木材の生育過程と木材の性質 - pref.ehime.jp

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� 木材の生育過程と木材の性質

1 木材の性質

木材は自由に裁断して使える唯一の天然有機材料として,我が国では古くから親しまれ,他の

材料に比べて次のような特長をもっている。

(木材の長所)

・加工しやすい。

・重さの割合に強い。

・振動,熱,電気を伝えにくい。

・音響幅射能力が大きい。

・外観が美しく手ざわりが良い。

しかし,普通,木材には樹木の異常成長や伐採後材の取扱いが不適当な結果生じる次のような

欠点を有する場合が多い。

(木材の欠点)

・曲り-根元曲り,幹曲り(最高矢高/末口最小径×100で示す。)

・丸味-(曲り木,うらごけ木等の製材挽角に含まれた幹の外周部)

・節 -生節 死節 抜け節 陰節等で加工上の欠点のほか強度低下の原因となる。

・入皮 脂つぼ 脂節 アテ(重硬でもろい異常材)

・もめ 目廻 心割れ 雪割れ 干割れ

・腐れ(白腐れ 飛腐れ 根腐れ 根上り 溝腐れ)変色

・胴打ち 欠け 抜け 裂け トビ傷 環傷 斧傷

・虫食い 空洞 多心 偏心 奇形

2 林木の生育過程

山に植え付けられた苗木は,手入れを完全に行ない,その後放置した場合,苗木が生長するに

従っておよそ次のような生育過程をたどるものと考えられる。

〔第1段階〕 植付けから林分の閉鎖まで

植付け当初は,植栽木をとり囲む雑草,つる類,潅木等が競争の対象で下刈り,つる切り,

除伐によって植栽木相互間に直接的な干渉はない。

〔第2段階〕 林分閉鎖の段階

植栽木が成長するにしたがって,枝条がふれ合うようになり,この頃から林分の閉鎖がは

じまる。

-1-

〔第3段階〕 林分閉鎖から旺盛な樹高成長をおこなう時代

植栽木間の激しい競争が起り,陽光不足のために,枝は下枝から自然に枯死して枯れ上り,

枝下高は高くなる。一般の人工林ではこの頃,樹高成長がきわめて旺盛であるが,次第に

緩慢となり高齢になるにしたがって著るしく衰える。

〔第4段階〕 競争の時代

林分閉鎖後,植栽木は競争の状態にはいる。競争はまず林木間に優劣を生じ,劣勢木のあ

るものは被圧されてやがて枯死する。その過程は樹種,品種によって異り複雑であるが次

第に本数減少しながら次の段階に移る。

〔第5段階〕 十分な蓄積をもつ林分の状態

林分は蓄積を次第に増加して極限に達し,それ以上直径成長をするためには立木密度を減

らさなければならない状態に達する。

このように,植栽された苗木は自然条件で放置したとき,林分の閉鎖後に起きる生存競争によ

節,曲り,偏心,年輪巾の不ぞろい等各種の木材の欠点を生じる。

3 木材の欠点と良質材

そこで,これら木材の欠点をなくし積極的に木材の価値を高めるためには良質材として次の条

件を備えることが要求される。

(良質材の条件)

・材が通直であること。

・幹が完満であること。

・断面が正円に近いこと。

・節がないか,少なくて小さいこと。

・年輪巾が均一でしかも密であること。

・偏心でないこと。

・腐り,傷がないこと。

・材の色,光沢,香りがすぐれていること。

4 良質材とその生産技術

良質材を伐期によって区分し,生産目標,商品の条件,商品生産のための施業についてまとめ

た相原氏の資料を引用すると図-1のようになる。

-2-

図-1 優 良 材 生 産 に お け る 心 得 (久万町 相原氏)

このように,積極的な林業経営にとって生産目標にみあった商品(木材)を作るためには,林

地や苗木(品種)の選択から伐木・造材,販売にいたるそれ相応の取り組みが必要である。これ

らを総合し,地域の条件に適した育林技術体系の確立が各地で行われている。

以下,良質小径木生産を中心に枝打ち技術について考えてゆこう。

経営目標

高収益林業良質材生産林業

生産目標

大径木生産

小径木生産

生産する商品

良質無節の大 径 材

無 節 柱 材

磨 丸 太 材

商品の条件

心材の色が良いこと

通直,心円であること

無節の大径材であること

年輪巾が均一なこと

秋目がうすいこと

幹にねじれがないこと

気根のないこと

無節であること

通直であること

材色がよいこと

余りよく成長しないこと

目合いがよいこと

表面に巻込みあとのないこと通直完満であること心円であること表面のツヤがよいこと

商品生産のための施業品種改良心材色,ツヤの良い木適度に成長の良い木生長期間が長く通直心円に生育する木枝径が均一で枝張りがよく周囲均等な木

撫育適地に,ていねいに植栽すること形状比が余り高くならないようにすること(65~80)。下刈は木の生長をそこねないようにする適切な密度管理を行なうこと雪起し,つる切は必ず行なうこと枝打ちは30年位までに2間玉3本分13mを打ち上げる。(枝張りが均等になるように枯枝をつけないよう巻込が早くなるようにする)間伐は年輪巾を均等にするため回数を多くする。地力減退を起こすような施業はさけること。

伐採生育休止期に伐る。伐採後約6カ月はしぶ抜きをすること。市場性に合った採材をする。

販売直接取引きをする。製品にする。原木は木材市場で取引。価格変動をよく調べること。

品種改良通直,完満,心円に生育し上長成長のよい木であること。材質が硬く枝張,枝径が小さく周囲均等な木,枝の枯れ上りが早すぎないもの,秋目のうすいもの。

撫育植付はていねいに(ヤヤ密植)下刈は木の生 育 に影響しないように(年2回刈)。雪起しは早く完全にすること(風も同じ)。雪の被害を受けない程度に高密度に管理,枝打ちは製品面に巻込み跡が出ないように(6~8回打ちを)実施。巻込みが早くなるようていねいに。成長犠牲が少なくなるように(1回の打上げを少なく数回に分けて行なう)いばり枝,片枝の修正をすること。除間伐は無駄のないように行なうこと。

主伐利用適合径になったものから順次伐採。

販売森林組合の製材を利用し,製品にして販売。

品種改良柱材に同じ,変木の品種

撫育柱材に同じ

-3-

� 枝打ちの考え方

1 枝打ちとは

一般的に枝打ちとは枯れ枝,または生枝を幹の付け根から除去することをさし,林業において

枝打ちを考えるときには,生物学的現象としての枝打ちと,林業経営の具体的目標を明確にした

枝打ちに区別して考える必要がある。

2 枝打ちの効果

生物学的現象としての枝打ちは,森林の保護管理の面から重要で,個々の林地で単独に実施し

てもそれなりに意義があり,次の効果が期待される。

・林内の通風をよくし,枝枯れ性,葉枯れ性病害や虫害の発生やまん延を防止する。

・林内の歩行や間伐木の搬出など諸作業が容易になる。

・林床植生の生長を促進して表土の流亡を防止する。

・森林火災のうち樹冠火等の被害を防止する。

また,林業経営の具体的目標を良質材生産と明確にした枝打ちの効果としては次のことが期待

される。この場合,植栽からはじまる林分の取扱いを計画的に行い,しかも地域的な広がりをも

って実施し,主産地形成を図ることによってより大きな効果を期待することができる。

・節の分布を幹の中心部分にまとめ無節(材)部分を多くし,材の価値を高める。

・樹冠の位置を高め,樹幹上部の直径成長を促して完満な材をつくる。

・林木の成長に応じて枝打ちの強度を調整することによって大きさのそろった林分にする。

・枝付きのバランスをよくすることによって偏心を防ぐ。

・枝打ちの強度,回数と間伐の組み合せで年輪巾を均一にする。

・二段林や択伐林経営などにおいて上層木を枝打ちして後継樹の成長を促進する。

・立木密度を高め単位面積当り総収量を増大させる。

3 枝打ち技術の背景

枝打ち技術は,木材の用途を意識して生産してきた北山林業では,古くから不可欠の森林施業

として一般に定着してきた。しかし,その他の地方では,森林の保護管理や電柱材の生産など限

られた木材の用途に一部篤林家が枝打ちを実行してきたにすぎなかった。

しかし,戦後,拡大造林の推進とともに林業界に定着してきた林地肥培・早生樹種の導入に代

表される早期育成林業(量の林業)の時代は,昭和40年代に入り商社の手によって木材が大量に,

しかも安い価格で港から生産されるようになると,これまでの量の林業から質への転換が迫られ

-4-

る時代へと変化し,同時に合板工業の発展にともなって木材需用も中目丸太から小丸太へと変化

してきた。

このような林業側の背景に加え,山村地域における過疎の進行は地方自治体にとっても深刻な

問題で,これらを含めて林業振興の方策が各地で模索される中で,上浮穴郡地方では久万町を中

心に篤林家,県,地元大学が一体となって「スギ優良材生産技術体系」を確立,「上浮穴林業振

興協議会」を設立して優良材の大量生産を目指した林業地づくりに向けて普及活動と相まって枝

打ち技術が地域全般に波及していった。これを契機に,県内各地域で,地域の特色を生かした樹

種の優良材生産技術体系が作成され,枝打ちの意義,問題点の発掘が行われ,現在,問題点の解

明が進められている状況である。

上浮穴地方「スギ優良材生産技術体系」における枝打ちの位置づけを示すと図2のとおりである。

図-2 育 林 枝 技 術 体 系

-5-

4 枝打ち林分の取扱い

枝打ちは,単に枝を幹をつけ根から除去する作業とは言え,林業経営において良質材生産を図

るためには,枝打ち以前の林地の取扱いが重要で,その良否が枝打ち効果に影響を及ぼす。

�1 良質材生産が可能な林地の条件

林業経営において,良質材生産が可能な林地は次のような自然的,社会的な制約を満すこと

が必要であろう。

・枝打ちに伴う成長減退を少なくし,回復を早める必要から地力が高いことが必要である。

・大径良質材を仕立てる場合は,特に地力の高いことが要求される。

・完満度の高い林分となるため気象災害を受けにくい地帯,安全な地形等自然環境に留意する

必要がある。

・労働集約型であるため林業労働力の得られる地域であること。

・保育管理,収穫物搬出のため作業道・林道等の生産基盤が整備されているか,その見込が確

実な地域であること。

・地利的条件がよく,流通過程の整備が図れること。

・地域ぐるみの生産活動が行われ主産地形成が図れること。

これらの条件を備え,良質材生産を完全にこなせる可能性のある地域としては本県民有林面

積360,000ha のうち銅山川,加茂川,久万,大洲,宇和,鬼北の各林業地域のうち面積にして

せいぜい1割程度であろうと見込まれるにすぎない。

�2 枝打ち跡の巻込み回復と施業

枝打ちは一種の外科的な手段で枯枝,又は生枝を除去するため枝打ち跡の巻込み回復の促進

が良質材生産にとって重要な意義をもつものと考えられる。枝打跡の巻込み回復は樹齢,枝の

太さ,幹における傷口の程度,枝打ちの時期,陽光の加減,林地の地力などが関係するものと

考えられる。

現在,枝打跡の巻込み回復の速さには枝の太さ,残枝の長さが関係することが知られている。

そこで,枝打ちによる良質材生産を実施する林地では植栽する品種の選択,ha 当り植栽本木

数とその後の密度管理に注意を払い,太枝や片枝をつけないように注意した林分の取扱いが望

ましい。

�3 幹の曲りと施業

枝打ちによって作られる良質材は,小丸太材では磨丸太,心持柱材に,大径材は割物,板物

として多くが利用され,伐採した木材は3m~4m,時には6m~8mの長さで製材品として

利用されるため通直な木材を生産することが重要である。

そこで,地拵らえや植えつけ,下刈り等人為的な影響による幹の曲り,雪倒れ・風倒による

梢端の曲り等の早期回復,幹曲りの起りにくい品種の選択,急傾斜面を避ける等できるだけ幹

曲りの起りやすい原因を除去することが重要である。

-6-

5 枝打ち技術の問題点

枝打ちは,商品価値の高い木材を作るうえで必要不可欠の作業である。しかし,その方法を誤

ると逆に木材の価値を低下する結果をまねいたり,計画的な施業に対して一度の手抜きが商品価

値を著しく低下する場合があり,これらの問題を検討しておく必要がある。

�1 経営面からみた問題点

枝打ちによる良質材生産は労働集約型施業で,多くの労力と経費を必要とする。そこで,枝

打ち林分の選定とともに,林内でも伐期まで残す素性のよい木を選んで効率よく作業をすすめ

ること。幹の細い時から枝打ちを始めて利用する採材高まで計画的に,着実に実行することと

し,良質材の商品価値を維持しながら収益面での枝打ち効果を向上する工夫が望ましい。

�2 枝打ちとボタン材

疎植な林分や幹の直径が大きくなってからの枝打ちは,枝の直径が大きくなって正しい枝打

ちが困難であったり,枝打ち跡の巻込みが遅れてボタン材発生の原因になる。同時に伐期を十

分長くしないと無節材部分が少ない結果にとどまる。

枝打ちによるボタン材とは,枝打ち跡やその周辺の幹に生じる傷口を介して,材の内部に淡

黄褐色~灰青色の着色材を生じる現象で,幹の木口面にボタンの花ビラや星形をして現われる

ことからこの名で呼ばれる。ヒノキでは応々にして腐りとなり,良質材の価値を著しく低下さ

せることから重要な問題である。

ボタン材の発生原因は,各地で解明されつつあるがこれらに関係する因子として次のような

ことが考えられている。

�枝打ち時,幹の材部に生じる傷

�枝打ち時,枝直径の大きさ

�残枝長及び枯れ枝の附着,死節の長さ

�枝打ちの季節

�落石や木材搬出時に生じる幹の傷

この他,枝打ち技術に関連して材価を低下させる原因に,萌芽枝の発生と入皮の問題があげ

られる。

萌芽枝の発生は枝打ち後間伐等によって疎開し幹に直射日光が当るときに発生しやすく,枝

打ち後の密度管理に留意しながら萌芽枝の発生を防ぐ必要がある。また,枝打ちによる入皮は

ヒノキに発生しやすいが,その原因は十分解明されていない。

�3 施業記録と試験挽きによる技術の向上

いくら計画的に,丁寧な枝打ちを実施していても,これを評価し木材を買取るのは多くの場

合木材業者・製材業者である。立木で買売取引きをしたり,素材で原木市場へ出荷した取引き

では,これまでの投資効果を正しく評価した価格で取引きされるとは限らず,まして枝打ち技

術の自己評価になりえない問題がある。

-7-

良質材生産を計画的に実施してその効果を評価し,今後の枝打ち技術の向上に備えるために

は試験挽きによる製材品の評価が必要不可欠であろう。また,中~長伐期にわたる良質大径材

生産,二段林施業による良質材生産等においては施業記録による枝打ち技術の検討成果を後継

者や地域の林業者に伝えていくことが望ましい。

枝打ちの実際

1 良質材生産と枝打ち管理指針図

良質材生産には,枝打ち実行前に先ず生産目標を決め,これに対応する施業を計画的に実施す

ることが大切である。それには,各地で作られている育林技術体系や収穫表が目安として参考に

なる。これを適用する場合,個々の林地の地力や施業に応じて樹高や直径に生長差を生じるので

この点を検討しながら施業時期を決めなければならない。今,無節の柱材生産を目標にした枝打

ち管理指針図をスギ,ヒノキについて示すと図-3,図-4のとおりである。

図-3

スギの心持ち正角無節の柱材生産のための枝打ち(保育)管理指針図

-8-

図-4ヒノキの心持ち正角無節の柱材生産のための枝打ち(保育)管理指針図

2 枝打ち開始の時期

いろんな木材の用途に製材して,無節の材面を少しでも多く取るためには,できるだけ幹が細

い時から枝を打ち始める必要がある。普通10.5�の心持柱材が四方無節材に製材できることを目

標に,幹の大きさを基準に枝打ち開始時期を決めるが,これには枝打ち後の巻込み完了年数,巻

込み後の年輪の流れが正常になるまでの年数,幹の曲がりや真円でない材の製材時の余裕を見込

んだ年数等を考慮して,幹の直径が6.5�程度までに枝を打つことが必要である。しかし,枝打

ちによる生長減退,枝打ちによる投資効果など林業経営の面から判断し,枝打ちの対象木を決め

て枝打ちすることが必要である。

(図-5参照)

-9-

図-5枝打ち開始の時期 (直 材) (曲り材)

3 枝打ち対象木

第1回目(泥枝打ち)から第2回目の枝打ちは,樹木相互間の生長差も小さく,その後の作業

能率や林内歩行の便利を考えて,一応手のとどく範囲内の枝打ちは全林木について行う。

第3回以降の枝打ちは,あらかじめ樹冠や枝付き,幹の素性の良い,健全な優良木(枝打ち対

象木)について,計画的にしかも丁寧に枝打ちをする。

林の周囲2~3列の林縁木については,林内乾燥や風害防止の面から林内の枝打ち対象木に比

べて軽い枝打に止めるべきである。

4 枝打ちの季節

樹液の流動期(4月~9月)は樹皮がはげやすく,枝打ちによる傷口が大きくなって巻込みが

遅れたり,腐れが入ったり,ボタン材の原因となる。また,厳寒期は枝や傷口が寒さで凍る危険

があり細心の注意が必要である。これらのことから,枝打ちの適期は生長開始期前の2月下旬~

3月にかけてが最も望ましい。

5 枝打ちの方法

枝打ち部分が粗雑で凹凸ができたり,枝に裂け目ができたり,残枝長が長く残ると枝打ち跡の

巻込みが遅れたり,腐りやボタン材の発生原因となる。そこで,これらの点を防止する枝打ち方

-10-

法として

�1 残枝長をできるだけ短くするよう枝打ちすること。

�2 幹の樹皮がはがれないよう,また,幹に傷をつけないように枝打ちすること。

�3 切断面が平滑になるようによく切れる刃物で枝打ちすること。

�4 枝打ち作業に熟練して技術の向上を図ること。

枝の打ち方として枝隆(枝座)のあるもの,ないものともに幹に接して,残枝長をを短かく,

しかも平滑に打つことが望ましい。

枝の付け根の形態と枝の切断位置を模式的に示すと図-6のようになり,Bや Dにおいて枝

隆の中央部を打つ場合も考えられる。

いずれの場合も良く切れる刃物を調整し,熟練の度を増すことによって枝打ち技術の向上を図

ることが望まれる。

図-6枝の付け根根の形態と枝の切断位置

6 枝打ち高のきめ方

最終の枝打ちをどの高さまでするかは生産目標,搬出の利便,林地の地力,経営面からみた投

資効果などを考えあわせて決める必要がある。普通,市場の需要に見あった材長の木材を何玉か

採材できる高さまで打ち上げることになる。これに根元曲がり等の余分を1.0~1.5m加えて7~

8m程度とするのが一般的で,大径材生産や二段林施業では12~13mまで打ち上げることもある。

また,1回の枝打ち高は1.5m程度に止める。一度に高くまで枝打ちすることは,幹の下部の巻

込みが遅れたり,生長を著るしく遅らせるのでひかえめに行ない,2~3年ごとに計画的に枝打

ちすることが必要である。

-11-

7 枝打ち器具

枝打ちに必要な器具には,刃物と木登機がある。最近は実用性の高い器具が考案され,改良が

加えられているが,器具の選定にあたっては,作業の能率と安全性,作業員の使い勝手と疲労の

度合などを考え,林地や体にあったものを選ぶべきであろう。

�1 刃物

一般に枝打ちに用いられる刃物には次のものが用いられる。

�ア 鉈類 ── ・普通えがま ・腰鉈 ・各種の枝打ちの鉈 ・オノ 等

�イ 鋸類 ── ・枝打鋸 ・腰鋸 ・サンドビック 等

�ウ 鎌 ── ・厚手鎌 ・枝打ち用小型鎌 等

�エ その他──・動力式枝打機(ツリーモンキー)等

枝打ち面を平滑にするためには鋭利な刃物が必要で,枝が細い場合は小型の鎌が能率的であ

る。一般には鋭利な両刃の鉈を用い,二段林施業等でおこなう上木の太い枝打ちにはボタン材

や腐り防止のため鋸を用いるのが無難である。

�2 木登機(器)

地上高2m以上の枝打ちには木登機が必要になる。枝打ち用木登機としては,操作が簡単,

作業上安全,軽量で堅ろう,しかも移動性に便利なものが望ましい。これらを大別するとブリ

縄梯子類,木登機があり,特に木登機は種々改良が加えられ,命綱(胴綱)の使用とともに安

全性の確保に注意が注がれている。

�ア ブリ縄(綱打用器)─古くから用いられた木登用器具,撞木を綱の片方につけた単式と両

側につけた複式があり高さに関係なく用いられる。

�イ 梯子類──現地の除伐材を利用して作る一本梯子,普通梯子のほか,アルミ製の組立式又

は定尺式の梯子が利用される。高さの低い部分(4~5m)の枝打ちに利用さ

れる。

�ウ 木登機──枝打ちの普及にともなって考案,改良が加えられ安全性の確保が図られている。

現在,県下では秋本式木登機,河野式木登機が市販され,枝打ちに利用されて

いる。

8 枝打ちの功程

枝打ちは第1回の枝打ち(泥枝落し)から回を重ねるに従って地上高は高くなり,梯子や木登

機を利用しなければならない。高所での枝打ち作業は,作業の危険度を増すとともに作業能率が

著るしく低下するため,枝打ち高の決定とともに林業経営の面から検討する必要がある。枝打ち

-12-

の功程について1・2の例を示すと次のとおりで枝打ちの高さが高くなるに従って急激に能率が

低下するようである。

表-1 枝 打 ち の 功 程 1図-7

枝 打 ち の 功 程 2(久万育林技術体系から調整) (分) (高原)

9 枝打ちの経済性

上浮穴地方育林技術体系(スギ1等地)とその資料を例に,枝打ちの経済性を検討してみよう。

この体系による30年伐期の標準木は,樹高16m,胸高直径18�,立木材積0.227�で造材後の

利用材積0.199�,利用率88%で図-8のとおりである。

図-8 体系施業による標準木の採材

種 別 枝下高 功程

泥枝落し 1.4~1.5m 300本

第1回枝打ち 2.5~3.0 150

第2回枝打ち 4.4~4.5 100

第3回枝打ち 6.0~6.5 75

第4回枝打ち 7.5~8.0 50

-13-

また,木材の価格は常に変化しているため県森連木材流通センター(松山市)における10.5�

×10.5�,3m柱材の品等別平均価格とその指数を表-2に示し,この数値を用いて一般材と

良質材の製材品から求めた収入を比較すると表ー3のとおりとなる。

表-2品等別平均価格及び指数

(単位:価格�当り円)

�注 松山流通センターにおける48~55年生までの3.6.9.12月の価格から調整

表-3 一般材と良質材の製材品から求めた収入比較の試算

�注 試算を模式化するため,3番玉=4m材,4番玉=バタ角にも10.5�角,3m材の価格

を適用して計算した。

無節材には二面無節の価格を用いて計算した。カッコ書は一般材を1.00とした指数

品等樹種 持一等 小 節 上小節 一面無節 二面無節 三面無節 四面無節

ス ギ価 格 58,000 76,300 96,300 143,900 204,100 332,800 502,800

指 数 1.00 1.32 1.66 2.48 3.52 5.74 8.67

ヒノキ価 格 113,300 153,600 202,100 311,500 584,900 981,800 1,136,400

指 数 1.00 1.36 1.78 2.75 5.10 8.67 10.03

区 分 元 玉 2 番 玉 3 番 玉 4 番 玉 計 ha 当り収入

未 口 径 16� 14� 11� 7�

長 さ 3m 3m 4m 3m 13m

材 積 0.077� 0.059� 0.048� 0.015� 0.199�

材 積 比 39% 30% 24% 7% 100%

一 般 材 4,500円 3,400円 2,800円 900円 11,600円(1.00) 23,200,000円

元 玉 無 節 15,700円 3,400円 2,800円 900円 22,800円(1.97) 45,600,000円

二 玉 無 節 15,700円 12,000円 2,800円 900円 31,400円(2.71) 62,800,000円

-14-

一方,枝打ちに要する経費を試算すると図-9のようになり,3m材を2本採材するために

は,約300万円程度の経費を必要とし,同じ3m材を元玉1本で止める場合には約160万円程度

の枝打ち経費を必要とする。

図-9 枝打ちによる経費の試算表

(上浮穴地方育枝技術体系による)

�注 後価計算の利率5.5%を用い,間伐対象木の枝打ち功程を2倍と仮定した。

-15-

表-3による収入比較は製品価格を基準にしており,その間には伐出経費,製材加工賃とこれ

らの利潤が差し引かれることになる。従って,生産された良質材は立木処分や,市売処分ではこ

れらの附加価値を正当に評価されることが大切であり,この点を十分配慮すべきであろう。

また,一般に径級別素材の木取りに,表-4に示すように利用されることが多く,これらの径

級によって原木の価格差も大きい。そこで,集約な施業によって育てた良質材の伐期の決定にあ

たっては,利用径給と木材価格を念頭に有利な時期を選ぶことが望ましい。

表-4 素材の径級と製材品の利用

素 材 未 口 径 材 長 製 材 品 質 的 条 件

柱 材 16~18�

3.00m

3.90

4.00

正角類無節,完満,正円,通

直年輪巾が均一

中 径 材 20~283.65

3.80正角類,平割類

〃 〃 〃 〃

大 径 材 30以上

3.65

3.80

4.00

正角類,平割類,板類 〃 〃 〃 〃

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