ロングメモリ・オシロスコープのfft機能を 使用し...

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ロングメモリ・オシロスコープのFFT機能を使用したスペクトラム解析Infiniium 54830Bシリーズ・ロングメモリ・オシロスコープで使用するために

Application Note1383-1

はじめに

現在の多くのデジタル・オシロスコープには、周波数ドメイン解析用の高速フーリエ変換(FFT)機能が備わっています。これは、これまで周波数ドメインでの解析が必要であるにも関わらず、スペクトラム・アナライザーが使えないか、限られ時にしか使用できないオシロスコープユーザーにとって、特に有効な機能です。オシロスコープのFFT機能は、費用効率が良く省スペースで、専用のスペクトラム・アナライザーの代わりにもなります。専用のスペクトラム・アナライザーはダイナミックレンジが広く歪みも少ないのですが、デジタル・オシロスコープのFFTにも様々な利点があります。

Agilent Infiniium 54800シリーズのデジタル・オシロスコープには、振幅と位相の両方を計算するFFT機能があります。また、下記の様々な便利な機能がお客様のスペクトラム解析を支援してくれます。

FFTのメモリ長、サンプリングレート、垂直軸スケール、水平軸スケールが調整できます。

自動測定とマーカー機能により、スペクトラム・ピークの周波数と振幅やピーク間の差を求めることができます。

Infiniiumのオンラインヘルプシステムは、FFTの理論とアプリケーションについての説明を日本語で提供いたします。

更に、オシロスコープのタイムドメイン解析用に設計された機能はFFT解析にとっても有効です。

表示トレースには、注釈をつけることができ、ファイルに保存できます。

オシロスコープの設定内容を保存して、セットアップ・ファイルとして呼び出すことができます。

いくつかのFFTスペクトラムの平均、最大、または最小を求める場合などの複雑なタスクを実行する場合は、複数の機能を組み合わせて演算を実行することができます。

複数の捕捉データについての平均と標準偏差を計算するためには、測定統計機能を使用します。

これら全ての機能により、オシロスコープのFFT機能はスペクトラム解析にとって非常に便利なツールになります。

ロングメモリのInfiniium 54830Bシリーズオシロスコープを使えば、FFT解析に使用するデータが大幅に増加するため、周波数スペクトラムの予測値が向上いたします。データ量の増加は、すなわち周波数分解能の向上と、ダイナミックレンジが拡大を意味します。強力なCPU搭載、FFTアルゴリズムの効率化、そして次世代ロングメモリMegaZoomの採用により、Infiniiumロングメモリオシロスコープは大量のデータを扱うFFT変換を高速に処理できるようになりました。

目次

はじめに. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 1

FFTの基本 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 2離散フーリエ変換 . . . . . . . . . . . . . 2サンプリングの影響 . . . . . . . . . . . 4スペクトラム・リーケージとウィンドウ関数. . . . . . . . . . . . . . . 6

実用における注意事項. . . . . . . . . . . . 8周波数スパンと分解能 . . . . . . . . . 8ダイナミック・レンジ . . . . . . . . 10アベレージング . . . . . . . . . . . . . 13ウィンドウ関数の選択 . . . . . . . . 15等価時間サンプリング . . . . . . . . 16

アプリケーション. . . . . . . . . . . . . . 17AM信号の特性評価 . . . . . . . . . . 17サンプリング・レートとメモリ長の選択 . . . . . . . . . . . . . 18時間と周波数のスケーリング . . . 18FFTスペクトラムの結果. . . . . . . 19

サポート、サービスおよびアシスタンス . . . . . . . . . . . . . . . . . 20

kani

2

このアプリケーション・ノートでは、最初にFFTの基本について説明し、FFTベースのスペクトラム解析を理解するために重要となるFFTの性質に焦点を当てます。続いて、実際にスペクトラム解析にオシロスコープのFFT機能を使用する場合の注意事項と、ダイナミック・レンジを広げ確度を向上させるためのテクニックについて説明します。最後に、特定のアプリケーションを例にして、高い周波数分解能のスペクトラム測定を実行する上でのロングメモリ・オシロスコープのFFT機能の利点を説明します。

離散フーリエ変換(Discrete Fourier Transform)

オシロスコープのFFT機能をスペクトラム解析に使用する上での制約をより良く理解するには、離散フーリエ変換(DFT)の基本的な性質とサンプリングの影響を理解することが重要です。ここでは、簡単に概要を説明します。詳細については、他の資料を参照してください。

DFTは、有限長の時系列データの連続フーリエ変換の離散サンプルを表わします2。ある時系列データx(nT)についてのDFTは次の式で表わされます3。

式1

ここで、N=サンプル数F=周波数ドメインのサンプル間隔T=タイム・ドメインでのサンプル周期

FFTは、DFTを計算するための効率的なアルゴリズムにすぎません。実際には、複数のFFTアルゴリズムがあります。Infiniiumでは、基数2 FFTを使用してDFT演算を行います。基数2 FFTでは、2のべき乗に等しいポイント数で計算します。FFTの効率は、複素乗算の回数で表わされます。基数2 FFTでは複素乗算の回数はNlog2Nです。これは、およそN2となるDFTの演算回数にくらべ、大幅に向上しています。たとえば、ポイント数が1,000,000の場合、FFTではDFTの演算時間の約0.002%の時間しかかかりません2。

周波数ドメインのサンプル間隔、つまりDFTのビン(分割数)は次の式で求めることができます。

式2

ここで、Fs=サンプリング周波数

したがって、Nを増やすかFsを下げることにより、周波数分解能は上がります。

DFTは、N/2についての対称性があります。DFTの振幅は偶関数で、位相は奇関数です。Infiniiumでは、後ろ半分のポイントからは追加の情報が提供されないため、前半分のFFTポイントだけをプロットします。特定のFFTポイントkの周波数は次の式で表わされます。

式3

プロットされる最大周波数はFs/2(ここで、k=N/2)です。

FFTの基本

X(kF) = ∑ x(nT)e-j2πkFnt

N-1

n = 0

F = = 1

NT

Fs

N

Fk = kFs

N

離散フーリエ変換のつづき

DFTは、振幅と位相の両方が計算できる複素指数関数です。Infiniiumには、振幅と位相の両方を計算する機能があります。位相は度単位で、振幅はdBm単位で計算されます3。dBmの電圧形式は次のようになります。

式4

ここで、

です。

基準電圧VREFは、50Ωの負荷に1mWの電力が発生するときの電圧として定義されています。たとえば、1VDCがInfiniiumに接続されると、周波数が0HzのときのFFTの結果は約13dBmになります。

3

FFTの基本

P(dBm) = 20log(VRMS / VREF)

VREF =

√0.001 W * 50 Ω = 0.2236 V

20log(1.0 / 0.2236) = 13.0 dBm

Infiniiumの捕捉された波形のレコード長は通常は2のべき乗ではありません。しかし、基数2 FFTでは2のべき乗となるポイント数が要求されます。このため、Infiniiumでは波形の最後にゼロを詰めて次に大きい2のべき乗の時系列データ長にして処理しています。

ゼロを詰めることによりポイント数は増えますが、X(F)の形状は変わりません。DFTでのポイント数を単に増やすだけです。たとえば、2のべき乗になるようにゼロを詰めて時系列データ長を拡張した場合、このDFTでゼロを詰めた時系列データ以外の各ポイントは、ゼロを詰めない時系列データのDFTと同じ値を持ちます。このように、ゼロを詰めることには補間と同じ効果があります。つまり、周波数サンプル間にポイントを埋め、連続フーリエ変換の視覚効果を良くします。

4

FFTの基本

サンプリングの影響

アナログ信号xa(t)のフーリエ変換は次の式で定義されます2。

式5

アナログ信号xa(t)のデジタル表示x(n)を求めるために、デジタル・オシロスコープでは信号を一定の間隔Tでサンプリングします。

式6

式6では、電圧の量子化もその他の歪みもない理想的なサンプリング処理を仮定しています。この理想的な離散時系列データのフーリエ変換は次の式で表わされます2。

式7

式7は、連続信号のフーリエ変換Xa(F)と離散時系列データのフーリエ変換X(F)との間の関係を示しています。X(F)は、Xa(F)を振幅でスケーリングし、周波数でスケーリングして、変換されたものの和です。

図1の(a)は、連続信号のフーリエ変換Xa(F)を示しています。図1の(b)と(c)は、周期的なサンプリングにより求められた2つの離散時間信号のフーリエ変換X(F)を示しています。(b)と(c)で注意することは、X(F)に1/TつまりFsの周期性があることです。また、(b)のようにFoがFs/2より大きい場合は、連続時間変換の周期的な繰り返しが重なり合い、X(F)からXa(F)への復元が不可能であることに注意してください。重なり合いが生じた場合、Xa(F)の高い周波数成分は、X(F)で低い周

波数に折り返されます。この影響をエリアジングと呼びます。エリアジングが発生する周波数Fs/2を折返し周波数と呼びます。Xa(F)の最大周波数をナイキスト周波数と呼びます。ナイキスト・レートは、エリアジングを防ぐために要求される最小のサンプリング・レートで、ナイキスト周波数の2倍です2。

Xa(F)1

(a)

(b)

(c)

-2Fs

Fo

X(F)

X(F)

-Fs -Fs/2 2FsFsFs/2

-Fo

-2Fs -Fs -Fs/2 2FsFsFs/2

1/T

1/T

重なり合う領域でX(F)が未知の部分

図1 連続信号のフーリエ変換(a)、重なり合う部分のある離散時間信号(b)、重なり合う部分のない離散時間信号(c)

Xa(F) = ∫xa(t)e-j2πFt

dt

-∞

x(n) = xa(t) |t=nT

X(F) = ∑ Xa[ (FT + k)]∞

k = -∞

1

T

1

T

5

式8は、元の周波数Fからエリアス周波数F'を求めるために使用する式です。

式8

サンプリングの影響のつづき

タイム・ドメインの観点からエリアジングを考察することにより理解を深めることができます。正弦波信号を一様にサンプリングする場合を考えます。1周期あたりのサンプリング数が2より小さい場合は、連続正弦波信号の周波数をサンプリングしたデータから求めることはできません。この場合、サンプリングしたデータは、実際よりも低い周波数の正弦波として表示されます。

サンプリング・レートをアナログ信号の最高周波数成分の少なくとも2倍にすると、エリアジングは発生せず、サンプリングした時系列データのDFTにより、アナログ信号をフーリエ変換した場合に近い値が得られます。

しかし、折返し周波数を超える周波数成分がある場合、この高い周波数成分についてエリアジングが生じます。図2にこの影響を示します。3.3MHzと6.1MHzの周波数成分を持つ2つの正弦波を、Infiniiumで5MS/sのサンプリング・レートでデジタイズしたときの、デジタル波形のFFT振幅が示されています。2つの正弦波周波数が折返し周波数の2.5MHzを超えるため、折返し周波数よりも低い周波数にエリアス応答が生じています。

図2 3.3MHzと6.1MHzの正弦波を入力した場合のInfiniium FFT振幅のプロット

FFTの基本

この式を使用すると、F=3.3MHzのエイリアス周波数は1.7MHz、F=6.1MHzのエリアス周波数は1.1MHzとなります。図2のスペクトル線と計算結果が一致することがわかります。

F' = - |FをFsで割ったときの余り - |Fs

2

Fs

2

Acquisition Sampling mode real time Normal Configuration 4GSa/sMemory depth manual Memory depth 65536ptsSampling rate manual Sampling rate 5.00 MSa/sAveraging off Interpolation on

Channel 1 Scale 1.00 V/div Offset 0.0 VBW limit off Coupling DC Impedance 1 M OhmAttenuation 1.000 : 1 Atten units ratio Skew 0.0 sExt adapter None Ext coupler NoneExt gain 1.00 Ext offset 0.0

Time base Scale 2.00 ms/ Postion 0.0 s Reference center

Trigger Mode edge Sweep autoHysteresis normal Holdoff time 80 ns Coupling DCSource channel 1 Trigger level 10 mV Slope rising

Function 2 FFT magnitude channel 1Vertical scale 20.0 dBm/div Offset -13.0000 dBmHorizontal scale 250 kHz/div Position 1.25000 MHzWindow Hanning Resolution 76.2939 Hz

6

1.2

1

0.8

-0.2

0

0.2

0.4

0.6

-0.5 -0.4 -0.3 -0.2 -0.1 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5

TIME (x=t/T)

w(x)/w(0)

方形ハニングフラットトップ

方形、ハニング、フラットトップ・ウィンドウ関数

フラットトップ

ハニング

方形

図3 Infiniiumのウィンドウ関数(上図)と対応する周波数スペクトラム(下図)

スペクトラム・リーケージとウィンドウ関数

DFTは有限長の時系列データを計算します。連続フーリエ変換(CFT)を近似するために全時間に対して積分されます。DFTは、有限の時系列データを無限回繰り返すことにより形成される、無限の時系列データのCFTをサンプリングしたものです。

有限の時系列データの両端の点が一致しない場合、無限の時系列データで、各有限の時系列データが隣接する部分に不連続部が生じます。タイム・ドメインでのこの不連続部は周波数ドメインでのスペクトラム・リーケージの原因となります。通常、デジタル・オシロスコープで信号を捕捉する場合、周期が完全に切り取られるようには捕捉されず、周期的に拡張された信号に不連続部が生じます。このため、デジタル・オシロスコープで計算されたFFTには、ほとんどすべてにスペクトラム・リーケージが見られます。スペクトラム・リーケージは、細いスペクトル線を広いローブに広げる原因となります。

別の見方として、元の時系列データとウィンドウ関数の時系列データの、2つの無限長の時系列データの積として、有限の時系列データを考えることにより、スペクトラム・リーケージについて説明することができます。ウィンドウ関数の時系列データは有限個のサンプルについてはゼロではなく、それ以外ではゼロとなります。無限長の時系列データにウィンドウ関数の時系列データを掛けることによって、ウィンドウ関数は無限長の時系列データの有限な部分を抽出します。タイム・ドメインでの乗算は周波数ドメインでの畳み込み積分に対応します。有限長の時系列データのフーリエ変換の結果は、ちょうどウィンドウ関数の時系列データのフーリエ変換で畳み込まれた無限長の時系列データのフーリエ変換です。

FFTの基本

0

-20

-40

-60

-180

-160

-140

-120

-100

-80

-200

-0.5 0.50.40.30.20.10-0.1-0.2-0.3-0.4

周波数(Hz)

振幅(dB)

N=1000 pts、fs=20 Hz方形ハニングフラットトップ

方形、ハニング、フラットトップでの周波数スペクトラム

フラットトップ

ハニング

方形

7

スペクトラム・リーケージとウィンドウ関数のつづき

この畳み込み積分により、X(F)の各スペクトル線が、ウィンドウ関数の時系列データのフーリエ変換の形状となります。

ウィンドウ関数の形状により、フーリエ変換でのスペクトラム・ローブの形状が決まります。方形ウィンドウのフーリエ変換はsinc関数になります2。方形の場合、有限長の時系列データの周期的な拡張による不連続部は減少しません。しかし、他のウィンドウの場合は、両端でゼロ値に滑らかに近づくように定義されています。

Infiniiumでは、方形、ハニング、フラットトップの3種類のウィンドウ関数を選択できます。図3に、これらのウィンドウ関数とそれぞれに対応するフーリエ変換を示します。方形ウィンドウではメイン・ローブの幅はもっとも狭くなっていますが、サイド・ローブは緩慢に減衰します。メイン・ローブの両端のゼロの間隔は2ビンで、最初のサイド・ローブはメイン・ローブよりも13.3dB減衰しています。これらのサイド・ローブは隣接するスペクトラムを見えなくします。ハニング・ウィンドウではメイン・ローブの幅は広がりますが、サイド・ローブは急激に減衰します。メイン・ローブの幅は4ビンで、最初のサイド・ローブはメイ

ン・ローブよりも31.5dB減衰しています。フラットトップ・ウィンドウではメイン・ローブの幅は8ビンで、サイド・ローブは最も急激に減衰します。最初のサイド・ローブはメイン・ローブよりも70.4dB減衰しています。

DFTは、離散時系列データの連続フーリエ変換X(F)の離散サンプルを表わします。DFTの周波数ビンの間隔は式2で求めることができます。連続時間信号の周期の整数倍が離散時系列データとして捕捉された場合、DFTでの周波数ビンの中心はメイン・ローブの中心と一致し、サイド・ローブ・リーケージが消滅します。ゼロを詰めることにより時系列データが拡張された場合は、DFTのビン間隔は小さくなり、真のウィンドウ関数の形状がより明らかになります。前述したように、ゼロを詰めてもX(F)の形状は変化せず、単にDFTのサンプルが増えX(F)がより明瞭になります。

FFTの基本

8

周波数スパンと分解能

これまでのセクションで、周波数スペクトラムの近似値に影響を与えるFFTとサンプリングの性質と特性について説明しました。このセクションでは、スペクトラム解析でのInfiniiumのロングメモリ・オシロスコープの使用について実用的な面に焦点を当てます。FFTの分解能とダイナミック・レンジに対する、ロングメモリの利点を詳細に説明します。オシロスコープのいくつかの特性がダイナミック・レンジに影響を与えます。これらについての要因とダイナミック・レンジを向上させるためのアベレージングの使用、および特定の解析に対する適切なウィンドウ関数の選択方法を説明します。また、このセクションでは、必要なFFT周波数のスパン、分解能、更新レートを得るための、オシロスコープの時間レンジ、サンプリング・レート、メモリ長の設定方法を説明します。

Infiniiumロングメモリ・オシロスコープで現在可能な最高サンプリング・レートは、4GS/sです。このため、最高2GHzまでのFFTベースのスペクトラム解析ができます。現在、メモリ長は最大で16Mサンプル使用できます。最高のサンプリング・レートで最大のメモリ長を使用した場合、周波数スパンは2GHzで周波数分解能が250Hzとなります。

Infiniiumでは、画面に表示されているだけのタイム・ドメインのサンプルに対してしかFFT演算は行なわれないので注意してください。つまり、画面に表示されていないサンプルは無視されます。手動設定の場合にすべてのデータでFFT演算を行うには、水平軸スケールを調整してすべてのデータが画面に表示されるようにしてください。

サンプリング・レートとメモリ長の両方を手動で制御できます。通常モードでは、メモリ長は、現在のタイムレンジに対して最高のサンプリング・レートになるように調節されます。これはタイム・ドメイン解析にとっては便利な機能ですが、周波数解析をしたいユーザに合うとは限りません。多くの場合、周波数分解能を上げるために、ユーザはサンプリング・レートを意図的に下げることになります。また、FFTの更新レートを上げるためにメモリ長を減らしたりもします。

式2で示されるように、FFTの周波数分解能はサンプリング・レートとポイント数の両方で決まります。ポイント数を増やすか、サンプリング・レートを下げるかして、分解能を高くすることができます。しかし、サンプリング・レートを下げると、計算される最高周波数が低くなり、エリアジングを招くことになります。FFTの周波数分解能は、次の式で示されるように、オシロスコープの時間レンジ設定から容易に求めることができます。

式9

前述した情報から、特定のサンプリング・レートとレコード長について、Infiniium FFTの周波数分解能とスパンを求めることができます。

たとえば、サンプリング・レートが4GS/s、メモリ長が100,000ポイントに設定された場合を考えます。このとき、Infiniiumでは、次に大きな2のべき乗のポイント数つまり131,072ポイントになるまで0を詰めます。表示される周波数スパンは、サンプリング周波数の半分つまり2GHzです。周波数分解能は、4G S / sを 1 3 1 , 0 7 2で割って、30.5176kHzとなります。FFTは画面に表示されるポイントについてのみ計算されるので、画面上にすべてのポイントを確保するには、水平軸を2.5µs/div以上に設定する必要があります。特定のサンプリング・レートとメモリ長について、全データを画面に表示するために必要な水平軸スケールの設定は、次の式で示されます。

式10

通常は、この式を適用する必要は実際にはありません。ユーザは全データが画面に表示されるまで、時間レンジを単に調整しています。画面の上端に表示されるメモリ・バーにより、簡単に調整できます。

実用における注意事項

F = = 1

NT

1

時間レンジ

水平軸スケール ≧ s / divN

10Fs

9

図4 大容量メモリがFFT分解能の改善に及ぼす影響を示すInfiniium FFTスペクトラム

実用における注意事項

周波数スパンと分解能のつづき

図4に、FFTスペクトラムの分解能に影響を与えるメモリ長を示します。表示されたスペクトラムは、ほとんど同じ周波数のF1とF2の2つの正弦波を含む信号から生成されています。F1は75.000273MHz、F2は75.001546MHzです。F1とF2の周波数の差は1.273kHzです。

サンプリング・レートは200MS/sに設定され、ナイキスト・レートの150.003092 MHzよりも大きくなっています。サンプリング・レートは、FFT分解能を上げるために可能な限り低く選択されていますが、エリアジングを防ぐためには十分高くなっています。また、ハニング・ウィンドウを使用して、サイド・ローブ干渉を減少させています。

メモリ長を256kポイントとした場合には、FFT分解能は762.9Hzとなり、スペクトラム・リーケージのために2つの信号を十分に識別することはできません。しかし、4Mポイントにすると、FFT分解能は47.7Hzとなり、2つの信号のスペクトラムは明確に識別できます。

ロングメモリが原因で、制限が加えられることもあります。メモリ長を増やすと、FFTの更新レートが下がります。前に述べたように、NポイントFFTの演算では、Nlog2(N)回の複素乗算を行なう必要があります。これが、計算時間の大部分を占めます。

現在、Infiniium大容量メモリ・オシロスコープは1秒間に1,000,000ポイントのFFTを計算し表示できます。しかし、16,000,000ポイントのFFTでは20秒かかります。通常メモリ長モードのとき、InfiniiumではFFT演算のポイント数を1,000,000に制限しているため、更新レートは1秒あたり1回より遅くはなりません。特定の状況に対してメモリ長を最適化するためには、手動でメモリ長を選択してください。

10

470 MHz

サンプリング・レート=4 GS/sメモリ長=8 MポイントX軸スケール=200 MHz/divY軸スケール=20 dBm/div

125 MHz1410 MHz

1650 MHz1880 MHz

940 MHz

図5 純粋な470MHzを入力したときのInfiniium FFTのスペクトラム

実用における注意事項

ダイナミック・レンジ

周波数ドメイン測定でのダイナミック・レンジとは、より大きな信号が存在する状態で識別可能な最小の信号の指標です。つまり、フルスケール入力の基本波スペクトラムとノイズ・フロア間の振幅の差を示します。

デジタル・オシロスコープで生成されるFFTスペクトラムのダイナミック・レンジは、A/Dコンバータ(ADC)の量子化やオシロスコープ内部のノイズ源などにより制限を受けます。また、フロント・エンドの増幅器やADCの非線形応答は、高調波歪みを生成し、歪みとしてFFTスペクトラムに表示されます3。これらの要因により、ユーザはスペクトラム情報を信号内から検出したり、オシロスコープ内部からの信号と区別したりすることが制限されます。次のセクションでは、アベレージングによっていかにダイナミック・レンジを向上できるかを説明します。

図5は、純粋な470MHzの正弦波入力をInfiniiumでFFT演算を行って生成された周波数スペクトラムを示します。基本波周波数の470MHz以外の周波数で示されるすべてのスペクトル線に注目してください。470MHzの高調波が940MHz、1410MHzおよび1880MHzに見られ、折返し周波数の2GHzを超える高調波がエリアジングしてより低い周波数のスペクトラムとなっています。1650MHzのスペクトル線は、470MHzの高調波のエリアス応答の1つを示しています。125MHzの内部クロックの歪み成分も表示されています。470MHzの基本波周波数と最大の歪み成分間のダイナミック・レンジは51dBです。

メモリ長を増やすと、非同期ノイズ源のノイズ・フロアは減衰し、ダイナミック・レンジが向上します。これは、FFTのポイント数が増加しても全ノイズ・パワーは変化しないためです。

たとえば、全ノイズ・パワーは一定なので、FFTのポイント数を2倍にすると非同期のノイズ成分の振幅は1/2に減衰します。対数目盛りでは、FFTのポイント数が2倍になるとノイズ・フロアは3dB減衰します。ただし、レコード長を長くすることで期待される改善は、FFT演算の丸め誤差のために、幾分落ちます。

11

実用における注意事項

250 MHz

サンプリング・レート=4 GS/sY軸スケール=20 dBm/div

メモリ長=1024 ポイントメモリ長=16,400,000 ポイント

図6 長いメモリ長がノイズ・レベルを減少させることを示すInfiniiumのFFTスペクトラム

ダイナミック・レンジのつづき

図6に、FFTレコード長の増加がダイナミック・レンジに与える影響を示します。青色のFFTトレースは、メモリ長を1 0 2 4ポイントにしたときにInfiniiumで捕捉されたものです。緑色の F F Tトレースは、メモリ長を16,400,000ポイントにしたときに捕捉されたものです。いずれも、4GS/sで捕捉しています。ロングメモリのFFTの場合、ノイズ・フロアが約30dB低下し、1024ポイントだけでは覆い隠されていたスペクトラム・データが現れていることに注目してください。残念なことに、メモリ長を大きくした場合、信号の中に実際には存在しない、オシロスコープ自身に起因するいくつかの付加的なスペクトル線が表示されています。

デジタル・オシロスコープでは、仕様に有効ビットが含まれる場合があります。有効ビットとは、S/N比(SNR)の指標です。SNRは全ノイズ・パワーに対する信号パワーの比です。一般的には、正弦波カーブ・フィッティングを使用してタイム・ドメインで計算されます4。SNRは、次の式を使用して、有効ビットから求めることができます5。

式11

一般的に立ち上がりの速い入力信号では有効ビット測定が悪くなるため、多くの場合、高周波と低周波の両方で仕様化されます。Infiniiumは8ビットADCを使用しています。式11より、理想的な8ビットADCのSNRは50dBです。

SNR=有効ビット * 6.02+1.8 dB

12

0

-10

-20

-30

-90

-80

-70

-60

-50

-40

-100

0 0.50.450.40.350.30.250.20.150.10.05

周波数(Hz)

振幅(dB)

理想的な8ビットADCでの1024ポイントFFTスペクトラム

図7 上図の理想的な8ビットADCの1024ポイントFFTスペクトラムと図6の1024ポイントFFTを比べてください。

実用における注意事項

ダイナミック・レンジのつづき

図7に、フルスケール入力した場合の理想的な8ビットADCについての1024ポイントのFFTスペクトラムを示します。1024ポイントで50dBのSNRの場合、ダイナミック・レンジは約70dBになることに注目してください。これとは対称的に、図6の1024ポイントのFFTでは、250MHzのフルスケール正弦波入力に対してInfiniiumは約50dBのダイナミック・レンジであることがわかります。この理想からの20dBの減少は、オシロスコープ自身のノイズ源と非線形性による影響が原因となっています。

13

メモリ長=64 kポイントサンプリング・レート=4 GS/s

アベレージングなし

256回のアベレージング

図8 ダイナミック・レンジを増加させるための、タイム・ドメイン波形のアベレージングの効果を示すInfiniium FFTスペクトラム

実用における注意事項

アベレージング

このセクションでは、Infiniiumで実行できる2つのタイプのアベレージングについて説明します。1つは、FFT演算を実行する前のタイム・ドメインの波形に適用されるアベレージングです。これはノイズを低減させてダイナミック・レンジを向上させるために有用です。もう1つのタイプのアベレージングは、FFTの振幅に適用されスペクトラムの近似値の変動を低減させます。

タイム・ドメインのアベレージングでは、複数回のトリガで捕捉されるタイム・ドメイン波形をアベレージングすることにより、非同期のノイズ源を低減させます。信号の帯域幅には影響を与えません。このタイプのアベレージングの利点を活かすには、信号が周期的であることが必要です。ノイズ変動は、アベレージング回数に等しい割合で減少します。デシベル単位での、タイム・ドメイン・アベレージングによるノイズ・フロアの減少は式12で表わされます。

式12

ここで、Navgはアベレージング回数です。

Infiniiumの場合、アベレージング回数は、2から4096までから選択できます。アベレージング可能な最大メモリ長は64kポイントです。より長いメモリ長が必要な場合も、タイム・ドメイン波形にアベレージング機能を適用できますが、処理はかなり低速になります。

タイム・ドメインのアベレージングは、信号のノイズを低減させるためだけでなく、オシロスコープ自身を原因とする内部の非同期ノイズ源を低減させるためにも有用です。図8に、タイム・ドメイン・アベレージングがダイナミック・レンジに与える影響を示します。青色のトレースはアベレージングをしていない状態のFFTスペクトラム、緑色のトレースは256回アベレージングした場合のFFTスペクトラムです。黒色の部分は、2つのトレースが重なり合った部分です。いずれのスペクトラムも、サンプリング・レートは4GS/s、メモリ長は64kポイントにしています。垂直軸スケールは20dB/divです。

式12から予想されるように、アベレージング回数が256の場合、ノイズ・フロアが約24dB減少していることがわかります。オシロスコープには信号を入力していないため、表示されているものはオシロスコープの内部ノイズ源によるものです。

ノイズ・フロアの減少= 3 dB * log2(Navg)

DFTスペクトラムのアベレージング値は、ポイント数が増加するにつれて真の値に収束します。しかし、変動は一定で残っています6。変動について改善するために、複数のDFTスペクトラムを一緒にアベレージングすることができます。変動は、アベレージング回数に等しい割合で減少します。

FFT振幅機能にアベレージング機能を組み合わせることにより、InfiniiumはFFTスペクトラムをアベレージングする方法を提供しています。アベレージングはデシベル振幅値について実行されます。アベレージング回数は2から4096までから設定できます。

14

実用における注意事項

メモリ長=32 kポイント

アベレージングなしのFFT振幅16回アベレージングしたFFT振幅

図9 アベレージングされたFFTスペクトラムにより、変動が低減しています。

アベレージングのつづき

図9に、FFTスペクトラムをアベレージングしたときの効果を示します。ファンクション2の緑色のスペクトラム・トレースはアベレージングされていません。ファンクション3の紫色のスペクトラム・トレースはファンクシ

ョン2を16回アベレージングした結果です。黒色の部分は、ファンクション2とファンクション3が重なり合った部分を示します。図9から、このタイプのアベレージングではFFTスペクトラムの変動は低減するが、ダイナミック・レンジは向上しないことがわかります。

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ウィンドウ関数の選択

Infiniiumでは、方形、ハニング、フラットトップ(図3を参照)の3つからウィンドウ関数を選択できます。適切なウィンドウ関数を選択すると、より有用な情報をFFTスペクトラムから得ることができます。

方形ウィンドウは、メイン・ローブはもっとも狭くなりますが、サイド・ローブが緩慢に減衰するので、隣接するスペクトラムが不明瞭になるため、通常は使用されません。ハニング・ウィンドウはスペクトラム成分を表示するためにもっともよく使用されるウィンドウです。メイン・ローブの幅は、方形ウィンドウの2倍ですが、サイド・ローブは急激に減衰します。

スペクトラム・データについて振幅測定をする場合は、フラットトップ・ウィンドウが最適です。周波数ドメインでフラットトップの幅が広いため、スペクトラム・ピークの振幅は非常に正確です。フラットトップ・ウィンドウを使用すると、スペクトラム・リーケージに起因する最大振幅誤差は0.1dBとなります。これは、最大振幅誤差が1.5dBのハニング・ウィンドウよりも

実用における注意事項

はるかに良くなっています3。最大振幅誤差は、メイン・ローブの中心が2つの周波数ビン間のちょうど中間点に低下したときに生じます。しかし、メイン・ローブの幅が広いので、隣接スペクトル線を分解したい場合には必ずしも良い選択ではありません。

メモリ長の増加により、周波数スパンを狭くしなくてもFFTの周波数分解能は上がります(式2を参照)。周波数ビンの観点からは、ウィンドウ関数のローブ幅は一定です。しかし、各ビンの周波数幅は、ポイント数に反比例します。このように、ポイント数の増加により、スペクトル線のローブの幅は減少し、隣接スペクトル線を分解する能力が上がります。たとえば、フラットトップ・ウィンドウでメモリ長を2倍にすると、その半分のメモリ長のハニング・ウィンドウと同じ分解能となります。

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実用における注意事項

等価時間サンプリング

ディジタル・オシロスコープにとってエリアジングは常に潜在的な問題です。ディジタル・オシロスコープは全周波数成分を特定のアナログ帯域に通します。ロールオフがシャープである必要はなく、帯域以外の周波数もADCを経由します。

ローパス・カットオフ・フィルタがない場合、折返し周波数を超える周波数はエイリアス応答として周波数スペクトラムに反映されます。サンプリング・レートが下がると、問題はより深刻になります。理想的には、スペクトラム解析では、折返し周波数を超えるすべての周波数を減衰させるためにローパス・アナログ・フィルタが取り付けられます。しかし、これはディジタル・オシロスコープでは実用的ではありません。

等価時間サンプリングを使用して、実効サンプリング・レートを上げて、エリアジングを減少させることができます。Infiniiumで使用される等価時間サンプリングの方式は、ランダム繰り返しサンプリングと呼ばれます。このサンプリング方式が適切に機能するには、信号が周期的であることが必要です。ランダム繰り返しレコードは、複数の捕捉から構成されます。サンプリング・クロックとトリガ・イベントの間の時間が慎重に測定され、各捕捉からのサンプルを配置するために使用されます。この時間測定の確度により、サンプルの間隔をいかに狭くできるかが決まります。サンプル間隔の逆数が実効サンプリング・レートです。

Infiniiumロングメモリ・オシロスコープでは、等価時間での最小サンプリング間隔は4psなので、最大実効サンプリング・レートは250GS/sです。

470 MHz

等価時間実効サンプリング・レート=250 GS/sメモリ長=32768ポイント周波数分解能=7.63 MHz周波数スパン=2 GHzY軸スケール=20 dBm/div

図10 実効サンプリング・レートを上げエリアジングを減少させるために、等価時間サンプリングを使用した470MHzの正弦波のInfiniium FFTスペクトラム

Infiniiumの等価時間サンプリングには、スペクトラム解析に使用する上での有用性を制限する面がいくつかあります。まず、ユーザが実効サンプリング・レートを直接制御できないことです。また、最大メモリ長が32kポイントに制限されていることです。そして、サンプリング間隔が一様でないために、周波数スペクトラムに付加的なノイズが入ることです。1つのタイム・バケット内のどこにでもサンプルは落ちますが、FFT演算では、サンプルは等間隔であると仮定されます。

図10に、純粋な470MHz正弦波の入力を等価時間サンプリングした場合のFFTスペクトラムを示します。実効サンプリング・レートが高くメモリ長が制限されているために、7.63MHzという周波数分解能が大き過ぎて隣接スペクトル線を識別できません。また、基本波スペクトラムと最大のスペクトラム高調波間のダイナミック・レンジはわずか38dBです。

このFFTスペクトラムを、図5のリアルタイム・サンプリングしたときのFFTスペクトラムと比較すると、リアルタイム・サンプリングの方がダイナミック・レンジと周波数分解能が良いことがわかります。

等価時間サンプリングで周波数分解能を上げるには、時間レンジを広げることにより実効サンプリング周期を長くします。しかし、サンプリングが一様でないために、サンプル間にジッタが生じて、ダイナミック・レンジがさらに損なわれます。タイム・ドメイン・アベレージングを使用すると、ジッタを減らしダイナミック・レンジを上げることができます。

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アプリケーション

AM信号の特性評価

このセクションでは、ロングメモリ・オシロスコープのFFTの、実際のアプリケーションを説明します。アプリケーションは、振幅変調(AM)信号の特性の測定に関するものです。対象となる特性は、搬送波周波数f0、変調周波数fm、変調指数aです3。

AM信号のスペクトラムには、これらのパラメータの計算に必要な情報がすべて含まれています。図11に、正弦波変調された一般的なAM信号のスペクトラムを示します。中心スペクトル線は搬送波を表わし、側帯波は変調の結果を表わします。変調周波数は、搬送波周波数と一方の側帯波周波数との差です。変調指数は、搬送波信号と変調信号間の振幅差です。変調指数は、搬送波と変調側帯波の間の振幅差AdBから、次の式を用いて計算で求めることができます。

式13

変調周波数が搬送波周波数のわずかなパーセントのとき、側帯波と搬送波を区別するには高分解能なFFTスペクトラムが必要です。

この例では、Agilentの33250Aファンクション・ジェネレータを使用して、次のパラメータのAM信号を発生させています。

搬送波周波数=77MHz 変調周波数=1kHz AM変調度=2% 形状=正弦波

上記のAM変調度は変調指数と同じものです。変調周波数は搬送波周波数の0.0013%であることがわかります。搬送波を変調波と識別するには、高分解能の周波数スペクトラムが必要です。

fo-fm fo fo+fmf

AM信号スペクトラム

図11 正弦波変調がかけられたAM信号のスペクトラム

a = 2x10(AdB / 20)

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アプリケーション

サンプリング・レートとメモリ長の選択

オシロスコープを設定する際、最初にすることは、サンプリング・レートとメモリ長の選択です。エリアジングを防ぐには、サンプリング・レートFsをナイキスト周波数である77MHz+1kHzの2倍以上の値に設定します。また、分解能を良くするために、この基準を満たす設定可能な最低サンプリング・レートに設定します。Infiniiumでは、ナイキスト周波数の2倍以上で、次に設定可能なサンプリング・レートは200MS/sです。

変調指数をもっとも正確に測定するには、フラットトップ・ウィンドウを使用します。フラットトップ・ウィンドウは幅が8ビンあるので、変調側帯波を明確にするには1kHzを8で割った周波数分解能が必要です。この事実と、周波数分解能を求める式2により、最低限必要なポイント数を求めるために次の式が導き出されます。

式14

ここで、Fは周波数分解能、Wはビンを単位としたメイン・ローブの幅です。

たとえば、ここではFFTの更新レートは問題ではないので、メモリ長を8Mポイントに設定します。これは、最低要求事項を満たし、周波数分解能は23.8Hzとなります。

時間と周波数のスケーリング

次にすることは、オシロスコープの時間軸と周波数軸のスケーリングです。FFTでは画面上のポイントを演算するだけであることを思い出してください。捕捉されたデータすべてが画面に表示されるように、画面の一番上に表示されるメモリ・バーを使用して時間レンジを設定します。式10を使用して、time/divを4ms/div以上になるように設定します。

この例では、time/divは5ms/divに設定されています。周波数軸は搬送波周波数が中央になり側帯波が搬送波周波数から1目盛り離れるように、周波数軸はスケーリングされています。N ≧ =

Fs

F

= =Fs

ƒm

W

200 MS/s

1 kHz

8

1.6 Mポイント

水平軸≧

=4ms / div8 Mポイント

10 x 200 MS/s

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アプリケーション

FFTスペクトラムの結果

図12に、Infiniiumで捕捉したAM信号のFFTスペクトラムを示します。側帯波が搬送波と明確に識別できることがわかります。また、変調指数は2%と小さいが、ダイナミック・レンジは側帯波をノイズ・フロアと区別するために十分であることがわかります。画面表示の下のリストは、設定情報と測定結果です。デルタ・ピーク周波数測定は変調周波数を求めるために使用します。搬送波周波数は、中心ピークのマーカから直接読み取ることができます。デルタ・ピーク振幅測定は、搬送波ピークと右側の側帯波の振幅差を求めるために使用します。測定結果は、-40.17dBです。この値を式13に代入すると、変調指数が求まります。

FFTスペクトラムから測定されるAM信号のパラメータを、次にまとめて示します。

搬送波周波数=77.0002MHz 変調周波数=1.001kHz 変調度=1.96%

AM信号搬送波周波数=77 MHz変調周波数=1 kHzAM変調度=2 %

a = 2x10(-40.17 dB / 20) = 1.96%

この結果を先に示した信号発生器の設定と比べてみると、測定誤差はわずかで優れた結果であることがわかります。この例では、1回の捕捉で測定されています。Infiniiumでは、各測定の平均と標準偏差の記録をとっているの

で、複数回捕捉することにより測定結果はさらに向上します。

Acquisition Sampling mode real time Normal Configuration 4GSa/sMemory depth manual Memory depth 8200000ptsSampling rate manual Sampling rate 200 MSa/sAveraging off Interpolation on

Channel 1 Scale 20 mV/div Offset 2 mVBW limit off Coupling DC Impedance 50 OhmsAttenuation 1.000 : 1 Atten units ratio Skew 0.0 sExt adapter None Ext coupler NoneExt gain 1.00 Ext offset 0.0

Time base Scale 5.00 ms/ Postion 0.0 s Reference center

Trigger Mode edge Sweep autoHysteresis normal Holdoff time 80 ns Coupling DCSource channel 1 Trigger level 1.6 mV Slope rising

Function 2 FFT magnitude channel 1Vertical scale 20.0 dBm/div Offset -51.0000 dBmHorizontal scale 1.00 kHz/div Position 77.0000 MHzWindow flattop Resolution 23.8419 Hz

Measure current mean std dev min maxFFT ∆freq(f2) 1.001 kHz 1.001 kHz 0 Hz 1.001 kHz 1.001 kHzFFT ∆mag(f2) -40.17 dB -40.17 dB 0.0 dB -40.17 dB -40.17 dB

Marker current mean X YFFT ∆freq(f2) 1.001 kHz 1.001 kHz A-(f2)= 77.000189 MHz -13.27 dBmFFT ∆mag(f2) -40.17 dB -40.17 dB B-(f2)= 77.001191 MHz -53.44 dBm

∆= 1.001 kHz -40.17 dB1/∆X= 999 µs

図12 正弦波変調されたAM信号のInfiniiumでのFFTスペクトラム

サポート、サービス、およびアシスタンス

アジレント・テクノロジーが、サービスおよびサポートにおいてお約束できることは明確です。リスクを最小限に抑え、さまざまな問題の解決を図りながら、お客様の利益を最大限に高めることにあります。アジレント・テクノロジーは、お客様が納得できる計測機能の提供、お客様のニーズに応じたサポート体制の確立に努めています。アジレント・テクノロジーの多種多様なサポート・リソースとサービスを利用すれば、用途に合ったアジレント・テクノロジーの製品を選択し、製品を十分に活用することができます。アジレント・テクノロジーのすべての測定器およびシステムには、グローバル保証が付いています。製品の製造終了後、最低5年間はサポートを提供します。アジレント・テクノロジーのサポート政策全体を貫く2つの理念が、「アジレント・テクノロジーのプロミス」と「お客様のアドバンテージ」です。

アジレント・テクノロジーのプロミス

お客様が新たに製品の購入をお考えの時、アジレント・テクノロジーの経験豊富なテスト・エンジニアが現実的な性能や実用的な製品の推奨を含む製品情報をお届けします。お客様がアジレント・テクノロジーの製品をお使いになる時、アジレント・テクノロジーは製品が約束どおりの性能を発揮することを保証します。それらは以下のようなことです。 機器が正しく動作するか動作確認を行います。 機器操作のサポートを行います。 データシートに載っている基本的な測定に係わるアシストを提供します。 セルフヘルプ・ツールの提供。 世界中のアジレント・テクノロジー・サービス・センタでサービスが受けられるグローバル保証。

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お客様は、アジレント・テクノロジーが提供する多様な専門的テストおよび測定サービスを利用することができます。こうしたサービスは、お客様それぞれの技術的ニーズおよびビジネス・ニーズに応じて購入することが可能です。お客様は、設計、システム統合、プロジェクト管理、その他の専門的なサービスのほか、校正、追加料金によるアップグレード、保証期間終了後の修理、オンサイトの教育およびトレーニングなどのサービスを購入することにより、問題を効率良く解決して、市場のきびしい競争に勝ち抜くことができます。世界各地の経験豊富なアジレント・テクノロジーのエンジニアが、お客様の生産性の向上、設備投資の回収率の最大化、製品の測定確度の維持をお手伝いします。

参照資料1 Allen Montijo, "Weigh the Alternatives for Spectral Analysis," Test & Measurement World, November 1999, Vol. 19, No. 14

2 Alan V. Oppenheim and Ronald W. Schafer, Digital Signal Processing, Prentice-Hall, Inc., 1975

3 Robert A. Witte, Spectrum & Network Measurements, Noble Publishing, 2001

4 "Dynamic Performance Testing of A to D Converters," Hewlett Packard Product Note 5180A-2

5 Martin B. Grove, "Measuring Frequency Response and Effective Bits Using Digital Signal Processing Techniques," Hewlett Packard Journal, February 1992, Vol. 43, No.1

6 Steven M. Kay, Modern Spectral Estimation, Prentice Hall, 1988

April 8, 20025988-4368JA

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