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生命科学部/応用植物科学科

教授 石川 成寿Seiju ISHIKAWA

研究室の学び

社会との接点

主な卒業研究テーマ

 植物の病気の約 80%は、「糸状菌」、いわゆる「カビ」が原因で起きます。本研究室では、植物病 ( 糸状菌による病気 )が発生している最前線で、活かせる病気の診断のノウハウを学べます。また、それら病気に対する拮抗微生物 ( 善玉菌 )などを用いた環境にやさしい防ぎ方などの研究ができます。さらに、基礎的な研究として、近郊にある緑豊かな植物園、公園などの植物に発生する病気の研究などもできます。

 諸君は、作物の病気による被害で、約8億人を一年間養える量が失われていることを知っていますか。また近い将来、人口増加に、食料生産が追いつけず、深刻な「食料難」になることが確実視されていることを知っていますか。「食糧難」は、餓えるだけでなく、それに伴う社会秩序の崩壊、動乱、紛争、戦争へとエスカレートする「引き金」になっています。  このような差し迫った状況の中、作物 ( 植物 ) を病気から守る研究者、技術者、いわゆる 「植物のお医者さん」 の養成が急がれ、注目されています。そこで、私たちの研究室では、植物の病気を防ぐために、被害の原因 ( 病因 ) を明らかにし、その診断結果を基に治療、再発を予防する 「処方箋」 をつくる研究を行っています。さらに、その処方箋は、持続可能な社会に貢献できる「環境に配慮した」ものにと、心がけています。総合診療研究室での学びを通して、「日本や世界の食料と緑」を守る「植物医師」を育てています。

◉薬用植物に発生する病気の研究◉国営武蔵丘陵森林公園に発生する植物病の変化の研究◉神代植物公園に発生するウドンコキンの研究◉外国から導入した樹木の病気の研究◉ニンジンに発生した新病の原因を突き止める研究◉ニンジンの新病に強い品種や防ぐ方法の研究◉植物を病原菌から守る拮抗菌 ( 善玉菌 ) の研究

イチゴ灰色かび病菌菌糸に寄生する拮抗糸状菌(善玉菌)の菌糸

植物医科学分野総合診療研究室

応用植物科学科

教授 大島 研郎Kenro OSHIMA

研究室の学び

社会との接点

主な卒業研究テーマ

 植物も、ヒトや動物と同じように病気にかかります。病原体がどのように植物に感染するのか?そのメカニズムを解明することは、病気の治療 ・ 予防につながる重要なテーマです。私の研究室では、病原微生物が植物に病気を引き起こす仕組みを分子レベルで解明することを研究テーマとしています。ゲノム解析などの最新技術を活用して感染メカニズムを解き明かし、植物を病気から守るための新たな分子基盤を構築することを目指しています。

 当研究室で研究対象の一つとしている微生物「ファイトプラズマ」は、植物の篩部(しぶ)細胞内に寄生する病原体です。ヨーロッパで年間数億ユーロにのぼる被害を出すなど、世界中で多くの農作物に被害を与えており、この病気の蔓延を防ぐことが近年の重要な課題となっています。感染した植物は萎縮したり、枝分かれが激しくなるなどの症状を示すほか、花が葉に変化するなど、特徴的な病徴を示します。 一方で、この病気が商業的に利用されている例もあります。ポインセチアは、クリスマスシーズンになると欠かせない観賞植物ですが、最近好まれる枝分れが豊富で小さなタイプは、実はファイトプラズマが感染し、矮性化しているものなのです。ファイトプラズマが病気を引き起こすメカニズムを明らかにすることで、植物の形をあやつる新技術の開発に結び付くようなことも今後考えられます。

◉植物に病気を誘導する原因遺伝子の同定◉宿主特異性に関わるゲノム領域の探索◉植物の形態形成を操作する分子メカニズムの解析◉人工培養が困難な微生物のゲノム解読◉病原体を効率よく検出する新規診断システムの開発◉植物を病気に強くする新規物質のスクリーニング

図1. ファイトプラズマ感染によって花が葉に変化したアジサイ(右)

図2. (左)ファイトプラズマ非感染ポインセチア (右)ファイトプラズマ感染ポインセチア

植物ゲノム医科学分野植物ゲノム医科学研究室

応用植物科学科

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生命科学部/応用植物科学科

専任講師 鍵和田 聡Satoshi KAGIWADA

研究室の学び

社会との接点

主な卒業研究テーマ

 植物の病気を防ぐためには、まずその個々の病気の発生の生態や生理を理解する必要がありますが、植物病の中にはその病原すら未解明のものも少なくありません。本研究室では、そうした様々な植物病、特にウイルス病害を中心にその病原を解析するとともに、発生生態や発病メカニズムの解析を行っています。そして、これらの解析をもとにして、植物病のより簡便で精度の高い診断法の開発に取り組んでいます。

 植物の病気の中には病原が未解明のものも少なくありませんが、その原因の一つには流通のグローバル化や地球温暖化の影響で海外から病原が国内に侵入して、新たな植物病が発生することが考えられます。 こうした未解明の病気の原因や生理生態を解明することは、我々の生活に無くてはならない植物の健康を守るために最も重要な植物医科学の使命であると言えます。例えば、近年日本に感染を拡大している植物ウイルスにトスポウイルスというものがありますが、そのゲノムを解析することで、海外のどのグループのウイルスと近縁かが分かりますし、同時に遺伝子診断に役立つデータの蓄積になり、より精度の高い診断法の開発に結びつけることができます。 こうした研究により、植物の健康を守ることに貢献していきたいと考えています。

◉日本に発生するトスポウイルスのゲノム解析◉トマト黄化えそウイルスの感染確認技術の開発◉ハイビスカスに感染するウイルスのゲノム解析◉ジンチョウゲのメリクロン技術によるウイルスフリー化◉微小ビーズを用いた迅速ウイルス診断法の開発◉リアルタイム PCR を用いたウイルスの検出と定量◉キュウリうどんこ病菌の分子分類

図1. 光学顕微鏡による診断

図2. PCRによるウイルスの診断

植物医科学分野植物病生理生態学研究室

応用植物科学科

教授 上遠野 冨士夫Fujio KADONO

研究室の学び

社会との接点

主な卒業研究テーマ

 植物は、農作物として私たちに食料を提供するだけでなく、花や緑化植物として私たちに心の安らぎを与えてくれます。私たちの研究室では、このような植物を加害する昆虫やダニを研究材料として、その生態を解明するとともに防除につながる技術開発のための研究を行っています。当研究室では、学生は卒論研究を通して動物の生態や防除学を学ぶことができます。

 私たちの住む地球上には実に様々な昆虫やダニが生息しています。昆虫は全動物種の3/ 4ないし4/ 5を占め、この地球上でもっとも繁栄している生物といわれています。この中には、農作物や花、緑化植物を加害したり、植物の病気を媒介したりするものもいて、農業生産者や緑化管理業者を苦しめています。私たちの研究室では、昆虫や植物寄生性ダニ類の生態を解明するとともに防除法を開発し、社会に貢献するための研究をおこなっています。

◉農作物を加害する昆虫・ダニの生態と防除に関する研究◉都市緑化植物を加害する昆虫・ダニの生態と防除に関する研究◉室内空間(アトリウム)に植栽される植物を加害する昆虫・ダ

ニの生態と防除に関する研究◉害虫診断・同定技術の開発

植物医科学分野応用動物昆虫学研究室

応用植物科学科

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生命科学部/応用植物科学科

准教授 佐野 俊夫Toshio SANO

研究室の学び

社会との接点

主な卒業研究テーマ

 当研究室では、土壌中の無機栄養分が植物体内にどのように吸収され、利用されているのかを解析し、その結果を応用して食品機能面での有用作物の開発や、土壌中の有害物質の除去、適切な施肥量の設定による環境汚染の抑制を目指しています。当研究室で身に付けた、植物の栽培技術、成長量や化学成分の測定技術を生かして、卒業生は植物工場関連会社、園芸肥料会社、公園管理団体や食品企業等で働いています。

 植物は光合成により太陽エネルギーを獲得し、土壌からは無機栄養分を吸収、蓄積することで、われわれ人間に資源を提供する一次生産者としての役割を持ちます。 当研究室では土壌肥料成分や気温等の環境要因と植物成長との関係を解析し、植物中の有用成分を増やし、その商品価値を高める研究をしています。また、反対に、植物病の発生要因を減らし、収穫後の商品価値の低下を抑える研究もしています。 植物もわれわれ人間と同様に栄養の吸収が足りなくても多すぎてもその健全な成長が損なわれます。植物の栄養バランスを考えて植物を生かし、植物を作物として摂取するわれわれ人間の生活に活かします。

◉バジルの抗酸化物質蓄積量を増やす栽培条件の検討◉コンパニオンプランツによるトマト生育促進効果の検討◉トウガラシの辛味成分と胎座組織成長との相関◉亜鉛過剰条件における菌根菌共生のしくみと役割の解析◉植物の病害抵抗性を向上させるカリウム肥料条件の研究◉微量要素欠乏条件時の植物の耐病性解析

香りのよいバジルを育てるには?

タバコ葉片から植物個体を再生する

応用植物科学分野植物栄養医科学研究室

応用植物科学科

教授 長田 敏行Toshiyuki NAGATA

研究室の学び

社会との接点

主な卒業研究テーマ

 世界に広がっているモデル植物細胞系を確立させたものとしては、維持している細胞をあげて培養してもらうと、最低限どのような配慮が必要であることが習得できるので、このような経験をしてもらうこととしています。更に、植物体を使っては、それを用いるとどのような現象の解明にたどり着けるかについても学んでもらいます。いずれにせよ目標をはっきり認識することが重要であることを知ってもらいます。

 これまで行ってきた研究は、植物バイオテクノロジー分野の確立に貢献していますが、特に、細胞工学分野ではいくつかの企業とも共同研究を行ってきました。とりわけ、細胞壁を消化し、プロトプラスト調製のための酵素類の重要なものは企業化されて、製品となって世に出てから久しいです。 その経験では、基礎的なテーマであっても、十分に応用につながるものであり、必ずしも当初から応用を目指す必要はないと考えます。むしろ、原理の背景にある事象を洞察することが重要であることを認識しており、そのようなことが重要であることを理解してもらいます。このようなスタンスを持っていると社会の諸問題の攻略とその解決につながる糸口を得られると信じています。 なお、現代社会では持続性をいかに達成するかが重要であると声高に言われていますが、この点についてもこれまでの経験を踏まえて、食糧生産の重要性・生態系の保持の見地から考えることを行っています。

◉植物細胞には本来ウイルスの増殖を抑制するような機能があるが、それを実験的に確かめる

◉トウガラシの辛み成分の生成と蓄積の動態解明の試み◉絶滅危惧植物の現生地での保全の動態解明の試み◉アレロパシー物質の動態とその有効性の解析

植物生理学・植物分子生物学分野基礎植物医科学研究室

応用植物科学科

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生命科学部/応用植物科学科

教授 西尾  健Takeshi NISHIO

研究室の学び

社会との接点

主な卒業研究テーマ

 植物には人間のような免疫機能がありません。そのため、一度ウイルス病にかかると治療の方法がありません。植物のうち、果樹類、球根類やイモ類は、種子から育てるイネや野菜とは異なり、親植物の組織の一部が子植物になる栄養繁殖という方法を利用して苗を作ります。このため、一度ウイルスに感染すると、永遠にウイルス病に感染したままとなり、被害が拡大していきます。このような植物のウイルス病の被害を調べて予防する方法を研究しています。

 現在、東京都や兵庫県などのウメの栽培地で、プラムポックスウイルス(PPV)という、今まで日本にはなかったウイルスが発生したため、国は莫大な経費をかけて、感染したウメを全て伐採するという緊急的な防除対策を実施しています。PPV はヨーロッパやアメリカに発生し、アンズやモモなどの果樹産業に大きな被害を与えていたものが、日本に侵入したもので、日本ではこのウイルスの研究が全く行われていませんでした。そこで、私たちの研究室では、農林水産省のプロジェクト研究チームの一員として、PPVがどのようにして伝染していくのか、ウメ以外の果樹などに感染するのかどうか、ウメ園の中に生育している雑草や周辺で栽培されている農作物などに感染しないのかどうかなどの調査研究を続けています。その結果、① PPV はウメに寄生するアブラムシや周辺部の雑草に寄生する多くのアブラムシにより伝染すること、②果樹園の中や周辺に発生しているノボロギクというキク科の雑草に感染する可能性があること、③サクラにも感染する可能性があることなどを明らかにすることができました。今後、さらに研究を続けていく予定ですが、研究の成果は、PPV を日本から撲滅するための対策に活かされるものと期待されます。

◉ PPV 感染ウメ樹の症状発現に関する研究◉ PPV の自然伝搬に関する研究◉ウメ園に飛来するアブラムシに関する研究◉アブラムシの PPV 媒介能力に関する研究◉フリージアのウイルス病に関する研究◉ユリのウイルス病に関する研究◉クリスマスローズのウイルス病診断技術開発

植物医科学分野応用植物医科学研究室

応用植物科学科

教授 濱本  宏Hiroshi HAMAMOTO

研究室の学び

社会との接点

主な卒業研究テーマ

 私たちの研究室では、情報・通信テクノロジー (ICT) とバイオテクノロジーを利用して、植物病診断・同定の新技術、同定された病因の性質を解析する新技術を開発します。さらに、それぞれの病因が植物病を引き起こす機構を解明し、植物病に抵抗性の植物を作出するユニークな技術の開発に取り組みます。現在は、植物病原細菌とハーブ植物を主な材料として抵抗性の分子機構の研究と、画像解析技術を主とした ICT の応用研究に取り組んでいます。

 地球温暖化と物流のグローバル化で、新規植物病の発生や、既存の植物病の広域化が一層加速されることが予想されます。対処するには、植物病の迅速な診断・同定と、同定された原因

(病因)に応じた適切な防除が必要です。 また、長期的には植物病に抵抗力を持つ植物を作出するバイオテクノロジー技術の開発と、抵抗性植物の利用を含めた総合的な植物病防除の手法を確立することが求められます。研究室では、植物に病害抵抗性を付与する手法の開発を目指し、抵抗性に関与する植物の分子機構の解明とそれを応用するための技術開発に取り組んでいます。 また、植物病診断の迅速化、精確化のために、情報・通信テクノロジーを利用した病害抵抗性の評価や、画像解析技術を用いた病原の同定をサポートする技術開発に取り組んでいます。これらの研究を通じて、植物の健康を守り、社会に貢献することを目指します。

◉ハーブの葉面抗菌力の測定に関する研究◉植物病原細菌の接種による香気強度の変化に関する研究◉病原細菌接種による精油成分合成酵素遺伝子の発現解析◉画像解析を用いた病原の同定技術に関する研究◉トウカエデ首垂細菌病の発生消長と病原細菌の解析◉ウメ輪紋ウイルスコートタンパク質の修飾様式の解析

ハーブの葉面の走査型電子顕微鏡写真

植物医科学分野植物病抵抗性学研究室

応用植物科学科

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生命科学部/応用植物科学科

教授 渡部 靖夫Yasuo WATANABE

研究室の学び

社会との接点

主な卒業研究テーマ

 私の研究室では、食料と農業、これらと深く関わる環境の諸問題について、社会科学と自然科学の知識を融合的に活用して考えることを研究テーマとしています。具体的には、発展途上国の食料不足問題はなぜ起きるのか、地球温暖化による食料・農業への影響はどのように深刻なのか、遺伝子組換(GM)食品・農産物はなぜ社会一般に受け入れられないのか等々、身近なことから地球規模の大きな問題まで、幅広く調査分析に取り組んでいます。

 私の研究室は、応用植物科学関連の自然科学的な知識だけでなく、社会現象を解明する社会科学的な知識も融合して活用する独特の研究手法をとっています。 例えば、GM 食品・農産物を、どのようにすれば社会一般に受け入れてもらえるのか、世界の研究開発の現状はどうなっているのか、多国籍企業はどのように活動しているのか等を、科学技術的内容にまでしっかり踏み込んで調査分析し、日本での規制政策や企業の販売戦略を考えるのに役立ちます。 また、発展途上国の食料問題の研究では、私たちにとって身近なアジアの国々の食料・農業・環境分野で、どのような研究開発、新技術導入等の動きがあるのか、それらの影響や効果はどうか、それらの背景にあるものは何か等を探って、政府・関係機関が開発援助の方向を検討するのに役立ちます。 りっぱな自然科学研究の成果でも、実際に社会に受け入れられ、利用されなければ意味がありません。このような観点から、当研究室が取り組んでいる「文理融合的」アプローチは、今後食料・農業分野で起こり得る様々な問題の解決に役に立つと考えられます。

◉遺伝子組換食品・農産物の研究―国際的な生産・流通の現状、多国籍企業の経営戦略を併せて分析

◉都市農業の未来を探る研究―シンガポールの「アグロテクノロジーパーク」構想の調査

◉アジアのコメ貿易についての研究―大生産国タイの現状と課題を中心に分析

◉ウメ輪紋ウィルス被害の地域経済に与える影響

食料農業環境政策学分野食料農業環境政策学研究室

応用植物科学科

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