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Title FD-MSにおけるイオン化法の模式図化とそれから導かれる法則と手法
Author(s) 渡部, 賢二
Citation 北海道大学農学部技術部研究・技術報告, 1, 16-22
Issue Date 1994-03
Doc URL http://hdl.handle.net/2115/35255
Type bulletin (article)
Note 技術部職員研修の研究・技術発表
File Information 1_p16-22.pdf
Hokkaido University Collection of Scholarly and Academic Papers : HUSCAP
FD-MSにおけるイオン化法の模式図化と
それから導かれる法則と手法
GC-MS.NMR測定室渡部賢二(作物・分析系共同利用班)
はじめに
F D -M S (Field Desorption Ionization Mass Spectrometry:電界脱離イオン化
質量分析法)は質量分析計による有機化合物測定法のひとつで、ソフトイオン化法と呼
ばれる一連のイオン化法に含まれるo 今では最新の測定法ではないが、長年担当して得
られた知見を基にイオン化法を模式図化し、その中から導かれた法則と手法を報告する O
FD-M Sにおけるイオン化法の模式図化
①FD-MSのイオン化のメカニズムの説明
FD-MS測定はエミッター(lOpm径のタングステンワイヤーにカーボン等の針状結
晶を生成させた陽極)に測定する試料をのせ、高真空のイオン源内に挿入する O このエ
ミッター(陽極)とイオン源ブロック内の対向するカソード(陰極)との聞に13kv程度
の高電圧を印加すると、針の先端に l07v/cm程度の局部高電界が形成される O 一方でタ
ングステンワイヤーに電流を流し(エミッタ ーカレント)試料に熱を加えて分子運動を
活発にさせる O この高電界中で活発化した試料分子は電子を引き抜かれ、プラスにチャ
ージしたイオンになり、エミッター(陽極)との正電荷反発で離脱する O この離脱した
分子イオンは質量分析計の電場と磁場を通過することによって分子量の位置にスペクト
ルとして現れるが、内部エネルギーが小さいので開裂しにくいのが特徴である O
②FD-MSのイオン化法の模式図化
図1は極性が比較的低い物質を FD-MSで測定した時の模式図であるo 図2,図 2'
は難揮発性-熱分解性物質をFD-MSで測定した時の模式図である O 図中、 Oは物質
の分子運動が活発な状態をあらわし、 口は物質の分子運動が不活発な状態をあらわし、
・は物質が熱分解を起こした状態をあらわす。一般的にFD-MSは難揮発性一熱分解
性物質やNa+,K+等のアルカリ金属類の混入した試料には弱いとされている O 図1の
様に極性の比較的低い物質ではエミッターカレントを上げて熱を加えていっても熱分解
をおこす事もなく、ほぽ均一に分子運動が活発化しイオン化はスムーズに行われる O こ
れに対して難揮発性-熱分解性物質では分子運動が活発化する温度が高く、
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 1 カ-っン|の い | 状 | 結 | 品
官
高電界
4
図1 比較的極性の低い物質の測定
po 吋'ム
図2の様にエミッターカレントを上げて熱を加えていくと内側は分子運動が活発化して
いるが外側は不活発なままという状態になり、イオン化がスムーズにいかない。さらに
エミッターカレントを上げていくと、図-2'の様に外側はようやく分子運動が活発に
なったが、内側は温度が高くなり過ぎて熱分解を起こしてしまうと考えられるo この状
態ではせいぜい熱分解物のイオンしか出てこない。又、試料にNa+、r等のアルカ リ金
属類が混入していると、さらにこの状態を助長する結果になり、 FD-MSがNa+, K+ 等に弱いとされる由縁と思われる。
カソード(陰極)
官
高電界
a ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ |カ-ボ!ン|の|針|状l結l晶
難揮発性-熱分解性物質の測定図2
カソード(陰極)
官
高電界
ι ““““““総当当》岩石凶岩石5“》
|カ-ボlン|の|針|状l結l晶ミッターカレント(mA)→熱 タングステンワイヤー(陽極)
難揮発性一熱分解性物質の測定
物質の分子運動が活発な状態
物質の分子運動が不活発な状態
物質が熱分解を起こした状態
O口・
※
図2'
FD-MSのイオン化法の模式図から導かれる法則
①模式図から導かれる法則
図-1,2,2'のようにFD-MSのイオン化法を模式図化し説明してきたが、次
の (1), (2)の法則が成り立つと推測されるo
( 1 ) 0の外側に口があってはイオン化が妨害される O
ワi
句
'A
( 2 )イオン化にはOがエミッター側(陽極)の針先に触れている必要がある O
②法則の裏付
難揮発性-熱分解性物質や、 Na+,r等のアルカリ金属類の混入にFD-MSが弱い
という事実は上記法則 (1), (2)から説明されるとしたが、すなわちOの外側に口
がある状態が図2で、 0がエミッター側(陽極)の針先に触れていない状態が図2'で
ある。では、試料を極力薄くエミッターにのせると法則に反しなくなるのではないだろ
うかと推測されるo それが図3であるo
カソード(陰極)
官
高電界
s l ヵ - ポ | ン |の|針l状|結l晶
試料を薄く載せる手法図3
0の外側に口が無い事と、 Oが針先に触れている状態である。理論的には良く、この
方法でうまく測定できた事もあるが、 FD-MSの感度はあまり良い方ではなく、図3のように薄く試料をのせてはS/Nの良いマススペクトルはなかなか得られない。実際に
はイオン増幅器の出力を高めにして、何回かの測定を繰り返して積算をするのが良いが、
それでもS/Nが悪く、あまり実用的とは言えない。次に、試料自身を針の様に尖らせる
と法則に沿う事になるo それが図4である。
t
高電界
4
カソード(陰極)
~。\ /イト¥
“““““可否石軍当当百石悩岩石““可否“““ー••••••••••••••••••••••••••••••••••• 1 万 -ポ |ン|の!針 l状|結!晶 I
ミ7ターカレント(mA)→熱、 タングステンワイヤー(陽極)
試料自身を針先にするサンプルエミッタ-FD-MS;仮称図4
※FD-MSのイオン化の法則
( 1 ) 0の外側に口があってはイオン化が妨害される O
( 2 )イオン化にはOがエミッタ ー側(陽極)の針先に触れている必要がある O
。。噌
EA
この手法(サンプルエミッタ -FD-MSと仮称する)は法則とは違う観点から見い
だしたものであるが、法則を裏付けるものである O すなわち、 Oの外側に口がなく、 Oがエミッター側(陽極)の針先そのものになっている。図5はこの手法で測定したビタ
ミンB12 (分子量1354)のマススペクトルである。
< ,
,'.
5~08
MH令 (スケールオ"ハ'・)
ビタミン B12
C63H88CON 140 14P
= 1 354
1888
〉ト日一UZUトZH
1350 1250 1150 1458 1488 1388 12138 1108
サンプルエミッターFD-MSによる測定
従来、 FD-MSでの測定は不可能とされ、通常の測定では図2. 図2' の様になり、
うまく L、かなかった O 図5の様に、サンプルエミッターFD-MSで測定したマススペ
クトルはS/Nが良く、又、分子イオンや分子イオンに由来するピークが強く出る O この
手法はFD-MSの弱点である難揮発性-熱分解性物質やNa¥r等のアルカリ金属混
入試料に有効な測定法であると言えるが、すべてにうまく当てはまらない。それは、メ
タノールや水で溶かした試料をマイクロシリンジで吸い上げ、顕微鏡で見ながらエミッ
ター上にのせるが、メタノールや水が蒸発して行き、試料が固化する前に水飴を引き延
ばすようにマイクロシリンジを引っ張り、試料自身を針先のように鋭く尖らせるのがこ
の方法のコツである O この飴状になる性質を持っている試料でないと使えない。しかし
ながら、サンプルエミッタ -FD-M Sはイオン化の法則を裏付けるものと言える。
図5
模式図と法則から導かれる手法
FD-MSのイオン化の法則がおおむね正しいものとすると、図6の手法が導かれる O
これは法則(1 )が満たない図2に着目したものである O 図2は分子運動の活発なOが
エミッタ ー側(陽極)の針先に触れているが、不活発な口が外側にあるためイオン化が
うまくいかない例であるが、図6の様に外側からも熱を加えてやると口がOになり、そ
の結果、理論上図 1と同じになると言うものである O 実際には外側から加える熱はチャ
ンパーヒーターを使う O 従来、 FD-MSはソフトイオン化測定法のひとつであり、余
分なエネルギーを与えないのが普通である o FD-MSにおいては、チャンパーヒータ
ーは測定により汚れたイオン源ブロックを焼き出す時に使うのが主で、測定時にもイオ
ン源プロックへの試料の凝結や汚れを防ぐために室温よりやや高くする事がある、とい
う程度に使われる。この手法 (CHA-FD-MSと仮称する)ではチャンパーヒータ
ーをイオン化の助けに積極的に使うが、加える熱が化合物の熱分解点を越えてはならず、
Qd
可
1ム
i~~~~~~~~~~~~~~~~~締結~~~~~~~~~~官
高電界
ι
図6 チャンパーヒーターの熱を利用する CHA-FD-MS;仮称
化合物によって異なる O おお
むね7QOc,......1 5 Q Ocが良い
と思われる O このCHA-F
D-MSによる測定例を図7
A, 8Alこ示す。
図7の試料はイヌロピオー
ス(分子量342)であるが、
試料中にNがが多く混入して
おり、チャンパーヒータ ーを
切った室温での通常測定(図
7 B)では図2'のようにな
り、分子イオンに由来するピ
513
ークはほとんど得られない。 25日
チャンパーヒーターを上げて
1 5 QOcにして測定すると、
理論上図 1と同じになりイオ
ン化がスムーズに行われ、分
子にナトリウムが付加したク
ラスタ ーイオン(M+Na)+が強
く現れる(図7A) 0 図8の
ベータシクロデキストリン
(分子量1134)はFD-
MSによる測定が困難とされ
ている物質である。チャンパ
ーヒーターを切った室温での
通常測定では、 S/Nが良くな
So
いが(M+Na)+が辛うじて出る 2513
(図8B) 0 これをチャンパ
1白13 1513 21313 25~
イFロピ才ース (M+N a)・ -N a-多い
C12H22011 -CH-H150・C
=342
31313 3513 4Oo 45日
図7A CHA-FD-MSによる測定
11313
2J坪三pi:~
1S13
イヌロ ピオー ス
CI2H22011
=342
2日日
-Na ・多い
・室温
3O13 3SO 4日目
図7B 通常測定
-20-
2S日
4513
ーヒーターを上げて 7Qacにして測定すると、 (M+Na)+がS/N良く出てくる(図8A)0
このように、 CHA-FD-MSによる測定は難揮発性一熱分解性物質やNぶ K+等の
アルカリ金属類の混入した試料に有効である。特にアルカリ金属の混入に弱いとされて
いた点はかなり克服されたと思う O ただし、エミッターはカーボ ンエミッタ ーを使用し
ている。シリコンエミッターは感度が悪いのと、熱に弱いため高温で焼きだして再生さ
せるのが難しいのと、一度放電 (FD-MSでは測定中にしばしば起こる O 特にイオン
源のエアーリークやよごれが原因となる。)させると針先が潰れてしまうので使ってい
ない。
/. CH-H70 ・C
βーシクロデキストリン
(C刊誌05)7
= 1 1 34
(M+N a)・10130
J0.00
問、eF」
・
/
'
国
柄il日U4.
I
口U
い只
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1
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司
J12130 1250 11513 1 Hl0 @-FT寸可τ"T'IτIiiTT'j‘fli950 10θo 105@
'r↑日一
ωZUトZH
CHA-FD-MSによる測定図8A
r
..5 .130
室温
/ヨーシクロデキストリン
(C6H+昏05)7
= 1 1 3-4
10130
恥;dz:針〉↑日
ωzuトZH
10013 9513
@
13513 13813 12513 1200 1150 11130 1850
通常測定
要約
FD-MS測定法の弱点である難揮発性-熱分解性物質やNa+,r等のアルカリ金属
類の混入試料について、そのイオン化がうまくいかない理由を模式図で説明し、イオン
化の法則 (1), (2)を得た。この法則は、試料自身を針先にするサンプルエミッタ
-FD-MS等によって裏付けられた。模式図と法則からチャンパーヒータ ーの助けを
借りたCHA-FD-MS法が導かれた。この手法により、 FD-MSの弱点である難
図8B
つ心
揮発性一熱分解性物質やNa+,K十等のアルカリ金属類の混入試料もかなり測定可能にな
った。
FD-MSが新手法として登場した時には、難揮発性-熱分解性物質が測定できるソ
フトイオン化法と言う事であったが、程度問題であり限界があったo FAB, S IMS,
LD, AP 1, E S 1等の手法が実用化されてからは、 FD-MSは難揮発性-熱分解
性物質には弱い部類に押し下げられ、メンテナンスの困難な点もあって下火になってい
るO しかしながら、これらの測定法のどれかひとつで有機化合物全般をカバーすること
はできない。 E1 -M S (El ectron 1 on i zat i on Mass Spectrometory)で測定不可能な
分野でそれぞれの特性に合わせて使い分ける必要があるo FD-MSについて言えば、
気体・液体・粘性物を測定するFI-MS(原理はFD-MSと同じ)は分子イオンを
検出することに限ればこの分野では非常に優れていると言える O 又、固体サンプルでは
今回発表した手法により、難揮発性一熱分解性物質やアルカリ金属の混入した試料でも
限界があるにせよかなり克服できたo これにより、気体から国体の幅広い分野をカバー
でき、多種多様なサンプルを測定しなければならない部署では力を発揮する測定法であ
ると考える O
おわりに、この報告を発表する機会と御協力をいただきました皆様と、マススペクト
ル測定例として掲載を許可いただきました応用菌学の棲井政昭氏に御礼申し上げます。
参考文献
1 )飯田静夫,櫛泰典, “スフインゴ糖脂質のFD-MS"THE HITACHI SCIENTIFIC INSTRUMENT NEWS,VOL.25,NO.l,1982
2) J.SUGATANI,M.KINO,K.SAITO,T.MATSUO,H.MATSUDA ANDトKATAKUSE
“Analysis of Molecular Species of Phospholipids by Field Desorption Mass Spectrometory" , BIOMEDICAL MASS SPECTROMETRY,VOL.9,NO.7,1982
3 )樋口哲夫, “よりよいFDスペクトルを得るために"
第4回日本電子GC/MS ユーザーズミ ーテイング資料, 1982
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