主訴:発熱、腹部膨満 -...
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49歳男性 主訴:発熱、腹部膨満 既往歴:統合失調症、輸血歴なし 内服薬:炭酸リチウム(200)4T/3 リスペリドン9mg/4 オランザピン 20mg/2 ニトラゼパム 10mg/眠前 家族歴:特記事項なし。 生活歴:喫煙および飲酒歴なし。 現病歴: 明らかな内科疾患や外科的疾患での治療歴はなく、半年ごとの検診でも異常 は指摘されていなかった。約1ヶ月前から腹満が生じるようになっていた。 入院前日から37度台の微熱が出現。軽度の腹部膨満感を訴えるも全身状態 は良好で食欲もあった。同日深夜から39度台の発熱認めたため受診。 入院時現症: 血圧120/50mmHg, 脈拍88回/分, 呼吸数19回/分, 体温37.8℃, SpO2 96%(酸素3L) 全身状態:やや苦痛様 意識:E4V5M6 頭頚部:眼球結膜に黄染あり, 貧血なし, 頚部表在リンパ節は触知しない 呼吸音:清・左右差なし 心音:整・雑音なし 腹部:膨満・波動あり, 打診上で肝・脾腫を疑う 神経学的所見:特記事項なし 四肢:両下腿前面に圧痕浮腫あり 皮膚:クモ状血管腫無し, ばち状指なし
入院時検査所見 血算
WBC 1800/µl(Seg83.0,Lym16.0,Mono1.0) RBC 288万/µl Hb 9.6g/dl MCV 92fl
Plt 5.0万/µl
生化学
Na 136 mEq/l K 3.5 mEq/l Cl 111 mEq/l Ca 7.6 mg/dl BUN 7 mg/dl Cr 0.7 mg/dl TP 5.1 g/dl Alb 2.7 g/dl
GOT 44 IU/l GPT 29 IU/l LDH 221 IU/l ALP 1167 IU/l γ-GTP 616 IU/l T-Bil 5.7 mg/dl D-Bil 4.5 mg/dl
Glc 98 mg/dl CRP 3.5 mg/dl
凝固 PT(INR) 2.22 APTT 45.0秒
血清 HCVAb(-) HBsAg(-) HBsAb(-)。
尿検査
比重1.006 pH 7.0 糖(-) 蛋白(-) 潜血(-) ビリルビン(-) ケトン体(-) ウロビリノーゲン(+)
腹水 細胞数150/µl アルブミン1.2g/dl 糖144mg/dl LDH 84IU/l
胆嚢周囲の浮腫像 門脈周囲
の低濃度領域
腹水が存在 大動脈周囲のリンパ節腫大なし
肝脾腫あり 急性肝炎を疑う画像
追加検査所見
ウイルス
IgM anti-HAV(-) IgM anti-HBc(-) HBeAg(-) HBsAg(-) HBV-DNA(-)
anti-HCV Ab(-) HCV-RNA(-) VCA-IgM(-) VCA-IgG(+) EA-IgG(-) EBNA-IgG(+)
CMV-IgM(-) CMV-IgG(+)
自己抗体 ANA(-) 抗ミトコンドリア抗体M2(-) 抗LKM-1抗体(-)
ALP アイソザイム
ALP1 24%, ALP2 69%, ALP3 7% (肝胆道系由来を示唆する)
腹水細胞診 Class IIIの異型細胞。悪性リンパ腫疑いであるが、 顆粒を含む異型細胞もあり骨髄性の血液疾患も除外
骨髄液 Dry tap
骨髄生検
表面マーカー:CD56+,CD3-,CD20- →「NK細胞白血病 /リンパ腫」を示唆
38.9 38.3
36.1
39.8
8.3
18.1
4
7.7
12.7
1125
1392
972
1501 1577
400
600
800
1000
1200
1400
1600
1800
2000
3
6
9
12
15
18
21
24
27
30
33
36
39
42
1 3 5 7 9 11 13 15 17 19 21 23 25 27 29 31 32
体温
T.bil
ALP
死亡 入院 ABx
mPSL 1g/day PSL 50mg → 20mg/day
肝細胞
腫瘍細胞
HE染色
肝:著明に腫大 2155g(正常は約400g)
その他の症例 主訴 ALP 診断方法 診断
67y.o M
発熱 咳
2030 IU/l (①9% ②86% ③5%)
肝生検 Hodgkin病
49y.o M
発熱 体重減少
1021 IU/l 骨髄生検 Hodgkin病
77y.o F
発熱 529 IU/l 肝生検 悪性組織球症
肝内胆汁うっ滞の原因
~肝内胆管の疾患~ ~薬剤とホルモン~ 原発性胆汁性肝硬変 原発性硬化性胆管炎 対宿主性移植片病
リンパ腫 サルコイドーシス
ヒスチオサイトーシスX
甲状腺機能亢進
妊娠性
高カロリー輸液
~肝炎~ ~肝浸潤 / 沈着症~ ウイルス性肝炎 (A型、B型、C型、 EBV、CMVなど)
自己免疫性肝炎
アルコール性肝炎
リンパ腫 特発性好酸球増多症 全身性肥満細胞症 アミロイドーシス
Wilson病 ヘモクロマトーシス プロトポルフィリン症
~全身感染症~ ~特発性~ T.Perez Fernandez, et al. Diagnos4c and therapeu4c approach to cholesta4c liver disease,
REV ESP ENFERM DIG 2004,96,60-‐73
“胆汁うっ滞型肝障害/ALP上昇” の
鑑別アルゴリズム
結語
• 鑑別から診断に至るためには、患者の最も目 立つ病変部位の精査を行う方針を早めに立て ることが診断への近道である。 • 黄疸や胆汁うっ滞型の肝障害を来す原因疾患 は多彩であり、いわゆるウイルス性肝炎・ア ルコール性肝疾患、肝外胆管の疾患のみに目 を奪われない事も必要である。
aggressive NK cell leukemia • 一般的にまれ • 白人よりアジア人に多い • 患者の平均年齢が36歳と若い。 • EBウイルスと関連も示唆されており、典型的な病態として、重症で発熱を伴っている場合が多く、肝脾腫やリンパ節腫脹、白血病のような血液象、時には血球貪食症候群、凝固異常や出血傾向、多臓器不全をきたすことがある。
• 診断は、高熱、肝機能異常、貧血、血小板減少に加えて、末梢血、骨髄や肝臓・脾臓において活性化成熟NK細胞由来の細胞(sCD3-, CD16-/+, CD56+,CD57-)の検出から、総合的に判断される。
• 予後は極めて悪く、平均生存期間2ヶ月という急性の経過をたどる。化学療法への反応性は悪く、骨髄移植の有効性は証明されていない。
Michael M.C. et al.Natural Killer Cell Neoplasms:A Dis7nc7ve Group of highly Aggressive Lymphomas/Leukemias, Seminars in Hematology,40, 2003,221-‐232
Anna K, et al. Aggressive Natural Killer-‐cell Leukemia:Report of Five Cases and Review of the Literature, Leukemia and Lymphoma, 2004, 45, 2427-‐2438
Oshimi K, et al. NK-‐cell neoplasms in Japan.Hematology. 2005,10, 237-‐45.
経過
追加検査の結果からは、血液疾患を原因とする病態が最も考えられた。そのため、血液疾患の診断を行い、治療へ結びつけるためには肝生検と骨髄生検を行う必要があった。腹水が大量に見られる事から、直接の経皮的肝生検は困難であり、経頚静脈的肝生検も考慮した。しかし、元々の精神疾患や今回の疾病により精神状態が非常に不安定であったため、安静が守れない事から見送らざるを得なかった。
このため、骨髄穿刺と骨髄生検のみ施行する事になった。骨髄液検査はドライタップであり、骨髄生検の結果ではNK細胞白血病 / リンパ腫(表面マーカーCD56+,CD3-‐,CD20-‐)を示唆していた。臨床像と画像検査など総合的に考えaggressive NK cell leukemiaと診断した。骨髄病理検査には明らかな血液貪食像は見られなかったが、病歴と検査所見からは腫瘍関連血球貪食症候群は合併している可能性は高いと判断した2)。この間にも、病状は悪化し、肝不全の出現と汎血球減少が進んだため、対症療法をしつつ、ステロイドパルスを施行した。これにより、一時的に病状は改善したが、すぐにこれまでと同様な症状の再発と増悪が見られた。血液内科と合同で診察・治療を行ったが、有効な化学療法がない事やコントロール不良の統合失調症もあったため、入院33日目に患者は全身状態悪化に伴う多臓器不全のため亡くなられた。
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