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意識障害と後頸部痛にて受診したCushing病の1例
はじめに
• Cushing病において、中心性肥満や満月様顔貌、糖尿病といった身体症状よりも神経精神症状が前景に立つような症例が存在する。
• 今回、身体症状よりも神経精神症状を主訴に来院
され、種々の検査を経てCushing病の診断に至った一例を経験した。
【症例】 83歳女性 【主訴】 後頸部痛、傾眠、食欲不振 【既往歴】 慢性心房細動 高血圧性心疾患 2型糖尿病(10年以上前に発症) 【生活歴】 ADLは自立。1ヶ月前まで夫の介護もしていた。 宗教活動に積極的に参加していた。 飲酒・喫煙歴なし。 【内服薬】 アスパラギン酸カリウム(300)3T/3 ロキソプロフェン(60)3T/3 ランソプラゾール(15)1T/1 塩酸エペリゾン(50)3T/3 ワルファリンカリウム 2.75mg/1 プラバスタチン(10)1T/1 酒石酸ゾルビデム(5)1T/寝る前 ジゴキシン 0.125mg/1 ビオグリタゾン(15) 1T/1 インダシン座薬(25) 屯用
【現病歴】 当院入院の3週間前から後頸部痛が出現し、活気と食欲が低下した。
その後、1週間症状が持続し、6kgの体重減少も認めたためかかりつ
けA内科を受診した。
その際、低Na血症(121mEq/L)、低K血症(2.8mEq/L)を認めたため、
受診1週間前にB総合病院入院となった。後頸部痛に関して疼痛コント
ロールを、食欲不振、低Na血症、低K血症に対しては輸液や内服など、
対症療法にて改善し退院となった。
その後、再び後頸部痛と食欲不振が出現し、日中の傾眠傾向、話の
つじつまがあわない、歩行が緩慢といった症状も出現したため、友人
に連れられ当院受診となった。経過中に発熱などの感染徴候はな
かった。
【身体所見】 身長 153cm 体重 63.5kg BMI 27
血圧164/60mmHg, 心拍数76/分, 呼吸数16/分, 体温35.5℃, SpO2 97%(室内気)
意識:JCS Ⅰ-‐2 昏迷 活気なし 頭頸部:眼球結膜充血・黄疸なし, 瞳孔不同なし, 口腔内乾燥なし, 項部硬直
なし, 後頸部正中に圧痛あり, 左右への軽度の頸部可動痛あり, 頸部リンパ節触知せず
胸部:呼吸音 清 心音 不整, 第2肋骨胸骨左縁にLevine Ⅱ度の収縮期雑音あり 腹部:平坦・軟, 腫瘤触知せず 背部:脊椎・背部叩打痛なし その他:両下腿に圧痕性浮腫あり, 直腸診で腫瘤触知せず, 便潜血陰性 中心性肥満や満月様顔貌、水牛肩は明らかでない。
脳神経系:対光反射正常, 視野検査や眼球運動に関しては指示に従えない。両側難聴あり。
腱反射:上腕二頭筋(+/+), 上腕三頭筋(+/+), 膝蓋腱(-‐/-‐), アキレス腱(-‐/-‐), Babinski(-‐/-‐)
感覚:痛覚異常なし。指示に従えず詳細は評価不能 徒手筋力テスト:四肢すべて5
検査結果 血算
WBC 7400/mm
Neu 81.6%
Ly 10.9%
Mo 4.7%
Eo 1.2%
Ba 0.2%
RBC 448×104/mm3
Hb 13.6g/dl
Ht 40.0%
MCV 89fl
Plt 21.6×104/mm3
生化学
TP 6.0 g/dl TG 116 mg/dl
Alb 3.8 g/dl T-‐Cho 176 mg/dl
Na 134 mEq/l HDL-‐C 48 mg/dl
K 4.2 mEq/l HbA1c 7.1 %
Cl 98 mEq/l TSH 1.644 μU/ml
Ca 8.7 mEq/l F-‐T4 1.8 ng/dl
BUN 18 mg/dl BNP 255.7 pg/ml
Cre 0.8 mg/dl ESR 12 mm/h
BS 201 ACTH 85pg/ml
AST 20 IU/l corbsol 74μg/dl
ALT 16 IU/l PT-‐INR 3.89
ALP 269 IU/l ANA −
LDH 261 IU/l RF −
尿一般検査
比重 1.009
pH 6.5
糖 +
蛋白 ±
ケトン -‐
●皮膚の軽度ひ薄化・易出血性あり。 ●以前の写真と比較すると満月様顔貌を疑う。
3年前
CTR 60%
頸椎に変形性頸椎症の所見あり。
頭部CT・MRI検査
頭部CT・MRIで明らかな異常所見は確認できず
→頭蓋内の器質的病変は否定的
造影MRIで下垂体右葉に2mmの造影遅延領域あり。
micro adenoma
日内変動
6時 16時 23時
血漿ACTH(pg/ml) 25.2 17.3 22.1 血漿corbsol(μg/dl) 23.2 10.3 18.9
デキサメタゾン 抑制試験
1mg 8mg
血漿ACTH(pg/ml) 24.4 <2.0 血漿corbsol(μg/dl) 10.9 6.5
CRH 負荷試験
負荷後の時間(分) 負荷前 30 60 90 120
血漿ACTH(pg/ml) 21.8 110 76.7 41.3 27.3 血漿corbsol(μg/dl) 11.8 22.7 33.0 27.3 24.7
選択的 下垂体
静脈洞血 サンプリング
採取部位 CRH負荷前 CRH負荷後20分
血漿ACTH(pg/ml)
右下垂体静脈洞 44.5 1040 左下垂体静脈洞 21.4 134
末梢血 11.2 61.8
日内変動消失
大量デキサメタゾン でのみ抑制
ACTH、corbsolが過剰反応 右優位の上昇
入院後の経過
治療
Cushing病の確定診断後脳神経外科と相談し、経蝶形骨
洞下垂体腫瘍摘出術も考慮されたが、心房細動、糖尿
病、高齢等手術のリスクが大きかったことからD2R作動
薬のカベルゴリン内服(0.25mg/week)を開始。
精神症状
活気低下、不眠・傾眠傾向、食欲不振、幻覚・妄想、感情
の平板化などの症状は、カベルゴリンによる内服治療開
始してからおよそ1ヶ月後から改善。
後頸部痛 入院中に改善。
corbsol ACTH
内服開始後2ヶ月で血漿corbsol 10.2μg/dl、血漿ACTH 20.1pg/ml、蓄尿corbsol 18.2μg/dayと正常化。
症状精神病とCushing病 症状精神病
定義 全身疾患または脳以外の身体器官の疾患の際に起こる精神症状
特徴 基礎疾患の如何に関わらず、共通の症状が現れる
Cushing病における精神症状
頻度 Cushing症候群において31〜86%(Cushing病でも頻度は変わらない)。 症状精神病が前景に立つものは12〜18%ある。 corbsol分泌の正常化に伴って消長することが多い。
機序 高corbsol血症自体の作用の他に、CRH低値による作用も示唆されているが、詳細は不明である。
症状
初期 不眠が多い(Cushing病の80%近くに出現)
急性期 意識障害を中心にせん妄,もうろう状態,錯乱,幻覚症,アメンチア, 躁状態など突然に移り変わる多彩な精神症状が出現する。
亜急性期 意識障害が回復すると健忘症候群と過敏情動性衰弱状態が出現することもある。
予後 重症の場合は痴呆や欠陥状態を残すことがある。
その他 精神症状の程度は血中corbsol等個々の絶対値とは必ずしも相関しない
考察
• 本症例では亜急性に経過し遷延する意識障害から症状精神病を疑い種々の検査を施行した結果、Cushing病と診断できた。
• 本症例では、高齢、心房細動、糖尿病等手術に対するリスクがあったため手術は施行せず、カベルゴリン内服により症状の改善を認めた。
• 後頸部痛については、骨粗鬆症は明らかでなく、安静と疼痛コントロールにより改善認めたことから、頸椎症の可能性が考えられた。
結語 • 今回我々は意識障害と後頸部痛を主訴とするCushing病を経験した。
• 意識障害に占めるCushing症候群の割合はわずかであるが、逆にCushing症候群で症状精神病が前景に立つものは12〜18%あるとの報告もある。
• 亜急性に進行した意識障害の場合には器質的・代謝性疾患の可能性も考慮する。
• 特に高齢者の神経精神症状では安易に認知症と考えず、経過や身体症状にも注意したほうがよいと思われる。
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