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26 —— 下水道機構情報 Vol.13 No.28

ポンプゲートで浸水対策効果早期発現平成30年7月豪雨で稼働,浸水被害ゼロに

篠山市上下水道部

 篠山市上下水道部は,一級河川篠山川に近い地区で,時折床上・床下浸水が発生していたことから,雨水浸水対策事業を推進してきました。雨水(内水)排除能力をレベルアップさせる事業の中核施設「京口排水ポンプ場」は平成30年6月末に完成しましたが,その直後に平成30年7月豪雨(西日本豪雨)が発生し,篠山市でも激しい雨が降りましたが,ポンプが雨水を急速に篠山川へと排除したことにより,当地区で浸水被害は発生しませんでした。ポンプ場全体の計画・設計,そしてポンプ本体の設計にはさまざまな工夫が凝らされています。その概要をお聞きしました。

平成30年度第1回雨水対策共同研究委員会で京口排水ポンプ場を視察した委員の皆さん

京口排水ポンプ場整備の経緯

 一級河川篠山川に近接する篠山市の糯ケ坪地区では,内水排除先の篠山川の水位が高くなり排水路の吐口から河川水が逆流することによる浸水被害がたびたび発生していました。平成16年10月に台風の影響で浸水被害が発生し,平成25年9月の台風18号では床上・床下浸水が18戸で発生しました。浸水被害に対する住民の声を受けて,同市では排水路に篠山川の水を逆流させない止水能力と内水を排除する排水能力とを併せ持った排水ポンプ場を下水道事業により,排水路の篠

一級河川 篠山川

ポンプ場建設用地

京口排水ポンプ場建設用地の概要

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山川への放流口付近に設置することを決めました。 京口排水ポンプ場は,地上5階建ての市営京口団地と2階建ての民間アパートが立ち並ぶ間にある既存の水路敷付近に建設しなければならず,その敷地面積は約160m2と非常に狭い中で建設を計画しなければなりませんでした。そこで,敷地を有効活用できる上,浸水対策への十分な信頼性を有しており,運転操作も容易で,早期の施設完成を見込むことができ,河川堤防への影響も排除できるポンプゲート施設を採用することとなりました。

京口排水ポンプ場の概要

 京口排水ポンプ場の計画排水区域は9.2haで,降雨強度は7年確率の50mm/時に対応しています。総排水量は126m3/分で,63m3/分の能力を持つ雨水ポンプ2台で雨水を排除します。 工事内容は,機械設備工事がポンプゲート,スクリーン,点検用ゲート,電気設備工事が受変電設備,運転操作盤,監視水位計装置,土木工事がポンプ本体躯体工,吐口放流管設置工,河川護岸工,附帯工となっています。 工事金額は,3億209万2200円(税込み)です。 施主は篠山市上下水道部下水道課,施工監理は兵庫県まちづくり技術センター,施工は㈱石垣大阪支店が

京口排水ポンプ場の建設予定地付近の地図。赤線内がポンプ場建設用地

着工前の建設用地付近

京口排水ポンプ場の完成状況

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行いました。 工事は平成29年9月12日に開始し,平成30年6月29日に完了しました。完成直後の7月5日から7月豪雨

に伴う大雨が篠山市でも降り,7日には篠山川の水位が避難判断水位の3.00mを超える3.05mに達しましたが,排水ポンプは問題なく稼働しました。翌8日には,酒井隆明市長らが参列し,浸水被害がなかったことで住民の安堵感が広がる中,竣工式が執り行われました。8月の台風20号,9月の台風24号でも安定して稼働しています。

京口排水ポンプ場の特徴

 ポンプ場を整備するにあたっては,さまざまな点に配慮しています。 既存の水路・放流きょを活用したことにより,ポンプ場建設スペースの削減や建設コストの低減,工事期間の縮減につながっています。 土木,機械,電気設備工事は一括発注しています。これにより,各工事間の調整業務が削減され,工事期間の縮減につながっています。 ポンプ本体には全速全水位型横軸水中ポンプ(製品名:フラッドバスター)を採用しました。日本下水道事業団と㈱石垣が共同開発し,事業団の新技術Ⅰ類にも選定されているポンプで,低水位でも全速運転が可能であり,ポンプ吸込み口からの排水が可能であるため急激な水位変動にも強いという特徴があります。 夾雑物の流下対応には,手掻きスクリーンを採用しています。これにより,土木設備に対する荷重を低減させたほか,機械設備のコストを低減し,近隣環境への騒音源も排除しました。スクリーンは,ポンプ稼働時には,排水路上流からの夾雑物を除去するため,自

7月豪雨で増水した篠山川

稼働中の雨水排水ポンプ

竣工式でテープカット

スクリーンを下ろした状態。壁面には1台目と2台目のポンプの運転水位が記されている

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重でスクリーンを下ろします。下ろしたスクリーンは,晴天時などの通常時には,ウインチを使って手動で引き上げます。 電気設備盤は,屋外仕様を採用して電気室建設費のコストを削減するとともに,浸水想定水位以上の高さの架台に乗せて浸水対策にも努めています。停電時に備えて,可搬型自家発電装置も整備しています。 下水道課職員や維持管理会社へのスマートフォンなどに河川等の水位状況,ポンプ稼動や施設異常警報がメールで届き,即座に出動できる体制が整えられています。 ポンプゲートの他に,篠山川の川裏にも河川管理用ゲートを設置して止水性を高めています。材質は,止水性能が高い鋳鉄製ゲートを採用しています。既存の放流きょについても,パイプインパイプ工法にて継手が柔構造の内挿管を布設して,強靭化を図っています。

本機構の委員会で現地を視察

 7月17,18日の2日間,本機構の平成30年度第1回雨水対策共同研究委員会(委員長=古米弘明東京大学大学院教授)を篠山市で開催しました。1日目には京口排水ポンプ場を視察しました。委員の皆さまは,水中ポンプや電気設備,スクリーン等の設置状況について熱心に視察し,その後,7月豪雨における稼働状況等について,篠山市上下水道部の大西雄二下水道課長,同課の古谷重樹工務係長から説明をいただきました。 翌日の会議では,ポンプ場の視察結果も踏まえて,

「段階的浸水対策」の要となるポンプゲートの導入に向けて,計画,設計,運用・制御から維持管理までのPDCAサイクルを盛り込んだ技術マニュアル作成に向けた審議を行いました。なお本機構では平成31年度の発刊を目指してマニュアルの作成に鋭意取り組んでいるところです。

担当者の声

 施設整備に携わった古谷係長は,「ポンプ場が完成するまでは,地元消防団のポンプ車や市が保有している可搬式のポンプによって,大雨のたびに人的な排水活動を繰り返してきましたが,一つの建設工事でこれまで状況が変わるものかと担当者としても驚いています」と整備効果の大きさを話してくれました。そして,一番うれしいのは,市民に喜んでいただける姿だと言います。 ポンプゲートの採用により,1年足らずの工期で浸水対策効果の早期発現を実現できた篠山市。現在,国内外からの施設見学の申込みが来ると言います。来年からは,京口排水ポンプ場を実フィールドとする東京大学と㈱石垣の共同研究が始まります。篠山市の浸水対策の取り組みには今後,ますます注目が集まりそうです。

平成30年度第1回雨水対策共同研究委員会の様子

京口排水ポンプ場を熱心に視察する委員の皆さん

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