1穂 総籾数 章受 千粒重 精玄玄米蛋白玄米外 良質

施用 別 D値 (諮)術ぱ) 常 籾数 (x1ぴ/ld) (婦 (g) df)質問率 ?ZFJよら)有 41.3 474 383 81. 9 72.4 27.6 90.0 23. 2 56.0 6.6 3.0 80.6 無 34.7 453 375 84.0 74.8 27.8 88. 0 22.6 55.2 6.2 3.5 72.2 有 43.1 408 353 88.0 79.4 27.9 89.6 23. 1 58.4 6.7 3.3 77.9 無 36.5 408 355 87.6 76.4 27.2 87.3 22.6 54.4 6.2 3.3 75.6

密度 I1S l -i- ns ns ns ns ns ns ns ns ns 分散

追肥施用 - lli m lli lli lli lli - lli • m lli 分析

交互作用 ns ns ns ns ns ns ns ns ns ns ns ns 表中のl直は2010年から2012年の平均値 (n~ 6)を t. *. * *はそれぞれ10%.5%. 1 I?o水準で有意であることをnsは有立差がないことを示す SPAD値は穂揃期の止葉の他を示す

玄米蛋由貿含有率は玄米笠索含有率に蛋白係数5.95を乗じて水分15%換算した他とした 玄米外観品質は (財)日本穀物検定協会東北支部による (1 1等上-9:3等下 カメムン

胴割は除く)

追肥の有無が生育,収量および収量構成要素,第 l表

tHi直密度

(株1m)

15.2

11. 2

追肥の有無が食味官能評価に及ぼす影響 (2012年)

硬さ

無 A -O. 11 O. 06 -O. 06 -0 06 -O. 06 -0 06

無 A O. 10 0 15 0 10 0 25 0 30 -0 15

無 B QOO QD QOO QOO Q~-QD

各栽植密度とも追肥区を基準 (C∞)として。 -3-+3として評価した ネは 5%水準で基

準と有意差がある ことを示す

第2表o 15.2株1m'・11.2株1m'

8.0

粘り味香り外観総合反復追肥施用

植度悩一

2

栽笛礼

一日

11. 2

-/. y~O . 006x2-O. 43x + 12. 9

R '~O. 80, P<O.OOI

。。7.0

5.0 30

(揖)件、肺枠組鼠岳嗣楽科

6.0

50

第2図 穏揃期頃の葉色と玄米蛋白質含有率の関係 (2010年~20l2年)

図中のプロット平均値(口=2)を示し。回帰

曲線は全てのプロ y トを含めた曲線を示す

35 40 45

徳揃期のSPAD値

日 2慌Im~

;:山 r~~ I~~~~ilrn~~rn~lllu~

トiMItttill

追肥の有無が主要な分げつの玄米蛋白質含有率(a ),良質粒率(b )に及ぼす影響 (2012年)

図中のエラーパーは標準誤差 (n= 2)を示す

日作東北支報

49 : 15-16

井上健一・林恒夫・湯浅佳織 ・笈田豊彦 2004 水稲品

質食味要因の安定性に関する研究第 2報疎植条件

が水稲の物質生産と収量品質に及ぼす影響 福井農

試研報 41: 15-28

松江勇i欠・尾形武史 1999 栽培条件が穂上位置別の米

粒タンパク質含有率に与える影響 日作紀 68:370

374.

松波寿典・能登屋美咲・松本民一 ・三浦恒子・佐藤雄

幸・松波麻耶 20l3.疎植栽培した「あきたこまち」の

生育,収量,品質日作東北支報 56: 25-26.

中谷治夫 1975 水稲の栽培条件と収量,米質に関す

る研究第 7報分げつ次位,節位および枝梗別品質

について.日作北陸会報 10: 18-22

杉山高世 2004.水稲ヒノヒカリの疎植栽培における

収量及び玄米品質奈良農総セ研報 35: 23-25

た(第 l表) 玄米外観品質,良質粒率に追

肥の有無による明瞭な差は認められなかっ

た (第 I表)•

穂揃期の葉色の低下に伴い,無追肥区の

玄米蛋白質含有率は有意に低下した(第 2

図,第 l表) 分げつごとの玄米蛋白質含

有率についてみると, 15.2株1m,11.2株/

出とも無追肥により主茎および全ての分げ

つで玄米蛋白質含有率は低下し(第 3図),

特に無追肥区の高節位 ・高次位の分げつの

玄米蛋白質含有率は追肥区の低節位・低次位の玄米蛋

白質含有率と同程度にまで低下した そして, 11.2株

1mでは無追肥により炊飯米の味と粘 りの食味評価が

向上する傾向がみられた (第 2表).["あきたこまち」

では玄米タンパクが高い範囲において,玄米蛋白質含

有率の低下に伴い,炊飯米はより粘り,柔らかい食味

を呈する(林・金 2006) したがって,玄米タンパク

が高い傾向にある「あきたこまち」の疎植栽培におい

て減数分裂期における追肥の減量は,玄米蛋白質含有

率の低下を介した食味の改善に有効で、あると考えられ

ゑ5日 記汁 )

第 3図

ンパク化が品質 ・食味に及ぼす影響

今後は,疎植栽培した「あきたこまち」の茎数や葉

色などの生育指標と登熟形質,玄米蛋白質含有率,食

味評価の関係について定量的な解析を行い,適正追肥

量を決定することが重要である.

引用文献

良食味水稲における米粒の低タ

28

林雅史・金和裕 2006