170210 いきる・かかわる・そなえる
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平成 28年度(第 60回)岩手県教育研究発表会いきる・かかわる・そなえる分科会
いわての復興教育とこれから
文部科学省国立教育政策研究所
総括研究官やま山もり森
こう光よう陽
(教育心理学)2017年 2月 10日
この内容は個人的見解であり国立教育政策研究所の公式見解ではありません
はじめに
はじめに
本日の内容
1. 復興教育のこれまで理念と理論的背景と実践
2. 復興教育のいま改訂版プログラムの理念,実践の成果と現状における課題
3. 復興教育のこれから地域防災を支える人材育成
2017 年 2 月 10 日 3 / 30
復興教育のこれまで
復興教育のこれまで 初版プログラムの理念
復興教育の基本的な考え方復興教育の基本概念(初版 12ページ)
� 復興教育は,何かこれまでにない新しいことを始めるということではない。
� 各校の教育活動全般について「復興教育の視点」に基づいて再構築� 復興教育は,リカバリーの教育ではない。
� この度(震災津波)の数々の貴重な経験を素材として進めていく教育
復興教育を構築する視点(初版 12-13ページ)ひとづくり 郷土を愛し,その復興・発展を支える人材を育成
する。体験から学ぶ 今回の震災津波に向き合い,この体験そのものを教
材とし,児童生徒の生きる力を育む。組織的・有機的指導 震災津波に際した一連の対応を,学校の教育活動と
して有機的に関連づけて指導する。各校の実情に応じた内容 復興教育を学校経営に位置づけ,各校の状況や児童
生徒のニーズを踏まえて取り組む。2017 年 2 月 10 日 5 / 30
復興教育のこれまで 初版プログラムの理念
復興教育の学習活動と指導過程復興教育の意義・「生きる力」とのかかわり (初版 11ページ)
� 「思考,判断,表現」の要素が常に盛り込まれる� 「体験を通して」「体験に裏付けられたもの」をして具現化されることから,自分の中をしっかりと通した考えや思いとして自己形成
� 体験を通しながら . . . 振り返り . . . 整理・統合し,関係づけながら活用 . . . 新たな課題に向かって探究 . . .
学習指導過程 (初版 23ページ)� 知識の伝達のみの指導 . . . 活動や体験をさせて終わったりする指導であってはならない。
� 思考力・判断力・表現力等を伸ばしていく必要がある。� 指導過程を十分に工夫して実施することが大切である。
2017 年 2 月 10 日 6 / 30
復興教育のこれまで 初版プログラムの理念
復興教育の構成復興教育の構成の視点
� 「ひと・もの・こと」とかかわる体験を通して物事をとらえ,振り返り,さらに新たなものを見いだすという探究的な過程を経ることで,思考力・判断力・表現力の育成につながるか。
� 震災津波を踏まえた単なる活動を提供する (避難訓練など)という性質のものではなく,復興教育として取り組まれる教育活動を通じて資質・能力が広がり,深まるか。
復興教育を構成する主な教育内容(初版 16-20ページ)組み替え型 これまでの指導に震災津波に関連した内容を加味して
一部組み替えて指導課題対応型 震災津波によって緊急的に対応が求められる内容充実深化型 震災津波に関連した体験や活動をもとに指導をさらに
充実深化することができる内容2017 年 2 月 10 日 7 / 30
復興教育のこれまで 初版プログラムの理論的背景
思考力・判断力の育成思考力の育成
� 思考力は発揮することで伸長する。
発揮させるべき問題解決的思考創造的思考 広げたり創り出す思考(拡散的)批判的思考 論理的,客観的,合理的に絞り込む思考(収束的)
有意味学習と深い思考� 学習における問題解決を機械的に行うのではなく,選ぶ,繋ぐ,組み替えると行った認知的操作を行った場合,学習は有意味なものとなり,その結果が転移されやすくなる。
� 自身の関与の度合いが高く(「自分から」),困難度が適度に高い課題解決に取り組む過程で深い思考が促される。
2017 年 2 月 10 日 8 / 30
復興教育のこれまで 初版プログラムの理論的背景
充実深化型の復興教育能動性の発揮
� 実際に自身が体験したこと,現実に身の回りが体験していること,現状として起こっている事象を取り込んだ課題であるために,「自分から」取り組もうとする能動性が発揮される。
深い思考の発揮� 能動性に支えられつつ,一つの教科の枠には収まらず,様々な要因や利害関係を考慮する必要のある,抽象度や複雑さの高い課題であるために,深い思考が発揮される。
能動性と深い思考の発揮による思考力の伸長� 能動的に(「自分から」)課題解決に取り組みながら,深い思考が発揮される過程で,創造的思考と批判的思考のしなやかな往還,個人内外の知的資源の活用,他者との相互交渉によって,知識の再構築と抽象度の高い理解につながる。
2017 年 2 月 10 日 9 / 30
復興教育のこれまで 初版プログラムの実践
充実深化型の学習活動
2017 年 2 月 10 日 10 / 30
復興教育のこれまで 初版プログラムの実践
評価規準(達成目標)と課題自身の関与の度合いの高さを評価規準に反映し充実深化をはかる
� 震災後の地域における社会的事象から自ら課題を見つけ,それらの意義や特色,相互の関連を多面的・多角的に思考・判断したことを適切に表現する。
� 居住地域,市町村,都道府県の様子は 3,4年生の内容� 赤文字部分は中学校社会の評価の観点の趣旨を反映充実深化をはかった評価規準にもとづく学習課題
� 自分たちが住む小本地区の復興について,それぞれのグループで調べたことを,他のグループの発表や地域の方々の意見も取り入れながら,組み合わせて考え,自分たちも地域の方々も住み続けることのできるような街づくりを提案しよう。
� 多面的・多角的な思考が促されるような課題の提示2017 年 2 月 10 日 11 / 30
復興教育のこれまで 初版プログラムの実践
充実深化型の学習で見られた児童の姿(シンポジウムのまとめで)児童 瓦礫の処理が済むことと,新しい商店街ができることと,も
との学校が残すことを組み合わせて小本の街づくりを考えてみると,活気のある街づくりができると思います。そうすることでより復興が進むからです。
(提案を詳しくさせる)教師 活気があるとはどういうことですか児童 みんなが元気になる街です(フロアから出た意見に着目させる)教師 なんでみんなが元気になる街ができるといいのでしょうか。児童 みんなが元気になる街ができることで,より復興が進むこと
につながるからです。
2017 年 2 月 10 日 12 / 30
復興教育のこれまで 理念と理論的背景と実践
復興教育のこれまで
初版プログラムの理念� 体験を踏まえた活動と充実深化された指導による思考力・判断力の育成。
初版プログラムの理論的背景� 自分事として課題解決に関与することで深い思考が促され,問題解決的思考力の育成につながる。
初版プログラムの実践� 児童が直面している問題ゆえに到達可能と考えられる達成目標と学習課題により,当該学年で期待されるレベル以上の多面的・多角的な思考の発揮。
2017 年 2 月 10 日 13 / 30
復興教育のいま
復興教育のいま 改訂版プログラムの理念
復興教育の目標と教育的価値
郷土を愛し,その復興・発展を支える人材
かかわる
いきる
そなえる
...
...
...
項目 1
項目 7
項目 8
項目 14
項目 15
項目 21
資質能力 教育的価値 具体の項目
Figure 1: 復興教育の目標と教育的価値の構造2017 年 2 月 10 日 15 / 30
復興教育のいま 改訂版プログラムの理念
教科を基盤とした展開を可能にする副読本
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21
小低学年
2 1 1 00 1 1 1 2 1 1 00 1 2 2 00 1 00 1 1 1 1
小高学年
1 1 00 00 2 1 2 0 1 1 00 1 2 0 1 6 1 1 2 4 2
中学校 00 1 00 00 1 1 1 2 00 00 00 1 2 2 1 1 1 1 1 3 1
いきる かかわる そなえる
Figure 2: 副読本における「具体の 21項目」と指導書に取り上げられている教科との対応の数
2017 年 2 月 10 日 16 / 30
復興教育のいま 改訂版プログラムの実践
教育的価値の導入による教科学習の充実深化思考が
情報・条件が
環境が
具体 抽象
単純 複雑
身の回り 手の届かない
復興教育の教育的価値
Figure 3: 復興教育の教育的価値の導入による教科学習の充実・深化
2017 年 2 月 10 日 17 / 30
復興教育のいま 改訂版プログラムの実践
教育的価値の導入による教科学習の充実深化思考が
情報・条件が
環境が
具体 抽象
単純 複雑
身の回り 手の届かない
復興教育の教育的価値
Figure 3: 復興教育の教育的価値の導入による教科学習の充実・深化
2017 年 2 月 10 日 17 / 30
復興教育のいま 改訂版プログラムの実践
教科学習の充実深化の具体例
単元名
評価規準
昔から今へと続くまちづくり
地域の人々の願いや生活の向上と先人の働きや苦心,文化遺産や年中行事を受け継いできた人々の努力とを関連付けて考え適切に表現している。
昔から今,未来へと続くまちづくり
復興道路建設の目的を鞭牛の道づくりと関連づけ「地域の人々の命を守るため」ととらえ,それを根拠づけて考え,表現している。
「復興教育」具体の 21 項目(かかわる 14)震災津波で被害を受けた交通網や産業,住宅や街の復旧,復興の状況を調べ,安全で生き生きしたまちづくりにかかわる。
Figure 4: 復興教育の視点の導入による教科学習の充実・深化の例 (宮古小 4年「命を守る道」)
2017 年 2 月 10 日 18 / 30
復興教育のいま 改訂版プログラムの実践
副読本と教科との対応
Figure 5: 副読本の内容を教科に位置付けた復興教育(安庭小学校)
2017 年 2 月 10 日 19 / 30
復興教育のいま 改訂版プログラムの実践
復興教育の評価の開発
Figure 6: 復興教育の評価の観点の趣旨(西根第一中学校)
2017 年 2 月 10 日 20 / 30
復興教育のいま 復興教育の課題
復興教育の評価� 判定基準 (A,B,C)は必要ないのではないか。
� レベル分けした実現状況を総括的評価として報告する必要がないため。
� 評価規準 (または観点の趣旨)は必要ではないか。� 資質・能力が復興教育として取り組まれる教育活動を通じて広がりや深まりが見られたか,復興・発展を支える人材として育ちつつあるかを評価しながら実施する必要。
� 規準や観点の趣旨を手がかりに思考支援型のフィードバックを行なう。
� 学年の区切りごとに用意する必要があるのではないか。� 学年段階や児童生徒の能力等に見合った (やや上回った)達成目標 (評価規準)が設定されない場合,資質・能力の広がりや深まりや復興教育の教育的価値の育ちを期待することは難しい。
2017 年 2 月 10 日 21 / 30
復興教育のいま 復興教育の課題
「体験から」から「歴史から」への変化
年齢による体験の違い小・1年生 当時 0歳小・低学年 乳児期小・高学年 幼児期中学生 小学校低学年
� 3年くらい前から「震災津波のことを話しても子どもがよく分かっていないようだ」という教師の声。
� 「震災津波の体験そのものを教材として児童生徒の生きる力を育む」という段階が終わりを迎えつつある。
2017 年 2 月 10 日 22 / 30
復興教育のいま 改訂版プログラムの理念,実践の成果と現状における課題
復興教育のいま
改訂版プログラム� 教育的価値の整理と副読本の整備による展開のしやすさ。
改訂版プログラムの実践� 整理された教育的価値と副読本による教科を基盤とした復興教育の実践と,評価の開発。
復興教育の課題� 震災津波を実体験した児童生徒の減少により,「震災津波の体験から学んだことを生かす」の次の段階に発展させる必要に迫られている。
2017 年 2 月 10 日 23 / 30
復興教育のこれから
復興教育のこれから 岩手の復興・発展を支える人材育成
いままでの成果震災津波以前の成果
� 発災時に見られた多くの子どもの優れた行動,すなわち生き方や在り方の育成に学校教育は大きな寄与をしていたのではないか。
復興教育の成果� 児童生徒の体験と置かれた現状を踏まえ,学習の充実深化がはかられた。
� 教育的価値の整理と副読本により,多くの学校で教科学習や活動の充実深化がはかられ,評価方法の開発にも取り組まれるようになった。
� 「復興教育は,何かこれまでにない新しいことを始めるということではない」という理念通り,各校で教科等の再構成による無理のない実施ができるようになってきている。
2017 年 2 月 10 日 25 / 30
復興教育のこれから 岩手の復興・発展を支える人材育成
いままでの成果を踏まえた発展復興教育の学習評価とカリキュラム評価
� 資質能力の広がりや深まり,復興教育の教育的価値の育ちを段階的に評価できるような規準,または評価の観点と趣旨を設定する。
� 評価規準等を使いながら思考支援型の形成的評価を実施できるようにする(学習評価)。
� 評価規準等を使いながら,復興教育の視点で再構成された教育課程を評価する(カリキュラム評価)。
� 一校で全てをまかなうのではなく,一校が作った少々のものを共有して使えるようにする。
扱う題材の見直し� 教育的価値はそのままに,「震災津波」だけでなく「復興のあゆみ」も題材として取り入れる。
2017 年 2 月 10 日 26 / 30
復興教育のこれから 地域防災を支える人材育成
地域防災を支える人材育成
これまでの復興教育岩手の復興と発展を担う
地域防災を支える人材育成地域に根ざし,足場のある生活を営む
Figure 7: 復興教育に「地域防災を支える人材育成」を加えたイメージ
� 「地域防災を支える人材育成」は,単に発災時の実動要員の育成ではない。
� どのような場で生活を営もうと,その場所と足場とし,その中でコミュニティを築けるような大人を目指す。
� 「岩手の復興と発展を担う」という大きな資質能力に,「地域を支える」という足場のある生活を送ることができる資質能力を加えているのではないか。
2017 年 2 月 10 日 27 / 30
復興教育のこれから 地域防災を支える人材育成
自助,共助,主体的に行動する態度を育てる� 自助,共助の精神や主体的に行動する態度を身につけた,地域防災を支える人材育成とは,コミュニティに参画し,コミュニティを作っていくような人材ではないだろうか。
� コミュニティに参画し,作っていくような人材を育成するには,分かち合いながらコミュニティを作っていくという経験を経る必要があるのではないか。
� 学校,家庭,地域,関係機関の連携が,子どもにとってのコミュニティづくりの経験に広がりを持たせるように機能するようにするとともに,学級や学年内(同年齢)集団でのコミュニティづくり,学年間や地域の大人や子ども(異年齢)とのコミュニティづくりを経験できるようにすることが求められるのではないか。
� 「地域防災の活動に積極的に参加する」ことそのものが目的ではなく,そのような姿が現れるような教育活動という視点を取り入れた教育活動の再構築。
� 新しいことを始める,訓練をする,ということではない。2017 年 2 月 10 日 28 / 30
まとめ
まとめ
復興教育のこれまでとこれから復興教育のこれまで
� 子どもの経験や現状と,復興教育の教育的価値を踏まえた教育活動の充実と深化
復興教育のこれから� 資質能力の育ちを促し,見取っていく評価� 復興の歩み,経過,現状といった新たな題材� 県内のどの学校でも,復興教育の教育的価値と資質能力が身につくようにする機会の均等化
� 自助,共助の精神や主体的に行動する態度が身につくような分かち合いながらコミュニティをつくる経験
2017 年 2 月 10 日 30 / 30