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─ ─177 ( )

をしているという指摘もある。

このようにEUパターンやブロッキング現象といった

大スケールの現象からCold-Air Dammingや沿岸前線

(荒木,2015) といったメソスケールの現象まで多くの視

点から研究されているが,南岸低気圧の経路に着目し,

比較している研究は見受けられない。そこで本研究では

東京で大雪(降雪量5cm以上)をもたらした南岸低気

圧について経路別に分け,それぞれの経路について地上

の気圧配置や上空のトラフやリッジの発達度合いを見る

ために渦度を使用し,合成天気図を作成した。作成した

合成天気図から各ルート別における特徴を比較,研究を

行った。

Ⅱ.解析データと研究手法

(1)解析データ

1.1)解析領域・期間

解析範囲は10S~80N,60E~160Wとした。対象高度

Ⅰ.はじめに

南岸低気圧は,秋から春にかけて前線を伴う温帯低気

圧が本州の南海上を北東進し,広い範囲に降雨や降雪を

もたらす低気圧である (荒木,2016)。南岸低気圧による

関東地方の降雪現象も多くの研究者によってさまざまな

視点で研究されている。例えば,西太平洋でブロッキン

グ現象が発生すると,日本付近のストームトラックが北

東にずれ,関東地方では降水量が増加傾向にあること

(Yamazaki at al., 2015) が指摘されている。また,東京

の降雪量の年々変動はユーラシア大陸を横断する波列パ

ターンであるEUパターンと関連があり,EUパターン

の形成メカニズムやその長期変動の仕組みを理解するこ

とが東京の雪の長期予測を可能にするために必要である

(Tachibana at al., 2007)。さらには,Cold-Air Damming

(荒木,2015) と呼ばれる関東地方の山沿いの寒気が南に

流れこむことで関東地方の気温を低下させ,降雪に寄与

花戸 佑輔*・山川 修治**

We examined south-coast cyclones which brought a heavy snowfall in and around Tokyo.Extratropical cyclones were classified into three patterns. First, a Hachijyojima-Torishima pattern is characteristic of zonal circulation with a pan bot-tom-shaped trough called “Nabezoko-type” at 500hPa. Therefore, a cold air mass flew continuously into Japan from the Arctic. Second, a Miyakejima-Hachijyojima pattern has an intensified trough of the East China Sea at 500hPa with an extension of a ridge in the Bering Sea, which led to the development of south-coast cyclones. Third, a track pattern along the coastline changed northwards after passing 140°E. As a result, the developed low pressure came close toward the Pacific side of northern Japan and resulted in severe snow storms.

Keywords : snowfall, south-coast cyclone, vorticity, cyclogenesis, blocking effect, zonal pattern

東京に大雪をもたらした南岸低気圧と周辺の

渦度に関する総観気候学的解析

Synoptic Climatological Features of South-coast Cyclones Bringing a Heavy Snowfall in Tokyoand Its Relationship with Vorticity around Japan

Yusuke HANATO* and Shuji YAMAKAWA**

(Accepted November 30, 2017)

日本大学文理学部自然科学研究所研究紀要

No.53 (2018) pp.177-188

161

* Graduate school of Integrated Basic Sciences, Nihon University: 3-25-40 Sakurajosui Setagaya-ku, Tokyo,156-8550 Japan

** Department of Earth and Environmental Sciences, College of Humanities and Sciences, Nihon University: 3-25-40 Sakurajosui, Setagaya-ku, Tokyo 156-8550, Japan

* 日本大学大学院総合基礎科学研究科: 〒156-8550 東京都世田谷区桜上水3-25-40 ** 日本大学文理学部地球科学科: 〒156-8550 東京都世田谷区桜上水3-25-40

花戸 佑輔・山川 修治

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はSLP (海面更正気圧) と500hPaである。中央アジアも

範囲に含めたのは西や北からの寒気や寒冷渦を早めにと

らえるために含めた。

なお,対象とする期間は1981~2016年の冬季 (前年12

月~当年 3月) である。

1.2)データ

解析に使用したデータはNCEP/NCAR再解析データ

(2.5°×2.5°,6時間ごと) のSLP (海面更正気圧),高度,

風向・風速を用いた。また,ルートを調べるために気象

庁気象官署の東京の降雪量データと気象庁のアジア太平

洋地上天気図 (ASAS) を使用した。

(2)研究方法

2.1)東京の降雪日の定義

東京の大雪を抽出するために気象庁気象官署の東京に

ついて,日降雪量が 5cm以上を大雪日とした。なお,2

日間雪が降り続けて 5cm以上になった場合は,降り始

めた日を大雪日とした。

2.2)経路の分類

南岸低気圧の経路別特徴を調べるために,事例ごとに

経路図を作成した。南岸低気圧の位置は,気象庁のアジ

ア太平洋地上天気図 (ASAS) を使用し,降雪日の前後 2

日間の低気圧の位置をプロットした。なお,140E通過

前と通過後のいずれか前線を伴っていない事例に関して

は除外した。

経路は以下の 3つに分類した (図 1)。

①八丈島・鳥島ルート (140E通過時に30N~33N)

②三宅島・八丈島ルート (140E通過時に33N~34N)

③接岸ルート (140E通過時に34N以北)

2.3)コンポジット解析

前項の各ルートに対して,コンポジット解析をSLPと

500hPaについて行った。時間に関しては南岸低気圧が

140Eに最も接近した時刻を基準として,48時間前~24

時間後までの6時間ごとに作成した。これにより各ルー

ト別の南岸低気圧の挙動と寒冷渦やトラフなどの変化を

詳しく調べることができる。今回は紙面の都合上,12

時間ごとと18時間前について図を示す。

Ⅲ.結果

(1)八丈島・鳥島 (H-T) ルート

1.1)概要

H-Tルートは全部で 8事例が該当 (図 2) し,2013年 1

月14日の事例が最近の事例であり,東京では 8cmの降

雪を観測した。このルートに分類された低気圧の経路を

みると,どれも東シナ海の中部から南部で発生し,本州

の南の海上を東北東に進み、140E通過後も東北東に進

んでいる。

倉嶋・青木 (1976) によると,南岸低気圧が八丈島と

鳥島の間を通ると雪になりやすく,八丈島の北を通ると

雨になると指摘されている。従前から知られている東京

に降雪をもたらすルートがこのH-Tルートである。

1.2)海面更正気圧

48時間前 (図3-a) のアリューシャン低気圧の中心はオ

ホーツク海とアリューシャンの南の 2か所にあるが,36

時間前 (図3-b) からは合体してアリューシャン近海で発

達し,周辺の等圧線の間隔が混んでいる。特に東北地方

から北海道にかけての等圧線の間隔が非常に狭いので,

冬型が強くなっており,日本海側を中心に大雪になっ

た。南岸低気圧が150Eを通過後にアリューシャン低気

圧に吸収され,平年よりも南の三陸東方沖に位置する。

シベリア高気圧から伸びるリッジに着目すると,48

時間前から24時間後 (図3-c) にかけて北極海へ伸びて

いることがわかる。このことからシベリア高気圧が強い

状態であることが推測され,36時間前と12時間前 (図

3-e) に北極海に閉じた高気圧として東シベリア高気圧

(本来のボーフォート高気圧が東にシフトしたもの) が

図 1 分類した 3つのルート 図 2 八丈島・鳥島ルートの全事例経路図

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東京に大雪をもたらした南岸低気圧と周辺の渦度に関する総観気候学的解析

163

図 3 八丈島・鳥島ルートにおける海面更正気圧の時系列変動

南岸低気圧が140Eに最接近する時刻を基準として,(a) は48時間前,(b) は36時間前,(c) は24時間前,(d) は18時間前,(e) は12時間前,(f) は最接近時,(g) は12時間後,(h) は24時間後である。等値線は海面更正気圧 [hPa] を表し,2hPaごとに細線,10hPaごとに太線で描いた。

花戸 佑輔・山川 修治

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また,3月に降雪量 5cm以上を記録したすべての事例

が三宅島・八丈島ルートに該当することは特筆される。

2.2)海面更正気圧

48時間前 (図6-a) から36時間前 (図6-b) にかけてア

リューシャン低気圧は平年より東に位置している。18

時間前 (図6-d) から24時間後 (図6-h) にかけては平年

より南に位置し,徐々に発達している様子を解析するこ

とができた。

シベリア高気圧から北極海に向かって北東に伸びる

リッジと日本列島に向かって南東に伸びるリッジがあ

る。北極海に伸びるリッジによって東シベリアに等圧線

が閉じた高気圧として現れている。日本列島に伸びる

リッジは48時間前から12時間前 (図6-e) にかけて存在

し,関東地方の低温化に寄与していたと考えられる。

リッジが日本列島に存在した時間は 3つのルートで最も

長く,関東地方の下層の低温効果が最も高かったと考え

られる。

日本付近の気圧配置の変化に着目すると,48時間前

では北日本を中心に西高東低の冬型の気圧配置となって

いるが,関東地方から西ではシベリア高気圧から伸びる

リッジやシベリア高気圧から分離した移動性高気圧に覆

われている状態であった。24時間前 (図6-c) では東シナ

海付近で等圧線が北に凸の分布が特徴的で,数時間後に

南岸低気圧が発生する状況である。18時間前に等圧線

が閉じて九州の南で南岸低気圧として現れ,東北東に進

む。中心気圧は 3つのルートの中で中間であり,140E

通過後は先行するリッジによって北東に進路をとってい

る。

2.3)500hPa渦度分布

M-HルートにおいてもH-Tルートと同様に沿海州付

近に寒冷渦がある。しかし,M-Hルートでは48時間前

(図7-a) から18時間前 (図7-d) にかけて東に移動し,12

時間前 (図7-e) にはカムチャツカ半島付近で消滅してい

る。正渦度が弱まっていることからも寒冷渦の衰弱を読

み取ることができる。

ベーリング海から東シベリアにかけてはブロッキング

高気圧と強い負渦度の領域があり,48時間前から南岸

低気圧最接近時まで現れていた。それ以降は正渦度が弱

まっている。

華南付近では,48時間前から24時間前にかけて周辺

よりもわずかに正渦度が強い領域があり,これはサイク

ロジェネシスであると考えられる。西から近づくトラフ

に対応する正渦度域が合流することでトラフを強め,南

岸低気圧の発生に寄与していると推測される。南岸低気

圧に対応するトラフの正渦度は 3つのルートの中で中間

出現している。日本付近では,南岸低気圧に先行する

リッジが36時間前から出現し,関東地方の下層大気の

低温化に寄与していたと考えられる。

日本付近の気圧配置の変化は,48時間前から36時間

前にかけて冬型の気圧配置が卓越していたが,南岸低気

圧の接近に伴い西から徐々に緩み始め,12時間前から九

州の南海上に等圧線の閉じた南岸低気圧が出現する。南

岸低気圧が日本の南海上を東北東に進んで三陸沖に抜け

た後は再び冬型の気圧配置に移行する。

1.3)500hPa渦度分布

48時間前 (図4-a) から南岸低気圧最接近時 (図4-f) ま

で沿海州に寒冷渦があり,寒冷渦の南西側から南側にか

けて正渦度が強くなっている状況が解析された。

ベーリング海のリッジは48時間前から24時間後 (図

4-h) までリッジが大きく発達し,それに対応して負渦

度が強い状態が維持されている。前項の東シベリア海の

発達に寄与した可能性がある。

華南付近では48時間前から36時間前 (図4-b) にかけ

て周辺より強い正渦度となっているが,これはチベッ

ト・ヒマラヤ山塊による風の分流によって形成されたサ

イクロジェネシスである可能性がある。サイクロジェネ

シスは低気圧の発生や発達を促進する収束域のことであ

る。12時間前 (図4-e) になると,西から移動してきたト

ラフと合流し,南岸低気圧を形成している。しかし,南

岸低気圧に対応するトラフが鍋底型で,長期間日本付近

に寒気が流れやすい状態だが,南岸低気圧はあまり発達

していなかった。

南岸低気圧に先行するリッジに対応する負渦度の領域

がみられたが,ベーリング海ほど強くなかったため,ブ

ロックされずに南岸低気圧が140E通過後に東北東の進

路をとったと考えられる。

(2)三宅島・八丈島(M-H)ルート

2.1)概要

M-Hルートは全部で10事例が該当 (図 5) し,2014年

の2月8日の事例が最近の事例であり,東京都大手町の

積雪は27cmと45年ぶりに積雪25cm以上で,記録的な

大雪に見舞われた。東京だけでなく,中国・四国地方か

ら東北地方の各地で記録的な大雪を観測し,鉄道や飛行

機といった各交通機関に大きな影響を与えた。

このルートに分類された経路図からは,発生場所にば

らつきが大きく,西日本の太平洋側で発生している低気

圧があることがわかる。発生後は東北東もしくは北東に

移動し,140E通過後はH-Tルートと比較すると,北寄

りに進路をとっている。

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東京に大雪をもたらした南岸低気圧と周辺の渦度に関する総観気候学的解析

165

図 4 八丈島・鳥島ルートにおける500hPa高度・渦度図南岸低気圧が140Eに最接近する時刻を基準として,(a) は48時間前,(b) は36時間前,(c) は24時間前,(d) は18時間前,(e) は12時間前,(f) は最接近時,(g) は12時間後,(h) は24時間後である。等値線は高度 [m] を表し,60mごとに描いた。シェードは渦度 [×10-6/s] を表す。寒色系は負渦度,暖色系は正渦度を表す。

花戸 佑輔・山川 修治

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極寒気団を関東地方に流入させ,関東地方の低温化に寄

与している。南東方向のリッジは,シベリアからの寒気

の流入の原因であると考えられ,これも東京の大雪の要

因の一つである。

日本付近の気圧配置に着目すると,48時間前から36

時間前 (図9-b) にかけて西高東低の気圧配置が卓越して

いた。24時間前 (図9-c) からシベリア高気圧から伸びる

リッジが関東地方まで東に移動し,台湾や東シナ海付近

では等圧線が北に凸の形状をしており,南岸低気圧直前

の状況が解析された。18時間前に九州の南海上で等圧

線が閉じ,東北東に移動する。中心示度は3つのルート

の中で最も低い。140E通過後は北北東に移動し,24時

間後 (図9-h) には北海道の東海上に発達しながら移動し

た。北海道や東北地方で暴風雪をもたらしている。関東

地方から西では西高東低の冬型が再び強まっている。

3.3) 500hPa渦度分布

48時間前 (図10-a) では,サハリンの北西部に寒冷渦

があり,中心部では正渦度が強くなかったが,南南西~

南西側で正渦度が強い領域がみられた。寒冷渦は西から

移動してくるトラフによって東に移動した。

ラプテフ海から東シベリア,ベーリング海にかけて負

渦度が強く,24時間前 (図10-c) にはベーリング海での

リッジの強化が明瞭に認められた。最接近時にはカム

チャツカ半島にブロッキング高気圧,ベーリング海に寒

冷渦として現れており,ブロッキング現象が発生してい

たとされる。そのため,日本付近からベーリング海にか

けてのジェット気流も大きく蛇行した。

華南付近では48時間前に明瞭な正渦度がみられ,サ

イクロジェネシスの出現が確認された。24時間前に西か

ら移動してきたトラフと正渦度が合流する過程を解析す

ることができた。正渦度を強めながら東に移動し,低気

圧の発生・発達に寄与した。トラフの形としてはV字型

であり,地上の低気圧が発達しやすい形状であった。ま

た,正渦度域が 3つのルートの中で最も広域で,南岸低

気圧が最発達した要因の一つであると考えられる。南岸

低気圧が通過した後は,トラフの形がU字型に変化し,

日本付近に寒気が流入しやすくなったと推測される。

南岸低気圧に先行するリッジは,48時間前に九州付近

にあり,12時間前 (図10-e) にかけて東に移動し,三陸

沖に抜けている。移動速度に注目すると,東進スピード

が時間経過とともに遅くなっていることがわかる。これ

は,ベーリング海付近のブロッキング現象の影響である。

三陸沖付近に停滞することで南岸低気圧の進路を北寄り

に変化 させ,北海道に接近するルートをとっている。

の強さであり,形状はU字型のトラフといえる。

南岸低気圧に先行するリッジは,等高度線の分布と負

渦度域の強さからM-Tルートより強く,南岸低気圧の

ルートを北寄りにシフトさせたと考えられる。

(3)接岸ルート

3.1)概要

接岸ルートは全部で 7事例が該当 (図 8) し,2017年

1月18日の事例が最近の事例であり,気象庁の日々の天

気図によれば,山梨県河口湖で40cm,長野県松本で

33cmの最深積雪を観測し,東京都大手町で 6cmの降雪

を観測した。翌19日には北海道の南東海上に進み発達

したため,北海道と東北地方では大雪,日本海側では非

常に強い風が吹いた。20日には冬型が強まり,愛知県

名古屋市でも 9cmの積雪を記録し,影響が数日間にわ

たって及ぼした事例である。また,2014年の関東地方

で大雪をもたらした事例のうち,2月15日の事例も接岸

ルートであった。

このルートの経路図を見ると,発生場所としては,東

シナ海の南部が多く,関東地方に近づくとともに三宅島

に接近して北東進していることが多い。140E通過後は

北海道に比較的接近するコースをたどる傾向のあること

が判明した。

3.2)海面更正気圧(SLP)

アリューシャン低気圧は48時間前 (図9-a) から18時

間前 (図9-d) にかけて平年より西にあり,中心示度は3

つのルートの中で最も低かった。12時間前以降は東に

移動した。

シベリア高気圧は1030hPaの等圧線に注目すると,3

つのルートの中で最も面積が大きく,勢力が最強だった

ことがわかる。シベリア高気圧の中心から北東方向と南

東方向,南西方向にリッジが伸びている。北東方向に伸

びるリッジは東シベリア高気圧の形成の要因であり,北

図 5 三宅島・八丈島ルートの全事例経路図

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東京に大雪をもたらした南岸低気圧と周辺の渦度に関する総観気候学的解析

167

図 6 三宅島・八丈島ルートにおける海面更正気圧の時系列変動

南岸低気圧が140Eに最接近する時刻を基準として,(a) は48時間前,(b) は36時間前,(c) は24時間前,(d) は18時間前,(e) は12時間前,(f) は最接近時,(g) は12時間後,(h) は24時間後である。等値線は海面更正気圧 [hPa] で,2hPaごとに細線,10hPaごとに太線で描いた。

花戸 佑輔・山川 修治

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図 7 三宅島・八丈島ルートにおける500hPa高度・渦度図南岸低気圧が140Eに最接近する時刻を基準として,(a) は48時間前,(b) は36時間前,(c) は24時間前,(d) は18時間前,(e) は12時間前,(f) は最接近時,(g) は12時間後,(h) は24時間後である。等値線は高度 [m] を表し,60mごとに描いた。シェードは渦度 [×10-6/s] を表す。寒色系は負渦度,暖色系は正渦度を表す。

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東京に大雪をもたらした南岸低気圧と周辺の渦度に関する総観気候学的解析

169

置の強さが決定され,最接近時の中心示度が最も低い接

岸ルートでは冬型の気圧配置が最も強く,日本海側を中

心に大雪となる可能性がある。接岸ルートに分類されて

いる2016年1月18日の事例では,図11-aの南岸低気圧

の最接近時では東シナ海付近で冬型が強まりはじめ,図

11-cの24時間後で西日本を中心に等圧線の間隔が密に

なっており,冬型の強化を確認することができた。この

事例では24時間後に日本海にポーラーローが発生した

ことは,寒波が到来し,冬型が強まっている証拠の一つ

であるといえる。

今後の課題として,サイクロジェネシスの発生しやす

い環境場を解析していくことが 1つとしてあげられる。

今回の解析では,サイクロジェネシスが南岸低気圧の発

生に寄与していることは判明したが,そのメカニズムの

解明は不十分のままにとどまっており,南岸低気圧の進

路を予想する上で重要事項であるため,さらなる詳細な

解析を進めたい。また,南岸低気圧の発生と発達には

SSTとの関連性が強いと考えられるので,これについて

も詳細に解析を行いたい。

今回の解析では総観規模のスケールに限って解析を

行ったが,東京の大雪ははじめに述べたようにメソス

ケールの現象も重要である。各ルートにおけるメソ高気

圧(鈴木ほか,2014)の動向を解析していくことで関東

地方の下層大気の低温化の解明につながることが挙げら

れる。

謝辞

本論文の作成にあたり,GrADSの使い方やプログラムの作成の指導をしていただいた秋田県立大学の井上誠准教授と

株式会社ライフビジネスウェザーの小櫃美月氏には大変お世

話になりました。また,ゼミを通じて多くの知識やアドバイ

スをいただいた研究員の丸本美紀氏に心より感謝を申し上げ

ます。

また,本論文を作成するにあたりましてNCEP/NCAR再解析データを使用いたしました。このデータによって多くの

発見ができたことを感謝いたします。なお,本稿は第一著者

の2016年度・地球システム科学科・卒業論文に加筆・修正を施して作成されたものである。

Ⅳ.まとめと考察

南岸低気圧の発生前の日本付近の気圧配置はどのルー

トにおいても西高東低の冬型の気圧配置となっており,

いずれも冬型の気圧配置が西から緩むことによって,東

シナ海低気圧ないし南岸低気圧が発生し,日本の南岸を

東北東に移動して,東京に大雪をもたらしている。南岸

低気圧が関東地方に近いルートをとるほど南岸低気圧に

対応する500hPaのトラフが深まり,日本列島から離れ

るにしたがって,形状がV字型→U字型→鍋底型とパ

ターンを変え,日本列島に近いルートを通るほど南岸低

気圧が発達する傾向となる。

華南付近に発生する正渦度域であるサイクロジェネシ

スは南岸低気圧の発生・発達のきっかけを及ぼす効果を

担っていた。しかし,ルートごとの違いについてはあま

り明瞭ではなかった。

また,東シベリアからベーリング海にかけてのリッジ

の発達度も重要とされ,大きく発達してブロッキング現

象が発生すると,南岸低気圧に先行するリッジの東進速

度が低下する結果,接岸ルートを通る南岸低気圧は

140E通過後に北北東に移動して北海道や東北地方を中

心に大雪・暴風雪・高波等大荒れの天気になり,警戒が

必要である。

各ルートによって,南岸低気圧通過後の冬型の気圧配

図 8 接岸ルートの全事例経路図

花戸 佑輔・山川 修治

─ ─186( )170

図 9 接岸ルートにおける海面更正気圧の時系列変動

南岸低気圧が140Eに最接近する時刻を基準として,(a) は48時間前,(b) は36時間前,(c) は24時間前,(d) は18時間前,(e) は12時間前,(f) は最接近時,(g) は12時間後,(h) は24時間後である。等値線は海面更正気圧 [hPa] で,2hPaごとに細線,10hPaごとに太線で描いた。

─ ─187 ( )

東京に大雪をもたらした南岸低気圧と周辺の渦度に関する総観気候学的解析

171

図10 接岸ルートにおける500hPa高度・渦度図南岸低気圧が140Eに最接近する時刻を基準として,(a) は48時間前,(b) は36時間前,(c) は24時間前,(d) は18時間前,(e) は12時間前,(f) は最接近時,(g) は12時間後,(h) は24時間後である。等値線は高度 [m] を表し,60mごとに描いた。シェードは渦度 [×10-6/s] を表す。寒色系は負渦度,暖色系は正渦度を表す。

花戸 佑輔・山川 修治

─ ─188( )172

図11 接岸ルートにおける500hPa高度・渦度図南岸低気圧が140Eに最接近する時刻を基準として,(a)は最接近時,(b)は12時間後,(c)は24時間後である。等値線は海面更正気圧 [hPa]で,2hPaごとに細線,10hPaごとに太線で描いた。

引用文献

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